説明

ディスクロータ

【課題】車種間において使用する部品の共通化を図ることができ、もって、部品点数及びコストの低減を図ることのできるディスクロータを提供する。
【解決手段】ディスクロータ1は、取付部2と、前記取付部2とは別体で構成され、一対の略円板状の摺動板13,14を備えた制動部3と、複数のボルト4とからなる。取付部2は、ディスクロータ1の回転軸方向に平行に延びる略円筒状の周壁部6を備え、該周壁部6には、前記軸方向に平行に延びる複数の細長い切欠き9が設けられている。制動部3は、周壁部6に対して軸方向にスライド可能であるとともに、軸方向の向きを相対する2方向のどちらに向けても取付部2に嵌め込み可能に構成されている。切欠き9を介して、ボルト4を、一方の摺動板13に設けられた組付部18の組付穴19に締結させることで、取付部2と摺動板13,14との軸方向の相対位置関係を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等で使用されるディスクブレーキ装置のディスクロータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクロータは、ブレーキパッドで挟持させるための制動面を具備した円板状の制動部と、車両に取り付けるための取付部とを備えている。一般に、ディスクロータは、鋳鉄からなり、一体的に成形されている。
【0003】
また、近年では、軽量化のために、取付部をアルミ等の軽量素材で構成するものもある。この場合、制動部は、摩擦熱の発生等を考慮すると鋳鉄で作る必要があるため、取付部と制動部とが別体で構成される(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特表平8−505924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、取付部を取り付けるための車両側の部品と、ブレーキパッドの挟持面とのディスクロータ回転軸方向の相対位置は、車種に応じて異なっている。そのため、ディスクロータにおける取付部と制動部との前記軸方向の相対位置も車種に応じて異なるものとなっている。
【0005】
しかしながら、上記のような一体タイプまたは別体タイプのいずれであっても、取付部と制動部との前記軸方向の相対位置関係は一律に定められており、車種毎の位置関係の相違に対応するには、車種毎に専用のディスクロータを製造しなければならない。その結果、製造部品点数及びコストが増大してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車種間において使用する部品の共通化を図ることができ、もって、部品点数及びコストの低減を図ることのできるディスクロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明では、取付部と、一対の略円板状の摺動板を備えた制動部とが、締結部材で固定されたディスクロータであって、前記取付部は、自身の回転軸方向に平行に延びる周壁部を備えるとともに、前記制動部は、前記周壁部に対し前記締結部で固定される組付部を備え、前記周壁部と前記組付部との前記軸方向の相対位置関係を変更可能に構成されていることを特徴とするディスクロータをその要旨としている。
【0008】
上記請求項1に係る発明によれば、取付部と制動部とが別体で構成されており、取付部には、その回転軸方向に平行に延びる周壁部が設けられている。そして、該周壁部と制動部に設けられた組付部とが、締結部材で固定される。本発明では、周壁部と組付部との前記軸方向の相対位置関係が変更可能となっているため、同一の取付部及び制動部を用いても、その相対位置関係を調整するだけで、取付部と制動部(摺動板)との回転軸方向の相対位置関係の異なるディスクロータを容易に得ることができる。従って、車種毎に回転軸方向の相対位置関係の異なるディスクロータを製造する必要のあった従来技術とは異なり、共通の部品を用いて、各車種に応じたディスクロータを得ることができる。ひいては、部品点数の低減及びコストの低減を図ることができる。
【0009】
また、請求項2にかかる発明では、請求項1に記載のディスクロータにおいて、前記周壁部は、前記締結部材を挿通可能、かつ、自身に対する前記締結部材の前記軸方向の締結位置を変更可能とするための切欠きまたは長孔を具備するとともに、前記組付部は、前記締結部材を締結するための組付穴を具備することをその要旨としている。
【0010】
