説明

ディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置

【課題】作業用ガバナの特性を調節可能にして、PTO付き車両の架装物による作業を容易に且つ効率的に行うことを可能にしたPTO付き車両のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置の提供。
【解決手段】走行用ガバナと作業用ガバナとを設けているPTO(パワーテイクオフ)付き車両用のディーゼルエンジン(1)の作業用ガバナ制御装置(100)において、作業用ガバナの特性を調整する機能を有するオートクルーズスイッチ(20)と、オートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有するコントロールユニット(10)とを設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用ガバナと作業用ガバナとを設けているPTO(パワーテイクオフ)付き車両用のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用ガバナと作業用ガバナとを設けているPTO(パワーテイクオフ)付き車両用のディーゼルエンジンでは、従来、作業用ガバナ(オールスピードガバナ)については、ガバナ特性が固定されていた。
ここで、車両の架装物における負荷変動が小さい場合には、僅かな変動で噴射量が大きくなり、回転数が上がってしまう様なガバナ特性は好ましくない。そのため、ガバナ特性(エンジン回転数−噴射量の関係)を示す特性線が、図3において実線で示すように、勾配が緩やかである方が好ましい。
一方、架装物における負荷変動が大きな場合には、早急に噴射量を増加して回転数を上昇したい、図3の破線で示す特性(勾配が急な特性)が好ましい。
【0003】
しかし、従来の技術では、架装物に関わり無くガバナの特性が固定されており、図3のエンジン回転数−噴射量の特性も固定されていたので、架装物の負荷変動が大きい場合と小さい場合の双方において、要求されるエンジン回転数−噴射量特性を満たす事は出来なかった。そして、係る特性をユーザーが調整することも出来ず、ユーザーにとって使い勝手が悪かった。
換言すれば、従来技術では、架装物の負荷変動に適合するエンジン回転数−噴射量特性を有する作業用ガバナを提供するという要請に応えることが出来ない、という問題が存在する。
【0004】
その他の従来技術として、エンジンの回転域によりガバナ特性を変動させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、走行用ガバナの特性に関する技術であり、PTO付き車両の架装物による作業を効率的に行うために作業者(主に車両のドライバー)が操作し易いように作業用ガバナの特性を変更することは出来ない。
【特許文献1】特開平5−106470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、作業用ガバナの特性を調節可能にして、PTO付き車両の架装物による作業を容易に且つ効率的に行うことを可能にしたPTO付き車両のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置は、走行用ガバナと作業用ガバナとを設けているPTO(パワーテイクオフ)付き車両用のディーゼルエンジン(1)の作業用ガバナ制御装置(100)において、作業用ガバナの特性を調整する機能を有するオートクルーズスイッチ(20)と、オートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有するコントロールユニット(10)とを設けたことを特徴としている(請求項1)。
【0007】
本発明において、前記オートクルーズスイッチ(20)は、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量(作業用ガバナの特性における傾き)を増加させる機能を有するクルーズ加速スイッチ(21)と、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を減少させる機能を有するクルーズ減速スイッチ(22)とを有しているのが好ましい(請求項2)。
【0008】
また本発明において、前記コントロールユニット(10)は、ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により走行用ガバナと作業用ガバナとを切り換える機能を有しているのが好ましい(請求項3)。
【0009】
そして本発明において、ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により走行用ガバナから作業用ガバナに切り換えられた際に、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量(作業用ガバナ特性における傾き)を増加させる機能を有するクルーズ加速スイッチ(21)と、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を減少させる機能を有するクルーズ減速スイッチ(22)とにより、作業用ガバナ特性を調節する機能を有しているのが好ましい(請求項4)。
