説明

ディスクトラックリートメディア用またはパターンドメディア用磁気記録媒体用基板、ディスクトラックリートメディア用またはパターンドメディア用磁気記録媒体

【課題】DTメディアやパターンドメディアの製造に適した磁気記録媒体用基板であって、複雑な工程が不要で簡易にDTメディアやパターンドメディアを製造することが可能な磁気記録媒体用基板を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体用基板は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の濡れ性が、他の領域の濡れ性と異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク記録装置の基板に用いられる磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体用基板の製造方法、及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ装置(HDD)などの磁気記録装置の記録容量は大容量化される傾向にあり、記録方式として垂直記録方式が実用化されつつある。
【0003】
この垂直記録方式は、磁気記録媒体の記録層面内に対して垂直方向に磁化させることによって記録する方式であり、高密度な記録が可能となる。しかしながら、垂直記録方式では、100Gbit/in2以上の記録密度になると、磁気ヘッド側面から発生するサイドフリンジングによって、隣接するトラックへの書き込み動作が行われてしまい、記録不良や再生不良が生じてしまう問題がある。
【0004】
このため、磁気記録媒体の円周方向に溝を形成し、トラック間をデータの書き込みが不能な非磁性領域(非記録領域)によって物理的に分離する、いわゆるディスクトラックリートメディア(以下、「DTメディア」と称する)が提案されている(例えば特許文献1、及び特許文献2)。このDTメディアによれば、トラック間に非磁性領域(非記録領域)が設けられているため、記録時に隣接するトラックに誤ってデータを書き込んでしまう問題や、再生時に隣接するトラックから誤ってデータを読み出してしまう問題や、記録ビット端部の磁化湾曲によって発生する信号ノイズに起因する出力低下の問題などを回避することができ、高密度記録が可能な磁気記録媒体に特有な問題を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−28488号公報
【特許文献2】特開2005−293633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のDTメディアには平板状の非磁性材料の基板が用いられ、DTメディアの製造においては、その非磁性材料の基板に軟磁性層や磁性層を積層し、磁性層をナノインプリント法、フォトリソグラフ法、電子描画法などの方法によってパターニングする必要がある。このようなパターニングの工程は複雑であり、大量に大面積の記録容量を形成する必要がある磁気記録媒体の製造プロセスにおいては大幅なコストアップに繋がる問題がある。
【0007】
また、非磁性材料の基板に磁性膜を形成した後でパターニングする方法では、清浄な磁性膜を加工することになるため、基板表面が荒れたり、磁気特性が悪化したりする問題がある。
【0008】
この発明は上記の問題に解決するものであり、DTメディアやパターンドメディアの製造に適した磁気記録媒体用基板であって、複雑な工程が不要で簡易にDTメディアやパターンドメディアを製造することが可能な磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体用基板の製造方法、磁気記録媒体、及び磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の形態は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の表面粗さが、他の領域よりも粗くなっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板である。
【0010】
この発明の第2の形態は、第1の形態に係る磁気記録媒体用基板であって、前記所定領域の表面粗さRaは、4〜10[nm]であることを特徴とする。
【0011】
この発明の第3の形態は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の濡れ性が、他の領域の濡れ性と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板である。
【0012】
この発明の第4の形態は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の組成が、他の領域の組成と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板である。
【0013】
この発明の第5の形態は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しない所定領域又は磁性膜を分離するための所定の非磁性領域に、離型剤が設けられていることを特徴とする磁気記録媒体用基板である。
【0014】
この発明の第6の形態は、第1から第5のいずれかの形態に係る磁気記録媒体用基板であって、前記非磁性の母材は、金属、金属酸化物、半導体、ガラス、セラミックス、金属窒化物、金属炭化物、又は樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0015】
この発明の第7の形態は、円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の結晶構造が、他の領域の結晶構造と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板である。
【0016】
この発明の第8の形態は、第7の形態に係る磁気記録媒体用基板であって、前記非磁性の母材は、結晶化ガラス又は多結晶体で構成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明の第9の形態は、第1から第8のいずれかの形態に係る磁気記録媒体用基板であって、前記所定領域の形状は、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンであることを特徴とする。
【0018】
この発明の第10の形態は、円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の所定領域を酸処理することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法である。
