説明

チップアンテナ及びそれを用いたアンテナ装置並びに無線通信装置

【課題】 回路に影響する電界が小さい携帯電話等の無線通信装置用のチップアンテナ、特にマルチバンドに対応したチップアンテナを提供する。
【解決手段】 直方体状の基体2上に放射電極3が形成されたチップアンテナであって、放射電極3は基体2の長手方向対向側面2a,2b上を延在する第一及び第二の帯状電極部31,32と、両帯状電極部31,32を連結する折り返し部33とを有し、第一の帯状電極部31に給電線4と接続する給電電極34が連結しているチップアンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯電話等の無線通信装置用のチップアンテナに関し、特に小型化した無線通信装置において、回路に影響する電界が小さいマルチバンド用チップアンテナ、及びそれを用いたアンテナ装置並びに無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信装置、例えば携帯電話の普及には、目を見張るものがあり、携帯電話の機能及びサービスの向上が益々図られている。携帯電話を例にとると、そのシステムとして、例えば主に欧州で盛んなGSM(Global System for Mobile Communications)方式、DCS1800(Digital Cellular System 1800)方式、米国で盛んなPCS(Personal Communications Services)方式、日本で採用されているPDC(Personal Digital Cellular)方式等の様々なシステムがある。しかしながら咋今の携帯電話の急激な普及にともない、特に先進国の主要な大都市部においては各システムに割り当てられた周波数帯ではシステム利用者を賄い切れず、接続が困難であったり、通話途中で接続が切断したりする等の問題が生じている。そこで利用者が複数のシステムを利用できるようにして、実質的に利用可能な周波数の増加を計り、さらにサービス区域の拡充や各システムの通信インフラの有効活用することが行われている。またGPS機能搭載の携帯電話の場合、携帯電話回線に用いられるセルラ(Cellular)の送受信帯域と、GPS帯域の両方に対応する必要がある。このように複数のシステムに対応した携帯電話はマルチバンド携帯電話と呼ばれ、単一のシステムにのみ対応するシングルバンド携帯電話と区別される。
【0003】
従来、マルチバンド携帯電話において一つの放射電極で複数の共振周波数を有するアンテナを設計することは困難であり、異なる共振周波数に対応する複数の放射電極を用いていた。しかしながら、アンテナの体積の増大や両放射電極の相互干渉などの問題があった。
【0004】
そこで一つのチップアンテナで二つの周波数に対応するデュアルアンテナが提案されている。例えば、特開2004-247791号(特許文献1)は、誘電体上に形成された放射導体の一次共振と高次共振とにより二種類の異なる送受信周波数帯で信号を送受信可能な内蔵型の逆Fアンテナを開示している。この逆Fアンテナは、図23に示すように、誘電体60の上面に形成された放射導体61と、そのほぼ同じ位置で誘電体60の裏面に形成された放射導体61と僅かに異なる形状の放射導体62とを有し、放射導体61、62の一方の端部には、信号供給用の共通の給電点63a、63bと、接地導体65と電気的に接続した接地点64a、64bとが近接した位置にそれぞれ設けられている。逆Fアンテナは接地導体65の上面に設置した絶縁性スペーサ66(例えば約6mmの厚さを有する)上に載置されている。
【0005】
しかしながら、この逆Fアンテナでは各放射導体61、62は誘電体60の面に平行に配置されているので、アンテナ及び回路基板に流れる電流が相互に影響しあう。そのためアンテナと回路基板とができるだけ離隔しているのが望ましいが、最近の携帯電話の小型化及び薄型化にともない、アンテナ電流から回路基板に誘導されるイメージ電流による利得(感度)の低下が無視できなくなってきた。
【0006】
特に折り畳み式の携帯電話やスライド式携帯電話の場合、この問題は深刻である。図19(a)〜(d)はチップアンテナ1が内蔵された折り畳み式携帯電話40を示し、図20(a)〜(d)はその折り畳んだ状態を示す。また図21(a)〜(d)はチップアンテナ1が内蔵されたスライド式携帯電話50を示し、図22(a)〜(d)はその閉じた状態を示す。図19(b)〜(d) 及び図21(b)〜(d) に示すように、折り畳み式携帯電話40及びスライド式携帯電話50のいずれにおいても、チップアンテナ1は種々の位置に配置することができるが、どの位置に配置されていても、図20(b)〜(d) 及び図22(b)〜(d) に示すように、折り畳んだ状態ではチップアンテナ1が液晶パネル41、51等の素子と近接する。このため、チップアンテナ1と液晶パネル等の素子との間に誘導される電界により、素子の回路にイメージ電流が流れ、チップアンテナ1の感度の低下が著しい。
【0007】
