説明

ディーゼル機関の防振方法

【課題】煩雑な水平精度調整が不要で、ディーゼル機関の振動変位を抑制しながらディーゼル機関から据付面へ伝わる振動を減衰できるディーゼル機関の防振方法を提供する。
【解決手段】この防振方法では、ディーゼル機関1の台板2と据付部6とを締結するボルト10に螺合される固定ナット13とディーゼル機関1の台板2との間に皿ばね16を挿入して固定ナット13に衝撃が伝わるのを防止する。また、ディーゼル機関1の台板2とディーゼル機関1を据え付ける据付部6の据付面7との間の間隙に堰18を設けると共に堰18に囲まれた領域21に弾性を持つ樹脂てん充材20を注入して硬化させて台板2から据付面7に伝わる振動を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディーゼル機関の防振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼル機関から上記ディーゼル機関が据え付けられる船体または基礎を伝わる振動を低減するために、上記ディーゼル機関を防振ゴムや金属スプリングを介して据付面に取り付ける据付構造としていた。
【0003】
ところが、上記防振ゴムや金属スプリングを使用した構造では、ディーゼル機関から据付面に伝わる振動が低減される一方で、ディーゼル機関における振動変位が大きくなる。(特に、起動時や停止時など。)このため、船体側や外部の設備などからディーゼル機関に接続される配管には、振動変位を吸収するために可撓管が必要となって、コストアップを招いていた。
【0004】
また、ディーゼル機関では、据付面にゆがみや偏りがあると、クランク軸デフレクション(クランクアームの開閉作用)が大きくなり、甚だしい場合にはクランク軸の折損につながる恐れもある。このため、上記防振ゴムや金属スプリングと上記据付面との間には、金属ライナーや調整シムを挟んで、複数点でレベル調整しながらディーゼル機関の水平精度を高める必要があり、据付作業が繁雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−136900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明の課題は、煩雑な水平精度調整が不要で、ディーゼル機関の振動変位を抑制しながらディーゼル機関から据付面へ伝わる振動を減衰できるディーゼル機関の防振方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明のディーゼル機関の防振方法は、ディーゼル機関の台板と上記ディーゼル機関を据え付ける据付部の据付面との間の間隙に堰を設けると共に、この堰に囲まれた領域に弾性を持つ樹脂てん充材を注入して硬化させて、上記台板から上記据付面に伝わる振動を低減すると共に、
上記ディーゼル機関の台板と上記据付部とを締結するためのボルトに螺合される固定ナットと上記ディーゼル機関の台板との間に皿ばねを挿入して上記固定ナットに衝撃が伝わるのを防止するようにしたことを特徴としている。
【0008】
この発明の防振方法によれば、上記ディーゼル機関の台板と上記ディーゼル機関を据え付ける据付部の据付面との間の間隙に、弾性を持つ樹脂てん充材を注入して硬化させることによって、ディーゼル機関から据付面へ伝わる振動を減衰できて、振動と騒音を低減できる。
【0009】
また、上記皿ばねによる振動減衰効果でもって、ディーゼル機関の台板から固定ナットへ衝撃が加わることを防止できる。
【0010】
そして、上記樹脂てん充材によれば、上記ディーゼル機関の振動変位を小さく抑えることができ、上記ディーゼル機関に接続される配管として、振動変位を吸収するための可撓管を使用する必要がなくなって、コスト上昇を回避できる。
【0011】
また、ディーゼル機関のクランク軸デフレクション調整の後で、上記据付部の据付面とディーゼル機関の台板との間の間隙に上記樹脂てん充材を注入して硬化させることで、上記ディーゼル機関のクランク軸デフレクションを適正値に確保できるから、煩雑な水平精度調整が不要で、据付作業の効率がよくなる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のディーゼル機関の防振方法によれば、煩雑な水平精度調整が不要で、ディーゼル機関の振動変位を抑制しながらディーゼル機関から据付面へ伝わる振動を減衰できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明のディーゼル機関の防振方法の実施形態においてディーゼル機関を据付部に仮締めした様子を示す長側面図(一部)である。
【図1B】上記実施形態において、上記ディーゼル機関の台板と据付部との間のスペースにダム(堰)を形成した様子を示す長側面図(一部)である。
【図1C】上記実施形態において、上記ダム(堰)による流し込み用区画に液状の樹脂てん充材を注入する様子を示す図(一部)である。
【図1D】上記実施形態において、上記ダム(堰)による流し込み用区画に注入した樹脂てん充材を硬化させた様子を示す長側面図(一部)である。
【図1E】上記実施形態において上記ディーゼル機関を据付部に仮締めした様子を示す短側面図である。
【図2】上記実施形態で防振したディーゼル機関の据付構造を示す短側面図である。
【図3】上記実施形態で防振したディーゼル機関の据付構造を示す長側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0015】
