説明

テラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法

【課題】測定精度の低下をなく短時間で測定可能なテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】ビームスプリッター2と、第1レーザ光よりテラヘルツ波を発するテラヘルツ波発振アンテナ5、第2レーザ光に時間遅延を与える時間遅延機構11、第2レーザ光に基づく検出タイミングでテラヘルツ波発振アンテナ5によりテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成するテラヘルツ波受信アンテナ8、テラヘルツ波路中に測定対象物100を設置し、時間遅延機構11によりの時間遅延を変化させた時のテラヘルツ波受信アンテナ8での検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測し、予測した位置に基づき時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の範囲に制御する制御部57と、信号強度データのピーク値に基づき測定対象物100の特徴を検査する検査部(データ処理部56)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いて検査対象物の物理量や物性等を検査する検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電波と光波のちょうど中間領域にあるテラヘルツ波に注目が集まりつつある。テラヘルツ波は、送受信が困難なことから利用が遅れていた。しかし、最近のレーザ及び半導体技術の進歩等によりテラヘルツ波の利用が可能となってきた。学術分野により違いがあるが、テラヘルツ波は、波長で30μm〜3mm、振動数では100GHz〜10THzの領域を指す。
【0003】
このテラヘルツ波を利用することにより、検査対象物の物理量や物性を検査する装置が開示されており、例えば、対象物の粒径を測定する粒径測定装置が存在する。このような従来の粒径測定装置は、対象の粒径を測定するに際して透過率(=(サンプルのFFT結果/リファレンスのFFT結果)*100)を使用するのが一般的であるが、透過率を計算するためにはリファレンスとサンプルとの両方の信号強度を測定し、いずれもフーリエ変換を行った後に周波数毎に算出する必要があり、信号処理に手間がかかるという問題点がある。なお、リファレンスとは、測定対象物を何も設置しない状態で行った測定結果を指す。
【0004】
図18は、従来の粒径測定装置の動作を示すフローチャート図である。従来の測定装置は、最初にリファレンスの時間波形(時間に対する信号強度)を測定する(ステップS1)。次に、従来の測定装置は、測定対象物(サンプル)を設置した場合における時間波形を測定する(ステップS2)。ここで、図19は、従来の測定装置により測定されたサンプル(粒径110μm)とリファレンスの時間波形図の1例である。
【0005】
次に、従来の測定装置は、リファレンスとサンプルについてFFT解析を行う(ステップS3)。次に、従来の測定装置は、周波数毎の透過率を計算する(ステップS4)。すなわち、従来の測定装置は、FFT変換結果に基づいて、所定の周波数におけるサンプルとリファレンスの任意強度を抽出し、上述した式に基づいて透過率を算出する。なお、リファレンスのフーリエ変換後における周波数に対する任意強度は、予めデータベースに記憶された値を用いてもよい。
【0006】
例えば、フーリエ変換後のサンプルの時間波形から、0.183THzの周波数に対する任意強度が127である場合に、データベースに基づいてリファレンスの0.183THzの周波数に対する任意強度が259であったとすると、従来の測定装置は、(127/259)*100=49[%]のように透過率を算出することができる。
【0007】
次に、従来の測定装置は、算出した透過率をデータベースと照合する(ステップS5)。データベースには、所定の周波数において予め測定した粒径に対する透過率が記憶されており、従来の測定装置は、ステップS4で算出した透過率をデータベースと照合することにより、粒径を導き出すことができる。最後に、従来の測定装置は、導出した粒径を表示装置に表示して処理を終了する(ステップS6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−61455号公報
【特許文献2】特開2006−71412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の測定装置は、リファレンスとサンプルの両方の信号強度に対してフーリエ変換を行う必要があり、さらにデータベースによらずにリファレンスを毎回測定する場合には、測定の度にリファレンスとサンプルの両方についてデータをとる必要があり、手間がかかるという問題点がある。
【0010】
特に、従来の測定装置は、データをとる際にロックインアンプを使用してアンテナで受信したテラヘルツ波を増幅するが、ロックインアンプの時定数を1sに設定すると、より正確な値を測定するためには、1点測定するのに時定数の3倍(=3s)の時間を待って測定する必要がある。フーリエ変換を行うために適当な値として1024点測定するとすれば、従来の測定装置は、3×1024=3072s(約50分)かかることとなり、テラヘルツ波時間波形の測定には非常に時間がかかる。また、ロックインアンプの時定数の設定は変更可能であるが、例えば100ms程度に短く変更してしまうと容量が十分ではなく、正確な強度を測定できないという問題がある。
