説明

チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法

【課題】熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】銅元素を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス、および、チタニウム源粉末と、アルミニウム源粉末と、銅源とを含む原料混合物を焼成する工程を備えるチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法である。銅源としては、金属銅粉末などを用いることができる。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、マグネシウム元素やケイ素元素を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法およびチタン酸アルミニウム系セラミックスに関し、より詳しくは、チタニウム源粉末およびアルミニウム源粉末などを含む原料混合物を焼成してチタン酸アルミニウム系セラミックスを製造する方法および当該製造方法により得ることができる、熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具などとして用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルタ(たとえば、ディーゼル微粒子フィルタ;Diesel Particulate Filter、以下DPFとも称する)を構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
特許文献1には、チタニアセラミックス等のTi含有化合物、アルミナセラミックス等のAl含有化合物およびマグネシアセラミックス等のMg含有化合物を含む原料混合物を焼成することによりチタン酸アルミニウム系セラミックスであるチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶構造物を調製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、チタン酸アルミニウム系セラミックスをDPF用材料などに適用する場合、熱衝撃による破損およびフィルタ特性劣化を極力抑制するために、チタン酸アルミニウム系セラミックスには、熱による体積変化が小さいことが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスを製造し得る新たな方法、および該方法によって好適に得ることができる熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チタニウム源粉末と、アルミニウム源粉末と、銅源とを含む原料混合物を焼成する工程を備える、チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法を提供する。銅源は、粉末の状態で原料混合物に含まれることが好ましい。銅源としては、金属銅または酸化銅を好適に用いることができ、好ましい銅源の1つは金属銅粉末である。
【0008】
上記原料混合物は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、酸化第二銅〔CuO〕換算で、0.1〜20質量部の銅源を含むことが好ましい。
【0009】
本発明の製造方法において、上記原料混合物は、マグネシウム源粉末をさらに含むことが好ましい。原料混合物中におけるマグネシウム源粉末の含有量は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、マグネシア〔MgO〕換算で、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0010】
また、本発明の製造方法において、上記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含むことが好ましい。ケイ素源粉末の好適な例は、ガラスフリットを含む。原料混合物中におけるケイ素源粉末の含有量は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、シリカ〔SiO2〕換算で、好ましくは0.1〜20質量部である。
【0011】
上記原料混合物は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部中、チタニア〔TiO2〕換算で、30〜70質量部のチタニウム源粉末を含むことが好ましい。
【0012】
上記原料混合物を焼成する際の焼成温度は、好ましくは1300〜1650℃の範囲内である。
【0013】
また本発明は、銅元素を含むチタン酸アルミニウム系セラミックスを提供する。本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスにおいて、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、酸化第二銅〔CuO〕換算の銅元素含有量は、好ましくは0.1〜20質量部である。
【0014】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、マグネシウム元素をさらに含むことが好ましい。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム元素含有量は、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0015】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、ケイ素元素をさらに含むことが好ましい。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、シリカ〔SiO2〕換算のケイ素元素含有量は、好ましくは0.1〜20質量部である。
【0016】
また、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部中における、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量は、好ましくは30〜70質量部である。
【0017】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、1300〜1650℃の範囲内の温度で焼成された焼成物であることができる。また、本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、好ましくはハニカム構造を有する成形体であり、このようなハニカム構造体は、ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)として好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、熱膨張係数が小さい、さらには、熱膨張係数がゼロに近い(すなわち、熱による体積変化が小さい)チタン酸アルミニウム系セラミックスを製造することができる。本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、DPF用材料などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法>
