説明

デオキシビオラセインを産生する組み換え細菌及びその使用

デオキシビオラセインを産生する組み換え細菌であって、デオキシビオラセイン合成関連遺伝子クラスタを大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL又はシュードモナス・プチダmt−2に導入することにより得られる組み換え細菌と、その使用とを提供する。前記デオキシビオラセイン合成関連遺伝子クラスタは、VioA、VioB、VioC、VioD、及びVioEを含み、塩基配列が配列表の配列番号1に示されるビオラセイン合成関連遺伝子クラスタのVioD遺伝子をノックアウトすることにより得られる。組み換え細菌を発酵させて、基質としてL−トリプトファンを用いることによりデオキシビオラセインを産生するデオキシビオラセインの産生方法を提供する。前記方法によるデオキシビオラセイン生産は効率が高く、産生されるデオキシビオラセインは、抽出が簡便であり、且つ分離及び精製が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デオキシビオラセインを産生する組み換え細菌及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
【化1】

ビオラセインは、微生物により産生される二次代謝産物である。ビオラセインは、青紫色色素であり、水に不溶性である。ビオラセインは、2つの修飾L−トリプトファン分子の縮合により形成されるインドール誘導体である。ビオラセインは、19世紀後半に発見されたため、その生体機能について既に研究が行われている。近年、集中的に研究が行われた結果、ビオラセインが、抗腫瘍薬、抗ウイルス薬、及びバイオ色素となり得る重要な生物活性を示すことが見出された。ビオラセインは、織物及び染色、植物病原性真菌の制御、並びにウイルス治療及び腫瘍治療等の医学分野において広範な用途が見込まれるため、大きな注目を集めている。
【0003】
研究の結果、ビオラセインは、以下の生物活性を有することが示された:(1)黄色ブドウ球菌(Staploylococcous aureus)、バシラス属(Bacillus sp)、連鎖球菌属(Streptococcus sp)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ナイセリア属(Neisseria)、シュードモナス属(Pseudomonas)などに対する広域スペクトル抗微生物活性(非特許文献1参照)、(2)酸化防止活性(非特許文献2参照)、(3)抗腫瘍活性(非特許文献3参照)、(4)抗ウイルス活性、(5)抗原生動物活性、及び(6)様々な織物工程における天然バイオ色素活性(非特許文献4参照)。要約すると、ビオラセインは、高い医学的価値を有すると共に、広く産業的に応用される可能性を有する。
【0004】
ビオラセインを産生する菌株の中でも、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)が最も集中的に研究されてきた。C.ビオラセウムの完全ゲノム配列は、2003年に解読が完了し、ビオラセインの生合成経路分析及び応用の基礎を与えた。ビオラセイン生合成遺伝子クラスタは、4つの関連遺伝子から成ると以前報告されていたが、近年、ビオラセイン生合成経路のほぼ全体が明らかになり、5番目の遺伝子(vioE)が見出された。ビオラセイン生合成には、vioA、vioB、vioC、cioD、及びvioEを含む5遺伝子から成り、7.3kbに及ぶ1遺伝子クラスタが関与している。
【0005】
デオキシビオラセインは、ビオラセインよりも酸素原子が1つ少ない構造類似体であり、一般に、ビオラセイン生合成の副産生物として生じる。青紫色色素中のデオキシビオラセインの比率は非常に低く、ビオラセイン産生の僅か10分の1の量であるため、デオキシビオラセインの性質及び機能を分析するために十分な量のデオキシビオラセインを得ることは困難である。今日まで、デオキシビオラセインの単離方法及び技術に関する研究は、国際的にはほとんど行われていない。更に、産生量が少なく、且つ単離及び精製が困難であるため、デオキシビオラセインの性質及び生物活性についてほとんど研究されていない。現在、原生動物に対する阻害活性(非特許文献5参照)を除いて、デオキシビオラセインが特殊な機能を有することは知られていない。本発明者らは、以前、デオキシビオラセインがビオラセインよりも優れた染色作用及び抗細菌活性を有していることを示した。したがって、デオキシビオラセインがビオラセインのような用途を有する可能性があり、デオキシビオラセインに対する基礎研究及び応用研究を強化することは、科学的にも応用的にも重要な価値があると推測できる。現在、デオキシビオラセインを効率的に産生するための有効な方法を発明することが早急に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sanchez et al.,Reevaluation of the Violacein Biosynthetic Pathway and its Relationship to Indolocarbazole Biosynthesis.Journal 2006.7,1231−1240
【非特許文献2】Konzen et al.,Antioxidant properties of violacein:possible relation on its biological function.Journal 2006.14,8307−8313
【非特許文献3】de Carvalho et al.,Cytotoxic activity of violacein in human colon cancer cells.Journal 2006.
