説明

テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体の製造法

【課題】重合速度が向上した新規なテトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)共重合体の製造法を提供する。
【解決手段】(A)フッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはVdFとHFPとTFEとをビニル基含有含フッ素反応性乳化剤および含フッ素イオン性乳化剤の共存下に乳化重合してVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造する工程、および(B)重合溶媒1mlあたり1×1014個以上のVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子の存在下にTFEとPrとを乳化重合する工程を含むTFE−Pr共重合体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い重合速度でテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムはその優れた耐熱性、耐薬品性などにより、自動車産業を初め各種の産業分野で利用されている。フッ化ビニリデン(VdF)系のフッ素ゴムの重合速度は比較的速いが塩基類、特にアミン類に対しての耐性に問題があり、オイルのシール材などの分野での用途に制限がある。
【0003】
そうしたアミン耐性をもったフッ素ゴムとして、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)の共重合体が知られている。TFEとPrの共重合はパーフルオロオクタン酸アンモニウムに代表される含フッ素イオン性乳化剤を用いる乳化重合法で行われているが、乳化剤の使用量を減らすために、VdFとTFEを第1段で乳化重合した後第2段でTFEとPrを乳化重合することが提案されている(特許文献1)。しかしながら、TFE−Pr系フッ素ゴムは本質的に重合速度が遅いため、特許文献1のように乳化剤を使用しない場合はさらに重合速度が遅くなってしまう。
【0004】
一方、VdF系のフッ素ゴムの場合、VdFとTFE、VdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはVdFとTFEとHFPを第1段で乳化重合し、ついで第2段でVdF系の混合モノマーを乳化重合することが知られており(特許文献2〜5など)、重合速度の観点から第1段で得られる粒子の個数を1×1014個以上にするのが好ましいことが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特表2006−504844号公報
【特許文献2】特開昭52−62391号公報
【特許文献3】国際公開第96/17876号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/1741号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/11547号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、重合速度が向上した新規なテトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)共重合体の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、まずVdFとHFPまたはVdFとHFPとTFEを特定の乳化剤を用いて乳化重合すると、粒子の個数を1×1014個以上にすることができ、その後、TFEとPrを乳化重合することで、テトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)共重合体の重合速度(特に重合初期の重合速度)を向上できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(A)フッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはフッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)とをビニル基含有含フッ素反応性乳化剤および含フッ素イオン性乳化剤の共存下に乳化重合してVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造する工程、および
(B)重合溶媒1mlあたり1×1014個以上のVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子の存在下にテトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)とを乳化重合する工程
