説明

テルミン

【課題】テルミンの発音周波数を温度変化に対して安定にすることで演奏し易くする。
【解決手段】ヘテロダインで音を発生するための二つの発振回路を同じ回路として温度変化に対する音程の変動を少なくする従来例に加え、整合回路甲12と等価な整合回路乙22及びアンテナ回路13と等価な擬似アンテナ回路23を発振回路乙21側にも配置した。テルミンの二つの発振回路及び発振回路に接続された回路が等価となるため、テルミンの温度に対する発音周波数の安定度を改善して演奏し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テルミンを実現する回路構成に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
テルミンは1919年にロシアの発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミンが発明した世界初の電子楽器とされる。温度の変化に対する音程の安定を図るために二つの発振回路を同じ回路とする事が有効である事はすでに広く知られており実際に販売されている製品にも取り入れられている。
また、LC発振回路、周期または周波数を計測する回路及びマイクロプロセッサを有し、デジタル音源を制御する信号または低周波信号を作り出すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3096424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テルミンはヘテロダインによって音を発する電子楽器であり音程発生用に二つの発振回路を有する。発振回路内にはLCまたはCR共振回路が存在する。一般的にはLC共振回路を用いた発振回路の方が安定なテルミンとし易い。ヘテロダインで発音する原理のため発振回路のどちらか一方の周波数が変化するとテルミンの発音する音程が変化する。二つの発振回路の発振周波数が同じ方向に同じだけ変化した時は周波数変化の差がゼロとなるので楽器の発音周波数は変化しない特徴をもつ。
【0005】
図2は従来例によるテルミンの回路の概念図である。
以下で二つの発振回路で演奏用アンテナ(音程を変化させるためのアンテナ、以下アンテナと称する)に接続される側を発振回路甲と呼ぶ、他方の発振回路を発振回路乙と呼ぶ。
従来例において演奏用のアンテナ16は発振回路甲11内の同調回路に接続されている整合回路甲12を経由して接続されている。
アンテナ16と演奏者(人体)との間に生ずる微小な静電容量を経て人体からアースまでの範囲をアンテナ回路13と称する。
【0006】
演奏者は手とアンテナ16の間の距離を変化させて演奏者とアンテナ16との間に形成される微小な静電容量を変化させて演奏する。テルミンの発振回路は微小な電流で動作しており回路の共通線(通常は0Vライン)は外部の接地線に接続される。図2はアース端子34を備える場合の例を示している。
アース端子34を備えないテルミンの場合はテルミンの電源回路と商用電源ライン間に有する静電容量甲を経由して高周波的に接地される、テルミンの動作を安定に保つ目的で浮遊容量だけでは不足する静電容量甲の容量を必要量にするため意図的にテルミンの共通線(通常は0Vライン)と商用ラインとの間にコンデンサーが接続されることがある。
【0007】
演奏者は床に立って(または座姿勢で)演奏するがアンテナ16と演奏者との間に形成される微小な静電容量を経て人体に誘起する高周波電流もごく微小であって発振回路甲11に対して人体は接地線の電位(アース電位)と同じとみなされる。
【0008】
従来例のテルミンでは図2及び図3(従来例として現在Moog Music社から販売されている製品(Etherwave Theremin)の解説書HotRodEtherwav.pdf(UNDERSTANDING,CUSTOMIZING,ANDHOT-RODDING YOUR ETHERWAVE THEREMIN)の4ページにある回路図から抜粋して示す。)のように発振回路甲11には整合回路甲12とアンテナ回路13が接続されているが、発振回路乙21には整合回路甲12やアンテナ回路甲13に相当するものは接続されていない、これは発振回路乙21側にはアンテナやアンテナの整合回路はテルミンの動作必要が無いからである。
通常は整合回路甲12には誘導性素子が用いられるがコンデンサーや抵抗が含まれる場合もあり、これらは温度変化に対してインピーダンスが変化する。
【0009】
従来例のテルミン(図2)では演奏者用のピッチ調整回路甲14(周波数微調整回路)及びピッチ調整回路乙24(周波数微調整回路)はテルミンとしての動作の必要性から容量性の特性をもつ回路や素子が発振回路に接続されている。ピッチ調整回路は双方の発振回路に接続される例もあるが図3のようにどちらか一方のみに接続される場合が多い。
【0010】
図2、図3に示すように二つの発振回路に接続された回路が同じとならない事が原因で二つの発振回路の温度変化に対する発振周波数の変化特性が同じとならず、テルミンの発音周波数が温度変化に対して変化するため演奏が難しくなっていた。
このため演奏者は演奏途中で時々ピッチ調整回路甲14(またはピッチ調整回路乙24)を操作して演奏しやすい状態にする頻度が高かった。
