説明

チタン含有珪素酸化物触媒の保存方法

【課題】長期間保存後でも例えばハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る反応に用いることができ、高い活性を発揮し得るチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法を提供する。
【解決手段】相対湿度60%以下で保存することを特徴とする触媒の保存方法。チタン含有珪素酸化物触媒が下記の第一工程〜第三工程によって製造された保存方法。
第一工程:シリカ源、チタン源及び型剤(テンプレート)を液状で混合・攪拌することにより触媒成分及び型剤を含有する固体を得る工程
第二工程:第一工程で得た固体から型剤を除去することにより触媒成分を含有する固体を得る工程
第三工程:第二工程で得た固体にシリル化処理を付すことによりシリル化された触媒を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン含有珪素酸化物触媒の保存方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、長期間保存後でも例えばハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る反応に用いることができ、高い活性を発揮し得るチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触媒の存在下、ハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る方法は公知である。ここで用いられる触媒として、たとえば特許文献1〜14には、特定のチタン含有珪素酸化物触媒が開示されている。これらの触媒は固定床触媒として用いられるため、数ヶ月から数年毎に一度に大量の触媒が反応器に充填される。そのためこれらの触媒は充填に備えて触媒が順次製造され長期間保存されることが多い。しかしながらこれらの触媒を長期間保存する場合の好適な条件についての知見はこれまで示されていなかった。
【0003】
【特許文献1】米国特許第4367342号明細書
【特許文献2】米国特許第5783167号明細書
【特許文献3】特開平7−300312号公報
【特許文献4】特開2000−107604号公報
【特許文献5】特開2000−107605号公報
【特許文献6】特開2000−109469号公報
【特許文献7】特開2000−109470号公報
【特許文献8】特開2000−117101号公報
【特許文献9】特開2000−119266号公報
【特許文献10】特開2001−286768号公報
【特許文献11】特開2002−224563号公報
【特許文献12】特開2002−239381号公報
【特許文献13】特開2004−195379号公報
【特許文献14】特許第2909911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる現状において本発明が解決しようとする課題は、長期間保存後でも例えばハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る反応に用いることができ、高い活性を発揮し得るチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は長期間保存後も例えばハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る反応に用いることができ、高い活性を発揮し得るチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法に係るものであり、相対湿度60%以下で保存することを特徴とする触媒の保存方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、長期間保存後でも例えばハイドロパーオキサイドとオレフィン型化合物からオキシラン化合物を得る反応に用いることができ、高い活性を発揮し得るチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の触媒の保存方法は、チタン含有珪素酸化物触媒を相対湿度60%以下で保存することを特徴とする触媒の保存方法である。
【0008】
本発明で長期間保存されるチタン含有珪素酸化物触媒は、特許文献1や14に記載のシリカゲル等の担体にチタンアルコキサイドやチタンハライド等のチタン源を気相あるいは液相下で担持させたもの、チタンハライドとシリコンハライド等を火炎中で反応させたアエロジル型のもの、チタンアルコキサイドとシリコンアルコキサイドとのゾルゲル反応によって得られるもの等特に限定されるものではないが、下記(1)〜(3)の全ての条件を充足するチタン含有珪素酸化物触媒からなることが好ましい。