を含むTFE−Pr共重合体の製造法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重合速度が向上した新規なテトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)共重合体の製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のTFE−Pr共重合体を製造する方法は、VdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造する工程(A)と、重合溶媒1mlあたり1×1014個以上のVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子の存在下にTFEとPrとを乳化重合する工程(B)とからなる。
【0011】
以下、各工程について説明する。
【0012】
工程(A)
工程(A)では、VdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造する。ここで、重要なことは、重合反応速度の速い共重合組成の粒子(以下、「種粒子」ということもある)を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造することである。そのためには、VdFとHFPまたはVdFとHFPとTFEとをビニル基含有含フッ素反応性乳化剤および含フッ素イオン性乳化剤の共存下に乳化重合することが必要である。
【0013】
種粒子としてVdF−HFP共重合体粒子またはVdF−HFP−TFE共重合体粒子を選択する理由は、VdFとHFPまたはVdFとHFPとTFEの重合速度が速いだけではなく、粒子数を確保しやすいからである。
【0014】
工程(A)で使用する単量体混合物中のVdFの割合は、特に大きな制約はないが、5モル%以上であることが、効率的に種粒子を生成させることができることから好ましく、さらには30モル%以上、特に65モル%以上が好ましい。上限は、通常、85モル%、特に80モル%である。
【0015】
VdFとHFPまたはVdFとHFPとTFEの乳化重合をビニル基含有含フッ素反応性乳化剤および含フッ素イオン性乳化剤の共存下に行う理由は、特許文献4に記載のように乳化剤を存在させない場合は、他の重合条件を適宜選択しても、重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上という多数の種粒子を安定に製造できないからである。
【0016】
また、特許文献3の実施例6のように、ビニル基含有含フッ素反応性乳化剤を単独使用し、かつ他の重合条件を適宜選択しても、せいぜい重合反応生成液1mlあたり1×1013個程度である。
【0017】
本発明で好適に使用できるビニル基含有含フッ素反応性乳化剤としては、たとえば含フッ素アリルエーテル鎖を有するカルボン酸の4級アンモニウム塩があげられ、特に式(1):
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF2]n1−(OCF2CF2CF2)n2−OCF(CF3)−COONH4
(式中、n1は0〜10の整数;n2は0〜10の整数)
で示される化合物が、種粒子の個数の増大効果が高い点から好ましい。
【0018】
具体例としては、たとえば
CH2=CFCF2−OCF(CF3)CF2−OCF(CF3)COONH4
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF22−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF23−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−(OCF2CF2CF2)−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−(OCF2CF2CF22−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−OCF2CF2CF2−OCF(CF3)CF2−OCF(CF3)−COONH4
などがあげられ、取り扱い性、入手の容易さ、粒子数増大の効果が良好な点から、
CH2=CFCF2−OCF(CF3)CF2−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF22−OCF(CF3)−COONH4
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF23−OCF(CF3)COONH4
が好ましい。
【0019】
前記工程(A)で使用する含フッ素イオン性乳化剤としては、たとえば式(2):
Rf−[OCF(CF3)CF2]m1−(OCX12CF2CF2)m2−[OCF(CF3)]m3−(OCX34CF2)m4−COOY1