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法は、チタニウム源粉末と、アルミニウム源粉末と、銅源とを含む原料混合物を焼成する工程を備える。本発明の製造方法により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックスは、チタン酸アルミニウム結晶からなる焼成体であり、原料混合物がさらにマグネシウム源粉末を含む場合には、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる焼成体である。
【0020】
〔原料混合物〕
(チタニウム源粉末)
本発明に用いられるチタニウム源粉末は、チタニウム元素を含有し、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスを合成できる粉末であれば特に限定されないが、好ましくは酸化チタンの粉末である。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられるが、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型またはルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0021】
チタニウム源粉末としては、空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末を用いることもできる。かかる化合物としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0022】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0023】
本発明で用いるチタニウム源粉末は、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、チタニウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0024】
チタニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.1〜20μmの範囲内であるものを好ましく用いることができる。チタン酸アルミニウム系結晶を効率よく生成させる観点から、チタニウム源粉末のD50は、より好ましくは0.1〜10μmの範囲内であり、さらに好ましくは0.1〜1μmの範囲内である。また、チタニウム源粉末の、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.1〜10μmであり、さらに好ましくは0.2〜1.5μmである。
【0025】
(アルミニウム源粉末)
本発明で用いられるアルミニウム源粉末は、アルミニウム元素を含有し、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスを合成できる粉末であれば特に限定されないが、好ましくはアルミナ(酸化アルミニウム)の粉末である。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0026】
アルミニウム源粉末としては、空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末を用いることもできる。かかる化合物としては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0027】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩としては、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0028】
アルミニウムアルコキシドとしては、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0029】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどの水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0030】
本発明で用いるアルミニウム源粉末は、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、アルミニウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0031】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が1〜100μmの範囲内であるものを好ましく用いることができる。チタン酸アルミニウム系結晶を効率よく生成させる観点から、アルミニウム源粉末のD50は、より好ましくは10〜80μmの範囲内であり、さらに好ましくは20〜60μmの範囲内である。また、アルミニウム源粉末の、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、好ましくは1〜200μmであり、より好ましくは10〜150μmであり、さらに好ましくは30〜100μmである。
【0032】
原料混合物におけるチタニウム源粉末およびアルミニウム源粉末の含有量は特に限定されないが、通常、原料混合物は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部中、30〜70質量部のチタニウム源粉末(したがって、アルミナ換算で、70〜30質量部のアルミニウム源粉末)を含み、好ましくは40〜60質量部のチタニウム源粉末(したがって、アルミナ換算で、60〜40質量部のアルミニウム源粉末)を含む。
【0033】
(銅源)
上記原料混合物は、さらに銅源を含有する。銅源を含有する原料混合物の焼成により、熱による体積変化が小さい、銅元素を含むチタン酸アルミニウム系セラミックスを得ることができる。本発明で用いられる銅源としては、銅元素を含む限り特に制限されないが、たとえば、金属銅、酸化銅(I)〔Cu2O、酸化第一銅〕、酸化銅(II)〔CuO、酸化第二銅〕、水酸化銅(I)〔Cu(OH)〕、水酸化銅(II)〔Cu(OH)2〕などが挙げられ、なかでも、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックスの熱膨張係数を効果的に低減させることができ、熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスが得られやすいことから、金属銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)が好ましく用いられる。
【0034】
銅源としては、空気中で焼成することにより酸化銅(I)または酸化銅(II)に導かれる化合物を用いることもできる。かかる化合物としては、たとえば、銅塩などが挙げられる。
【0035】
銅塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。銅塩として具体的には、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅,沃素酸銅、塩化アンモニウム銅、オキシ塩化銅、酢酸銅、蟻酸銅、炭酸銅、蓚酸銅、クエン酸銅、リン酸銅などが挙げられる。
