説明

チタン酸バリウム粉末およびその製法、ならびにチタン酸バリウム焼結体

【課題】チタン酸バリウム粉末全体において、組成的にも結晶構造的にも高純度なチタン酸バリウム粉末とその製法、並びに、そのチタン酸バリウム粉末を用いてえrあれるチタン酸バリウム焼結体を提供する。
【解決手段】炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末を調製する第1の工程と、該混合粉末を、圧力が10Pa以下であり、同圧力の条件の熱重量分析において重量減少率が50%以上90%以下の範囲となる温度で仮焼する第2の工程と、該第2の工程における仮焼の温度よりも高い温度、および、前記第2の工程における仮焼の圧力よりも低い圧力の条件で加熱する第3の工程とを具備することを特徴とするものであり、平均粒径が100nm以下、チタン酸バリウムの(111)面の結晶面間隔が0.232nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電材料、半導性材料、その他各種電子材料の原料として用いられるチタン酸バリウム粉末とその製法、ならびに、それを焼成して得られるチタン酸バリウム焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子デバイスの急速な小型化、高性能化、高信頼化に伴い、これを構成する素子や、それらの出発原料の微細化が求められてきている。例えば、積層セラミックコンデンサ中の誘電体層の厚みは1μm以下へと薄くなり、例えば、その原料となるチタン酸バリウムからなる原料粉末の平均粒径は200nm以下、特に150nm以下が要求されている。これまでチタン酸バリウムの原料粉末の合成には種々の方法が試されているが、その中でも炭酸バリウム粉末と二酸化チタン粉末とを反応させて調製される固相法は生産性が高く広く利用されている。
【0003】
しかしながら、従来の固相法は炭酸バリウム粉末および二酸化チタン粉末を、通常、大気中において900℃以上の高い温度で反応させる必要があるため、得られるチタン酸バリウム粉末の粒成長が促進されやすく、要求される粉末の微粒化に応えられなくなってきている。
【0004】
そこで、近年に至り、固相法について種々の改良が行われている。例えば、下記に例示した特許文献1は、水酸化バリウム粉末等の金属水酸化物粉末と比表面積が10m/g以上の酸化チタン粉末とを混合し、この混合粉末を全圧が1×10−2Pa以下の大気雰囲気中において、600〜1100℃の温度で熱処理することにより、微粒で正方晶性の高いチタン酸バリウム粉末が得られることが開示されている。
【0005】
また、下記に示す特許文献2は、炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末を用いる場合に、これらの混合粉末をpH調製した溶媒を用いて湿式粉砕し、仮焼時の全圧を1気圧としても、その雰囲気中の酸素分圧を大気よりも低く設定することにより、微粒のチタン酸バリウム粉末が得られることが開示されている。
【特許文献1】特開2003−2738号公報
【特許文献2】特開2004−299916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたチタン酸バリウム粉末の製法は、混合粉末を仮焼する際の減圧条件での仮焼工程が1段階である。そのため、上記特許文献1、2に開示された製法を用いて調製されたチタン酸バリウム粉末は、その仮焼温度等の設定によって、平均粒径が数百nm以下の微粒化が可能であり、またその粉末の結晶構造が正方晶を示すものはできても、立方晶の割合が多く粒子内での正方晶の割合が不均一であり、チタン酸バリウム粉末全体にとって、微粒且つ結晶構造的に均一なチタン酸バリウム粉末は得られず、比誘電率が低いのが現状である。
【0007】
従って本発明は、チタン酸バリウム粉末全体において、微粒かつ結晶構造的に均一性が高くなチタン酸バリウム粉末とその製法、並びに、そのチタン酸バリウム粉末を用いて得られるチタン酸バリウム焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のチタン酸バリウム粉末は、平均粒径が100nm以下であるとともに、(111)面の結晶面間隔が0.232nm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明のチタン酸バリウム粉末の製法は、炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末を調製する第1の工程と、該混合粉末を、10Pa以下の圧力および同圧力の条件の熱重量分析において前記混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%以上90%以下の範囲となる温度で加熱する第2の工程と、第2の工程における圧力よりも低い圧力および第2の工程における温度よりも高い温度の条件で加熱する第3の工程とを具備することを特徴とする。
