説明

テラヘルツ波を用いた皮膚角層成分の計測方法

【課題】テラヘルツ波を用いて、従来全く不可能であった皮膚角層成分を、簡便且つ高精度に計測する技術を提供する。
【解決手段】テラヘルツ波を用いたメタルメッシュ法を利用することを特徴とする、皮膚角層成分の計測技術であって、該メタルメッシュは、金属板に波長以下の開口を規則的に配列した構造を有する、金属メッシュ、FSS、金属開口アレイ、金属フォトニック結晶、或いはプラズモニックメタマテリアル等が利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の計測方法に関するものであり、より具体的には、テラヘルツ波を用いた皮膚角層成分の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織の3層から構成されている。さらに、表皮は角層、顆粒層、有棘層及び基底層の4層から構成され、外気と接している角層は、水分保持機能やバリア機能という極めて重要な役割を果たしている。かような重要な機能を有する角層(以下において、角層を構成している1〜数十枚の角層細胞も含む意味である)の成分を計測評価することは、極めて重用視された課題であった。皮膚成分の測定に関しては、既に近赤外線を用いて皮膚水分濃度を計測する技術(例えば、特許文献1参照)、ラマンスペクトルを用いた皮膚水分量を計測する技術(例えば、特許文献2参照)、第2高調波発生光(SHG光)を用いて真皮等の皮膚内部の変化に起因する皮膚のしわの状態を計測する技術(例えば、特許文献3参照)等の非侵襲的光学的技術が開示されている。しかし、角層に対しては、かような技術は全く知られていなかった。
【0003】
一方、近年1〜100THzの周波数を有する電磁波であるテラヘルツ波は、その特性である、直進性、透過性、人体に対する安全性、室温での利用性、可干渉性、偏光特性等が注目され、テラヘルツ電磁波、テラヘルツフォトニクス、テラヘルツエレクトロニクス等の主要分野での技術革新はめざましいものがある。例えば生体分野においては、皮膚や食品へのテラヘルツ波を照射可能な携帯型プローブ型照射方法・装置(例えば、特許文献4)、生体組織にテラヘルツ波を照射して得られたスペクトル分布に基づいて成分濃度を分析する方法や装置(例えば、特許文献5、特許文献6)、生体等の薄切片試料中の水分をテラヘルツパルス波を用いて高精度に測定する方法・装置(例えば、特許文献7)等の技術が開示されている。また、薄膜計測技術として、テラヘルツエコーパルスを用いて、ウェット膜や多層膜等の薄膜を測定する方法・装置(例えば、特許文献8)も開示されている。
【0004】
かような状況下に於いて、テラヘルツ波を利用して簡便且つ精度良く皮膚角層成分を計測する方法が期待されていた。しかし、例えば、皮膚角層の厚さは皮膚真皮や皮膚表皮などと比較して極めて薄いことや屈折率に差異がないために、皮膚角層成分を計測・評価することは全く不可能というべき状況であった。また、メタルメッシュ法を用いて、皮膚角層成分を計測評価できることは全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−090298号公報
【特許文献2】特開2010−012076号公報
【特許文献3】特開2009−236610号公報
【特許文献4】特開2005−195382号公報
【特許文献5】特開2006−090863号公報
【特許文献6】特開2008−175794号公報
【特許文献7】特開2009−122007号公報
【特許文献8】特開2004−028618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で為されたものであり、テラヘルツ波を用いて、従来全く不可能であった皮膚角層成分(成分量、成分の性質)を、簡便且つ高精度に計測する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況を鑑みて、本発明者らはより簡便且つ精度良く計測・評価しうるテラヘルツ波を利用して、皮膚より採取された角層成分を計測する技術を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、テラヘルツ波を用いたメタルメッシュ法で角層成分を簡便且つ精度良く計測できる技術を提供できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下に示す技術に関する。
【0008】
(1)皮膚より採取された角層の成分を計測するための方法であって、テラヘルツ波を用いて計測することを特徴とする、角層成分の計測方法。
(2)メタルメッシュを用いることを特徴とする、(1)に記載の角層成分の計測方法。
(3)透過率と検体である皮膚から採取された角層成分との相関関係を利用することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の角層成分の計測方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テラヘルツ波を用いて、皮膚より採取された角層成分を簡便且つ高精度に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)本発明のテラヘルツ波を用いた皮膚角層成分の計測方法
テラヘルツ波を用いて皮膚角層成分を計測するには、市販のテープでテープストリッピング法(以下TSと略)により採取された皮膚角層、或いはヒト組織からトリプシン処理により単離された角層シートを用いればよい。後述する比較例のように、通常には角層成分を計測することは全くできない。しかし、本願発明の皮膚より採取された角層成分の計測方法は、メタルメッシュ法により、これまで全く不可能であった皮膚角層成分を簡便且つ高精度に計測することを特徴とする画期的な技術である。以下に更に詳細を述べる。
【0011】
テラヘルツ波を発生させる装置は、市販されている装置、或いはレーザーやBWO光源によるテラヘルツ波を利用して、以下に示すような実験系を設定して用いればよい。また、市販されているテラヘルツ計測装置としては、例えば、大塚電子株式会社製のテラヘルツ分光器TR−1000、株式会社栃木ニコン社製のテラヘルツパルス分光装置、株式会社先端赤外製のテラヘルツ時間領域分光分析装置THz−TDS等が好ましく例示でき、これらを利用することもできる。