【0036】
本発明で用いる銅源は、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、銅源は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0037】
銅源は、粉末の状態で原料混合物に含まれることが好ましい。銅源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が1〜200μmの範囲内であるものを好ましく用いることができる。銅源粉末のD50は、より好ましくは5〜100μmの範囲内であり、さらに好ましくは10〜50μmの範囲内である。また、銅源粉末の、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは30〜200μmである。
【0038】
原料混合物中における銅源の含有量は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、酸化第二銅〔CuO〕換算で0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。銅源の含有量をこの範囲内に調整することにより、熱による体積変化が小さいチタン酸アルミニウム系セラミックスが得られやすくなる。
【0039】
(マグネシウム源粉末)
上記原料混合物は、マグネシウム源粉末をさらに含有してもよい。この場合、チタン酸アルミニウム系セラミックスとしてチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる焼成体を得ることができる。マグネシウム源粉末は、マグネシウム元素を含有し、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスを合成できる粉末であれば特に限定されないが、たとえば、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末が挙げられる。好ましくはマグネシアである。
【0040】
空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。マグネシウム塩として、具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。また、マグネシウムアルコキシドとして、具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0041】
また、マグネシウム源粉末として、アルミニウム源粉末を兼ねた粉末を用いることもできる。このような粉末としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)の粉末が挙げられる。
【0042】
本発明で用いるマグネシウム源粉末は、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、マグネシウム源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0043】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜20μmの範囲内であるものを好ましく用いることができる。チタン酸アルミニウム系結晶を効率よく生成させる観点から、マグネシウム源粉末のD50は、より好ましくは1〜10μmの範囲内である。また、マグネシウム源粉末の、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは3〜30μmである。
【0044】
原料混合物がマグネシウム源粉末を含む場合、原料混合物中におけるマグネシウム源粉末の含有量は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、マグネシア〔MgO〕換算で、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜8質量部である。
【0045】
(ケイ素源粉末)
上記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源粉末は、ケイ素元素を含有し、Si成分としてチタン酸アルミニウム系セラミックスに含まれる化合物の粉末であり、ケイ素源粉末の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックスを得ることが可能となる。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素の粉末が挙げられる。
【0046】
また、ケイ素源粉末として、空気中で焼成することにより酸化ケイ素(シリカ)に導かれる化合物の粉末を用いることもできる。かかる化合物としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ケイ素およびアルミニウムを含む複合酸化物、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、工業的に入手が容易であることから、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。
【0047】
ケイ素源粉末としてガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックスの耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0048】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0049】
また、ケイ素源粉末として、アルミニウム源粉末を兼ねた粉末を用いることもできる。このような粉末としては、たとえば、上記した長石の粉末が挙げられる。
【0050】
本発明で用いるケイ素源粉末は、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ケイ素源粉末は、その製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0051】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内であるものを好ましく用いることができる。チタン酸アルミニウム系結晶を効率よく生成させる観点から、ケイ素源粉末のD50は、より好ましくは1〜20μmの範囲内である。また、ケイ素源粉末の、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは5〜50μmである。
【0052】
原料混合物がケイ素源粉末を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源粉末の含有量は、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、シリカ〔SiO2〕換算で、通常、0.1〜20質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0053】
