テアフラビンの酵素合成法
【課題】従来法より高効率でテアフラビンを得ることができるテアフラビンの製造方法を提供すること。
【解決手段】
ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることによって従来法より高効率でテアフラビンを得ることができる。酵素反応条件(使用する酵素、酵素量、反応系濃度、反応pH、反応温度、反応時間)を調整することにより、カテコール型カテキン使用量の35%以上をテアフラビンに変換することができる。
【解決手段】
ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることによって従来法より高効率でテアフラビンを得ることができる。酵素反応条件(使用する酵素、酵素量、反応系濃度、反応pH、反応温度、反応時間)を調整することにより、カテコール型カテキン使用量の35%以上をテアフラビンに変換することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料使用量に対して高効率で簡便に各種テアフラビンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶は茶(Camellia sinensis)の葉を発酵することで製造され、世界中で飲用される。紅茶中には緑茶の代表的なポリフェノール成分であるカテキン類が酸化重合して生成した様々な重合ポリフェノールが多量に存在する。テアフラビン類はその中で最も知られている化合物であり、紅茶中には主に、テアフラビン(TF1、一般式(IV)のR1およびR2は水素原子)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A、一般式(IV)のR1はガロイル基、R2は水素原子)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B、一般式(IV)のR1は水素原子、R2はガロイル基)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3、一般式(IV)のR1およびR2はガロイル基)の4種類が存在する。これら4種のテアフラビンの構造を一般式(IV)に示した。
【0003】
【化4】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示す)
【0004】
上記した4種類のテアフラビンは、緑茶中に含まれるカテキン類が、茶葉中に存在する酵素(ポリフェノールオキシダーゼおよび/またはペルオキシダーゼ)を触媒として酸化されることにより生成する。TF1はエピガロカテキン(EGC、一般式(V)のR3は水酸基、R4は水素原子)とエピカテキン(EC、一般式(V)のR3、R4はともに水素原子)、TF2Aはエピガロカテキンガレート(EGCg、一般式(V)のR3は水酸基、R4はガロイル基)とEC、TF2BはEGCとエピカテキンガレート(ECg、一般式(V)のR3は水素原子、R4はガロイル基)、そしてTF3は、EGCgとECgからそれぞれ生成される。カテキン類の構造を一般式(V)に示した。
【0005】
【化5】
(式中、R3はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R4はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0006】
テアフラビンは紅茶中の赤色色素成分として飲用時の水色や渋味などに重要な役割を担う成分として知られてきたが、近年、その抗酸化活性や糖吸収抑制(非特許文献1、2)、抗菌活性(非特許文献3)など種々の生理活性を有することが明らかとなり、多くの研究がなされている。
【0007】
テアフラビンを取得する方法としては、紅茶葉から抽出する方法、フェリシアン化カリウムを用いた化学的合成法(非特許文献4)、ペルオキシダーゼを用いた酵素的合成法(非特許文献5、特許文献1)、タンナーゼ処理した生茶葉のスラリーを発酵させてテアフラビンを豊富に含む茶抽出物を製造する方法(特許文献2)、ペルオキシダーゼ活性を有する植物細胞培養液を利用した合成法(特許文献3)、ポリフェノールオキシダーゼを用いて酵素的に合成する方法(特許文献4)などたくさんの手法が提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−504168号公報
【特許文献2】特開平11−225672号公報
【特許文献3】特開2007−143461号公報
【特許文献4】特開2005−523242号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Miwa Honda, Yukihiko Hara, Biosci.Biotech.Biochem.,57,pp.123(1993)
【非特許文献2】Yukihiko Hara, Miwa Honda, Agric.Biol.Chem.,54,pp.1939(1990)
【非特許文献3】堀内 善信 他、感染症誌、66、pp.599(1992)
【非特許文献4】Yoshinori Takino, Hiroshi Imagawa, Agric.Biol.Chem.,27,pp.319−321(1963)
【非特許文献5】Shengmin Sang, et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry,12,pp.459−467(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
テアフラビンの合成について記載された先行文献を検証すると、まず、紅茶葉から抽出する方法では、茶葉中に含まれるテアフラビン総量は茶葉重量に対して多くても1%程度と、その量は極微量であることから、多量のテアフラビンを紅茶葉から抽出し精製することは容易ではない。また、化学合成法ではテアフラビン生成以外の酸化反応物も多く生成してしまうため、使用した原料に対するテアフラビンの変換効率は低かった。
【0011】
そこで、テアフラビンを簡便で原料使用量に対して高効率に合成する方法に関し、本発明者らは、まず、化学的な反応を用いた化学合成法よりも基質特異性を有する酵素を用いた方が、原料であるカテキン類をテアフラビンに高効率で変換する条件を見出せるだろうと考えた。
【0012】
酵素を用いる従来法としては、ポリフェノールオキシダーゼを用いてTF1、TF2A、TF2BおよびTF3の混合物を合成する方法が特許文献4に開示されているが、テアフラビンの生成効率が低く、また、目的とするテアフラビン以外の酸化物も多く生成してしまうという欠点がある。さらに、テアフラビン混合物として生成するので、例えば、着色剤として利用しようとした場合に、色調が異なるTF1、TF2A、TF2BおよびTF3を所望の比率で混合することが難しい。また、各種テアフラビンの生理活性を比較しようとした場合や特定のテアフラビンの生理活性を調べようとした場合には、得られた混合物からテアフラビンを個別に分離精製する必要が生じ、操作が煩雑になるばかりか精製に長時間を要してしまう。
このように、テアフラビン混合物の形態ではその用途が大幅に制限を受けてしまうことから、各種テアフラビンを個別に生成する簡便な方法が求められている。
【0013】
各種テアフラビンを個別に生成する方法としては、カテキン類にペルオキシダーゼを作用させる方法が特許文献1および非特許文献5に開示されているが、テアフラビンの収率が数%〜十数%と低く、テアフラビン以外の酸化物が多く生成してしまうために分離精製操作に時間と手間を要する。また、植物細胞培養物中のペルオキシダーゼを用いる方法が報告されているが(特許文献3)、テアフラビンの収率が低いといった欠点のほか、植物細胞を培養するのに手間と日数がかかるという問題がある。さらに、どちらの方法も過酸化水素を添加しなければならず、その操作にも細心の注意を払う必要があるため、簡便な酵素合成法とは言い難い。その他、タンナーゼ処理後の緑茶スラリーを酵素酸化する方法(特許文献2)では高変換効率でTF1を得ることができるものの、酵素反応を2段階行う必要性があるばかりか、生成したTF1を分離精製する操作が煩雑である。さらに、この方法ではTF1以外のテアフラビン類への適用ができない。このように、各種テアフラビンを個別に生成する方法が種々考えられてはきたものの、変換効率や操作性、目的とするテアフラビンが制限されるといった問題点を抱えており、満足のいく方法ではなかった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、各種テアフラビンを個別に酵素合成する方法において、原料であるカテキン類を効率よくテアフラビンに変換させることを特徴とする、高収率で簡便にテアフラビンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そして上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、目的のテアフラビンの原料となるピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、それら2種類のカテキンをポリフェノールオキシダーゼとpH4.0〜6.0の条件下で反応させるだけで、従来よりもはるかに効率よくカテコール型カテキンを各種テアフラビンへ変換できることを見出した。
【0016】
即ち、請求項1記載の本発明は、一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることを特徴とする一般式(III)で表されるテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0017】
【化1】
(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0018】
【化2】
(式中、R2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0019】
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0020】
また、請求項2記載の本発明は、ポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用したときの減少速度(モル/分)と(−)EGCに作用したときの減少速度(モル/分)の比が以下に示す数値となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いる請求項1に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
<数値比率>
(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)≧3.54
【0021】
また、請求項3記載の本発明は、ポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼを用いる請求項2に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0022】
また、請求項4記載の本発明は、一般式(II)で表されるカテコール型カテキン10マイクロモルに対してポリフェノールオキシダーゼを2000〜7000U作用させる請求項3に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0023】
また、請求項5記載の本発明は、一般式(II)で表されるカテコール型カテキン1ミリモルに対して反応系の総液量が1リットル以上である請求項4に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0024】
また、請求項6記載の本発明は、酵素反応の時間が10〜30分間である請求項5に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0025】
また、請求項7記載の本発明は、酵素反応のpHがpH4.0〜5.5である請求項6に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0026】
本発明におけるピロガロール型カテキンとは、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートを代表とする一般式(V)のR3が水酸基である構造を有する化合物、カテコール型カテキンとは、エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレートを代表とする一般式(V)のR3が水素原子である構造を有する化合物を意味する。
【0027】
【化5】
(式中、R3はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R4はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0028】
本発明におけるテアフラビンとは、テアフラビン(TF1)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3)、ネオテアフラビン((−)EGCと(+)C)、ネオテアフラビン 3−O−ガレート((−)EGCgと(+)C)、イソテアフラビン((+)GCと(−)EC)、イソテアフラビン 3’−O−ガレート((+)GCと(−)ECg)を代表とする一般式(III)に示す構造を有する化合物を意味する。
【0029】
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【発明の効果】
【0030】
