説明

ディスプレイ及びその製造方法

【課題】目視による観察時には回折格子パターンによる表示画像が知覚され、光学顕微鏡等を用いて拡大観察した際には肉眼から隠蔽された微小な画像を確認することが可能なディスプレイを提供する。
【解決手段】本発明によるディスプレイは、所定の表示画像を構成する回折格子6が形成された複数の第1のセル5と、所定の隠蔽された微小画像15を含む第2のセル5とを含んで成る。このディスプレイでは、第1及び第2のセル5は、基材4表面がマトリクス状に分割されてなる各要素内の一部または全部の面積を占める。そして、第1のセルに、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、第2のセルに、2値ビットマップパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す微小画像を、セル表面に対する凸面の画素によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種カード類や証券類の偽造防止用に設けられる回折格子パターンによるディスプレイ及びその製造方法に関し、特に、肉眼では判別が困難な微小な文字や記号、絵柄等を隠蔽画像として含有することで、セキュリティ性が高く偽造が困難で、真偽判定をより一層確実に行えるディスプレイとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品券や小切手等の有価証券類やクレジットカードやキャッシュカード、IDカード等のカード類、パスポートや免許証等の身分証明書類の偽造防止のために、回折格子パターンを前記証券類やカード、証明書等の表面に貼付することが行われている。
【0003】
回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することで、観察する角度に応じて、表示画像を変化させることや、立体像を表示することが可能である。回折格子パターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、偽造防止策が必要な情報印刷物に広く用いられているが、より偽造されにくいセキュリティ機能を実現することが求められている。
【0004】
この種の回折格子パターンの原版を作製する方法としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に示すように、電子ビーム露光装置を用い、且つコンピュータ制御により、感光性レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に、回折格子パターンを形成する方法がある。
【0005】
回折格子は、パラメータとして、
(1)回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2)回折格子の方向(格子線の方向)
(3)回折格子の描画領域(回折格子セルの配置)
の3つがあり、(1)に応じて、定点に対してその回折格子セルが光って見える色が変化し、(2)に応じて、その回折格子セルが光って見える方向が変化し、(3)に応じて、表示パターン(絵柄や文字等)が決定される。
【0006】
基板の表面をマトリクス状に分割し、その内部に配置された数十〜数百μm(1μm=1×10−6m)程度の複数個のセル(微小領域)毎にこれらのパラメータを様々に変化させた回折格子を形成することで指向性のある光沢を有する表示画像を構成することができる。
【0007】
また、回折格子としては、加工の容易さから図16のような断面が矩形状回折格子1、もしくは図17に示すような正弦波状回折格子2が一般的であり、典型的な格子ピッチは0.5〜2μm程度、格子深さは0.1〜1μm程度である。矩形状もしくは正弦波状の断面形状を有する回折格子はバイナリー格子と呼ばれている。
【0008】
また、図18に示すようなブレーズド格子3は、典型的な格子ピッチや格子深さはバイナリー格子と同等であるが、その断面形状は鋸歯状であり、垂直方向からの入射光に対し回折角度と傾斜面による光の反射角とが一致している場合、その方向に理論上回折効率が100%である回折光が生じ、それ以外の角度には光が射出されないという光学作用がある。すなわち、ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して非常に高い回折効率を得ることができ、また光の進行角度を厳密に制御できるという特徴をもっているため、視認性が高くセキュリティ用途に用いるのにより一層好適である。
【0009】
また、ブレーズド格子の原版の作製においても、電子ビーム露光装置を用い、且つ、コンピュータ制御により、ステージ上に載置された平面状の基板にブレーズド格子の形状を構成していく方法が用いられる。ブレーズド格子の鋸歯状の断面形状を形成するために、例えば、特許文献3では、電子線の照射位置に応じて電子ビームの照射時間を変化させたり、照射強度を調整したりすることで、加工される溝の深さを変化させ、ブレーズド格子の形状を得る方法が提案されている。ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して作製の難易度が高く、作製技術の面においてもセキュリティ用途に用いるのに適している。