【0011】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、測定精度の低下を招くことなく短時間で測定することができるテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るテラヘルツ波を用いた検査装置は、上記課題を解決するために、レーザ光を第1レーザ光と第2レーザ光とに分割する光分割部と、前記光分割部により発せられた第1レーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を発振するテラヘルツ波発振部と、前記光分割部により発せられた第2レーザ光に時間遅延を与える時間遅延部と、前記時間遅延部により時間遅延を与えられた第2レーザ光に基づいた検出タイミングで前記テラヘルツ波発振部により発振されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成するテラヘルツ波検出部と、前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置し、前記時間遅延部により与えられる時間遅延を変化させた場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測し、予測した位置に基づいて前記時間遅延部が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する制御部と、前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置した場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて前記測定対象物の特徴を検査する検査部とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置におけるテラヘルツ波発振アンテナの詳細な構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置におけるテラヘルツ波受信アンテナの詳細な構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例1の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置においてロックインアンプの時定数を変化させた場合の時間波形図である。
【図5】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置において異なる光路長を有する複数の光路の各々に基づくテラヘルツ波の時間波形図である。
【図7】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置においてテラヘルツ波受信アンテナにより生成される検出信号の時間波形図である。
【図8】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。
【図9】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置における多重反射ミラーの各層における反射率を示す図である。
【図10】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。
【図11】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置における固定遅延反射ミラーの構成例を示す図である。
【図12】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。
【図13】本発明の実施例2の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置における固定遅延反射ミラーの構成例を示す図である。
【図14】本発明の実施例3の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。
【図15】本発明の実施例3の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置における連続遅延反射ミラーの構成を示す図である。
【図16】本発明の実施例3の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。
【図17】本発明の実施例3の形態のテラヘルツ波を用いた検査装置における固定遅延透過板の構成を示す図である。
【図18】従来の粒径測定装置の動作を示すフローチャート図である。
【図19】従来の粒径測定装置により測定されたサンプルとリファレンスの時間波形図の1例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。図1を参照して、検査装置の構成を説明する。本実施例の検査装置は、レーザダイオード1、ビームスプリッター2、ミラー3、レンズ4、テラヘルツ波発振アンテナ5、放物面ミラー6,7、テラヘルツ波受信アンテナ8、レンズ9、ミラー10、時間遅延機構11、ミラー12、信号発生器50、ロックインアンプ51、データ保持部52、表示装置53、データ処理部56、制御部57、及びデータベース58により構成される。
【0016】
なお、レーザダイオード1、ビームスプリッター2、ミラー3,10,12、レンズ4,9、テラヘルツ波発振アンテナ5、テラヘルツ波受信アンテナ8、放物面ミラー6,7、時間遅延機構11、及び後述する測定対象物100は、同一平面状にあるものとする。
【0017】
レーザダイオード1は、レーザ光を発する。このレーザ光は、数ピコ秒以下で強度が変化している。ただし、レーザダイオード1の代わりにフェムト秒パルスレーザを使用してもよい。また、レーザ光の波長は、後述するテラヘルツ波発振アンテナ5及びテラヘルツ波受信アンテナ8の低温成長ガリウムヒ素基板を励起できる波長であればよく、例えば780nm〜830nm程度である。さらに、レーザダイオード1によるレーザ出力強度は、エミッタ側に約30mW、ディテクタ側に約10mW出力する強度があればよい。
【0018】
ビームスプリッター2は、本発明の光分割部に対応し、レーザダイオード1により発せられたレーザ光を第1レーザ光と第2レーザ光とに分割する。
【0019】
ミラー3は、ビームスプリッター2により発せられた第1レーザ光を所定の方向に反射する。
【0020】
レンズ4は、ミラー3により反射された第1レーザ光を集光する。
【0021】
テラヘルツ波発振アンテナ5は、本発明のテラヘルツ波発振部に対応し、ビームスプリッター2により発せられた第1レーザ光がミラー3及びレンズ4を介して照射されることによりテラヘルツ波を発振する。
【0022】
図2は、本実施例のテラヘルツ波を用いた粒径測定装置におけるテラヘルツ波発振アンテナ5の詳細な構成を示す図である。図2に示すように、テラヘルツ波発振アンテナ5は、シリコンレンズ25に低温成長ガリウムヒ素基板22が設けられた構成となっており、低温成長ガリウムヒ素基板22上の電極20に信号発生器50が接続されている。電極20は、例えばダイポール、ボウタイ等の形状を有しており、材質として主に金が用いられる。また、シリコンレンズ25は、半球レンズあるいは超半球レンズを用いたものである。さらに、黒丸で示されたレーザ光23は、ギャップ21に照射される第1レーザ光の照射箇所を示したものである。
【0023】