【0010】
また、上記チタン酸バリウム粉末の製法では、比表面積が20m/g以上の前記炭酸バリウム粉末および比表面積が40m/g以上の前記酸化チタン粉末を用いることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明のチタン酸バリウム焼結体は、上記のチタン酸バリウム粉末を成形し、焼成して得られ、平均粒子径が150nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のチタン酸バリウム粉末は、平均粒径が100nm以下であり、かつチタン酸バリウムにおける(111)面の結晶面間隔が0.232nm以下であり、このような結晶面間隔を有するチタン酸バリウムは正方晶性が高いものである。つまり、本発明のチタン酸バリウム粉末は微粒であっても正方晶性が高く結晶構造的に均一性が高く、このようなチタン酸バリウム粉末を用いて得られるチタン酸バリウム焼結体は結晶粒子が微粒であっても高い比誘電率を得ることができる。
【0013】
本発明のチタン酸バリウム粉末の製法では、第1の工程で得られた炭酸バリウムと酸化チタンとの混合粉末を第2の工程において加熱する際に、その第2の工程である低温かつ高い減圧条件のもとに加熱を行うことで、原料粉末である炭酸バリウムから炭酸ガスや含まれる水分などを、また、酸化チタン粉末からも不純物を十分に揮発させながらチタン酸バリウムの合成を容易に行うことができる。
【0014】
次に、第2の工程で得られた合成の初期段階にあるチタン酸バリウムを、前記第2の工程よりも高い温度でかつそれよりも低い圧力の条件である第3の工程にて加熱することにより、熱分解生成物の影響を抑制して結晶成長させることができる。
【0015】
本発明の製法では、微粒のチタン酸バリウム粉末を調製する場合に、このように原料粉末の生成反応過程と合成粉末の粒成長過程とを別工程とすることにより、得られるチタン酸バリウム粉末中に内在される前駆体からの未反応物や水分などの不純物を低減でき、得られるチタン酸バリウム粉末を均一性の高いものにできる。
【0016】
このため合成されるチタン酸バリウム粉末中には熱分解生成物量が極めて低減された状態となり、高純度かつ結晶構造的に均一性の高いチタン酸バリウム粉末を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、チタン酸バリウム粉末とその粉末を焼結させた焼結体について説明する。
【0018】
本発明のチタン酸バリウム粉末は、平均粒径が100nm以下、チタン酸バリウムの(111)面の結晶面間隔が0.232nm以下であることを特徴とする、微粒で高誘電率の新規なチタン酸バリウム粉末である。
【0019】
本発明のチタン酸バリウム粉末の平均粒径は100nm以下であることが重要であり、特に45nm以上95nm以下であることが望ましい。チタン酸バリウム粉末の平均粒径が45nm以上であると、正方晶性の高いチタン酸バリウム粉末を容易に得ることができるという利点がある。100nm以下、特に95nm以下であると薄層化した誘電体層であっても粒界の数を多く有する誘電体層を容易に形成できるという利点がある。なお、チタン酸バリウム粉末の平均粒径は100nmよりも大きいと薄層化される誘電体層に適用した場合に粒界の数が少なくなり絶縁性が低下する。
【0020】
こうして得られる本発明のチタン酸バリウム粉末は微粒であっても格子不整合などの欠陥も低減されたものである。その状態を知らしめる評価としてチタン酸バリウム粉末の(111)面について、その結晶格子面間隔を測定すると、その間隔は0.232nm以下となるものである。
【0021】
つまり、本発明のチタン酸バリウム粉末は上述のように微粒であっても結晶構造的に均一性が高いために格子間隔が小さくなっているものである。結晶格子面間隔の下限としてはチタン酸バリウムの単結晶から得られる格子定数から求まる理論的間隔0.2314nmが挙げられる。
【0022】
このように、本発明のチタン酸バリウム粉末は微粒子であっても結晶構造的に均一であるために高誘電率化できるものであり、こうしたチタン酸バリウム粉末を用いると、このチタン酸バリウム粉末を成形し焼成して得られるチタン酸バリウム焼結体においても粒成長が抑制され、このような微粒子のチタン酸バリウム結晶粒子からなる誘電体層は高誘電率となり、それを積層した場合、高容量の積層セラミックコンデンサを容易に形成できる。
【0023】
この場合、誘電体層であるチタン酸バリウム焼結体中のチタン酸バリウム結晶粒子の平均粒径は150nm以下、特に120nm以下が好ましい。また、本発明のチタン酸バリウム粉末を焼結させずにその状態で用いた微粒子-ポリマーコンポジット誘電体等のデバイスに応用すれば高誘電率の配線基板を容易に形成できるという効果がある。
【0024】