上記請求項2に係る発明によれば、周壁部に具備された切欠きまたは長孔を介して、締結部材が組付部の組付穴に締結されることで、周壁部と組付部とが固定される。かかる切欠きまたは長孔の存在により、周壁部に対する前記回転軸方向の締結位置を連続的に変更でき、結果として、周壁部と組付部との回転軸方向の相対位置関係を任意に、かつ、容易に変更することができ、特に、微調整も容易に行うことができる。
【0011】
さらに、請求項3に係る発明では、請求項1に記載のディスクロータにおいて、前記周壁部は、前記締結部材を挿通可能、かつ、前記軸方向の位置が異なる複数の取付孔を具備するとともに、前記組付部は、前記締結部材を締結するための組付穴を具備することをその要旨としている。
【0012】
上記請求項3に係る発明によれば、周壁部に具備された取付孔を介して、締結部材が組付部の組付穴にて締結されることで、周壁部と組付部とが固定される。複数の取付孔が、前記軸方向の異なる位置に具備されているため、締結部材を挿通させる取付孔を適宜選択することで、前記回転軸方向の締結位置を変更することができる。すなわち、複数の取付孔が予め設けられたものであるため、当該取付孔を位置ずれしない構成とすることで、周壁部と組付部との前記軸方向の相対位置関係を容易に、かつ、精度よく変更することができる。
【0013】
併せて、請求項4に係る発明では、請求項1乃至3のいずれかに記載のディスクロータにおいて、前記組付部は、前記一対の摺動板のうちの一方に設けられていることをその要旨としている。
【0014】
上記請求項4に係る発明によれば、一対の摺動板のうちの一方に組付部が設けられている。このように、一方の摺動板のみが取付部に固定されるディスクロータでは、摺動板に生じる摩擦等によって制動部が高温となる場合に、制動部において組付部から離間した位置ほど(外周側ほど)、前記固定された摺動板側に傾斜するように変形する傾向がある。また、制動部における前記傾斜量は、周壁部の撓みの影響を受け、組付部と周壁部との軸方向の相対位置によって変化する。この点、請求項4に記載の発明では、組付部と周壁部との軸方向の相対位置関係を調整できるため、制動部の前記傾斜の方向や量に関し、ニーズに応じた調整をすることができる。ひいては、前記傾斜に起因するブレーキ振動等の低減を図ることができる。
【0015】
加えて、請求項5に係る発明では、請求項1乃至4のいずれかに記載のディスクロータにおいて、前記取付部に対する前記一対の摺動板の前記軸方向の向きを反転させても、前記取付部と前記制動部とが固定可能に構成されていることをその要旨としている。
【0016】
上記請求項5に係る発明によれば、取付部に対する一対の摺動板の前記軸方向の向きを反転させても、前記取付部と前記制動部とを固定することができる。このため、例えば請求項4に記載の発明等のように、一方の摺動板のみを取付部に固定させるように構成されている場合には、車外側に組付部側の摺動板が固定される所謂「アウター接合」と、車内側に組付部側の摺動板が固定される所謂「インナー接合」との両方の態様を実現することができる。また、これにより、取付部と摺動板との前記軸方向の相対位置関係や、前記制動部の傾斜の方向や量の調整幅を格段に広げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車種間において使用する部品の共通化を図ることができ、もって、部品点数及びコストの低減を図ることができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
本実施形態におけるディスクロータ1は、図2に示すように、車両に取り付けるための取付部2と、前記取付部2とは別体で構成され、摩擦によりブレーキをかけるための制動部3と、前記取付部2と制動部3とを結合するための締結部材としての複数のボルト4とからなる。
【0020】
さらに、図1,3に基づき、取付部2及び制動部3の構成について詳述すると、取付部2は、ディスクロータ1の回転軸方向に略直交し、図示しない車両側のハブに取着するための略円板状の取付壁部5と、該取付壁部5の周縁から前記軸方向に平行に延びる略円筒状の周壁部6とからなる。前記取付壁部5には、図示しないボルトによって前記ハブに取着するための複数の取付孔8が設けられている。また、前記周壁部6には、前記軸方向に平行に延びる複数の細長い切欠き9が等間隔で設けられている。
【0021】