また最近では、健康面から携帯電話等から放射された電磁波が人体(頭部)に与える影響の軽減化が重要になってきており、電磁波の比吸収率SAR(Specific Absorption Rate)が低いアンテナ装置が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2004-247791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の第一の目的は、回路に影響する電界が小さい携帯電話等の無線通信装置用のチップアンテナ、特にマルチバンドに対応したチップアンテナを提供することである。
【0010】
本発明の第二の目的は、上記チップアンテナを具備するアンテナ装置及び無線通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) 直方体状の基体の対向する長手方向側面にそれぞれ帯状電極部を設け、両者を折り返し部で連結し、一方の帯状電極部に給電線と接続する給電電極を連結すると、回路からの電界の影響が小さいデュアルバンド用チップアンテナが得られること、(b) 帯状電極が多層化した積層体とすると、マルチバンド用アンテナが得られること、(c) このチップアンテナを実装基板上に設置することにより、小型でありながら回路からの電界の影響が小さいマルチバンド対応のアンテナ装置及び無線通信装置が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の手段により達成することができる。
(1) 直方体状の基体上に放射電極が形成されたチップアンテナであって、前記放射電極は前記基体の長手方向対向側面上を延在する第一及び第二の帯状電極部と、両帯状電極部を連結する折り返し部とを有し、前記第一の帯状電極部に給電線と接続する給電電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(2) 請求項1に記載のチップアンテナにおいて、前記第二の帯状電極部の端部に前記基体の底面まで延びる帯状延長部が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(3) 上記(1)又は(2) に記載のチップアンテナにおいて、前記折り返し部は前記基体の端面、上面又は底面に延在していることを特徴とするチップアンテナ。
(4) 上記(1)〜(3) のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記第一及び第二の帯状電極部は前記基体の上面又は底面に延在する短絡部を有することを特徴とするチップアンテナ。
(5) 上記(1)〜(4) のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記基体に貫通孔、溝部、切欠き又は凹部が設けられていることを特徴とするチップアンテナ。
(6) ミアンダ状の放射電極を有する多層型チップアンテナであって、帯状電極部が形成された複数のシート状基体が積層されてなり、各シート状基体上の前記帯状電極部は各シート状基体に設けられたビアホールを介してミアンダ状に連結しており、最外の帯状電極部に給電線と接続する給電電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(7) 上記(1)〜(6) のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記給電電極の近傍の位置で前記放射電極に接地電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(8) 上記(7) に記載のチップアンテナにおいて、前記接地電極は前記放射電極の末端に連結しており、前記給電電極は前記接地電極の近傍で前記放射電極に連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(9) 上記(7)に記載のチップアンテナにおいて、前記給電電極は前記放射電極の末端に連結しており、前記接地電極は前記給電電極の近傍で前記放射電極に連結していることを特徴とするチップアンテナ。
(10) 上記(1)〜(9) のいずれかに記載のチップアンテナが実装基板上に設置されてなるアンテナ装置であって、前記実装基板は前記チップアンテナから離隔した位置に接地導体を有することを特徴とするアンテナ装置。
(11) 上記(1)〜(9) のいずれかに記載のチップアンテナが実装基板上に設けられた副基板上に設置されてなるアンテナ装置であって、前記実装基板は前記副基板から離隔した位置に接地導体を有することを特徴とするアンテナ装置。
(12) 上記(10)〜(11) のいずれかに記載のアンテナ装置を有する無線通信装置。
