テンパービード工法
【課題】本発明は、母材中の硬化域の焼き戻しを簡便かつ確実に行うことができるようにして硬化域のない補修溶接を実現できるテンパービード工法を提供するものである。
【解決手段】本発明は、母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とする。
【解決手段】本発明は、母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器、石油やガスなどのパイプライン、海洋構造物等の鉄鋼構造物の補修溶接技術として適用されるテンパービード工法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い安全性が要求される原子炉の圧力容器では、非破壊検査等が定期的に実施されており、圧力容器を構成する鋼材の母材表面に割れ等の欠陥が発見された場合、直ちにその箇所の補修が行われるようになっている。
この割れ等の欠陥の補修方法として、補修対象部分の母材表層部をグラインダー等の装置によって削り取り、欠陥部分を機械的に除去した後、その表面部分にTIG溶接機等を用いて新たな溶接金属を肉盛り溶接する方法が一般的に行われている。また、補修のために溶接を行うと溶接部周囲の母材が硬化するので、溶接前に予熱を行うか、溶接後に後熱を行うことにより、母材の硬化域を消滅させるようにしている。
ところが、既存の原子力圧力容器の場合、あるいは、パイプラインや海洋構造物の場合は、その修理期間や修理後の熱処理等に制限があるがため、いわゆるテンパービード工法と称される溶接補修方法の適用が検討されている。
【0003】
また、既存のパイプラインの導管部の外面に傷が認められた場合の肉盛り補修に関する規定として、米国ガス協会(American Gas Association)がエディソン溶接研究所(Edison Welding Institute, 米国)に委託して作成したガイドライン(Guidelines for weld deposition repair on pipelines, Feb.24, 1998, EWI project No.PR-185-9734)が知られている。同ガイドラインのP13では、傷の深さが3.2mm以上のときに低温割れを防止するための多層肉盛り溶接によるテンパービード工法を採用することが推奨されている。
更に、海洋構造物においても、その特性上、疲労、腐食、船舶の衝突等による損傷に対して、テンパービード工法を用いた水中溶接による補修方法が検討されている。
【0004】
このテンパービード工法とは、例えば図13に示すように母材50の表面の補修対象部分の除去部位に初層溶接を行って初層51のビード51aを形成した後、再度その上に図14に示すように2層目の肉盛り溶接を行って残層52のビード52aを形成し、更に必要に応じて、図15に示すように3層目の肉盛り溶接を行って残層53のビード53aを形成する技術として知られており、除去部位に対して肉盛り補修を行うと同時に、初層51を形成する際に生じた初層下部側の母材硬化域55を前記残層52、53からの溶接熱(例えば600〜900℃に加熱される熱量)によって焼き戻すことにより、母材50中に生じた硬化域55を除去して補修部位を強化することができる方法として知られている工法である。
【0005】
このテンパービード工法において例えば、溶接ワイヤーの供給量を溶接速度の変化に応じて変化させることにより、硬化層を徐々に焼き戻そうとする技術が知られている。(特許文献1参照)
また、TIG溶接法で肉盛り溶接した後、その溶接ビードの全表面を覆う層をTIG溶接法または被覆アーク溶接法で1層溶接し、さらにその層のほぼ全表面を覆うが、母材部は全く溶融させない溶接層をTIG溶接法または被覆アーク溶接法で1層溶接する手順で施工する技術が知られている。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2000−271742号公報
【特許文献2】特開2002−059263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のテンパービード工法は、2層目の残層52あるいは3層目の残層53による焼き戻し効果を高めるために、各残層52、53の溶接範囲をできるだけ大きくする必要があり、母材50を溶融させずに初層51のみを溶接することによって、母材50に新たな硬化域を生じさせないようにすることができる点に特徴がある。
ところが、図14または図15に示す如く残層52、53を溶接する際に母材50を溶融させないためのアークスタート位置の管理や、溶接狙い位置の管理は極めて難しいので、実情では、図14及び図15に示すように安全代をとって初層溶接部のビードの端部よりやや内側を狙って重ね溶接しているため、初層51のビードの焼き戻し域幅が狭くなるという問題がある。
【0007】
即ち、図14に示すように2層目の残層52を生成する肉盛り溶接を行った後においては、初層51の形成時に生成された母材50の硬化域55のうち、中央部分55aを焼き戻すことはできるものの、硬化域55の外縁部に硬化域55bが残留し、初層51直下の母材50の一部に硬化域56が残るとともに、更に図15に示すように3層目の残層53を生成する肉盛り溶接を行った後においては、硬化域56の中央部分56aを焼き戻すことはできるものの、硬化域56の外縁部に硬化域56bが残留する結果、テンパービード工法によって残層52、53を順次重ね溶接した後であっても、硬化域55b、56bが個々に残留する結果となり、母材50の硬化域55を完全に無くすることができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、予熱や後熱を行うことなく、母材中の硬化域の焼き戻しを簡便かつ確実に行うことができるようにして硬化域を有していない母材を得ることができる補修溶接を実現できるテンパービード工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するものであって、その要旨とするところは次の通りである。
(1)本発明は、母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とする。
(2)本発明は、前記残層を複数回、前記初層上に重ねて溶接する場合、前記母材上に設置した当て材を利用して前記残層の溶接に利用し、該当する残層形成時に前記当て材の内側面を基準としてそれよりも前に形成した初層あるいは残層に対して該当する残層を重ねて溶接し、先に形成した初層あるいは残層の溶接熱によって生じた硬化域を焼き戻すことを特徴とする。
(3)本発明は、前記初層を複数のビードの集合体から構成し、前記残層を複数のビードの集合体から構成するとともに、前記当て材を利用して前記複数の初層のビード上に前記残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせした状態で積層することにより、前記初層形成時に生成した母材の硬化域をそれらの外周縁部まで焼き戻すことを特徴とする。
(4)本発明は、前記当て材として枠状の当て材を用い、前記初層の平面視4周を囲むように前記枠状の当て材を母材上に配置して溶接することを特徴とする。
(5)本発明は、前記母材上に前記初層を形成する際、初層形成予定位置を囲むように前記当て材を配置し、この当て材に沿って前記初層を形成することを特徴とする。
(6)本発明は、前記初層の形成をTIG溶接法により形成し、前記残層の形成を被覆アーク溶接法により形成することを特徴とする。
(7)本発明は、前記当て材として導電性の金属材料からなる当て材を用い、前記残層を形成する際の溶接アークを前記当て材側に導出することにより、前記当て材と母材の境界位置まで前記残層を形成することを特徴とする。
(8)本発明は、前記当て材として銅、銅合金、鉄または鉄合金のいずれかからなる当て材を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、当て材を用いて補修用の溶接部の初層の上に正確に位置決めして補修用溶接部としての残層を形成でき、この残層形成時に母材を溶融させることなく確実に初層の端部まで溶接熱を及ぶようにできるので、焼き鈍し域を広げることができ、初層形成時に初層の周囲に形成された母材の硬化域を残層溶接時の熱により確実に焼き鈍すことができ、硬化域を無くして強化した母材を得ながら母材の補修ができる特徴を有する。また、従来行っていた予熱や後熱を行なわなくとも母材に硬化域を生じない補修溶接を行うことができる。
