説明

チモシンβ10発現増強剤

【課題】 医薬として有用なチモシンβ10の発現増強剤を提供する。
【解決手段】 ヨウキンカ、マンダラシ、クコ、ムカカ、ヒマ、カシキン、ボウコン、シャゼン、ジョチョウケイ、シテイ、テンキシ、サクリュウカ、センニンショウ、シクンシ、タイゲキ、キセンソウ、ケツメイシ、ソウキセイ、ソウシ、テンモンドウ、ライフクシ、カイキンシャ、ラッショウ、ケンゴシ、リョクズ、サンジコ及びビャクギュウから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするチモシンβ10発現阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として有用なチモシンβ10発現増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
チモシン(thymosin)は、牛胸腺で見出された低分子量蛋白質ファミリーであり(例えば、非特許文献1)、このうち、β−チモシンは、41−45アミノ酸のポリペプチドホモログで、高度に保存された酸性蛋白質である。β−チモシンは、ヒト組織で広く発現しており(例えば、非特許文献2)、細胞質に存在すること、G−アクチンに結合し、それを保持することなどが知られている(例えば、非特許文献3)。その中で、チモシンβ10は、ラットやヒトの脳の発達に関与していること(例えば、非特許文献4参照)、血管新生を促進すること、内皮細胞の遊走及び接着を促進することが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
【0003】
従って、チモシンβ10の発現を増強させる物質は、創傷治癒の促進や床ずれ等の血管新生に依存する症状の改善等に有用であると考えられる。
【非特許文献1】Low TKL. Et al.; The Year in Hematology. Edited by Silber R, Lobue J, Gordon AS. New York, Plenum Press, 281-319(1978)
【非特許文献2】Horecker B. L.et al.; Lymphokines 9, 15-35(1984)
【非特許文献3】Yu F.X. et al.; J. Biol. Chem. 268, 502-509(1993)
【非特許文献4】Lugo DI et.al.; J Neurochem. 56(2):457-61. (1991)
【非特許文献5】Deborah Philp et al., The FASEB Journal,17,2103-2105(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、医薬として有用なチモシンβ10の発現増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、安全性の高い天然物を探索したところ、特定の植物又はその抽出物にチモシンβ10の発現を増強させる作用があり、医薬として有用であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、ヨウキンカ、マンダラシ、クコ、ムカカ、ヒマ、カシキン、ボウコン、シャゼン、ジョチョウケイ、シテイ、テンキシ、サクリュウカ、センニンショウ、シクンシ、タイゲキ、キセンソウ、ケツメイシ、ソウキセイ、ソウシ、テンモンドウ、ライフクシ、カイキンシャ、ラッショウ、ケンゴシ、リョクズ、サンジコ及びビャクギュウから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするチモシンβ10発現阻害剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチモシンβ10発現増強剤は、チモシンβ10の発現を特異的に増強することから、創傷治癒や床ずれ等の血管新生に依存する症状を改善等するための医薬として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のチモシンβ10発現増強剤は、チモシンβ10の発現を増強する作用を有し、医薬として使用できる。ここで、チモシンβ10の発現増強とは、ある細胞内及び/又は生体内のある部分において、特に線維芽細胞内、上皮細胞内において、チモシンβ10量の増加が観察される状態を含み、チモシンβ10を産生する細胞におけるチモシンβ10の存在量及び/又は産生量の増加、及びチモシンβ10を産生する細胞からのチモシンβ10の放出量の増加を含む。
【0009】