(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基;X1、X2、X3およびX4は同じかまたな異なり、いずれもHまたはF;Y1はH、−NH4またはアルカリ金属原子;m1は0〜4の整数;m2は0〜4の整数;m3、m4は0または1、m3+m4は0または1)
で示される化合物が、粒子の安定化効果、水への溶解性が良好な点から好ましい。
【0020】
具体例としては、たとえば
511COONH4
37OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
CF3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
37OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
CF3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
CF3OCF2CF2CF2OCF(CF3)COONH4
37OCF2CF2CF2OCF(CF3)COONH4
37OCF2CF2CF2OCF2CF2COONH4
37OCFHCF2CF2OCF(CF3)COONH4
37OCFHCF2COONH4
CF3OCFHCF2COONH4
CF3OCF2CF2CF2OCF(CF3)COONH4
CF3OCFHCF2CF2OCF(CF3)COONH4
などがあげられる。特にビニル基含有含フッ素反応性乳化剤との併用効果(種粒子の個数増大効果、重合反応生成液の安定性向上、水への溶解性)が良好な点から、
511COONH4
CF3OCF2CF2CF2OCF(CF3)COONH4
37OCFHCF2COONH4
が好ましい。
【0021】
含フッ素イオン性乳化剤としては、また、特表2004−533511号公報記載のビス(ペルフルオロアルカンスルホニル)イミドまたはその塩を含む乳化剤、特表2004−509993号公報記載のCF3(CF25CH2CH2SO3M(M=NH4、H)に代表される乳化剤、特開昭61−223007号公報記載の乳化剤などがあげられる。
【0022】
ビニル基含有含フッ素反応性乳化剤の量は、効果と経済性の観点から、通常は重合に用いる水量の5〜5000ppm、さらには10〜100ppmが好ましい。
【0023】
含フッ素イオン性乳化剤の量は、環境面を考慮して、通常は重合に用いる水量の100〜20000ppm、さらには500〜3000ppmが好ましい。
【0024】
工程(A)の乳化重合は、水溶性ラジカル重合開始剤を用いて開始することが好ましい。
【0025】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、従来公知のものが使用できる。具体例としては、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウムなどがあげられ、これらのうちイオン性末端基を生成させる能力が良好な点から、APS、KPSが好適に使用できる。
【0026】
また、上記開始剤に必要に応じて還元剤を添加してレドックス反応を用いた低温分解型の開始剤系を採用することも可能である。好ましい還元剤としては亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、ピロ硫酸塩、およびチオ硫酸塩などがあげられる。亜硫酸塩を用いた場合にはイオン性末端基がSO3になる場合がある。
【0027】
重合開始剤の量は、重合に用いる水量の5〜5000ppm、さらには20〜500ppmが好ましい。
【0028】
工程(A)における乳化重合条件としては、つぎの条件が好ましく採用できる。
【0029】
(重合温度)
使用する水溶性ラジカル重合開始剤で推奨される重合温度でよく、0〜130℃の範囲が採用される。
【0030】
たとえば水溶性ラジカル重合開始剤としてAPSを使用する場合、50℃以上、好ましくは60〜100℃、さらには70〜95℃の範囲の重合温度を採用することが好ましい。
【0031】
また、還元剤を併用するレドックス系の重合開始剤を使用するときは、0℃以上、好ましくは0〜100℃、さらには10〜50℃の範囲の重合温度を採用することが好ましい。
【0032】
乳化重合における重合圧力は、使用する単量体の蒸気圧などによって異なり、それらの条件に合わせて適宜選定され、減圧ないし15MPa、さらには0.5〜8MPaの範囲が好ましい。
【0033】
本発明の工程(A)では、種粒子を工程(B)の乳化重合における重合速度を向上させるのに必要かつ充分な量である重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上生成させることにあるので、VdF−HFP共重合体またはVdF−HFP−TFE共重合体の高分子量化は必要がない。却って、高分子量化により分子数が少なくなる方が種粒子の数が減り、望ましくない。
【0034】
