説明

チップラック及びその成形用金型

【課題】目標とするピッチ精度が得られるチップラック及びその成形用金型を提供する。
【解決手段】多数本のピペットチップを挿入・抜取り可能に保持するチップラック1であって、前記ピペットチップが挿入される保持孔Dが所定ピッチpで並列配置された複数のラック単体10を、前記保持孔Dの並列方向と直交する方向に重ね合せてユニット化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばDNA鑑定,遺伝子解析,あるいは臨床検査等を行なう際に使用される多数のピペットチップを収容保持するチップラック及び該チップラックを射出成形するための成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、1つの液体試料を多数に分注して検査,分析を行なう場合、この分注に必要な本数のピペットチップが収容されたチップラックから、ピペット装置により各ピペットチップを同時に取りあげて液体試料を採取するようにしている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このようなチップラックは、前記ピペットチップが挿入される収容孔を多数形成した構造を有し、金型によりチップラック全体を一括して射出成形するのが一般的である。
【0004】
ところで、近年では、検査,分析の高効率化を図る観点から、液体試料をより数多く分注することが要請されている。これに伴ってチップラックにおいても、大型化することなく収容本数を増やす必要がある。そのためには、ピペットチップが挿入される収容孔のピッチ精度を高める必要があり、また量産する場合のピッチ精度に対する信頼性を高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−157847号公報
【特許文献2】特開平11−2590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記チップラックを、金型を用いた樹脂の射出成形で形成する場合には、成形材料の熱収縮量のばらつき等によって、目標とするピッチ精度が得られない場合があり、このばらつきを見込んだ金型が必要となる。しかし成形材料の熱収縮量のばらつきを見込んだ金型を製作するのは困難であり、しかも金型を一度製作した後ではピッチの調整はより一層困難であることから、この点での対策が必要である。なお、チップラックを機械加工により製作することも考えられるが、このようにするとコストが大幅に上昇するという問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、目標とするピッチ精度を得ることができるチップラック及びその成形用金型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、多数本のピペットチップ2を挿入・抜取り可能に保持するチップラックであって、前記ピペットチップ2が挿入される保持孔Dが所定ピッチpで並列配置された複数のラック単体10を、前記保持孔Dの並列方向と直交する方向に重ね合せてユニット化したことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のチップラック1において、前記ラック単体10は、前記重ね合せ方向に所定の厚さtを、前記挿入方向に所定の高さhを有し、前記配列方向に延びる帯板状のラックプレート10aからなり、前記保持孔Dは、前記挿入方向に貫通するとともに、前記重ね方向に開口する溝状の保持凹部10bと、前記開口10b′を閉塞する前記重ね合わされたラック単体10の裏面dとにより構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載のチップラックにおいて、前記重ね合わされた複数のラック単体10の周囲を囲むように配置された枠部材11によりユニット化されていることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかに記載されたチップラック1のラック単体10を射出成形するための成形用金型13であって、固定型14と、該固定型14に対して型締位置と型開位置との間で開閉可能に配置された可動型15と、該可動型15と前記固定型14との間に並列配置され、前記ラック単体10の各保持孔Dに対応するよう形成された保持孔型面16bを有し、該保持孔型面16bと前記可動型15の型面15cとで前記ラック単体10の保持孔D部分に対応するキャビティCを形成する複数のコアプレート16とを備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載の成型用金型において、前記各コアプレート16は、隣り合うコアプレート16との対向面に機械加工を施すことにより前記ピッチpを調整可能とする調整面16cを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るチップラック1によれば、複数のラック単体10を、保持孔Dの並列方向と直交する方向に重ね合せてユニット化したので、チップラック全体を金型により一体的に射出成形する場合に比べて、成形材料の熱収縮量のばらつきが小さくなり、それだけピッチ精度を高めることができる。
【0014】