次に、本発明のチタン酸バリウム粉末の製法について説明する。本発明のチタン酸バリウム粉末の製法では、用いる原料粉末同志を混合して混合粉末を調製する第1の工程と、第1の工程で得られた炭酸バリウムと酸化チタンとの混合粉末を減圧条件のもとに加熱を行い、原料粉末からチタン酸バリウム粉末を生成する第2の工程と、第2の工程で得られた合成の初期段階にあるチタン酸バリウムを第2の工程よりも高い温度でかつ第2の工程よりも低い圧力の条件のもとで加熱して粒成長させる第3の工程とを具備するものである。
【0025】
第1の工程は用いる原料粉末どうしを混合する工程である。混合はビーズミルやボールミルなど公知の方法で行う。
【0026】
炭酸バリウムはBET法による比表面積が20m/g以上であることが好ましい。比表面積が20m/g以上であると、前駆体として炭酸バリウム粉末が針状を呈した微粒の粉末となり、これにより得られるチタン酸バリウム粉末も微粒化できるとともに、炭酸バリウムと酸化チタンとの粒径差が小さくなり、酸化チタンの表面をまんべんなく覆うことができる。これにより得られるチタン酸バリウム粉末はバリウムとチタンとの均質性を高めることができ、同時に微粒化できるという利点がある。
【0027】
炭酸バリウムの比表面積もまた、このように大きいことが望ましいが、例えば、50m/g以下であると炭酸バリウムの凝集を抑制でき分散性を高めることができるという利点がある。
【0028】
また、炭酸バリウム粉末の純度は98%以上であることが望ましい。炭酸バリウム粉末の純度が98%以上であると、得られるチタン酸バリウム中に取り込まれる不純物量を低減できるという利点がある。本発明に用いる炭酸バリウム粉末は短径が0.1μm以下であることから低い温度で完全に反応させることができ微粒化に効果的である。
【0029】
次に、本発明の製法に用いる酸化チタン粉末の比表面積は、その比表面積が40m/g以上であることが望ましい。比表面積が40m/g以上であると、得られるチタン酸バリウム粉末を微粒化できるという利点がある。このように用いる酸化チタンの比表面積は大きいことが望ましいが、例えば、100m/g以下であるとチタン酸バリウムの合成における核形成剤として結晶化度を高められるという利点がある。酸化チタンの純度もまた98%以上、特に99%以上であることが高純度かつ結晶構造的に均一性の高いチタン酸バリウム系粉末を形成できるという利点がある。
【0030】
第2の工程は圧力が10Pa以下であり、同圧力の条件の熱重量分析において、炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%以上90%以下の範囲となる温度で仮焼することを特徴とする。
【0031】
第2の工程では、特に混合粉末を仮焼する全圧が10Pa以下とすることが重要である。
【0032】
混合粉末を仮焼する全圧が10Pa以下とすることにより、炭酸バリウム粉末や酸化チタン粉末等の前駆体からチタン酸バリウム粉末を合成する際の初期段階において、減圧により炭酸バリウム粉末から炭酸ガスを除去しやすくなるとともに、炭酸バリウム粉末中に含まれる水分や他の揮発成分などの不純物量を減らすことができ、これにより得られるチタン酸バリウム粉末の反応速度を高めることができ、結晶欠陥の生成を抑制できチタン酸バリウム粉末の均一性を高めることができる。
【0033】
減圧はターボポンプや拡散ポンプが好適である。なお、減圧の最低圧力は、仮焼時に前駆体の揮発成分が残らない程度の1×10−2Pa以上であることが好ましい。
【0034】
図1は、本発明に係る混合粉末の熱重量分析の一例である。第2の工程における仮焼の温度については後述の実施例を参考にすることができるが、本発明における温度の設定条件としては、前述した10Pa以下の圧力の条件において、同圧力での熱重量分析において混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%以上(A点)90%以下(B点)の範囲となる温度とすることが重要である。
【0035】
即ち、本発明においては、同圧力での熱重量分析において混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%以上となる温度以上で加熱を行うと、前駆体粉末の分解が十分に進む状態となり、さらには仮焼時の保持時間を延長するだけでチタン酸バリウムの合成が促進されるという利点がある。
【0036】
一方、同圧力での熱重量分析において混合粉末の重量減少率が90%以下であると、チタン酸バリウムの生成に伴う粒成長が抑制されるという利点がある。つまり、同圧力での熱重量分析において混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%より少ないと前駆体中の未反応物や水分などから生成する結晶欠陥が残りやすくなる。
【0037】
一方、同圧力での熱重量分析において混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が90%より多い条件では、合成されたチタン酸バリウム粉末が初期段階においても粒成長し、そのため不純物を取り込みやすくなる他、結晶の不整合も起きやすくなる。特に、重量減少率が70〜90%の範囲がより好ましい。
