説明

チーズ乳化物の製造方法及びチーズ乳化物、並びにこれを用いた乳含有飲料

【課題】フレッシュチーズを用い、フレッシュチーズ含量が従来技術によるものより高い濃度望ましくは50%以上を用いた風味良好且つ保存安定性に優れたチーズ乳化物を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリグリセリン脂肪酸エステル、フレッシュチーズ及び水から構成され、ポリグリセリン脂肪酸エステルを水に分散させ平均粒子径10〜600nmのベシクルを形成させるよう水に分散させる第一工程と前記第一工程によって調製されたポリグリセリン脂肪酸エステル分散水溶液にフレッシュチーズを添加し乳化する第二工程から調製することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレッシュチーズを原料としたチーズ乳化物の製造方法及びチーズ乳化物、並びにこれを用いた乳含有飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
嗜好の多様化に伴い、茶系飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、炭酸飲料、ジュース・果汁飲料、野菜飲料、乳性飲料、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、機能性飲料など数多くの種類の嗜好性飲料が市場に供されている。乳製品を含んだ飲料も古くから供されており、我々の生活を豊かなものにしてくれている。
近年は高級化の傾向があり、より乳製品を多く含む飲料が求められているが、乳製品を多く含む飲料は豊かな風味を得られる反面、脂肪分が経時的に浮上してしまう“クリーミング”、クリーミングした後脂肪分が凝集、固化する“白色浮遊物”、または凝集した脂肪分が合一した“油滴浮上”、乳中の比重の重い成分が沈降する“沈澱”などの各種劣化現象が発生する機会が多くなり、商品価値を著しく低下させる要因ともなっている。
飲料に使用される乳製品は、牛乳、生クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳、濃縮乳、加糖練乳、無糖練乳、脱脂濃縮乳等あるが、それぞれで風味の特徴はあるものの、何れも安定性といった観点では良いとは言えない。
チーズを含有する乳飲料の製造法の技術が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)チーズを低粘度化する目的に塩類を添加する手法は古くから知られており、この技術でもクエン酸ナトリウムを添加し高圧均質化処理を行い乳飲料を調製している。しかしながらクエン酸ナトリウムの添加量がチーズ蛋白質あたり15〜45%と非常に多く、実際このような調製方法にて処理された乳飲料は風味が悪く商業的価値は低い。
少なくともチーズ類と水と塩類を含み、これらが均質化され殺菌処理された水中油型エマルジョンからなる流動性クリームの技術が提案されている。(例えば、特許文献2参照。)しかしながら本発明者らが検証を行ったところ、提案されている塩類の添加だけでは乳化力が不足しており、十分な乳化がなされているとは言い難い。
フレッシュチーズ、有機酸モノグリセリド、HLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)11以上の乳化剤、カゼインナトリウム及び水を含有する飲料用組成物であって、フレッシュチーズの組成物中の配合量が20%〜50%である飲料用組成物の技術が提案されている。(例えば、特許文献3参照。)本技術により調製されたチーズ乳化物は安定性が高く風味も良好であるが、配合できるフレッシュチーズの含量が上限50%と低くコスト面で厳しい。(HLBは、乳化剤の性質をあらわす指標としてが用いられる。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭47−7939号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平5−15308号公報(第2−3頁)
【特許文献3】特許第4242671号(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的はフレッシュチーズを用い、フレッシュチーズ含量が従来技術によるものより高い濃度望ましくは50%以上を用いた風味良好且つ保存安定性に優れたチーズ乳化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前述の現状に鑑みフレッシュチーズを用いた安定なチーズ乳化物を調製すること、更に調製したチーズ乳化物を用い、安定な飲料を提供することを目的として、鋭意研究の結果本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明はポリグリセリン脂肪酸エステル、フレッシュチーズ及び水から構成され、風味良好且つ保存安定性に優れたチーズ乳化物の製造方法を確立することに関する。更には調製したチーズ乳化物を用い、安定性に優れた飲料を製造することができる技術に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、風味良好で且つ保存安定性に優れたチーズ乳化物を得ることができる。また、これを用いた飲料は風味よく、且つ安定性も良好であった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では原料としてフレッシュチーズを用いるが、使用しうるフレッシュチーズについてはとくに制限は無く、従来より公知とされているものであればどのようなものでも良い。ただし、安定なクリーム状態を保ち、且つ良好な乳風味を付与するためには乳脂肪含量が高いフレッシュチーズの方が良好であるためクリームチーズの使用が好ましい。乳脂肪含量は35〜65%であることが好ましい。更には40〜60%であればより好ましい。
【0009】
本発明において使用する乳化剤の一例としてのポリグリセリン脂肪酸エステルは食品分野で通常使用されているポリグリセリン脂肪酸エステルであれば何ら制限を受けるものではない。
ポリグリセリン脂肪酸エステルはポリグリセリンと脂肪酸がエステル結合して成るものであるが、脂肪酸としては、特に限定するものではないが、例えば、天然の動植物より抽出した油脂を加水分解し、分離してあるいは分離せずに精製して得ることができ、飽和、不飽和、あるいは混在、何れであっても構わないが、好ましくは飽和、さらに好ましくはミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種、最も好ましくはステアリン酸を用いるのが良い。
【0010】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成ポリグリセリンの重合度については特に制限を受けるものではないが、平均重合度が2〜20、好ましくは4〜10、更に好ましくは5〜10である。
【0011】
また、特に限定するものではないがポリグリセリン脂肪酸エステルは、モル平均エステル化度が好ましくは3.0以下であり、2.0以下であれば更に好ましく、最も好ましくは1.5以下である。モル平均エステル化度は、純度100%の場合、モノエステルでは1、ジエステルでは2となる。
混合物の場合、その重量比による平均がモル平均エステル化度となる。例えばエステル化度1のポリグリセリン脂肪酸エステルが50重量%、エステル化度2ポリグリセリン脂肪酸エステルが50重量%の構成である場合、平均エステル化度はその重量平均の1.5となる。
【0012】
さらに、本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、HLB8〜14が好ましく、更に好ましくはHLB9〜12が良い。
【0013】
本発明におけるチーズ乳化物の製造方法は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを水に分散させ平均粒子径10〜600nmのベシクルを形成させる第一工程と前記第一工程によって調製されたポリグリセリン脂肪酸エステル分散水溶液にフレッシュチーズを添加し乳化する第二工程からなることを特徴とする。ポリグリセリン脂肪酸エステル、水、フレッシュチーズを同時に混合する、あるいはポリグリセリン脂肪酸エステルをフレッシュチーズに添加するなど工程順序を変化させるとチーズ乳化物の安定性は著しく低下する。また、第一工程においてポリグリセリン脂肪酸エステルが水中でベシクルが形成していることも必須である。ベシクルの平均粒子径は10〜600nmであることが好ましい。更に好ましくは平均粒子径50〜500nm、最も好ましくは100〜400nmが良い。
【0014】
本発明においてフレッシュチーズを投入する速度も重要なポイントである。ポリグリセリン脂肪酸エステル分散水溶液に対しポリグリセリン脂肪酸エステル分散水溶液量の1/50〜1/10量のフレッシュチーズを毎分投入することにより良好な乳化を形成できる。投入量が1/10より早い場合は乳化が不安定になり、1/50より遅い場合乳化は安定であるものの生産効率が悪くなる為好ましくない。
【0015】
本発明の対象となる乳含有飲料とは、乳成分を含有する乳類飲料にコーヒー、紅茶、果汁、ココア、抹茶、豆乳、卵等嗜好品、甘味料、香料等の副原料で構成されているものであれば特に限定されるものではないが、特に乳成分を含有しているコーヒー、紅茶等の弱酸性飲料は賞味期限も長く、また高温販売、いわゆるホットベンダー販売される機会が多いため、より不安定化する傾向が強い。その意味では安定性の高い本発明のチーズ乳化物は、コーヒー、紅茶、ココア等の弱酸性飲料を対象とすることが好ましい。
以下、本発明の態様を実施例によりさらに詳細に記載し開示するが、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
第一工程で、乳化剤として10gのポリグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB11)を290gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径200nmであることを確認した(※)。第二工程で、このポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散液に700gのフレッシュチーズ(脂肪含量35%)を攪拌しつつ毎分30gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品1)を得た。