またラック単体10の精度を高めることによりチップラック全体の精度を高めることができ、量産を行なう場合のピッチ精度に対する信頼性を高めることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、前記ラック単体10を帯板状のラックプレート10aで構成し、該ラックプレート10aに形成された保持凹部10bの開口10b′を重ね合わされたラック単体10の裏面dで閉塞することにより前記保持孔Dを構成したので、複数のラック単体10を重ね合わせるだけで保持孔のピッチ精度の高いチップラック1を形成できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、重ね合わされた複数のラック単体10の周囲を枠部材11で囲むことによりユニット化したので、簡単な構成により安定した高いピッチ精度のチップラック1を形成することができる。
【0017】
請求項4の発明に係る成形用金型によれば、固定型14と可動型15との間に、ラック単体10の各保持孔Dに対応するよう形成された保持孔型面16bを有する複数のコアプレート16を並列配置し、前記保持孔型面16bと前記可動型15の型面15cとで前記保持孔D部分に対応するキャビティCを形成したので、該キャビティCに樹脂を射出することにより前記ラック単体10を形成でき、該ラック単体10を複数重ね合わせることにより、高いピッチ精度を有するチップラック1を形成することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、前記各コアプレート16を、隣り合うコアプレート16との対向面に前記ピッチpを調整可能とする調整面16cを有するものとしたので、この調整面16cを機械加工により切削,研磨することにより前記ピッチpの精度をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1によるチップラックの概略斜視図である。
【図2】前記チップラックのラック単体の正面図である。
【図3】前記ラック単体の平面図である。
【図4】前記ラック単体の成形用金型の断面斜視図である。
【図5】前記成形用金型の可動型を取り外した状態の斜視図である。
【図6】前記成形用金型のキャビティ部分の断面拡大図である。
【図7】前記成形用金型のコアプレートの斜視図である。
【図8】前記コアプレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1ないし図8は、本発明の実施例1によるチップラック及びラック単体成形用金型を説明するための図である。
【0022】
図1において、1は多数本のピペットチップ2を挿入・抜取可能に支持するチップラックを示している。
【0023】
前記ピペットチップ2は、例えば、DNA鑑定,遺伝子解析,あるいは臨床検査等の検査,分析を行なう際に使用されるものである。不図示の分注装置のノズルをピペットチップ2に差し込み、該分注装置によりピペットチップ2内に液体試料を吸引採取し、検査,分析装置に分注する。
【0024】
前記チップラック1は、ピペットチップ2が汚染されるのを防止するための密閉ケース3内に収納されている。この密閉ケース3はケース本体4と開閉可能な蓋5とを有する。
【0025】
図1〜図3に示すように、本実施例のチップラック1は、多数のラック単体10を並列に重ね合せ、周囲を枠部材11で固定してユニット化されたものである。前記各ラック単体10は、帯板状で、所定の厚さt,高さh,長さwのラックプレート10aからなり、該ラックプレート10aに、これの長手方向に所定ピッチpをなすよう保持凹部10bを形成した構造を有する。
【0026】
前記各保持凹部10bは、前記ピペットチップ2の挿入方向a、つまり前記高さh方向に貫通し、挿入方向aと直交方向b、つまり厚さt方向に開口するように形成されており、前記挿入方向aに見ると略半楕円形状をなしている。
【0027】
前記ラックプレート10aは、本実施例1の場合は、高さh23mm×長さw72.45mm×板厚t2.25mmからなるものである。また前記保持凹部10bは、32個形成されており、各保持凹部10bのピッチpは2.25±0.005mmに設定されている。さらに前記ラック単体10は48枚重ねられており、これにより、各保持凹部10bの開口10b′を重ねられた隣のラック単体10の裏面d又は枠部材11で閉塞して保持孔Dが形成され、該保持孔Dにより1536本のピペットチップ2が保持可能となっている。
【0028】
図4〜図8は、前記チップラック1を射出成型するための成形用金型13を示している。この成形用金型13は、固定型14と、該固定型14に対して型締め位置と型開き位置との間で上下方向に開閉可能な可動型15と、前記ラックプレート10aの各保持凹部10bに対応するよう形成された32個のコアプレート16とを有する。
【0029】
前記固定型14には、矩形状の成形凹部14aが形成されている。該成形凹部14aには前記コアプレート16が並列に配置されており、また各コアプレート16を囲むように押圧する4つの押圧部材17が配置されている。
【0030】
前記固定型14の各コアプレート16に臨む底部には、前記成形凹部14aに連通する多数のスリット14bが所定間隔をあけて形成されている。この各スリット14bには、前記コアプレート16及び射出成形されたラック単体10を取り出すための押し出しプレート(不図示)が挿入されている。
【0031】
前記可動型15には、後述するキャビティCに連通する一対のゲート15a,15aが形成されており、該各ゲート15aには成形材料を供給する供給孔15bが接続されている。
【0032】
前記各コアプレート16は、プレート本体16aと、該プレート本体16aの先端部に前記保持凹部10bに対応するよう円弧状に形成された保持孔型面16bと、前記プレート本体16aに段付き状に形成された左,右調整面16c,16cとを有する。
【0033】
この左,右調整面16cは、目標とするピッチpに対応する厚さより僅かに厚く大きく形成されており、該調整面16cを機械加工により切削,研磨することにより目標とするピッチpに調整するようになっている。