【0009】
条件の(1)は平均細孔径が10Å以上であることである。
【0010】
条件の(2)は、全細孔容量の90%以上が5〜200Åの細孔径を有することである。
【0011】
条件の(3)は、比細孔容量が0.2cm3/g以上であることである。ここで、比細孔容量とは触媒1g当りの細孔容量を意味している。
【0012】
上記の条件(1)〜(3)についての測定は、窒素、アルゴン等の気体の物理吸着法を用い、通常の方法により測定することができる。
【0013】
本発明で保存される触媒は、X線回折(XRD)において、面間隔dを示すピークが存在してもよいし、存在しなくてよい。ここでいう面間隔dを示すピークとは、固体が有する結晶性や規則性に由来するピークのことであり、アモルファスな部分に由来するブロードなピークは存在していてもかまわない。
【0014】
本発明で保存される触媒は、高活性であるという観点から、赤外線吸収スペクトルにおいて960±5cm-1の領域に吸収ピークを有するものであることが好ましい。このピークはシリカ骨格内に導入されたチタンに対応するものであると考えられる。
【0015】
本発明で保存される触媒は下記の工程を有する製造方法によって製造されることが好ましい。
第一工程:シリカ源、チタン源及び型剤(テンプレート)を液状で混合・攪拌することにより触媒成分及び型剤を含有する固体を得る工程
第二工程:第一工程で得た固体から型剤を除去することにより触媒成分を含有する固体を得る工程
第三工程:第二工程で得た固体にシリル化処理を付すことによりシリル化された触媒を得る工程
【0016】
第一工程は、シリカ源、チタン源及び型剤(テンプレート)を液状で混合・攪拌することにより触媒成分及び型剤を含有する固体を得る工程である。用いる試薬は固体状の場合は溶媒に溶解または分散した溶液として用いるとよい。
【0017】
シリカ源としてはアモルファスシリカやアルコキシシラン、たとえばテトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケート等があげられる。アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、1、2−ビス(トリアルコキシシリル)アルカンなどの有機基を含有するシリカ源も使用することができる。それらは単独で用いることも出来るし、数種を混合させて用いても良い。
【0018】
チタン源としては、チタンアルコキサイド、たとえばチタン酸テトラメチル、チタン酸テトラエチル、チタン酸テトラプロピル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトライソブチル、チタン酸テトラ−2−エチルヘキシル、チタン酸テトラオクタデシルやチタニウム(IV)オキシアセチルアセトナート、チタニウム(IV)ジイシプロポキシビスアセチルアセトナート等が、又はハロゲン化チタン、たとえば四塩化チタン、四臭化チタン、四沃化チタン等や硫酸チタニル等があげられる。
【0019】
型剤としてはカチオン界面活性剤由来のアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、ベンジルアンモニウムなど、アニオン界面活性剤由来のアルキル硫酸イオン、アルキルリン酸イオンなど、ノニオン界面活性剤のポリアルキレンオキサイドやそれらのブロックコポリマー、アルキルアミンなどのいずれも適用可能である。なかでも下記の一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンが好適に用いられる。
[NR1234+ (I)
【0020】
(式中、R1は炭素数2〜36の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を表し、R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0021】
1は炭素数2〜36の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜18のものである。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基であり、R2〜R4の全てがメチル基であることが好ましい。一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンの具体例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ヘキサデシルピリジニウム等のカチオンをあげることができる。
【0022】
また、これらの一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンは単独で用いることもできるし、数種を混合させて用いてもよい。