本発明におけるテアフラビンの酵素合成法は、特別な装置を必要とせず、一般的な製造設備を利用して簡便でありながら、従来法と比較してはるかに効率よくカテコール型カテキンをテアフラビンに変換することができる。すなわち、テアフラビンを高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】酵素使用量に対するTF3生成量
【図2】使用したEGCg:ECg比に対するTF3生成量
【図3】反応系のpHに対するTF3生成量
【図4】反応時間に伴うTF3生成量
【図5】反応時間に伴うTF3生成量
【図6】反応時間に伴うTF3生成量
【図7】使用したEGC:EC比に対するTF1生成量
【図8】反応系のpHに対するTF1生成量
【図9】使用したEGCg:EC比に対するTF2A生成量
【図10】反応系のpHに対するTF2A生成量
【図11】使用したEGC:ECg比に対するTF2B生成量
【図12】反応系のpHに対するTF2B生成量
【図13】反応時間に伴うTF3生成量
【図14】反応時間に伴うTF3異性体生成量
【図15】(−)ECに対する減少速度/(−)EGCに対する減少速度の比とTF3への変換効率
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下において、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明におけるテアフラビンの製造方法は、カテコール型カテキン使用量に対する各種テアフラビンへの変換効率が従来よりも顕著に高く、例えば、TF1の従来法の変換率は30%程度、TF2A、TF2B、TF3の場合は数%程度であったところ、本発明におけるテアフラビンの生成効率は、カテコール型カテキン使用量の好ましくは35%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。詳細には、TF1の場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、TF2A、TF2Bの場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、TF3の場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは35%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。なお、この場合のカテコール型カテキン使用量とは、反応液に添加したカテコール型カテキン量を示す。
【0033】
本発明におけるテアフラビンの製造法は、ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることによって、従来法よりも効率よくカテコール型カテキンをテアフラビンに変換するものである。詳しくは、一般式(I)及び一般式(II)で表されるカテキン類を主原料とし、pH4.0〜6.0の緩衝液中でポリフェノールオキシダーゼを作用させることによって、一般式(III)で表される各種テアフラビンを得るものである。
【0034】
本発明の基本的な態様は、一般式(I)のピロガロール型カテキンの一種と一般式(II)のカテコール型カテキンの一種を原料に用いてテアフラビンを得る方法である。
【0035】
本発明におけるピロガロール型カテキンとは、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートを代表とする一般式(I)の構造を有する化合物、カテコール型カテキンとは、エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレートを代表とする一般式(II)の構造を有する化合物を意味する。
【0036】
また、本発明におけるテアフラビンとは、テアフラビン(TF1)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3)、ネオテアフラビン、ネオテアフラビン 3−O−ガレート、イソテアフラビン、イソテアフラビン 3’−O−ガレートを代表とする一般式(III)に示す構造を有する化合物である。
【0037】
また、原料として用いるカテキン類が高純度であるほど得られるテアフラビンの量は多く、さらに反応による副生成物の量が低下するため好ましい。
【0038】
得られたテアフラビンは天然の赤色色素であるため食品や飲料の着色剤としてはもちろんのこと、抗酸化剤や抗菌剤として、あるいは、血糖上昇抑制剤、血圧上昇抑制剤、脂質代謝改善剤、抗ガン剤等の生理活性剤として、さらに、渋み添加剤等の風味改善剤としての応用が考えられる。
【0039】
一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させるだけでも各種テアフラビンを高効率で得ることはできるが、ポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用したときの減少速度(モル/分)と、等量のポリフェノールオキシダーゼを(−)EGCに作用したときの減少速度(モル/分)の比が3.54以上となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いることでテアフラビンへの変換効率を上げることができる。この特徴を有するポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼ、特にマッシュルーム由来のチロシナーゼが挙げられるが、この特徴を示す酵素であれば何であっても良く、また2種以上のポリフェノールオキシダーゼの混合物でもよく、特に制限されない。ポリフェノールオキシダーゼの具体例としては、チロシナーゼ、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼなどが挙げられる。
酵素を作用させる方法は特に制限されないが、例えば市販の酵素粉末を直接反応系に添加する方法、あるいは酵素粉末を水で溶解後、反応系に添加する方法が挙げられる。
【0040】
ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンの使用モル比は3.5:1〜6:1であるが、より高い変換効率を得るためにはその使用モル比は4:1〜5.5:1が好ましく、より好ましくは4.5:1〜5:1である。カテコール型カテキンに対するピロガロール型カテキンの使用モル比が3.5未満であるとテアフラビンへの変換効率が低くなる。また、モル比が6を超えると高価な原料であるカテキンを多量に使用しなければならず経済的に不利となる上、副生成物の量も増加して分離精製操作が煩雑になり好ましくない。
【0041】
また、本発明で使用するポリフェノールオキシダーゼは、(−)ECに作用させたときの減少速度(モル/分)と(−)EGCに作用させたときの減少速度(モル/分)の比を3.54以上にするとカテコール型カテキン使用量に対して少なくとも35%以上がテアフラビンに変換されるが、より高い変換効率を得るためにはその比が望ましくは4.2以上、より望ましくは5.4以上、さらに望ましくは6.8以上、いっそう望ましくは8.6以上、最も望ましくは11.2以上がよい。これらの数値を示すポリフェノールオキシダーゼを用いるとカテコール型カテキン使用量に対して少なくとも40%以上、より望ましくは50%以上、さらに望ましくは60%以上、いっそう望ましくは70%以上および最も望ましくは80%以上の変換効率でテアフラビンが得られるため好適である。(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比が3.54未満のポリフェノールオキシダーゼではテアフラビンへの変換効率が低下してしまうため好ましくない。例えば、この比が3.0のポリフェノールオキシダーゼを用いた場合テアフラビン生成量は減少し、TF1、TF2A、TF2BおよびTF3の中で最も変換効率の低いTF3ではその効率が35%に満たない。
【0042】
また、酵素反応のpHを4.0〜6.0、望ましくは4.5〜5.5、より望ましくは4.5〜5.0に調整するとカテコール型カテキン使用量に対して高い変換効率でテアフラビンが得られるため好ましい。pH4.0未満あるいはpH6.0を超えるとテアフラビンへの変換効率が著しく低下してしまう。例えば、本発明で使用するポリフェノールオキシダーゼのうちチロシナーゼ(マッシュルーム由来)の至適pHはpH6〜7であるが、本発明法においては、チロシナーゼの至適pH6.5で酵素反応させるとテアフラビン生成量は著しく低減してしまう。
【0043】
また、本発明で作用させる酵素量は、他の条件(原料となるカテキン組成比、酵素反応のpH、反応液中のカテキン濃度、反応温度、反応時間など)に合わせテアフラビンへの変換効率が高くなるよう適宜決定すればよいが、通常は、使用するカテコール型カテキン10マイクロモルに対して2000〜7000Uが好ましく、5000〜7000Uがより好ましい。好ましい範囲内では、例えば市販のSIGMA製のチロシナーゼを使用した場合、原料使用総重量/酵素使用重量の比が1/0.001以上1/0.1未満となる。使用するカテコール型カテキン10マイクロモルに対して2000〜7000Uの酵素を作用させるとテアフラビンへの変換効率は、カテコール型カテキン使用量の50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上となる。なお、酵素単位1UはpH6.5、25℃の条件下で、3mLの0.5mMチロシン溶液の280nmの吸光度を1分間に0.001上昇させる酵素量を表す。
【0044】
さらに、カテコール型カテキン1ミリモルに対して反応液総量を1リットル以上に調整するとカテコール型カテキンからテアフラビンに効率よく変換することができるため好ましい。
【0045】
酵素反応時間は10〜180分が好ましい。より好ましくは10〜30分、さらに好ましくは、40℃の条件下で、20〜30分の反応を行うとカテコール型カテキン使用量に対して50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上の変換効率でテアフラビンが得られ、反応にかかる時間が短縮されることから、操作が迅速となり好ましい。
【0046】
上記のように、ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用することによって得られたテアフラビンを、吸着樹脂などのカラムクロマトグラフィーを用いた分離法により精製すれば、より純度の高いテアフラビンの精製品を得ることができる。
【0047】
吸着樹脂としては、吸着能力の高い合成吸着樹脂が好適である。具体的には、合成吸着樹脂を充填したカラムに、酵素反応後の溶液を通液し、テアフラビンを樹脂に吸着させ、有機溶媒を用いて目的のテアフラビンを樹脂より溶出し、精製テアフラビンを得る。この操作は通常、合成吸着樹脂を充填したカラムを用いて行うが、カラムを用いずにバッチ式で行うこともできる。
【0048】
この際使用可能な合成吸着樹脂としては、スチレンジビニルベンゼン系、メタクリル系、スチレン系、修飾スチレン系、アクリル系、アミド系、デキストラン系、セルロース系、ポリビニル系等の樹脂が使用可能であり、市販品では、例えばスチレンジビニルベンゼン系のダイアイオンHP−20、ダイアイオンHP−21、MCI(登録商標)GEL CHP55A、MCIGEL CHP55Y、MCIGEL CHP20A、MCIGEL CHP20Y(以上、三菱化学(株)製)、アンバーライトXAD−2、アンバーライトXAD−4(以上、米国ローム・アンド・ハース社製)、メタクリル系のダイアイオンHP−2MG(三菱化学(株)製)、スチレン系としてアンバーライトXAD−16(米国ローム・アンド・ハース社製)、修飾スチレン系としてセパビーズsp207(三菱化学(株)製)、アクリル系のダイアイオンWK−20(三菱化学(株)製)、アミド系のXAD−11(米国ローム・アンド・ハース社製)、デキストラン系のSephadex LH−20(ファルマシア社製)、セルロース系のINDION DS−3(フェニックスケミカルズ社製)、ポリビニル系のトヨパールHW−40(東ソー(株)製)等を挙げることができるがこれに限定されない。
【0049】
また、他の吸着剤としてはシリカゲル系が使用可能であり、例えば市販品ではシリカゲル40、シリカゲル60(球状)(以上、関東化学(株)製)、シリカゲル中圧分取用(山善株式会社)等が挙げられ、ODSなどアルキル基が化学結合したタイプとしてクロマトレックス(富士シリシア化学(株)製)、オクタデシル中圧分取用(山善株式会社)等を挙げることが出来るが、これに限定されない。
【0050】
溶出に用いる溶媒としては、水の他に例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなど、水と任意に混和する有機溶媒を用いることができる。
【0051】
樹脂と溶出溶媒の組み合わせとしては、上記のものを任意に組み合わせて使用することができるが、飲料などの用途に供する場合は食品衛生法の観点から、特に親水性ビニルポリマー樹脂に吸着させた後、エタノール(含水しても良い)で溶出するのが好ましい。この溶出液を通常の方法で乾固、あるいは結晶化し、目的のテアフラビンを得ることができる。
【0052】
テアフラビンのうち、TF1、TF2A、TF2BおよびTF3の4成分は以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLC)を用いて定量分析することができる。定量分析には常法に従って調製した標準品を用いればよいが、市販されている各テアフラビン試薬(長良サイエンス株式会社製、和光純薬工業株式会社製など)を標準品として利用することもできる。
【0053】
(テアフラビンの測定条件)