信号発生器50は、テラヘルツ波発振アンテナ5に電圧を印加し、繰り返し周波数として、例えば11kHz、±10Vでテラヘルツ波を変調する。
【0024】
放物面ミラー6,7は、テラヘルツ波発振アンテナ5により発振されたテラヘルツ波をテラヘルツ波受信アンテナ8に導くためのミラーである。この放物面ミラー6,7は、テラヘルツ波の減衰がないものであればよく、例えば金属(鉄、アルミ等)が挙げられる。可動ステージは20μm以下でステップするステージであればよい。
【0025】
ミラー12は、ビームスプリッター2により発せられた第2レーザ光を所定の方向に反射し、時間遅延機構11内部に導く。
【0026】
時間遅延機構11は、本発明の時間遅延部に対応し、ビームスプリッター2により発せられミラー12を介して入射された第2レーザ光に時間遅延を与える。時間遅延機構11に要求される仕様の1例を挙げると、時間遅延機構11は、内部ミラーの移動範囲が2cm以上5cm以下あればよい。その移動速度は、最大で20kpps(Pulse per second)、最小で1kppsであればよい。また、移動ピッチは10μm毎に動作すればよく、移動精度は0.015mmであればよい。
【0027】
ミラー10は、時間遅延機構11により発せられた第2レーザ光を所定の方向に反射する。
【0028】
レンズ9は、ミラー10により反射された第2レーザ光を集光する。なお、ビームスプリッター2、ミラー3,10,12、及びレンズ4,9は、レーザダイオード1によるレーザ光の出力強度に耐えることができ、且つレーザ光の強度に変化を与えないものがよい。
【0029】
テラヘルツ波受信アンテナ8は、本発明のテラヘルツ波検出部に対応し、時間遅延機構11により時間遅延を与えられた第2レーザ光に基づいた検出タイミングでテラヘルツ波発振アンテナ5により発振されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成する。テラヘルツ波受信アンテナ8は、テラヘルツ波を受信できる装置であればよく、例えばシリコンボロメータ等が挙げられる。
【0030】
図3は、本実施例のテラヘルツ波を用いた粒径測定装置におけるテラヘルツ波受信アンテナ8の詳細な構成を示す図である。図3に示すように、テラヘルツ波受信アンテナ8は、テラヘルツ波発振アンテナ5と同様の構成を有しており、シリコンレンズ25に低温成長ガリウムヒ素基板22が設けられている。ただし、テラヘルツ波受信アンテナ8の低温成長ガリウムヒ素基板22上の電極20には、信号発生器50の代わりにロックインアンプ51が接続されている。
【0031】
ロックインアンプ51は、信号発生器50の参照信号に同期して、テラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号を増幅する。なお、ロックインアンプ51は、電流増幅が10程あればよい。また、電圧電源は50V以下を印加できるものであればよい。
【0032】
データ保持部52及びデータ処理部56は、本発明の検査部に対応し、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置した場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて測定対象物100の特徴を検査する。例えば、この検査部は、信号強度データのピーク値に対応する粒径のデータを保持するデータベース58を参照することにより、測定対象物100の粒径を推定する。
【0033】
個々の構成について述べると、データ保持部52は、テラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく信号強度データを保持する。また、データ処理部56は、データ保持部52に保持された信号強度データが示すピーク値に基づいて測定対象物100の特徴を検査すべく、データ保持部52を介してデータベース58を参照することにより測定対象物100の物理量(例えば粒径)や物性等を推定する。
【0034】
データベース58は、予め調べたピーク強度に対応する物理量(例えば粒径)や物性等のデータを保持する。このデータベース58に保持されたデータは、例えば粒径が既知のガラスビーズ等を使用して予め測定を行い、ピーク強度と粒径との関係を調べて作成したものである。
【0035】
表示装置53は、ロックインアンプ51による出力された検出信号に基づく信号強度データや、検査部(データ保持部52及びデータ処理部56)が検査した結果を表示するための装置である。
【0036】
また、制御部57は、時間遅延機構11内部のミラーを移動させることにより、時間遅延量を制御することができる。ここで、制御部57は、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置し、時間遅延機構11により与えられる時間遅延を変化させた場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測する。さらに、制御部57は、予測した位置に基づいて時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する。この制御部57は、表示装置53と一体的に設置されていてもよい。
【0037】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。ここでは、本実施例の検査装置は、測定対象物100の粒径を測定するものとする。なお、データベース58には、既にピーク強度とそれに対応する粒径のデータが保持されているものとする。
【0038】
最初に、本実施例のテラヘルツ波を用いた粒径測定装置は、図4に示すようなサンプルの時間波形を測定する。具体的に説明すると、ユーザは、測定対象物100をテラヘルツ波路中に設置する。測定対象物100は、粒状物や粉体物であり、ポリカーボネイト等のケースに収納されている。
【0039】
レーザダイオード1は、レーザ光を発する。ビームスプリッター2は、レーザダイオード1により発せられたレーザ光を第1レーザ光と第2レーザ光とに分割する(光分割ステップ)。ここで、第1レーザ光は、テラヘルツ波発振アンテナ2に向かうエミッタ側のレーザ光である。第2レーザ光は、テラヘルツ波受信アンテナ8に向かうディテクタ側のレーザ光である。
【0040】
エミッタ側のレーザ光(第1レーザ光)は、レンズ4により集光され、テラヘルツ波発振アンテナ5に照射される。第1レーザ光が照射されたテラヘルツ波発振アンテナ5は、信号発生器50により電圧を印加されることで、テラヘルツ波を発振する(テラヘルツ波発振ステップ)。
【0041】