【0023】
溶媒の例としては、水やアルコール、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等やジオール、またそれらの混合物などをあげることができる。シリカ源に対するチタン源の使用量はモル比で10-5〜1であり、好ましくは0.00008〜0.4である。また、これらのシリカ源及びチタン源の合計量に対する第4級アンモニウムイオンの使用量はモル比で10-2〜2とすることが好ましい。
【0024】
また、シリカ源とチタン源の反応を促進するために、混合溶液にアルカリ性又は酸性を付与させることが好ましい。アルカリ源としては第4級アンモニウムヒドロキシドが好ましく、例としてはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等があげられるが、型剤とアルカリ源が同一化合物中に含まれる一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンの水酸化物を用いるのがより好ましい。また酸の例としては塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸及び蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸があげられる。
【0025】
混合・攪拌の温度は通常−30〜100℃である。混合・攪拌により固体が生成するが、更に固体を成長させるためにこれを熟成してもよい。熟成時間は通常180時間以下であり、熟成温度は通常0〜200℃である。熟成時に加熱を要する場合は、溶媒の気化を避けるために耐圧容器に移して密閉して行うのが好ましい。
【0026】
第二工程は、第一工程で得た固体から型剤を除去することにより触媒成分を含有する固体を得る工程である。
型剤除去は高温焼成あるいは溶媒抽出のいずれの方法を用いても良いが、高活性な触媒を得るという観点から溶媒抽出で行うことが好ましい。
【0027】
型剤の抽出除去は第一工程で得た触媒成分及び型剤を含有する固体を溶媒抽出操作に付すことにより達成できる。
【0028】
溶媒による型剤を抽出する技術は、Whitehurstらによって報告されている(米国特許5143879号公報参照。)。抽出に用いる溶媒は、型剤に用いた化合物を溶解し得るものであればよく、一般に炭素数1から約12の常温で液状のオキサ及び/又はオキソ置換炭化水素を用いることができる。この種類の好適な溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類(非環式及び環式のもの)及びエステル類を用いることができ、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロパノール、n−ブタノール及びオクタノールのようなアルコール類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンのようなケトン類;ジイソブチルエーテルやテトラヒドロフランのようなエーテル類;及び酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル及びプロピオン酸ブチルのようなエステル類があげられるが、型剤の溶解能という観点からアルコール類が好ましく、なかでもメタノールが更に好ましい。これらの抽出溶媒の触媒成分及び型剤を含有する固体に対する重量比は、通常1〜1000であり、好ましくは5〜300である。また、抽出効果を向上させるために、これらの溶媒に酸又はそれらの塩を添加してもよい。用いる酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、臭酸等の無機酸や有機酸であるぎ酸、酢酸、プロピオン酸などがあげられる。また、それらの塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等があげられる。添加する酸又はそれらの塩の溶媒中の濃度は10mol/l以下が好ましく、5mol/l以下が更に好ましい。添加する酸又はそれらの塩の溶媒中の濃度が過大であると触媒成分中に存在するチタンが溶出し、触媒活性が低下する場合がある。
【0029】
溶媒と触媒成分及び型剤を含有する固体を十分に混合した後、液相部をろ過あるいはデカンテーションなどの方法により分離する。この操作を必要回数繰り返す。また触媒成分及び型剤を含有する固体を反応管等に充填し、抽出溶媒を流通させる方法により型剤を抽出することも可能である。溶媒抽出の終了はたとえば液相部の分析により知ることができる。抽出温度は0〜200℃が好ましく20〜100℃が更に好ましい。抽出溶媒の沸点が低い場合は、加圧して抽出を行ってもよい。
【0030】