なお、本発明では、上記したマグネシアスピネル(MgAl24)および長石、ならびに、チタン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウムマグネシウム等の複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、銅、マグネシウムおよびケイ素のうち、2つ以上の金属元素を含有成分として含む化合物を金属源原料として用いることができる。この場合、そのような化合物の使用は、それぞれの金属源原料を混合したことと同じであると考えることができ、このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、銅源、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の含有量が上記範囲内に調整される。
【0054】
〔原料混合物の調製〕
本発明の製造方法においては、通常、上記各金属源原料を混合することで原料混合物を得ることができる。混合方法は、乾式雰囲気にて混合を行なう方法(乾式混合法)、湿式雰囲気で混合を行なう方法(湿式混合法)のいずれを用いてもよい。
【0055】
(1)乾式混合法
乾式雰囲気で混合する場合は、たとえば、上記の各金属源原料を混合し、液体媒体中に分散させることなく、粉砕容器内で撹拌すればよく、粉砕メディアの共存下に粉砕容器内で撹拌することによって金属源原料の粉砕を同時に行なってもよい。
【0056】
粉砕容器としては通常、ステンレス鋼などの金属材料で構成されたものが用いられ、内表面がフッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂などでコーティングされていてもよい。粉砕容器の内容積は、金属源原料および粉砕メディアの合計容積に対して、通常、1〜4容量倍、好ましくは1.2〜3容量倍である。
【0057】
粉砕メディアとしては、たとえば、直径1〜100mm、好ましくは5〜50mmのアルミナビーズ、ジルコニアビーズなどが挙げられる。粉砕メディアの使用量は、金属源原料の合計量に対して、通常、1〜1000質量倍、好ましくは5〜100質量倍である。
【0058】
混合と同時に金属源原料の粉砕を行なう場合は、たとえば、粉砕容器内に金属源原料を粉砕メディアと共に投入した後に、粉砕容器を振動させたり、回転させたりすることにより、金属源原料を混合させると同時に粉砕させる。粉砕容器を振動または回転させるためには、たとえば、振動ミル、ボールミル、遊星ミル、高速回転粉砕機などのピンミルなどのような通常の粉砕機を用いることができ、工業的規模での実施が容易である点で、振動ミルが好ましく用いられる。粉砕容器を振動させる場合、その振幅は、通常、2〜20mm、好ましくは12mm以下である。粉砕は、連続式で行なってもよいし、回分式で行なってもよいが、工業的規模での実施が容易である点で、連続式で行なうことが好ましい。
【0059】
粉砕に要する時間は、通常、1分〜6時間、好ましくは1.5分〜2時間である。
金属源原料を乾式にて粉砕するにあたっては、粉砕助剤、解膠剤などの添加剤を加えてもよい。粉砕助剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;トリエタノールアミンなどのアミン類;パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素材料などが挙げられる。これらはそれぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
添加剤を用いる場合、その合計使用量は、金属源原料の合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.75〜2質量部である。
【0061】
(2)湿式混合法
湿式雰囲気で混合する場合は、たとえば、ケイ素源粉末等の金属源原料を溶媒中に分散させた状態で他の金属源原料と混合すればよく、通常は、ケイ素源粉末が溶媒に分散された状態で他の金属源原料と混合される。その際、溶媒として、通常は水が用いられ、不純物が少ない点で、イオン交換水が好適に用いられる。溶媒の使用量は、金属源原料の合計量100質量部に対して、通常、20〜1000質量部であり、好ましくは30〜300質量部である。
【0062】
湿式で混合するに際して、溶媒には分散剤を添加してもよい。分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤を使用する場合、その使用量は、溶媒100質量部あたり、通常、0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部である。
【0063】
なお、湿式混合法において、ケイ素源粉末以外の金属源原料(チタニウム源粉末、アルミニウム源粉末、銅源、マグネシウム源粉末)も種類によっては溶媒に溶解させてから混合することもあるが、溶媒に溶解したこれらの金属源原料は溶媒留去により、再び固形分となって析出する。
【0064】
湿式混合法においては、媒体撹拌ミル、ボールミル、振動ミルなどの粉砕機を用いて混合することが好ましい。粉砕機を用いて混合することにより、チタニウム源粉末、アルミニウム源粉末、銅源、マグネシウム源粉末ならびにガラスフリット等のケイ素源粉末が共に粉砕されつつ混合されて、組成がより均一な原料混合物を得ることができる。
【0065】
また、湿式混合法としては、たとえば、通常の液体溶媒中での攪拌処理のみを行なう方法が挙げられる。液体溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;イオン交換水などを用いることができ、より好ましくはイオン交換水である。
【0066】
また、湿式混合法においても、粉砕メディアの共存下に粉砕容器内で撹拌することによって金属源原料の粉砕を同時に行なってもよい。たとえば、粉砕容器内に金属源原料および粉砕メディアを投入した後、粉砕容器を振動させたり、回転させることにより粉砕を行なってもよい。
【0067】
粉砕容器としては、通常、ステンレス鋼などの金属材料で構成されたものが用いられ、内表面がフッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂などでコーティングされていてもよい。粉砕容器の内容積は、金属源原料および粉砕メディアの合計容積に対して、通常、1〜4容量倍、好ましくは1.2〜3容量倍である。
【0068】
粉砕メディアとしては、たとえば、直径1〜100mm、好ましくは5〜50mmのアルミナビーズ、ジルコニアビーズなどが挙げられる。粉砕メディアの使用量は、金属源原料の合計量に対して、通常、1〜1000質量倍、好ましくは5〜100質量倍である。
【0069】
粉砕容器を振動または回転させるためには、たとえば、振動ミル、ボールミル、遊星ミル、高速回転粉砕機などのピンミルなどのような通常の粉砕機を用いることができ、工業的規模での実施が容易である点で、振動ミルが好ましく用いられる。粉砕容器を振動させる場合、その振幅は、通常、2〜20mm、好ましくは12mm以下である。粉砕は、連続式で行なってもよいし、回分式で行なってもよいが、工業的規模での実施が容易である点で、連続式で行なうことが好ましい。粉砕に要する時間は、通常1分〜6時間、好ましくは1.5分〜2時間である。
【0070】
また、金属源原料を湿式にて粉砕するにあたって、粉砕メディアとは別に粉砕助剤、解膠剤などの添加剤を加えてもよい。
【0071】