工程(A)にて得られる重合体の分子量を低下させるために、たとえばイソペンタン、マロン酸ジエチルなどの従来公知の連鎖移動剤を用いてもよい。しかし使用する場合は、工程(B)での重合にて低分子量化、または末端封鎖率の低下を引き起こさないような量の使用に抑える、または工程(A)終了後に系から除去することが望ましい。
【0035】
さらに、重合速度をはやめて粒子数を増加させるために、工程(A)の終了後で工程(B)を行う前に、分散液(重合反応生成液)のpHが3〜11の範囲内になるように調整する工程(pH調整工程)を含むことが好ましい。なお、このpH調整工程は、工程(A)の終了後で工程(B)を行う前であればよく、工程(A)終了後にその場(工程(A)で使用した容器内)で行っても、工程(A)終了後に他の容器に取り出した後行っても、工程(A)終了後に工程(B)で使用する容器に取り出した後行ってもよい。
【0036】
pH調整剤としては、とくに制限されるものではないが、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、りん酸水素二ナトリウム、りん酸水素二カリウム、りん酸ナトリウム、りん酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸二水素カリウム、酢酸ナトリウム、りん酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸などがあげられる。またレドックス反応の場合には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、などの亜硫酸塩も好適に用いられる。
【0037】
また、pH調整する際の分散液のpHは、3〜11が、さらには4〜7が、工程(B)における重合速度の向上、TFE−Pr共重合体粒子数の向上の点から好ましい。
【0038】
本発明では工程(A)で多量の水溶性ラジカル重合開始剤を使用するので、残存する水溶性ラジカル重合開始剤が工程(B)での重合に影響を及ぼさないように、工程(A)が終了した後工程(B)に進む前に、工程(A)の終了時に重合系中に残存する水溶性ラジカル重合開始剤の量を減少させる工程を挟むことが好ましい。なお、この水溶性ラジカル重合開始剤の量を減少させる工程は、工程(A)の終了後で工程(B)を行う前であればよく、工程(A)終了後にその場(工程(A)で使用した容器内)で行っても、工程(A)終了後に他の容器に取り出した後行っても、工程(A)終了後に工程(B)で使用する容器に取り出した後行ってもよい。また、この水溶性ラジカル重合開始剤の量を減少させる工程は、工程(A)の終了時に即座に行ってもよい。
【0039】
水溶性ラジカル重合開始剤の量を減少させる手段としては従来公知の手段が採用される。たとえば活性炭素で処理して重合開始剤を分解させる方法(特開昭52−84271号公報および国際特許公開第96/17876号パンフレットなど)、VdFやHFPなどの単量体混合物を放出した後温度を上げて重合開始剤を分解する方法などが採用できる。もちろん、工程(A)で全ての重合開始剤を消費した場合は、この減少工程を施す必要はない。さらに、つぎの工程(B)で水溶性ラジカル重合開始剤を使用する場合は、その使用に必要な量程度までは残存していてもよい。
【0040】
工程(A)では、種粒子の重合反応生成液1mlあたりの個数を1×1014個以上にする。1×1014個よりも少なくなると従来のようにつぎの工程(B)におけるTFEとPrの共重合速度を向上させることができない。重合反応生成液1mlあたりの好ましい種粒子の個数は、1×1014個以上、さらには1×1015個以上である。上限は2×1016個程度である。
【0041】
工程(A)で1×1014個を超える多数の種粒子を製造できた場合には、これを希釈して工程(B)の重合に用いることが生産性を向上させる意味でも重要である。希釈する場合には工程(A)が終了した時点で種粒子の重合反応生成液1mlあたりの個数を1×1014個を超える粒子数(希釈後、すなわち工程(B)開始時に種粒子の重合溶媒1mlあたりの個数が1×1014個以上)となっていることが必要である。
【0042】
工程(B)
本発明の工程(B)では、工程(A)で製造した種粒子の存在下でラジカル重合開始剤を用いかつ乳化剤を添加せずにまたは添加してTFEおよびPrの乳化重合を行う。工程(B)開始時には種粒子の重合溶媒1mlあたりの個数は1×1014個以上である必要がある。
【0043】
基本的には、工程(A)で製造した重合反応生成液が安定である場合工程(B)は十分安定して進むので、乳化剤を新たに使用しなくてもよい。ただ、工程(B)で重合するTFE−Pr共重合体の乳化状態が不安定である場合やTFE−Pr共重合体の濃度をより高くしたい場合など、乳化安定性の向上を目的とする場合は、従来公知の乳化剤をその目的に必要な量で使用してもよい。使用が許容できる乳化剤としては前述の含フッ素イオン性乳化剤が例示できる。
【0044】