抽出処理後に得られた溶液中の一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンは回収して第一工程の型剤原料として再使用することもできる。また同様に抽出溶媒も通常の蒸留操作などにより精製して再使用することもできる。
【0031】
また触媒製造を効率的に行うという観点から、第二工程で得た固体に含まれる抽出溶媒を、続くシリル化工程で用いるシリル化剤に対して実質上不活性な溶媒で置換することが好ましい。
【0032】
型剤除去に好適に用いられるアルコール類は次工程のシリル化においてシリル化剤と反応し目的の反応を阻害することから、通常、型剤抽出後の固体に含まれる抽出溶媒は乾燥操作によって除去される。乾燥装置としては温風もしくは減圧装置を装着したコニカル乾燥機や棚段乾燥機をあげることができる。しかしながらこれらの乾燥を経済的かつ効率的に行うには非常に時間がかかり、触媒の生産性の観点からは十分ではない場合がある。また乾燥条件によっては細孔収縮や触媒表面性質の変化などがおこり触媒性能が悪化する場合がある。
【0033】
効率的に触媒を製造するために、第二工程で得られた固体に含まれる抽出溶媒を、続くシリル化工程で用いるシリル化剤に対して実質上不活性な溶媒で置換するのが好ましい。
【0034】
本置換工程で用いられる置換溶媒はシリル化剤に対して実質上不活性で、かつ第二工程で用いた抽出溶媒を溶解させ得るという条件を満たすものであれば良い。
【0035】
本置換操作に好適に用いられる溶媒は一般に炭素数1から約12の常温で液状の炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、エーテル類、エステル類、N,N−二置換アミド類、ニトリル類、三級アミン類などであり、たとえばヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルスルフォキシドなどがあげられる。続くシリル化工程との関係から好ましい置換溶媒は炭化水素類で、なかでもトルエンが更に好ましい。これらの溶媒は単独で用いることもできるし、数種類を混合した溶液を用いることもできる。
【0036】
本置換操作では置換溶媒と第二工程で得られた抽出溶媒を含有する固体を十分に混合した後、液相部をろ過あるいはデカンテーションなどの方法により分離する。この操作を必要回数繰り返す。また抽出溶媒を含有する固体を反応管等に充填し、置換溶媒を流通させる方法により置換することも可能である。触媒の生産性という観点から、第二工程と溶媒置換工程、更には続くシリル化工程を同一の反応器で行うことが好ましい。本置換操作の終了はたとえば液相部の分析により知ることができる。置換温度は0〜200℃が好ましく20〜100℃が更に好ましい。本操作で用いる溶媒の沸点が低い場合は、加圧して置換を行ってもよい。
【0037】
また本工程に用いた置換溶媒は蒸留や抽出などの通常の方法により抽出溶媒を除去し、再使用することができる。
【0038】
第三工程は、第二工程で得た固体にシリル化処理を付すことによりシリル化された触媒を得る工程である。
【0039】
シリル化はチタン含有珪素酸化物にガス状のシリル化剤を反応させる気相法で行ってもよいし、溶媒中でシリル化剤とチタン含有珪素酸化物とを反応させる液相法で行ってもよいが、液相法がより好ましい。通常、シリル化を液相法で行う場合は炭化水素類が好適な溶媒として用いられる。
【0040】
シリル化剤の例には、有機シラン、有機シリルアミン、有機シリルアミドとその誘導体、及び有機シラザン及びその他のシリル化剤があげられる。
【0041】
有機シランの例としては、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロブロモジメチルシラン、ニトロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、ヨードジメチルブチルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、ジメチルn-プロピルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、t-ブチルジメチルクロロシラン、トリプロピルクロロシラン、ジメチルオクチルクロロシラン、トリブチルクロロシラン、トリヘキシルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルオクタデシルクロロシラン、n-ブチルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、3-クロロプロピルジメチルクロロシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、メチルフェニルクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、メチルフェニルビニルクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ジフェニルビニルクロロシラン、トリベンジルクロロシラン、3-シアノプロピルジメチルクロロシランがあげられる。