【非特許文献4】Akira SHIRATA,Isolation of Bacteria Producing Bluish−Purple Pigment and Use for Dyeing.Japan Agricultural Research Quarterly.2000.34
【非特許文献5】Matz,C et al..Marine Biofilm Bacteria Evade Eukaryotic Predation by Targeted Chemical Defense.PLoS ONE,(2008)3(7):e2744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、デオキシビオラセインを効率的に産生する組み換え細菌及びその使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
デオキシビオラセインを産生する組み換え細菌は、大腸菌(Escherichia coli)BL21−CodonPlus(DE3)−RIL又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)にデオキシビオラセイン合成関連遺伝子クラスタを導入することにより得られる。前記組み換え細菌は、基質としてL−トリプトファンを用いる発酵によりデオキシビオラセインを産生することができた。
【0009】
この場合、デオキシビオラセイン合成関連遺伝子クラスタは、VioA、VioB、VioC、VioD、及びVioEを含むビオラセイン合成関連遺伝子クラスタのVioD遺伝子をノックアウトすることにより得られる。
【0010】
既に報告されている遺伝子クラスタとしては、以下の1)、2)又は3)に示す遺伝子が挙げられる:
1)塩基配列は、配列表の配列番号1に示される。厳しい(strict)条件下で、そのDNA分子は、配列表の配列番号1に示される塩基配列とハイブリダイズすることができた。前記配列番号1は、ビオラセインの生合成経路における4種の酵素VioA、VioB、VioC、及びVioEをコードする。
2)DNA分子は、1)の遺伝子と99%を超える配列同一性を示し、ビオラセインの生合成経路における4種の酵素VioA、VioB、VioC、及びVioEをコードする。
3)3)におけるDNA分子は、1)の遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有することが好ましい。
【0011】
抽出条件は、6×SSC及び0.5% SDSを含む溶液中で、68℃にてハイブリダイズさせ、次いで、2×SSC/0.1% SDS及び1×SSC/0.1% SDSでそれぞれ1回ずつメンブレンを洗浄する。
【0012】
デオキシビオラセイン生合成遺伝子クラスタも、本発明の保護範囲内にある。
【0013】
前記遺伝子クラスタを大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILに導入することにより得られる組み換え細菌を、大腸菌BL−DVと命名した。
【0014】
大腸菌BL−DVは、2008年6月25日に中国微生物菌株保存管理委員会普通微生物中心(China General Microbiological Culture Collection Center(CGMCC)、住所:北京市朝陽区北辰西路、中国科学院微生物研究所、郵便番号100101)に寄託されており、アクセッション番号は、CGMCC No.2557である。
【0015】
前記遺伝子クラスタをシュードモナス・プチダmt−2 NCIMB 10432に導入することにより得られる組み換え細菌を、P.プチダ−VioΔDと命名した。
【0016】
前記遺伝子クラスタを含む発現カセット、又は遺伝子クラスタ若しくは発現カセットを含む組み換え発現ベクターも本発明の保護範囲内にある。
【0017】
本発明の第2の目的は、デオキシビオラセインを産生する方法を提供することにある。
【0018】
デオキシビオラセインを産生する方法は、基質としてL−トリプトファンを用いる組み換え大腸菌又は組み換えP.プチダの発酵により提供される。
【0019】