【0010】
そして、上記のような方法により作製された、凹凸形状からなる回折格子パターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーが作製され、この金属製スタンパーを母型としてPET等のプラスチックフィルム上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を硬化させ回折格子パターンが複製される。
【0011】
この複製された回折格子パターンは通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法により光反射層を設けた後、紙やプラスチック板等の基材上に接着層を介して貼付される。回折格子パターンが有価証券類やカード類に貼付される場合には、さらに必要に応じて印刷層や回折格子パターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられる。
【特許文献1】特開平2−72315号公報
【特許文献2】米国特許5,058,992号公報
【特許文献3】特開2000−39508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、回折格子パターンはセキュリティ性が求められる多くの情報印刷物に用いられるようになり、技術が広く認知されるのに伴って偽造品の発生も増加する傾向にあり、上記のような構成の回折格子パターンを有価証券等の基材の表面に貼付しただけでは、十分な偽造防止効果を発揮できなくなってきている。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、目視による観察時には回折格子パターンによる表示画像が知覚され、光学顕微鏡等を用いて拡大観察した際には肉眼から隠蔽された微小な画像を確認することが可能なディスプレイ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0015】
すなわち、請求項1の発明は、所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイであって、第1及び第2のセルは、基材表面がマトリクス状に分割されてなる各要素内の一部または全部の面積を占め、第1のセルに、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、第2のセルに、2値ビットマップパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す微小画像を、セル表面に対する凸面の画素によって形成したことを特徴とする。
【0016】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のディスプレイにおいて、第2のセルは複数あり、セル表面に対する凸面の画素によって、文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す微小画像を形成したセルに加えて、微小画像と同一の画像を、セル表面に対する凹面の画素によって形成したセルを有することを特徴とする。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2に記載のディスプレイにおいて、凸面の画素により微小画像が形成されてなる第2のセルに0(ゼロ)を割り当て、凹面の画素により微小画像が形成されてなる第2のセルに1を割り当て、0(ゼロ)が割り当てられた第2のセルと、1が割り当てられた第2のセルとを予め定めた配置関係に従って基材表面上に配置することにより、0(ゼロ)と1との2値ビットデータによる予め定めた情報を隠蔽するようにしたことを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明は、所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイであって、第1及び第2のセルは、基材表面がマトリクス状に分割されてなる各要素内の一部または全部の面積を占め、第1のセルに、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、第2のセルに、3値以上のビットパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す微小画像を、セル表面に対する高さ又は深さが異なる複数種類の面の画素を形成することによって形成したことを特徴とする。
【0019】
請求項5の発明は、請求項4に記載のディスプレイにおいて、第2のセルを、セル表面に対する断面形状パターン毎に分類し、各パターンに属するセルそれぞれに固有の値を割り当て、各パターンに属するセルを予め定めた配置関係に従って基材表面上に配置することにより、3値以上のビットデータによる予め定めた情報を隠蔽するようにしたことを特徴とする。
【0020】