【0042】
有機シリルアミンの例としては、N-トリメチルシリルジメチルアミン、N-トリメチルシリルジエチルアミン、N-トリエチルシリルアミン、N-トリエチルシリルジメチルアミン、N-トリエチルシリルジエチルアミン、N-トリ−n−プロピルシリルアミン、N−t−ブチルジメチルシリルアミン、N−トリメチルシリルイミダゾール、N−トリエチルシリルイミダゾール、N−トリ−n−プロピルシリルイミダゾール、N−t−ブチルジメチルシリルイミダゾール、N-ジメチルエチルシリルイミダゾール、N−ジメチルn−プロピルシリルイミダゾール、N−ジメチルイソプロピルシリルイミダゾール、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N−トリメチルシリルジエチルアミン,N−トリメチルシリルピロール、N−トリメチルシリルピロリジン、N−トリメチルシリルピペリジン、1−シアノエチル(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルシリルアミンがあげられる。
【0043】
有機シリルアミド及び誘導体の例としては、N,O−ビストリメチルシリルアセトアミド、N,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルヘプタフルオロブチルアミド、N-(t-ブチルジメチルシリル)−N−トリフルオロアセトアミド,N,O−ビス(ジエチルハイドロシリル)トリフルオロアセトアミドがあげられる。
【0044】
有機シラザンの例としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン,1,3−ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザンがあげられる。
【0045】
その他のシリル化剤としては、N−メトキシ−N,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−メトキシ−N,O−ビストリメチルシリルカーバメート、N,O−ビストリメチルシリルスルファメート、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリエチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、N,N'−ビストリメチルシリル尿素があげられる。
【0046】
シリル化剤は単独で用いても良いし、2種類以上のシリル化剤を同時あるいは別々に用いても良い。最も好適なシリル化剤はヘキサメチルジシラザンである。
【0047】
また上記シリル化はバッチ式あるいは流通式のいずれの方法で行っても良い。
【0048】
シリル化後の触媒は減圧乾燥や加熱した窒素などの不活性乾燥ガスを接触させるなどの一般的な方法で乾燥することが好ましい。
【0049】
本発明で好適に保存される触媒は、通常、触媒成分を含む固体を成型する工程により触媒成型体として用いられる。成型工程は、上述した型剤除去工程の前後、溶媒置換工程後及びシリル化工程後のいずれの段階で行ってもよいが、比表面積や細孔容量などの触媒物性の劣化を抑制するという観点から、型剤除去工程の前に行うことが好ましい。成型方法は圧縮成型、押し出し成型などのいずれの方法を用いてもよい。押し出し成型においては一般的に用いられる有機および無機バインダーを用いることができるが、バインダーの添加により触媒活性の低下が引き起こされる場合がある。本触媒成型体の製造にあたり、触媒強度及び触媒物性の観点から圧縮成型法が最も好ましい。
【0050】
圧縮成型法としてはロールプレス成型(ブリケッティング、コンパクティング)、油圧プレス成型、打錠成型などをあげることができる。圧縮の圧力は通常0.1〜10トン/cm2であり、好ましくは0.2〜5トン/cm2であり、更に好しくは0.5〜2トン/cm2である。圧力が低すぎると成型体の強度が不十分となる場合があり、一方圧力が高すぎると細孔が破壊され触媒物性が不十分なものとなる場合がある。圧縮成型を行うにあたり、触媒成分を含む固体が適当量の水分を含んでいることが好ましく、これにより低い圧縮圧力でも充分な強度の成型体をつくることができる。圧縮成型に付す材の含水率は1〜70重量%が好ましく、5〜40重量%が更に好ましい。水分量は湿った固体を乾燥させる際の乾燥度で調整してもよいし、十分乾燥させた固体に水を加えて調整してもよい。また、所望の性能に支障をきたさない範囲で、一般に用いられるバインダー等を加えてもよい。
【0051】
