説明

チタン酸リチウムの製造方法、電極、及びリチウムイオン二次電池

【課題】高容量電極の電極活物質として用いることが可能なチタン酸リチウムを用いて成るリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】チタン酸リチウムの製造方法は、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程と、前記混錬物を造粒して、造粒物を得る工程と、前記造粒物を焼成する工程とを有する。当該製造方法によって得られるチタン酸リチウムは、Li4Ti512を主成分とするチタン酸リチウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウムの製造方法に関するものであり、さらにはチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極、及び、この電極を負極又は正極に用いて成るリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化チタンとリチウム化合物とを乾式混合して得られた乾式混合物を700〜1600℃の温度で焼成してチタン酸リチウムを得るチタン酸リチウムの製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3502118号公報(段落0013及び0014)
【特許文献2】特開2001−213622号公報(段落0038及び0041)
【特許文献3】特開2005−239461号公報(段落0021)
【特許文献4】特開2002−274849号公報(段落0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている従来の製造方法は、工程は簡単であるが、酸化チタンとリチウム化合物との反応性が悪いため、当該製造方法で得られるチタン酸リチウムに副生成物(主成分とは化学式が異なるチタン酸リチウム)や残存物(酸化チタン)が多く含まれていた。このため、当該製造方法で得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極では、電極容量が理論値(175mAh/g程度)に対してかなり小さく、さらなる改善の余地を残していた。
【0005】
このため、電池特性に優れたチタン酸リチウムを得ることができるチタン酸リチウムの製造方法が種々提案されているが、どの製造方法もコストがかかる複雑な工程を必要としている(特許文献2〜4参照)。例えば、特許文献2で提案されている製造方法では、2度の焼成(仮焼、本焼)が必要であり、総焼成時間も長くなっている。また、特許文献3で提案されている製造方法では、噴霧乾燥が必要である。また、特許文献4で提案されている製造方法では、噴霧乾燥が必要であり、且つ、噴霧乾燥後の熱処理を長時間行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、高容量電極の電極活物質として用いることが可能なチタン酸リチウムを簡単な工程で得ることができるチタン酸リチウムの製造方法、チタン酸リチウムを電極活物質として用いた高容量の電極、及び当該電極を負極又は正極に用いて成るリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法については、Li4Ti512を主成分とするチタン酸リチウムの製造方法であって、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程と、前記混錬物を造粒して、造粒物を得る工程と、前記造粒物を焼成する工程とを有する構成(第1の構成)とされている。
【0008】
また、上記第1の構成の製造方法において、前記混錬物を得る工程が、前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物を乾式混合して、乾式混合物を得る工程と、前記乾式混合物に前記水溶性リチウム化合物の水溶液を加えて混錬して、前記混錬物を得る工程とを有する構成(第2の構成)とされることが好ましい。
【0009】
また、上記第1または上記第2の構成の製造方法において、前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物を合わせたものに対する前記水溶性リチウム化合物の水溶液の重量比が0.2以上である構成(第3の構成)とされていることが好ましい。
【0010】
また、上記第1〜3のいずれかの構成の製造方法において、前記難水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量に対する前記水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.08以上である構成(第4の構成)とされていることが好ましい。
【0011】
また、上記第1〜4のいずれかの構成の製造方法において、前記酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する前記難水溶性リチウム化合物及び前記水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4/5より大きい構成(第5の構成)とされていることが好ましい。
【0012】
また、上記第1〜5のいずれかの構成の製造方法において、前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物がそれぞれ粒子状であり、前記酸化チタンの平均粒子径に対する前記難水溶性リチウム化合物の平均粒子径の比が3より大きく85より小さく、前記造粒物を680℃より高く920℃より低い焼成温度で焼成する構成(第6の構成)とされていることが好ましい。
【0013】
また、上記第1〜6のいずれかの構成の製造方法の具体例として、前記難水溶性リチウム化合物が炭酸リチウムである構成(第7の構成)が挙げられる。
【0014】
また、上記第1〜7のいずれかの構成の製造方法の具体例として、前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は水酸化リチウム・一水和物である構成(第8の構成)が挙げられる。