更に、当て材を母材上に設置してこの当て材の内側面位置を目安として肉盛り溶接して残層を形成し補修するならば、当て材が肉盛り溶接時の定規となり、正確な位置決め精度で残層の溶接ができるとともに、補修作業員は当て材を目当てにして保守できるので、作業の確実性を確保し易くなり、種々の現場にて実際に利用し易くなる。
本発明によれば、初層上に残層を複数重ねて溶接し補修する場合においても当て材を利用して初層上に正確に複数の残層の積層ができるので、複数重ねる場合の各残層の硬化域も確実に焼き戻すことができ、複数の残層による硬化域の発生しない母材の状態を確実に得ることができる。
【0011】
本発明において、当て材を用いて初層のビード上に残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせして形成することにより、初層あるいは残層が母材側に生成した硬化域の外周縁部まで正確に焼き戻すことができる。
本発明において、当て材として枠状の当て材を用い、初層の平面視全周を囲むように枠状の当て材を母材上に配置して初層上に残層を積層することにより、初層を囲む全周の部分の上に正確に残層の肉盛り溶接を行うことができ、母材側の硬化域を正確に焼き戻すことが可能となる。また、初層の全上面を囲むように残層を溶接し、その内側の初層上に残層を溶接することで初層の全外周縁の硬化域を確実に焼き戻すことができる。
【0012】
金属製の当て材を用いることで当て材側にも電流が流れ、溶接時に発生するアークが当て材と母材の境界部分にまで充分に発生するので、当て材と母材の境界部分にまで確実に溶接の残層を形成することができる。この結果、初層あるいは1つ下側の残層が母材に形成した硬化域をその外周縁部まで確実に焼き戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明について最良の形態に基づいて詳細に説明するが、本発明が以下に記載する種々の実施の形態に制限されるものではないのは勿論である。また、以下の各実施の形態を示す図面においては説明の簡易化のために、縮尺や倍率等を適宜異ならせて見やすいように示している。
図1〜図3は本発明に係るテンパービード工法の第1の実施の形態を説明するためのもので、図1中符号1は、例えば、原子力圧力容器の外殻を構成する低合金高張力鋼等からなる鋼板の母材、あるいは、石油やガスなどのパイプラインの周壁を構成する鋼板の母材、または、海洋構造物の構造用鋼板を構成する母材を示し、この母材1の表面の一部分に傷等の欠陥が生じた場合、この傷生成部分をグラインダー等で一部削り取り、その削り取り部分を例えばTIG溶接により肉盛り溶接して補修し、一定のビード高さの初層2を形成して削り取り部分を埋めた状態を示す。
ここで用いるTIG溶接法は特別なものである必要はなく、タングステン電極と、送りローラ又は手動によって供給される溶接ワイヤーとを備え、母材と電極間に電流を供給する一般的なTIG溶接法で差し支えない。また、初層を形成する場合にTIG溶接を必須とするものではなく、更に一般的な被覆アーク溶接でも差し支えないが、初層2として高品質な溶接部を得ようとする場合はTIG溶接法を採用することが好ましい。
【0014】
図1に示す構造においては先のTIG溶接に伴う肉盛り溶接により形成したビード2aが3個横方向に接続一体化されて初層2が構成されている。先のビード2aは横断面扁平楕円型に形成されてそれらビード2aの幅方向端部側を部分的に一体化して接合された層構造とされ、これらのビード2aの下部側に位置する母材の表層部分が図1に示すように部分的に所定の厚さでビード2aの底部形状に合致した硬化域3とされている。
この硬化域3は、溶接を行って母材1の表面部を部分的に溶融させながらビード2aを形成した場合、溶接部分とその周囲部分が冷却されてビード2aが形成される際に母材1の表面に近い部分が急冷されることにより必然的に形成されるものであるので、硬化域3はビード2aの底面から母材1の内部側に一定の幅及び一定の深さに形成されている。なお、ビード2aの形状は溶接の種類に応じて種々の形状を取り得るが、この形態では最も標準的な形状としての横断面扁平楕円形状として示したものであり、本発明で適用される初層とビード形状がこの図のような形状に制限されるものではない。
【0015】
前記初層2を形成したならば、初層2の4周を取り囲む形状の枠状の当て材5を母材1の表面上に設置する。この当て材5の一例の平面形状を図4に示すが、この例ではモデル的に平面視長方形状に示す母材1の長さ方向に沿う縦枠5a、5aとそれらに直角に接合された横枠5b、5bとからなる長方形枠状に形成されている。この当て材5の平面形状は長方形状に限るものではなく、補修溶接を行おうとする部位の平面形状を取り囲むために望ましい形状であれば如何なる形状でも差し支えない。
ここで用いる当て材5は導電性の金属材料である銅または銅合金あるいは鉄または鉄合金からなることが好ましく、これらの中でも銅または銅合金からなることが好ましい。これは、溶接時に利用する電流を当て材5側にまで流すことにより溶接時に発生するアークを当て材5側にまで充分に延出形成することができ、これにより当て材5と母材1との境界部分まで確実にビードを形成するためである。当て材5として耐熱セラミックスなどからなるものを適用することも可能であるが、セラミック材料の導電性の悪さ、セラミック材料の構成要素の一部が溶接時に溶接金属側に移行することにより形成される不要なスラグによる溶接作業上の不利がある。このような観点から当て材5は導電性の金属材料製であることが好ましく、特に母材1に対して溶接後に接合し難く、作業後の分離が容易な銅あるいは銅合金からなることが好ましい。なお、鉄や鉄合金製の当て材を用いて溶接時に当て材5と母材1が溶接接合された場合、当て材5を母材1から切断などの方法を用いて分離すれば良いが、その分、作業が増えることとなる。
【0016】
なおここで、図13〜図15を基に先に説明した従来のテンパービード工法において形成した初層51と残層52、53の各部の平面形状を比較のために図5に示す。
図5に示す如く従来のテンパービード工法では、先に図14及び図15を基に説明したように安全代をとって初層溶接部のビードの端部よりやや内側を狙って重ね溶接しているので、溶接の始端部側および終端部側においても、溶接ビードの幅方向両側部分においても、初層51よりも残層52が内側に位置し、残層52よりも残層53が内側に位置するので、結果的に図5に示す如く、各ビード51の始端部側の端部51Aと終端部側の端部51Bと、3つのビード51のうち、外側に位置するもののビード51の側縁部51C、51Cが、いずれも残層52、53によって覆われていない部分となり、残層52、53による硬化域の焼き戻しが完全には有効ではない状態とされている。
【0017】
これに対し、本実施の形態では、先の従来の各ビード51の始端部側の端部51Aと終端部側の端部51B、及び、幅方向に並ぶビード51のうち、同じ形状で同じ大きさの初層2を形成した場合、初層2の外側に位置するビード2aの側縁部2Cに沿い、ビード2aの始端部と終端部に沿う形の枠形状の図4に示す当て材5を用いて以下に説明するテンパービード工法を実施する。
【0018】
本実施の形態では、前記当て材5の縦枠5aに沿って先のTIG溶接によるビード2aに重ねるように被覆アーク溶接法により重ね溶接を行い、初層2のビード2a上に残層6のビード6aを積層する。ここで初層2のビード2a上に形成するビード6aはビード2aとほぼ同じ幅で同じ厚さのものを形成でき、母材1の表層部分を溶融させない溶接条件とすることが好ましい。例えば、初層2のビード2a上に当て材5の内側面5Aに沿ってビード2aとほぼ同じ厚さで幅のビード6aを肉盛り溶接すると、図2に示す如く初層2のビード2aの直上に同じ幅のビード6aが生成される。更に、他のビード2a上に順次被覆アーク溶接を行ってビード6aを形成すれば、図2に示す如く3列のビード6aを初層2のビード2a上に正確に位置決め形成することができる。
