説明

テトラヒドロピランを溶媒とする含酸素クロロベンゼン化合物のグリニャール試薬の製造方法

【課題】芳香族塩化物、特に含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際に、含酸素クロロベンゼン化合物の反応性の低さを改善し、反応時間の長さ及びグリニャール試薬の収率を改善する。
【解決手段】含酸素クロロベンゼン化合物を原料とするグリニャール試薬製造工程の溶媒にテトラヒドロピランを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させてグリニャール試薬を製造する方法、その方法で製造されたグリニャール試薬とテトラヒドロピランからなる組成物、及びグリニャール反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリニャール反応は炭素−炭素結合を生成する最も有用な方法である(Grignard Reactions of Non-Metallic Substances, Prentice Hall, Englewood, Cliffs, New Jersey(1954):非特許文献1)。
グリニャール反応は、高い反応性を有する有機金属反応剤(グリニャール試薬)により炭素−炭素結合を形成する反応であり、グリニャール試薬は有機ハロゲン化物とマグネシウムをエーテル系溶媒中で反応させることにより合成する。
【0003】
下記一般式(2)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ビフェニル基、ベンジル基、アリル基またはシリル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示されるグリニャール試薬は、有機合成上において重要な試薬であり、医農薬(特開平10-273475号公報:特許文献1)、触媒の配位子(特開2002-308892号公報:特許文献2)、電子材料などの合成に用いられている。
【0004】
このような芳香族のグリニャール試薬の合成方法としては、反応性の高い芳香族臭化物または芳香族ヨウ化物とマグネシウムをエーテル系溶媒中で反応させて合成する方法、及び芳香族塩化物とマグネシウムをエーテル系溶媒中で反応させて合成する方法がある。
しかし、芳香族臭化物または芳香族ヨウ化物を用いる方法は、芳香族塩化物を用いる方法に比べ分子量が大きくなるので原料の使用量(質量)も多くなるうえ、原料の単価が高いので製造コストが高くなるというような問題がある。
【0005】
一方、芳香族塩化物を用いる方法は、芳香族臭化物または芳香族ヨウ化物を用いる方法に比べて、原料の使用量が少なく、また原料の単価が低いという利点があるが、芳香族塩化物はマグネシウムとの反応性が低いため、反応時間が長く、またグリニャール試薬の収率が低いなどの問題がある。
【0006】
芳香族塩化物とマグネシウムからグリニャール試薬を合成する方法としては、塩化マグネシウムとカリウムから得られる活性化マグネシウムを使用する方法(特開平9−227575号公報:特許文献3)、エーテル系溶媒と炭化水素溶媒の混合溶媒を使用する方法(特開2003−96082号公報:特許文献4)などがある。
【0007】
しかし、前者の活性化マグネシウムを使用する方法の場合は、カリウムを使用するので安全性に問題がある。
また、後者の混合溶媒を使用する方法の場合、エーテル系溶媒中でのみ生成するグリニャール試薬に炭化水素溶媒を加えるため、グリニャール試薬の安定性が低下し、かつ濃度が低くなるという問題がある。
【0008】
また、エーテル系溶媒としては主にテトラヒドロフランが用いられているが、テトラヒドロフラン系溶媒を用いて合成したグリニャール試薬から、グリニャール反応生成物を製造するために、テトラヒドロフラン溶媒のまま引き続き次工程としてカルボニル化合物やエステルなどと反応させる場合、生成物を抽出分離するために水を加えると、溶媒のテトラヒドロフランと水が混和するため、生成物の分離工程が煩雑化したり収率が低下するという問題がある。
【0009】
【非特許文献1】Grignard Reactions of Non-Metallic Substances, Prentice Hall, Englewood, Cliffs, New Jersey(1954)
【特許文献1】特開平10−273475号公報
【特許文献2】特開2002−308892号公報
【特許文献3】特開平9−227575号公報
【特許文献4】特開2003−96082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、芳香族塩化物、特に含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際に、含酸素クロロベンゼン化合物の反応性の低さを改善し、反応時間の長さ及びグリニャール試薬の収率を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意努力した結果、含酸素クロロベンゼン化合物を原料とするグリニャール試薬製造工程の溶媒にテトラヒドロピランを用いることにより、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のグリニャール試薬の製造方法に関するものである。
【0012】
[1]下記式(1)
【化2】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ビフェニル基、ベンジル基、アリル基またはシリル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示される含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
【化3】

(式中、R及びnは前記と同じ意味を表す。)で示されるグリニャール試薬を製造する方法。
[2]テトラヒドロピランと下記式(2)
【化4】

(式中、R及びnは前記と同じ意味を表す。)