【0015】
また、本発明に係る電極は、上記第1〜8のいずれかの構成の製造方法によって得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた構成(第9の構成)とされている。
【0016】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記第9の構成の電極を負極又は正極として用いた構成(第10の構成)とされている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高容量電極の電極活物質として用いることが可能なチタン酸リチウムを簡単な工程で得ることができるチタン酸リチウムの製造方法、チタン酸リチウムを電極活物質として用いた高容量の電極、及び当該電極を負極又は正極に用いて成るリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法の概略を示したフローチャート
【図2】混錬物を得る工程の一例を示すフローチャート
【図3A】混錬物を得る工程の他の例を示すフローチャート
【図3B】混錬物を得る工程の他の例を示すフローチャート
【図3C】混錬物を得る工程の他の例を示すフローチャート
【図4】リチウムイオン二次電池の概略構成例を示す模式図
【図5】実施例1のX線回折スペクトル図
【図6】電池性能評価に用いられるコイン型セルの模式図
【図7】各実施例および各比較例の製造条件および評価結果の一覧を示すテーブル
【図8】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図9】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図10】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図11】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図12】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図13】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【図14】図7に示すテーブルの一部抜粋テーブル
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法、及び、当該製造方法によって得られるチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
【0020】
<本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法>
図1は、本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法の概略を示したフローチャートである。本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法は、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程(ステップS1)と、ステップS1の工程で得られた混錬物を造粒して、造粒物を得る工程(ステップS2)と、ステップS2の工程で得られた造粒物を焼成する工程(ステップS3)とを有している。ここで、焼成前に造粒物を乾燥させる乾燥工程を設けても良い。本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法は、ステップS3の工程で得られた焼成物を粉砕する工程(ステップS4)をさらに有しても良いが、ステップS4の工程は省略することも可能である。本発明に係るチタン酸リチウムの製造方法によって、Li4Ti512を主成分とする微粉状のチタン酸リチウムが得られる。ステップS1の工程では、例えば万能混合機、プラネタリーミキサー、トリミックス、TKコンビミックス、TKハイビスミックス、TKハイビスディスパーミックス、エクスルーダー、ニーダー、3本ロール等の混合機が使用される。また、ステップS2の工程では、例えば押出造粒機、転動造粒機、圧縮造粒機、破砕造粒機、高速撹拌式造粒機等の造粒機が使用される。また、ステップS4の工程では、例えばジェットミル、ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体撹拌ミル、ピンミル、ハンマーミル、ロールミル等の粉砕機が使用される。
【0021】
本発明に係る製造方法において用いられる難水溶性リチウム化合物としては、水に対する溶解度が2未満のリチウム化合物が好適であり、例えば炭酸リチウム(Li2CO3)が挙げられる。一方、本発明に係る製造方法において用いられる水溶性リチウム化合物としては、水に対する溶解度が20以上のリチウム化合物が好適であり、例えば水酸化リチウム(LiOH)や水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O)が挙げられる。
【0022】
図2は、ステップS1の工程、すなわち、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程の一例を示したフローチャートである。図2に示す例では、まず、酸化チタン及び難水溶性リチウム化合物を乾式混合して、乾式混合物を得る工程(ステップS11)を実行する。次に、ステップS11の工程で得られた乾式混合物に水溶性リチウム化合物の水溶液を加えて混錬して、混錬物を得る工程(ステップS12)を実行し、混錬物を得る。ステップS11の工程では、例えばアイリッヒミキサー、レーディゲミキサー、リボンミキサー、V型ミキサー、エアーブレンダー、ナウタミキサー、ヘンシェルミキサー、ロッドミル、万能混合機等の混合機が使用される。ステップS12の工程では、ステップS1と同様の混合機が使用される。
【0023】