本実施形態のディーゼル機関の防振方法では、まず、図1Aに示すように、ディーゼル機関1を予め定めた据付位置に配置し、このディーゼル機関1の台板2を貫通して形成された複数のねじ穴3にジャッキボルト5を螺合させる。図1Aは、上記ディーゼル機関1のクランク軸(図示せず)の回転軸方向と直交する方向から上記ディーゼル機関1を見た長側面の一部を示す図である。図1Eは、上記ディーゼル機関1を上記クランク軸の回転軸方向に見た短側面図である。図1Eに示すように、上記台板2は、短側面において両側に突出しており、それぞれの台板2に上記ねじ穴3が形成され、それぞれのねじ穴3に上記ジャッキボルト5が螺合される。このジャッキボルト5を用いて、このディーゼル機関1のクランク軸デフレクションを適正値に保ちつつ、ディーゼル機関1の台板2と据付部6の据付面7との間に予め定めた間隔があくようにディーゼル機関1をジャッキアップする。
【0016】
そして、据付ボルト10を、上記ディーゼル機関1の短側面の両側の台板2に形成されている据付ボルト孔11および上記据付部6に形成された据付ボルト孔12に挿通させ、この据付ボルト10の両端に形成されたねじ部10A,10Bに固定ナット13,15を螺合させる。この際、上記台板2側に突出したねじ部10Aには、上記固定ナット13と上記台板2との間に皿ばね16を挿入する。上記固定ナット13と上記台板2との間に皿ばね16を挟んだ状態で上記据付ボルト10と固定ナット13,15とを螺合させて、仮締めを行う。
【0017】
次に、図1Bに示すように、上記台板2と上記据付面7との間のスペースにおいて、上記据付ボルト10から予め定めた間隔だけ離隔した領域をスポンジゴム等の合成ゴムで囲んでダム(堰)18を形成する。このダム(堰)18によって樹脂てん充材の流し込み用区画21を形成する。次に、図1C,図1Dに示すように、このダム(堰)18による流し込み用区画21に液状の樹脂てん充材20を注入して、硬化させる。樹脂てん充材20が硬化した後、上記ジャッキボルト5と上記ダム(堰)18を台板2から取り去り、上記据付ボルト10と固定ナット13,15を規定のトルクで増し締めする。
【0018】
そして、最後に、上記ディーゼル機関1と船体もしくは外部設備などとの間の配管(図示せず)を直接接続する。
【0019】
こうして、上記ディーゼル機関1を上記据付部6へ据え付けた状態で上記ディーゼル機関1の短側面(クランク軸の軸方向と直交する面)を見た様子を図2に示す。また、上記ディーゼル機関1を上記据付部6へ据え付けた状態で上記ディーゼル機関1の長側面(クランク軸の軸方向に延在する面)を見た様子を図3に示す。なお、図2,図3から分かるように、上記ディーゼル機関1の短側面の両側の台板2はそれぞれ4つの据付ボルト孔11を有し、上記据付部6も上記4つの据付ボルト孔11に対応する4つの据付ボルト孔12を有していて、各据付ボルト孔11,12に据付ボルト10を挿通させて上記固定ナット13,15と皿ばね16とで上記ディーゼル機関1の台板2と据付部6とを締結している。よって、上記ディーゼル機関1は、上記ディーゼル機関1の短側面の両側の台板2で合計8つの据付ボルト10で据付部6に締結される。各据付ボルト10による締結の工程は、図1A〜図1Eに沿って説明した通りである。
【0020】
この実施形態によれば、ディーゼル機関1がジャッキボルト5でクランク軸のデフレクションを適正値に保った状態で、台板2と据付面7との間の間隙に弾性を持つ樹脂てん充材20を充填して固めるので、据付面7の水平精度に関係なく、金属ライナーや調整シムを用いて調整する必要をなくすることができる。また、上記樹脂てん充材20は適度の弾性を有し、ディーゼル機関1の振動変位を小さく抑えることができるので、上記配管として可撓管を使用する必要がない。
【0021】
また、上記樹脂てん充材20は、適度の弾性を有するので、上記ディーゼル機関1から据付部6へ伝わる振動を減衰できると共に、固定ナット13と台板2との間に皿ばね16を挟んでいるので、ディーゼル機関1から固定ナット13に衝撃が加わるのを防ぐことができる。
【0022】
尚、上記実施形態では、ジャッキボルト5を用いてディーゼル機関1をジャッキアップしたが、油圧ジャッキを用いてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 ディーゼル機関
2 台板
3 ねじ穴
5 ジャッキボルト
6 据付部
7 据付面
10 据付ボルト
10A,10B ねじ部
11,12 据付ボルト孔
13,15 固定ナット
16 皿ばね
18 ダム(堰)
20 樹脂てん充材
21 流し込み用区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル機関の台板と上記ディーゼル機関を据え付ける据付部の据付面との間の間隙に堰を設けると共に、この堰に囲まれた領域に弾性を持つ樹脂てん充材を注入して硬化させて、上記台板から上記据付面に伝わる振動を低減すると共に、
上記ディーゼル機関の台板と上記据付部とを締結するためのボルトに螺合される固定ナットと上記ディーゼル機関の台板との間に皿ばねを挿入して上記固定ナットに衝撃が伝わるのを防止するようにしたことを特徴とするディーゼル機関の防振方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17836(P2012−17836A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157026(P2010−157026)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】