からなることを特徴とするテトラヒドロピラン組成物。
[3]前記1に記載の方法で製造されたグリニャール試薬を用いて、テトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法。
[4]グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する前記3に記載のグリニャール反応生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原料単価が安価な芳香族塩化物、特に含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際に、芳香族塩化物の反応性の低さを改善し、反応時間の長さ及びグリニャール試薬の収率を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の具体的内容について詳細に説明する。
1.グリニャール試薬の製造方法
本発明は、第一に、下記式(1)
【化5】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ビフェニル基、ベンジル基、アリル基またはシリル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示される含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
【化6】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)で示されるグリニャール試薬を製造する方法に関する。
【0015】
[含酸素クロロベンゼン化合物]
本発明で使用される含酸素クロロベンゼン化合物は、下記式(1)
【化7】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ビフェニル基、ベンジル基、アリル基またはシリル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示される化合物であり、具体的には、以下に示すようなクロロフェノール化合物、アルキルオキシクロロベンゼン化合物、アリールオキシクロロベンゼン化合物、ベンジルオキシクロロベンゼン化合物、アリルオキシクロロベンゼン化合物、シリルオキシクロロベンゼン化合物等を用いることができる。
【0016】
クロロフェノール化合物としては、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール、2,3−ジヒドロキシクロロベンゼン、2,4−ジヒドロキシクロロベンゼン、2,5−ジヒドロキシクロロベンゼン、2,6−ジヒドロキシクロロベンゼン、3,4−ジヒドロキシクロロベンゼン、3,5−ジヒドロキシクロロベンゼン、2,4,6−トリヒドロキシクロロベンゼン、3,4,5−トリヒドロキシクロロベンゼン、2,3,5,6−テトラヒドロキシクロロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0017】
アルキルオキシクロロベンゼン化合物としては、2−クロロアニソール、3−クロロアニソール、4−クロロアニソール、2,3−ジメトキシクロロベンゼン、2,4−ジメトキシクロロベンゼン、2,5−ジメトキシクロロベンゼン、2,6−ジメトキシクロロベンゼン、3,4−ジメトキシクロロベンゼン、3,5−ジメトキシクロロベンゼン、2,4,6−トリメトキシクロロベンゼン、3,4,5−トリメトキシクロロベンゼン、2,3,5,6−テトラメトキシクロロベンゼン、2,3,4,5,6−ペンタメトキシクロロベンゼン、2−エトキシクロロベンゼン、3−エトキシクロロベンゼン、4−エトキシクロロベンゼン、2−イソプロポキシクロロベンゼン、3−イソプロポキシクロロベンゼン、4−イソプロポキシクロロベンゼン、2−t−ブトキシキシクロロベンゼン、3−t−ブトキシクロロベンゼン、4−t−ブトキシクロロベンゼン、4−メトキシメトキシクロロベンゼン、4−(2−ブトキシエトキシ)クロロベンゼン、4−(1−ブトキシエトキシ)クロロベンゼン、N,N−ジエチル−2−フェノキシクロロベンゼン、4−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシクロロベンゼン、2−メトキシ−5-メチルクロロベンゼン、4−トリフルオロメトキシクロロベンゼン、4−ペンタフルオロエトキシクロロベンゼン、4−(2,2−ジメトキシエトキシ)クロロベンゼンなどを用いることができる。
【0018】
アリールオキシクロロベンゼン化合物としては、2−フェニルオキシクロロベンゼン、3−フェニルオキシクロロベンゼン、4−フェニルオキシクロロベンゼン、4−(2−メチルフェノキシ)クロロベンゼン、4−(3−メチルフェノキシ)クロロベンゼン、4−(4−メチルフェノキシ)クロロベンゼン、4−(4−クロロフェノキシ)クロロベンゼン、4−(4−フルオロフェノキシ)クロロベンゼン、4−ペンタフルオロフェノキシクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0019】
ベンジルオキシクロロベンゼン化合物としては、2−ベンジルオキシクロロベンゼン、3−ベンジルオキシクロロベンゼン、4−ベンジルオキシクロロベンゼン、3,4−ジベンジルオキシクロロベンゼン、3,5−ジベンジルオキシクロロベンゼン、3,4,5−トリベンジルオキシクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0020】
アリルオキシクロロベンゼン化合物としては、2−(2−プロペニルオキシ)クロロベンゼン、3−(2−プロペニルオキシ)クロロベンゼン、4−(2−プロペニルオキシ)クロロベンゼン、2−(2−イソプロペニルオキシ)クロロベンゼン、3−(2−イソプロペニルオキシ)クロロベンゼン、4−(2−イソプロペニルオキシ)クロロベンゼンなどを用いることができる。
【0021】