図3Aは、ステップS1の工程、すなわち、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程の他の例を示したフローチャートである。図3Aに示す例では、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを一斉に混合・混錬して、混錬物を得る工程(ステップS21)を実行し、混錬物を得る。すなわち、図3Aに示す例では、酸化チタン及び難水溶性リチウム化合物を乾式混合して、乾式混合物を得る工程を実行しない。図3Bは、ステップS1の工程、すなわち、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程の更に他の例を示したフローチャートである。図3Bに示す例では、まず、酸化チタンの一部及び難水溶性リチウム化合物を乾式混合して、乾式混合物を得る工程(ステップS31)と、水溶性リチウム化合物の水溶液に残りの酸化チタンを懸濁させて懸濁液を得る工程(ステップS32)とを別々に実行する。次に、ステップS31の工程で得られた乾式混合物にステップS32の工程で得られた懸濁液を加えて混錬して、混錬物を得る工程(ステップS33)を実行し、混錬物を得る。図3Cは、ステップS1の工程、すなわち、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程の更に他の例を示したフローチャートである。図3Cに示す例では、まず、難水溶性リチウム化合物の一部及び酸化チタンを乾式混合して、乾式混合物を得る工程(ステップS41)と、水溶性リチウム化合物の水溶液に残りの難水溶性リチウム化合物を懸濁させて懸濁液を得る工程(ステップS42)とを別々に実行する。次に、ステップS41の工程で得られた乾式混合物にステップS42の工程で得られた懸濁液を加えて混錬して、混錬物を得る工程(ステップS43)を実行し、混錬物を得る。以上、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程の例を複数示したが、酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程は、上記の例のみに限定されることはない。
【0024】
本発明に係る製造方法では、ステップS1の工程で得られた混錬物において、微細な酸化チタン粒子が、酸化チタン粒子と比較して粒子径の大きな難水溶性リチウム化合物粒子の周りを均一に覆い、更に水溶性リチウム化合物水溶液によって酸化チタン粒子と難水溶性リチウム化合物粒子との密着度が高まり、酸化チタン粒子が難水溶性リチウム化合物と水溶性リチウム化合物とで挟まれた構造が形成される。またこの時溶解された水溶性リチウム化合物が原料成分でありかつ焼成時にフラックス成分としての役割を果たすことによって、酸化チタンとリチウム化合物との反応性が良くなると考えられる。したがって、本発明に係る製造方法は、共通する製造条件を揃えた特許文献1で提案されている従来の製造方法に比べて、副生成物(主成分とは化学式が異なるチタン酸リチウム)や残存物(酸化チタン)を少なくすることができる。これにより、本発明に係る製造方法で得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極は、共通する製造条件を揃えた特許文献1で提案されている従来の製造方法で得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極に比べて電極容量が大きくなる。
【0025】
また、本発明に係る製造方法は、2度の焼成や噴霧乾燥が不要であるため、特許文献2〜4で提案されている製造方法に比べて、工程が簡単である。さらに、本発明に係る製造方法では、小さい粒径の粒子状難水溶性リチウム化合物を用いなくても酸化チタンとリチウム化合物との反応性が良いため、比較的大きい粒径(例えば平均粒径数μm〜数十μm)の粒子状難水溶性リチウム化合物を用いることができる。本発明に係る製造方法は、比較的大きい粒径の粒子状難水溶性リチウム化合物を用いることで、小さい粒径の粒子状難水溶性リチウム化合物を用いる場合に比べて原料費を抑えることができるという利点、及び、ステップS2の工程での造粒が容易になるという利点を有している。
【0026】
<リチウムイオン二次電池への応用>
図4は、リチウムイオン二次電池の概略構成例を示す模式図である。本構成例のリチウムイオン二次電池10は、正極11と、負極12と、非水電解質13と、セパレータ14と、を有する。
【0027】
正極11は、例えば、正極集電体の片面または両面に正極合剤層が設けられた構造を有している。正極合剤層は、例えば、リチウムを吸蔵および脱離することが可能な正極材料を正極活物質として含み、必要に応じてカーボンブラック或いはグラファイトなどの導電剤と、ポリビニリデンフルオライドなどの結着剤と共に構成されている。
【0028】
負極12は、例えば、負極集電体の片面または両面に負極合剤層が設けられた構造を有している。負極合剤層は、本発明に係る製造方法によって得られるチタン酸リチウムを負極活物質として含み、さらに、他の負極活物質、または、導電剤などを含んでいてもよい。
【0029】
非水電解質13は、電解質(リチウム塩)を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質のほか、液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質などを用いることができる。電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4などが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を混合して用いることができる。また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタンなどが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
セパレータ14は、正極11と負極12とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ14は、例えば、ポリテトラフルオロエタン、ポリプロピレン、或いは、ポリエチレンから成る合成樹脂製の多孔質膜、または、セラミック製の不織布などの無機材料から成る多孔質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造としてもよい。