【0010】
さらに、前記コントロールユニット(10)は、車両のキースイッチ(6)がオフとなってもオートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有しているのが好ましい(請求項5)。
【0011】
あるいは、前記コントロールユニット(10)は、ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により作業用ガバナから走行用ガバナに切り換わってもオートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有しているのが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
上述する構成を具備する本発明によれば、オートクルーズスイッチ(20)により作業用ガバナの特性を調整することが出来るので、架装物による作業を行うユーザー(例えば、車両のドライバー)は、オートクルーズスイッチ(20)を用いて、PTO付き車両に架装された架装物の負荷変動や各種特性に対応して、架装物による作業が最も実行し易い様に、作業用ガバナの特性(エンジン回転数−噴射量特性)を調整することが出来る。
そのため本発明によれば、架装物の負荷変動に適合するエンジン回転数−噴射量特性を有する作業ガバナを提供することが可能となる。
【0013】
そして、本発明によれば、コントロールユニット(10)がオートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶するので、架装物による作業を行うユーザー(例えば、車両のドライバー)がオートクルーズスイッチ(20)を用いて調整した作業用ガバナの特性、すなわち、PTO付き車両に架装された架装物の負荷変動や各種特性に対応して架装物による作業が最も実行し易い様に調整された作業用ガバナの特性を、コントロールユニット(10)で記憶して、それ以降の架装物による作業を容易に、且つ、効率的に行うことが可能となる。
それと共に本発明によれば、オートクルーズスイッチ(20)が作業用ガバナの特性を調整する際に用いられるので、従来はオートクルーズ走行時以外には使用されないオートクルーズスイッチ(20)を、オートクルーズ走行時以外でも活用する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示すディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置は、コントロールユニット10と、ガバナ切換スイッチ8と、オートクルーズスイッチ20とを含んでいる。
ここで、図1で示すディーゼルエンジン1は、走行用ガバナ及び作業用ガバナ(図示せず)を有しており、PTO(例えば、エンジンリヤPTO、或いはトランスミッションPTO等)30を駆動する様に構成されており、ターボチャージャ4、インタークーラ5を備えている。
【0015】
ここで、図1では、ディーゼルエンジン1はインタークーラ・ターボチャージャ付のディーゼルエンジンとして構成されているが、自然吸気(NA)ディーゼルエンジンであっても良い。或いは、インタークーラを有していないターボチャージャ付ディーゼルエンジンであってもよい。
図1において、キースイッチ6とペダルセンサ7が設けられており、入力信号ラインLiを介してコントロールユニット10に接続されている。同様に、ガバナ切換スイッチ8とオートクルーズスイッチ20も、入力信号ラインLiを介してコントロールユニット10に接続されている。
【0016】
図1において、ディーゼルエンジン1は6気筒のエンジンとして示されており、シリンダ毎に燃料噴射装置(例えば、ユニットインジェクタ)9が装備され、該燃料噴射装置9は、コントロールユニット10からの制御信号によって燃料噴射量が制御できるように構成されている。
なお、燃料噴射装置としてはユニットインジェクタ9に限定される訳ではなく、インジェクションポンプを適用することも可能である。
【0017】
上述した様に、コントロールユニット10は、キースイッチ6、ペダルセンサ7、ガバナ切換スイッチ8及びオートクルーズスイッチ20と入力信号ラインLiによって接続されている。そして制御信号ラインLoによって、燃料噴射装置9と接続されている。
【0018】
オートクルーズスイッチ20は、クルーズ加速スイッチ21と、クルーズ減速スイッチ22とを有している。
クルーズ加速スイッチ21は、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量(作業用ガバナの特性における傾き)を増加させる機能を有し、クルーズ減速スイッチ22は、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を減少させる機能を有している。
なお、オートクルーズスイッチ20を、例えば1つのトグルスイッチにより構成し、トグルスイッチの作動方向(倒す方向)を変えることによって、エンジンの加速、減速を行うようにしても良い。