(13) 上記(12) に記載の無線通信装置において、前記無線通信装置が折り畳み式又はスライド式の携帯電話であり、閉じたときに前記アンテナ装置の実装基板が他の回路基板と対向することを特徴とする無線通信装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチップアンテナでは、基体の側面上に放射電極が形成されているので、放射電極と回路基板との間の電界が小さく(回路基板に流れるイメージ電流が小さく)、イメージ電流による感度の低下が抑制されている。その上、基体の両側面上に放射電極が形成されているので、マルチバンドに対応し得る。また、広帯域且つ人体に対する電磁波の比吸収率SAR(Specific Absorption Rate)が低いアンテナ装置並びに無線通信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を図面を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
[1] 第一の実施態様
図1〜3は本発明の一実施例によるチップアンテナ1及びそれを有するアンテナ装置を示す。チップアンテナ1は、細長い直方体状の基体2と、基体2上に形成された放射電極3とからなる。放射電極3は、基体2の長手方向対向側面(細長い側面)2a,2b上に延在する第一及び第二の帯状電極部31,32と、両帯状電極部31,32を連結して基体2の底面に延在する折り返し部33と、第一の帯状電極部31の端部に連結して基体2の底面まで延在する給電電極34とを有する。給電電極34は半田等で固定する為の底面電極部を有しており、給電線4を介して信号源5と接続している。この例では、チップアンテナ1の折り返し部33が基体2の底面に形成されている。そのため、基体2における放射電極3の印刷面は三面のみであり、チップアンテナ1の生産性が高い。なお放射電極3は連続的に成形されており構成上の差異はない。
【0016】
携帯電話の小型化に対応してチップアンテナ1の実装空間は極力小さいことが望ましいが、従来同様の性能を維持する必要があるため、チップアンテナ1は細長い形状が好ましい。基体2の長さをPとし、幅をWとするとP/Wは20以下であるのが好ましい。より好ましくは3〜15である。また第一の帯状電極部31の長さをLg1とし、幅をP1とし、第二の帯状電極部32の長さをLg2とし、幅をP2とすると、Lg1/P1及びLg2/P2はそれぞれ1〜100であるのが好ましい。より好ましくは3〜50である。
【0017】
基体2の材質は、比誘電率が2〜30のセラミックスが好ましいが、比誘電率が上記範囲内である限りプラスチック、ガラス又はこれらとセラミックスとの混合材料でも良い。誘電体からなる基体2を用いると、波長短縮効果によりチップアンテナ1を小型化できる。誘電体としてはアルミナ系が好ましいが、それに限定されない。アルミナ系誘電体の一例は、主成分として10〜60質量%(Al2O3換算)のAl、25〜60質量%(SiO2換算)のSi、7.5〜50質量%(SrO換算)のSr、及び20質量%以下(TiO2換算)のTiを含有し、さらに副成分として0.1〜10質量%(Bi2O3換算)のBi、0.1〜5質量%(Na2O換算)のNa、0.1〜5質量%(K2O換算)のK、0.1〜5質量%(CoO換算)のCoの少なくとも1種を含有する。また基体2が磁性体からなる場合、インダクタンスが大きいため、さらにチップアンテナ1を小型化できる。基体2の材質が誘電体と磁性体の混合物からなる場合、波長短縮効果によるアンテナの小型化と、アンテナのQ値の低下による広帯域化が可能である。また磁性体とプラスチック等の樹脂材料との混合材料や、磁性体とガラスとの混合材料でも良い。
【0018】
放射電極3はAg又はCuを主成分とする金属からなるのが好ましい。放射電極3は、金属ペーストを基体2の表面にスクリーン印刷した後乾燥し、焼きつけることにより形成される。放射電極3はその他にエッチング法、スパッタ法等の薄膜法でも形成できる。また放射電極3を金属薄板や導電性フィルムで形成し、これらを基体2に固着しても良い。
【0019】
図2及び3に示すように、アンテナ装置10は、接地導体部9とそれに接しないように延在する給電線4とを有する実装基板8と、実装基板8の接地導体部9以外の領域8aの上に搭載されたチップアンテナ1とを有する。図3(b) に示すように、実装基板8の裏面にも接地導体部9と同じ位置に接地導体部9aがある。実装基板8上の接地導体部9,9a及び給電線4はスクリーン印刷により形成される。チップアンテナ1の給電電極34は給電線4と半田等により接続している。
【0020】
チップアンテナ1の第一の帯状電極部31が接地導体部9と距離Dだけ離れているので、第一の帯状電極部31と接地導体部9との間に静電容量Cgが生成する。第二の帯状電極部32の開放端32aと給電電極34との間の静電容量をCとし、第一の帯状電極部31のインダクタンスをL1とし、第二の帯状電極部32のインダクタンスをL2とし、第一の帯状電極部31及び第二の帯状電極部32の放射抵抗をそれぞれR1,R2とすると、アンテナ装置10の等価回路は図4に示すように表される。
【0021】