そこで、この発明はテルミンの発音周波数を温度変化に対して安定にすることで演奏し易くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、ヘテロダインで音程を発生するために二つある発振回路の内で演奏用のアンテナが接続されている側の発振回路甲11に接続されているアンテナ回路13に対して、等価な擬似アンテナ回路23を演奏用のアンテナが接続されていない側の発振回路乙21側にも配置した。
【0012】
上記テルミンにおいて、演奏用のアンテナが接続されていない側の発振回路乙21と擬似アンテナ回路23の間に整合回路乙22を配置した。
【0013】
上記では理論的には成り立っても実際に製作すると、アンテナからの電波や発振回路または整合回路または擬似アンテナが空間で干渉しあってテルミンとして動作させることが出来ない。
そのため本発明においては整合回路乙22及び擬似アンテナ回路乙23を発振回路回路甲11及びこれに接続された回路が存在する空間甲15から電磁的、静電気的に遮蔽された空間乙25に置く事で解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、テルミンの二つの発振回路及び発振回路に接続された回路が等価となるため、テルミンの温度に対する発音周波数の安定度を改善して演奏し易くする効果がある。両発振回路に接続する回路を等価としないでも接続された回路の温度特性(温度に対する周波数変化)がゼロとなる素子で構成しても発音周波数の安定度を改善することは理論的には可能であるが市販されている素子の中から探し出す事は困難で実現し難いが、本発明によれば市販されている素子のみでテルミンの発音周波数の安定度を改善して演奏し易くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態を示す回路の概念図。
【図2】従来例を示す回路の概念図である。
【図3】従来例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図1に示す。
発振回路乙21に整合回路乙22及び擬似アンテナ回路23を配置して二つの発振回路に接続された回路が等価となるようにした。
【0017】
従来例のテルミンに存在しなかった回路を発振回路乙21に配置するとテルミンが安定に動作しなくなることを回避するために、整合回路乙22と擬似アンテナ回路23は空間乙25内に配置した。
ここで空間乙25は遮蔽壁26によって空間甲15から電磁的、静電的に遮蔽された空間である、遮蔽壁26はアース端子または回路の共通線(通常は0Vライン)に接続される。
【0018】
空間乙25は必ずしも空間甲15に対して完全密閉である必要はなく部分的に開放されていても良い。
遮蔽壁26は単一の構造で無くとも良く、複数のもので分割して構成しても良い。
遮蔽壁26の構造はパイプ状、円筒状、箱型など任意の形状で良い。
実施形態では遮蔽壁26はパイプ状として、整合回路乙22及び擬似アンテナ回路23となる静電容量27を内蔵した。パイプの両端は開放して一端は発振回路乙21との接続用開口とし、他方はピッチ調整容量28(可変容量)接続用の開口とした。ピッチ調整容量28の遮蔽壁は平板状の構造とした。
【0019】
ピッチ調整はピッチ調整容量28によらずピッチ調整回路14及びピッチ調整回路24を等価として配置してどちらか一方または両方を調製用とする方法としても良い。
【0020】
この実施形態によれば、テルミンの温度変化による音程の変化を従来よりも少なくすることができ演奏し易くなる。
【符号の説明】
【0021】
11発振回路甲
12整合回路甲
13アンテナ回路
14ピッチ調整回路甲
15空間甲
16アンテナ
21発振回路乙
22整合回路乙
23擬似アンテナ回路
24ピッチ調整回路乙
25空間乙
26遮蔽壁
27静電容量
28ピッチ調整容量
31混合回路
32出力回路
33出力端子
34アース端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロダインで音程を発生するために二つある発振回路の内で演奏用のアンテナが接続されている側の発振回路甲11に接続されているアンテナ回路13に対して、等価な擬似アンテナ回路23を演奏用のアンテナが接続されていない側の発振回路乙21側にも配置することを特徴とするテルミン。
【請求項2】
請求項1記載のテルミンにおいて、演奏用のアンテナが接続されていない側の発振回路乙21側に整合回路乙22を配置することを特徴とするテルミン。
【請求項3】
請求項1また2記載のテルミンにおいて、整合回路乙22または擬似アンテナ回路23を、空間甲15から遮蔽壁26によって電磁的、静電気的に遮蔽された空間乙25内に置くことを特徴とするテルミン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−108336(P2012−108336A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257488(P2010−257488)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【特許番号】特許第4733228号(P4733228)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(710012977)
【Fターム(参考)】