発振したテラヘルツ波は、放物面ミラー6,7で反射し、テラヘルツ波受信アンテナ8に照射される。一方、ディテクタ側のレーザ光(第2レーザ光)は、エミッタ側と同様にテラヘルツ波受信アンテナ8に照射される。
【0042】
このとき、ビームスプリッター2からテラヘルツ波発振アンテナ5を経てテラヘルツ波受信アンテナ8までの光学距離と、ビームスプリッター2からテラヘルツ波受信アンテナ8までの距離が一致するように光学部品を設置する。
【0043】
テラヘルツ波発振アンテナ5から発振するテラヘルツ波はパルスであり、パルス幅は数ピコ秒のため一つのパルスを一回で受信することはできない。そこで、本実施例の検査装置は、テラヘルツ波発振アンテナ5にテラヘルツ波を繰り返し送信させておき、時間遅延機構11の光学距離を変えることで時間遅延を発生させ、テラヘルツ波の各箇所を順に測定することでテラヘルツ波を測定する。
【0044】
すなわち、時間遅延機構11は、ビームスプリッター2により発せられミラー12を介して入射された第2レーザ光に時間遅延を与える(時間遅延ステップ)。
【0045】
テラヘルツ波受信アンテナ8は、時間遅延機構11により時間遅延を与えられた第2レーザ光に基づいた検出タイミングでテラヘルツ波発振アンテナ5により発振されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成する(テラヘルツ波検出ステップ)。
【0046】
具体的には、第2レーザ光がテラヘルツ波受信アンテナ8のギャップ21に照射されることで電子が励起し、そこにテラヘルツ波が照射されることで、電極20に微小電流が流れる。ロックインアンプ51は、信号発生器50と同期をとるとともに、この微小電流を検出信号として検出して増幅する。
【0047】
一方、制御部57は、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置し、時間遅延機構11により与えられる時間遅延を変化させた場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測する。さらに、制御部57は、予測した位置に基づいて時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する(制御ステップ)。
【0048】
ここで、時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御せず、レーザダイオードを用い、放物面ミラー6,7の間に何も放置しない状態での時間波形(リファレンス)と放物面ミラー6,7の間に粒(中心粒径110μm)を測定対象物100として設置した状態での測定結果は、上述した図19のようになる。粒はガラスビーズを用い、ケースはポリカーボネイトを用いている。
【0049】
しかしながら、本実施例の制御部57は、上述したように、時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する。具体的には、本実施例の検査装置は、測定時間を短縮するためにロックインアンプ51の時定数を短くし(例えば100ms)、測定時間を短縮してテラヘルツ波形を測定し、テラヘルツピークの位置をいったん測定し、ピーク位置を洗い出す。ここで洗い出されるピーク位置は、おおまかな位置であるため、本来の時定数(例えば1s)で測定した場合におけるピークの予測位置であるといえる。
【0050】
すなわち、制御部57は、ロックインアンプ51の時定数を制御し、ロックインアンプ51の時定数が第1所定値(ここでは100ms)を有する場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づいて、時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測する。
【0051】
次に、制御部57は、予測した位置に基づいて、時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する。すなわち、制御部57は、時定数を適正値(ここでは1s)に戻し、所定の時間遅延範囲で強度ピーク値を再度測定する。
【0052】
通常、この種のテラヘルツ波送受信装置は、ロックインアンプ51の時定数を1sに設定し、測定するまでの時間は3倍の3s待ってから測定する。フーリエ変換するために1024点測定するとして、測定には1024×3=3072s(約50分)かかる。
【0053】
ところが、本実施例の検査装置は、ロックインアンプ51の時定数を第1所定値(ここでは100ms)に設定して測定するため、1024×0.3=307.2s(約5分)で時系列データを測定し、ピーク強度付近を洗い出す。さらに、本実施例の検査装置における制御部57は、ロックインアンプ51の時定数を第2所定値(ここでは1s)に戻し、時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御し、洗い出したピーク強度付近を測定する。ここで、例えばピーク強度付近を10点測定するとすれば、測定にかかる時間は、10×3=30s(0.5分)である。すなわち、トータルの測定時間は5.5分であり、本実施例の検査装置は、従来装置の測定時間に比して1/10に短縮することができる。
【0054】
図4は、本実施例のテラヘルツ波を用いた検査装置においてロックインアンプ51の時定数を変化させた場合の時間波形図である。図4に示すように、時定数を1sに設定した場合と100msに設定した場合とでピーク位置の違いが1〜2点であるため、本実施例の検査装置は、例えば洗い出したピーク強度付近を時定数1sで5点測定するとしてもよい。
【0055】
次に、本実施例のテラヘルツ波を用いた検査装置は、ロックインアンプ51による検出信号のピーク強度を計算し、データベースと照合する。具体的には、検査部(データ保持部52及びデータ処理部56)は、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置した場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて測定対象物100の特徴を検査する(検査ステップ)。
【0056】
本実施例における検査部(データ保持部52及びデータ処理部56)は、制御部57が予測した位置に基づいて時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御するとともにロックインアンプ51の時定数を第1所定値(ここでは100ms)よりも大きな第2所定値(ここでは1s)に変更した場合に、テラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて、測定対象物100の特徴を検査する。