この工程(B)の乳化重合は、工程(A)で製造した種粒子を特定個数以上含む重合溶媒中で行うこと以外は、乳化剤を使用する乳化重合と特に異なることはない。ただ、この工程(B)は高分子量化を目的とする乳化重合であるから、工程(B)で使用する重合開始剤量を工程(B)で得られるTFE−Pr共重合体の0.01〜0.5質量%の範囲、特に0.05〜0.2質量%の範囲と、少量にすることが望ましい。
【0045】
工程(B)で使用するラジカル重合開始剤としては、水溶性ラジカル重合開始剤でも油溶性ラジカル重合開始剤でもよい。
【0046】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、工程(A)で例示したものが、好ましい例と共にあげられる。
【0047】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、後述する重合方法に応じて従来公知のものが使用でき、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、n−プロピルパーオキシジカーボネート(NPP)などといった国際特許公開第96/17876号パンフレットに記載されている油溶性ラジカル重合開始剤が例示でき、なかでも開始剤としての能力が良好な点からIPPが好ましい。
【0048】
これらのうち重合における乳化粒子の安定性が良好な点から、水溶性ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0049】
工程(B)で共重合するTFEとPrは、得られるTFE−Pr共重合体がゴム組成になる範囲(TFE/Pr=45/55〜65/35モル%比)で供給される。
【0050】
さらに要すれば、その他の共重合可能な単量体を共重合させてもよい。共重合割合は他の単量体にもよるが、共重合体の0.1〜2モル%が好ましい。
【0051】
他の単量体としては、パーフルオロビニルエーテル類、フルオロアリルエーテル類、架橋性基含有単量体などがあげられる。
【0052】
架橋性基を導入するための架橋性基含有単量体としては、たとえばシアノ基を導入するためのCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN、CF2=CFO[CF(CF3)CF2O]2−CF2CF2CN、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF2CF2CNなどのニトリル基含有単量体;たとえばカルボキシル基を導入するためのCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH、CF2=CFO[CF(CF3)CF2O]2−CF2CF2COOH、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF2CF2COOHなどのカルボキシル基含有単量体;などが例示できる。
【0053】
工程(B)の重合方法は、重合形態が乳化重合であれば、含フッ素単量体の重合に使用されている各種の重合方法が採用できるが、乳化剤を使用しない重合系において、重合体のイオン性官能基末端の量を減少させる、すなわちラジカル開始剤を極端に少なくしなければならない場合に特に有効である。例えば、国際特許公開第2004/009647号パンフレット記載の高圧重合法(2.5〜6.0MPa)では、開始剤を多く添加すると重合の制御が難しくなってしまう。したがって、少ない開始剤で重合しなければならないが、少ない開始剤ではイオン性官能基末端を有する重合体が発生しにくくなり、乳化安定性が得られず、事実上重合することはできない。また、ヨウ素移動重合法では、重合体の末端封鎖率をさらに高めるために、より少ない開始剤で重合を行わなければならないので、前述の高圧重合法と同様な問題が生じる。しかし、工程(A)で多量の種粒子を生成させ、残存するラジカル開始剤を減少させてから、工程(B)で所望の共重合体の重合を行えば、上記における問題は解決することができる。
【0054】
本発明の含フッ素重合体の製造方法は、単一の重合槽で各工程を逐次または連続して行ってもよいし、工程(A)と工程(B)を別の重合槽で行ってもよい。また、工程(A)後の水溶性ラジカル重合開始剤の減少工程やpH調整工程を実施する場合は、工程(A)の重合槽で行っても、別の槽で行ってもよい。さらに、複数の槽を連結して連続的に行ってもよい。
【実施例】
【0055】
つぎに本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
なお、本明細書において使用した特性の測定方法および評価方法はつぎに示すものである。
【0057】
(1)平均粒子径
測定装置:HONEYWELL社製のマイクロトラックUPA
測定方法:動的光散乱法
測定する乳濁液を純水で計測可能な濃度に希釈して試料とし、室温にて測定を行う。得られたデータの個数平均径を粒子径とする。
【0058】
(2)粒子数
計算方法:(1)で求めた平均粒子径と固形分含有量から、ポリマー比重を1.55として計算する。
【0059】
(3)元素分析
測定装置:THERUMO Orion720A、フッ素イオン選択電極