カラム:CAPCELL PAK UG120 4.6mmI.D.×100mm(粒子径3μm、SHISEIDO)、移動相:(A)超純水/リン酸=100/0.05(B)アセトニトリル/酢酸エチル=98.5/1.5、(A)81%(B)19%で0〜13.3分まで保持、13.3〜26.6分で(B)19%→23%まで直線的にグラジエント溶出、その後、(A)50%(B)50%で3分間カラム洗浄、初期条件で5分間平衡化。流速:1.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長:280nm、注入量:20μL。
【0054】
カテキン類のうち、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートの8成分は以下の条件によりHPLCで定量分析することができる。定量分析には常法に従って調製した標準品を用いればよいが、市販されている各カテキン試薬(SIGMA製、ナカライテスク株式会社製など)を標準品として利用することもできる。
【0055】
(カテキン類の測定条件)
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6mmI.D.×150mm(粒子径5μm、関東化学)、移動相:(A)超純水/リン酸/アセトニトリル=100/0.05/2.5(B)超純水/リン酸/アセトニトリル/メタノール=100/0.05/2.5/50、(A)100%で0〜3分まで保持、3〜25分で(B)0%→100%まで直線的にグラジエント溶出、25〜26分で(A)100%に戻し、26〜30分まで(A)100%で平衡化、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:230nm、注入量:10μL。
【0056】
本発明のポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用させたときおよび(−)EGCに作用させたときの減少速度(モル/分)を算出する方法は以下のとおりである。まず、ポリフェノールオキシダーゼの使用量は(−)ECおよび(−)EGCの双方に対し、反応時間に伴って基質を直線的に消費しうる量とし、その量はポリフェノールオキシダーゼにより異なる。決定した一定量のポリフェノールオキシダーゼを0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)中で(−)ECに作用させ、反応時間に対する(−)ECの消費量(モル)をプロットする。このとき、(−)EC濃度を上昇させてもそれ以上傾きが増加しない最高基質濃度でのデータを用いる。次に(−)ECに作用させたのと等量のポリフェノールオキシダーゼを0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)中で(−)EGCに作用させ、同じように反応時間に対する(−)EGCの消費量(モル)をプロットする。(−)ECでの試験と同様に(−)EGC濃度を上昇させてもそれ以上傾きが増加しない最高基質濃度でのデータを用いる。(−)ECおよび(−)EGCそれぞれのプロットから傾き(モル/分)を算出する。
【0057】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
(酵素量の検討)
EGCg 45マイクロモル(約20.6mg)とECg 10マイクロモル(約4.4mg)を50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。この溶液にSIGMA製のチロシナーゼを1000、2000、5000、7000、或いは10000U添加し、40℃で反応を行った。10〜30分まで適宜サンプリングを行い、全ての試料をHPLC分析に供し、カテキン類とテアフラビンの測定を行った。カテキン類およびテアフラビンの分析法は以下に示したとおりであり、定量には三井農林(株)製のカテキン類標準品とテアフラビン標準品を用いた。酵素量に対するTF3の生成量を図1および表1に示し、TF3生成量とECg使用量に対するTF3への変換効率を表1に示した。なお、図表には、各酵素使用量でのTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0059】
(カテキン類の測定方法)
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6mmI.D.×150mm(粒子径5μm、関東化学)、移動相:(A)超純水/リン酸/アセトニトリル=100/0.05/2.5(B)超純水/リン酸/アセトニトリル/メタノール=100/0.05/2.5/50、(A)100%で0〜3分まで保持、3〜25分で(B)0%→100%まで直線的にグラジエント溶出、25〜26分で(A)100%に戻し、26〜30分まで(A)100%で平衡化、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:230nm、注入量:10μL。
【0060】
(テアフラビンの測定方法)
カラム:CAPCELL PAK UG120 4.6mmI.D.×100mm(粒子径3μm、SHISEIDO)、移動相:(A)超純水/リン酸=100/0.05(B)アセトニトリル/酢酸エチル=98.5/1.5、(A)81%(B)19%で0〜13.3分まで保持、13.3〜26.6分で(B)19%→23%まで直線的にグラジエント溶出、その後、(A)50%(B)50%で3分間カラム洗浄、初期条件で5分間平衡化。流速:1.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長:280nm、注入量:20μL。
【0061】
【表1】
【0062】
表1および図1より、用いた酵素量が多くなるにつれて、TF3生成量は増大し、ECgに対するTF3への変換効率は高くなった。そして、使用酵素量が7000U以上でTF3の生成量および変換効率は最も高くなった。
【実施例2】
【0063】
(使用するEGCg:ECg比の検討)
EGCg:ECg比が1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、1.5:1(15マイクロモル:10マイクロモル)、2:1(20マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4:1(40マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)および9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)となるように50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。TF3生成量が最大となる反応時間を見出すために5分から60分まで適宜サンプリングを行い、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。EGCg:ECg比に対するTF3の生成量を図2および表2に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表2に示した。なお、図表には、各原料比におけるTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
EGCgをECgの3.5倍量以上使用した時、ECg使用量に対するTF3変換効率は80%以上となり、EGCg:ECgが4.5:1の時にTF3生成量、変換効率共に最大を示した。EGCg:ECgが9:1の時には、原料使用量が多くTF3の変換効率も低下する傾向を示した。
【実施例3】
【0066】
(反応pHの検討)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCgおよびECgを4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF3生成量を表3および図3に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表3に示した。なお、図表には、各pHにおけるTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3および図3に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECgの35%以上が、pH4.5〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの70%以上がTF3に変換されることがわかった。一方、pH3.0およびpH6.5以上ではTF3生成量および変換効率は著しく低下した。
【実施例4】
【0069】
(酵素反応時間の検討)
EGCg:ECg比が3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)および4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)となるように50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。反応時間に伴うTF3生成量を図4および表4に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表4に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4および図4に示したとおり、EGCg:ECg比に関わらず、反応開始20〜30分後にはECg使用量に対するTF3の変換効率が最大となった。
【実施例5】
【0072】
(酵素反応系の濃度の検討)
EGCgおよびECgを3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。次に、その2倍量(60マイクロモル:20マイクロモル)および5倍量(150マイクロモル:50マイクロモル)のEGCgとECgを50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。それぞれSIGMA製のチロシナーゼを7000、14000、35000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20、および30分後にサンプリングを行い、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。反応時間に伴うTF3生成量を図5および表5に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表5に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0073】
【表5】
【0074】
表5および図5より、TF3生成量およびTF3への変換効率が最も高かったのは、通常濃度の反応系(10mLに対してEGCgとECgを合わせて40マイクロモル使用したもの、つまり、ECg1ミリモルに対し反応系の総量が1Lであるもの)だった。
なお、上記試験におけるEGCg:ECgのモル比を3.5:1、4:1、4.5:1及び6:1に変更し、上記と同様の方法で酵素反応溶液の濃度について検討した結果、TF3への変換効率は上記結果と同様通常濃度の反応系で最も高かった。
【実施例6】
【0075】
(反応温度の検討)
EGCgおよびECgを4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)の比で4本の50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、それぞれ8℃、25℃、40℃および50℃で酵素反応を行った。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3生成量を図6および表6に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表6に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0076】
【表6】
【0077】
表6および図6に示したとおり、40℃と25℃で反応を行った時にTF3の生成量が最大を示したが、40℃では反応20分以後で生成量が最大となったのに対し、25℃では反応60分以後で最大となった。50℃では、20分で生成量が最大に達したがその生成量は25および40℃に及ばなかった。8℃では生成量が最大になるまでの反応時間が長く、その生成量も他の温度と比較して低いものであった。
【実施例7】
【0078】
(TF1での検証、原料比)
EGCおよびECを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGC:EC比でのTF1生成量を図7および表7に示し、EC使用量に対するTF1への変換効率を表7に示した。なお、図表には、TF1生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0079】
【表7】
【0080】
表7および図7に示したとおり、EGCをECの3倍量以上使用した時、TF1の生成量が最大になり、ECに対するTF1への変換効率が90%を超えた。
【実施例8】
【0081】
(TF1での検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCおよびECを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF1の生成量を表8および図8に示し、EC使用量に対するTF1への変換効率を表8に示した。なお、図表には、TF1生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0082】