粉砕助剤としては、たとえば、メタノール、エタノールプロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;トリエタノールアミンなどのアミン類;パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素材料などが挙げられる。これらはそれぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いられる。添加剤の合計使用量は、金属源原料の合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.75〜2質量部である。
【0072】
上述のような湿式雰囲気での混合を行なった後、溶媒を除去することにより、本発明に用いる原料混合物を得ることができる。溶媒の除去は、通常、溶媒を留去することにより行なわれる。溶媒を留去する方法としては特に限定されず、室温にて風乾してもよいし、真空乾燥してもよいし、加熱乾燥をしてもよい。乾燥方法は静置乾燥でもよいし、流動乾燥でもよい。加熱乾燥をする際の温度は特に限定されないが、通常、50℃以上250℃以下である。加熱乾燥に用いられる機器として、たとえば、棚段乾燥機、スラリードライヤー、スプレードライヤーなどが挙げられる。
【0073】
〔原料混合物の焼成〕
本発明の製造方法においては、上述のようにして得られた粉末状の原料混合物を焼成することにより、チタン酸アルミニウム系セラミックスを得る。焼成にあたっては、原料混合物を所望の形状に成形した後、焼成を行なってもよく、あるいは、粉末状の原料混合物のまま焼成を行なってもよい。後者の場合、焼成により得られた焼成物を、必要に応じて解砕した後、所望の形状に成形し、成形体を得てもよい。また、粉末状の原料混合物を焼成することにより成形体を得た後、該成形体をさらに焼成してもよい。
【0074】
焼成温度は、通常1300℃以上、好ましくは1400℃以上であり、また、通常1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は、特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。ケイ素源粉末を用いる場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。原料混合物がバインダ等を含む場合、焼成工程には、これを除去するための仮焼(脱脂)工程が含まれる。脱脂は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、150〜400℃の温度範囲)になされる。脱脂工程においては、昇温速度を極力抑えることが好ましい。
【0075】
焼成は、通常、大気中で行なわれるが、用いる金属源原料、すなわち、チタニウム源粉末、アルミニウム源粉末、銅源、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0076】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0077】
焼成に要する時間は、原料混合物またはその成形体がチタン酸アルミニウム系セラミックスに遷移するのに十分な時間であればよく、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0078】
焼成物として、塊状のチタン酸アルミニウム系セラミックスが得られる場合は、さらにその焼成物を解砕することにより、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末を得ることができる。解砕は、たとえば、手解砕、乳鉢、ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体撹拌ミル、ピンミル、ジェットミル、ハンマーミル、ロールミルなどの通常の解砕機を用いて行なうことができる。解砕により得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、通常の方法で分級してもよい。
【0079】
上述の方法により、熱による体積変化が小さい(熱膨張係数の低い)チタン酸アルミニウム系セラミックスからなる焼成物を得ることができる。
【0080】
〔原料混合物、焼成物の成形〕
原料混合物の焼成前における成形または焼成により得られた焼成物(チタン酸アルミニウム系セラミックス)の成形には、通常用いられる成形方法を用いることができ、一軸成形や押出し成形などが用いられる。成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。
【0081】
押出し成形を行なう際には、原料混合物に造孔剤、バインダ、潤滑剤や可塑剤、分散剤、溶媒などを添加して成形することができる。造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。
【0082】
バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0083】
潤滑剤や可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。
【0084】
分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0085】
また、溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;および水などを用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。
【0086】
成形体の形状は、特に限定されるものではないが、たとえば、ハニカム構造体、球状構造体、立方構造体、長方ブロック構造体などが挙げられ、この中でも、特に成形体をDPFなどに適用する場合には、ハニカム構造体であることが好ましい。
【0087】
<チタン酸アルミニウム系セラミックス>
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、チタン酸アルミニウム系結晶(チタン酸アルミニウム結晶またはチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶)からなる、銅元素を含む焼成体である。銅元素を含む本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、熱による体積変化が小さく、熱衝撃による破損や特性劣化が生じにくい。
【0088】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスにおいて、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、酸化第二銅〔CuO〕換算の銅元素含有量は、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0089】
チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部中における、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量は、好ましくは30〜70質量部であり、より好ましくは40〜60質量部である。
【0090】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、マグネシウム元素をさらに含んでいてもよい。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム元素含有量は、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜8質量部である。