測定方法:試料約1.5mgを酸素ガス中で燃焼させ10mlの純水に吸収させ、10mlの緩衝液で中性とし、フッ素イオン選択電極で測定する。
【0060】
(4)ガラス転移温度Tg
測定装置:METLER TOLEDO 社製のDSC822e
測定方法:試料約10mgを資料台にセットし、−50℃から150℃まで毎分10℃の速度で昇温し、吸熱の具合を記録して、比熱変化のあるところでベースラインと変曲点に接線を引き、上下で交差する部分の中央点をTgとする。
【0061】
(5)ムーニー粘度(100℃)
測定装置:ALPHA TECHNOLOGIES 社製のMOONEY MV 2000E
測定方法:装置を100℃(または121℃、170℃)に設定し、測定試料約35gをLローターではさみ、1分余熱後測定を開始し、11分後(開始から10分後)の値をとる。
【0062】
(6)NMR
測定装置:BRUKER AVANCE 300
測定方法:固体NMRを測定し−75ppmから−85ppmの強度の全体に対する比から計算で求める。
【0063】
実施例1
工程(A)
3リットルのステンレススチール製の攪拌機付きオートクレーブに純水1500ml、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH40.15gおよびC511COONH43.0gを仕込み、系内を真空に引いた後チッ素ガスで充分に置換した。系内温度80℃にて、イソペンタン0.01mlおよびVdF/HFP(=65/35モル%)の単量体混合物を系内の内圧が1.5MPaとなるように圧入した。ついで過硫酸アンモニウム(APS)0.04gを4mlの純水に溶解した重合開始剤溶液をチッ素ガスで圧入し、反応を開始した。
【0064】
重合の進行に伴い内圧が1.45MPaに降下した時点でVdF/HFP(=78/22モル%)のVdFとHFPの単量体混合物を内圧が1.55MPaとなるまで圧入した。以後、重合反応の進行に伴い、同様に単量体混合物を3回圧入し、内圧が1.50MPaまで下がった時点で残存ガスを排出して重合を終了した。つづいて系内の温度を90℃にまで上げて残存するAPSを分解させた。
【0065】
得られた重合反応生成液は1545gであり、VdF−HFP共重合体粒子(平均粒子径0.038μm)を重合反応生成液1mlあたり2.2×1014個含んでいた(固形分含有量1.09質量%)。
【0066】
この重合反応生成液のpHは4であり、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7に調整した。
【0067】
工程(B)
3リットルのステンレススチール製の攪拌機付きオートクレーブに、工程(A)で得たpH調整された分散液全量(重合溶媒1mlあたり2.2×1014個のVdF−HFP共重合体粒子を含んでいる)とNa2SO310g、NaHSO38.2gを仕込んだ後、系内を真空に引いた後チッ素ガスで充分に置換した。Prで微加圧とした後攪拌しながら15℃に温度調節し、Prでさらに0.45MPaまで加圧した。さらにTFEを2.07MPaになるまで圧入した。ついでAPS0.6gを6mlの純水に溶解した重合開始剤溶液をチッ素ガスで圧入し、反応を開始した。
【0068】
重合開始後、約1時間おきにAPS0.25gを純水4mlに溶解した重合開始剤を窒素ガスで圧入した。重合の進行に伴い内圧が2.05MPaに降下した時点でTFE/Pr(=55/45モル%)の単量体混合物を内圧が2.07MPaとなるまで圧入した。以後、重合反応の進行に伴う内圧低下に対し、同様に単量体混合物を圧入した。なお、追加モノマーの合計重量が5gとなった時点で、ICF2CF2CF2CF2Iを1.5g純水4mlとともに窒素で圧入した。追加したモノマー混合物の合計重量が318gとなった時点(重合開始から215分後)で残存モノマーを放出し、重合を停止した。この重合で、重合開始から合計重量10gの追加モノマー混合物を系内に追加するために掛かった時間は16分であった。
【0069】
得られた重合反応生成液は1576gであり、固形分含有量は21.67質量%であった。得られた重合反応生成液から10%硫酸を用いて凝析し、純水で洗浄した後、熱風乾燥炉により80℃にて8時間、さらに120℃にて12時間乾燥した。
【0070】
得られたTFE−Pr共重合体はフッ素含有率56.8質量%、ガラス転移温度Tgは2.5℃であった。121℃でのムーニー粘度は33であった。
【0071】
比較例1
3リットルのステンレススチール製の攪拌機付きオートクレーブに純水1500ml、Na2SO310g、NaHSO38.2gを仕込み、系内を真空に引いた後チッ素ガスで充分に置換した。Prで微加圧とした後攪拌しながら15℃に温度調節し、Prでさらに0.45MPaまで加圧した。さらにTFEを2.07MPaになるまで圧入した。
【0072】