【0057】
一方、上述したように、ユーザは、予め粒径とピーク値との関係を測定しておき、データベース58を作成しておく。サンプル(測定対象物100)の測定が終了すると、データ処理部56は、データ保持部52に保持された信号強度データから上述したピーク値を算出し、算出したピーク値とデータベース58とを照合して粒径を推定する。
【0058】
最後に、表示装置53は、検査部(データ保持部52及びデータ処理部56)が検査することにより判明した測定対象物100の物理量や物性等(本実施例においては粒径)をディスプレイ等に表示する。
【0059】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係るテラヘルツ波を用いた検査装置及び検査方法によれば、測定精度の低下を招くことなく短時間で測定することができる。
【0060】
すなわち、本実施例の検査装置及び検査方法は、単純にピーク強度に基づいてサンプルの物理量や物性を検査するため従来装置のようにフーリエ変換を行う必要が無く、さらにピーク強度を示す位置を迅速に測定するために、時定数を100msに設定しておおまかなピーク強度付近を洗い出し(制御部57によるピーク位置予測)、その後、時間遅延機構11による時間遅延の範囲を予測したピーク位置付近に限定し、時定数を1sに戻して正確なピーク強度を測定するので、測定精度の低下を招くことなく短時間で測定することができる。
【0061】
なお、変形例として、制御部57は、リファレンス(測定対象物を何も設置しない状態で行った測定)の測定結果を利用して、ピーク位置の予測を行ってもよい。すなわち、制御部57は、予め測定されたリファレンスの時系列信号強度データがピーク値を示す位置に基づいて、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置し、時間遅延機構11により与えられる時間遅延を変化させた場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測する。
【0062】
具体的には、テラヘルツ波路中に測定対象物100を設置した場合には、何も設置しない場合に比してテラヘルツ波の伝搬が遅れることを考慮すれば、サンプルのピーク強度を測定する際には、時系列的にリファレンスより前にサンプルのピーク強度が測定されることはない。したがって、制御部57は、サンプルの時系列信号強度データがピーク値を示す位置は、リファレンスの時系列信号強度データがピーク値を示す位置よりも後であると予測し、予測した位置に基づいて時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する。また、検査部は、リファレンスの強度ピークとサンプルの強度ピーク値とを比較することで、測定対象物100の物理量や物性等を推定してもよい。
【0063】
また、測定対象物100を入れるサンプルケースの厚さや屈折率が既知の場合には、制御部57は、それらの情報を利用して、ピーク位置の予測を行ってもよい。すなわち、制御部57は、測定対象物100を入れるサンプルケースが有する屈折率と厚みとに基づいて、テラヘルツ波発振アンテナ5とテラヘルツ波受信アンテナ8との間のテラヘルツ波路中に測定対象物100を設置し、時間遅延機構11により与えられる時間遅延を変化させた場合のテラヘルツ波受信アンテナ8により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測する。
【0064】
物質中を進む電磁波は、物質中の電磁波の速度をV(m/s)とし、光速をC(m/s)とし、物質の屈折率をnとすると、V=C/nの関係式により遅れる。例えば、ポリカーボネイトの屈折率n:1.59、厚み1mmの場合、物質中の電磁波の速度は約1.9×10^8m/sとなり、厚み1mmを進むのに5.3psかかる。したがって、ピークの位置は、リファレンスと比べてサンプルケースの厚さ2枚分である10.6ps後にあることが予想できる。距離で示すと、3×10^8×10.6ps=3.18mmであるので、制御部57は、時間遅延機構11を1.59mmずらし、時系列データの測定を実施する。
【0065】
なお、サンプルケース内の測定対象物100の粒径による厚みについては、テラヘルツ波の透過量が減衰するだけであるためピーク位置に影響が無く、制御部57は、ピーク位置の予測をする際に考慮に入れる必要はない。
【実施例2】
【0066】
次に、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成について説明する。図5は、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。図1に示す実施例1の検査装置と異なる点は、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に光路調整部60を備えている点である。本発明の光路調整部60は、第1レーザ光と第2レーザ光との少なくとも一方の光路上に、光路長の異なる複数の光路を有するものであり、本実施例においては第2レーザ光の光路上にある。
【0067】
具体的には、光路調整部60は、光路1から光路5までの0.87mmずつ光路長が異なる5つの光路を有しており、光路1の光路長が最も短く、光路5が最も長い光路長を有している。さらに、1つの光路のレーザ強度は、約5mWとなるように調整されている。
【0068】
なお、光路調整部60は、予め測定されたリファレンスの信号強度データをフーリエ変換した場合に、最も強い強度を示した周波数に基づいて各光路の光路長差が決められている。これにより、光路調整部60は、フィルタのような役割を果たし、テラヘルツ波受信アンテナ8において特定の周波数のテラヘルツ波が検出されるように作用する。
【0069】
その他の構成は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0070】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図6は、本実施例のテラヘルツ波を用いた検査装置において異なる光路長を有する複数の光路の各々に基づくテラヘルツ波の時間波形図である。光路調整部60が第2レーザ光を5つの光路に分割するので、各光路に基づくテラヘルツ波は、それぞれ本来のテラヘルツ波形の1/5の強度を有する。
【0071】