【0019】
この発明の第11の形態は、第10の形態に係る磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記酸処理した後、前記基板表面に離型剤を塗布することを特徴とする。
【0020】
この発明の第12の形態は、円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の所定領域をドライエッチングすることを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法である。
【0021】
この発明の第13の形態は、第12の形態に係る磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記ドライエッチングした後、前記基板表面に離型剤を塗布することを特徴とする。
【0022】
この発明の第14の形態は、円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の磁性膜を成膜しない所定領域又は磁性膜を分離するための所定の非磁性領域に、離型剤を塗布することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法である。
【0023】
この発明の第15の形態は、円板状の形状を有する化学切削用のガラス基板に対して、基板表面の所定領域に紫外線を照射することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法である。
【0024】
この発明の第16の形態は、円板状の形状を有する結晶化ガラス基板又は多結晶体の基板に対して、基板表面の所定領域を加熱することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法である。
【0025】
この発明の第17の形態は、第16の形態に係る磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記基板表面にスポット状の熱源を照射することで、前記所定領域を加熱することを特徴とする。
【0026】
この発明の第18の形態は、第10から第17のいずれかの形態に係る磁気記録媒体用基板の製造方法であって、前記所定領域の形状は、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンであることを特徴とする。
【0027】
この発明の第19の形態は、第1から第9のいずれかの形態に記載の磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜が成膜されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
【0028】
この発明の第20の形態は、第1から第9のいずれかの形態に記載の磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜を成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0029】
この発明の第21の形態は、第10から第18のいずれかの形態に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法によって作製された磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜が形成されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
【0030】
この発明の第22の形態は、第10から第18のいずれかの形態に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法によって作製された磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜を成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
この発明によると、基板表面の粗さが部分的に異なっているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となり、簡易にDTメディアやパターンドメディアを作製することが可能となる。
【0032】
また、この発明によると、基板表面の濡れ性が部分的に異なっているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となり、簡易にDTメディアやパターンドメディアを作製することが可能となる。
【0033】
また、この発明によると、基板表面に離型剤が部分的に塗布されているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となり、簡易にDTメディアやパターンドメディアを作製することが可能となる。
【0034】
また、この発明によると、基板表面の結晶構造が部分的に異なっているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となり、簡易にDTメディアやパターンドメディアを作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第1の実施の形態]
この発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及び磁気記録媒体用基板の製造方法について説明する。
【0036】
第1実施形態で用いられる磁気記録媒体用基板は円板状の形状を有し、中央に貫通孔が形成されてハードディスクなどの磁気記録媒体の基板として用いられる。この磁気記録媒体用基板は非磁性体で構成されており、例えば、金属、金属酸化物、半導体、ガラス、セラミックス、金属窒化物、金属炭化物などの無機材料、又は樹脂が用いられる。
【0037】
第1実施形態では、磁気記録媒体用基板の表面状態を部分的に変えることによって、基板表面に磁性層が成膜されやすい領域と成膜され難い領域を形成する。例えば、(1)磁気記録媒体用基板の表面の粗さを部分的に変えたり、(2)表面の組成を部分的に変えたりすることで、基板表面上に磁性層が形成されやすい領域を形成する。
<(1)表面の粗さ>
まず、基板表面の粗さを部分的に変える方法について説明する。例えば、ナノインプリントによってパターニングし、磁気記録媒体用基板の表面を酸処理、又はドライエッチングすることで、基板表面の粗さを部分的に変える。基板表面において、酸処理又はドライエッチングが施された領域が粗くなる。つまり、部分的に酸処理又はドライエッチングを施すことで、他の部分よりも相対的に表面粗さを粗くする。例えば、表面処理のパターン(表面粗さが粗い領域のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などに代表される位置認識、識別の容易な幾何学的なパターンとする。また、表面処理のパターンの幅は、5〜50[nm]が好ましい。