ついでAPS0.6gを6mlの純水に溶解した重合開始剤溶液をチッ素ガスで圧入し、反応を開始した。重合開始後、約1時間おきにAPS0.25gを純水4mlに溶解した重合開始剤を窒素ガスで圧入した。重合の進行に伴い内圧が2.05MPaに降下した時点でTFE/Pr(=55/45モル%)の単量体混合物を内圧が2.07MPaとなるまで圧入した。以後、重合反応の進行に伴う内圧低下に対し、同様に単量体混合物を圧入した。追加モノマー混合物の合計重量が300gとなった時点(重合開始から554分後)で残存モノマーを放出し、重合を停止し、TFE−Pr共重合体を得た。この重合で、重合開始から合計重量10gの追加モノマー混合物を系内に追加するために掛かった時間は125分であった。
【0073】
比較例2
工程(A)
実施例1と同様にしてVdF−HFP共重合体粒子を含む重合反応生成液を1550g得た。VdF−HFP共重合体粒子(平均粒子径0.037μm)は重合反応生成液1mlあたり3.3×1014個含んでいた(固形分含有量1.43質量%)。
【0074】
この重合反応生成液のpHは4であり、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7に調整した。
【0075】
工程(B)
工程(A)で得られた重合反応生成液を387g用い、純水1150ml、C511COONH42.25gを加える以外は実施例1と同様にして重合を開始させた。実質的な粒子数は8.2×1013個である。
【0076】
追加モノマー混合物の合計重量が318gとなった時点(重合開始から328分後)で残存モノマーを放出し、重合を停止した。この重合で、重合開始から合計重量10gの追加モノマー混合物を系内に追加するために掛かった時間は38分であった。
【0077】
得られた重合反応生成液は1958gであり、固形分含有量は20.86質量%であった。
【0078】
TFE−Pr共重合体はフッ素含有率57.4質量%、ガラス転移温度Tgは3.5℃であった。121℃でのムーニー粘度は34であった。
【0079】
実施例2
工程(A)
乳化剤をC37OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4に変更した以外は実施例1と同様にしてVdF−HFP共重合体粒子を含む重合反応生成液1577gを得た。VdF−HFP共重合体粒子(平均粒子径0.028μm)は重合反応生成液1mlあたり7.6×1014個含んでいた(固形分含有量1.50質量%)。
【0080】
この重合反応生成液のpHは4であり、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7に調整した。
【0081】
工程(B)
上記工程(A)で得られた重合反応生成液を788g用い、純水を750mlとし、初期の実質的粒子数を1mlあたり3.8×1014個としたほかは実施例1の工程(B)と同様にして重合した。追加モノマー混合物の重量が333gとなった時点(重合開始から238分後)で残存モノマーを放出し、重合を停止し、TFE−Pr共重合体粒子を含む重合反応生成液を1964g得た。この重合で、重合開始から合計重量10gの追加モノマー混合物を系内に追加するために掛かった時間は13分であった。
【0082】
得られたTFE−Pr共重合体はフッ素含有率57.1質量%、ガラス転移温度Tg5.5℃、121℃でのムーニー粘度は31であった。
【0083】
実施例3
工程(A)
乳化剤をCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4に変更した以外は実施例1の工程(A)と同様に行なった。
【0084】
得られた重合反応生成液は1525gであり、VdF−HFP共重合体粒子(平均粒子径0.028μm)を重合反応生成液1mlあたり7.6×1014個含んでいた(固形分含有量1.5質量%)。
【0085】
この重合反応生成液のpHは4であり、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7に調整した。
【0086】
工程(B)
3リットルのステンレススチール製の攪拌機付きオートクレーブに、工程(A)で得たpH調整された分散液765gとCH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH40.765g、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH41.53gと純水773mlを仕込み(初期の実質的粒子数を1mlあたり3.7×1014個に調整)、ICF2CF2CF2CF2Iを用いなかった以外は実施例1と同様にして反応を開始した。重合は、途中、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH(CBVE)1.12gを純水4mlと共に14回加え、マロン酸ジエチル1.6gを5回圧入した以外は実施例1と同様にして行い、追加モノマー混合物の重量が250gとなった時点(重合開始から299分後)で残存モノマーを放出し、重合を停止し、TFE−Pr−CBVE共重合体粒子を含む重合反応生成液を2109g得た。固形分含有量は16.6質量%であった。この重合で、重合開始から合計重量10gの追加モノマー混合物を系内に追加するために掛かった時間は29分であった。