図7は、本実施例のテラヘルツ波を用いた検査装置においてテラヘルツ波受信アンテナ8により生成される検出信号の時間波形図であり、いわば図6に示す光路1〜光路5に基づくテラヘルツ波形の合計である。すなわち、テラヘルツ波受信アンテナ8は、光路1〜光路5の各光路を通過した第2レーザ光に基づいた検出タイミングでテラヘルツ波発振アンテナ5により発振されたテラヘルツ波を検出するので、図6に示す5つの点を同時に測定することとなる。
【0072】
したがって、本実施例の検査装置は、図7に示すように一周期分のみ測定すればよく、時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の範囲に限定することができる。言い換えると、制御部57は、一周期内にピーク位置が入っていることを予測でき、予測した位置に基づいて時間遅延機構11が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御していると言える。
【0073】
その他の作用は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0074】
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る検査装置によれば、光路調整部60を備えることにより、図6に示すように5点を同時に測定することができ、時間遅延機構11の制御範囲を限定できるため、実施例1と同様に短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【0075】
なお、変形例として、光路調整部60の代わりに多重反射ミラーを使用することも考えられる。図8は、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。図8に示す検査装置においては、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に光路調整部60の代わりに多重反射ミラー13が設置されている。
【0076】
すなわち、多重反射ミラー13は、本発明の光路調整部に対応し、第2レーザ光の光路上に、光路長の異なる複数の光路を有するものである。ここで、図9は、図8に示す検査装置における多重反射ミラー13の各層における反射率を示す図である。第2レーザ光は、多重反射ミラー13の各層を通過するにつれて減衰するため、各層の反射率を調整することで各光路のレーザ光強度を適切に制御する。例えば、多重反射ミラー13へのレーザ照射強度を55mWとし、一層目の反射率:10%、二層目の反射率:15%、三層目の反射率:20%、四層目の反射率:30%、五層目の反射率:60%とすれば、反射してくるレーザ強度はそれぞれ、5.5mW、6,7mW、6.4mW、6.2mW、6.1mWとなる。
【0077】
5つの反射率が異なる境界を多重反射ミラー13に設けることで光路調整部60と同様の動作を行うため、図8に示す検査装置は、図5に示す検査装置の場合と同様に図6の5点を同時に測定することができ、短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【0078】
さらに、別の変形例として、光路調整部60の代わりに固定遅延反射ミラーを使用することも考えられる。図10は、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。図10に示す検査装置においては、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に光路調整部60の代わりに固定遅延反射ミラー14が設置されている。
【0079】
すなわち、固定遅延反射ミラー14は、本発明の光路調整部に対応し、厚みの異なる複数のミラーを組み合わせてなり、第2レーザ光の光路上に光路長の異なる複数の光路を有するものである。ここで、図11は、図10に示す検査装置における固定遅延反射ミラー14の構成例を示す図である。図11に示すように、固定遅延反射ミラー14は、レーザ光に遅延を発生させるために階段状になっており、段の幅はそれぞれ0.435mmずつ異なる。このように0.435mmずつ異なる幅のミラーを組み合わせた固定遅延反射ミラー14を回転させることで、光路調整部60と同様の動作を行うため、図10に示す検査装置は、図5に示す検査装置の場合と同様に図6の5点を同時に測定することができ、短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【0080】
固定遅延反射ミラー14の回転周期は、3.3×NHzとする。時定数を100msとすると、測定間隔は実施例1と同様に300msとなり、この間に必ず固定遅延反射ミラー14を1周回転させる必要がある。すなわち、固定遅延反射ミラー14は、1/300ms=3.3Hz以上で回転する必要がある。これは、3.3Hz未満で回転すると、固定遅延反射ミラー14が1周する前に次の測定が始まってしまうからである。なお、固定遅延反射ミラー14の回転数は3.3×NHzでもよい。
【0081】
また、時間遅延機構11の代わりに固定遅延反射ミラーを使用することも考えられる。図12は、本発明の実施例2のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。図12に示す検査装置においては、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に時間遅延機構11及び光路調整部60の代わりに固定遅延反射ミラー14−1,14−2が設置されている。
【0082】
ここで、図13は、図12に示す検査装置における固定遅延反射ミラー14−1,14−2の構成例を示す図である。固定遅延反射ミラー14−1は、本発明の時間遅延部に対応し、厚みの異なる複数のミラーを組み合わせてなり、ビームスプリッター2により発せられた第2レーザ光に時間遅延を与える。
【0083】
すなわち、固定遅延反射ミラー14−1は、図13(a)に示すように、第2レーザ光に遅延を発生させるために階段状に構成されており、図6のように測定間隔を26.7psとして測定するために、段差の幅が40μmずつ異なる。ただし、段差の幅は、必ずしも40μmに限らず、40μm以下であることが望ましい。また、固定遅延反射ミラー14−1は、少なくとも1024箇所の段差を有している。これにより、1024点以上の測定が可能である。例えばロックインアンプ51の時定数を1sとし、各点の測定に3sかかるとすると、固定遅延反射ミラー14−1は、回転する際に各段において3s待つ必要があるため、非常にゆっくりとした速度で回転することになる。