【0034】
このようにして前記可動型15の型面15c,各押圧部材17及び各コアプレート16の保持孔型面16bにより前記ラック単体10に対応した形状のキャビティCが形成されている。
【0035】
前記キャビティCに樹脂を射出することにより、ピッチpの保持凹部10bを有するラック単体10が形成される。この場合に、前記樹脂の熱収縮量のばらつき等により前記ピッチpが目標とする精度にない場合は、前記調整面16cを機械加工することにより前記ピッチpが調整される。
【0036】
本実施例によれば、ラックプレート10aに保持凹部10bを形成してなる複数のラック単体10を重ね合せ、ユニット化することによりチップラック1を形成したので、チップラック全体を金型により一体的に射出成形する場合に比べて、射出成形する際の成形材料の熱収縮量のばらつきを小さくすることができ、それだけピッチ精度を高めることができる。
【0037】
またラック単体10自体の精度を高めることによりチップラック1全体の精度を高めることができので、量産を行なう場合のピッチ精度に対する信頼性を高めることができる。
【0038】
また、前記ラック単体10を帯板状のラックプレート10aで構成し、該ラックプレート10aに形成された保持凹部10bの開口10b′を重ね合わされたラック単体10の裏面dで閉塞することにより前記保持孔Dを構成したので、ピッチ精度の高い保持凹部10bを有する複数のラック単体10を重ね合わせることにより、保持孔Dのピッチ精度の高いチップラック1を形成できる。
【0039】
また重ね合わされた複数のラック単体10の周囲を枠部材11で囲むことによりユニット化したので、簡単な構成により安定した高いピッチ精度のチップラック1を形成することができる。
【0040】
また、成形用金型13を、固定型14と可動型15との間に、ラック単体10の各保持孔Dに対応するよう形成された保持孔型面16bを有する複数のコアプレート16を並列配置し、前記保持孔型面16bと前記可動型15の型面15cとで前記保持孔D部分に対応するキャビティCを形成したので、該キャビティCに樹脂を射出することにより前記ラック単体10を形成でき、該ラック単体10を複数重ね合わせることにより、高いピッチ精度を有するチップラック1を形成することができる。
【0041】
さらにまた、前記各コアプレート16を、隣り合うコアプレート16との対向面に調整面16cを有するものとしたので、この調整面16cを機械加工により切削,研磨することにより、前記ピッチpの精度をより一層高めることができる。
【0042】
なお、前記実施例では、保持孔Dを、保持凹部10bを隣のラック単体10の裏面dで閉塞することにより構成したが、本発明の保持孔Dは、ラック単体10に独立して形成しても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 チップラック
2 ピペットチップ
10 ラック単体
10a ラックプレート
10b 保持凹部
11 枠部材
13 成形用金型
14 固定型
15 可動型
16 コアプレート
16c 調整面
a 挿入方向
b 直交方向
C キャビティ
D 保持孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本のピペットチップを挿入・抜取り可能に保持するチップラックであって、
前記ピペットチップが挿入される保持孔が所定ピッチで並列配置された複数のラック単体を、前記保持孔の並列方向と直交する方向に重ね合せてユニット化した
ことを特徴とするチップラック。
【請求項2】
請求項1に記載のチップラックにおいて、
前記ラック単体は、前記重ね合せ方向に所定の厚さを、前記挿入方向に所定の高さを有し、前記配列方向に延びる帯板状のラックプレートからなり、
前記保持孔は、前記挿入方向に貫通するとともに、前記重ね方向に開口する溝状の保持凹部と、前記開口を閉塞する前記重ね合わされたラック単体の裏面とにより構成されている
ことを特徴とするチップラック。
【請求項3】
請求項2に記載のチップラックにおいて、
前記重ね合わされた複数のラック単体の周囲を囲むように配置された枠部材によりユニット化されている
ことを特徴とするチップラック。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかに記載されたチップラックのラック単体を射出成形するための成形用金型であって、
固定型と、該固定型に対して型締位置と型開位置との間で開閉可能に配置された可動型と、該可動型と前記固定型との間に並列配置され、前記ラック単体の各保持孔に対応するよう形成された保持孔型面を有し、該保持孔型面と前記可動型の型面とで前記ラック単体の保持孔部分に対応するキャビティを形成する複数のコアプレートとを備えた
ことを特徴とする成形用金型。
【請求項5】
請求項4に記載の成型用金型において、
前記各コアプレートは、隣り合うコアプレートの対向面に機械加工を施すことにより前記ピッチを調整可能とする調整面を有する
ことを特徴とする成型用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218337(P2011−218337A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93328(P2010−93328)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(390026413)深江化成株式会社 (12)
【出願人】(596020015)バイオテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】