本発明において、ヨウキンカ(洋金花)とは、ナス科のチョウセンアサガオ(Datura metel L.)の花を、マンダラシ(曼陀羅子)とは、ナス科のチョウセンアサガオ(Datura metel L.)の種子または果実を、クコ(枸杞子)とはナス科のクコ(Lycium chinense Mill.)を、ムカカ(無花果)とは、クワ科のイチジク(Ficus carica L.)を、ヒマとは、トウダイグサ科のヒマ(別名:トウゴマ、Ricunus communis L.)を、カシキン(瓜子金)とは、ヒメハギ科のヒメハギ(Polygala japonica Houtt.)を、ボウコン(茅根)とは、イネ科のチガヤ(Imperata cylindrical (L.) P. Beauv. var. major (Nees) C. E. Hubb.)を、シャゼン(車前)とは、オオバコ科のオオバコ(Plantago asiatica L.)を、ジョチョウケイ(徐長卿)とは、ガガイモ科のスズサイコ(Cynanchum paniculatum(Bge.) Kitag.)を、シテイ(柿蒂)とは、カキノキ科のカキ(Disopyros kaki L. f)を、テンキシ(天葵子)とは、キンポウゲ科のヒメウズ(Semiaquilegia adoxoides (DC.) Mak.)を、サクリュウカ(醋柳果)とは、グミ科のサキョク(Hippophae rhamnoides L.)、センニンショウ(仙人掌)とは、サボテン科のセンニンショウ(Echinopsis multiplex Zucc.)を、シクンシ(使君子)とは、シクンシ科のシクンシ(Quisqualis indica L.)、タイゲキ(大戟)とは、トウダイグサ科のタカトウダイ(Euphrbia pekinensis Rupr.)を、キセンウ(鬼箭羽)とは、ニシキギ科のニシキギ(Euonymus alatus (Thunb.) Sieb.)を、ケツメイシ(決明子)とは、マメ科のコエビスグサ(Cassia tora L.)を、ソウキセイ(桑寄生)とは、ヤドリギ科のヤドリギ(Viscum coloratum (Kom.) Nakai)を、ソウシ(葱子)とは、ユリ科のネギ(Alium fistulosum L.)を、テンモンドウ(天門冬)とは、ユリ科のクサスギカズラ(Asparagus cochinchinesis (Lour.) Merr.)を、ライフクシ(莱箙子)とは、アブラナ科のダイコン(Raphanus sativa L. var. coloratum(Komar.) Ohwi)を、カイキンシャ(海金沙)とは、カニクサ科のカニクサ(Lygodium japonicum (thumb.) Sw.)、ラッショウ(辣椒)とは、ナス科のシマトウガラシ(Capsicum frutescens L.)を、ケンゴシ(牽牛子)とは、ヒルガオ科のアメリカアサガオ(Ipomoea hederacea Jacq.)を、リョクズ(緑豆)とは、マメ科のブンドウ(Phaselous radialus L.)を、サンジコ(山慈姑)とは、ラン科のドクサンラン(Pleione bulbocodiodes (Franch.) Rolfe)又はサイハンランCremastra appendiculata (D.Don) Makino)を、ビャクギュウ(白及)とは、ラン科のシラン(Bletilla striata(Thumb.))をそれぞれ意味する。
【0010】
上記植物は、その植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま又は粉砕して用
いることができるが、ヨウキンカについては花、マンダラシについては果実又は種子を、クコについては果実を、ムカカについては果実を、ヒマについては葉を、カシキンについては全草を、ボウコンについては根茎を、シャゼンについては全草を、ジョチョウケイについては全草を、シテイについては宿存花萼を、テンキシについては塊根を、サクリュウカについては果実を、センニンショウについては茎を、シクンシについては種子を、タイゲキについては根を、キセンソウについては枝を、ケツメイシについては種子を、ソウキセイについては葉茎を、ソウシについては種子を、テンモンドウについては塊根を、ライフクシについては種子を、カイキンシャについては胞子を、ラッショウについては果実を、ケンゴシについては種子を、リョクズについては種子を、サンジコについては仮球茎を、ビャクギュウについては塊根をそれぞれ使用するのが好ましい。
【0011】
また、本発明における抽出物とは、上記植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味するものである。
【0012】
本発明の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、このうち、水、アルコール類、水−アルコール混液が好ましい。
【0013】
抽出条件は、使用する溶媒によっても異なるが、例えば水、アルコール類又は水−アルコール混液により抽出する場合、植物1重量部に対して1〜50重量部の溶剤を用い、4〜100℃、好ましくは室温〜60℃の温度で、1時間〜150日間、より好ましくは1日〜30日間抽出するのが好ましい。
【0014】
上記の抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、本発明においてはこのようなものを用いることが好ましい。これらは、必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。
【0015】
尚、本発明の植物又はそれらの抽出物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