アンテナ装置10は、第一及び第二の帯状電極部31,32の長さLg1,Lg2、及び静電容量C,Cgを調節することにより、第一及び第二の帯状電極部31,32と静電容量Cとで構成される直列共振回路Aと、第一の帯状電極部31と静電容量Cgとで構成される直列共振回路Bとを有するデュアルバンド対応のアンテナ装置となる。直列共振回路Aの電極部分にあたる放射電極3は直列共振回路Bの電極部分にあたる第一の帯状電極部31より長いため、直列共振回路Aにおける共振周波数は直列共振回路Bにおける共振周波数よりも低くなる。
【0022】
信号源5からの信号波長をλ [m]とし、放射電極3の全長をLt [m]とすると、直列共振回路Aにおいて、下記式(1):
(数1)
Lt=(λ/4)/√(εr×μr)・・・(1)
が成り立つ。εrは基体2の比誘電率であり、μrは基体2の比透磁率である。式(1)から分かるように、εr又はμrを大きくすると、波長短縮効果により放射電極3の全長を短くすることができ、チップアンテナ10を小型化できる。
【0023】
本実施例では、例えば低周波側(直列共振回路A)の共振周波数をGSM方式に対応した900 MHzとし、高周波側(直列共振回路B)の共振周波数をDCS方式に対応した1800 MHzとすることができる。この場合、チップアンテナ1の外形寸法を、例えば30 mm×3mm×3mmとすることができる。
【0024】
直列共振回路A及びBの共振周波数は、放射電極3の長さや基体2の誘電率等を変更することにより、調整することができる。例えば第二の帯状電極部32の長さLg2を変化させたときの低周波側及び高周波側の共振周波数の変化を図5に示す。Lg2を変化させると低周波側の共振周波数は大きく変化するが、高周波側の共振周波数はほとんど変化していない。このことから高周波側の共振周波数が第二の帯状電極部32の長さによらないことが分かる。
【0025】
アンテナ装置10は、低周波側及び高周波側の二つの共振周波数に対してインピーダンス整合がとれている必要がある。インピーダンス整合の度合いは、チップアンテナ1と給電線4との間での反射の大きさを表すVSWR(電圧定在波比)で表すことができる。VSWR=1のとき、インピーダンス整合が最適であり、信号源5からの電力は全く反射せずチップアンテナ1に供給される。
【0026】
図6は、距離Dを変化させたときの本例のアンテナ装置10について測定した低周波側及び高周波側のVSWRを示す。低周波側及び高周波側のいずれのVSWRも距離Dが大きいほど小さくなり、特に距離Dが5mm以上のときにVSWR=3以下の良好な特性を示すことが分かる。
【0027】
図7は、実装基板8上に搭載したチップアンテナ1が、実装基板8に対向する回路基板11(例えば、携帯電話を閉じたときの液晶パネル等の回路基板)に与える影響を示す。図7(a) に示すように、放射電極3に放射電流12が流れると、放射電極3と回路基板11の回路11bとの間の静電容量に比例した電界13が誘導され、回路11bに放射電流12と反対向きにイメージ電流12aが流れる。ところが、本発明のチップアンテナ1では、図7(b) に示すように、放射電極3は回路基板11に対して垂直であるため、放射電極3と回路11bとが対向する面積が小さい。そのため放射電極3と回路11bとの間の静電容量が小さく、誘導される電界13も小さい。従って、回路11bに流れるイメージ電流12aは小さく、チップアンテナ1の低感度化を抑制でき、かつ帯域幅を広げることができる。
【0028】
なお折り返し部33と回路基板11の回路11bとは平行であるため、両者間に電界が発生するが、折り返し部33は第一及び第二の帯状電極部31,32と比べて面積が著しく小さいため、その影響は無視できる。
【0029】
[2] 別の実施態様
(1) 単層型チップアンテナ
図8〜図14は、本発明のチップアンテナ1の別の例を示す。図8に示すチップアンテナ1では、給電電極34は長手方向側面2bまで延在して、第二の帯状電極部32の開放端32aと近接している。このように給電電極34と第二の帯状電極部32の開放端32aとを近接させると、両者間の静電容量C(図3(a)参照)が増大し、低周波側の直列共振回路Aの共振周波数は低くなる。それにより帯域幅が減少し、利得や感度が増加する。逆に給電電極34と第二の帯状電極部32の開放端32aとが遠ざかると、両者間の静電容量Cは減少し、低周波側の直列共振回路Aの共振周波数は高くなる。それにより帯域幅が増加し、利得や感度が減少する。このように、給電電極34の長さを変更することにより、低周波側の直列共振回路Aの共振周波数を調節することができる。
【0030】
図9に示すチップアンテナ1では、第二の帯状電極部32の端部32aに連結した帯状延長部35が給電電極34の近傍まで延在している。この場合も、図8の例と同様に、給電電極34と帯状延長部35との距離を変えることにより静電容量Cを変えることができ、低周波側の直列共振回路Aの共振周波数を調節することができる。
【0031】