また、この重ね溶接によりビード6aを形成する場合、先のビード2aを全部溶融させるのではなく、ビード2aの底部側が残る状態の溶接入熱とすることが好ましい。ビード2a上にビード6aを形成する肉盛り溶接を行うと、ビード2aの上部側は溶接時に溶融するのでビード6aに一体化され、ビード2aの底部側が溶融されずに残るので、図2に示すビード2aとビード6aの積層状態が得られる。
【0019】
先のビード6aを形成する場合の溶接熱によりビード2aを介して先の硬化域3の厚み半分程度の底部側を焼き鈍しすることで焼鈍層3aとしてこの部分の硬化を解消することができ、元の硬化域3の厚み半分ほどの領域の硬化を解消できる。しかし、先の硬化域3の厚み半分程度の上部側は硬化域3bとして残留することとなる。
なお、初層2のビード2aの始端部側の形状と終端部側の形状は図5の場合と同じ端部が丸い平面先端形状となるので、これらの始端部及び終端部の丸い部分と当て材5との間には若干の隙間を生じるが、この隙間に対応する部分の母材上に残層2が積層されるので焼き戻し作用を奏することができる。
【0020】
図2に示す状態から更に当て材5を利用して前記2層目のビード形成時と同等の条件で3層目の被覆アーク溶接を行って肉盛り溶接すると、図3に示すように3層目のビード7aが各ビード6a上に形成される。3層目のビード7が形成される場合の被覆アーク溶接では、1つ下層となる残層6のビード6aの底部側を溶融させない溶接条件とする。ここでビード7aを形成する際、溶接熱により2層目のビード6aの底部側と1層目のビード2aの底部側を介して溶接熱を母材側に入熱できるので、母材1に残留している前述の残りの硬化域3bを焼鈍して焼鈍層3cとすることができる。
以上の処理により、初層2を形成した際に生成された母材1の硬化域3をほぼ完全に焼鈍して解消することができる。
【0021】
なお、ビード7aを形成した後の当て材5の状態とビード7aの平面視形状を図4に示すが、この形態の如く3列に形成したビード7aは当て材5の内周面に沿って当て材5の内周縁にほぼ沿った周縁形状の平面視短冊状のビード形状となり、図5に示す従来の構造の如く溶接スタート側の始端部側と、溶接終了側の終端部側に先端部を丸くした形状の個々のビード形状とはならず、積層するビードが層毎にずれた形状にはならない。
これは、当て材5を定規として溶接作業者が溶接を正確に位置決めしつつ行うことができ、しかも当て材5に遮られてビード2aの外側に後工程で形成する溶接のビード6a、7aがはみ出すことがないので、溶接作業者が容易にかつ正確にビード2a上にビード6a、7aを被覆アーク溶接により肉盛り溶接できることに起因する。
【0022】
なお、厳密に見ると、初層2のビード2aの始端部側と終端部側は先端が丸い溶接部となり、その上に当て材5に形状規制された始端部及び終端部角形のビード6a、7aが積層されるので、始端部側と終端部側においては上下のビード形状が一致せず、部分的に硬化域を残すおそれがあるが、当て材5の内側においてビード6a、7aの各端部は、初層2のビード2aの始端部側あるいは終端部側を完全にカバーするように形成できるので、初層2のビード2aの始端部側あるいは終端部側においても溶接入熱を調整することで硬化域を完全に焼き戻しすることができる。
なお、初層2のビード2aとその上に積層するビード6a、7aの平面視形状を更に厳密に一致させる場合には、初層2のビード2aを形成するにあたり、その前から、母材上に当て材5を設置しておき、初層2のビード2aの形成時に当て材5に沿って溶接すれば良い。これにより、ビード2a、6a、7aの始端部側と終端部側のいずれをも形状一致させることが可能となり、更に完全に硬化域を焼き鈍しすることができる。このように初層2を形成する場合に当て材5を用いる場合の詳細は次の実施形態で述べる。
【0023】
図6〜図10は本発明に係るテンパービード工法における第2の実施の形態を示すもので、この形態において先の第1の形態と異なるのは、初層2の形成時に予め当て材5を利用して初層のビードの形成を正確に行う点と、一度母材上に形成したビードの表面部分を切削加工等により規定の深さまで削り取って溶接熱の伝達を容易かつ均一とする工程を含む点である。その他の工程については先の第1の実施の形態と同等であるので第1の実施形態と同じ工程については説明を簡略化する。
この形態においては、図6に示す如く初層4のビード4aの形成時に既に当て材5を設置した状態としておく。これにより初層4のビード4aにおいて当て材5に接する部分側においてその外周部形状を当て材5の内周部形状に正確に沿った形に正確に形成できる。
【0024】
次に、当て材5を取り外し、得られたビード4aの上部側を水平に切削して除去し、母材1の表面上1mm程度の高さに各ビード4aの上面4dが揃うように各ビード2の厚さを加工する。
次に先の第1の実施の形態の場合と同様にしてビード4aの上にビード8aを先に説明した方法と同じ被覆アーク溶接方法により積層すると、図8に示す残層8のビード8aを形成した2層積層構造のビードを得ることができる。ここでビード4aの上部側は除去されているのでビード8aを形成する際の溶接熱は、母材1の表側のより広い位置まで均一に伝達され、その領域を焼き鈍すので、先の形態において硬化域3を焼き鈍した場合の範囲よりも若干広い範囲を焼き鈍すことができ、これにより硬化域3の底部側に広い範囲で焼鈍部3dを形成することができ、同時に初層4の底部側に隣接する母材側に薄い硬化域3eが残留する。
この状態から図9に示すように当て材5を取り外し、再度ビード8aの上部側を水平に切削して除去し、母材1の表面上1mm程度の高さに各ビード8aの上面8dが揃うように各ビード8の厚さを加工する。
図9に示す状態から更に当て材5を再度利用して前記2層目のビード形成時と同等のビード形成条件で被覆アーク溶接により3層目の肉盛り溶接を行うと、図10に示すように3層目のビード9aを各ビード8aの残留した底部8c上に形成することができる。ここでビード9aを形成する際、溶接熱により2層目のビード8aの薄い底部8cの部分と1層目のビード4aの底部4cの部分を介して溶接熱を母材側に均一かつ容易に入熱できるので、母材1に残留している先の硬化域3eを焼き鈍して焼鈍層3fとすることができ、これにより図6に示す断面構造において生成されていた硬化域3を全部完全に焼き鈍して無くすることができる。
【0025】
この実施形態の如く当て材5を利用して初層4の形成時においてビードの形状を当て材5に沿って整えておくならば、その上に形成する残層8、9のビード8a、9aの形状を初層4のビード4aの真上に形成できるとともに、初層4のビード4aの幅と残層8、9のビード8a、9aの幅とを同一にする溶接条件にしておくならば、初層4のビード4aの上に同一幅のビード8a、9aを正確に積層できるので、図10に示す如く、より完全に硬化域を焼鈍することができ、硬化域を消滅させることができる。
【実施例】
【0026】
前述した実施形態の方法に従い鋼管の補修溶接を行った。適用した鋼管を構成する鋼材の種別は以下の通りである。
鋼管種別:A、グレード:API5L ×60、規格最小降伏強度:414N/mm2、外径:609mm、板厚:13.5mm、化学成分(wt%):C:0.08、Si:0.19、Mn:1.39、P:0.012、S0.003、炭素当量0.32。
鋼管種別:B、グレード:API5L ×65、規格最小降伏強度448N/mm2、外径:508mm、板厚:12.7mm、化学成分(wt%):C:0.09、Si:0.21、Mn:1.53、P:0.012、S0.005、炭素当量0.37。
これらの鋼管における炭素当量の計算式は、下記
C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 の式を採用した。
【0027】
これらの鋼管A、Bを用い、表面部を(縦50mm×横30mm×深さ2mm)のサイズで研削して部分的に1層目の初層としてTIG溶接により幅40mm、長さ60mmのビードを3層並列に形成して初層を形成し、この初層を囲むように(縦60mm×横40mm×厚さ10mm)の枠状の銅合金の当て材を母材上に配置し、前記と同じサイズのビードを形成するための被覆アーク溶接法を用いて初層のビード上に2層目の残層のビードを形成した。