制動部3は、ディスクロータ1の回転軸方向に直交し、図示しないブレーキパッドで挟持させるための制動面11,12を具備する一対の略円板状の摺動板13,14を備えている。該摺動板13,14は所定の隙間を隔てて配置されており、その隙間には、放射状に配設された複数のフィン15が設けられている。前記所定の隙間がフィン15で仕切られることにより、摺動板13,14を冷却するためのベンチレーション空間が構成されている。
【0022】
前記摺動板13,14の略円板の中央部には、取付部2の周壁部6を嵌め込むための孔16,17が形成されている。一方の摺動板13の孔16の内側面には、前記取付部2の周壁部6の外周面にほぼ当接可能な組付部18が等間隔で設けられており、各組付部18には、前記周壁部6に組み付けるための組付穴(ねじ穴)19が設けられている。また、組付部18における前記孔16の内側面は、ディスクロータ1の回転軸方向に平行に形成されている。これにより、組付部18が、周壁部6に対して軸方向にスライド可能になっている。
【0023】
さらに、他方の摺動板14に関しては、周壁部6の外周面との間に所定の空間が形成されるよう、前記孔17の大きさが設定されている。そして、ディスクロータ1の回転時には、前記所定の空間からベンチレーション空間に向けてエアが入り込み、摺動板13,14の冷却が促進されるよう構成されている。
【0024】
さらにまた、制動部3は、ディスクロータ1の回転軸方向の向きを相対する2方向のどちらに向けても取付部2に嵌め込み可能に構成されている。すなわち、一対の摺動板13,14のうち、組付部18が設けられた摺動板13を取付部2の取付壁部5側に配置させることも、組付部18が設けられていない摺動板14を取付部2の取付壁部5側に配置させることもできるように構成されている。
【0025】
上記取付部2と制動部3とをボルト4で組み付けてディスクロータ1を構成する際には、摺動板13,14の孔16,17内に、周壁部6を嵌め込む。このとき、取付部2に対する制動部3のディスクロータ1の回転軸方向の向きは、前記2方向のいずれの向きであってもよく、車種に応じて適宜定められる。この嵌め込みにより、周壁部6が組付部18に当接されることとなる。
【0026】
そして、取付部2と制動部3とのディスクロータ1の回転軸方向の相対位置を所定の位置に合わせる。さらに、周壁部6の各切欠き9を介して、ボルト4を組付部18の各組付穴19に締結させる。これにより、取付部2と制動部3とが、固定されることとなる。なお、本実施形態では、切欠き9の存在により、ボルト4によって固定される組付部18と周壁部6とのディスクロータ1の回転軸方向の相対位置を連続的に変更可能となっている。
【0027】
以上詳述したように、本実施形態のディスクロータ1においては、取付部2と制動部3とを別体で構成するとともに、取付部2に対して制動部3をディスクロータ1の回転軸方向にスライド可能に構成した。また、取付部2の周壁部6に細長い切欠き9を形成し、ボルト4によって固定される組付部18と周壁部6との前記軸方向の相対位置を変更可能とした。このため、共通の部品を用い、その組付位置を調整するだけで、取付部2と制動面11,12との軸方向の相対位置関係の異なるディスクロータ1を容易に得ることができる。従って、車種毎に前記軸方向の相対位置関係の異なるディスクロータを製造する必要のあった従来技術とは異なり、各車種に応じたディスクロータ1を得ることができる。ひいては、部品点数及びコストの低減を図ることができる。
【0028】
また、取付部2に対する制動部3の前記軸方向の向きを正逆いずれの方向にしても嵌め込み可能であり、該嵌め込んだ状態で取付部2と制動部3とを固定可能に構成されている。すなわち、取付部2に対して制動部3の軸方向の向きを反転させて固定することができる。このため、図3に示すような一般に車外側となる取付部2の取付壁部5側に組付部18側の摺動板13が接合される所謂「アウター接合」と、図4に示すような一般に車内側となる取付部2の周壁部6の自由端側に組付部18側の摺動板13が接合される所謂「インナー接合」との両方の接合態様を実現することができ、ニーズに応じたものを確保できる。また、これにより、前記取付部2と制動面11,12との前記軸方向の相対位置関係の調整幅を格段に広げることができる。
【0029】
さらに、制動面11,12に生じる摩擦等によって制動部3が高温となる場合がある。このような場合、一方の摺動板13のみが取付部2に固定されるディスクロータ1においては、制動部3の外周側が前記摺動板13側に傾斜するように変形する傾向がある。また、制動部3における前記傾斜量は、周壁部6の撓みの影響を受け、組付部18と周壁部6との軸方向の相対位置によって変化する。この点、本実施形態では、上記のように接合態様を切り換えたり、組付部18と周壁部6との軸方向の相対位置関係を調整したりできる。そのため、制動部3の前記傾斜の方向や量に関し、ニーズに応じた調整をすることができる。ひいては、前記傾斜に起因するブレーキ振動等の低減を図ることができる。