請求項6の発明は、所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイの製造方法であって、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、第1のセルを形成する第1の工程と、2値ビットマップパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す微小画像を、2値ビットデータのゼロ(0)又は1の何れか一方を、セル表面に対して凹凸面を有するレリーフ構造における凸面の画素で形成することによって、第2のセルを形成する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
請求項7の発明は、請求項6に記載のディスプレイの製造方法において、第1の工程では、回折格子が形成されたスタンパーと、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布した基材とを密着固定させ、加熱又は光照射により樹脂を硬化させ、回折格子が転写された基材をスタンパーから剥離することにより第1のセルを形成し、第2の工程は、微小画像が形成されたスタンパーと、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布した第1のセルが形成された基材とを密着固定させ、加熱又は光照射により樹脂を硬化させ、微小画像が転写された基材をスタンパーから剥離することにより第2のセルを形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、目視による観察時には回折格子パターンによる表示画像が知覚され、光学顕微鏡等を用いて拡大観察した際には肉眼から隠蔽された微小な画像を確認することが可能なディスプレイ及びその製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、基材4の表面をマトリクス8状に領域分割し、マトリクス8の各分割領域要素の内部に配置されたセル5に回折格子6を形成した回折格子パターンによるディスプレイの一例を示す部分拡大図である。
【0025】
各セル5の内部に形成される回折格子は、セル5毎に空間周波数や方向が変化しており、入射する光を回折する方向や特定の観察点での回折光の色を変化させることで、光沢を有する画像9を表示する。また、セル5の面積を0〜100%(0%は含まず)に変化させることで、回折光の光量を場所に応じて変化させることができ、輝度階調のある表示画像を表現できる。
【0026】
また、基材表面を細かくマトリクス8状に分割することで、より解像度の高い画像を表示することが可能である。なお、図1では、マトリクス8やセル5を図示しているが、これらはマトリクスやセルの概念を示すためのものであり、実際のディスプレイではマトリクスやセルは目視で認識されるものではなく、形状そのものは実在しない。
【0027】
また、図1に示したような構成の回折格子パターンを有するディスプレイは、有価証券類やクレジットカード、IDカード等の偽造防止効果を有することが求められる情報印刷物に貼付され使用される。
【0028】
図2は、回折格子パターンによるディスプレイが基材4の表面に貼付された情報印刷物の一例を示す平面図である。
【0029】
基材4は紙もしくはプラスチック板、プラスチックフィルム等の平面基材であり、基材4の表面の任意の一領域に回折格子パターン7が貼付されている。なお、回折格子パターン7は図2に示したような矩形のものだけでなく、円形や楕円形のもの、基材4上を横断/縦断するような帯状のもの、基材4の全面を覆い尽くすようなものなど様々な形態で貼付される。
【0030】
回折格子パターン7が貼付された情報印刷物の一般的な層構成としては、図3のように基材4の上に印刷層11を施し、その上に接着層12を介して回折格子パターン7が存在する。回折格子パターン7は通常、熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂により形成されており、透明であるので、外界からの入射光を効率良く回折し射出させるために、光反射層13が設けられることが多い。光反射層13は蒸着やスパッタ等の方法によって形成される金属層や、誘電体の薄膜層等である。さらに、回折格子パターン7を保護するために必要に応じて保護層14が設けられる。
【0031】
情報印刷物がクレジットカードやIDカード等の場合、基材4の反りを防止するための層や、印刷のインクの密着性を高めるための層が設けられることもある。さらに基材4上に別途磁気フィルム層等が設けられることもある。なお、基材が紙である場合にも、必要に応じて様々な機能を有する層が設けられる。
【0032】
また、図2では回折格子パターン7は基材4の一部分に貼付されているが、回折格子パターン7が基材4の全面に貼付されているような構成のものもある。
【0033】
このような構成により情報印刷物に貼付される回折格子パターンを有するディスプレイは、光沢があり、観察角度によって輝き方や見え方を変化させることができるので、目視による真贋判定に利用することができ、また、通常の印刷物とは異なり複写機での偽造は不可能である。
【0034】
しかし、近年偽造技術の高度化に伴い回折格子パターンそのものを偽造することや、類似の回折機能を有するパターンによって回折格子パターンの模造品を作製する事象が発生し、目視観察だけでは十分な真贋判定が行えなくなってきている。