【0031】
なお、本構成例のリチウムイオン二次電池10では、本発明に係る製造方法によって得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極を負極12として利用しているが、後述するコイン型セル20のように本発明に係る製造方法によって得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極を正極として利用することも可能である。
【0032】
以下では、本発明の実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。すなわち、下記で説明する各種の処理に関して、公知の一般的な技術を適用することが可能な部分については、下記の実施例に何ら限定されることなく、その内容を適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
平均粒径0.3μmの酸化チタン100重量部と、平均粒径が6.2μmの炭酸リチウム32.8重量部とをアイリッヒミキサーで10分間混合して乾式混合物を得た。
【0034】
次に、44.3重量部の水に水酸化リチウム・一水和物を5.4重量部溶解させ、水酸化リチウム・一水和物の水溶液を得た。
【0035】
上記の乾式混合物を万能混合機で掻き混ぜながら、上記の水酸化リチウム・一水和物の水溶液を加え10分間捏和混練して混練物を得た。
【0036】
上記の各処理により、本実施例では、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.05/5となり、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.14となり、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたもの(上記の乾式混合物)に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.37となる。
【0037】
上記の混練物をφ2mmの押し出し金型が装着された1軸押出造粒機で押し出しながらカットし、φ2mm×長さ5mm程度の造粒物を得た。そして、その造粒物を800℃で3時間焼成して焼成物を得た。
【0038】
上記の焼成物をジェットミルにて粉砕して微粉状のチタン酸リチウムを得た。図5は、このチタン酸リチウムのX線回折スペクトル図(X線源:Cu−Kα)である。2θ=18.37°付近にはチタン酸リチウムの主成分であるLi4Ti512の(100)面を示すX線回折ピークが現れ、2θ=27.44°付近には残留物であるルチル型酸化チタン(r−TiO2)の(100)面を示すX線回折ピークが現れている。
【0039】
なお、残留物であるアナターゼ型酸化チタン(a−TiO2)の(100)面を示すX線回折ピークは2θ=25.30°付近に現れ、副生成物であるLi2TiO3の(−133)面を示すX線回折ピークは2θ=43.73°付近に現れるが、本実施例では、残留物であるアナターゼ型酸化チタン(a−TiO2)および副生成物であるLi2TiO3が含まれていない或いは微量にしか含まれていないため、これらのピークは現れていない。
【0040】
<実施例2>
酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたもの(上記の乾式混合物)に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.60となるように、水酸化リチウム・一水和物を溶解させる水の量を変えた以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0041】
<実施例3>
酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたもの(上記の乾式混合物)に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.22となるように、水酸化リチウム・一水和物を溶解させる水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0042】
<実施例4>
酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたもの(上記の乾式混合物)に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.80となるように、水酸化リチウム・一水和物を溶解させる水の量を変更し、混練物を熱風循環式乾燥機にて150℃で2時間乾燥させた後に1軸押出造粒機で造粒した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0043】
<実施例5>
酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.02/5で、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0044】
<実施例6>
酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.27/5で、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0045】
<実施例7>
酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.35/5で、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0046】
<実施例8>
酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.00/5で、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0047】
<実施例9>