【表8】
【0083】
表8および図8に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECの80%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECの89%以上が、pH4.0〜pH5.0の範囲であれば、使用したECの92%以上がTF1に変換されることがわかった。一方、pH3.0、6.5、および7.0では生成量および変換効率が著しく低下した。
【実施例9】
【0084】
(TF2Aでの検証、原料比)
EGCgおよびECを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGCg:EC比でのTF2Aの生成量を図9および表9に示し、EC使用量に対するTF2Aへの変換効率を表9に示した。なお、図表には、TF2A生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0085】
【表9】
【0086】
表9および図9に示したとおり、EGCgをECの3倍量以上使用した時、TF2Aの生成量が最大になり、ECに対するTF2Aへの変換効率が90%以上となった。
【実施例10】
【0087】
(TF2Aでの検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCgおよびECを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF2Aの生成量を表10および図10に示し、EC使用量に対するTF2Aへの変換効率を表10に示した。なお、図表には、TF2A生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10および図10に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECの50%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECの80%以上が、pH4.0〜pH5.0の範囲では85%以上がTF2Aに変換されることがわかった。
【実施例11】
【0090】
(TF2Bでの検証、原料比)
EGCおよびECgを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGC:ECg比でのTF2Bの生成量を図11および表11に示し、ECg使用量に対するTF2Bへの変換効率を表11に示した。なお、図表には、TF2B生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0091】
【表11】
【0092】
表11および図11に示したとおり、EGCをECgの3倍量以上使用した時、TF2Bの生成量が最大となり、ECgに対するTF2Bへの変換効率が95%を超えた。
【実施例12】
【0093】
(TF2Bでの検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCおよびECgを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF2Bの生成量を表12および図12に示し、ECg使用量に対するTF2Bへの変換効率を表12に示した。なお、図表には、TF2B生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0094】
【表12】
【0095】
表12および図12に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECgの55%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの75%以上が、pH4.5〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの90%以上がTF2Bに変換されることがわかった。
【実施例13】
【0096】
(スケールアップ)
EGCgおよびECgを4.5:1(900マイクロモル:200マイクロモル,約398mg:約92mg)の比で1リットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で200ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを140000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3生成量を図13および表13に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表13に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0097】
【表13】
【0098】
表13および図13に示したとおり、20倍にスケールアップした場合TF3への変換効率は89%であり、これまでの実施例での同条件での結果を上回る数値が得られた。
【実施例14】
【0099】
(TF異性体での検証1)
GCgおよびECgを4.5:1(900マイクロモル:200マイクロモル,約413mg:約88mg)の比で1リットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で200ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを140000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビン異性体の測定を行った。なお、テアフラビン異性体は、仮にそれぞれのエピ体を標準品として定量を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3異性体の生成量を図14および表14に示し、ECg使用量に対するTF3異性体への変換効率を表14に示した。ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0100】
【表14】
【0101】
表14および図14に示したとおり、GCgとECgからもテアフラビンが生成することが確認された。この結果から、エピ体以外のカテキンを用いても高変換効率(72%)でTF3異性体が得られることがわかった。なお、この異性体は今まで報告されていない新規なテアフラビンである。
【実施例15】
【0102】
(TF異性体での検証2)
表15の組み合わせでそれぞれピロガロール型カテキン:カテコール型カテキンの比が4.5:1(1.35マイクロモル:0.3マイクロモル)となるように20ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で4ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各220U使用し、40℃で酵素反応を行った。20分後に反応停止し、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビン異性体の測定を行った。なお、テアフラビン異性体は、仮にそれぞれのエピ体を標準品として定量を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF異性体の生成量と、カテコール型カテキン使用量に対するTF異性体への変換効率を表15に示した。なお、カテコール型カテキン使用量とは反応液に添加したカテコール型カテキンの量(モル)を示す。
【0103】
【表15】
【0104】
表15に示したとおり、テアフラビン異性体を高い変換効率で得ることが出来た。
【実施例16】
【0105】
((−)ECおよび(−)EGCの減少速度の比とTF3への変換効率)
(−)EC(35〜80マイクロモル)および(−)EGC(5〜80マイクロモル)に対し、酵素Aから酵素Fの6種類のポリフェノールオキシダーゼをpH5.0の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液中、40℃で作用させた。ポリフェノールオキシダーゼの使用量は酵素の種類によって異なり、各酵素において(−)ECおよび(−)EGCが反応時間とともに直線的に消費しうる量とした。基質量も酵素によって適宜調節し、単位時間あたりの基質減少量がそれぞれの酵素で最大となる最高濃度で試験を行った。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して実施例1に記載の方法でカテキン類の測定を行い、酵素毎にそれぞれの基質に対しての反応時間に伴う消費量(モル)を求めた。各酵素における反応時間に伴う(−)ECおよび(−)EGC消費量(モル)をプロットし、傾き、すなわち減少速度(1分間の消費量)を求めてその比を算出した。各酵素の(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比を表16に示した。
次に、EGCgおよびECgを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。上記A〜Fの6種類のポリフェノールオキシダーゼを各適量使用し、40℃で酵素反応を行った。使用量はそれぞれの酵素でTF3が最大生成量となるように設定した。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF3生成量およびECg使用量に対するTF3への変換効率を表16に示し、(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比とECg使用量に対するTF3への変換効率の相関を図15に示した。なお、図表には、TF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0106】
【表16】
【0107】
表16および図15より、減少速度の比(ECの減少速度(モル/分)/EGCの減少速度(モル/分))が大きくなるほどECg使用量に対するTF3への変換効率は高くなり、図15に示したように、その傾きの比が3.54以上であればECg使用量に対するTF3への変換効率が35%を超えるという結果が得られた。実際に、上記した減少速度の比が3.54に満たない酵素C、酵素D、酵素Eおよび酵素FではECgに対するTF3への変換効率が35%に満たないのに対し、消費直線の傾きの比が3.54を超えている酵素BおよびAではTF3への変換効率がそれぞれ46.3%および81.4%と高値で得られた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上の通り、本発明により、特別な装置を必要とせず、一般的な設備を利用して簡便にカテコール型カテキン使用量に対して高変換効率でテアフラビンを製造することが出来る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料使用量に対して高効率で簡便に各種テアフラビンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶は茶(Camellia sinensis)の葉を発酵することで製造され、世界中で飲用される。紅茶中には緑茶の代表的なポリフェノール成分であるカテキン類が酸化重合して生成した様々な重合ポリフェノールが多量に存在する。テアフラビン類はその中で最も知られている化合物であり、紅茶中には主に、テアフラビン(TF1、一般式(IV)のR1およびR2は水素原子)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A、一般式(IV)のR1はガロイル基、R2は水素原子)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B、一般式(IV)のR1は水素原子、R2はガロイル基)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3、一般式(IV)のR1およびR2はガロイル基)の4種類が存在する。これら4種のテアフラビンの構造を一般式(IV)に示した。
【0003】
【化4】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示す)
【0004】
上記した4種類のテアフラビンは、緑茶中に含まれるカテキン類が、茶葉中に存在する酵素(ポリフェノールオキシダーゼおよび/またはペルオキシダーゼ)を触媒として酸化されることにより生成する。TF1はエピガロカテキン(EGC、一般式(V)のR3は水酸基、R4は水素原子)とエピカテキン(EC、一般式(V)のR3、R4はともに水素原子)、TF2Aはエピガロカテキンガレート(EGCg、一般式(V)のR3は水酸基、R4はガロイル基)とEC、TF2BはEGCとエピカテキンガレート(ECg、一般式(V)のR3は水素原子、R4はガロイル基)、そしてTF3は、EGCgとECgからそれぞれ生成される。カテキン類の構造を一般式(V)に示した。
【0005】
【化5】
(式中、R3はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R4はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0006】
テアフラビンは紅茶中の赤色色素成分として飲用時の水色や渋味などに重要な役割を担う成分として知られてきたが、近年、その抗酸化活性や糖吸収抑制(非特許文献1、2)、抗菌活性(非特許文献3)など種々の生理活性を有することが明らかとなり、多くの研究がなされている。