成型体の形状は錠剤、球、リングなどいずれの形状であってもよい。そのままの形状で反応などに用いてもよいし、適当な大きさに破砕して用いてもよい。
【0052】
上記製造方法により得られた触媒は、高い表面積と高度に分散したチタン活性点を有することから、選択的酸化反応、たとえばオレフィン型化合物のエポキシ化反応の他、有機化合物の各種酸化反応に用いることが可能である。また所望により、アルミナ等の第三成分の添加で触媒の酸点をより強化することも可能であり、アルキル化反応や接触改質反応等にも使用することが可能である。
【0053】
本発明の触媒の保存方法は、相対湿度60%以下で保存することを特徴とするが、相対湿度30%以下での保存が好ましく、相対湿度15%以下での保存が更に好ましい。保存時の相対湿度が高すぎる場合には、著しい触媒活性の低下を引き起こす。
【0054】
相対湿度を所望の値にする方法には触媒が収容されている容器内に乾燥ガスを継続的に流通させる方法、シリカゲルやゼオライト等の乾燥剤とともに密封容器内で保存する方法、調湿装置を備えた容器および/または倉庫内で保存する方法、ガスバリアー性を有する容器内を所望の湿度にした後、密閉して保存する方法などがあげられる。ここで触媒の保存期間とは触媒製造が終了した直後から反応に用いられるまでを意味し、一般的には触媒が製造され保存容器に充填されたときから、反応器に導入するために容器が開封されるまでを指す。
【0055】
容器の材質は乾燥状態を維持できるものであれば任意であり、例えば、ガラス、鉄、アルミ等の金属、アクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル等の樹脂およびその他のエンジニアリングプラスチック等のガスバリアー性を有する樹脂、ならびにガスバリアー性を有する樹脂をラミネートした樹脂およびアルミ等の金属をラミネートした樹脂が挙げられる。なかでもアルミをラミネートした樹脂で作製された内袋を装着した容器が好適に用いられる。
【0056】
保存雰囲気のガスは触媒に悪影響を及ぼすものを含有していなければ特に限定されるものではなく本願記載の条件を満たしておれば問題は無いが、一般的には空気、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素等が好適に用いられ、なかでも取扱いの容易さ及びコスト、安全性の観点から空気あるいは窒素を用いるのがより好ましい。
【0057】
本発明で保存された触媒は特にオレフィン型化合物とハイドロパーオキサイドを反応させるオキシラン化合物の製造方法に最適に使用され得る。
【0058】
オレフィン型化合物は、非環式、単環式、二環式又は多環式化合物であってよく、モノオレフィン型、ジオレフィン型又はポリオレフィン型のものであってよい。オレフィン結合が2以上ある場合には、これは共役結合又は非共役結合であってよい。炭素原子2〜60個のオレフィン型化合物が一般に好ましい。このような炭化水素の例にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、スチレン、シクロヘキセン等があげられる。適当なジオレフィン型化合物の例にはブタジエン、イソプレンがあげられる。また、オレフィン型化合物には置換基が存在してもよいが、置換基は比較的安定な基であることが好ましい。その置換基の例にはハロゲン原子があげられ、更にまた、酸素、硫黄、窒素原子を、水素及び/又は炭素原子と共に含有する種々の置換基が存在してもよい。特に好ましいオレフィン型化合物はオレフィン型不飽和アルコール、及びハロゲンで置換されたオレフィン型不飽和炭化水素であり、その例にはアリルアルコール、クロチルアルコール、塩化アリルがあげられる。
【0059】
ハイドロパーオキサイドの例として、有機ハイドロパーオキサイドをあげることができる。有機ハイドロパーオキサイドは、一般式
R−O−O−H
(ここにRは1価の炭化水素基である。)
を有する化合物であって、これはオレフィン型化合物と反応して、オキシラン化合物及び化合物R−OHを生成する。好ましくは、Rは炭素原子を3〜20個を有する基である。最も好ましくは、これは炭素原子3〜10個の炭化水素基、特に、第2又は第3アルキル基又はアラルキル基である。これらの基のうちで特に好ましい基は第3アルキル基、及び第2又は第3アラルキル基であって、その具体例には第3ブチル基、第3ペンチル基、シクロペンチル基、2−フェニル−2−プロピル基があげられ、更にまた、テトラリン分子の脂肪族側鎖から水素原子を除去することによって生じる種々のテトラニリル基もあげられる。
【0060】
有機ハイドロパーオキサイドとしてクメンハイドロパーオキサイドを使用した場合には、その結果得られるヒドロキシル化合物は2−フェニル-2-プロパノールである。これは脱水反応によってα−メチルスチレンに変換できる。得られるα−メチルスチレンは触媒の存在下に水素との反応によりクメンに変換し、さらに得られるクメンは酸素との反応によりクメンハイドロパーオキサイドに変換することができ、オレフィン型化合物との反応に使用することができる。