酸化チタンの平均粒径を1.0μmに変更し、炭酸リチウムの平均粒径を10.5μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0048】
<実施例10>
炭酸リチウムの平均粒径を10.5μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0049】
<実施例11>
炭酸リチウムの平均粒径を2.5μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0050】
<実施例12>
炭酸リチウムの平均粒径を18.5μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0051】
<実施例13>
炭酸リチウムの平均粒径を1.0μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0052】
<実施例14>
炭酸リチウムの平均粒径を25.0μmに変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0053】
<実施例15>
焼成温度を900℃に変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0054】
<実施例16>
焼成温度を700℃に変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0055】
<実施例17>
焼成温度を920℃に変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0056】
<実施例18>
焼成温度を680℃に変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0057】
<実施例19>
炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.20で、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0058】
<実施例20>
炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.08で、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0059】
<実施例21>
炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.45となり、尚かつ、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.60で、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0060】
<実施例22>
炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.05で、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比、および酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせた乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0061】
<実施例23>
酸化チタンと、炭酸リチウムと、水酸化リチウム・一水和物の水溶液とを一斉に混合・混錬した以外は実施例1と同様の処理を行った。本実施例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0062】
<比較例1>
乾式混合物と水酸化リチウム・一水和物の水溶液とを合わせた後混練せずに造粒した以外は実施例1と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0063】
<比較例2>
平均粒径0.3μmの酸化チタン100重量部と、平均粒径が6.2μmの炭酸リチウム37.5重量部とをアイリッヒミキサーで10分間混合して乾式混合物を得た。
【0064】
上記の処理により、本比較例では、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4.05/5となり、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0となり、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたもの(上記の乾式混合物)に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.00となる。
【0065】
上記の乾式混合物を800℃で3時間焼成して焼成物を得た。この焼成物をジェットミルにて粉砕して微粉状のチタン酸リチウムを得た。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0066】
<比較例3>
炭酸リチウムの平均粒径を1.0μmに変更した以外は比較例2と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0067】
<比較例4>
炭酸リチウムの平均粒径を25.0μmに変更した以外は比較例2と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0068】
<比較例5>
焼成温度を920℃に変更した以外は比較例2と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0069】
<比較例6>
焼成温度を680℃に変更した以外は比較例2と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0070】
<比較例7>
炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.08となり、尚かつ、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせ乾式混合物に対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.16で、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が実施例1と同様になるように、原料の配合および水の量を変更した以外は比較例1と同様の処理を行った。本比較例のチタン酸リチウムについてもX線回折を行ったが、X線回折スペクトル図の図示は省略する。
【0071】
<分析装置>
上記の実施例1〜23および比較例1〜7で使用した分析装置は、下記の通りである。
X線回折装置:株式会社リガク製Ultima4(Cu−Kα線測定)
【0072】
<電極の作製>
活物質として実施例1〜23および比較例1〜7で得られた各チタン酸リチウムを用いて各電極を作製した。具体的には、まず、ポリフッ化ビニリデン10重量部をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、次に導電助剤としてアセチレンブラックを10重量部、実施例1〜23および比較例1〜7で得られたチタン酸リチウム80重量部を加え、ディスパーにて30分混錬することにより塗料を作成した。この塗料をアルミ箔上に65g/m2程度になるように塗布し、その後150℃で真空乾燥しプレスした後、φ13mの円形状に打ち抜いた。
【0073】
<セルの組み立て>
上記で作製した各電極を用い、図6に示すコイン型セル20を組み立てた。コイン型セル20は、上ケース25aと下ケース25bとの間に、電極21、対極22、及びセパレータ24を挟み込み、上ケース25aと下ケース25bの周囲をガスケット26で封止し、上ケース25aおよび下ケース25bの内部を電解液23で充填して作製された。
【0074】
対極22には金属リチウム板を用いた。電解液23にはエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート1:1v/v%にLiPF6を1mol/L溶解したものを用いた。セパレータ24にはポリプロピレン多孔膜を用いた。
【0075】
<電池評価方法>
ここで、上記のようなコイン型セルでは、対極22に金属リチウム板を使用しているため、各電極21の電位は対極22に対して貴となる。よって充放電によるリチウムイオンの挿入・脱離の方向は各電極21をリチウムイオン二次電池の負極として用いたときと反対になる。しかし、以下において、便宜的にリチウムイオンが各電極21から脱離する方向を放電、各電極21に挿入される方向を充電と表現する。
【0076】
上記のコイン型セル20を用いて、充放電レート0.2Cで、室温にて金属リチウム基準で1.0〜2.5Vの電位範囲で充放電を行い、初回放電容量を測定した。
【0077】
<各実施例および各比較例の製造条件および評価結果に関する考察>
図7は、各実施例および各比較例の製造条件および評価結果の一覧を示すテーブルである。
【0078】
(特許文献1で提案されている従来の製造方法との比較)
図8は、図7に示すテーブルから実施例1,13,14,17,18および比較例2〜6を抜粋したテーブルである。実施例1と比較例2との比較、実施例13と比較例3との比較、実施例14と比較例4との比較、実施例17と比較例5との比較、及び実施例18と比較例6との比較から明らかなように、本発明に係る製造方法は、共通する製造条件を揃えた特許文献1で提案されている従来の製造方法に比べて、チタン酸リチウム中の副生成物Li2TiO3や残存物(a−TiO2、r−TiO2)が少ないことが実証され、また、本発明に係る製造方法で得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極は、共通する製造条件を揃えた特許文献1で提案されている従来の製造方法で得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極に比べて電極容量が大きくなることも実証された。
【0079】
(混練の必要性および乾式混合の任意性)
図9は、図7に示すテーブルから実施例1,23および比較例1,2を抜粋したテーブルである。
【0080】
比較例1は、本発明に係る製造方法とも特許文献1で提案されている従来の製造方法とも異なる製法であり、乾式混合物と水酸化リチウム・一水和物の水溶液とを合わせた後混練せずに造粒した以外は本発明に係る製造方法に属する実施例1と同様である。
【0081】
比較例1と比較例2とを比較すれば明らかなように、比較例1の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、特許文献1で提案されている従来の製造方法に属する比較例2の製造方法で得られるチタン酸リチウムと大差ない。
【0082】
ところが、実施例1と比較例1とを比較すれば明らかなように、比較例1の製造方法に混練処理を追加して実施例1の製造方法にすることで、チタン酸リチウム中の副生成物Li2TiO3や残存物(a−TiO2、r−TiO2)を飛躍的に低減することができ、また、電極容量を飛躍的に大きくすることができる。これは、混練が実行されないと、酸化チタンが難水溶性リチウム化合物と水溶性リチウム化合物とで挟まれた構造がほとんど形成されないためであると考えられる。したがって、本発明の製造方法において、混練の処理は必須である。
【0083】
また、実施例23と比較例1,2とを比較すれば明らかなように、乾式混合を実施しなくても、チタン酸リチウム中の副生成物Li2TiO3や残存物(a−TiO2、r−TiO2)を飛躍的に低減することができ、また、電極容量を飛躍的に大きくすることができる。これは、乾式混合が実行されなくていなくても混練が実行されていれば、酸化チタンが難水溶性リチウム化合物と水溶性リチウム化合物とで挟まれた構造が多く形成されているためであると考えられる。したがって、本発明の製造方法において、乾式混合の処理は任意である。
【0084】
但し、実施例23と実施例1との比較から明らかなように、乾式混合の処理を実行した方が、チタン酸リチウム中の副生成物Li2TiO3や残存物(a−TiO2、r−TiO2)をより一層低減することができ、また、電極容量をより一層大きくすることができる。これは、混練の前に乾式混合が実行されていれば、酸化チタンが難水溶性リチウム化合物と水溶性リチウム化合物とで挟まれた構造がより一層多く形成されているためであると考えられる。したがって、本発明の製造方法において、混練の前に乾式混合が実行されることが好ましい。