【0038】
パターニングとしては、磁気記録媒体用基板上にレジストを設け、磁性膜のパターンに対応したマスクによってレジストにパターンを形成し、酸処理又はドライエッチングによって、基板の表面粗さを変える。例えば、同心円状に一定間隔ごとにレジスト層を形成し、その後、酸処理又はドライエッチングを施すことにより、同心円状に表面粗さが変化した領域を形成する。
【0039】
例えば、酸処理又はドライエッチングを施す前の磁気記録媒体用基板の表面粗さRa(JIS−B0610)が2[nm]程度であった場合、酸処理又はドライエッチングを施すことで、部分的に表面粗さRaを4〜10[nm]程度にする。つまり、部分的に酸処理又はドライエッチングを施すことで、他の部分よりも、相対的に表面粗さRaを2〜8[nm]粗くする。
【0040】
酸処理には、一般的な強酸やフッ酸などが用いられる。酸の濃度としては酸全体として0.001重量%〜30重量%が好ましく、処理温度としては0℃から80℃の間が好ましく、処理時間(浸漬時間)は0.5秒から1000秒の間が好ましい。これらの範囲の中で磁気記録媒体用基板の材料特性および目的とする処理状態を考慮して適切な組み合わせを選択することができる。
【0041】
例えば、ガラス基板に対しては、フッ酸を主体とするものが好ましく、必要に応じてフッ化アンモニウム、ケイフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸などを加えても良い。また、金属基板に対しては、塩酸、硝酸、硫酸の中から選択される1つ若しくは複数を混ぜた混酸を用いるのが好ましい。例えばハードディスク基材として一般的なアルミニウム基板においては、0.1重量%の塩酸を処理液として、20℃で10〜50秒処理することで表面粗さRaを0.2〜1.0[nm]粗くすることができる。
【0042】
ドライエッチングには、例えば、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)装置を用い、フルオロカーボン系のガス、CF4、C4F8を導入し、基板にRFバイアスを500[eV]程度かけてエッチング処理を行う。また、アルゴン(Ar)イオンによるミリングも効果的である。
【0043】
酸処理又はドライエッチングが施されて表面粗さが他の領域よりも粗くなった部分は、磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。酸処理又はドライエッチングが施された部分に磁性膜が成膜されるか否かは、磁性膜の材料や成膜条件に依存する。つまり、磁性膜の材料や成膜条件によって、表面粗さが粗い領域に磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。従って、表面処理のパターン(表面粗さが粗い部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンとすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンに磁性膜を成膜することができる。
【0044】
また、磁気記録媒体用基板の片面のみならず、両面に対して酸処理又はドライエッチングを施すことで、基板両面の表面粗さを部分的に変えてもよい。
<(2)組成>
次に、基板表面の組成を部分的に変える方法について説明する。この場合も、ナノインプリントによってパターニングし、磁気記録媒体用基板の表面を酸処理することで、基板表面の組成を部分的に変える。基板表面において、酸処理又はドライエッチングが施された領域の組成が変化する。例えば、表面処理のパターン(組成が異なる部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンとする。また、表面処理のパターンの幅は、5〜50[nm]が好ましい。
【0045】
また、酸処理を施すことで基板表面が粗くなるが、酸処理又はドライエッチングの条件によって、基板表面を粗くせず、基板表面の組成を変えるようにしてもよい。
【0046】
酸処理には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、炭酸、クエン酸、蟻酸、シュウ酸、フッ酸の中から選択される1つ若しくは複数を混ぜた混酸を用いるのが好ましい。用いる酸の濃度は、酸全体として0.0001重量%〜10重量%が好ましく、処理温度としては0℃から80℃の間が好ましく、処理時間(浸漬時間)は0.5秒から1000秒の間が好ましい。これらの範囲の中で磁気記録媒体用基板の材料特性および目的とする処理状態を考慮して適切な組み合わせを選択することが出来る。
【0047】
例えば、ガラス基板に対しては、フッ酸を用いる場合、0.1重量%以下の低濃度で処理するのが好ましい。また、金属基板に対しては、塩酸、硝酸、硫酸の中から選択される1つ若しくは複数を混ぜた混酸を用いるのが好ましい。例えば、金属材料として一般的なNi基板においては、0.001重量%の硝酸を処理液として、20℃で500秒処理することで基板の最表面部分に酸化物組成域をパターニングすることができる。
【0048】
酸処理を施し、基板表面の組成を変えることによって、基板表面の濡れ性を変えることができる。基板表面の濡れ性が変わった部分は、磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。濡れ性が変わった部分に磁性膜が成膜されるか否かは、磁性膜の材料や成膜条件に依存する。つまり、磁性膜の材料や成膜条件によって、濡れ性が変わった部分に磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。従って、表面処理のパターン(濡れ性が異なり成膜されやすい部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンにすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンに磁性膜を成膜することができる。
【0049】
濡れ性の評価は、水の接触角を測定して行った。濡れ性の良いガラスの接触角は5〜30度くらいの範囲にあった。撥水性のよいガラスの接触角は、40度以上の範囲にあった。
【0050】
また、磁気記録媒体用基板の片面のみならず、両面に対して酸処理を施すことで、両面の濡れ性を部分的に変えてもよい。
【0051】