次に、当て材を用いて2層目の残層上に3層目のビードを被覆アーク溶接法により形成し、3層積層構造の補修溶接を行った。また、当て材として銅合金板を用いた場合と用いない場合について比較し、鋼管内部に空気を流して空冷とした場合と水を流して水冷とした場合について比較し、1層目の溶接と2層目の溶接と3層目の溶接の溶接入熱を比較し、それら各々の溶接条件(溶接入熱)の場合の各補修溶接部分の位置に応じた硬度を測定した。なお、1層目の溶接に対して2層目、3層目の溶接では母材を溶融しないようにする必要があるので、各層毎の溶接入熱の調整を後述する表1に示す如く制御した。
【0028】
測定位置は、図11に示す如く3列3層構造のビード積層体の補修溶接試料において、該試料を平面視した場合、図4に示す如き当て材の横枠5bの内面位置から1mm離間した位置における横断面位置(この横断面が図11に相当する)を示す符号1〜10の各点とした。その結果を以下の表1と表2に示す。以下の表1と表2において、DEPO(溶接金属部)は図11の黒点位置を示し、HAZ(熱影響部)は図11の×印の位置を示す。DEPOの黒点位置とは、ビードを3層積層した構造における下から2層目のビードの底部側の位置を示し、×印の位置とは、初層のビードの底部の更に下方1.0mmの母材位置を示す。
また、比較例構造として、母材上に初層のビードと2層目のビードと3層目のビードを図5に示す如く上下ずれた形で形成した試料について先の実施例と同様に位置毎の硬度を測定した。なお、ここで、初層のビード幅40mmに対して2層目のビード幅は34mm、3層目のビード幅は28mmであり、初層のビードに対して2層目のビードはその端縁から3mmずれて積層され、2層目のビードに対して3層目のビードはその端縁から3mmずれて積層されたものである。それらの試料各部の硬度を測定した結果を表1、表2に併せて示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表1と表2に示す結果から、鋼管種別がいずれの試料であっても当て材を用いて補修溶接を行った実施例1〜4においては、DEPOの計測位置(ビード内部)での硬度よりもHAZの計測位置(ビード下部側の母材表層位置)での硬度の方が低くなっており、焼き鈍し効果が得られていることがわかる。従って本発明方法により、焼き鈍し効果を充分に発揮させたテンパービード工法を実現できることが明らかとなった。
これらに対して当て材を用いていない比較例1〜4においては、DEPOの計測位置(ビード内部)での硬度よりもHAZの計測位置(ビード下部側の母材表層位置)での硬度の方が高いものが複数検出されており、焼き鈍し効果が充分に得られていないことがわかる。
次に、前記実験に供した各鋼管の鋼管表面から深さ3mmの位置を溶接していない状態において10点計測した硬度測定結果を以下の表3に示しておく。
【0032】
【表3】
【0033】
表1、2に示す溶接後の測定結果と表3に示す溶接以前の状態での測定結果の比較から、本発明方法を実施して溶接した後、硬度について溶接以前の母材に近い状態を目指して焼き鈍し効果が充分に発揮されていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、母材上に初層のビードを形成した状態の断面図である。
【図2】図2は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、当て材を用いて2層目のビードを母材上に形成した状態の断面図である。
【図3】図3は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、当て材を用いて3層目のビードを母材上に形成した状態の断面図である。
【図4】図4は同第1の実施形態において用いられる当て材を母材上に設置し、3層目のビードを形成した状態の平面図である。
【図5】図5は従来の方法の一例による1層目と2層目と3層目のビードの積層状態を示す平面図である。
【図6】図6は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて初層のビードを形成した状態の断面図である。
【図7】図7は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に形成した初層のビードの上部を除去した状態の断面図である。
【図8】図8は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて2層目のビードを形成した状態の断面図である。
【図9】図9は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に形成した2層目のビードの上部を除去した状態の断面図である。
【図10】図10は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて3層目のビードを形成した状態の断面図である。
【図11】図11は実施例において得られたビードの3層積層構造において各層と母材の硬度の測定位置を示す図である。
【図12】図12は比較例において得られたビードと母材の硬度測定位置を示す図である。
【図13】図13は従来技術に基づいて補修を行うために母材上に形成した肉盛り溶接の初層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【図14】図14は従来技術に基づいて補修を行うために初層上に形成した1層目の肉盛り溶接の残層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【図15】図15は従来技術に基づいて補修を行うために残層上に形成した2層目の肉盛り溶接の残層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 母材
2、4 初層
2a、4a ビード
3 硬化域
3a 焼鈍域
3b 硬化域
3c、3d 焼鈍域
3e 硬化域
5 当て材
5A 内側面
6、7 残層
6a、7a ビード
8、9 残層
8a、9a ビード
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器、石油やガスなどのパイプライン、海洋構造物等の鉄鋼構造物の補修溶接技術として適用されるテンパービード工法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い安全性が要求される原子炉の圧力容器では、非破壊検査等が定期的に実施されており、圧力容器を構成する鋼材の母材表面に割れ等の欠陥が発見された場合、直ちにその箇所の補修が行われるようになっている。
この割れ等の欠陥の補修方法として、補修対象部分の母材表層部をグラインダー等の装置によって削り取り、欠陥部分を機械的に除去した後、その表面部分にTIG溶接機等を用いて新たな溶接金属を肉盛り溶接する方法が一般的に行われている。また、補修のために溶接を行うと溶接部周囲の母材が硬化するので、溶接前に予熱を行うか、溶接後に後熱を行うことにより、母材の硬化域を消滅させるようにしている。
ところが、既存の原子力圧力容器の場合、あるいは、パイプラインや海洋構造物の場合は、その修理期間や修理後の熱処理等に制限があるがため、いわゆるテンパービード工法と称される溶接補修方法の適用が検討されている。
【0003】
また、既存のパイプラインの導管部の外面に傷が認められた場合の肉盛り補修に関する規定として、米国ガス協会(American Gas Association)がエディソン溶接研究所(Edison Welding Institute, 米国)に委託して作成したガイドライン(Guidelines for weld deposition repair on pipelines, Feb.24, 1998, EWI project No.PR-185-9734)が知られている。同ガイドラインのP13では、傷の深さが3.2mm以上のときに低温割れを防止するための多層肉盛り溶接によるテンパービード工法を採用することが推奨されている。
更に、海洋構造物においても、その特性上、疲労、腐食、船舶の衝突等による損傷に対して、テンパービード工法を用いた水中溶接による補修方法が検討されている。
【0004】
このテンパービード工法とは、例えば図13に示すように母材50の表面の補修対象部分の除去部位に初層溶接を行って初層51のビード51aを形成した後、再度その上に図14に示すように2層目の肉盛り溶接を行って残層52のビード52aを形成し、更に必要に応じて、図15に示すように3層目の肉盛り溶接を行って残層53のビード53aを形成する技術として知られており、除去部位に対して肉盛り補修を行うと同時に、初層51を形成する際に生じた初層下部側の母材硬化域55を前記残層52、53からの溶接熱(例えば600〜900℃に加熱される熱量)によって焼き戻すことにより、母材50中に生じた硬化域55を除去して補修部位を強化することができる方法として知られている工法である。