【0030】
加えて、前記切欠き9の存在により、取付部2の内周側からも制動部3のベンチレーション空間に向かってより積極的にエアを送り込むことが可能となる。このため、制動部3の冷却効果の向上を図ることができる。
【0031】
以上説明した実施形態において、例えば、次のように構成の一部を適宜変更して実施することも可能である。勿論、以下において例示しない他の変更例も当然可能である。
【0032】
(a)上記実施形態では、周壁部6の切欠き9は、ディスクロータ1の回転軸方向に平行に設けられているが、必ずしも平行でなくてもよい。ボルト4の組付位置が周壁部6に対して前記軸方向に可変であれば良く、例えば、傾斜していてもよいし、湾曲していてもよい。
【0033】
(b)また、前記切欠き9に代えて、周壁部に長孔を設けてもよい。さらには、図5に示すように、前記軸方向の位置の異なる複数の取付孔22を設けた周壁部23としてもよい。勿論、該複数の取付孔がそれぞれ長孔となっていてもよい。
【0034】
(c)上記実施形態では、ボルト4を、取付部2の切欠き9を介して制動部3の組付穴19に締結させているが、該組付穴19に代えて、ボルトが一体的に形成された制動部を用い、制動部のボルトが取付部2の切欠き9に入り込みうる構成とし、周壁部6の内面側において前記ボルトをナットで締結するようにしてもよい。
【0035】
(d)上記実施形態では、取付部2に切欠き9が設けられ、制動部3に組付穴19が設けられているが、制動部側に切欠きや長孔または複数の取付孔等を設け、取付部側に組付穴を設けた構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ディスクロータの構成部品を示す分解斜視図である。
【図2】一実施形態におけるディスクロータを示す斜視図である。
【図3】ディスクロータの部分断面斜視図である。
【図4】制動部をインナー接合させた場合を示すディスクロータの部分断面図である。
【図5】別の形態の取付部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ディスクロータ、2…取付部、3…制動部、4…締結部材としてのボルト、6…周壁部、9…切欠き、13,14…摺動板、18…組付部、19…組付穴、22…取付孔、23…周壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付部と、一対の略円板状の摺動板を備えた制動部とが、締結部材で固定されたディスクロータであって、
前記取付部は、自身の回転軸方向に平行に延びる周壁部を備えるとともに、
前記制動部は、前記周壁部に対し前記締結部で固定される組付部を備え、
前記周壁部と前記組付部との前記軸方向の相対位置関係を変更可能に構成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項2】
前記周壁部は、前記締結部材を挿通可能、かつ、自身に対する前記締結部材の前記軸方向の締結位置を変更可能とするための切欠きまたは長孔を具備するとともに、
前記組付部は、前記締結部材を締結するための組付穴を具備することを特徴とする請求項1に記載のディスクロータ。
【請求項3】
前記周壁部は、前記締結部材を挿通可能、かつ、前記軸方向の位置が異なる複数の取付孔を具備するとともに、
前記組付部は、前記締結部材を締結するための組付穴を具備することを特徴とする請求項1に記載のディスクロータ。
【請求項4】
前記組付部は、前記一対の摺動板のうちの一方に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のディスクロータ。
【請求項5】
前記取付部に対する前記一対の摺動板の前記軸方向の向きを反転させても、前記取付部と前記制動部とが固定可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のディスクロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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