次に、第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板の材料について説明する。この磁気記録媒体用基板は非磁性体で構成されており、例えば、金属、金属酸化物、半導体、ガラス、セラミックス、金属窒化物、金属炭化物などの無機材料、又は樹脂が用いられる。
【0052】
金属としては、例えばアルミニウムを用いることができる。磁気記録媒体用基板にアルミニウム基板を用いる場合、アルミニウム板をプレス成形して円板状にした後、表面に対して高精度の研削・研磨加工及び洗浄工程を施すことにより、表面を平滑化する。
【0053】
ガラスとしては、例えばホウ珪酸ガラスやアルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、ガラス基板として、アモルファスガラス基板、結晶化ガラス基板、又は化学強化ガラス基板を用いることができる。
【0054】
磁気記録媒体用基板にガラス基板を用いる場合、ガラス素材を溶融し、溶融したガラスをプレス成形し、円板状のガラス基板を作製する。そして、ガラス基板の表面に対して高精度の研削・研磨加工及び洗浄工程を施すことにより、表面を平滑化する。
【0055】
金属酸化物としては、例えば酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化モリブデン、酸化錫、酸化、酸化インジウム、酸化ゲルマニウムなどを用いることができる。半導体としては例えばシリコン、ゲルマニウム、セレン、GaAs,InSb,CdTe、CdS、CdSeなどを用いることができる。セラミックスとしては、例えばムライト、アルミナ、コーディエライト、ジルコニア、ジルコン、エンスタタイト、スピネル、ガーナイト、スポジューメン、クリストバライト、フェライトなどを用いることができる。金属窒化物としては、例えば窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化クロム、窒化珪素、窒化ゲルマニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウムなどを用いることが出来る。
【0056】
金属炭化物としては、例えば炭化珪素(SiC)、炭化チタン、炭化ジルコニア、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化タングステンなどを用いることができる。
【0057】
樹脂の材料には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性線硬化性樹脂の他、様々な樹脂を用いることができる。
【0058】
熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネイト、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、環状ポリオレフィン樹脂、メタクリルスチレン樹脂(MS樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ABS樹脂、ポリエステル樹脂(PET樹脂、PBT樹脂など)、ポリオレフィン樹脂(PE樹脂、PP樹脂など)、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、又は、アクリル樹脂などを用いることができる。また、熱硬化性樹脂として、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂(BMC樹脂など)、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又は、ポリベンゾイミダゾール樹脂などを用いることができる。その他、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)などを用いることができる。
【0059】
また、活性線硬化性樹脂として、例えば、紫外線硬化性樹脂が用いられる。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化性アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化性ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化性エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化性ポリオールアクリレート系樹脂、紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化シリコン系樹脂、又は、紫外線硬化アクリル樹脂などを挙げることができる。
【0060】
また、塗設された硬化前の層に活性線を照射することによって硬化するときに、光開始剤を用いて硬化反応を促進させてもよい。このとき光増感剤を併用してもよい。
【0061】
また、空気中の酸素が上記硬化反応を抑制する場合は、酸素濃度を低下させる、または除去するために、例えば不活性ガス雰囲気下で活性線を照射することもできる。活性線としては、赤外線、可視光、紫外線などを適宜選択することができるが、特に紫外線を選択することが好ましいが、特に限定されるものではない。また、活性線の照射中、または前後に加熱によって硬化反応を強化させてもよい。
【0062】
また、磁気記録媒体用基板には、液晶ポリマー、有機/無機ハイブリッド樹脂(例えば、高分子成分にシリコンを骨格として取り込んだもの)などを用いることができる。なお、上記に挙げた樹脂は磁気記録媒体用基板に用いられる樹脂の1例であり、この発明に用いられる基板がこれらの樹脂に限定されることはない。2種以上の樹脂を混合してもよく、また、別々の層として異なる成分を隣接させて基板としてもよい。
【0063】
樹脂製基板の製造方法は、射出成形法、注型成形法、シート成形法、射出圧縮成形法、又は圧縮成形法などの成形法によって作製することができる。
【0064】
また、母材としての樹脂は、極力、耐熱温度又はガラス転移温度Tgが高い方が望ましい。樹脂製基板1にはスパッタリングにより磁性層が形成されるため、耐熱温度又はガラス転移温度Tgは、そのスパッタリングにおける温度以上であることが望ましい。例えば、耐熱温度又はガラス転移温度Tgが200℃以上である樹脂を用いることが望ましい。
【0065】