【0012】
本願発明である皮膚角層成分を計測するためには、高スペクトル分解と高S/N比を得ることが必須であり、本願発明はこのため、後述するようにメタルメッシュ法の利用という技術的特徴を有している。また、計測結果のスペクトルとしては、吸光度、透過率、屈折率、反射率の内、透過スペクトルが好ましい。これは、皮膚角層の厚さは非常に薄いこと、及びテープストリッピング法を用いた場合、検体を採取するためのテープと検体である皮膚角層との屈折率とが近いことによる測定困難性を回避しうる為である。
【0013】
前記メタルメッシュ法における実験系の概略構成例を図1に示す。即ち、メタルメッシュを2個の放物面鏡間に設定することで、検体の微量な成分量の差によるスペクトル変化を示し、その結果、15ng/mm以下の高分解能を有し、微少な成分量の差異を検出するという驚くべき特性を発揮する。120〜150ng/mm程度の種々のインク(筆記用具用インク)をテラヘルツ波で計測した結果を図2に示す。これよりメタルメッシュ使用によって透過スペクトルに差異が生じ、インク濃度を高感度に測定できることが分かる。後述する実施例においてより詳細に記すが、本願発明はかようなスペクトル変化を利用した、代表的な角層成分である、タンパク質、脂質及び水分等を高感度に計測する技術に関するものである。
【0014】
前記メタルメッシュは、金属板に波長以下の開口を規則的に配列した構造を設定すればよく、材質としては、例えば、金属メッシュ、FSS,金属開口アレイ、金属フォトニック結晶、プラズモニックメタマテリアルなどが好ましく例示できる。図3に実施例で使用した薄型金属メッシュ(光学顕微鏡写真)を示すが、これらはいずれもサンプルの屈折率により透過特性を変化させ、好ましく利用できる。
【0015】
メタルメッシュ法を用いて皮膚角層を計測した後、皮膚角層成分を定量化するには、例えば、予め複数の角層成分(種類、量)の異なる検体に対して透過率を計測しておき、これらの相関関係を利用することができる。以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定を受けないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0016】
(1)メタルメッシュ法を用いた皮膚角層の計測
メタルメッシュの実験系を設定し(図1参照)、市販のテープを用い、定法に従って20代の男性2名の頬及び上腕の皮膚より、TSによって角層を採取した。テープに付着した皮膚角層を、薄型メタルメッシュ(正方形開口:正方格子幅76.3μm、図3c参照)を用いて透過率を計測した。図4に男性2名の上腕部のスペクトルを示す。また図5に、同一男性1名の頬部と上腕部のスペクトルを示す。図4及び図5より、透過率において明確な個人差及び部位差を認め、メタルメッシュ法を用いることで角層の個人差及び部位差を簡便且つ高精度に計測できることが分かる。
【実施例2】
【0017】
(2)皮膚角層成分の計測
実施例1で計測された透過率における個人差及び部位差と角層成分との関係について検討した。即ち、BIOPREDIC International社製のヒト角層シートをクロロホルム:メタノール(1:1)溶液による脱脂処理、又は、80℃以上で30秒間の熱風による加熱処理を行った後、メタルメッシュ法で計測した。図6より、クロロホルム−メタノール処理又は加熱処理により各々透過率が変化することを認めることができる。従って、メタルメッシュ法を利用することによって、これらの各処理による、角層の細胞間脂質及び内包される水の変化、又は、角層中のタンパク質や水分含有量の変化を簡便且つ精度良く計測できることが分かる。
【比較例】
【0018】
27歳の男性の頬の皮膚より、定法に従ってTSによって採取されたテープに付着した皮膚角層(図7の左図の右側)とテープのみ(図7の左図の左側)を対象に、実施例1の装置でメタルメッシュを使用せずに、直接透過率を計測した。図7に示されるように、テープのみと、テープ+皮膚頬部角層との透過率に差異を認めず、メタルメッシュを使用しない場合は、皮膚角層を計測できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によって皮膚角層成分を簡便且つ高精度に計測できる。その結果を利用し、例えば、お店やデパートの店頭、或いは、遠隔地からでも、肌や美容カウンセリング又は化粧品の選択など、有用な情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】メタルメッシュ法における実験系を示す概略構成図である。
【図2】メタルメッシュ法を利用したインク量の計測例を示す図である。
【図3】各種メタルメッシュの光学顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【図4】実施例1で、男性2名の上腕部角層の計測結果を示す図である。
【図5】実施例1で、男性1名の頬部と上腕部の角層の計測結果を示す図である。
【図6】実施例2で、皮膚角層成分の計測結果を示す図である。
【図7】比較例で、メタルメッシュ法を利用しない計測結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚より採取された角層の成分を計測するための方法であって、テラヘルツ波を用いて計測することを特徴とする、角層成分の計測方法。
【請求項2】
メタルメッシュを用いることを特徴とする、請求項1に記載の角層成分の計測方法。
【請求項3】
透過率と検体である皮膚から採取された角層成分との相関関係を利用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の角層成分の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232290(P2011−232290A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105300(P2010−105300)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】