(※)ポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径はBECKMAN COULTER社 LS230を用いて測定。
【0017】
実施例2
第一工程で、乳化剤として30gのポリグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB11)を370gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径200nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散液に600gのフレッシュチーズ(脂肪含量50%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品2)を得た。
【0018】
実施例3
第一工程で、乳化剤として50gのポリグリセリンジステアリン酸エステル(HLB8)を450gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンジステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径400nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンジステアリン酸エステル水分散液に500gのフレッシュチーズ(脂肪含量65%)を攪拌しつつ毎分10gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品3)を得た。
【0019】
実施例4
第一工程で、乳化剤として30gのポリグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB12)を370gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径100nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散液に600gのフレッシュチーズ(脂肪含量60%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品4)を得た。
【0020】
実施例5
第一工程で、乳化剤として30gのポリグリセリンモノパルミチン酸エステル(HLB13)を370gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノパルミチン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径50nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンモノパルミチン酸エステル水分散液に600gのフレッシュチーズ(脂肪含量50%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品5)を得た。
【0021】
実施例6
第一工程で、乳化剤として30gのポリグリセリンモノミリスチン酸エステル(HLB14)を370gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノミリスチン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径30nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンモノミリスチン酸エステル水分散液に600gのフレッシュチーズ(脂肪含量50%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品6)を得た。
【0022】
実施例7
第一工程で、乳化剤として3gのポリグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB11)を297gの水に分散させベシクルを形成させた。ポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径200nmであることを確認した。第二工程で、このポリグリセリンモノステアリン酸エステル水分散液に700gのフレッシュチーズ(脂肪含量35%)を攪拌しつつ毎分30gの速度で投入しチーズ乳化物(本発明品7)を得た。
【0023】
比較例1
乳化剤として10gのポリグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB11)、290gの水、及び700gのフレッシュチーズ(脂肪含量35%)を同時に混合しチーズ乳化物(比較品1)を得た。
【0024】
比較例2
300gの水に700gのフレッシュチーズ(脂肪含量35%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(比較品2)を得た。
【0025】
比較例3
第一工程で、乳化剤として10gのショ糖脂肪酸エステル(ステアリン酸 HLB11)を290gの水に分散させベシクルを形成させた。ショ糖脂肪酸エステル水分散溶液のベシクル粒子径を測定したところ平均粒子径200nmであることを確認した。第二工程で、このショ糖脂肪酸エステル水分散液に700gのフレッシュチーズ(脂肪含量35%)を攪拌しつつ毎分20gの速度で投入しチーズ乳化物(比較品3)を得た。
【0026】
試験例1
実施例1〜7及び比較例1〜3にて得られたチーズ乳化物(本発明品1〜7及び比較品1〜3)100mlを各々5℃にて保管し安定性を確認した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果より明らかなように、本発明品は、比較品のチーズ乳化物に比べ非常に安定また風味良好であった。
【0029】
試験例2
コーヒー抽出液(Bx3.0)400g、脱脂粉乳15g、グラニュー糖60g、実施例1〜7及び比較例1〜3にて得られたチーズ乳化物(本発明品1〜7及び比較品1〜3の何れか)、及び水を適量加え混合溶解し、重曹にてpH6.9に調整後、さらに水を加え全量を1000gとした。調合されたコーヒーミックスを65〜70℃に昇温し、高圧ホモジナイザーにて15MPaの圧力で均質化し缶容器に充填した。充填された缶容器は121℃、30分間レトルト殺菌を行い、乳含有飲料としてコーヒー飲料を調製した。殺菌後の飲料のpHは6.3であった。
得られた缶ミルクコーヒーは、55℃4週間保存、及び25℃で2週間保存後2℃で2週間保存し開缶して、ミルク浮き、白色浮遊物、油滴浮上、沈澱について評価した。
評価結果を表2示す。なお評価基準は以下のとおりである。