【0061】
有機ハイドロパーオキサイドとしてエチルベンゼンハイドロパーオキサイドを使用した場合には、その結果得られるヒドロキシル化合物は1−フェニルエタノールである。これは脱水反応によってスチレンに変換できる。スチレンはポリスチレンやABSなどの樹脂の原料として有用である。また得られるスチレンは触媒の存在下に水素との反応によりエチルベンゼンに変換し、さらに得られるエチルベンゼンは酸素との反応によりエチルベンゼンハイドロパーオキサイドに変換することができ、オレフィン型化合物との反応に使用することができる。
【0062】
有機ハイドロパーオキサイドとして第3ペンチルハイドロパーオキサイドを使用したときに得られる第3ペンチルアルコールの脱水反応によって生じる第3アミレンは、イソプレンの前駆体として有用な物質である。第3ペンチルアルコールはオクタン価向上剤であるメチル第3ペンチルエーテルの前駆体としても有用である。
【0063】
有機ハイドロパーオキサイドとしてt-ブチルハイドロパーオキサイドを使用したときに得られるt-ブチルアルコールはオクタン価向上剤であるメチル-t-ブチルエーテルの前駆体として有用な物質である。
【0064】
有機ハイドロパーオキサイド以外のハイドロパーオキサイドの例として過酸化水素をあげることができる。
【0065】
過酸化水素は化学式HOOHの化合物であって、通常水溶液の形で得ることができる。これはオレフィン型化合物と反応して、オキシラン化合物及び水を生成する。
【0066】
原料物質として使用される有機ハイドロパーオキサイド及び過酸化水素は、希薄又は濃厚な精製物又は非精製物であってよい。
なかでも本発明では有機ハイドロパーオキサイドが好適に用いられる。
【0067】
エポキシ化反応は、溶媒及び/又は希釈剤を用いて液相中で実施できる。溶媒及び希釈剤は、反応時の温度及び圧力のもとで液体であり、かつ、反応体及び生成物に対して実質的に不活性なものでなければならない。溶媒は使用されるハイドロパーオキサイド溶液中に存在する物質からなるものであってよい。たとえばクメンハイドロパーオキサイドがクメンハイドロパーオキサイドとその原料であるクメンとからなる混合物である場合には、特に溶媒を添加することなく、これを溶媒の代用とすることも可能である。
【0068】
エポキシ化反応温度は一般に0〜200℃であるが、25〜200℃の温度が好ましい。圧力は、反応混合物を液体の状態に保つのに充分な圧力でよい。一般に圧力は100〜10000kPaであることが有利である。
【0069】
エポキシ化反応の終了後に、所望生成物を含有する液状混合物が触媒から容易に分離できる。次いで液状混合物を適当な方法によって精製できる。精製は分別蒸留、選択抽出、濾過、洗浄等を含む。溶媒、触媒、未反応オレフィン型化合物、未反応ハイドロパーオキサイドは再循環して再び使用することもできる。
【0070】
本発明の触媒を用いた反応は、スラリー、固定床の形で行うことができ、大規模な工業的操作の場合には固定床を用いることが好ましい。本反応は、回分法、半連続法又は連続法によって実施できる。反応体を含有する液を固定床に通した場合には、反応帯域から出た液状混合物には、触媒が全く含まれていないか又は実質的に含まれていない。
【実施例】
【0071】
以下に実施例により本発明を説明する。
実施例1
触媒粉の調製(第一工程)
16重量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(メタノール25重量%含有)125.1重量部を撹拌し、これに40℃でチタン酸テトライソプロピル1.85重量部と2−プロパノール10.0重量部の混合溶液を滴下して加えた。30分間撹拌した後、テトラメチルオルトシリケート38.1重量部を滴下した。その後、40℃で1時間攪拌を続けた。生じた沈殿をろ別した。得られた沈殿を減圧下、70℃で乾燥した。
【0072】
成型体の作製
乾燥して得られた白色固体10.0重量部に水分含量が1.5重量部となるよう水を霧吹きで加え良く混合したものを、ロールプレス機で圧縮成型した。得られた固体を破砕し、篩を用いて1.0〜2.0mmの触媒成分および型剤を含有する成型体を得た。1.0mm以下の固体はリサイクルして、再度圧縮成型した。
【0073】
型剤の抽出除去(第二工程)
次に、上記のとおり得られた成型体10.0重量部をグラスライニングカラムに充填し、LHSV=6h-1で(1)室温下、91.1重量部のメタノール、(2)45℃加熱下、168.1重量部の0.2mol/l塩酸/メタノール溶液、(3)45℃加熱下、132.3重量部のメタノールをアップフローで順次カラムに通液した。通液終了後、カラム内のメタノールをカラム下部より抜き出した。その後、得られた固体を、減圧下、110℃で乾燥した。
