説明

テーパゲージ

【課題】内径面がテーパ穴とされた環状体を有するテーパゲージを軸外周のテーパ加工面から容易に外せるようにする。
【解決手段】前記環状体10に、前記内径面の軸嵌合部11から外径面12まで連通する流体注入路13を設け、この流体注入路13をねじ孔とし、前記軸嵌合部11の軸方向中間部分に凹溝15を形成し、この凹溝15内に前記流体注入路13の出口を位置させた構成を採用することにより、継ぎ手具Cを介して流体注入路13より流体を軸嵌合部11とテーパ加工面41との間に注入し、ブリューペースト等による吸着状態を緩和ないし解消させられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸外周に形成されるテーパ加工面のテーパ角度を管理するために使用されるテーパゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
テーパゲージは、軸受鋼、合金工具鋼等の経年寸法変化が小さい材料の測定模範である。例えば、工作機械の加工精度を向上させるには、主軸と軸受の嵌め合いを高精度に調整する必要がある。このため、主軸外周に軸受との嵌合面になるテーパ部を加工する場合、そのテーパ加工面を所定のテーパ角度にするための模範としてテーパゲージが使用されている。
【0003】
上記のように軸外周のテーパ角度を測定するためのテーパゲージとしては、図3に示すように、内径面がテーパ穴とされた環状体30を有するものが従来から使用されている(非特許文献1参照)。環状体30の内径面には、軸40の外周に形成されたテーパ加工面41に対する軸嵌合部31が形成されており、この軸嵌合部31は所定のテーパ角度に高精度で仕上げられている。
ブリューペースト、光明丹の油練物などの粘性塗料と、上記のテーパゲージとを用いることにより、テーパ加工面41に対し、いわゆる黒当り測定を行うことができる。
【0004】
上記の黒当り測定は、次のようにして行われる。
先ず、軸嵌合部31の周方向数箇所にブリューペースト等を塗布する。
次に、環状体30の外径面に固着された一対のグリップ32を握り、軸嵌合部31を軸40のテーパ加工面41に対し軸小径端側から軸方向に軽く嵌め合わせる。ここで、軸40側のテーパ角度が軸嵌合部31のテーパ角度よりも大きい場合、軽く嵌合することはできない。
次に、嵌合状態のままテーパゲージを軸回りに回転させた後、テーパゲージを軸40から引き抜く。
引き抜き後、軸40側に転写されたブリューペースト等の面積に基づき、テーパ加工面41のテーパ角度が軸嵌合部31に対しどの程度になっているかを確認することができる。テーパ加工面41のテーパ角度が軸嵌合部31のテーパ角度よりも小さい程、ブリューペースト等がテーパ加工面41に付着し難くなり、転写されるブリューペースト等の面積が小さくなるからである。
【0005】
【非特許文献1】「NTN株式会社、精密転がり軸受カタログ(CAT.No2260−II/J)、P.37、P.244」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記リングゲージタイプのテーパゲージによる測定では、軸40側のテーパ加工面41に軸嵌合部31を軸方向に軽く押して嵌合される結果、テーパ加工面41と軸嵌合部31との間にブリューペースト等と微量な空気とが介在した状態になる。このような状態では、テーパゲージを軸40から取り外そうとする際、テーパ加工面41と軸嵌合部31との間に入り込むべき空気が粘性を有するブリューペースト等により侵入を妨げられ、ブリューペースト等によって両者の吸着状態が引き起こされる場合がある。
【0007】
上記の吸着状態になった場合、作業者は、図4に示すように、グリップ32を握ってテーパゲージをこじることにより、テーパ加工面41と軸嵌合部31との間を強引に離していた。ところが、こじりによって環状体30と軸40とが強く接触した結果、これらが傷つくことがあった。またこじりにより吸着状態が急に解消されると、環状体30がすっぽ抜けることがあるため、危険がないように配慮しなければならず、作業性が悪かった。特に、両者の嵌合面積が大きくなる程、ブリューペースト等による吸着力が増すため、上述の諸問題がより顕在化する。
【0008】
そこで、この発明の課題は、内径面がテーパ穴とされた環状体を有するテーパゲージを軸外周のテーパ加工面から容易に外せるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、前記環状体に、前記内径面の軸嵌合部から軸嵌合状態における外部露出部分まで連通する流体注入路を設けた構成を特徴とするものである。ここで、「軸嵌合状態」とは、環状体と軸とが軸嵌合部と軸外周のテーパ加工面において嵌合する状態をいう。「外部露出部分」とは、軸嵌合状態においてテーパゲージの外部に露出する部分をいう。
【発明の効果】
【0010】
この発明の構成によれば、軸嵌合部と軸のテーパ加工面との間でブリューペースト等により吸着状態が生じた場合に、流体注入路より空気や油などの流体を環状体の外から注入することができる。この注入された流体は、注入圧により軸嵌合部と軸のテーパ加工面との間に拡がり、ブリューペースト等を押し動かして吸着状態を緩和ないし解消する作用をなす。
したがって、この発明は、内径面がテーパ穴とされた環状体を有するテーパゲージを軸外周のテーパ加工面から取り外す前、またはテーパゲージがこじった状態になった段階で流体注入路から流体を注入することで吸着状態を緩和ないし解消させることができ、その結果、テーパゲージをテーパ加工面から容易に外すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態を図1、図2に基づいて説明する。