大腸菌BL−DVを例にとると、デオキシビオラセインを産生するために大腸菌BL−DVを用いるとき、L−トリプトファンの濃度は、発酵培地1L当たり0.3g〜0.5g、特に発酵培地1L当たり0.4gである。発酵温度は、10℃〜37℃、特に20℃である。細胞濃度がOD600=0.6〜1.0に達したとき、組み換え細菌に誘導物質が添加されるが、これも本発明の方法に含まれる。選択的に、細胞濃度がOD600=0.8に達したときに誘導物質が添加され、前記誘導物質は無作為に選択される。IPTGが、大腸菌BL−DV CGMCC No.2557の誘導物質として用いられ、IPTGの濃度は、0.7mmol/L〜1.3mmol/L、特に1.0mmol/Lである。
【0020】
組み換えP.プチダ−VioΔDを例にとると、P.プチダ−VioΔDを用いてデオキシビオラセインを産生するとき、L−トリプトファンの濃度は、発酵培地1L当たり0.3g〜0.5g、特に発酵培地1L当たり0.4gである。発酵培地は、P.プチダを増殖させるためのいずれの培養培地であってもよく、具体的には、1.0g/L〜2.0g/LのNaHPO・2HO、3.0g/L〜4.0g/LのNaHPO・12HO、0.5g/L〜1.0g/LのNHCl、7.0g/L〜8.0g/LのKHPO・3HO、10mL/L〜15mL/Lの100mM MgSO・7HO、3mL/L〜4mL/Lのグリセロール、及び0.5g/L〜1.5g/Lの酵母抽出物であり、溶媒は水である。細胞濃度がOD600=1.0に達したとき、組み換え細菌に誘導物質が添加されるが、これも本発明の方法に含まれる。誘導物質は無作為に選択される。P.プチダ−VioΔDの誘導物質としては、6超の炭素数を有するn−アルカン、特にn−オクタンが用いられ、n−オクタンの濃度は、具体的には、培地100mL当たり0.05mLである。発酵温度は、20℃に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、オーバーラップ伸長PCRによるデオキシビオラセイン生合成関連遺伝子クラスタの再構築を示す。
【図2】図2は、PCR増幅により得られるビオラセイン生合成関連遺伝子クラスタをコードする断片の結果を示す。
【図3】図3は、組み換え株大腸菌BL−DVにより産生される色素のHPLCによる同定結果を示す。
【図4】図4は、組み換え株P.プチダ−VioΔDにより産生される色素のHPLCによる同定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施される実験方法は、特に明記しない限り、ルーチンな方法である。
【0023】
(実施例1:デオキシビオラセインを産生する組み換え株)
1)デオキシビオラセイン生合成関連遺伝子クラスタ
デュガネラ(Duganella)属B2 CGMCC No.2056を、液体培地(15g/Lのデンプン、0.03g/Lの硫酸第一鉄、1g/Lの硝酸カリウム、0.7g/Lのリン酸水素二カリウム、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、0.5g/Lのトリプトファン、pH7.0に調整)に接種し、200rpm、25℃の条件下で36時間培養した。ゲノムDNA抽出キット(Shanghai Shenggong)のプロトコルに従ってデュガネラ属B2 CGMCC No.2056からゲノムDNAを抽出した。
【0024】
ソフトウェアOligo7.10を用いて、ビオラセイン遺伝子クラスタの配列に基づいて3対のプライマーを設計した。プライマー配列を表1に示す。P1及びP2を用いて、vioAとvioBの遺伝子の一部とを増幅させ、増幅産物を断片Aと命名した。P3及びP4を用いて、vioBの遺伝子の一部及びvioCを増幅させ、増幅産物を断片Bと命名した。P5及びP6を用いてvioEを増幅させ、増幅産物を断片Cと命名した。2つのプライマーP4とP5との間には48bpの繰り返し配列が存在する(図1)。
【表1】

【0025】
プライマーP1、P2、P3、P4、P5、及びP6と、高忠実度Pfu DNAポリメラーゼとを用い、テンプレートであるデュガネラ属のゲノムDNAを増幅させた。PCR反応系は、50μL(0.5μgのDNAテンプレート、25pmolの上流プライマー、25pmolの下流プライマー、及び2.5UのPfu DNAポリメラーゼ)である。
【0026】
断片A及び断片Bを、表2に示すPCRプログラムIを用いて増幅させ、断片Cを、表2に示すPCRプログラムIIを用いて増幅させた。
【表2】