図10に示すチップアンテナ1では、折り返し部33は基体2の端面2c上に形成されている。折り返し部33を端面2c上に設けることにより、折り返し部33が回路基板11に対して垂直になるため、回路基板11への電界の影響が小さくなる。また図11に示すように折り返し部33を基体2の上面に形成すると、折り返し部33と回路基板11との距離が大きくなるため、回路基板11への電界の影響が小さくなる。また図10及び11に示す実施例では、回路基板11の比誘電率や厚さのばらつきによる共振周波数の変動が小さいという効果もある。
【0032】
図12(a) に示すチップアンテナ1では、第一及び第二の帯状電極部31,32の折り返し部33の近傍に短絡部36が設けられている。この例では、短絡部36は基体2の底面に形成されているが、図13に示すように基体2の上面に形成しても良い。図12(b) に示すように、短絡部36により短縮化された放射電極(Lg1及びLg2より小さいLg1’及びLg2’を有する短絡帯状電極部31’+短絡帯状電極部32’)には、その長さで共振する放射電流12が流れることになる。L1’及びL2’は低周波側の共振周波数に関係するので、低周波側の直列共振回路Aの共振周波数は高くなる。折り返し部33と短絡部36との距離sが大きくなると、Lg1’及びLg2’が小さくなるので、低周波側の共振周波数は高くなる。一方高周波側の直列共振回路Bでは、共振周波数は第一の帯状電極部31に流れる放射電流12のみによるため、短絡部36による影響を受けない。従って、折り返し部33と短絡部36との距離sを変更することにより、高周波側の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、低周波側の共振周波数を調節することができる。
【0033】
図14に示すチップアンテナ1では、第一の帯状電極部31の給電電極34の近傍において基体2の底面に接地電極37が設けられている。図14(a) に示す例では接地電極37は給電電極34の外側にあるが、図14(b) に示す例では接地電極37は給電電極34の内側にある。図14(a)及び(b)のチップアンテナ1はいずれも、接地電極37以外は図1に示すものと同じであるので、接地電極37以外の説明を省略する。図14(a)の場合、第一の帯状電極部31は接地電極37から折り返し部33までの距離となり、給電電極34と接地電極37との距離dの増減に応じてインピーダンスが変化する。一方、図14(b)の場合、第一の帯状電極部31は給電電極34と接地電極37との距離d’の分だけ短くなるので、低周波側及び高周波側の直列共振回路A及びBの共振周波数はいずれも高くなる。また、チップアンテナ1のインピーダンスについては、距離d’の増減に応じてインピーダンスが変化する。このように図14(a)及び(b)のいずれの場合も、距離d,d’を変更することにより、チップアンテナ1のインピーダンスを調節することができる。なお接地電極37を設けることにより、チップアンテナ1の周辺に金属や人体(頭部、手)等が近接しても、チップアンテナ1と人体等との間の静電容量の影響が小さくなるので共振周波数の変動を生じにくくなるといった効果もある。
【0034】
図15は本発明のチップアンテナを構成する基体2の別の例を示す。図15(a) に示す基体2には、上面から底面に貫通する孔20aが設けられている。貫通孔20aにより基体2の実効的な誘電率が下がり、チップアンテナ1の共振周波数は高くなる。その効果は周波数が高いほど顕著である。またチップアンテナの感度が向上し、かつ帯域幅が広くなる。その他に、図15(b) に示すように基体2の長手方向に貫通する孔20bを形成したり、図15(c) に示すように基体2の底面に長手方向に延在する溝部21を形成したりしても良い。なお誘電率を調整するには、基体2の一部が削除されていれば良いので、貫通孔や溝部に限られず、切欠きや凹部でも良い。
【0035】
(2) 多層型チップアンテナ
図16は、本発明の好ましい一実施例による多層型チップアンテナを概略的に示す。多層型チップアンテナ25は、長細い直方体形の基体22と、基体22の内部に形成されたミアンダ状の放射電極3と、放射電極3の一端に給電線4を介して信号源5と接続する給電電極34とを有する。ミアンダ状の放射電極3は基体22の上下面に対して垂直であるので、上記の通り回路基板11への影響が実質的にない。またミアンダ状の放射電極3により、放射電極3の複数の箇所で静電容量が生じ、これらの静電容量に応じた複数の電流経路において共振動作が起こるので、3周波数以上のマルチバンドに対応するチップアンテナが得られる。
【0036】
図17は多層型チップアンテナ25を構成する各層を示す。各層は、シート状基体G1〜G5と、それに形成されたビアホールB1〜B5及び帯状電極部3a1〜3a5とを有する。第一の帯状電極部3a1には給電電極34を形成する。各シート状基体G1〜G5は低温焼成が可能なセラミック又は樹脂等の誘電体材料からなるグリーンシート26により形成する。また各帯状電極部3a1〜3a5、ビアホールB1〜B5の電極及び給電電極34は、Ag又はCuを主体とする導電ペーストの印刷により形成する。各シート状基体G1〜G5を図示のように配置し積層した後、焼成することにより、図16に示す構造を有する多層型チップアンテナが得られる。