【0091】
また、本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、ケイ素元素を含んでいてもよく、これにより、耐熱性を向上させることができる。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、シリカ〔SiO2〕換算のケイ素元素含有量は、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0092】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンを含むものであるが、その他に、たとえばシリカ、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスが、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1−x)MgxTi(1+x)5、銅を除いた組成式である)である場合、前記xの値は0.01以上であり、好ましくは0.01以上0.7以下、より好ましくは0.02以上0.5以下である。
【0093】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、上記した原料混合物を焼成する本発明の方法によって好適に製造することができる。
【0094】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスは、所望の形状に成形された成形体であることができる。成形体の形状は、特に限定されるものではないが、たとえば、ハニカム構造体、球状構造体、立方構造体、長方ブロック構造体などが挙げられ、この中でも、特に成形体をDPFなどに適用する場合には、ハニカム構造体であることが好ましい。
【0095】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックスの成形体は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルタ(DPFなど)のほか、たとえば、ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具;触媒担体;ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルタや石油精製時に生じるガス成分(たとえば、一酸化炭素、二酸化炭素や窒素、酸素など)を選択的に透過させるための選択透過フィルタなどのセラミックスフィルタ;基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスのチタン酸アルミニウム化率(AT化率)および熱膨張係数、ならびに、用いた金属源原料のD50およびD90は、下記方法により測定した。
【0097】
(1)AT化率
チタン酸アルミニウム化率(AT化率)は、粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面〕の積分強度(IT)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面〕の積分強度(IAT)とから、下記式:
AT化率=IAT/(IT+IAT)×100(%)
により算出した。
【0098】
(2)熱膨張係数
チタン酸アルミニウム系セラミックス成形体を治具の上に固定用樹脂で固定し、長さ13mm、幅4mm、厚さ4mmの直方体形状に切り出した。ついで、切り出された成形体を、200℃/hで1000℃まで昇温して熱処理を行ない、切り出し作業に用いた固定用樹脂を消失させた。熱処理を施した試験片について、熱機械的分析装置(SIIテクノロジー(株)製 TMA6300)を用いて、室温(25℃)から1000℃まで600℃/hで昇温させた際の試験片の膨張率から、下記式に基づき、熱膨張係数〔K-1〕を算出した。
熱膨張係数〔K-1〕=試験片の膨張率/975〔K〕
ここで、試験片の膨張率とは、
(1000℃まで昇温させたときの試験片の長さ−昇温前(25℃)における試験片の長さ)/(昇温前(25℃)における試験片の長さ)
を意味する。
【0099】
(3)金属源原料の粒度分布
体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)および体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)は、レーザ回折式粒度分布測定装置〔日機装社製「Microtrac HRA(X−100)」〕を用いて測定した。
【0100】
<実施例1>
金属源原料として以下のものを用いた。
【0101】
(1)チタニウム源粉末
酸化チタン(IV)(チタニア)粉末(デュポン(株)製「R−900」、ルチル型結晶、D50:0.49μm、D90:0.63μm)
42.2g(47.2質量部)
(2)アルミニウム源粉末
αアルミナ粉末(D50:38.3μm、D90:59.2μm)
39.0g(43.6質量部)
(3)マグネシウム源粉末
マグネシア粉末(宇部マテリアル(株)製「UC−95S」、D50:3.47μm、D90:4.76μm)
3.97g(4.4質量部)
(4)ケイ素源粉末
ガラスフリット(タカラスタンダード(株)製「CK−0160M2」、D50:5.43μm、D90:18.5μm)
3.43g(3.8質量部)
(5)銅源
金属銅粉末(和光純薬社製、D50:25μm、D90:47μm)
0.89g(1.0質量部)
チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対する銅源の使用量は、1.1質量部である。
【0102】
上記(1)〜(5)の金属源原料を、アルミナビーズ〔直径15mm〕500gと共にプラスチック製容器〔内容積1L〕に投入した。その後、該容器をボールミルにより回転数80rpmにて4時間回転させることにより、容器内の原料を混合し、原料混合物を得た。
【0103】
得られた原料混合物の3gを一軸プレスにて0.3t/cm2の圧力下で成形することにより、直径20mmの円柱状の成形体を作製した。次に、この成形体を箱型電気炉にて昇温速度300℃/hで1450℃まで昇温し、同温度で4時間保持することにより焼成を行なった。その後、室温まで放冷して、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を得た。得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスは、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5(銅を除いた組成式である)で表され、xの値は約0.23である。
【0104】
得られた焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の熱膨張係数は、0.5×10-6(K-1)であった。
【0105】
<実施例2>
チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末およびアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対する銅源の使用量を5.3質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を得た。得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスは、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5(銅を除いた組成式である)で表され、xの値は約0.23である。
【0106】
得られた焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の熱膨張係数は、0.5×10-6(K-1)であった。
【0107】
<比較例1>
銅源を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を得た。得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスは、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5(銅を除いた組成式である)で表され、xの値は約0.23である。
【0108】
得られた焼成体を乳鉢にて解砕し、粉末X線回折法により、得られた粉末の回折スペクトルを測定したところ、この粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。この粉末のAT化率を求めたところ、100%であった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の熱膨張係数は、1.5×10-6(K-1)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニウム源粉末と、アルミニウム源粉末と、銅源とを含む原料混合物を焼成する工程を備える、チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記銅源が粉末の状態で前記原料混合物に含まれる、請求項1に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記銅源が金属銅または酸化銅である、請求項1または2に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記銅源が金属銅粉末である、請求項1に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物は、チタニア換算のチタニウム源粉末およびアルミナ換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、酸化第二銅換算で、0.1〜20質量部の銅源を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物は、マグネシウム源粉末をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物は、チタニア換算のチタニウム源粉末およびアルミナ換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、マグネシア換算で、0.1〜10質量部のマグネシウム源粉末を含む、請求項6に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物は、ケイ素源粉末をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記ケイ素源粉末は、ガラスフリットである、請求項8に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記原料混合物は、チタニア換算のチタニウム源粉末およびアルミナ換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部に対して、シリカ換算で、0.1〜20質量部のケイ素源粉末を含む、請求項8または9に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項11】
前記原料混合物は、チタニア換算のチタニウム源粉末およびアルミナ換算のアルミニウム源粉末の合計量100質量部中、チタニア換算で、30〜70質量部のチタニウム源粉末を含む、請求項1〜10のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項12】
前記焼成の温度は、1300〜1650℃の範囲内である、請求項1〜11のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法。
【請求項13】
銅元素を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項14】
チタニア換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、酸化第二銅換算の銅元素含有量が0.1〜20質量部である、請求項13に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項15】
マグネシウム元素をさらに含む、請求項13または14に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項16】
チタニア換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、マグネシア換算のマグネシウム元素含有量が0.1〜10質量部である、請求項15に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項17】
ケイ素元素をさらに含む、請求項13〜16のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項18】
チタニア換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部に対する、シリカ換算のケイ素元素含有量が0.1〜20質量部である、請求項17に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項19】
チタニア換算のチタニウム元素含有量およびアルミナ換算のアルミニウム元素含有量の合計100質量部中における、チタニア換算のチタニウム元素含有量が30〜70質量部である、請求項13〜18のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項20】
1300〜1650℃の範囲内の温度で焼成された焼成物である、請求項13〜19のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項21】
ハニカム構造を有する成形体である請求項13〜20のいずれかに記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。
【請求項22】
前記成形体がディーゼル微粒子フィルタである請求項21に記載のチタン酸アルミニウム系セラミックス。

【公開番号】特開2011−153066(P2011−153066A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284406(P2010−284406)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】