【0005】
このテンパービード工法において例えば、溶接ワイヤーの供給量を溶接速度の変化に応じて変化させることにより、硬化層を徐々に焼き戻そうとする技術が知られている。(特許文献1参照)
また、TIG溶接法で肉盛り溶接した後、その溶接ビードの全表面を覆う層をTIG溶接法または被覆アーク溶接法で1層溶接し、さらにその層のほぼ全表面を覆うが、母材部は全く溶融させない溶接層をTIG溶接法または被覆アーク溶接法で1層溶接する手順で施工する技術が知られている。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2000−271742号公報
【特許文献2】特開2002−059263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のテンパービード工法は、2層目の残層52あるいは3層目の残層53による焼き戻し効果を高めるために、各残層52、53の溶接範囲をできるだけ大きくする必要があり、母材50を溶融させずに初層51のみを溶接することによって、母材50に新たな硬化域を生じさせないようにすることができる点に特徴がある。
ところが、図14または図15に示す如く残層52、53を溶接する際に母材50を溶融させないためのアークスタート位置の管理や、溶接狙い位置の管理は極めて難しいので、実情では、図14及び図15に示すように安全代をとって初層溶接部のビードの端部よりやや内側を狙って重ね溶接しているため、初層51のビードの焼き戻し域幅が狭くなるという問題がある。
【0007】
即ち、図14に示すように2層目の残層52を生成する肉盛り溶接を行った後においては、初層51の形成時に生成された母材50の硬化域55のうち、中央部分55aを焼き戻すことはできるものの、硬化域55の外縁部に硬化域55bが残留し、初層51直下の母材50の一部に硬化域56が残るとともに、更に図15に示すように3層目の残層53を生成する肉盛り溶接を行った後においては、硬化域56の中央部分56aを焼き戻すことはできるものの、硬化域56の外縁部に硬化域56bが残留する結果、テンパービード工法によって残層52、53を順次重ね溶接した後であっても、硬化域55b、56bが個々に残留する結果となり、母材50の硬化域55を完全に無くすることができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、予熱や後熱を行うことなく、母材中の硬化域の焼き戻しを簡便かつ確実に行うことができるようにして硬化域を有していない母材を得ることができる補修溶接を実現できるテンパービード工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するものであって、その要旨とするところは次の通りである。
(1)本発明は、母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とする。
(2)本発明は、前記残層を複数回、前記初層上に重ねて溶接する場合、前記母材上に設置した当て材を利用して前記残層の溶接に利用し、該当する残層形成時に前記当て材の内側面を基準としてそれよりも前に形成した初層あるいは残層に対して該当する残層を重ねて溶接し、先に形成した初層あるいは残層の溶接熱によって生じた硬化域を焼き戻すことを特徴とする。
(3)本発明は、前記初層を複数のビードの集合体から構成し、前記残層を複数のビードの集合体から構成するとともに、前記当て材を利用して前記複数の初層のビード上に前記残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせした状態で積層することにより、前記初層形成時に生成した母材の硬化域をそれらの外周縁部まで焼き戻すことを特徴とする。
(4)本発明は、前記当て材として枠状の当て材を用い、前記初層の平面視4周を囲むように前記枠状の当て材を母材上に配置して溶接することを特徴とする。
(5)本発明は、前記母材上に前記初層を形成する際、初層形成予定位置を囲むように前記当て材を配置し、この当て材に沿って前記初層を形成することを特徴とする。
(6)本発明は、前記初層の形成をTIG溶接法により形成し、前記残層の形成を被覆アーク溶接法により形成することを特徴とする。
(7)本発明は、前記当て材として導電性の金属材料からなる当て材を用い、前記残層を形成する際の溶接アークを前記当て材側に導出することにより、前記当て材と母材の境界位置まで前記残層を形成することを特徴とする。
(8)本発明は、前記当て材として銅、銅合金、鉄または鉄合金のいずれかからなる当て材を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、当て材を用いて補修用の溶接部の初層の上に正確に位置決めして補修用溶接部としての残層を形成でき、この残層形成時に母材を溶融させることなく確実に初層の端部まで溶接熱を及ぶようにできるので、焼き鈍し域を広げることができ、初層形成時に初層の周囲に形成された母材の硬化域を残層溶接時の熱により確実に焼き鈍すことができ、硬化域を無くして強化した母材を得ながら母材の補修ができる特徴を有する。また、従来行っていた予熱や後熱を行なわなくとも母材に硬化域を生じない補修溶接を行うことができる。
更に、当て材を母材上に設置してこの当て材の内側面位置を目安として肉盛り溶接して残層を形成し補修するならば、当て材が肉盛り溶接時の定規となり、正確な位置決め精度で残層の溶接ができるとともに、補修作業員は当て材を目当てにして保守できるので、作業の確実性を確保し易くなり、種々の現場にて実際に利用し易くなる。
本発明によれば、初層上に残層を複数重ねて溶接し補修する場合においても当て材を利用して初層上に正確に複数の残層の積層ができるので、複数重ねる場合の各残層の硬化域も確実に焼き戻すことができ、複数の残層による硬化域の発生しない母材の状態を確実に得ることができる。
【0011】
本発明において、当て材を用いて初層のビード上に残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせして形成することにより、初層あるいは残層が母材側に生成した硬化域の外周縁部まで正確に焼き戻すことができる。
本発明において、当て材として枠状の当て材を用い、初層の平面視全周を囲むように枠状の当て材を母材上に配置して初層上に残層を積層することにより、初層を囲む全周の部分の上に正確に残層の肉盛り溶接を行うことができ、母材側の硬化域を正確に焼き戻すことが可能となる。また、初層の全上面を囲むように残層を溶接し、その内側の初層上に残層を溶接することで初層の全外周縁の硬化域を確実に焼き戻すことができる。
【0012】
金属製の当て材を用いることで当て材側にも電流が流れ、溶接時に発生するアークが当て材と母材の境界部分にまで充分に発生するので、当て材と母材の境界部分にまで確実に溶接の残層を形成することができる。この結果、初層あるいは1つ下側の残層が母材に形成した硬化域をその外周縁部まで確実に焼き戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明について最良の形態に基づいて詳細に説明するが、本発明が以下に記載する種々の実施の形態に制限されるものではないのは勿論である。また、以下の各実施の形態を示す図面においては説明の簡易化のために、縮尺や倍率等を適宜異ならせて見やすいように示している。
図1〜図3は本発明に係るテンパービード工法の第1の実施の形態を説明するためのもので、図1中符号1は、例えば、原子力圧力容器の外殻を構成する低合金高張力鋼等からなる鋼板の母材、あるいは、石油やガスなどのパイプラインの周壁を構成する鋼板の母材、または、海洋構造物の構造用鋼板を構成する母材を示し、この母材1の表面の一部分に傷等の欠陥が生じた場合、この傷生成部分をグラインダー等で一部削り取り、その削り取り部分を例えばTIG溶接により肉盛り溶接して補修し、一定のビード高さの初層2を形成して削り取り部分を埋めた状態を示す。