【0087】
得られたTFE−Pr−CBVE共重合体は、NMR分析と元素分析の結果から、TFE/Pr/CBVE=54.7/44.7/0.6モル%であり、また、フッ素含有率60.7質量%で、ガラス転移温度Tgは4.0℃であった。ムーニー粘度は、121℃で75であった。
【0088】
実施例4
架橋成形工程
実施例1の工程(B)で得られたTFE−Pr共重合体100質量部に、カーボンブラックとしてN990(サーマックスMT(Cancarb製))25質量部、パーオキサイド系架橋促進剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)(日本化成(株)製)3質量部、パーオキサイド系加硫剤としてパーブチルP(日本油脂(株)製)2質量部、ステアリン酸ナトリウム1質量部をオープンロールで混練した後、170℃にて20分間プレス架橋をし、加硫特性を調べたところ、誘導時間(T10)は0.7であり、最適加硫時間(T90)は4.2であり、架橋速度が向上していることが分かった。
【0089】
ついで後架橋を200℃にて4時間行い、架橋シートを作製した。得られた架橋シートについて、機械物性を調べたところ、100%モジュラスは4.3MPaであり、引張破断強度は18.2MPaであり、引張破断伸びは410%であり、機械物性に優れたものであることが分かった。
【0090】
<加硫特性>
実施例で製造したTFE−Pr共重合体の組成物を加硫する際に、JSR型キュラストメータV型を用いて170℃における加硫曲線を求め、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求める。
【0091】
<機械特性>
実施例で製造したTFE−Pr共重合体の加硫用組成物を用いて、熱プレス機により圧縮成形し、厚さ2mmのシートとしJIS−K6251に準じて、100%モジュラス、引張破断強度、引張破断伸びを測定する。試験片は、ダンベル状4号形とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンまたはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとをビニル基含有含フッ素反応性乳化剤および含フッ素イオン性乳化剤の共存下に乳化重合してフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子またはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体粒子を重合反応生成液1mlあたり1×1014個以上製造する工程、および
(B)重合溶媒1mlあたり1×1014個以上のフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子またはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体粒子の存在下にテトラフルオロエチレンとプロピレンとを乳化重合する工程
を含むテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体の製造法。
【請求項2】
前記工程(A)で使用するビニル基含有含フッ素反応性乳化剤が、含フッ素アリルエーテル鎖を有するカルボン酸の4級アンモニウム塩である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
前記含フッ素アリルエーテル鎖を有するカルボン酸の4級アンモニウム塩が、式(1):
CH2=CFCF2−[OCF(CF3)CF2]n1−(OCF2CF2CF2)n2−OCF(CF3)−COONH4
(式中、n1は0〜10の整数;n2は0〜10の整数)
で示される化合物である請求項2記載の製造法。
【請求項4】
前記工程(A)で使用する含フッ素イオン性乳化剤が、式(2):
Rf−[OCF(CF3)CF2]m1−(OCX12CF2CF2)m2−[OCF(CF3)]m3−(OCX34CF2)m4−COOY1
(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基;X1、X2、X3およびX4は同じかまたな異なり、いずれもHまたはF;Y1はH、−NH4またはアルカリ金属原子;m1は0〜4の整数;m2は0〜4の整数;m3、m4は0または1、m3+m4は0または1)
で示される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。

【公開番号】特開2009−227902(P2009−227902A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77659(P2008−77659)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】