【0038】
なお、熱重量分析は、温度が室温から最高1000℃、圧力が1×10−2Pa〜常圧の範囲で設定でき、昇温速度は前駆体の分解反応を促進し、製造工程の時間短縮を図れるという点で10〜300℃/hの範囲が好ましい。また、サンプルを入れる容器は白金製である、加熱の雰囲気も大気以外にN、Arなどに変更できるものである。こうした第2の工程を経て得られる初期のチタン酸バリウム粉末の平均粒径は100nm以下、特に20nm以上50nm以下が好ましい。
【0039】
平均粒径が20nm以上であると、既にきれいな結晶として核形成ができており粒成長できる駆動力をも有しており、正方晶性が高いという利点がある。
【0040】
平均粒径が50nm以下であると、次の工程における粒成長の駆動力を有し、結晶格子の不整合の低減できるという利点がある。
【0041】
次に、合成されたチタン酸バリウム粉末を粒成長させる工程である第3の工程は、上述のように、第2の工程における仮焼の温度よりも高い温度、および、この第2の工程における仮焼の圧力よりも低い圧力の条件で加熱することが重要である。
【0042】
この工程における仮焼の温度および圧力についても後述の実施例を参考にすることができるが、好適な条件として、本発明では上述したように微粒であってもネッキングした粉末の状態となり且つ結晶性が高く格子の不整合が抑制される条件が選択される。上記のようなネッキングしたチタン酸バリウム粉末を形成するという点で、実施例によれば、例えば、温度が740〜900℃、圧力が0.5×10−2Pa〜常圧、昇温速度が50〜400℃/hの範囲がより好ましい。
【0043】
第3の工程が、このように前述の第2の工程よりも高い温度であるのはチタン酸バリウム粉末をネッキングさせてチタン酸バリウム粉末の結晶性を高めるためであり、一方、第2の工程よりも低い圧力は、第2の工程において残存する可能性のある熱分解生成物をさらに除くためである。そして、本発明では、この第3の工程の後にネッキングしたチタン酸バリウム粉末を解砕する。
【0044】
図2(a)は本発明の第3の工程を経た直後のチタン酸バリウム粉末の模式図であり、図2(b)は従来の単分散したチタン酸バリウム粉末の模式図である。本発明のチタン酸バリウム粉末は上述のように第3の工程を経て得られるものが、図2(a)からわかるようにネッキングした状態であるために、粉末同士が接した部分は粒成長とともに粉末の表面付近に形成される欠陥が低減されチタン酸バリウム粉末における立方晶の領域を体積的に低減させることができる。
【0045】
つまり、本発明のチタン酸バリウム粉末の製法における第3の工程は合成されたチタン酸バリウム粉末がネッキングした状態になる程度に加熱する工程であることが望ましい。
【0046】
これに対して、チタン酸バリウム粉末の合成工程において、図2(b)に示す単分散した従来のチタン酸バリウム粉末になるような工程を経たものは、表面付近(シェルの部分)に立方晶の結晶組織が形成され、微粒になればなるほど表面積が増える分だけ立方晶の割合が増えることになる。
【0047】
このように本発明では、チタン酸バリウム粉末を一旦ネッキングさせることによりネッキングした部分は表面ではなくなり、そのため内部と同じく正方晶性の結晶組織になることから、単分散したチタン酸バリウム粉末として合成された粉末に比較してネッキングした部分の面積の割合だけ表面付近まで正方晶性の高い結晶組織が形成されている。
【0048】
そして、本発明では、第3の工程の後に、解砕工程を加えることによりネッキング部分が割れ、割れる以前に表面ではなかった部分を露出させることにより、表面の結晶組織が正方晶の高いチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0049】
また、炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末からチタン酸バリウム粉末を合成する場合に、混合粉末を仮焼する際の減圧条件での仮焼工程が1段階のみであると、仮焼温度等の設定によって、平均粒径を数百nm以下として、また、その粉末の結晶構造が一部正方晶を示すものはできても、チタン酸バリウム粉末全体にとって、組成的に高純度で、かつ結晶構造的にも均一なチタン酸バリウム粉末は得られない。
【実施例】
【0050】
まず、表1に示すBaCO、TiO原料を分散剤、水とともにビーズミルを用いて混合し、得られたスラリーをスプレードライで乾燥後、550℃で分散剤の有機成分を除去し、混合粉末とした。
【0051】
上記混合粉末を真空(5Pa)下で熱重量分析を行い、それぞれの分解曲線から熱分解による理論重量減少量の50%から90%が発生する温度範囲を確定し、表1に示す第2の工程の温度を決定した。第2の工程での処理を終了した後、さらに、表1に示す第3の工程の条件により加熱処理を行い、さらに解砕処理を行いチタン酸バリウム粉末を製造した。このときの昇温速度は熱重量分析、第2の工程および第3の工程ともに、100℃/hrとした。