図1、図2に示すように、実施形態に係るテーパゲージは、内径面がテーパ穴とされた環状体10を有するものである。
【0012】
環状体10の内径面には、軸40の外周に形成されたテーパ加工面41に対する軸嵌合部11が円錐状に形成されており、この軸嵌合部11は所定のテーパ角度に高精度で仕上げられている。なお、環状体10の内径面には、環状体10の小径端面及び大径端面のそれぞれと軸嵌合部11とをつなぐ面取りが形成されている。
【0013】
上記環状体10には、軸嵌合部11から外径面12まで連通する流体注入路13が設けられている。なお、この実施形態では、外径面12が円筒状とされ、この外径面12にはグリップ14が2対で設けられている。
【0014】
上記流体注入路13は、環状体10の外径面12から軸嵌合部11まで貫通するねじ孔とされている。このため、流体注入路13には、グリースガン等の流体注入機器(図示省略)が接続される継ぎ手具Cを螺着することができる。継ぎ手具Cとしては、使用する流体に応じてグリースニップル、オイルカップ、エアホース継ぎ手などを適宜に選択することができる。すなわち、流体注入路13をねじ孔とすれば、単純な構造で環状体10に一体に設けられると共に、注入する流体の多様化を容易に実現することが可能になる。
【0015】
この実施形態に係るテーパゲージでは、上記黒当り測定を行うに際し、テーパ加工面41から取り外す前、またはテーパゲージがこじった状態になった段階で、流体注入路13に空気や油などの流体が継ぎ手具Cを介してテーパゲージの外から注入されると、この注入された流体は、注入圧により軸嵌合部11とテーパ加工面41との間に拡がり、ブリューペースト等を押し動かして吸着状態を緩和ないし解消する作用をなす。このため、作業者は、テーパゲージをテーパ加工面41から容易に外すことができる。
【0016】
ここで、この実施形態では、軸嵌合部11の軸方向中間部分に凹溝15が形成されており、この凹溝15内に流体注入路13の出口が位置させられている。このため、流体注入路13の出口から流出した流体は、凹溝15に沿って導かれ、やがて凹溝15から溢れ出ると軸方向両側に拡がっていく。
したがって、この実施形態では、単に流体注入路13(ねじ孔)のみを設けた場合と比して、流体注入路13に注入された流体が軸嵌合部11とテーパ加工面41との間でより拡がり易くなるため、上記吸着状態を効果的に解除することができる。
【0017】
特に、この実施形態では、上記凹溝15が環状体10の内径面全周に一連で形成されているため、流体注入路13を一本設けるだけで軸嵌合部11とテーパ加工面41との間の全周に流体を行き渡らすことができる。
【0018】
また、この実施形態では、上記凹溝15が軸嵌合部11の軸方向中間部分を通されているため、軸嵌合部11の嵌合時に凹溝15が原因となってガタツキが生じることもない。
【0019】
なお、上記凹溝15は、軸嵌合部11の軸方向長さの中心上を通るように一連で形成することが好ましい。注入された流体の拡がり性能、及び上記ガタツキの防止性能のそれぞれにおいて、凹溝15を境とした軸方向両側で各作用・効果が均衡するからである。
【0020】
また、この実施形態において凹溝15を省略する場合には、軸嵌合部11とテーパ加工面41との間の全周に流体を行き渡らすことができるように、複数の流体注入路13を周方向に適宜の間隔で設けるとよい。
【0021】
空気などの高圧注入可能な流体を用いる場合、凹溝15を省略し、一本の流体注入路13のみを設けた構成を採用することもできる。高圧注入により強制的に軸嵌合部と軸のテーパ加工面との間に拡げられるからである。流体注入路13及び凹溝15を複数本にすることが可能なのは勿論である。
【0022】
また、この実施形態では、環状体10の軸嵌合部11と軸40のテーパ加工面41とが嵌合された状態(軸嵌合状態)で、テーパゲージの外部に露出する部分(外部露出部分)のうち、特に外径面12の部分に流体注入路13の入口が位置させられている。これは、流体注入路13の入口を環状体10の両端面のいずれか一方または両方に位置させた場合に比して、流体注入路13の入口面積や流体注入機器や継ぎ手具Cの着脱作業空間を容易に得ることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係るテーパゲージを軸外周のテーパ加工面に嵌合した状態を示す斜視図
【図2】図1を、II−II線の切断面(流体注入路の穴中心を含む径方向切断面とグリップの軸中心を含む径方向切断面)で示した拡大組合せ断面図
【図3】(a)従来例の全体斜視図(b)従来例の測定対象であるテーパ加工面が外周に形成された軸
【図4】図3(a)の従来例を図3(b)の軸に嵌合したままこじった状態を斜視で示す使用状態図
【符号の説明】
【0024】
10、30 環状体
11、31 軸嵌合部
12 外径面(外部露出部分)
13 流体注入路
15 凹溝
40 軸
41 テーパ加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面がテーパ穴とされた環状体を有するテーパゲージにおいて、前記環状体に、前記内径面の軸嵌合部から軸嵌合状態における外部露出部分まで連通する流体注入路を設けたことを特徴とするテーパゲージ。
【請求項2】
前記軸嵌合部の軸方向中間部分に凹溝を形成し、この凹溝内に前記流体注入路の出口を位置させた請求項1に記載のテーパゲージ。
【請求項3】
前記流体注入路を、前記環状体の外径面から前記軸嵌合部まで貫通するねじ孔とした請求項1または2に記載のテーパゲージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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