<評価基準>
5 非常に良い
4 良い
3 普通
2 悪い
1 非常に悪い
【0030】
【表2】

【0031】
表2の結果より明らかなように、本発明の乳含有飲料の一例としてのコーヒー飲料は、比較のコーヒー飲料に比べ非常に安定また風味良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上本発明は、風味良好且つ保存安定性に優れたチーズ乳化物の製造方法及びチーズ乳化物、並びにこれを用いた安定性に優れた乳含有飲料を提供することが可能となり、産業上貢献大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが8〜14の乳化剤、フレッシュチーズ及び水から構成され、乳化剤を水に分散させ平均粒子径10〜600nmのベシクルを形成させるよう水に分散させる第一工程と前記第一工程によって調製された乳化剤分散水溶液にフレッシュチーズを添加し乳化する第二工程から調製されることを特徴とするチーズ乳化物の製造方法。
【請求項2】
重量比が乳化剤0.3〜5%、フレッシュチーズが50〜70%、水25〜49.7%で構成されることを特徴とする請求項1記載のチーズ乳化物の製造方法。
【請求項3】
第二工程が、乳化剤分散水溶液に対しフレッシュチーズを毎分1/50〜1/10量の速度で投入する請求項1又は2記載のチーズ乳化物の製造方法。
【請求項4】
乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1〜3何れか記載のチーズ乳化物の製造方法。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸がミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4記載のチーズ乳化物の製造方法。
【請求項6】
フレッシュチーズにおける油脂含量が35〜65%であることを特徴とする請求項1〜5何れか記載のチーズ乳化物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6何れか記載の製造方法により製造されたチーズ乳化物。
【請求項8】
請求項7記載のチーズ乳化物を用いることを特徴とする乳含有飲料。

【公開番号】特開2011−234697(P2011−234697A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110976(P2010−110976)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】