【0035】
図4は、基材4上に回折格子6が形成されたセルと微小画像15が形成されたセルの双方が基材上に存在するディスプレイの一例を示している。
【0036】
マトリクス状に配置されたセルは、目視した際に画像を表示するための回折格子が形成されたセルと、光学顕微鏡等で拡大観察した際に存在が把握できる微小画像が形成されたセルの双方があることによって、偽造防止効果が高いディスプレイとなる。
【0037】
微小画像は、文字や記号、絵柄を表示した2値のビットマップパターンから構成される。2値のビットマップパターンは、図5に示したようにマトリクス状に配置された複数の画素にそれぞれ白と黒(もしくは0と1など)の対になる2つの情報のいずれかが与えられ、所定の文字や記号、絵柄を表示するものである。ビットマップパターンはコンピュータでの取り扱いや加工が容易であり、また、画素のサイズや数を適宜変更することで解像度の高い文字、記号、絵柄の表現も可能である。
【0038】
2値のビットマップパターンから成る微小画像は、ビットマップパターンの一方の値の画素の断面形状が凸、もう一方の値の画素の断面形状を凹となるように形成される。図6のような、「A」というアルファベットを表現した2値ビットマップパターン16の各画素の情報に基づいて、図7のように、一方の値の画素17(黒で示した画素)の断面形状が凸、もう一方の値の画素18(白で示した画素)の断面形状が凹となるように微小画像15が加工される。画素17は凸形状であり、画素18は凹形状であるので、双方の高低差によって画像「A」が形成される。なお、図6及び7では各画素個々の形状は省略している。
【0039】
回折格子パターンを作製する方法としては、電子ビーム露光装置を用いて、基板の表面に格子線のレリーフ構造を形成する方法が知られているが、ビットマップパターンを構成する画素に応じて凹凸パターンを加工し、微小画像を形成する際にも電子ビーム露光装置を用いるのが適している。特に、微小画像の解像度が高く、個々の画素が小さい場合、電子ビーム露光装置以外の加工手段では高精度に微小画像を形成するのは困難であるので、加工手段が限定され高い偽造防止効果が実現できる。
【0040】
ところで、2値ビットマップパターンの各画素の情報に基づいて、一方の値の画素の断面形状を凸、もう一方の値の画素の断面形状を凹となるように加工すると凸の部分と凹の部分とは高さが異なっているだけであるので、光学顕微鏡等で拡大観察した場合、双方の画素はほぼ同じ色として知覚される。また、凸の部分と凹の部分が隣接する境界の部分では、高さが異なる凸の部分と凹の部分とをつなぐ傾斜ができているので、その傾斜が周囲の部分と異なる色で知覚される。
【0041】
図8は図7の微小画像をX−X’の線分によって切断した際の断面図を示している。傾斜19は画素17及び画素18と面の傾きが異なるため、観察した際に輝度が異なって見える。その結果、図9に示すように「A」という図6の2値ビットマップパターン16による微小画像15は拡大観察した際、所謂ふち取り文字となって「A」のアウトラインの部分のみが線として知覚される。また、2値ビットマップパターンが図10のような絵柄であった場合にも、凹凸によって形成される微小画像15は図11のように画素17の領域も画素18の領域も同色に見え、境界の傾斜19が黒く見えることで絵柄を形成する。
【0042】
このような特性から、図12に示すように「A」というアルファベットの文字の部分の画素を凸形状、文字の周囲の画素を凹形状に加工したセル20と、文字の部分の画素を凹形状、文字の周囲の画素を凸形状に加工したセル21は、拡大観察した際にほとんど差異の無い同一のパターンとして知覚される。よって、ディスプレイ面内にセル20とセル21とを混在させることで、一見しただけでは、両者の差異が認識されず、走査型電子顕微鏡(SEM)等により断面形状を観察することによってはじめて差異が認識できるパターンを実現できる。基材表面全面において完全に同一な凹凸形状をもつディスプレイを偽造するためには、基材上のセルの凹凸の様子をすべて模倣しなければならず、偽造は極めて困難となる。
【0043】
また、セル20とセル21の配置位置や間隔、順序をあらかじめ設定した規則に基づいて決定することで、2値データによる情報を隠蔽することができる。
【0044】
図13は、セル20とセル21をあらかじめ設定した規則に基づいて配置した例である。セル20を例えばデジタルコード「0」、セル21を「1」に対応させると、図13は左から右に向かって「10101100」というコードが隠されていることになり、所謂バーコードのような2値データによる情報をディスプレイに付与することができる。図13では一方向での様子を示したが、セルをマトリクス状に配置することで、2次元コードのようなより多くの情報を付与することができる。
【0045】
微小画像を構成するビットマップパターンの各画素を図14のように2値ではなく多値(図14の場合、4値)ビットパターン23で表し、その値に応じて加工深さを決定することで、多段階に深さが変化している微小画像を形成することができる。この場合においても、観察されるパターンは絵柄のアウトラインの部分だけが線として知覚される。図15のセル20,セル21,セル22のように多段階に深さが変化している複数の微小画像は光学顕微鏡で拡大観察しただけでは差異が認識されず、また、断面形状を測定すると、様々に深さが異なる微小画像が現れるのでそのすべてを模倣するのはより一層困難である。