【0019】
コントロールユニット10は、ガバナ切換スイッチ8から入力信号ラインLiを介して入力される信号により、図示しない走行用ガバナと作業用ガバナとを切り換える機能を有している。
【0020】
作業用ガバナ制御装置100は、ガバナ切換スイッチ8からの信号により走行用ガバナから作業用ガバナに切り換えられた際に、クルーズ加速スイッチ21と、クルーズ減速スイッチ22とにより、作業用ガバナ特性を調節する機能を有している。
すなわち、PTOに過大な負荷が作用し、エンジン回転が減速し始めた場合には、クルーズ加速スイッチ21を押して、エンジン回転を立て直し、架装物の作業速度を回復させればよい。一方、例えば、PTOに作用する負荷が急に減少して、エンジン回転が必要以上に高まれば、クルーズ減速スイッチ22を押して、エンジン回転数を適正値に安定させることが出来る。
【0021】
さらに、コントロールユニット10は、車両のキースイッチ6がオフ(OFF)となっても、オートクルーズスイッチ20で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有している。
【0022】
コントロールユニット10は、ガバナ切換スイッチ8からの信号により作業用ガバナから走行用ガバナに切り換わっても、オートクルーズスイッチ20で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有している。
【0023】
次に、主として図2を参照して、図示の実施形態における作業用ガバナの特性を制御する態様について説明する。
図2のステップS1において、キースイッチをON状態にする。そして、ステップS2では、ガバナ切換スイッチ8がONになるまで待機する。
ガバナ切換スイッチ8がONになったなら(ステップS2がYES)、ステップS3に進む。
【0024】
ステップS3では、コントロールユニット10は、その直前における状態において、走行用ガバナがON(作動中)なのか、或いは、作業用ガバナがON(作動中)なのかを判断する。
作業用ガバナがON(作動中)の場合はステップS5まで進み、走行用ガバナがON(作動中)の場合は、ステップS4で走行用ガバナから作業用ガバナに切り換えた後、ステップS5に進む。
【0025】
ステップS5では、オートクルーズスイッチ20の機能の切り換えを行う。すなわち、走行用のオートクルーズスイッチ機能を、作業用ガバナの特性を調整する機能に切り換える。
次のステップS6では、オートクルーズスイッチ20の作業用ガバナ調整用スイッチ機能によって、作業用ガバナの特性を、架装物の負荷変動に合致した特性に調整する作業を行う。
詳細には、架装物による作業時に、PTOに作用する反力が大きくなり、作業速度が減速し始めたなら、オートクルーズスイッチ20の加速スイッチ21を押し続けて、図3で示す特性線の傾きを増加して、減速し始めた作業速度を回復させる。反対に、架装物による作業時に、PTOに作用する反力が減少し、作業速度が急に加速し始めたなら、オートクルーズスイッチ20の減速スイッチ22を押し続けて、図3で示す特性線の傾きを減少して、加速し始めたエンジン回転を減じ作業速度を安定させる。
【0026】
ステップS7では、コントロールユニット10は、ガバナ切り換えスイッチ8をOFFしたか否かを判断する。ガバナ切り換えスイッチ8をOFFしたのであれば(ステップS7がYES)、ステップS8で作業用ガバナから走行用ガバナに切り換え、ステップS9に進む。
一方、架装物による作業中であり、或いは、架装物による作業は一段落したが直ちに再開するため、ガバナ切り換えスイッチ8をOFFしていなければ(ステップS7がNO)、そのまま、ステップS9に進む。
【0027】
ステップS9では、キースイッチ6はOFFであるか否かを判断する。
キースイッチがOFFであれば(ステップS9がYES)、ステップS10に進む。
一方、キースイッチがOFFでなければ(ステップS9がNO)、ステップS9における「NO」のループが繰り返される。
【0028】
次のステップS10では、コントロールユニット10に内蔵された図示しない記憶手段(例えばデータベース)に、オートクルーズスイッチ20で調整された作業用ガバナの特性を記憶する。ここで、作業用ガバナの当該特性は、図3で示したガバナ特性の傾斜であって、直近の作業時におけるエンジン回転数−噴射量特性である。
記憶手段に記憶された作業用ガバナの特性は、次回の作業用ガバナの作動時における初期値としてセットされる。
ガバナ調整定数を記憶手段に記憶した後、コントロールユニット10をシャットダウンして(ステップS11)、制御を終了する。
【0029】
上述した実施形態によれば、オートクルーズスイッチ20により作業用ガバナの特性を調整することが出来るので、当該車両のドライバーは架装物による作業に際しては、オートクルーズスイッチ20を用いて、PTO付き車両に架装された架装物の負荷変動や各種特性に対応して、架装物による作業が最も実行し易い様に、作業用ガバナの特性を調整することが出来る。