【0074】
シリル化(第三工程)
得られた固体5.0g、ヘキサメチルジシラザン3.4gとトルエン30.0gをフラスコに入れ110℃加熱下1.5時間シリル化を行った。デカンテーションにより溶媒を除いた後、減圧下、110℃で乾燥することにより、チタン含有珪素酸化物触媒を得た。
【0075】
触媒の保存
上記のチタン含有珪素酸化物触媒を20mlガラス製サンプル瓶に入れ瓶内を乾燥窒素で置換した後、1週間、密閉保存した。
【0076】
プロピレンオキサイド(PO)の合成
上記のとおり得られた触媒を25%クメンハイドロパーオキサイドのクメン溶液(CHPO)とプロピレン(C3')を用いてバッチ反応装置(オートクレーブ)で評価した。触媒1.0g、CHPO30.0g、C3'16.6gをオートクレーブに仕込み、自生圧力下、反応温度85℃、反応時間1.5時間(昇温込み)で反応させた。反応成績を表1に示す。
【0077】
実施例2
実施例1の触媒の保存を20±5℃、相対湿度50±5%で6ヶ月間開放系で行った以外は実施例1の同様の操作で得られた触媒を実施例1と同様にバッチ反応装置で評価した。反応成績を表1に示す。
【0078】
比較例1
実施例1の触媒の保存を50℃、相対湿度85%で2ヶ月間開放系で行った以外は実施例1の同様の操作で得られた触媒を実施例1と同様にバッチ反応装置で評価した。反応成績を表1に示す。
【0079】
【表1】


*1:(保存後重量−保存前重量)/保存前重量*100
*2: 生成したPOモル /反応したC3'モル*100
*3: 生成した(プロピレングリコール+2*ジプロピレングリコール
+3*トリプロピレングリコール)モル/反応したCHPOモル*100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有珪素酸化物触媒の保存方法であって、相対湿度60%以下で保存することを特徴とする触媒の保存方法。
【請求項2】
相対湿度30%以下で保存することを特徴とする請求項1記載の触媒の保存方法。
【請求項3】
相対湿度15%以下で保存することを特徴とする請求項1記載の触媒の保存方法。
【請求項4】
チタン含有珪素酸化物触媒が下記の第一工程〜第三工程によって製造された、請求項1〜3のうちの一に記載の触媒の保存方法。
第一工程:シリカ源、チタン源及び型剤(テンプレート)を液状で混合・攪拌することにより触媒成分及び型剤を含有する固体を得る工程
第二工程:第一工程で得た固体から型剤を除去することにより触媒成分を含有する固体を得る工程
第三工程:第二工程で得た固体にシリル化処理を付すことによりシリル化された触媒を得る工程
【請求項5】
第二工程での型剤除去が溶媒抽出操作によって行われることを特徴とする請求項4記載の触媒の保存方法。
【請求項6】
下記(1)〜(3)の全ての条件を充足するチタン含有珪素酸化物触媒の保存方法であって、第一工程で用いられる型剤が下記の一般式(I)で表される第4級アンモニウムイオンである請求項4または5に記載の触媒の保存方法。
(1):平均細孔径が10Å以上であること
(2):全細孔容量の90%以上が5〜200Åの細孔径を有すること
(3):比細孔容量が0.2cm3/g以上であること
[NR1234+ (I)
(式中、R1は炭素数2〜36の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を表し、R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項7】
触媒成分を含む固体を成型する工程を有する請求項4〜6のうちの一の請求項に記載の触媒の保存方法。
【請求項8】
チタン含有珪素酸化物触媒がシリカゲル担体にチタンアルコキサイドあるいはチタンハライドを気相あるいは液相下で担持させたものである、請求項1〜3のうちの一に記載の触媒の保存方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちの一の請求項に記載の保存方法により得られるチタン含有珪素酸化物触媒。
【請求項10】
請求項9記載の触媒の存在下、オレフィン型化合物とハイドロパーオキサイドを反応させることを特徴とするオキシラン化合物の製造方法。
【請求項11】
ハイドロパーオキサイドが有機ハイドロパーオキサイドである請求項10記載のオキシラン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−289341(P2006−289341A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332532(P2005−332532)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】