【0084】
このような固定遅延反射ミラー14−1を回転させることで、時間遅延機構11と同様の動作を行うため、図12に示す検査装置は、後述する固定遅延反射ミラー14−2と合わせて使用することにより、図5に示す検査装置の場合と同様に図6の5点を同時に測定することができ、短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【0085】
一方、固定遅延反射ミラー14−2は、本発明の光路調整部に対応し、厚みの異なる複数のミラーを組み合わせてなり、第2レーザ光の光路上に光路長の異なる複数の光路を有するものである。固定遅延反射ミラー14−2は、図13(b)に示すように、レーザ光に遅延を発生させるために階段状になっており、段差の幅がそれぞれ0.435mmずつ異なる。
【0086】
このように0.435mmずつ異なる幅のミラーを組み合わせた固定遅延反射ミラー14−2を回転させることで、光路調整部60と同様の動作を行うため、図12に示す検査装置は、図5に示す検査装置の場合と同様に図6の5点を同時に測定することができ、短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【実施例3】
【0087】
図14は、本発明の実施例3のテラヘルツ波を用いた検査装置の構成を示す図である。図5に示す実施例2の構成と異なる点は、光路調整部60の代わりに連続遅延反射ミラー15を備えている点である。
【0088】
図15は、図14に示す検査装置における連続遅延反射ミラー15の構成を示す図である。ただし、図14には図示されていないが、実際には連続遅延反射ミラー15の前にはフィルタ24が設置されている。これらの連続遅延反射ミラー15とフィルタ24とは、本発明の光路調整部に対応し、第2レーザ光の光路上に、光路長の異なる複数の光路を有するものであり、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に設置されている。
【0089】
具体的には、連続遅延反射ミラー15は、図15に示すように、厚みが連続的に変化するミラーであり、言い換えると、第2レーザ光に遅延を発生させるためにスロープ状に構成されている。また、フィルタ24は、第2レーザ光が通過するための箇所と、第2レーザ光を遮断するための箇所とを有している。
【0090】
その他の構成は、実施例2と同様であり、重複した説明を省略する。
【0091】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。基本的には、実施例2の検査装置の動作と同様である。例えば、図11で説明した固定遅延反射ミラー14と同様に0.435mmずつ距離が異なる箇所を測定する場合には、本実施例の検査装置は、連続遅延反射ミラー15とフィルタ24とを回転させ、0.435mmずつ距離が異なる箇所だけにレーザを照射し、反射光を得ることができるように制御する。これにより、連続遅延反射ミラー15とフィルタ24とは、図11で説明した固定遅延反射ミラー14と同様の動作を行う。
【0092】
その他の作用は実施例2と同様であり、重複した説明を省略する。
【0093】
上述のとおり、本発明の実施例3の形態に係る検査装置によれば、連続遅延反射ミラー15とフィルタ24とを備えることにより、図6に示すように5点を同時に測定することができ、時間遅延機構11の制御範囲を限定できるため、実施例2と同様に短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができる。
【0094】
なお、変形例として、時間遅延機構11の代わりに固定遅延透過板を使用することも考えられる。図16は、本発明の実施例3のテラヘルツ波を用いた検査装置の別の構成例を示す図である。図16に示す検査装置は、ビームスプリッター2とテラヘルツ波受信アンテナ8との間に、時間遅延機構11の代わりに固定遅延透過板16を備えている。
【0095】
ここで、図17は、図16に示す検査装置における固定遅延透過板16の構成を示す図である。固定遅延透過板16は、本発明の時間遅延部に対応し、厚みの異なる複数の透過板を組み合わせることで構成され、ビームスプリッター2により発せられた第2レーザ光に時間遅延を与える。具体的には、固定遅延透過板16は、レーザ光に遅延を発生させるために、図17に示すように各箇所厚みが異なり階段状となっている。
【0096】
例えば、固定遅延透過板16の屈折率が1.5で、図6と同じように26.7psずつ測定する場合を考える。屈折率が1.5より、レーザ光が固定遅延透過板16を透過する物質中の速度は、V=c/nより2×10m/sとなる(V:物質中の光速、c:光速、n:屈折率)。26.7psずつ測定するには、2×10m/s×26.7×10−14s/2=26.7μmずつ厚さを変えればよい。
【0097】
ただし、図16に示す検査装置は、本発明の光路調整部に対応する構成を有しないため、時間遅延機構11を固定遅延透過板16に置き換えて実施例1で説明したような動作を行うことにより、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0098】
また、図16に示す検査装置に対して、固定遅延反射ミラー14や連続遅延反射ミラー15等の光路調整部に対応する構成を取り入れてもよい。
【0099】
このように26.7μmずつ厚さが異なる透過板を複数(例えば1024枚)組み合わせた固定遅延透過板16を回転させることで、時間遅延機構11と同様の動作を行うため、図16に示す検査装置は、短時間の測定で測定対象物100の物理量や物性等を推定することができるとともに、装置の小型化を可能とする。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 レーザダイオード
2 ビームスプリッター
3 ミラー
4 レンズ
5 テラヘルツ波発振アンテナ
6,7 放物面ミラー
8 テラヘルツ波受信アンテナ
9 レンズ
10 ミラー
11 時間遅延機構
12 ミラー
13 多重反射ミラー
14,14−1,14−2 固定遅延反射ミラー
15 連続遅延反射ミラー
16 固定遅延透過板
20 電極
21 ギャップ
22 低温成長ガリウムヒ素基板
23 レーザ光
24 フィルタ
25 シリコンレンズ
50 信号発生器
51 ロックインアンプ
52 データ保持部
53 表示装置
56 データ処理部
57 制御部
58 データベース
60 光路調整部