【0007】
テアフラビンを取得する方法としては、紅茶葉から抽出する方法、フェリシアン化カリウムを用いた化学的合成法(非特許文献4)、ペルオキシダーゼを用いた酵素的合成法(非特許文献5、特許文献1)、タンナーゼ処理した生茶葉のスラリーを発酵させてテアフラビンを豊富に含む茶抽出物を製造する方法(特許文献2)、ペルオキシダーゼ活性を有する植物細胞培養液を利用した合成法(特許文献3)、ポリフェノールオキシダーゼを用いて酵素的に合成する方法(特許文献4)などたくさんの手法が提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−504168号公報
【特許文献2】特開平11−225672号公報
【特許文献3】特開2007−143461号公報
【特許文献4】特開2005−523242号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Miwa Honda, Yukihiko Hara, Biosci.Biotech.Biochem.,57,pp.123(1993)
【非特許文献2】Yukihiko Hara, Miwa Honda, Agric.Biol.Chem.,54,pp.1939(1990)
【非特許文献3】堀内 善信 他、感染症誌、66、pp.599(1992)
【非特許文献4】Yoshinori Takino, Hiroshi Imagawa, Agric.Biol.Chem.,27,pp.319−321(1963)
【非特許文献5】Shengmin Sang, et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry,12,pp.459−467(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
テアフラビンの合成について記載された先行文献を検証すると、まず、紅茶葉から抽出する方法では、茶葉中に含まれるテアフラビン総量は茶葉重量に対して多くても1%程度と、その量は極微量であることから、多量のテアフラビンを紅茶葉から抽出し精製することは容易ではない。また、化学合成法ではテアフラビン生成以外の酸化反応物も多く生成してしまうため、使用した原料に対するテアフラビンの変換効率は低かった。
【0011】
そこで、テアフラビンを簡便で原料使用量に対して高効率に合成する方法に関し、本発明者らは、まず、化学的な反応を用いた化学合成法よりも基質特異性を有する酵素を用いた方が、原料であるカテキン類をテアフラビンに高効率で変換する条件を見出せるだろうと考えた。
【0012】
酵素を用いる従来法としては、ポリフェノールオキシダーゼを用いてTF1、TF2A、TF2BおよびTF3の混合物を合成する方法が特許文献4に開示されているが、テアフラビンの生成効率が低く、また、目的とするテアフラビン以外の酸化物も多く生成してしまうという欠点がある。さらに、テアフラビン混合物として生成するので、例えば、着色剤として利用しようとした場合に、色調が異なるTF1、TF2A、TF2BおよびTF3を所望の比率で混合することが難しい。また、各種テアフラビンの生理活性を比較しようとした場合や特定のテアフラビンの生理活性を調べようとした場合には、得られた混合物からテアフラビンを個別に分離精製する必要が生じ、操作が煩雑になるばかりか精製に長時間を要してしまう。
このように、テアフラビン混合物の形態ではその用途が大幅に制限を受けてしまうことから、各種テアフラビンを個別に生成する簡便な方法が求められている。
【0013】
各種テアフラビンを個別に生成する方法としては、カテキン類にペルオキシダーゼを作用させる方法が特許文献1および非特許文献5に開示されているが、テアフラビンの収率が数%〜十数%と低く、テアフラビン以外の酸化物が多く生成してしまうために分離精製操作に時間と手間を要する。また、植物細胞培養物中のペルオキシダーゼを用いる方法が報告されているが(特許文献3)、テアフラビンの収率が低いといった欠点のほか、植物細胞を培養するのに手間と日数がかかるという問題がある。さらに、どちらの方法も過酸化水素を添加しなければならず、その操作にも細心の注意を払う必要があるため、簡便な酵素合成法とは言い難い。その他、タンナーゼ処理後の緑茶スラリーを酵素酸化する方法(特許文献2)では高変換効率でTF1を得ることができるものの、酵素反応を2段階行う必要性があるばかりか、生成したTF1を分離精製する操作が煩雑である。さらに、この方法ではTF1以外のテアフラビン類への適用ができない。このように、各種テアフラビンを個別に生成する方法が種々考えられてはきたものの、変換効率や操作性、目的とするテアフラビンが制限されるといった問題点を抱えており、満足のいく方法ではなかった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、各種テアフラビンを個別に酵素合成する方法において、原料であるカテキン類を効率よくテアフラビンに変換させることを特徴とする、高収率で簡便にテアフラビンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そして上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、目的のテアフラビンの原料となるピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、それら2種類のカテキンをポリフェノールオキシダーゼとpH4.0〜6.0の条件下で反応させるだけで、従来よりもはるかに効率よくカテコール型カテキンを各種テアフラビンへ変換できることを見出した。
【0016】
即ち、請求項1記載の本発明は、一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることを特徴とする一般式(III)で表されるテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0017】
【化1】
(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0018】
【化2】
(式中、R2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0019】
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0020】
また、請求項2記載の本発明は、ポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用したときの減少速度(モル/分)と(−)EGCに作用したときの減少速度(モル/分)の比が以下に示す数値となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いる請求項1に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
<数値比率>
(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)≧3.54
【0021】
また、請求項3記載の本発明は、ポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼを用いる請求項2に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0022】
また、請求項4記載の本発明は、一般式(II)で表されるカテコール型カテキン10マイクロモルに対してポリフェノールオキシダーゼを2000〜7000U作用させる請求項3に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0023】
また、請求項5記載の本発明は、一般式(II)で表されるカテコール型カテキン1ミリモルに対して反応系の総液量が1リットル以上である請求項4に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0024】
また、請求項6記載の本発明は、酵素反応の時間が10〜30分間である請求項5に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0025】
また、請求項7記載の本発明は、酵素反応のpHがpH4.0〜5.5である請求項6に記載のテアフラビンの製造方法を提供するものである。
【0026】
本発明におけるピロガロール型カテキンとは、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートを代表とする一般式(V)のR3が水酸基である構造を有する化合物、カテコール型カテキンとは、エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレートを代表とする一般式(V)のR3が水素原子である構造を有する化合物を意味する。
【0027】
【化5】
(式中、R3はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R4はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【0028】
本発明におけるテアフラビンとは、テアフラビン(TF1)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3)、ネオテアフラビン((−)EGCと(+)C)、ネオテアフラビン 3−O−ガレート((−)EGCgと(+)C)、イソテアフラビン((+)GCと(−)EC)、イソテアフラビン 3’−O−ガレート((+)GCと(−)ECg)を代表とする一般式(III)に示す構造を有する化合物を意味する。
【0029】
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【発明の効果】
【0030】
本発明におけるテアフラビンの酵素合成法は、特別な装置を必要とせず、一般的な製造設備を利用して簡便でありながら、従来法と比較してはるかに効率よくカテコール型カテキンをテアフラビンに変換することができる。すなわち、テアフラビンを高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】酵素使用量に対するTF3生成量
【図2】使用したEGCg:ECg比に対するTF3生成量
【図3】反応系のpHに対するTF3生成量
【図4】反応時間に伴うTF3生成量
【図5】反応時間に伴うTF3生成量
【図6】反応時間に伴うTF3生成量
【図7】使用したEGC:EC比に対するTF1生成量
【図8】反応系のpHに対するTF1生成量
【図9】使用したEGCg:EC比に対するTF2A生成量
【図10】反応系のpHに対するTF2A生成量
【図11】使用したEGC:ECg比に対するTF2B生成量
【図12】反応系のpHに対するTF2B生成量
【図13】反応時間に伴うTF3生成量
【図14】反応時間に伴うTF3異性体生成量
【図15】(−)ECに対する減少速度/(−)EGCに対する減少速度の比とTF3への変換効率
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下において、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明におけるテアフラビンの製造方法は、カテコール型カテキン使用量に対する各種テアフラビンへの変換効率が従来よりも顕著に高く、例えば、TF1の従来法の変換率は30%程度、TF2A、TF2B、TF3の場合は数%程度であったところ、本発明におけるテアフラビンの生成効率は、カテコール型カテキン使用量の好ましくは35%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。詳細には、TF1の場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、TF2A、TF2Bの場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、TF3の場合、カテコール型カテキン使用量の好ましくは35%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。なお、この場合のカテコール型カテキン使用量とは、反応液に添加したカテコール型カテキン量を示す。
【0033】
本発明におけるテアフラビンの製造法は、ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることによって、従来法よりも効率よくカテコール型カテキンをテアフラビンに変換するものである。詳しくは、一般式(I)及び一般式(II)で表されるカテキン類を主原料とし、pH4.0〜6.0の緩衝液中でポリフェノールオキシダーゼを作用させることによって、一般式(III)で表される各種テアフラビンを得るものである。
【0034】
本発明の基本的な態様は、一般式(I)のピロガロール型カテキンの一種と一般式(II)のカテコール型カテキンの一種を原料に用いてテアフラビンを得る方法である。
【0035】
本発明におけるピロガロール型カテキンとは、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートを代表とする一般式(I)の構造を有する化合物、カテコール型カテキンとは、エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレートを代表とする一般式(II)の構造を有する化合物を意味する。
【0036】