【0085】
(水溶液の量)
図10は、図7に示すテーブルから実施例1〜4および比較例7を抜粋したテーブルである。
【0086】
比較例7では、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたものに対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.16と小さく水の量が少ないため、混練の処理が実行できない。水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.16であっても混練の処理が実行できるようにするには、水酸化リチウム・一水和物の水溶液とは別に水を加える等の処理(例えば酸化チタンと炭酸リチウムとを水を加えて湿式混合する処理等)を行う必要がある。これに対して、実施例3では、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたものに対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.22であり、この条件においては水酸化リチウム・一水和物の水溶液とは別に水を加える等の処理を行うことなく混練の処理が実行できる。したがって、酸化チタン及び難水溶性リチウム化合物を合わせたものに対する水溶性リチウム化合物の水溶液の重量比が0.2以上であることが好ましい。
【0087】
また、実施例2では、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたものに対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.60であり、混練物を乾燥させる処理を行うことなく造粒の処理が実行できる。これに対して、実施例4では、酸化チタン及び炭酸リチウムを合わせたものに対する水酸化リチウム・一水和物の水溶液の重量比が0.80であり、混練物を乾燥させてからでなければ造粒の処理が実行できない。この混練物を乾燥させるのに必要なエネルギーは、酸化チタン及び難水溶性リチウム化合物を合わせたものに対する水溶性リチウム化合物の水溶液の重量比が大きくなればそれに従って大きくなる。混練物を乾燥させるのに必要なエネルギーを勘案して、酸化チタン及び難水溶性リチウム化合物を合わせたものに対する水溶性リチウム化合物の水溶液の重量比は1以下にすることが好ましく、混練物を乾燥させるのに必要なエネルギーが不要となる0.6以下がより好ましい。
【0088】
(異種リチウム化合物間のリチウム元素の原子比)
図11は、図7に示すテーブルから実施例1,19〜22を抜粋したテーブルである。
【0089】
実施例22と実施例1,19〜21とを比較すれば明らかなように、実施例1の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、実施例1,19〜21の製造方法で得られるチタン酸リチウムに比べて初回放電容量が劣っている。これは、実施例22では、炭酸リチウムに含まれるリチウム元素の量に対する水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.05と小さく水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の量が少ないため、酸化チタンが難水溶性リチウム化合物と水溶性リチウム化合物とで挟まれた構造の形成量が少なくなることが原因であると考えられる。これに対して、実施例1,19〜21の製造方法で得られるチタン酸リチウムそれぞれについては性能の差はさほどない。したがって、難水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量に対する水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量の原子比は0.08以上が好ましい。但し、難水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量に対する水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量の原子比が大きくなると、水溶性リチウム化合物にかかるコストが高くなるので、0.45以下であることが好ましく、0.14以下であることがより好ましい。
【0090】
(チタン元素とリチウム元素との原子比)
図12は、図7に示すテーブルから実施例1,5〜8を抜粋したテーブルである。
【0091】
実施例8と実施例1,5,6とを比較すれば明らかなように、実施例8の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、実施例1,5,6の製造方法で得られるチタン酸リチウムに比べて初回放電容量が劣っている。これは、焼成時にリチウム元素が揮散するので、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する難水溶性リチウム化合物及び水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が理論値(Li4Ti512のチタン元素の量に対するリチウム元素の量)である4/5の場合はリチウム元素が不足するためであると考えられる。したがって、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する難水溶性リチウム化合物及び水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の総量の原子比は4/5より大きいことが好ましい。
【0092】