これらの植物又はその抽出物は、後記実施例に示すように優れたチモシンβ10の発現増強活性を有する。チモシンβ10はチモシンβ4と同様、血管新生の促進、内皮細胞の遊走及び接着を促進する作用を有することが報告されている(Deborah Philp et al., The FASEB Journal,17,2103-2105(2003))。従って、これらを有効量含有するチモシンβ10発現増強剤は、創傷治癒の促進や床ずれ等の血管新生に依存する症状を改善(Katherin M.Malinda et al.,J Invest Dermatol,113,364-368(1999))等するための医薬として有用である。
【0017】
本発明のチモシンβ10発現増強剤は、例えば、錠剤、カプセル剤等の内服剤、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤、乳剤等の外用剤、注射剤等の医薬製剤とすることができ、当該製剤には、本発明の植物又はその抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、促収促進剤、界面活性化剤等の薬学的に許容される担体を任意に組み合わせて配合することができる。
【0018】
本発明のチモシンβ10発現増強剤における植物又はそれら抽出物の配合量は、乾燥物として通常全組成の0.00001〜10重量%、特に0.0001〜1重量%が好ましい。
【0019】
また、本発明チモシンβ10発現増強剤の投与量は、用量、患者の年齢、性別、体重、疾患の度合い等により適宜選択することができるが、好ましくは、一日当たり0.1〜10000mg、より好ましくは1〜1000mg、更に好ましくは10〜100mgであり、これを一日一回ないし数回に分けて投与するのが適当である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
製造例1 ヨウキンカ抽出物の製造
チョウセンアサガオ(中国江蘇省産)の花40gをとり、400mLの50%(v/v)EtOH水を加え、室温で133日間静置抽出後、ろ過して抽出液を得た。
【0021】
製造例2
製造例1に準じて下記表1に示す各植物抽出物を調製した。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例1 チモシンβ10発現増強活性
線維芽細胞(10継代以上のもの)を2×104cells/cm2で5%の血清を含む培地で12穴に撒き、次の日0.2%の血清を含む培地に培地交換し、固形残分0.005%になるように製造例1及び2で調製した植物抽出物を加え、さらに一日培養した。200μLのRIPA Buffer(10mM Tris-Hcl, pH7.4, 1% NP-40, 0.1% Sodium Deoxycholate, 0.1% SDS, 150mM NaCl, 0.5M EDTA)で細胞を回収し、15000rpm×15min遠心することにより上清を回収した。protein assayを行うことによりタンパク定量を行い、サンプル間のタンパク量を調製し、等量のサンプルバッファーを添加して5分間煮沸することによりウエスタンブロッティング用のサンプルを作製した。これらのサンプル10μLずつを5−25%SDS−PAGEで分離し、ゲルを10%グルタルアルデヒド/PBSで室温で1時間固定した後PBSで洗浄した。PVDFメンブランにブロッティング後、メンブランをPBS中で50℃、1時間振とうし、さらに20mMグリシン/PBS中で1時間振とうした。3%BSA/TBS Tween(0.01M Tris-Hcl, pH7.5, 0.15M NaCl, 1% Tween 20 )でブロッティング後、1次抗体としてチモシンβ10抗体(1μg/mL)で室温2時間インキュベートした。その後、5%skim milkで1時間ブロッティングした後、2次抗体としてHRP−conjugated rabbit IgG抗体(5000倍希釈,Amersham)で室温1時間インキュベートし、ECL(Amersham)により特異的チモシンβ10蛋白質を検出した。X線フィルム上の画像をスキャナで取り込んだ後、lane&spot analyzerを用いてチモンシンβ10発現量を数値化し、コントロールの発現量と比較して発現増強効果を測定した。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示したとおり、本発明の植物抽出物は、チモシンβ10の発現を増強することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウキンカ、マンダラシ、クコ、ムカカ、ヒマ、カシキン、ボウコン、シャゼン、ジョチョウケイ、シテイ、テンキシ、サクリュウカ、センニンショウ、シクンシ、タイゲキ、キセンソウ、ケツメイシ、ソウキセイ、ソウシ、テンモンドウ、ライフクシ、カイキンシャ、ラッショウ、ケンゴシ、リョクズ、サンジコ及びビャクギュウから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするチモシンβ10発現阻害剤。

【公開番号】特開2006−199609(P2006−199609A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12039(P2005−12039)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】