また、本発明におけるテアフラビンとは、テアフラビン(TF1)、テアフラビン 3−O−ガレート(TF2A)、テアフラビン 3’−O−ガレート(TF2B)、テアフラビン 3,3’−ジ−O−ガレート(TF3)、ネオテアフラビン、ネオテアフラビン 3−O−ガレート、イソテアフラビン、イソテアフラビン 3’−O−ガレートを代表とする一般式(III)に示す構造を有する化合物である。
【0037】
また、原料として用いるカテキン類が高純度であるほど得られるテアフラビンの量は多く、さらに反応による副生成物の量が低下するため好ましい。
【0038】
得られたテアフラビンは天然の赤色色素であるため食品や飲料の着色剤としてはもちろんのこと、抗酸化剤や抗菌剤として、あるいは、血糖上昇抑制剤、血圧上昇抑制剤、脂質代謝改善剤、抗ガン剤等の生理活性剤として、さらに、渋み添加剤等の風味改善剤としての応用が考えられる。
【0039】
一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させるだけでも各種テアフラビンを高効率で得ることはできるが、ポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用したときの減少速度(モル/分)と、等量のポリフェノールオキシダーゼを(−)EGCに作用したときの減少速度(モル/分)の比が3.54以上となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いることでテアフラビンへの変換効率を上げることができる。この特徴を有するポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼ、特にマッシュルーム由来のチロシナーゼが挙げられるが、この特徴を示す酵素であれば何であっても良く、また2種以上のポリフェノールオキシダーゼの混合物でもよく、特に制限されない。ポリフェノールオキシダーゼの具体例としては、チロシナーゼ、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼなどが挙げられる。
酵素を作用させる方法は特に制限されないが、例えば市販の酵素粉末を直接反応系に添加する方法、あるいは酵素粉末を水で溶解後、反応系に添加する方法が挙げられる。
【0040】
ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンの使用モル比は3.5:1〜6:1であるが、より高い変換効率を得るためにはその使用モル比は4:1〜5.5:1が好ましく、より好ましくは4.5:1〜5:1である。カテコール型カテキンに対するピロガロール型カテキンの使用モル比が3.5未満であるとテアフラビンへの変換効率が低くなる。また、モル比が6を超えると高価な原料であるカテキンを多量に使用しなければならず経済的に不利となる上、副生成物の量も増加して分離精製操作が煩雑になり好ましくない。
【0041】
また、本発明で使用するポリフェノールオキシダーゼは、(−)ECに作用させたときの減少速度(モル/分)と(−)EGCに作用させたときの減少速度(モル/分)の比を3.54以上にするとカテコール型カテキン使用量に対して少なくとも35%以上がテアフラビンに変換されるが、より高い変換効率を得るためにはその比が望ましくは4.2以上、より望ましくは5.4以上、さらに望ましくは6.8以上、いっそう望ましくは8.6以上、最も望ましくは11.2以上がよい。これらの数値を示すポリフェノールオキシダーゼを用いるとカテコール型カテキン使用量に対して少なくとも40%以上、より望ましくは50%以上、さらに望ましくは60%以上、いっそう望ましくは70%以上および最も望ましくは80%以上の変換効率でテアフラビンが得られるため好適である。(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比が3.54未満のポリフェノールオキシダーゼではテアフラビンへの変換効率が低下してしまうため好ましくない。例えば、この比が3.0のポリフェノールオキシダーゼを用いた場合テアフラビン生成量は減少し、TF1、TF2A、TF2BおよびTF3の中で最も変換効率の低いTF3ではその効率が35%に満たない。
【0042】
また、酵素反応のpHを4.0〜6.0、望ましくは4.5〜5.5、より望ましくは4.5〜5.0に調整するとカテコール型カテキン使用量に対して高い変換効率でテアフラビンが得られるため好ましい。pH4.0未満あるいはpH6.0を超えるとテアフラビンへの変換効率が著しく低下してしまう。例えば、本発明で使用するポリフェノールオキシダーゼのうちチロシナーゼ(マッシュルーム由来)の至適pHはpH6〜7であるが、本発明法においては、チロシナーゼの至適pH6.5で酵素反応させるとテアフラビン生成量は著しく低減してしまう。
【0043】
また、本発明で作用させる酵素量は、他の条件(原料となるカテキン組成比、酵素反応のpH、反応液中のカテキン濃度、反応温度、反応時間など)に合わせテアフラビンへの変換効率が高くなるよう適宜決定すればよいが、通常は、使用するカテコール型カテキン10マイクロモルに対して2000〜7000Uが好ましく、5000〜7000Uがより好ましい。好ましい範囲内では、例えば市販のSIGMA製のチロシナーゼを使用した場合、原料使用総重量/酵素使用重量の比が1/0.001以上1/0.1未満となる。使用するカテコール型カテキン10マイクロモルに対して2000〜7000Uの酵素を作用させるとテアフラビンへの変換効率は、カテコール型カテキン使用量の50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上となる。なお、酵素単位1UはpH6.5、25℃の条件下で、3mLの0.5mMチロシン溶液の280nmの吸光度を1分間に0.001上昇させる酵素量を表す。
【0044】
さらに、カテコール型カテキン1ミリモルに対して反応液総量を1リットル以上に調整するとカテコール型カテキンからテアフラビンに効率よく変換することができるため好ましい。
【0045】
酵素反応時間は10〜180分が好ましい。より好ましくは10〜30分、さらに好ましくは、40℃の条件下で、20〜30分の反応を行うとカテコール型カテキン使用量に対して50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上の変換効率でテアフラビンが得られ、反応にかかる時間が短縮されることから、操作が迅速となり好ましい。
【0046】
上記のように、ピロガロール型カテキンとカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用することによって得られたテアフラビンを、吸着樹脂などのカラムクロマトグラフィーを用いた分離法により精製すれば、より純度の高いテアフラビンの精製品を得ることができる。
【0047】
吸着樹脂としては、吸着能力の高い合成吸着樹脂が好適である。具体的には、合成吸着樹脂を充填したカラムに、酵素反応後の溶液を通液し、テアフラビンを樹脂に吸着させ、有機溶媒を用いて目的のテアフラビンを樹脂より溶出し、精製テアフラビンを得る。この操作は通常、合成吸着樹脂を充填したカラムを用いて行うが、カラムを用いずにバッチ式で行うこともできる。
【0048】
この際使用可能な合成吸着樹脂としては、スチレンジビニルベンゼン系、メタクリル系、スチレン系、修飾スチレン系、アクリル系、アミド系、デキストラン系、セルロース系、ポリビニル系等の樹脂が使用可能であり、市販品では、例えばスチレンジビニルベンゼン系のダイアイオンHP−20、ダイアイオンHP−21、MCI(登録商標)GEL CHP55A、MCIGEL CHP55Y、MCIGEL CHP20A、MCIGEL CHP20Y(以上、三菱化学(株)製)、アンバーライトXAD−2、アンバーライトXAD−4(以上、米国ローム・アンド・ハース社製)、メタクリル系のダイアイオンHP−2MG(三菱化学(株)製)、スチレン系としてアンバーライトXAD−16(米国ローム・アンド・ハース社製)、修飾スチレン系としてセパビーズsp207(三菱化学(株)製)、アクリル系のダイアイオンWK−20(三菱化学(株)製)、アミド系のXAD−11(米国ローム・アンド・ハース社製)、デキストラン系のSephadex LH−20(ファルマシア社製)、セルロース系のINDION DS−3(フェニックスケミカルズ社製)、ポリビニル系のトヨパールHW−40(東ソー(株)製)等を挙げることができるがこれに限定されない。
【0049】
また、他の吸着剤としてはシリカゲル系が使用可能であり、例えば市販品ではシリカゲル40、シリカゲル60(球状)(以上、関東化学(株)製)、シリカゲル中圧分取用(山善株式会社)等が挙げられ、ODSなどアルキル基が化学結合したタイプとしてクロマトレックス(富士シリシア化学(株)製)、オクタデシル中圧分取用(山善株式会社)等を挙げることが出来るが、これに限定されない。
【0050】
溶出に用いる溶媒としては、水の他に例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなど、水と任意に混和する有機溶媒を用いることができる。
【0051】
樹脂と溶出溶媒の組み合わせとしては、上記のものを任意に組み合わせて使用することができるが、飲料などの用途に供する場合は食品衛生法の観点から、特に親水性ビニルポリマー樹脂に吸着させた後、エタノール(含水しても良い)で溶出するのが好ましい。この溶出液を通常の方法で乾固、あるいは結晶化し、目的のテアフラビンを得ることができる。
【0052】
テアフラビンのうち、TF1、TF2A、TF2BおよびTF3の4成分は以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLC)を用いて定量分析することができる。定量分析には常法に従って調製した標準品を用いればよいが、市販されている各テアフラビン試薬(長良サイエンス株式会社製、和光純薬工業株式会社製など)を標準品として利用することもできる。
【0053】
(テアフラビンの測定条件)
カラム:CAPCELL PAK UG120 4.6mmI.D.×100mm(粒子径3μm、SHISEIDO)、移動相:(A)超純水/リン酸=100/0.05(B)アセトニトリル/酢酸エチル=98.5/1.5、(A)81%(B)19%で0〜13.3分まで保持、13.3〜26.6分で(B)19%→23%まで直線的にグラジエント溶出、その後、(A)50%(B)50%で3分間カラム洗浄、初期条件で5分間平衡化。流速:1.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長:280nm、注入量:20μL。
【0054】
カテキン類のうち、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレートの8成分は以下の条件によりHPLCで定量分析することができる。定量分析には常法に従って調製した標準品を用いればよいが、市販されている各カテキン試薬(SIGMA製、ナカライテスク株式会社製など)を標準品として利用することもできる。
【0055】
(カテキン類の測定条件)
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6mmI.D.×150mm(粒子径5μm、関東化学)、移動相:(A)超純水/リン酸/アセトニトリル=100/0.05/2.5(B)超純水/リン酸/アセトニトリル/メタノール=100/0.05/2.5/50、(A)100%で0〜3分まで保持、3〜25分で(B)0%→100%まで直線的にグラジエント溶出、25〜26分で(A)100%に戻し、26〜30分まで(A)100%で平衡化、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:230nm、注入量:10μL。
【0056】
本発明のポリフェノールオキシダーゼを(−)ECに作用させたときおよび(−)EGCに作用させたときの減少速度(モル/分)を算出する方法は以下のとおりである。まず、ポリフェノールオキシダーゼの使用量は(−)ECおよび(−)EGCの双方に対し、反応時間に伴って基質を直線的に消費しうる量とし、その量はポリフェノールオキシダーゼにより異なる。決定した一定量のポリフェノールオキシダーゼを0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)中で(−)ECに作用させ、反応時間に対する(−)ECの消費量(モル)をプロットする。このとき、(−)EC濃度を上昇させてもそれ以上傾きが増加しない最高基質濃度でのデータを用いる。次に(−)ECに作用させたのと等量のポリフェノールオキシダーゼを0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)中で(−)EGCに作用させ、同じように反応時間に対する(−)EGCの消費量(モル)をプロットする。(−)ECでの試験と同様に(−)EGC濃度を上昇させてもそれ以上傾きが増加しない最高基質濃度でのデータを用いる。(−)ECおよび(−)EGCそれぞれのプロットから傾き(モル/分)を算出する。
【0057】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
(酵素量の検討)
EGCg 45マイクロモル(約20.6mg)とECg 10マイクロモル(約4.4mg)を50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。この溶液にSIGMA製のチロシナーゼを1000、2000、5000、7000、或いは10000U添加し、40℃で反応を行った。10〜30分まで適宜サンプリングを行い、全ての試料をHPLC分析に供し、カテキン類とテアフラビンの測定を行った。カテキン類およびテアフラビンの分析法は以下に示したとおりであり、定量には三井農林(株)製のカテキン類標準品とテアフラビン標準品を用いた。酵素量に対するTF3の生成量を図1および表1に示し、TF3生成量とECg使用量に対するTF3への変換効率を表1に示した。なお、図表には、各酵素使用量でのTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0059】