【0052】
上記の製法により得られた粉末の平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)により求めた。電子顕微鏡写真内の粉末を任意に20個選択し、インターセプト法により各結晶粒子の最大径を求め、それらの平均値(D50)を求めた。
【0053】
チタン酸バリウム焼結体についても走査型電子顕微鏡(SEM)により、その焼結体を構成するチタン酸バリウム結晶粒子の平均粒径を求めた。その場合、研磨面をエッチングし、電子顕微鏡写真内の結晶粒子を任意に20個選択し、インターセプト法により各結晶粒子の最大径を求め、それらの平均値(D50)を求めた。
【0054】
また、X線回折により(111)面間隔を測定し、結果を表1に示した。更に、合成した粉末を助剤無添加で900℃×1h、100Paの圧力下で直径20×厚み2mmの緻密なバルクを作製し、800℃で酸化処理後に比誘電率を測定した。25℃における比誘電率値を表1に示した。また、第1の工程で得た混合粉末を完全に熱分解する温度以上の温度で処理した粉末(試料No.12)についても上記と同じ測定し、比較例とした。また、上記比較例と同様の工程により、バリウム源として水酸化バリウムを用いたものは、平均粒径が0.33μm、結晶面間隔が0.2328nmとなり、少なくとも結晶構造的に均一なものは得られなかった。
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1、2の結果から、本発明に基づいたチタン酸バリウム粉末は、平均粒径が100nm以下、d(111)が0.2320nm以下、比誘電率が3000以上に対して、比較例No.4、は第2の工程で高温まで加熱し、100nm以下の粒子を合成できたが、d(111)が大きく比誘電率が低かった。比較例No.8は、第2の工程での加熱は分解量が少ない低い温度で行ったため、100nm以下の粒子を合成できたが、d(111)が大きく、比誘電率が低かった。さらに、比較例No.12は、第2の工程で完全に反応を終了させる温度で処理したため、粒径が大きく成長した。試料No.15は、ともに比表面積の大きい炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末を用いたが、この場合、第3の工程後の解砕を行わなくても単分散化するように、得られるチタン酸バリウム粉末が単分散化するように、混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率を50%とした。この場合、チタン酸バリウム粉末のd(111)が0.2323となり、焼成後のチタン酸バリウム結晶粒子の平均粒径が100nmであったが比誘電率が3460と大きくないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の製法における混合粉末の熱重量分析の一例である。
【図2】(a)は本発明の製法における第3の工程を経た直後のチタン酸バリウム粉末の模式図であり、(b)は従来の単分散したチタン酸バリウム粉末の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が100nm以下であるとともに、(111)面の結晶面間隔が0.232nm以下であることを特徴とするチタン酸バリウム粉末。
【請求項2】
炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末を調製する第1の工程と、該混合粉末を、10Pa以下の圧力および同圧力の条件の熱重量分析において前記混合粉末の完全分解時の重量変化率を100%としたときの重量減少率が50%以上90%以下の範囲となる温度で加熱する第2の工程と、第2の工程における圧力よりも低い圧力および第2の工程における温度よりも高い温度の条件で加熱する第3の工程とを具備することを特徴とするチタン酸バリウム粉末の製法。
【請求項3】
比表面積が20m/g以上の前記炭酸バリウム粉末および比表面積が40m/g以上の前記酸化チタン粉末を用いる請求項2に記載のチタン酸バリウム粉末の製法。
【請求項4】
請求項1に記載のチタン酸バリウム粉末を成形し、焼成して得られた、平均粒子径が150nm以下であることを特徴とするチタン酸バリウム焼結体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−169122(P2007−169122A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370936(P2005−370936)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】