100 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を第1レーザ光と第2レーザ光とに分割する光分割部と、
前記光分割部により発せられた第1レーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を発振するテラヘルツ波発振部と、
前記光分割部により発せられた第2レーザ光に時間遅延を与える時間遅延部と、
前記時間遅延部により時間遅延を与えられた第2レーザ光に基づいた検出タイミングで前記テラヘルツ波発振部により発振されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成するテラヘルツ波検出部と、
前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置し、前記時間遅延部により与えられる時間遅延を変化させた場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測し、予測した位置に基づいて前記時間遅延部が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する制御部と、
前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置した場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて前記測定対象物の特徴を検査する検査部と、
を備えることを特徴とするテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号を増幅するロックインアンプを備え、
前記制御部は、前記ロックインアンプの時定数が第1所定値を有する場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づいて時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測し、
前記検査部は、前記制御部が予測した位置に基づいて前記時間遅延部が与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御するとともに前記ロックインアンプの時定数を第1所定値よりも大きな第2所定値に変更した場合に、前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて前記測定対象物の特徴を検査することを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、予め測定されたリファレンスの時系列信号強度データがピーク値を示す位置に基づいて、前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置し、前記時間遅延部により与えられる時間遅延を変化させた場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記測定対象物を入れるサンプルケースが有する屈折率と厚みとに基づいて、前記テラヘルツ波発振部と前記テラヘルツ波検出部との間のテラヘルツ波路中に測定対象物を設置し、前記時間遅延部により与えられる時間遅延を変化させた場合の前記テラヘルツ波検出部により生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項5】
前記第1レーザ光と前記第2レーザ光との少なくとも一方の光路上に、光路長の異なる複数の光路を有する光路調整部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項6】
前記光路調整部は、多重反射ミラーにより構成されることを特徴とする請求項5記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項7】
前記光路調整部は、厚みの異なる複数のミラーを組み合わせた固定遅延反射ミラーにより構成されることを特徴とする請求項5記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項8】
前記光路調整部は、厚みが連続的に変化する連続遅延反射ミラーとフィルタとにより構成されることを特徴とする請求項5記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項9】
前記時間遅延部は、厚みの異なる複数のミラーを組み合わせた固定遅延反射ミラーにより構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項10】
前記時間遅延部は、厚みの異なる複数の透過板を組み合わせた固定遅延透過板により構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のテラヘルツ波を用いた検査装置。
【請求項11】
レーザ光を第1レーザ光と第2レーザ光とに分割する光分割ステップと、
前記光分割ステップにより発せられた第1レーザ光が照射されることによりテラヘルツ波を発振するテラヘルツ波発振ステップと、
前記光分割ステップにより発せられた第2レーザ光に時間遅延を与える時間遅延ステップと、
前記時間遅延ステップにより時間遅延を与えられた第2レーザ光に基づいた検出タイミングで前記テラヘルツ波発振ステップにより発振されたテラヘルツ波を検出し、検出したテラヘルツ波の強度に応じた検出信号を生成するテラヘルツ波検出ステップと、
テラヘルツ波路中に測定対象物を設置し、前記時間遅延ステップにより与えられる時間遅延を変化させた場合の前記テラヘルツ波検出ステップにより生成された検出信号に基づく時系列信号強度データがピーク値を示す位置を予測し、予測した位置に基づいて前記時間遅延ステップが与える時間遅延の範囲を所定の限定された範囲に制御する制御ステップと、
テラヘルツ波路中に測定対象物を設置した場合の前記テラヘルツ波検出ステップにより生成された検出信号に基づく信号強度データのピーク値に基づいて前記測定対象物の特徴を検査する検査ステップと、
を備えることを特徴とするテラヘルツ波を用いた検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−225703(P2012−225703A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91866(P2011−91866)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】