そして、図示の実施形態によれば、コントロールユニット10がオートクルーズスイッチ20で調整された作業用ガバナの特性を記憶できる。したがって、当該車両のドライバーがオートクルーズスイッチ20を用いて調整した作業用ガバナの特性、すなわち、PTO付き車両に架装された架装物の負荷変動や各種特性に対応して架装物による作業が最も実行し易い様に調整された作業用ガバナの特性を、コントロールユニット10で記憶して、それ以降の架装物による作業を容易に、且つ、効率的に行うことが可能となる。
【0030】
それと共に図示の実施形態によれば、オートクルーズスイッチ20が作業用ガバナの特性を調整する際に用いられるので、従来はオートクルーズ走行時以外には使用されないオートクルーズスイッチ20を、オートクルーズ走行時以外でも活用する事が可能となる。
そして図示の実施形態では、図示の実施形態に係るコントロールユニット10を使用することにより、既存のディーゼルエンジンでも容易に適用する事が出来る。
【0031】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の構成を説明するブロック図。
【図2】本発明の実施形態における制御を示すフローチャート。
【図3】作業用ガバナであるオールスピードガバナのエンジン回転数−燃料噴射量特性を説明する特性図。
【符号の説明】
【0033】
1・・・ディーゼルエンジン
2・・・吸気系
3・・・排気系
4・・・ターボチャージャ
5・・・インタークーラ
6・・・キースイッチ
7・・・ペダルセンサ
8・・・ガバナ切り換えスイッチ
10・・・コントロールユニット
20・・・オートクルーズスイッチ
21・・・クルーズ加速スイッチ
22・・・クルーズ減速スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用ガバナと作業用ガバナとを設けているPTO(30)付き車両用のディーゼルエンジン(1)の作業用ガバナ制御装置において、作業用ガバナの特性を調整する機能を有するオートクルーズスイッチ(20)と、オートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有するコントロールユニット(10)とを設けたことを特徴とするディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。
【請求項2】
前記オートクルーズスイッチ(20)は、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を増加させる機能を有するクルーズ加速スイッチ(21)と、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を減少させる機能を有するクルーズ減速スイッチ(22)とを有している請求項1のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。
【請求項3】
前記コントロールユニット(10)は、ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により走行用ガバナと作業用ガバナとを切り換える機能を有している請求項2のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。
【請求項4】
ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により走行用ガバナから作業用ガバナに切り換えられた際に、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を増加させる機能を有するクルーズ加速スイッチ(21)と、作業用ガバナのエンジン回転数に対する噴射量を減少させる機能を有するクルーズ減速スイッチ(22)とにより、作業用ガバナ特性を調節する機能を有している請求項3のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。
【請求項5】
前記コントロールユニット(10)は、車両のキースイッチ(6)がオフとなってもオートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有している請求項1〜4の何れか1項のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。
【請求項6】
前記コントロールユニット(10)は、ガバナ切換スイッチ(8)からの信号により作業用ガバナから走行用ガバナに切り換わってもオートクルーズスイッチ(20)で調整された作業用ガバナの特性を記憶する機能を有している請求項1〜5の何れか1項のディーゼルエンジンの作業用ガバナ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−156111(P2009−156111A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333484(P2007−333484)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】