説明

テルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法

【課題】優れた性能指数を有するテルル化ビスマス系熱電変換素子を製造する方法を提供する。
【解決手段】セラミックス粒子のスラリーと、塩化ビスマス及び塩化テルルとを混合して分散液を調製した後、この分散液中に還元剤を加えてセラミックス粒子上でBi及びTeを還元析出させ、洗浄、加熱処理し、次いで焼結する工程を含む、テルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法において、前記還元剤として常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料としてのセラミックスを含有するテルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる材料であり、熱電冷却素子や熱電発電素子として利用される熱電変換素子を構成する材料である。この熱電変換材料はゼーベック効果を利用して熱電変換を行うものであるが、その熱電変換性能は、性能指数ZTと呼ばれる下式(1)で表される。
ZT=α2σT/κ (1)
(上式中、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を、そしてTは測定温度を示す)
【0003】
上記式(1)から明らかなように、熱電変換材料の熱電変換性能を高めるためには、用いる材料のゼーベック係数α及び電気伝導率σを大きくし、熱伝導率κを小さくすればよいことがわかる。ここで材料の熱伝導率κを小さくするために、熱電変換材料の出発原料の粒子に熱電変換材料の母材と反応しない微粒子(不活性微粒子)を添加することがある。これにより、不活性微粒子が熱電変換材料における熱伝導の主要因であるフォノンを散乱させて、熱伝導率κを低減することができる。
【0004】
しかしながら、従来の熱電変換材料では、不活性微粒子が偏在することによって、不活性微粒子によるフォノンの散乱効果よりも不活性微粒子の偏在による電気抵抗率等の他の物性値の悪化の影響が大きく、熱電変換材料の性能向上が妨げられている。この問題を解消するため、例えば、出発原料を微粒子とし、それに母材と反応しないセラミックス等の微粒子を均一に分散させて焼結してなる熱電変換材料が提案されている。この熱電変換材料では、出発原料と不活性微粒子の両者を微粒子とすることで、不活性微粒子が熱電変換材料の母材全体に分散し易くなり出発原料の粒子間に存在する確率が高くなるので、母材の粒子同士の結晶化を防止することができる。また粒径比がほぼ1の同等の大きさの粒子となるように出発原料と不活性微粒子とを調製するため、不活性微粒子は熱電変換材料中に偏在することなく均一に分布して存在でき、不活性微粒子の偏在による電気抵抗率等の他の物性値の悪化を抑えることができる。
【0005】
しかしながら、粒径がナノオーダーである粒子は比表面積が大きいため、ファンデルワールス力等によって凝集しやすく、従って従来の方法のように熱電変換材料粒子と不活性微粒子を混合するのみでは、不活性微粒子が凝集してミクロサイズになってしまい、熱電変換材料中に不活性微粒子をナノオーダーで分散させることができない。その結果、不活性材料同士の間隔がフォノンの平均自由行程より大きくなってしまい、熱伝導率を十分に低減することができない。
【0006】
そこで本発明者は先に、セラミックス粒子を含む分散液中で熱電変換材料を構成する元素の塩を還元し、セラミックス粒子の表面に熱電変換材料の原料粒子を析出させ、加熱処理し、焼結する工程を含む、熱電変換素子の製造方法を提案した。この方法によれば、セラミックス粒子同士又は熱電変換材料粒子同士が凝集することなく、両者が均一に分散した状態の複合粒子を得ることができ、この複合粒子を焼結することにより、熱電変換材料中にセラミックス粒子が均一に分散した熱電変換素子を得ることができる。
【0007】
ところで、熱電変換材料としては各種のものが知られているが、なかでもテルル化ビスマス(Bi2Te3)は常温用熱電変換材料として広く知られている。このテルル化ビスマスのナノ粒子の製造方法として、塩化ビスマスの溶液と、塩化テルルと還元剤を混合し、還元反応を行うことが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2005−343782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記方法では、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムが用いられているが、この水素化ホウ素ナトリウムを用いてセラミックス粒子を含む分散液中で塩化ビスマスと塩化テルルを還元すると、図1に示すように、BiやTeのナノ粒子1はセラミックス粒子2の表面上で析出するものの、一部のナノ粒子1はセラミックス粒子2の表面上以外で析出し、セラミックス粒子同士が凝集してしまう箇所がある割合で発生し、十分な特性を達成できないという問題がある。このように還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合に、BiやTeのナノ粒子がセラミックス粒子の表面上以外で析出するのは、水素化ホウ素ナトリウムの還元力が塩化ビスマスや塩化テルルに対して強すぎるためであると考えられる。すなわち、還元力が強いため、自由表面で核生成が可能となるため、セラミックス粒子表面以外でも容易にBiやTeが析出してしまうからである。
【0010】