シリルオキシクロロベンゼン化合物としては、2−トリメチルシリルオキシクロロベンゼン、3−トリメチルシリルオキシクロロベンゼン、4−トリメチルシリルオキクロロベンゼン、2−トリエチルシリルオキシクロロベンゼン、3−トリエチルシリルオキシクロロベンゼン、4−トリエチルシリルオキクロロベンゼン、2−トリプロピルシリルオキシクロロベンゼン、3−トリプロピルシリルオキシクロロベンゼン、4−トリプロピルシリルオキクロロベンゼン、2−トリイソプロピルシリルオキシクロロベンゼン、3−トリイソプロピルシリルオキシクロロベンゼン、4−トリイソプロピルシリルオキシクロロベンゼン、2−t−ブチルジメチルシリルオキシクロロベンゼン、3−t−ブチルジメチルシリルオキシクロロベンゼン、4−t−ブチルジメチルシリルオキシクロロベンゼン、2−t−ブチルジフェニルシリルオキシクロロベンゼン、3−t−ブチルジフェニルシリルオキシクロロベンゼン、4−t−ブチルジフェニルシリルオキシクロロベンゼン、2−ジメチルビニルシリルオキシクロロベンゼン、3−ジメチルビニルシリルオキシクロロベンゼン、4−ジメチルビニルシリルオキシクロロベンゼンなどを用いることができる。
【0022】
[マグネシウム]
本発明で用いられるマグネシウムは顆粒のマグネシウム、具体的にはマグネシウム削片、マグネシウムダスト、マグネシウム粉末などの形態のものが好ましい。
本発明においては、マグネシウムは含酸素クロロベンゼン化合物に対して過剰量用いる。
マグネシウムの量が含酸素クロロベンゼン化合物に対して当モルでは反応は実質的に完結せず、また2倍モル量以上では反応を促進させるなどの利点がなくなってしまい、更に反応終了時に未反応のマグネシウムを除去しなければならないという問題がある。含酸素クロロベンゼン化合物に対してマグネシウムは少なくとも1mol当量使用される。
好適には、含酸素クロロベンゼン化合物に対して1.01〜1.5mol当量用いる。さらに好ましくは、1.05〜1.35mol当量である。
【0023】
[反応活性化剤]
本反応では、反応活性化剤として無機及び有機ハロゲン化合物を用いることができる。
反応活性化剤とはマグネシウムの表面を改質し、マグネシウムの含酸素クロロベンゼン化合物との反応性を向上させるものである。
このような無機ハロゲン化合物としては、例えば、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、ヨウ化塩素などを用いることができ、中でもヨウ素が好適である。
【0024】
また、有機ハロゲン化物としては、ジブロモメタン、ジヨードメタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、1−クロロ−2−ブロモエタン、1−クロロ−2−ヨードエタン、1−ブロモ−2−ヨードエタンなどが用いられ、中でも1,2−ジブロモエタンが好適である。
【0025】
これらのハロゲン化合物の使用量は、マグネシウムに対して0.01〜0.3mol当量使用される。好適には0.05〜0.15mol当量である。使用するハロゲン化合物が少ないと十分な反応開始効果が得られず、グリニャール試薬の生成速度が遅くなってしまう。また、使用するハロゲン化物の量が多いとマグネシウムが損失したり、副反応が起こるなどの可能性があり好ましくない。
【0026】
[溶媒]
反応溶媒としては、テトラヒドロピランを用いる。
テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒との混合溶媒も使用することができるが、回収、再利用をする観点からテトラヒドロピラン単独で用いることが望ましい。テトラヒドロピランは通常、蒸留、脱水剤処理をして使用され、マグネシウムに対して2〜50倍重量、好適には5〜30倍重量用いられる。
【0027】
[グリニャール試薬の生成]
本反応は、通常窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で行われる。
通常、テトラヒドロピランとマグネシウムからなる溶液に有機ジハロゲン化合物を添加した後、含酸素クロロベンゼン化合物を一度または時間をかけて添加する方法、テトラヒドロピランとマグネシウムからなる溶液に有機ジハロゲン化合物と含酸素クロロベンゼン化合物を同時に添加する方法、またはテトラヒドロピラン、マグネシウム、含酸素クロロベンゼン化合物からなる溶液に有機ジハロゲン化合物を添加する方法がある。
反応温度は通常0℃から添加する反応液の還流温度以下で行われ、好ましくは25℃から反応液の還流温度である。
【0028】
2.グリニャール反応生成物の製造方法
本発明は、第二に、このようにして得られたグリニャール試薬を、次工程で増炭素反応するために用いたグリニャール反応生成物の製造方法に関する。
【0029】
[被求核付加剤]
本発明にて得られるグリニャール試薬は、以下の被求核付加剤と反応させて増炭生成物であるグリニャール生成物を与える。
このような被求核付加剤としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどのケトン化合物、蟻酸メチル、酢酸メチル、安息香酸エチル、アニス酸メチルなどのエステル化合物、蟻酸、酢酸、安息香酸、アニス酸、などのカルボン酸化合物、蟻酸クロライド、酢酸クロライド、安息香酸クロライド、アニス酸クロライドなどの酸クロライド化合物、N,N‘−ジメチル酢酸アミド、N,N‘−ジエチルベンズアミドなどのアミド化合物、アセトニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、テレフタロニトリルなどのニトリル化合物、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシドスチレンオキシド、ビスフェノールAなどのエポキシ化合物、オキセタンなどの4員環状化合物などを用いることができる。また、二酸化炭素、二硫化炭素などのC1化合物、酸素、硫黄などの分子状化合物、含硫黄有機化合物として、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホンなどのスルホン化合物、含窒素有機化合物として、メチルイソシアネート、フェニルエソシアネートなどのイソシアネート化合物、ニトロソベンゼン、p−ジニトロベンゼン、p−ニトロソトルエンなどのニトロソ化合物などを用いることができる。
