説明

チタン基材への貴金属めっき方法及び固体高分子型燃料電池用セパレータ

【課題】固体高分子型燃料電池のセパレータに用いられる金属板材料として好適な、貴金属めっきの剥離しにくいチタン又はチタン合金基材を提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金基材への貴金属めっき方法であって、チタン又はチタン合金基材上に易酸化化合物を存在させる第1工程と、第1工程で得られたチタン又はチタン合金基材へ貴金属をめっきする第2工程と、第2工程で得られた貴金属めっきされたチタン又はチタン合金基材を空気雰囲気下、200〜600℃、昇温速度;10〜20℃/分で焼き付ける第3工程とを含むめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な作業を要さずに密着性の高い、チタン又はチタン合金基材への貴金属めっき方法に関する。又、貴金属めっきを施したチタン又はチタン合金基材からなる固体高分子型燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池のセパレータ用材料としては、グラファイト、ステンレス系材料、ステンレス系基材の表面に貴金属めっきしたもの、チタン系基材に貴金属めっきしたものなどがある。セパレータ用材料に要求される特性として、a.耐食性が高い、b.接触抵抗が低い、c.軽量、d.製造コストが安い、などが挙げられる。チタン又はチタン合金に貴金属などをめっきした材料では、上記要求特性を満たしており、燃料電池セパレータ用材料として好適である。
【0003】
チタン又はチタン合金自体は、表面に安定な酸化皮膜を生成するために接触抵抗が高く、そのままではセパレータとして使用できない。
【0004】
チタン又はチタン合金の接触抵抗を低下させる手段として、これら材料の表面に腐食しにくい貴金属でめっきして被覆する方法がある。しかしチタンのような活性金属への電気めっきは一般に難しく、めっきが剥離しやすいという問題があった。
【0005】
そこで、下記特許文献1には、表面に凹凸を有するチタンまたはチタン合金基材の貴金属をめっきし、このめっき表面がチタンまたはチタン合金基材上のめっき表面の算術平均粗さ(Ra)のみならず、表面積代替値を適正な範囲とすると、めっきと基材の密着性が良好となり、めっきが剥離しにくくなることが開示されている。具体的には、表面を電子線3次元粗さ解析装置により1000倍に拡大して得られた表面の算術平均粗さ(Ra)が0.05〜0.8μmの範囲でありかつ、(測定から得られた試料の表面積)/(測定範囲の縦×横)として定義される表面積代替値が1.003〜1.08であることが開示されている。
【0006】
ところで、チタン上への極薄金メッキを作る上で、金が凝集することは既知となっている。しかし、その場合は平滑な下地チタンの上に金が形成されていたため、酸化挙動によって容易に凝集・脱落が生じる。凝集脱落が発生する場合、燃料電池では内部抵抗が増加し、発電特性に多大な影響を与えることとなる。それを避けようとすれば、めっき層にある一定の厚みをつけることで金同士の密着性を向上させなければならない、つまり、金の使用量を増加させなければならない問題があった。
【0007】
では、酸化挙動によって凝集・脱落がおきるかというと、もともと、チタンは酸化しやすい材料であるということに由来する。つまり、製法時にチタンと金が“一時的に”合金化しても何らかの外乱(高温水モード等)によってエネルギー的に安定化状態(チタンと金の合金状態からエネルギー的に安定な金同士の集合体)に戻ってしまうケースがあることに問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−103075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、固体高分子型燃料電池のセパレータに用いられる金属板材料として好適な、貴金属めっきの剥離しにくいチタン又はチタン合金基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の簡易な方法によってチタン又はチタン合金基材に貴金属めっきを施すことにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、第1に、本発明は、チタン又はチタン合金基材への貴金属めっき方法の発明であって、チタン又はチタン合金基材上に易酸化化合物を存在させる第1工程と、第1工程で得られたチタン又はチタン合金基材へ貴金属をめっきする第2工程と、第2工程で得られた貴金属めっきされたチタン又はチタン合金基材を空気雰囲気下、200〜600℃、昇温速度;10〜20℃/分で焼き付ける第3工程とを含むめっき方法である。