【0027】
PCR産物である断片B及びCを1:1の体積比で混合し、その混合物を10倍希釈した後、次のPCR増幅のテンプレートとして用いた。
【0028】
50μLのPCR反応系は、1.5μLの断片Bと断片Cとの混合物、及び2.5UのTaKaRa Pfu DNAポリメラーゼを含んでいた。PCRプログラムは、PCRプログラムIIIである。第2の工程後、プログラムを停止させ、25pmolのP3及びP6プライマーをそれぞれ反応系に添加し、次いでプログラムの第3の工程及び第4の工程を実行して、断片B及びCを組み合わせることにより断片Dを産生させた(図1)。PCR精製キットを用いて断片Dを精製し、次いでpMD18−Tベクターにクローニングして、配列解析用のpMD18−T−Dベクターを得た。配列解析の結果は、断片Dの塩基配列が、配列表の配列番号1の3,058bp〜6,198bpの5’末端塩基配列であることを示した。
【0029】
PCR増幅により得られたビオラセイン遺伝子クラスタの断片A、B、C、及びDの結果を図2に示す。
【0030】
3,057bpの断片AをAseI及びNotIで切断し、3,140bpの断片DをpMD18−T−DベクターのXholI及びNotIで切断し、XholI及びNdeIで切断した発現ベクターpET30aをT4 DNAリガーゼを用いることによりライゲーションさせて、組み換え発現ベクターpET30aVioΔDを構築した。組み換え発現ベクターpET30aVioΔDを大腸菌DH5αに形質転換し、100μg/mLのアンピシリンを含有しているLB寒天平板中で形質転換産物を培養した。形質転換体を選択し、培養して、アルカリ法によりプラスミドDNAを抽出した。断片が挿入されていた陽性クローンをスクリーニングして、配列解析した。配列解析により、配列表の配列番号1に示す断片VioΔDの塩基配列が明らかになった。配列番号1の1bp〜1,308bpの5’末端塩基配列は、ビオラセイン生合成経路のVioAタンパク質をコードするVioA遺伝子である。配列番号1の1,305bp〜4,322bpの5’末端塩基配列は、ビオラセイン生合成経路のVioBタンパク質をコードするVioB遺伝子である。配列番号1の4,323bp〜5,612bpの5’末端塩基配列は、ビオラセイン生合成経路のVioCタンパク質をコードするVioC遺伝子である。配列番号1の5,622bp〜6,197bpの5’末端塩基配列は、ビオラセイン生合成経路のVioEタンパク質をコードするVioE遺伝子である。VioΔD断片にはビオラセイン生合成遺伝子クラスタのVioD遺伝子は存在しない。VioΔDは、デオキシビオラセイン生合成関連遺伝子クラスタである。
【0031】
3,057bpの断片AをAseI及びNotIで切断し、3,140bpの断片DをpMD18−T−DベクターのXholI及びNotIで切断し、SalI及びNdeIで切断した発現ベクターpCOM10(Smits T.H.M.et al.,New alkane−responsive expression vectors for E.coli and Pseudomonas.Plasmid 2001.46,16−24.)(清華大学)をT4 DNAリガーゼを用いることによりライゲーションさせて、組み換え発現ベクターpCOM10VioΔDを構築した。
【0032】
2)発現ホストの選択
a)組み換えベクターpET30aVioΔDを大腸菌BL21及び大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILに形質転換して、組み換え大腸菌BL21−VioΔD及び大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL−VioΔDを得た。pET30aを大腸菌BL21及び大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILに形質転換することにより得られた組み換え株大腸菌BL21−pET30a及び大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL−pET30aを対照として用いた。
【0033】