【0030】
上記の中でも、アルデヒド化合物、ケトン化合物、エステル化合物、カルボン酸化合物、クロライド化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、ラクトン化合物およびエポキシ化合物は工業的に特に有用であり、本発明でも好適に使用できる。
【0031】
通常、アルデヒド、ケトンなどのカルボニル化合物、またはエステル化合物などの反応原料のテトラヒドロピラン溶液に、前工程で製造したグリニャール試薬を添加し、求核付加反応によりアルキル基を導入させる。逆に、グリニャール試薬の中に反応原料を添加してもよい。
【0032】
[溶媒]
本工程においても、溶媒としてはテトラヒドロピランと、テトラヒドロフラン、ジオキサンまたはジグライムなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒との混合溶媒を使用することもできるが、回収、再利用をする観点からテトラヒドロピラン単独で用いることが望ましい。
【0033】
反応終了後に反応液に水を加え、生成物を抽出分離する。テトラヒドロピランは水と分離するので、容易に生成物を取得することができる。
また、テトラヒドロピランは蒸留回収後、脱水処理をして再使用することができ、これにより溶媒の使用量を低減することができる。
【0034】
上述したことをまとめて、本発明で適用できる反応例として、グリニャール試薬の原料に含酸素クロロベンゼン化合物(式中、Phは酸素を含む置換基で置換されたフェニル基を示す)を用いた場合の反応を以下の化学式に示す。
【0035】
【化8】

なお、本発明の製造方法に従って合成したグリニャール化合物をアルコール類と反応させた場合、クロロ基を水素に置換した化合物を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0037】
なお、実施例における各成分の分析はガスクロマトグラフ装置(アジレント製,6890N)を用い、分析カラムとしてJ&W製DB−1カラム(長さ30m、直径0.32mm、膜厚1μm)を用いた。また、難揮発物質の分析には高速液体クロマトブラフ装置(SHIMADZU製,LC−2010HT)を用い、分析カラムとしてRP−18(ODS),フルエンドキャップ処理済(関東化学製)を用いた。
【0038】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下、容量300mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム2.91g(120mmol)、テトラヒドロピラン20mlを加え室温で緩やかに撹拌した。次いで、1,2−ジブロモエタン1.13g(6mmol)を加え5分加熱撹拌した。還流下にて2−クロロアニソール14.3g(100mmol)のテトラヒドロピラン80ml溶液を添加し、還流下にて12時間撹拌した後、室温に冷却し、2−メトキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した2−メトキシフェニルマグネシウムクロライドは、メタノールと反応しアニソールとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、2−クロロアニソール0.3%、アニソール99.3%であった。
【0039】
[実施例2]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、及び3、4−ジメトキシクロロベンゼン1.72g(10mmol)を室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下にて15時間撹拌した後、室温に冷却し、3、4−ジメトキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した3,4−ジメトキシフェニルマグネシウムクロライドは、メタノールと反応しジメトキシベンゼンとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、3、4−ジメトキシクロロベンゼン1.1%、ジメトキシベンゼン98.4%であった。
【0040】
[実施例3]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、及び3−フェノキシクロロベンゼン2.04g(10mmol)を室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下にて10時間撹拌した後、室温に冷却し、3−フェノキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した4−メトキシフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しジフェニルエーテルとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、3−フェノキシクロロベンゼン0.6%、ジフェニルエーテル99.0%であった。
【0041】
[実施例4]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、及び4−ベンジルオキシクロロベンゼン2.19g(10mmol)を室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下にて12時間撹拌した後、室温に冷却し、4−ベンジルオキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した4−ベンジルオキシフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しベンジルフェニルエーテルとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、4−ベンジルオキシクロロベンゼン1.0%、ベンジルフェニルエーテル98.2%であった。