【0012】
本発明の各工程によって、チタン又はチタン合金基材上に微細な凹凸が形成される。この凹凸構造により金などの貴金属粒子の凝集を阻害する。発電評価前に強固な酸化層を形成し、発電評価後の変化をなくす。凹凸構造により親水性が向上し、燃料電池用セパレータとして好適となる。
【0013】
本発明において用いられる易酸化化合物として、窒素化合物、硼素化合物、及び炭素化合物から選択される1種以上が好ましく例示される。これらの易酸化化合物は、チタン又はチタン合金を圧延・焼鈍する際にNガス導入と同時に粉体として散布しても良く、又は圧延・焼鈍する際に潤滑油として使用することで、チタン又はチタン合金基材上に存在させることができる。これらの場合、本発明による工程数の増加をもたらさないためにプロセス上好ましい。又、圧延・焼鈍時に意図的に表層に窒素化合物、もしくは炭素化合物、硼素化合物を残存させておけば上記手法を経なくてもこれらの易酸化化合物を存在させることができる。
【0014】
本発明において用いられる貴金属としては特に制限はないが、燃料電池用セパレータとしての用途を勘案すると、金、白金、及びパラジウムから選択される1種以上が好ましく例示される。
【0015】
第3工程の焼付けは空気雰囲気下で行うが、特に水蒸気飽和空気雰囲気下で行うのが好ましい。
【0016】
第2に、本発明は、上記の方法で貴金属めっきを施したチタン又はチタン合金基材からなる固体高分子型燃料電池用セパレータである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、固体高分子型燃料電池のセパレータ用として好適な、貴金属めっきが剥離しにくいチタン基材又はチタン合金基材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明はチタン又はチタン合金基材への貴金属めっき技術であり、金めっきやその他の貴金属めっきにても適応できうる。ただし、必須の要件として、
1)チタン上に酸化しやすい材料が存在すること。例えば、金属窒化物、金属硼化物、金属炭化物が例示され、特に金属窒化物が好適である。
2)めっき物がチタンの酸化を積極的に促進する貴金属であること。例えば、PtやPd等が好ましく例示される。
3)焼付けは通常雰囲気(空気がある状態)での焼付けであり、温度は200℃から600℃の範囲である。好ましくは、水蒸気飽和雰囲気であり、特に好ましいのは320℃以上の際にその状態に晒すことである。又、常温からの立ち上げ速度は10〜200℃/分であり、好ましくは、20℃/分以下である。
これらの理由は金の凝集と下地酸化との競合反応であることに由来する。
【0019】
本発明により、下地チタン基材は、幅10nm〜1000nm、深さ10〜100nmの微細なチタン凹凸構造を形成する。本発明者が調べた限りでのチタン従来の技術技術(特許)によれば、10nm領域でのこれだけのアスペクト比のある凹凸加工法は存在しない。
【0020】
凹凸構造に起因する金凝集の阻害(凹凸構造に起因する金のアンカー効果)が発生する。本発明の大きな特徴は金の凝集阻害を発現することにある。たとえば、燃料電池発電時は高温の腐食液に晒されてる。その場合、下地チタンとの結合をはなれ、隣あった金自体が再結合しようとした場合、凹凸形状となったチタンにより移動を束縛される。また、仮に脱落傾向にあっても、剣山のような形状をしているため容易に脱落することはない効果も発現する。
【0021】
通常雰囲気での焼付けにより初期酸化を形成する。酸化しやすい窒素化合物や炭素化合物により発電評価前に強固な酸化層を形成し、発電評価後の変化をなくすことが可能とする。
【0022】
本発明により、凹凸構造に起因する親水性の向上が達成される。Winzelの式によれば、比表面積が増加すればするほど親水性が向上することが知られている。この場合、下地チタンのみで計算すると約3.3倍の表面積増であり大幅な親水性向上が見込まれる。その結果として、従来の、例えば、特開2006−97088号公報に記載の方法で作製したものでは、接触角50度のものが、5.3度となり大幅な向上が見られた。