実施例7と実施例1,5,6とを比較すれば明らかなように、実施例7の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、実施例1,5,6の製造方法で得られるチタン酸リチウムに比べて初回放電容量が劣っている。但し、焼成温度を高くすれば、リチウム元素の揮散量が増加するので、実施例7における酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する炭酸リチウム及び水酸化リチウム・一水和物に含まれるリチウム元素の総量の原子比である4.35/5よりも大きくした方が好ましい場合もある。したがって、酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する難水溶性リチウム化合物及び水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の総量の原子比は4.6/5より小さいことが好ましく、4.35/5より小さいことがより好ましい。
【0093】
(酸化チタンおよび難水溶性リチウム化合物の平均粒子径)
図13は、図7に示すテーブルから実施例1,9〜14を抜粋したテーブルである。
【0094】
実施例13,14と実施例1,9〜12とを比較すれば明らかなように、実施例13,14の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、実施例1,9〜12の製造方法で得られるチタン酸リチウムに初回放電容量が比べて劣っている。当該比較から、酸化チタンの平均粒子径に対する難水溶性リチウム化合物の平均粒子径の比に関しては、3より大きく85より小さい範囲であれば、本発明に係る製造方法で得られるチタン酸リチウムの中でも特に優れたチタン酸リチウムが得られると考えられる。したがって、酸化チタンの平均粒子径に対する難水溶性リチウム化合物の平均粒子径の比は3より大きく85より小さいことが好ましく、3.3より大きく83.3より小さいことがより好ましく、4以上83以下がより一層好ましく、8以上62以下が更により一層好ましく、8.3以上61.7以下が最も好ましい。
【0095】
(焼成温度)
図14は、図7に示すテーブルから実施例1,15〜18を抜粋したテーブルである。
【0096】
実施例17,18と実施例1,15,16とを比較すれば明らかなように、実施例17,18の製造方法で得られるチタン酸リチウムは、実施例1,15,16の製造方法で得られるチタン酸リチウムに比べて初回放電容量が劣っている。したがって、焼成温度は680℃より高くより920℃より低いことが好ましく、700℃以上900℃以下がより好ましい。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって示されるものであって、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る製造方法によって得られるチタン酸リチウムは、例えば、リチウムイオン二次電池の負極又は正極の電極活物質として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 リチウムイオン二次電池
11 正極
12 負極
13 非水電解質
14、24 セパレータ
20 コイン型セル
21 電極
22 対極
23 電解液
25a、25b 上ケース、下ケース
26 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと、難水溶性リチウム化合物と、水溶性リチウム化合物の水溶液とを混錬して、混錬物を得る工程と、
前記混錬物を造粒して、造粒物を得る工程と、
前記造粒物を焼成する工程とを有することを特徴とするLi4Ti512を主成分とするチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記混錬物を得る工程が、
前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物を乾式混合して、乾式混合物を得る工程と、
前記乾式混合物に前記水溶性リチウム化合物の水溶液を加えて混錬して、前記混錬物を得る工程とを有することを特徴とする請求項1に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物を合わせたものに対する前記水溶性リチウム化合物の水溶液の重量比が0.2以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記難水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量に対する前記水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の量の原子比が0.08以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタンに含まれるチタン元素の量に対する前記難水溶性リチウム化合物及び前記水溶性リチウム化合物に含まれるリチウム元素の総量の原子比が4/5より大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタン及び前記難水溶性リチウム化合物がそれぞれ粒子状であり、
前記酸化チタンの平均粒子径に対する前記難水溶性リチウム化合物の平均粒子径の比が3より大きく85より小さく、
前記造粒物を680℃より高く920℃より低い焼成温度で焼成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記難水溶性リチウム化合物が炭酸リチウムである請求項1〜6のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は水酸化リチウム・一水和物である請求項1〜7のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法によって得られるチタン酸リチウムを電極活物質として用いた電極。
【請求項10】
請求項9に記載の電極を負極又は正極に用いて成ることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−206906(P2012−206906A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74599(P2011−74599)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】