【0042】
[実施例5]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、及び4−(2−プロペニルオキシ)クロロベンゼン1.69g(10mmol)を室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下にて10時間撹拌した後、室温に冷却し、4−(2−プロペニルオキシ)フェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した4−(2−プロペニルオキシ)クロロフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しアリルオキシベンゼンとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、4−(2−プロペニルオキシ)クロロベンゼン0.4%、アリルオキシベンゼン99.2%であった。
【0043】
[実施例6]
アルゴン雰囲気下、容量50mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム0.29g(12mmol)、テトラヒドロピラン10ml、1,2−ジブロモエタン0.11g(0.6mmol)、及び4−t−ブチルジフェニルシリルオキシクロロベンゼン3.67g(10mmol)を室温で加えた後、緩やかに撹拌した。還流下にて8時間撹拌した後、室温に冷却し、4−t−ブチルジフェニルシリルオキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
この反応により生成した4−t−ブチルジフェニルシリルオキシフェニルマグネシウムクロライドはメタノールと反応しt−ブチルジフェニルシリルオキシベンゼンとなる。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加えた溶液をGCで定量したところ、4−t−ブチルジフェニルシリルオキシクロロベンゼン3.7%、t−ブチルジフェニルシリルオキシベンゼン94.2%であった。
【0044】
[実施例7:グリニャール試薬の調製]
アルゴン雰囲気下、容量300mlのナスフラスコに撹拌子、マグネシウム2.91g(120mmol)、及びテトラヒドロピラン20mlを加え、室温で緩やかに撹拌した。次いで1,2−ジブロモエタン1.13g(6mmol)を加え5分加熱撹拌した。還流下にて4−クロロアニソール14.3g(100mmol)のテトラヒドロピラン80ml溶液を添加した。還流下にて18時間撹拌した後、室温に冷却し、4−メトキシフェニルマグネシウムクロライド(グリニャール試薬)のテトラヒドロピラン溶液を得た。
反応液を一部サンプリングし、メタノール中に加え、GCで定量したところ4−メトキシフェニルマグネシウムクロライド(アニソールとして定量)の収率は99%であった。
なお、この4−メトキシフェニルマグネシウムクロライドは99mmol換算として、グリニャール反応に使用する。
【0045】
[グリニャール反応と生成物の単離]
アルゴン雰囲気下、300mlのナスフラスコに撹拌子、4−メトキシベンズアルデヒド12.9g(95mmol)、及びテトラヒドロピラン50mlを加え室温で撹拌した。氷冷下にてカニューレを用いて、先に調製したグリニャール試薬を10分かけて添加し、反応温度を室温に昇温してさらに3時間反応させた。この溶液に水100mlを加え、10%塩酸水溶液で溶液のpHを4前後に調製した。反応液を分液し、水100ml、続いて飽和食塩水でテトラヒドロピラン層を洗い、硫酸マグネシウムで乾燥させた。一晩乾燥後、テトラヒドロピランを留去し、真空ポンプで残存するテトラヒドロピランを除いた。4,4’−ジメトキシベンズヒドロール粗生成物21.4g(粗収率92%)を得た。
【0046】
[実施例8]
実施例7で調製した4−メトキシフェニルマグネシウムクロライドのテトラヒドロピラン溶液(99mmol換算)をアルデヒド、ケトン、エステルに添加し、3時間室温で反応させた後、GCまたはHPLCで定量した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ビフェニル基、ベンジル基、アリル基またはシリル基を表し、nは1〜5の整数を表す。)で示される含酸素クロロベンゼン化合物とマグネシウムをテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
【化2】

(式中、R及びnは前記と同じ意味を表す。)で示されるグリニャール試薬を製造する方法。
【請求項2】
テトラヒドロピランと下記式(2)
【化2】

(式中、R及びnは前記と同じ意味を表す。)
からなることを特徴とするテトラヒドロピラン組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の方法で製造されたグリニャール試薬を用いて、テトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法。
【請求項4】
グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する請求項3に記載のグリニャール反応生成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−63239(P2008−63239A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240014(P2006−240014)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】