本願発明は上記問題を解決し、セラミックス粒子のスラリーを用いて、優れた性能指数を有するテルル化ビスマス系熱電変換素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために本発明によれば、セラミックス粒子のスラリーと、塩化ビスマス及び塩化テルルとを混合して分散液を調製した後、この分散液中に還元剤を加えてセラミックス粒子上でBi及びTeを還元析出させ、洗浄、加熱処理し、次いで焼結する工程を含む、テルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法において、前記還元剤として常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤を用いている。この還元剤としては、好ましくはヒドラジン、水素、又はシュウ酸塩、より好ましくはヒドラジンを用いる。
【0012】
還元剤として常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤を用いることにより、セラミックス粒子を含むスラリー中において、分散させたセラミックス粒子上でBi及びTeを析出させることができ、セラミックス粒子の凝集を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、性能指数ZTと熱電変換材料の組織構成との関係について、図2を参照しながら詳細に説明する。図2に示すように、熱電変換材料の組織寸法が、フォノンの平均自由行程の長さを起点にこれよりも小さくなるにつれて、熱電変換材料の熱伝導率κは徐々に減少する。したがって、組織寸法がフォノンの平均自由行程よりも小さくなるように設計すると、性能指数ZTが向上する。
【0014】
一方、熱電変換材料の組織寸法がフォノンの平均自由行程を起点にこれより小さくなっても、熱電変換材料の電気伝導率σは減少せず、概ねキャリアの平均自由行程以下の粒径となった場合に減少する。このように、熱伝導率κが減少し始める熱電変換材料の組織寸法と、電気伝導率σが減少し始める熱電変換材料の組織寸法とが異なることを利用し、電気伝導性の減少率よりも熱伝導率κの減少率が大きい熱電変換材料の組織寸法となるように、熱電変換材料の組織寸法をキャリアの平均自由行程以上フォノンの平均自由行程以下とすることで、上記式(1)で表される性能指数ZTをよりいっそう高めることができる。
【0015】
ここで、熱電変換材料の組織寸法を規定するのは、熱電変換材料中に分散される絶縁材料であるセラミックス粒子の粒径、又はセラミックス粒子同士の分散間隔である。そこで、本発明では、セラミックス粒子同士の分散間隔を、上記効果が得られるように制御する。
【0016】
本発明において、まずセラミックス粒子のスラリーと塩化ビスマス及び塩化テルルを含む溶液を調製する。
【0017】
セラミックス粒子としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、シリカ等の一般に用いられている材料を用いることができる。これらの中でも、熱伝導率の低さの観点から、シリカ、ジルコニア、チタニアを用いることが好ましい。また、用いるセラミックス粒子の種類は単一種であっても、二種以上を併用してもよい。セラミックス粒子の比抵抗は1000μΩmよりも大きいことが好ましく、106μΩm以上であることがより好ましく、1010μΩm以上であることが更に好ましい。比抵抗が1000μΩm以下の場合には、熱伝導が高いためZT向上の妨げとなる場合がある。
【0018】
セラミックス粒子の平均粒子径は、フォノンの平均自由行程以下であり、具体的には1〜100nmであることが好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。このような粒径を有する微粒子を用いると、形成される熱電変換素子中に分散されるセラミックス粒子同士の間隔が、セラミックス粒子のフォノンの平均自由行程以下となり、熱電変換素子中でフォノンの散乱が充分に起こるため、熱電変換素子の熱伝導率κが減少し、性能指数ZTが向上する。
【0019】
本発明の方法により得られる熱電変換素子において、ビスマス及びテルル粒子に対するセラミックス粒子の混合比は5〜40vol%であることが好ましい。この分散液の溶媒は、上記塩化ビスマス、塩化テルル及びセラミックス粒子を分散できるものであれば特に制限されないが、アルコール、特にエタノールを用いることが好適である。また必要に応じてpH調整材を添加してもよい。pH調整材は、スラリー中で粒子等が凝集するのを抑制するために用いられ、公知のものを適宜適用することができ、例えば、塩酸、酢酸、硝酸、アンモニア水、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0020】
この分散液のpHとしては、3〜6又は8〜11に調製することが好ましく、4〜6又は8〜10であることがより好ましい。
【0021】
こうして分散液を調製した後、還元剤を含む溶液にこの分散液を滴下する。還元剤としては、常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤、好ましくはヒドラジン、水素、又はシュウ酸塩、より好ましくはヒドラジンを用いる。
【0022】
塩化ビスマス及び塩化テルルを含む分散液中には熱電変換材料の原料イオンであるBiイオン及びTeイオンが存在する。従って、還元剤を含む溶液と混合されると、これらのイオンは還元され、Bi粒子及びTe粒子が析出することになる。本願発明においては、この還元剤として常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤を用いているため、セラミックス粒子上以外で還元されることなく、Bi粒子及びTe粒子のほぼすべてがセラミックス粒子上で析出することになる。