ここで用いるTIG溶接法は特別なものである必要はなく、タングステン電極と、送りローラ又は手動によって供給される溶接ワイヤーとを備え、母材と電極間に電流を供給する一般的なTIG溶接法で差し支えない。また、初層を形成する場合にTIG溶接を必須とするものではなく、更に一般的な被覆アーク溶接でも差し支えないが、初層2として高品質な溶接部を得ようとする場合はTIG溶接法を採用することが好ましい。
【0014】
図1に示す構造においては先のTIG溶接に伴う肉盛り溶接により形成したビード2aが3個横方向に接続一体化されて初層2が構成されている。先のビード2aは横断面扁平楕円型に形成されてそれらビード2aの幅方向端部側を部分的に一体化して接合された層構造とされ、これらのビード2aの下部側に位置する母材の表層部分が図1に示すように部分的に所定の厚さでビード2aの底部形状に合致した硬化域3とされている。
この硬化域3は、溶接を行って母材1の表面部を部分的に溶融させながらビード2aを形成した場合、溶接部分とその周囲部分が冷却されてビード2aが形成される際に母材1の表面に近い部分が急冷されることにより必然的に形成されるものであるので、硬化域3はビード2aの底面から母材1の内部側に一定の幅及び一定の深さに形成されている。なお、ビード2aの形状は溶接の種類に応じて種々の形状を取り得るが、この形態では最も標準的な形状としての横断面扁平楕円形状として示したものであり、本発明で適用される初層とビード形状がこの図のような形状に制限されるものではない。
【0015】
前記初層2を形成したならば、初層2の4周を取り囲む形状の枠状の当て材5を母材1の表面上に設置する。この当て材5の一例の平面形状を図4に示すが、この例ではモデル的に平面視長方形状に示す母材1の長さ方向に沿う縦枠5a、5aとそれらに直角に接合された横枠5b、5bとからなる長方形枠状に形成されている。この当て材5の平面形状は長方形状に限るものではなく、補修溶接を行おうとする部位の平面形状を取り囲むために望ましい形状であれば如何なる形状でも差し支えない。
ここで用いる当て材5は導電性の金属材料である銅または銅合金あるいは鉄または鉄合金からなることが好ましく、これらの中でも銅または銅合金からなることが好ましい。これは、溶接時に利用する電流を当て材5側にまで流すことにより溶接時に発生するアークを当て材5側にまで充分に延出形成することができ、これにより当て材5と母材1との境界部分まで確実にビードを形成するためである。当て材5として耐熱セラミックスなどからなるものを適用することも可能であるが、セラミック材料の導電性の悪さ、セラミック材料の構成要素の一部が溶接時に溶接金属側に移行することにより形成される不要なスラグによる溶接作業上の不利がある。このような観点から当て材5は導電性の金属材料製であることが好ましく、特に母材1に対して溶接後に接合し難く、作業後の分離が容易な銅あるいは銅合金からなることが好ましい。なお、鉄や鉄合金製の当て材を用いて溶接時に当て材5と母材1が溶接接合された場合、当て材5を母材1から切断などの方法を用いて分離すれば良いが、その分、作業が増えることとなる。
【0016】
なおここで、図13〜図15を基に先に説明した従来のテンパービード工法において形成した初層51と残層52、53の各部の平面形状を比較のために図5に示す。
図5に示す如く従来のテンパービード工法では、先に図14及び図15を基に説明したように安全代をとって初層溶接部のビードの端部よりやや内側を狙って重ね溶接しているので、溶接の始端部側および終端部側においても、溶接ビードの幅方向両側部分においても、初層51よりも残層52が内側に位置し、残層52よりも残層53が内側に位置するので、結果的に図5に示す如く、各ビード51の始端部側の端部51Aと終端部側の端部51Bと、3つのビード51のうち、外側に位置するもののビード51の側縁部51C、51Cが、いずれも残層52、53によって覆われていない部分となり、残層52、53による硬化域の焼き戻しが完全には有効ではない状態とされている。
【0017】
これに対し、本実施の形態では、先の従来の各ビード51の始端部側の端部51Aと終端部側の端部51B、及び、幅方向に並ぶビード51のうち、同じ形状で同じ大きさの初層2を形成した場合、初層2の外側に位置するビード2aの側縁部2Cに沿い、ビード2aの始端部と終端部に沿う形の枠形状の図4に示す当て材5を用いて以下に説明するテンパービード工法を実施する。
【0018】
本実施の形態では、前記当て材5の縦枠5aに沿って先のTIG溶接によるビード2aに重ねるように被覆アーク溶接法により重ね溶接を行い、初層2のビード2a上に残層6のビード6aを積層する。ここで初層2のビード2a上に形成するビード6aはビード2aとほぼ同じ幅で同じ厚さのものを形成でき、母材1の表層部分を溶融させない溶接条件とすることが好ましい。例えば、初層2のビード2a上に当て材5の内側面5Aに沿ってビード2aとほぼ同じ厚さで幅のビード6aを肉盛り溶接すると、図2に示す如く初層2のビード2aの直上に同じ幅のビード6aが生成される。更に、他のビード2a上に順次被覆アーク溶接を行ってビード6aを形成すれば、図2に示す如く3列のビード6aを初層2のビード2a上に正確に位置決め形成することができる。
また、この重ね溶接によりビード6aを形成する場合、先のビード2aを全部溶融させるのではなく、ビード2aの底部側が残る状態の溶接入熱とすることが好ましい。ビード2a上にビード6aを形成する肉盛り溶接を行うと、ビード2aの上部側は溶接時に溶融するのでビード6aに一体化され、ビード2aの底部側が溶融されずに残るので、図2に示すビード2aとビード6aの積層状態が得られる。
【0019】
先のビード6aを形成する場合の溶接熱によりビード2aを介して先の硬化域3の厚み半分程度の底部側を焼き鈍しすることで焼鈍層3aとしてこの部分の硬化を解消することができ、元の硬化域3の厚み半分ほどの領域の硬化を解消できる。しかし、先の硬化域3の厚み半分程度の上部側は硬化域3bとして残留することとなる。
なお、初層2のビード2aの始端部側の形状と終端部側の形状は図5の場合と同じ端部が丸い平面先端形状となるので、これらの始端部及び終端部の丸い部分と当て材5との間には若干の隙間を生じるが、この隙間に対応する部分の母材上に残層2が積層されるので焼き戻し作用を奏することができる。
【0020】
図2に示す状態から更に当て材5を利用して前記2層目のビード形成時と同等の条件で3層目の被覆アーク溶接を行って肉盛り溶接すると、図3に示すように3層目のビード7aが各ビード6a上に形成される。3層目のビード7が形成される場合の被覆アーク溶接では、1つ下層となる残層6のビード6aの底部側を溶融させない溶接条件とする。ここでビード7aを形成する際、溶接熱により2層目のビード6aの底部側と1層目のビード2aの底部側を介して溶接熱を母材側に入熱できるので、母材1に残留している前述の残りの硬化域3bを焼鈍して焼鈍層3cとすることができる。
以上の処理により、初層2を形成した際に生成された母材1の硬化域3をほぼ完全に焼鈍して解消することができる。
【0021】
なお、ビード7aを形成した後の当て材5の状態とビード7aの平面視形状を図4に示すが、この形態の如く3列に形成したビード7aは当て材5の内周面に沿って当て材5の内周縁にほぼ沿った周縁形状の平面視短冊状のビード形状となり、図5に示す従来の構造の如く溶接スタート側の始端部側と、溶接終了側の終端部側に先端部を丸くした形状の個々のビード形状とはならず、積層するビードが層毎にずれた形状にはならない。
これは、当て材5を定規として溶接作業者が溶接を正確に位置決めしつつ行うことができ、しかも当て材5に遮られてビード2aの外側に後工程で形成する溶接のビード6a、7aがはみ出すことがないので、溶接作業者が容易にかつ正確にビード2a上にビード6a、7aを被覆アーク溶接により肉盛り溶接できることに起因する。
【0022】
なお、厳密に見ると、初層2のビード2aの始端部側と終端部側は先端が丸い溶接部となり、その上に当て材5に形状規制された始端部及び終端部角形のビード6a、7aが積層されるので、始端部側と終端部側においては上下のビード形状が一致せず、部分的に硬化域を残すおそれがあるが、当て材5の内側においてビード6a、7aの各端部は、初層2のビード2aの始端部側あるいは終端部側を完全にカバーするように形成できるので、初層2のビード2aの始端部側あるいは終端部側においても溶接入熱を調整することで硬化域を完全に焼き戻しすることができる。