ガラス転移温度Tgが200℃以上の代表的な樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂(PES樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BMC樹脂、又は、液晶ポリマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリエーテルスルホン樹脂(PES樹脂)として、ユーデル(ソルベイアデバンストポリマーズ)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)として、ウルテム(日本GEプラスチック)、ポリアミドイミド樹脂として、トーロン(ソルベイアデバンストポリマーズ)、ポリイミド樹脂(熱可塑性)として、オーラム(三井化学)、ポリイミド(熱硬化性)として、ユーピレックス(宇部興産)、又は、ポリベンゾイミダゾール樹脂として、PBI/Celazole(クラリアントジャパン)が挙げられる。また、液晶ポリマーとして、スミカスーパーLCP(住友化学)、ポリエーテルエーテルケトンとして、ビクトレックス(ビクトレックスMC)が挙げられる。
【0066】
また、樹脂製基板として、吸湿による基板の寸法変化による磁気ヘッドとの位置ずれを防ぐために、吸湿性が少ない樹脂を用いることが望ましい。吸湿性の少ない樹脂の代表としては、ポリカーボネイトや環状ポリオレフィン樹脂がある。
【0067】
また、以上の説明は、基板が単一の樹脂により構成されているものを例として行ったが、基板は単一の樹脂で構成されているものに限らず、金属やガラスなどの非磁性材料の表面を樹脂層で被覆することにより構成されるものでも良い。この場合、樹脂で被覆される非磁性材料としては、樹脂、金属、セラミックス、ガラス、ガラスセラミックス、又は、有機無機複合材など、基板として適用できる様々な素材を用いることができる。
【0068】
第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板を用いて磁気記録媒体を作製する場合、磁気記録媒体用基板の表面上にスパッタリングなどによりCo系合金などの磁性層を成膜して磁気記録媒体とする。磁気記録媒体用基板の表面の粗さが部分的に粗くなっていたり、表面の組成が部分的に変化していたりすることにより、磁性膜を部分的に成膜することが可能となる。従って、表面処理のパターンを、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンにすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンに磁性膜を成膜することができる。
【0069】
また、磁気記録媒体用基板の表面上に、金属層、セラミック層、磁性層、ガラス層、又は、無機層と有機層との複合層(ハイブリッド層)などの被覆層を形成し、その被覆層の上に磁性層を形成しても良い。この被覆層の厚さは、10nm〜300nmが好ましい。
【0070】
なお、第1実施形態で用いられる磁気記録媒体用基板の大きさは、特に限定されることはない。例えば、0.85インチ、1インチ、2.5インチ、3.5インチの基板を用いてもよい。
[第2の実施の形態]
この発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及び磁気記録媒体用基板の製造方法について説明する。
【0071】
この第2実施形態で用いられる磁気記録媒体用基板は、上述した第1実施形態で用いられる磁気記録媒体用基板と同じ形状を有し、同じ材料が用いられる。
【0072】
第2実施形態では、磁気記録媒体用基板の表面に部分的に離型剤を塗布することによって、基板表面に磁性層が成膜されやすい領域と成膜され難い領域を形成する。離型剤が塗布された領域は、磁性膜が成膜され難くなるため、基板表面に磁性膜を部分的に成膜することが可能となる。
【0073】
離型剤として、例えば、パーフルオロアルキルシランカップリング剤を用いることができ、パーフルオロアルキル系溶剤で希釈濃度を変えて、基板表面への離型膜層の厚みを制御できる。また、離型膜形成後に、パーフルオロアルキル系溶剤でリンス処理して単分子層のみ残すことも可能である。
【0074】
例えば、ソフトインプリントによって離型剤を基板表面に部分的に塗布することができる。この場合、磁性膜のパターンに対応した金型を用いて、磁気記録媒体用基板の表面に離型剤を塗布することで、磁性膜のパターンに対応して離型材を基板上に塗布することができる。例えば、離型剤を塗布するパターンを、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンとすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンに磁性膜を成膜することができる。また、離型剤を塗布するパターンの幅は、5〜50[nm]が好ましい。
【0075】
また、所望のパターンに従って磁気記録媒体用基板の表面に対して酸処理又はエッチングを施すことにより、基板表面の粗さを部分的に粗くし、その後、基板表面に離型剤を塗布してもよい。これにより、表面粗さが粗くなっている部分に離型剤が付着し、所望のパターンに離型材を基板表面に塗布することができる。
【0076】
そして、第1実施形態と同様に、第2実施形態に係る磁気記録媒体用基板の表面上にスパッタリングなどによりCo系合金などの磁性膜を成膜して磁気記録媒体とする。磁気記録媒体用基板の表面に部分的に離型剤が塗布されているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となる。
[第3の実施形態]
この発明の第3実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及び磁気記録媒体用基板の製造方法について説明する。
【0077】
第3実施形態では、磁気記録媒体用基板の表面を部分的に結晶化することによって、基板表面に磁性層が成膜されやすい領域と成膜され難い領域を形成する。例えば、(1)化学切削用のガラス基板に対して部分的に紫外線を照射化したり、(2)基板表面を部分的に熱処理したりすることで、部分的に結晶化する。
【0078】
また、磁気記録媒体用基板の深さ方向については、深さ方向に全体的に結晶化してもよく、表面付近のみを結晶化してもよい。
<(1)紫外線照射>
まず、基板表面に紫外線を部分的に照射する方法について説明する。この方法においては、磁気記録媒体用基板として、Agコロイド反応を利用した化学切削用のリチウムシリケート系結晶化ガラス基板を用いる。例えば、所望のパターンが形成されたマスクを用いて、ガラス基板の表面に紫外線を照射する。紫外線が照射された領域は結晶化が促進されるため、基板表面の結晶構造を部分的に変えることができる。例えば、表面処理のパターン(紫外線を照射する部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、線点状、又は同心円状のパターンとする。また、表面処理のパターンの幅は、5〜50[nm]が好ましい。
【0079】
所望とするパターンのサイズや深さに応じて、波長400nm以下の紫外パルスレーザーを用いて、1mW〜20Wの出力で、1〜10000パルスを照射することで良好なパターンが形成することができる。