【0023】
本発明で用いるチタンまたはチタン合金基材は、純チタンもしくはNi、Al、Cr、V、Sn、Ruなどの合金元素を1種ないし複数含有するチタン合金状または板である。チタンまたはチタン合金は耐食性がよいため、腐食雰囲気の燃料電池内部においても腐食しにくく、セパレータ用材料として適している。また軽量であるために、燃料電池を車に搭載する場合などには有利である。
【0024】
しかしながら、チタン又はチタン合金は接触抵抗が高いため、固体高分子型燃料電池のセパレータ用材料として用いられるためには接触抵抗を低くする必要がある。そこで、チタンまたはチタン合金基材に貴金属めっき等電気めっきを施すこととなるが、その際に、めっきの密着性を確保するうえで、基材表面に微小な凹凸を形成し「アンカー効果」を賦与させることは、有効な手段となる。本発明により、チタン又はチタン合金基材表面に微小な凹凸が形成されるため、チタン又はチタン合金上のめっき皮膜が充分な密着性を有する。
【0025】
チタン又はチタン合金基材にめっきを施した固体高分子型燃料電池のセパレータ用材料において、めっき皮膜の厚みは0.005〜1.50μmの範囲になるように製造する。めっき皮膜が0.005μm未満では材料の耐食性が不十分になり、1.50μmを超える場合は耐食性などの効果が飽和する一方で製造コストが高くなり不経済である。さらに、好ましくは、0.01〜0.1μmである。
【0026】
チタン又はチタン合金基材表面に形成する貴金属めっき膜としては、Au、Pt、Pd、Rh、Ruの中から1種もしくは2種以上選ばれたものである。これらのめっき膜は、燃料電池内の腐食性雰囲気においても腐食することはなく、また接触抵抗も低いために燃料電池用セパレータ材料に適している。めっき膜は、公知のめっき液または市販されているめっき液を使用し、電気めっき法で形成することができる。
【0027】
以下、本発明の実施例を示す。
チタン材(新日鉄)圧延品(0.1mm)を基材として用い、
1)800℃で10分間窒素焼鈍(1Pa圧)した。
2)特開2006−97088号公報の方法で鍍金(焼き付け前)処理した。
3)空気雰囲気下で200℃(昇温速度20℃/分)で焼き付けた。
4)空気雰囲気下(水蒸気噴射も同一)で280℃で昇温(昇温速度20℃/分)で焼き付けた。
図1に、断面写真を示す。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によりえられた、貴金属めっきが剥離しにくいチタン基材又はチタン合金基材は、固体高分子型燃料電池のセパレータ用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】めっき部分の断面写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金基材への貴金属めっき方法であって、チタン又はチタン合金基材上に易酸化化合物を存在させる第1工程と、第1工程で得られたチタン又はチタン合金基材へ貴金属をめっきする第2工程と、第2工程で得られた貴金属めっきされたチタン又はチタン合金基材を空気雰囲気下、200〜600℃、昇温速度;10〜20℃/分で焼き付ける第3工程とを含むめっき方法。
【請求項2】
前記易酸化化合物が、窒素化合物、硼素化合物、及び炭素化合物から選択される1種以上である請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記貴金属が、金、白金、及びパラジウムから選択される1種以上である請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項4】
前記第3工程の空気雰囲気下が、水蒸気飽和空気雰囲気下である請求項1乃至3のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの方法で貴金属めっきを施したチタン又はチタン合金基材からなる固体高分子型燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−65286(P2010−65286A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233251(P2008−233251)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】