なお、初層2のビード2aとその上に積層するビード6a、7aの平面視形状を更に厳密に一致させる場合には、初層2のビード2aを形成するにあたり、その前から、母材上に当て材5を設置しておき、初層2のビード2aの形成時に当て材5に沿って溶接すれば良い。これにより、ビード2a、6a、7aの始端部側と終端部側のいずれをも形状一致させることが可能となり、更に完全に硬化域を焼き鈍しすることができる。このように初層2を形成する場合に当て材5を用いる場合の詳細は次の実施形態で述べる。
【0023】
図6〜図10は本発明に係るテンパービード工法における第2の実施の形態を示すもので、この形態において先の第1の形態と異なるのは、初層2の形成時に予め当て材5を利用して初層のビードの形成を正確に行う点と、一度母材上に形成したビードの表面部分を切削加工等により規定の深さまで削り取って溶接熱の伝達を容易かつ均一とする工程を含む点である。その他の工程については先の第1の実施の形態と同等であるので第1の実施形態と同じ工程については説明を簡略化する。
この形態においては、図6に示す如く初層4のビード4aの形成時に既に当て材5を設置した状態としておく。これにより初層4のビード4aにおいて当て材5に接する部分側においてその外周部形状を当て材5の内周部形状に正確に沿った形に正確に形成できる。
【0024】
次に、当て材5を取り外し、得られたビード4aの上部側を水平に切削して除去し、母材1の表面上1mm程度の高さに各ビード4aの上面4dが揃うように各ビード2の厚さを加工する。
次に先の第1の実施の形態の場合と同様にしてビード4aの上にビード8aを先に説明した方法と同じ被覆アーク溶接方法により積層すると、図8に示す残層8のビード8aを形成した2層積層構造のビードを得ることができる。ここでビード4aの上部側は除去されているのでビード8aを形成する際の溶接熱は、母材1の表側のより広い位置まで均一に伝達され、その領域を焼き鈍すので、先の形態において硬化域3を焼き鈍した場合の範囲よりも若干広い範囲を焼き鈍すことができ、これにより硬化域3の底部側に広い範囲で焼鈍部3dを形成することができ、同時に初層4の底部側に隣接する母材側に薄い硬化域3eが残留する。
この状態から図9に示すように当て材5を取り外し、再度ビード8aの上部側を水平に切削して除去し、母材1の表面上1mm程度の高さに各ビード8aの上面8dが揃うように各ビード8の厚さを加工する。
図9に示す状態から更に当て材5を再度利用して前記2層目のビード形成時と同等のビード形成条件で被覆アーク溶接により3層目の肉盛り溶接を行うと、図10に示すように3層目のビード9aを各ビード8aの残留した底部8c上に形成することができる。ここでビード9aを形成する際、溶接熱により2層目のビード8aの薄い底部8cの部分と1層目のビード4aの底部4cの部分を介して溶接熱を母材側に均一かつ容易に入熱できるので、母材1に残留している先の硬化域3eを焼き鈍して焼鈍層3fとすることができ、これにより図6に示す断面構造において生成されていた硬化域3を全部完全に焼き鈍して無くすることができる。
【0025】
この実施形態の如く当て材5を利用して初層4の形成時においてビードの形状を当て材5に沿って整えておくならば、その上に形成する残層8、9のビード8a、9aの形状を初層4のビード4aの真上に形成できるとともに、初層4のビード4aの幅と残層8、9のビード8a、9aの幅とを同一にする溶接条件にしておくならば、初層4のビード4aの上に同一幅のビード8a、9aを正確に積層できるので、図10に示す如く、より完全に硬化域を焼鈍することができ、硬化域を消滅させることができる。
【実施例】
【0026】
前述した実施形態の方法に従い鋼管の補修溶接を行った。適用した鋼管を構成する鋼材の種別は以下の通りである。
鋼管種別:A、グレード:API5L ×60、規格最小降伏強度:414N/mm2、外径:609mm、板厚:13.5mm、化学成分(wt%):C:0.08、Si:0.19、Mn:1.39、P:0.012、S0.003、炭素当量0.32。
鋼管種別:B、グレード:API5L ×65、規格最小降伏強度448N/mm2、外径:508mm、板厚:12.7mm、化学成分(wt%):C:0.09、Si:0.21、Mn:1.53、P:0.012、S0.005、炭素当量0.37。
これらの鋼管における炭素当量の計算式は、下記
C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5 の式を採用した。
【0027】
これらの鋼管A、Bを用い、表面部を(縦50mm×横30mm×深さ2mm)のサイズで研削して部分的に1層目の初層としてTIG溶接により幅40mm、長さ60mmのビードを3層並列に形成して初層を形成し、この初層を囲むように(縦60mm×横40mm×厚さ10mm)の枠状の銅合金の当て材を母材上に配置し、前記と同じサイズのビードを形成するための被覆アーク溶接法を用いて初層のビード上に2層目の残層のビードを形成した。
次に、当て材を用いて2層目の残層上に3層目のビードを被覆アーク溶接法により形成し、3層積層構造の補修溶接を行った。また、当て材として銅合金板を用いた場合と用いない場合について比較し、鋼管内部に空気を流して空冷とした場合と水を流して水冷とした場合について比較し、1層目の溶接と2層目の溶接と3層目の溶接の溶接入熱を比較し、それら各々の溶接条件(溶接入熱)の場合の各補修溶接部分の位置に応じた硬度を測定した。なお、1層目の溶接に対して2層目、3層目の溶接では母材を溶融しないようにする必要があるので、各層毎の溶接入熱の調整を後述する表1に示す如く制御した。
【0028】
測定位置は、図11に示す如く3列3層構造のビード積層体の補修溶接試料において、該試料を平面視した場合、図4に示す如き当て材の横枠5bの内面位置から1mm離間した位置における横断面位置(この横断面が図11に相当する)を示す符号1〜10の各点とした。その結果を以下の表1と表2に示す。以下の表1と表2において、DEPO(溶接金属部)は図11の黒点位置を示し、HAZ(熱影響部)は図11の×印の位置を示す。DEPOの黒点位置とは、ビードを3層積層した構造における下から2層目のビードの底部側の位置を示し、×印の位置とは、初層のビードの底部の更に下方1.0mmの母材位置を示す。
また、比較例構造として、母材上に初層のビードと2層目のビードと3層目のビードを図5に示す如く上下ずれた形で形成した試料について先の実施例と同様に位置毎の硬度を測定した。なお、ここで、初層のビード幅40mmに対して2層目のビード幅は34mm、3層目のビード幅は28mmであり、初層のビードに対して2層目のビードはその端縁から3mmずれて積層され、2層目のビードに対して3層目のビードはその端縁から3mmずれて積層されたものである。それらの試料各部の硬度を測定した結果を表1、表2に併せて示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表1と表2に示す結果から、鋼管種別がいずれの試料であっても当て材を用いて補修溶接を行った実施例1〜4においては、DEPOの計測位置(ビード内部)での硬度よりもHAZの計測位置(ビード下部側の母材表層位置)での硬度の方が低くなっており、焼き鈍し効果が得られていることがわかる。従って本発明方法により、焼き鈍し効果を充分に発揮させたテンパービード工法を実現できることが明らかとなった。
これらに対して当て材を用いていない比較例1〜4においては、DEPOの計測位置(ビード内部)での硬度よりもHAZの計測位置(ビード下部側の母材表層位置)での硬度の方が高いものが複数検出されており、焼き鈍し効果が充分に得られていないことがわかる。
次に、前記実験に供した各鋼管の鋼管表面から深さ3mmの位置を溶接していない状態において10点計測した硬度測定結果を以下の表3に示しておく。
【0032】
【表3】
【0033】
表1、2に示す溶接後の測定結果と表3に示す溶接以前の状態での測定結果の比較から、本発明方法を実施して溶接した後、硬度について溶接以前の母材に近い状態を目指して焼き鈍し効果が充分に発揮されていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、母材上に初層のビードを形成した状態の断面図である。