【0037】
図16及び図17に示す例では、5つの帯状電極部3a1〜3a5をミアンダ状に結合しているが、本発明の多層型チップアンテナはこの構造に限られず、帯状電極部の数が3つ以上であれば良い。なお図14の例と同様に、放射電極3の給電電極34の近傍に接地電極を設けても良い。
【0038】
(3) アンテナ装置の別の例
図18は、副基板18にチップアンテナ1を搭載し、その副基板18を実装基板8に搭載した構造のアンテナ装置10を示す。給電電極34は、副基板18上の給電線4aを経て実装基板8から立設された給電ピン14に接続し、給電ピン14は給電線4を経て信号源5に接続し、副基板18は台座27に支えられて実装基板8から離隔している。このように、チップアンテナ1が接地導体部9及び回路基板11から離隔されるため、アンテナ装置10の利得が向上するとともに、VSWR(電圧定在波比)が減少する。ただし副基板18は必ずしも台座27により支えられている必要はなく、アンテナ装置10を組み込んだ無線通信装置内で適宜固定されていれば良い。
【0039】
[3] 無線通信装置
本発明のチップアンテナ(アンテナ装置)を組み込むことができる無線通信装置は限定的ではないが、例えば図19〜22に示す折り畳み式携帯電話40及びスライド式携帯電話50に使用するのが好適である。閉じた状態ではいずれも図20(b)〜(d) 及び図22(b)〜(d) に示すように、チップアンテナ1は液晶パネル41、51等の素子と近接するが、本発明のチップアンテナ1では、放射電極3が液晶パネル41等の素子に対して垂直になるため、両者間に誘導される電界は小さい。これは図16に示す多層型チップアンテナ25の場合も同様である。なお誘導される電界が小さいため、本発明のチップアンテナ1又は多層型チップアンテナ25を組み込んだ無線通信装置は、電磁波の比吸収率SAR値が低いという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例によるアンテナ装置を示す斜視図である。
【図3】図2のアンテナ装置を示し、(a) は上面図であり、(b) は底面図である。
【図4】図2のアンテナ装置の等価回路を示す図である。
【図5】図2のアンテナ装置における第二の帯状電極部の長さLg2と低周波側及び高周波側の共振周波数との関係を示すグラフである。
【図6】図2のアンテナ装置における距離DとVSWRとの関係を示すグラフである。
【図7】チップアンテナによる回路基板への影響を示し、(a) は部分断面側面図であり、(b) は(a) のA-A断面図である。
【図8】本発明の別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図9】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図10】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図11】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図12】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示し、(a) は斜視図であり、(b) は上面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図14】本発明のさらに別の実施例によるチップアンテナを示す斜視図である。
【図15】本発明のチップアンテナを構成する基板を示し、(a) は上面から底面に貫通する孔を有する基板を示す斜視図であり、(b) は長手方向貫通孔を有する基板を示す斜視図であり、(c) は長手方向溝部を有する基板を示す斜視図である。
【図16】本発明の一実施例による多層型チップアンテナを示し、(a) は斜視図であり、(b) は上面図である。
【図17】図16の多層型チップアンテナの内部構造を示す分解図である。
【図18】本発明の別の実施例によるアンテナ装置を示す斜視図である。
【図19】開いた状態の折り畳み式携帯電話を示し、(a) は斜視図であり、(b)〜(d) は断面図である。
【図20】図19の折り畳み式携帯電話の閉じた状態を示し、(a) は斜視図であり、(b)〜(d) は断面図である。
【図21】開いた状態のスライド式携帯電話を示し、(a) は斜視図であり、(b)〜(d) は断面図である。
【図22】図21のスライド式携帯電話の閉じた状態を示し、(a) は斜視図であり、(b)〜(d) は断面図である。
【図23】従来のアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1・・・チップアンテナ
2,22・・・基体
2a,2b・・・長手方向対向側面
2c・・・端面
3・・・放射電極
31・・・第一の帯状電極部
31’・・・短絡帯状電極部
32・・・第二の帯状電極部