【0046】
多値のビットマップパターンによる深さが様々に異なる微小画像が形成された複数のセルの配置位置や間隔、順序によって、多値データによる情報を隠蔽することができる。この場合、2値データによる情報よりもさらに複雑な情報の隠蔽が可能となる。
【0047】
本実施の形態で説明している微小隠蔽情報を有する回折格子パターンによるディスプレイは、従来の回折格子パターンのみによるディスプレイと同様に、原版から電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製し、この金属製スタンパーを母型としてPET等のフィルム上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を硬化させることで複製することができる。
【0048】
また、微小画像は、回折格子パターンと比較して非常に解像度が高く細かいパターンになることが多いので、成形性の高い光硬化性樹脂を用いてレリーフ形状を転写すると精度良く複製を行うことができる。
【0049】
上述したように、本発明の実施の形態によれば、
(1)セル内に形成された回折格子によって表示画像を構成するディスプレイにおいて、一部のセルの内部に形成する微小画像を文字や記号、絵柄を表す2値のビットマップパターンで表現し、ビットマップパターンの一方の値の画素の断面形状を凸、もう一方の値の画素の断面形状を凹とすることで、偽造が困難なディスプレイを実現することが可能となる。
【0050】
(2)微小画像を構成する2値のビットマップパターンの一方の値の画素ともう一方の値の画素の断面形状がそれぞれ凸と凹であるセルと、凹と凸であるセルとをそれぞれ設けることで、光学顕微鏡等で拡大観察した際には双方の微小画像は略同一の形態が観察され、且つ、それぞれを走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて断面形状を観察した際には双方の断面形状の差異が確認できる、高度なセキュリティ機能を有するディスプレイを実現することが可能となる。
【0051】
(3)2値のビットマップパターンの一方の値の画素ともう一方の値の画素の断面形状が、それぞれ凸と凹であるセルと、凹と凸であるセルとをそれぞれ設けることで、それらの断面形状をもつセルは所謂ネガポジの関係になり、ネガに相当するセルとポジに相当するセルとの配置位置や配置間隔、配置順序により、2値データによる隠蔽情報をディスプレイに付与することが可能となる。
【0052】
(4)微小画像を多値のビットマップパターンとし、ビットマップパターンの各画素の値に応じて深さが多段階になるように凹凸形状の加工を行うことで、偽造が極めて困難なディスプレイを実現することが可能となる。
【0053】
(5)加工深さが多段階に変化している複数の微小画像を表すセルの配置位置や配置間隔、配置順序に基づいて、多値データによる隠蔽情報をディスプレイに付与することが可能となる。
【0054】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】基材表面をマトリクス状に分割してなる各要素に配置されたセルに回折格子を形成したディスプレイを、部分拡大図とともに示す図。
【図2】回折格子パターンによるディスプレイが貼付された情報印刷物の一例を示す模式図。
【図3】回折格子パターンによるディスプレイが貼付された情報印刷物の層構成例を示す断面図。
【図4】回折格子が形成されたセルと、微小画像が形成されたセルとの双方を備えたディスプレイの一例を示す部分拡大図。
【図5】微小画像を構成する2値ビットマップパターンの一例を示す模式図。
【図6】「A」というアルファベットを表現した2値ビットマップパターンの一例を示す模式図。
【図7】凹凸形状に加工された微小画像を有するセルの一例を示す斜視図。
【図8】図7の微小画像をX−X’の線分によって切断した際の断面図。
【図9】図7に示す微小画像が、光学顕微鏡等により観察された状態の一例を示すイメージ図。
【図10】2値ビットマップパターンによって形成される絵柄の一例を示す図。
【図11】図10に示す絵柄が、光学顕微鏡等により観察された状態の一例を示すイメージ図。
【図12】文字部分が凸であるセルと、文字部分が凹であるセルの様子を示す斜視図。
【図13】文字部分が凸であるセルと、文字部分が凹であるセルの組み合わせにより2値データによる情報を隠蔽することができる原理を説明する図。
【図14】多値ビットマップパターンによって形成される絵柄の一例を示す図。
【図15】凹凸形状が様々異なるにもかかわらず、同一の絵柄を示す複数種類のセルの例を示す斜視図。
【図16】矩形状断面をもつバイナリー格子の一例を示す断面図。
【図17】正弦波状断面をもつバイナリー格子の一例を示す断面図。
【図18】鋸歯状断面をもつブレーズド格子の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0056】