【0080】
紫外線が照射されて結晶構造が変化した部分は、磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。紫外線が照射された部分に磁性膜が成膜されるか否かは、磁性膜の材料や成膜条件に依存する。つまり、磁性膜の材料や成膜条件によって、紫外線が照射された領域に磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。従って、表面処理のパターン(紫外線を照射する部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンとすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンに磁性膜を成膜することができる。
【0081】
また、磁気記録媒体用基板の片面のみならず、両面に対して紫外線を照射することで、両面の結晶構造を部分的に変えてもよい。
<(2)熱処理>
次に、基板表面を部分的に熱処理する方法について説明する。この方法においては、磁気記録媒体用基板として、基板表面に均質に結晶粒子が析出した結晶化ガラス基板、又はセラミックスなどの多結晶体の基板を用いる。
【0082】
そして、結晶化ガラス基板などの基板に対して、レーザーによって数十[nm]にスポットを絞った熱源を照射して基板表面を局所的に加熱し、その後急冷することで、スポットに対応する領域をアモルファス構造に変える。熱源の温度は、250〜300[℃]とすることが好ましい。そして、熱源のスポットを所望のパターンに従って基板表面に照射することで、所望のパターンに沿ったアモルファス構造を基板表面に形成することができる。例えば、表面処理のパターン(熱源を照射する部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンとする。また、表面処理のパターンの幅は、5〜50[nm]が好ましい。
【0083】
熱源が照射されてアモルファス構造に変化した部分は、磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。熱源が照射された部分に磁性膜が成膜されるか否かは、磁性膜の材料や成膜条件に依存する。つまり、磁性膜の材料や成膜条件によって、熱源が照射された領域に磁性膜が成膜されやすくなったり、成膜され難くなったりする。従って、表面処理のパターン(熱源を照射する部分のパターン)を、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンにすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状などのパターンに磁性膜を成膜することができる。
【0084】
また、磁気記録媒体用基板の片面のみならず、両面に対して熱源を照射することで、両面の結晶構造を部分的に変えてもよい。
【0085】
そして、第1実施形態と同様に、第3実施形態に係る磁気記録媒体用基板の表面上にスパッタリングなどによりCo系合金などの磁性膜を成膜して磁気記録媒体とする。磁気記録媒体用基板の表面の結晶構造が部分的に変化しているため、磁性膜を部分的に成膜することが可能となる。従って、表面処理のパターンを、点状(ビットマップ)、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンにすることで、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンに磁性膜を成膜することができる。
[実施例]
次に、この発明の実施形態に係る具体的な実施例について説明する。ここでは、磁気記録媒体用基板の1例として、ガラス基板を用いた例を説明する。
(実施例1)
実施例1では、上記第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。ここでは、第1実施形態のうち、酸処理を施す方法について説明する。
(ガラス基板)
実施例1に用いたガラス基板の寸法を示す。
【0086】
外径= 65[mm]
厚さ= 0.800[mm]
表面粗さRa=0.2[nm]
なお、実施例1では、ホウ珪酸ガラスのアモルファスガラス基板を用いた。
(酸処理)
パターニングを施すことで、上記ガラス基板上に、磁性膜のパターンのレジストを形成した。ここで作製したパターン形状として放射状にビットを配列させた。ビットの寸法はΦ100nmの円状であり、放射状の直線上で隣接するビット間隔は150nmとした。その後、酸処理を施した。具体的には、フッ酸0.05重量%にフッ化アンモニウムを0.05重量%混合した物を処理液として30℃で20〜100秒処理した。
【0087】
上記ガラス基板に対して酸処理を施すことで、レジストが形成されていない表面の表面粗さRaは、処理時間20秒で0.42[nm]、処理時間45秒で0.66[nm]、処理時間100秒で0.98[nm]となった。
(磁性膜の成膜)
酸処理が施されたガラス基板の表面にスパッタリングによってFeCoZr軟磁性層を形成した後、CoCrPtにSiO2を添加した磁性膜を成膜し、垂直磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。酸処理を施した領域にのみ良好な磁気特性を有する磁性領域が成膜されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、DTメディアを作製することができた。
【0088】
なお、この実施例1では、磁気記録媒体用基板としてガラス基板を用いたが、上記第1実施形態で挙げた他の材料、例えば、金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、金属窒化物、又は金属炭化物を用いた場合でも、酸処理の条件(酸の濃度、温度、処理時間)を変えることで、ガラス基板と同じ効果を奏することができる。
(実施例2)
実施例2では、上記第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。ここでは、第1実施形態のうち、ドライエッチングを施す方法について説明する。実施例2に用いたガラス基板の寸法、及びドライエッチング前の表面粗さRaは、実施例1に用いたガラス基板と同じであるため、説明を省略する。
(ドライエッチング)
パターニングを施すことで、上記ガラス基板上に、磁性膜のパターンのレジストを形成した。ここで作製したパターン形状は同心円状ものとした。パターンの幅50nmの円状で、レジスト部に相当する隣接パターンの間隔は100nmとした。その後、ドライエッチングを施した。プロセス条件は、反応ガスとしてCHF3(40ml)、Cl2(2ml)をRIE装置に導入しRF出力200W、処理圧力2.5Paで、7〜15秒処理した。