【図2】図2は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、当て材を用いて2層目のビードを母材上に形成した状態の断面図である。
【図3】図3は本発明に係る第1の実施の形態を説明するためのもので、当て材を用いて3層目のビードを母材上に形成した状態の断面図である。
【図4】図4は同第1の実施形態において用いられる当て材を母材上に設置し、3層目のビードを形成した状態の平面図である。
【図5】図5は従来の方法の一例による1層目と2層目と3層目のビードの積層状態を示す平面図である。
【図6】図6は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて初層のビードを形成した状態の断面図である。
【図7】図7は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に形成した初層のビードの上部を除去した状態の断面図である。
【図8】図8は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて2層目のビードを形成した状態の断面図である。
【図9】図9は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に形成した2層目のビードの上部を除去した状態の断面図である。
【図10】図10は本発明に係る第2の実施の形態を説明するためのもので、母材上に当て材を用いて3層目のビードを形成した状態の断面図である。
【図11】図11は実施例において得られたビードの3層積層構造において各層と母材の硬度の測定位置を示す図である。
【図12】図12は比較例において得られたビードと母材の硬度測定位置を示す図である。
【図13】図13は従来技術に基づいて補修を行うために母材上に形成した肉盛り溶接の初層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【図14】図14は従来技術に基づいて補修を行うために初層上に形成した1層目の肉盛り溶接の残層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【図15】図15は従来技術に基づいて補修を行うために残層上に形成した2層目の肉盛り溶接の残層とそれに伴って生成された硬化域を示す構成略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 母材
2、4 初層
2a、4a ビード
3 硬化域
3a 焼鈍域
3b 硬化域
3c、3d 焼鈍域
3e 硬化域
5 当て材
5A 内側面
6、7 残層
6a、7a ビード
8、9 残層
8a、9a ビード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、
前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とするテンパービード工法。
【請求項2】
前記残層を複数回、前記初層上に重ねて溶接する場合、前記母材上に設置した当て材を利用して前記残層の溶接に利用し、該当する残層形成時に前記当て材の内側面を基準としてそれよりも前に形成した初層あるいは残層に対して該当する残層を重ねて溶接し、先に形成した初層あるいは残層の溶接熱によって生じた硬化域を焼き戻すことを特徴とする請求項1に記載のテンパービード工法。
【請求項3】
前記初層を複数のビードの集合体から構成し、前記残層を複数のビードの集合体から構成するとともに、前記当て材を利用して前記複数の初層のビード上に前記残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせした状態で積層することにより、前記初層形成時に生成した母材の硬化域をそれらの外周縁部まで焼き戻すことを特徴とする請求項1または2に記載のテンパービード工法。
【請求項4】
前記当て材として枠状の当て材を用い、前記初層の平面視全周を囲むように前記枠状の当て材を母材上に配置して溶接することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項5】
前記母材上に前記初層を形成する際、初層形成予定位置を囲むように前記当て材を配置し、この当て材に沿って前記初層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項6】
前記初層の形成をTIG溶接法により形成し、前記残層の形成を被覆アーク溶接法により形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項7】
前記当て材として導電性の金属材料からなる当て材を用い、前記残層を形成する際の溶接アークを前記当て材側に導出することにより、前記当て材と母材の境界位置まで前記残層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項8】
前記当て材として銅、銅合金、鉄または鉄合金のいずれかからなる当て材を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項1】
母材上に溶接により形成した初層上に、残層を1回以上溶接し、前記初層で生じた母材側の硬化域を前記残層の溶接熱によって焼き戻すテンパービード工法において、
前記母材上に前記残層を溶接する際、既に形成した初層を縁取る形状の当て材を母材上に設置し、この当て材の内側面を基準として前記初層に重なるように溶接して前記残層を形成することを特徴とするテンパービード工法。
【請求項2】
前記残層を複数回、前記初層上に重ねて溶接する場合、前記母材上に設置した当て材を利用して前記残層の溶接に利用し、該当する残層形成時に前記当て材の内側面を基準としてそれよりも前に形成した初層あるいは残層に対して該当する残層を重ねて溶接し、先に形成した初層あるいは残層の溶接熱によって生じた硬化域を焼き戻すことを特徴とする請求項1に記載のテンパービード工法。
【請求項3】
前記初層を複数のビードの集合体から構成し、前記残層を複数のビードの集合体から構成するとともに、前記当て材を利用して前記複数の初層のビード上に前記残層のビードをそれらの幅方向両端部を位置合わせした状態で積層することにより、前記初層形成時に生成した母材の硬化域をそれらの外周縁部まで焼き戻すことを特徴とする請求項1または2に記載のテンパービード工法。
【請求項4】
前記当て材として枠状の当て材を用い、前記初層の平面視全周を囲むように前記枠状の当て材を母材上に配置して溶接することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項5】
前記母材上に前記初層を形成する際、初層形成予定位置を囲むように前記当て材を配置し、この当て材に沿って前記初層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項6】
前記初層の形成をTIG溶接法により形成し、前記残層の形成を被覆アーク溶接法により形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項7】
前記当て材として導電性の金属材料からなる当て材を用い、前記残層を形成する際の溶接アークを前記当て材側に導出することにより、前記当て材と母材の境界位置まで前記残層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のテンパービード工法。
【請求項8】
前記当て材として銅、銅合金、鉄または鉄合金のいずれかからなる当て材を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のテンパービード工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−130654(P2007−130654A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324640(P2005−324640)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
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