1…矩形状回折格子、2…正弦波状回折格子、3…ブレーズド格子、4…基材、5…セル、6…回折格子、7…回折格子パターン、8…マトリクス、9…画像、11…印刷層、12…接着層、13…光反射層、14…保護層、15…微小画像、16…2値ビットマップパターン、17,18…画素、19…傾斜、20,21,22…セル、23…多値ビットマップパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイであって、
前記第1及び第2のセルは、基材表面がマトリクス状に分割されてなる各要素内の一部または全部の面積を占め、
前記第1のセルに、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、
前記第2のセルに、2値ビットマップパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す前記微小画像を、セル表面に対する凸面の画素によって形成したことを特徴とするディスプレイ。
【請求項2】
前記第2のセルは複数あり、セル表面に対する凸面の画素によって、文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す前記微小画像を形成したセルに加えて、前記微小画像と同一の画像を、セル表面に対する凹面の画素によって形成したセルを有することを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ。
【請求項3】
前記凸面の画素により前記微小画像が形成されてなる第2のセルに0(ゼロ)を割り当て、前記凹面の画素により前記微小画像が形成されてなる第2のセルに1を割り当て、前記0(ゼロ)が割り当てられた第2のセルと、前記1が割り当てられた第2のセルとを予め定めた配置関係に従って前記基材表面上に配置することにより、0(ゼロ)と1との2値ビットデータによる予め定めた情報を隠蔽するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のディスプレイ。
【請求項4】
所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイであって、
前記第1及び第2のセルは、基材表面がマトリクス状に分割されてなる各要素内の一部または全部の面積を占め、
前記第1のセルに、構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、
前記第2のセルに、3値以上のビットパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す前記微小画像を、セル表面に対する高さ又は深さが異なる複数種類の面の画素を形成することによって形成したことを特徴とするディスプレイ。
【請求項5】
前記第2のセルを、セル表面に対する断面形状パターン毎に分類し、各パターンに属するセルそれぞれに固有の値を割り当て、各パターンに属するセルを予め定めた配置関係に従って前記基材表面上に配置することにより、3値以上のビットデータによる予め定めた情報を隠蔽するようにしたことを特徴とする請求項4に記載のディスプレイ。
【請求項6】
所定の表示画像を構成する回折格子が形成された複数の第1のセルと、所定の隠蔽された微小画像を含む第2のセルとを含んで成るディスプレイの製造方法であって、
構成する表示画像に応じて、空間周波数及び回折方向の少なくとも何れかが変化した回折格子を形成し、前記第1のセルを形成する第1の工程と、
2値ビットマップパターンからなる文字、記号、絵柄のうちの少なくとも何れかを示す前記微小画像を、2値ビットデータのゼロ(0)又は1の何れか一方を、セル表面に対して凹凸面を有するレリーフ構造における凸面の画素で形成することによって、前記第2のセルを形成する第2の工程とを含むことを特徴とするディスプレイの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のディスプレイの製造方法において、
前記第1の工程では、前記回折格子が形成されたスタンパーと、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布した基材とを密着固定させ、加熱又は光照射により前記樹脂を硬化させ、前記回折格子が転写された前記基材を前記スタンパーから剥離することにより前記第1のセルを形成し、
前記第2の工程は、前記微小画像が形成されたスタンパーと、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布した前記第1のセルが形成された基材とを密着固定させ、加熱又は光照射により前記樹脂を硬化させ、前記微小画像が転写された前記基材を前記スタンパーから剥離することにより前記第2のセルを形成するようにしたことを特徴とするディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−83226(P2008−83226A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261180(P2006−261180)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】