32’・・・短絡帯状電極部
33・・・折り返し部
34・・・給電電極
35・・・帯状電極部
36・・・短絡部
37・・・接地電極
3a1,3a2,3a3,3a4,3a5・・・帯状電極部
4,4a・・・給電線
5・・・信号源
8,8a・・・実装基板
9,9a・・・接地導体部
10,10a,10b,10c,10d,10e,10f・・・アンテナ装置
11・・・回路基板
12・・・放射電極
12a・・・イメージ電流
13・・・電界
14・・・給電ピン
18・・・副基板
20・・・貫通孔
21・・・溝部
25・・・多層型チップアンテナ
26・・・グリーンシート
G1,G2,G3,G4,G5・・・シート状基体
B2,B3,B4,B5・・・ビアホール
27・・・台座
40・・・折り畳み式携帯電話
50・・・スライド式携帯電話
41,51・・・液晶パネル
42,52・・・ダイヤルキー
43,53・・・スピーカ
60・・・誘電体
61,62・・・放射導体
63a,63b・・・給電点
64a,64b・・・接地点
65・・・接地導体
66・・・絶縁性スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体状の基体上に放射電極が形成されたチップアンテナであって、前記放射電極は前記基体の長手方向対向側面上を延在する第一及び第二の帯状電極部と、両帯状電極部を連結する折り返し部とを有し、前記第一の帯状電極部に給電線と接続する給電電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のチップアンテナにおいて、前記第二の帯状電極部の端部に前記基体の底面まで延びる帯状延長部が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のチップアンテナにおいて、前記折り返し部は前記基体の端面、上面又は底面に延在していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記第一及び第二の帯状電極部は前記基体の上面又は底面に延在する短絡部を有することを特徴とするチップアンテナ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記基体に貫通孔、溝部、切欠き又は凹部が設けられていることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項6】
ミアンダ状の放射電極を有する多層型チップアンテナであって、帯状電極部が形成された複数のシート状基体が積層されてなり、各シート状基体上の前記帯状電極部は各シート状基体に設けられたビアホールを介してミアンダ状に連結しており、最外の帯状電極部に給電線と接続する給電電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のチップアンテナにおいて、前記給電電極の近傍の位置で前記放射電極に接地電極が連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項8】
請求項7に記載のチップアンテナにおいて、前記接地電極は前記放射電極の末端に連結しており、前記給電電極は前記接地電極の近傍で前記放射電極に連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項9】
請求項7に記載のチップアンテナにおいて、前記給電電極は前記放射電極の末端に連結しており、前記接地電極は前記給電電極の近傍で前記放射電極に連結していることを特徴とするチップアンテナ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のチップアンテナが実装基板上に設置されてなるアンテナ装置であって、前記実装基板は前記チップアンテナから離隔した位置に接地導体を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のチップアンテナが実装基板上に設けられた副基板上に設置されてなるアンテナ装置であって、前記実装基板は前記副基板から離隔した位置に接地導体を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項12】
請求項10〜11のいずれかに記載のアンテナ装置を有する無線通信装置。
【請求項13】
請求項12に記載の無線通信装置において、前記無線通信装置が折り畳み式又はスライド式の携帯電話であり、閉じたときに前記アンテナ装置の実装基板が他の回路基板と対向することを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−180338(P2006−180338A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373186(P2004−373186)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】