(カテキン類の測定方法)
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6mmI.D.×150mm(粒子径5μm、関東化学)、移動相:(A)超純水/リン酸/アセトニトリル=100/0.05/2.5(B)超純水/リン酸/アセトニトリル/メタノール=100/0.05/2.5/50、(A)100%で0〜3分まで保持、3〜25分で(B)0%→100%まで直線的にグラジエント溶出、25〜26分で(A)100%に戻し、26〜30分まで(A)100%で平衡化、流速:1mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:230nm、注入量:10μL。
【0060】
(テアフラビンの測定方法)
カラム:CAPCELL PAK UG120 4.6mmI.D.×100mm(粒子径3μm、SHISEIDO)、移動相:(A)超純水/リン酸=100/0.05(B)アセトニトリル/酢酸エチル=98.5/1.5、(A)81%(B)19%で0〜13.3分まで保持、13.3〜26.6分で(B)19%→23%まで直線的にグラジエント溶出、その後、(A)50%(B)50%で3分間カラム洗浄、初期条件で5分間平衡化。流速:1.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長:280nm、注入量:20μL。
【0061】
【表1】
【0062】
表1および図1より、用いた酵素量が多くなるにつれて、TF3生成量は増大し、ECgに対するTF3への変換効率は高くなった。そして、使用酵素量が7000U以上でTF3の生成量および変換効率は最も高くなった。
【実施例2】
【0063】
(使用するEGCg:ECg比の検討)
EGCg:ECg比が1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、1.5:1(15マイクロモル:10マイクロモル)、2:1(20マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4:1(40マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)および9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)となるように50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。TF3生成量が最大となる反応時間を見出すために5分から60分まで適宜サンプリングを行い、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。EGCg:ECg比に対するTF3の生成量を図2および表2に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表2に示した。なお、図表には、各原料比におけるTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
EGCgをECgの3.5倍量以上使用した時、ECg使用量に対するTF3変換効率は80%以上となり、EGCg:ECgが4.5:1の時にTF3生成量、変換効率共に最大を示した。EGCg:ECgが9:1の時には、原料使用量が多くTF3の変換効率も低下する傾向を示した。
【実施例3】
【0066】
(反応pHの検討)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCgおよびECgを4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF3生成量を表3および図3に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表3に示した。なお、図表には、各pHにおけるTF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3および図3に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECgの35%以上が、pH4.5〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの70%以上がTF3に変換されることがわかった。一方、pH3.0およびpH6.5以上ではTF3生成量および変換効率は著しく低下した。
【実施例4】
【0069】
(酵素反応時間の検討)
EGCg:ECg比が3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)および4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)となるように50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。反応時間に伴うTF3生成量を図4および表4に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表4に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4および図4に示したとおり、EGCg:ECg比に関わらず、反応開始20〜30分後にはECg使用量に対するTF3の変換効率が最大となった。
【実施例5】
【0072】
(酵素反応系の濃度の検討)
EGCgおよびECgを3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。次に、その2倍量(60マイクロモル:20マイクロモル)および5倍量(150マイクロモル:50マイクロモル)のEGCgとECgを50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。それぞれSIGMA製のチロシナーゼを7000、14000、35000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20、および30分後にサンプリングを行い、全試料をHPLC分析に供し、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。反応時間に伴うTF3生成量を図5および表5に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表5に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0073】
【表5】
【0074】
表5および図5より、TF3生成量およびTF3への変換効率が最も高かったのは、通常濃度の反応系(10mLに対してEGCgとECgを合わせて40マイクロモル使用したもの、つまり、ECg1ミリモルに対し反応系の総量が1Lであるもの)だった。
なお、上記試験におけるEGCg:ECgのモル比を3.5:1、4:1、4.5:1及び6:1に変更し、上記と同様の方法で酵素反応溶液の濃度について検討した結果、TF3への変換効率は上記結果と同様通常濃度の反応系で最も高かった。
【実施例6】
【0075】
(反応温度の検討)
EGCgおよびECgを4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)の比で4本の50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、それぞれ8℃、25℃、40℃および50℃で酵素反応を行った。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3生成量を図6および表6に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表6に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0076】
【表6】
【0077】
表6および図6に示したとおり、40℃と25℃で反応を行った時にTF3の生成量が最大を示したが、40℃では反応20分以後で生成量が最大となったのに対し、25℃では反応60分以後で最大となった。50℃では、20分で生成量が最大に達したがその生成量は25および40℃に及ばなかった。8℃では生成量が最大になるまでの反応時間が長く、その生成量も他の温度と比較して低いものであった。
【実施例7】
【0078】
(TF1での検証、原料比)
EGCおよびECを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGC:EC比でのTF1生成量を図7および表7に示し、EC使用量に対するTF1への変換効率を表7に示した。なお、図表には、TF1生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0079】
【表7】
【0080】
表7および図7に示したとおり、EGCをECの3倍量以上使用した時、TF1の生成量が最大になり、ECに対するTF1への変換効率が90%を超えた。
【実施例8】
【0081】
(TF1での検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCおよびECを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF1の生成量を表8および図8に示し、EC使用量に対するTF1への変換効率を表8に示した。なお、図表には、TF1生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0082】
【表8】
【0083】
表8および図8に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECの80%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECの89%以上が、pH4.0〜pH5.0の範囲であれば、使用したECの92%以上がTF1に変換されることがわかった。一方、pH3.0、6.5、および7.0では生成量および変換効率が著しく低下した。
【実施例9】
【0084】
(TF2Aでの検証、原料比)
EGCgおよびECを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGCg:EC比でのTF2Aの生成量を図9および表9に示し、EC使用量に対するTF2Aへの変換効率を表9に示した。なお、図表には、TF2A生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0085】
【表9】
【0086】
表9および図9に示したとおり、EGCgをECの3倍量以上使用した時、TF2Aの生成量が最大になり、ECに対するTF2Aへの変換効率が90%以上となった。
【実施例10】
【0087】
(TF2Aでの検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCgおよびECを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF2Aの生成量を表10および図10に示し、EC使用量に対するTF2Aへの変換効率を表10に示した。なお、図表には、TF2A生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECに対する変換効率を示す。また、EC使用量とは反応液に添加したECの量(モル)を示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10および図10に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECの50%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECの80%以上が、pH4.0〜pH5.0の範囲では85%以上がTF2Aに変換されることがわかった。
【実施例11】
【0090】
(TF2Bでの検証、原料比)
EGCおよびECgを1:1(10マイクロモル:10マイクロモル)、3:1(30マイクロモル:10マイクロモル)、3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)、4.5:1(45マイクロモル:10マイクロモル)、6:1(60マイクロモル:10マイクロモル)、9:1(90マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10〜60分の間に適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各EGC:ECg比でのTF2Bの生成量を図11および表11に示し、ECg使用量に対するTF2Bへの変換効率を表11に示した。なお、図表には、TF2B生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0091】
【表11】
【0092】
表11および図11に示したとおり、EGCをECgの3倍量以上使用した時、TF2Bの生成量が最大となり、ECgに対するTF2Bへの変換効率が95%を超えた。
【実施例12】
【0093】