【0089】
上記ガラス基板に対してドライエッチングを施すことで、レジストが形成されていない表面の表面粗さRaは4〜10[nm]になった。
(磁性膜の成膜)
ドライエッチングが施されたガラス基板の表面にスパッタリングによってAlTiの下地層を形成した後、CoCrPtNb合金の磁性膜を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。ドライエッチングを施した領域にのみ良好な磁気特性を有する磁性領域が成膜されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、DTメディアを作製することができた。
【0090】
なお、この実施例2では、磁気記録媒体用基板としてガラス基板を用いたが、上記第1実施形態で挙げた他の材料、例えば、金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、金属窒化物、又は金属炭化物を用いた場合でも、ドライエッチングの条件を変えることで、ガラス基板と同じ効果を奏することができる。
(実施例3)
実施例3では、上記第1実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。ここでは、第1実施形態のうち、基板表面の組成を変える方法について説明する。実施例3に用いたガラス基板の寸法、及び酸処理前の表面粗さRaは、実施例1に用いたガラス基板と同じであるため、説明を省略する。
(酸処理)
上記ガラス基板上に、磁性膜のパターンのレジストを形成した。ここで作製したパターンとして格子状にビットを配列させた。ビットの寸法は30×60nmの短冊型であり、隣接するビット間隔は25nmとした。一般的なガラス基板であるソーダライムガラス基板では、0.5重量%の硫酸を処理液として50℃で60秒処理することで、基板の最表面部分にアルカリ成分の極端に少ない組成域をパターニングすることができた。
【0091】
上記ガラス基板に対して酸処理を施すことで、レジストが形成されていない表面のアルカリ成分のみが選択的に抽出され表面組成が変化し、その部分の接触角が7度と非常に濡れ性の良好な状態になった。レジストが形成されている部分は接触角が37度となり、非常に濡れ性が悪くなっていた。なお、濡れ性の評価には英弘精機株式会社製の自動接触角測定装置OCA20で、蒸留水を用いて対して評価した。
(磁性膜の成膜)
酸処理が施されたガラス基板の表面にスピンコート方式によってFePtを主成分とする塗布型媒体を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。酸処理が施されていない領域に磁性膜が成膜されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、パターンドメディアを作製することができた。
【0092】
なお、この実施例3では、磁気記録媒体用基板としてガラス基板を用いたが、上記第1実施形態で挙げた他の材料、例えば、金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、金属窒化物、又は金属炭化物を用いた場合でも、酸処理の条件(酸の濃度、温度、処理時間)を変えることで、ガラス基板と同じ効果を奏することができる。
(実施例4)
実施例4では、上記第2実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。実施例4に用いたガラス基板の寸法などは、実施例1に用いたガラス基板と同じであるため、説明を省略する。
(離型剤の塗布)
実施例4で用いた離型剤:パーフルオロアルキルシランカップリング剤として、商品名オプツール(ダイキン工業製)を用い、パーフルオロアルキル系溶剤として、商品名デムナムソルベント(ダイキン工業製)を使用した。
【0093】
そして、ソフトインプリントによって、ガラス基板上に所定のパターンの離型剤を塗布した。ここで作製したパターンは正六角形の組み合わせた亀甲模様とした。パターン幅は60nmであり、正六角形の1辺を250nmとした。
(磁性膜の成膜)
酸処理が施されたガラス基板の表面にプラズマCVDによってCoCrPt合金の磁性膜を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。離型剤が塗布されている領域には磁性膜が成膜されず、離型剤が塗布されていない領域に磁性膜が成膜されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、DTメディアを作製することができた。
【0094】
なお、上述した離型剤は1例であり、他の離型剤、具体的には、トリアジンチオール系の離型剤や、フッ素系のフォスファゼン化合物として商品名:モレスコフォスファロール(松村石油研究所)を用いても同じ効果を奏することができる。
【0095】
なお、この実施例3では、磁気記録媒体用基板としてガラス基板を用いたが、上記第1実施形態で挙げた他の材料、例えば、金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、金属窒化物、又は金属炭化物を用いた場合でも、ガラス基板と同じ効果を奏することができる。
(実施例5)
実施例5では、上記第3実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。ここでは、第3実施形態のうち、紫外線を照射する方法について説明する。
(ガラス基板)
実施例5では、Agコロイド反応を利用した化学切削用のリチウムシリケート系結晶化ガラスを用いた。このガラス基板の寸法を以下に示す。
【0096】
外径= 38[mm]
厚さ= 0.25[mm]
基板材料は住田光学社製の感光性ガラスを用いた。
(紫外線照射)
パターン化されたマスクを用いて、上記ガラス基板に紫外線を照射することで、そのパターンに沿って基板表面を結晶化した。波長248nmのKrFエキシマレーザーを用いて、200mWの出力で、25パルス照射することで局部的に結晶化が促進された20nmピッチの良好なパターンが形成された。ここで作製したパターンは同心円状に正方形のビットを配列させた。正方形の1辺を50nmとし、同心円の間隔を75nmとした。
(磁性膜の成膜)
紫外線が照射されたガラス基板の表面にスパッタリングによってNiAl下地層を成膜した後、CoCrFePt合金の磁性膜を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。紫外線を照射して結晶化した領域に磁性膜が成膜されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、パターンドメディアを作製することができた。
(実施例6)