【0023】
この還元において、Bi粒子やTe粒子の他に、副生物、例えばNaClやNaBO3が生成する。この副生物を除去するために、濾過を行うことが好ましい。さらに、濾過後、アルコールや水を加えて、副生物を洗い流すことが好適である。
【0024】
こうして得られた、表面にBi粒子及びTe粒子が析出したセラミックス粒子の分散液を加熱処理し、好ましくは水熱処理し、乾燥させ、得られた凝集体を、必要に応じて洗浄・乾燥した後、一般的な焼結法により、例えばSPS焼結することにより、テルル化ビスマスの連続相中にセラミックス粒子が分散して分散相を構成する熱電変換素子が得られる。
【0025】
本発明の熱電変換材料の製造方法は、ナノオーダーでの組織寸法(絶縁材料の粒径や絶縁材料同士の分散間隔)の制御を可能とするものである。すなわち、表面にBi粒子及びTe粒子が析出したセラミックス粒子の凝集体を調製することにより、熱電変換素子の組織寸法(セラミックス同士の分散間隔)が、フォノンの平均自由行程以下、好ましくはキャリアの平均自由行程以上フォノンの平均自由行程以下となり、熱電変換素子中のフォノンの散乱が充分に起こり、熱伝導率κを減少させることができる。この結果、式(1)で表される性能指数ZTが大きい熱電変換素子となる。このように、本発明の熱電変換素子の製造方法によれば、高い性能指数ZTを示す優れた熱電変換素子であって、従来では作製困難であった性能指数ZTが2を上回るような熱電変換素子を得ることもできる。
【実施例】
【0026】
実施例1
塩化ビスマス2.0g及び塩化テルル1.698gをエタノール100mLに加え、溶解させた後、この溶液に平均粒径25nmのシリカ粒子0.23gを加え、分散液を調製した。この分散液に、ヒドラジン5.5gをエタノール100mLに加えて調製した還元剤溶液を加えた。次いで、エタノールと水の混合溶液で洗浄することによって不純物を除去し、240℃にて24時間水熱合成を行い、シリカ粒子上でBi2Te3を形成した。こうして得られた複合粒子を充填し、380〜500℃でSPS焼結を行い、テルル化ビスマス系熱電変換素子を得た。この素子のTEM像を図3に示す。得られた熱電変換素子においては、ほぼ全ての領域において、シリカ粒子上にBi、Te粒子が析出していた。
【0027】
比較例1
塩化ビスマス1.5g及び塩化テルル1.698gをエタノール100mLに加え、溶解させた後、この溶液に平均粒径25nmのシリカ粒子0.23gを加え、分散液を調製した。この分散液に、水素化ホウ素ナトリウム1.8gをエタノール100mLに加えて調製した還元剤溶液を加えた。次いで、エタノールと水の混合溶液で洗浄することによって不純物を除去し、240℃にて24時間水熱合成を行い、シリカ粒子上でBi2Te3を形成した。こうして得られた複合粒子を充填し、380〜500℃でSPS焼結を行い、テルル化ビスマス系熱電変換素子を得た。この素子のTEM像を図4に示す。得られた熱電変換素子においては、複合粒子が形成しているものの、一部領域においてシリカ同士が凝集していることが確認された。
【0028】
ここで得られた熱電変換素子中のシリカの粒径分布をTEM像から算出し、結果を図5に示す。使用したシリカ(I)の平均粒径は25nmであったのに対し、実施例1(II)では粒径分布はわずかに右にシフトし、平均粒径は30nmと一部凝集していることがわかる。さらに比較例1(III)では粒径分布は大きく右にシフトし、平均粒径は70nmとかなり凝集していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の方法により得られる複合粒子の構成を示す図である。
【図2】熱電変換材料の組織寸法と、ゼーベック係数α、電気伝導率σ又は熱伝導率κとの関係を示すグラフである。
【図3】実施例1において得られた本発明の熱電変換素子のTEM像である。
【図4】比較例1において得られた熱電変換素子のTEM像である。
【図5】得られた熱電変換素子中のシリカの粒径分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子のスラリーと、塩化ビスマス及び塩化テルルとを混合して分散液を調製した後、この分散液中に還元剤を加えてセラミックス粒子上でBi及びTeを還元析出させ、洗浄、加熱処理し、次いで焼結する工程を含む、テルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法であって、前記還元剤として常温での還元電位が0〜−0.5Vである還元剤を用いることを特徴とする、テルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤がヒドラジン、水素、又はシュウ酸塩である、請求項1記載のテルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤がヒドラジンである、請求項1記載のテルル化ビスマス系熱電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−10366(P2010−10366A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167492(P2008−167492)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】