(TF2Bでの検証、反応pH)
8条件(pH3.0、pH4.0、pH4.5、pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5およびpH7.0)の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液を調製した。EGCおよびECgを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、各緩衝液で10ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各7000U使用し、40℃で酵素反応を行った。10、20、30、45、60分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF2Bの生成量を表12および図12に示し、ECg使用量に対するTF2Bへの変換効率を表12に示した。なお、図表には、TF2B生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0094】
【表12】
【0095】
表12および図12に示したとおり、pH4.0〜pH6.0の範囲であれば、使用したECgの55%以上が、pH4.0〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの75%以上が、pH4.5〜pH5.5の範囲であれば、使用したECgの90%以上がTF2Bに変換されることがわかった。
【実施例13】
【0096】
(スケールアップ)
EGCgおよびECgを4.5:1(900マイクロモル:200マイクロモル,約398mg:約92mg)の比で1リットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で200ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを140000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3生成量を図13および表13に示し、ECg使用量に対するTF3への変換効率を表13に示した。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0097】
【表13】
【0098】
表13および図13に示したとおり、20倍にスケールアップした場合TF3への変換効率は89%であり、これまでの実施例での同条件での結果を上回る数値が得られた。
【実施例14】
【0099】
(TF異性体での検証1)
GCgおよびECgを4.5:1(900マイクロモル:200マイクロモル,約413mg:約88mg)の比で1リットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で200ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを140000U使用し、40℃で酵素反応を行った。5、10、20分後にサンプリングし、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビン異性体の測定を行った。なお、テアフラビン異性体は、仮にそれぞれのエピ体を標準品として定量を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF3異性体の生成量を図14および表14に示し、ECg使用量に対するTF3異性体への変換効率を表14に示した。ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0100】
【表14】
【0101】
表14および図14に示したとおり、GCgとECgからもテアフラビンが生成することが確認された。この結果から、エピ体以外のカテキンを用いても高変換効率(72%)でTF3異性体が得られることがわかった。なお、この異性体は今まで報告されていない新規なテアフラビンである。
【実施例15】
【0102】
(TF異性体での検証2)
表15の組み合わせでそれぞれピロガロール型カテキン:カテコール型カテキンの比が4.5:1(1.35マイクロモル:0.3マイクロモル)となるように20ミリリットルの三角フラスコに入れ、それぞれ0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で4ミリリットルにした。SIGMA製のチロシナーゼを各220U使用し、40℃で酵素反応を行った。20分後に反応停止し、全試料をHPLC分析に供して、実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビン異性体の測定を行った。なお、テアフラビン異性体は、仮にそれぞれのエピ体を標準品として定量を行った。各反応温度での反応時間に伴うTF異性体の生成量と、カテコール型カテキン使用量に対するTF異性体への変換効率を表15に示した。なお、カテコール型カテキン使用量とは反応液に添加したカテコール型カテキンの量(モル)を示す。
【0103】
【表15】
【0104】
表15に示したとおり、テアフラビン異性体を高い変換効率で得ることが出来た。
【実施例16】
【0105】
((−)ECおよび(−)EGCの減少速度の比とTF3への変換効率)
(−)EC(35〜80マイクロモル)および(−)EGC(5〜80マイクロモル)に対し、酵素Aから酵素Fの6種類のポリフェノールオキシダーゼをpH5.0の0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液中、40℃で作用させた。ポリフェノールオキシダーゼの使用量は酵素の種類によって異なり、各酵素において(−)ECおよび(−)EGCが反応時間とともに直線的に消費しうる量とした。基質量も酵素によって適宜調節し、単位時間あたりの基質減少量がそれぞれの酵素で最大となる最高濃度で試験を行った。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して実施例1に記載の方法でカテキン類の測定を行い、酵素毎にそれぞれの基質に対しての反応時間に伴う消費量(モル)を求めた。各酵素における反応時間に伴う(−)ECおよび(−)EGC消費量(モル)をプロットし、傾き、すなわち減少速度(1分間の消費量)を求めてその比を算出した。各酵素の(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比を表16に示した。
次に、EGCgおよびECgを3.5:1(35マイクロモル:10マイクロモル)の比で50ミリリットルの三角フラスコに入れ、0.05Mクエン酸−0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)で10ミリリットルにした。上記A〜Fの6種類のポリフェノールオキシダーゼを各適量使用し、40℃で酵素反応を行った。使用量はそれぞれの酵素でTF3が最大生成量となるように設定した。適宜サンプリングし、全試料をHPLC分析に供して実施例1に記載の方法でカテキン類とテアフラビンの測定を行った。TF3生成量およびECg使用量に対するTF3への変換効率を表16に示し、(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)の比とECg使用量に対するTF3への変換効率の相関を図15に示した。なお、図表には、TF3生成量が最大となるときの反応時間の値を用い、そのときのECgに対する変換効率を示す。また、ECg使用量とは反応液に添加したECgの量(モル)を示す。
【0106】
【表16】
【0107】
表16および図15より、減少速度の比(ECの減少速度(モル/分)/EGCの減少速度(モル/分))が大きくなるほどECg使用量に対するTF3への変換効率は高くなり、図15に示したように、その傾きの比が3.54以上であればECg使用量に対するTF3への変換効率が35%を超えるという結果が得られた。実際に、上記した減少速度の比が3.54に満たない酵素C、酵素D、酵素Eおよび酵素FではECgに対するTF3への変換効率が35%に満たないのに対し、消費直線の傾きの比が3.54を超えている酵素BおよびAではTF3への変換効率がそれぞれ46.3%および81.4%と高値で得られた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上の通り、本発明により、特別な装置を必要とせず、一般的な設備を利用して簡便にカテコール型カテキン使用量に対して高変換効率でテアフラビンを製造することが出来る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることを特徴とする一般式(III)で表されるテアフラビンの製造方法。
【化1】
(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【化2】
(式中、R2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【請求項2】
ポリフェノールオキシダーゼを(−)エピカテキン((−)EC)に作用させたときの減少速度(モル/分)と(−)エピガロカテキン((−)EGC)に作用させたときの減少速度(モル/分)の比が、以下に示す数値となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いる請求項1に記載のテアフラビンの製造方法。
<数値比率>
(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)≧3.54
【請求項3】
ポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼを用いる請求項2に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項4】
一般式(II)で表されるカテコール型カテキン10マイクロモルに対してポリフェノールオキシダーゼを2000〜7000U作用させる請求項3に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項5】
一般式(II)で表されるカテコール型カテキン1ミリモルに対して反応系の総液量が1リットル以上である請求項4に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項6】
酵素反応の時間が10〜30分間である請求項5に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項7】
酵素反応のpHが4.0〜5.5である請求項6に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項1】
一般式(I)で表されるピロガロール型カテキンと一般式(II)で表されるカテコール型カテキンをモル比3.5:1〜6:1で使用し、ポリフェノールオキシダーゼをpH4.0〜6.0で作用させることを特徴とする一般式(III)で表されるテアフラビンの製造方法。
【化1】
(式中、R1はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【化2】
(式中、R2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環の2位および3位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【化3】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はガロイル基を示し、ベンゾピラン環のa位、b位、c位およびd位の立体配置はR配置、S配置のどちらであってもよい)
【請求項2】
ポリフェノールオキシダーゼを(−)エピカテキン((−)EC)に作用させたときの減少速度(モル/分)と(−)エピガロカテキン((−)EGC)に作用させたときの減少速度(モル/分)の比が、以下に示す数値となるようなポリフェノールオキシダーゼを用いる請求項1に記載のテアフラビンの製造方法。
<数値比率>
(−)ECの減少速度(モル/分)/(−)EGCの減少速度(モル/分)≧3.54
【請求項3】
ポリフェノールオキシダーゼとしてチロシナーゼを用いる請求項2に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項4】
一般式(II)で表されるカテコール型カテキン10マイクロモルに対してポリフェノールオキシダーゼを2000〜7000U作用させる請求項3に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項5】
一般式(II)で表されるカテコール型カテキン1ミリモルに対して反応系の総液量が1リットル以上である請求項4に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項6】
酵素反応の時間が10〜30分間である請求項5に記載のテアフラビンの製造方法。
【請求項7】
酵素反応のpHが4.0〜5.5である請求項6に記載のテアフラビンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−35548(P2010−35548A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104166(P2009−104166)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】
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