実施例6では、上記第3実施形態に係る磁気記録媒体用基板、及びその製造方法の具体例について説明する。ここでは、第3実施形態のうち、熱処理を施す方法について説明する。
(ガラス基板)
実施例6では、結晶化ガラス基板を用いた。
【0097】
具体的には、基板材料としてショット社製のゼロ膨張結晶化ガラスゼロデュアーを用いた。
【0098】
外径= 48 [mm]
厚さ= 0.508 [mm]
(熱処理)
処理装置は自社試作の近接場レーザー加工機を用いた。近接場加工ヘッドの開口部は径30nmのものを用いた。レーザー光源としては850nmGaAs面発光レーザーを用いた、直接ヘッドに搭載し使用した。上記ガラス基板に表面プラズモン効果を用いた極微小スポット光を形成し、スポット状に熱を付与した。ここでは正方形のマスから成る格子状に円形のビットを配列させた。ビットの径は65nmとし、ビット間隔を80nmとした。
(磁性膜の成膜)
熱処理が施されたガラス基板の表面にスパッタリングによってCoFePt合金の磁性膜を成膜し、磁気記録媒体を作製した。
(評価)
ガラス基板上に磁性膜を成膜した後、ガラス基板の表面を観察した。熱源を照射して非晶質化(アモルファス化)した領域のみ磁性膜が形成されていることが確認された。これにより、簡便な方法によって、所望のパターンの磁性膜をガラス基板上に成膜して、DTメディアを作製することができた。
【0099】
以上のように、実施例1から実施例6によると、磁気記録媒体用基板の表面を部分的に処理することで、所望のパターンの磁性膜を基板表面に成膜することが可能となる。よって、磁気記録媒体用基板の表面に溝を形成したり、磁気記録媒体用基板に磁性膜を成膜した後、その磁性膜に溝を形成したりする必要がないため、簡便な方法によってDTメディアやパターンドメディアを作製することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の濡れ性が、他の領域の濡れ性と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の組成が、他の領域の組成と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しない所定領域又は磁性膜を分離するための所定の非磁性領域に、離型剤が設けられていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項4】
前記非磁性の母材は、金属、金属酸化物、半導体、ガラス、セラミックス、金属窒化物、金属炭化物、又は樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項5】
円板状の形状を有する非磁性の母材を基板とし、基板表面の磁性膜を成膜しようとする所定領域の結晶構造が、他の領域の結晶構造と異なっていることを特徴とする磁気記録媒体用基板。
【請求項6】
前記非磁性の母材は、結晶化ガラス又は多結晶体で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項7】
前記所定領域の形状は、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項8】
円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の所定領域を酸処理することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項9】
前記酸処理した後、前記基板表面に離型剤を塗布することを特徴とする請求項8に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項10】
円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の所定領域をドライエッチングすることを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項11】
前記ドライエッチングした後、前記基板表面に離型剤を塗布することを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項12】
円板状の形状を有する非磁性の基板に対して、基板表面の磁性膜を成膜しない所定領域又は磁性膜を分離するための所定の非磁性領域に、離型剤を塗布することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項13】
円板状の形状を有する化学切削用のガラス基板に対して、基板表面の所定領域に紫外線を照射することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項14】
円板状の形状を有する結晶化ガラス基板又は多結晶体の基板に対して、基板表面の所定領域を加熱することを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項15】
前記基板表面にスポット状の熱源を照射することで、前記所定領域を加熱することを特徴とする請求項14に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項16】
前記所定領域の形状は、点状、放射線状、格子状、亀甲状、点線状、又は同心円状のパターンであることを特徴とする請求項8から請求項15のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項17】
請求項8から請求項16のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板の製造方法によって作製された磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜が形成されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項18】
請求項8から請求項16のいずれかに記載の磁気記録媒体用基板の製造方法によって作製された磁気記録媒体用基板の表面上に磁性膜を成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2012−43531(P2012−43531A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234851(P2011−234851)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【分割の表示】特願2008−539703(P2008−539703)の分割
【原出願日】平成19年9月22日(2007.9.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】