組み換え株を37℃でLB培地中にて培養し、OD600が0.7に達したとき、20℃で30時間、0.1mMのIPTGを用いて誘導した。発酵ブロスの50mLのアリコートを回収し、7,000×gで10分間遠心分離し、上清を廃棄した。次いで、細胞ペレットを5mLのエタノールですすぎ、Whirlpoolミキサで混合し、次いで200Wの超音波洗浄器内で30分間振盪し、次いで9,000×gで10分間遠心分離して、エタノール溶液を回収した。
【0034】
大腸菌BL21−pET30a、大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL−pET30a、及び大腸菌BL21−VioΔDから青色色素は得られなかったが、大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL−VioΔDでは青色色素が合成された。これは、組み換え発現ベクターpET30aVioΔDに由来するデオキシビオラセイン産生のための4種の酵素が正しく発現しなかった、又は1種/数種の酵素が大腸菌BL21中で非常に少量しか発現しなかったが、大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILでは正しく発現したことを示す。したがって、デオキシビオラセイン生合成遺伝子クラスタに稀にしか発現しないコードが存在すると推測することができる。デオキシビオラセインを産生する大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RIL−VioΔDを、大腸菌BL−DVと命名した。
【0035】
組み換え株BL−DVから得られた青紫色産物のエタノール溶液の常圧−減圧蒸留産物をメタノールに溶解させ、次いでAgilent Eclipse XDB−C18カラム(150mm×4mm、5μm)を備える高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent−1100)により分析した。脱離溶媒は、流速1mL/分、温度30℃の70%メタノールであった。モニタリング波長は、570nmであった。
【0036】
HPLC分析の結果を図3に示す。組み換え株大腸菌BL−DV CGMCC No.2557から得られた色素の保持時間(4.9分間)は、デュガネラ B2のビオラセイン生合成の副産生物であるデオキシビオラセインと一致しており、HPLCのピークは1つだけであった。これら結果は、組み換えベクターpET30aVioΔDがデオキシビオラセイン生合成のための酵素を正しく発現し、大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILにおける触媒によりデオキシビオラセインを合成できることを示す。
【0037】
図3のIは、デュガネラ属B2 CGMCC No.2056から得られた色素のHPLC結果であり、第1のピークがビオラセイン、第2のピークがデオキシビオラセインである。図3のIIは、組み換え株大腸菌BL−DVから得られた粗色素のHPLC結果である。
【0038】
大腸菌BL−DVは、2008年6月25日に中国微生物菌株保存管理委員会普通微生物中心(CGMCC、住所:北京市朝陽区北辰西路、中国科学院微生物研究所、郵便番号100101)に寄託されており、アクセッション番号は、CGMCC No.2557である。
【0039】
b)組み換えベクターpCOM10VioΔDを、シュードモナス・プチダmt−2 NCIMB 10432に形質転換して、組み換え体P.プチダ−VioΔDを得た。pCOM10をシュードモナス・プチダmt−2 NCIMB 10432に形質転換することにより得られた組み換え株P.プチダ−pCOM10を対照として用いた。
【0040】
組み換え株P.プチダ−VioΔD及びP.プチダ−pCOM10を、37℃でLB培地中にて培養し、OD600が0.7に達したとき、20℃で30時間、0.05%(v/v)のn−オクタンを用いて誘導した。発酵ブロスの50mLのアリコートを回収し、7,000×gで10分間遠心分離し、上清を廃棄した。次いで、細胞ペレットを同量の脱イオン水ですすぎ、Whirlpoolミキサで混合し、次いで7,000×gで10分間遠心分離して、沈殿を回収した。次いで、細胞ペレットを50mLのエタノールですすぎ、Whirlpoolミキサで十分混合し、次いで7,000×gで10分間遠心分離して、エタノール抽出物を別の清潔な容器に移した。細胞が完全に脱色されるまで上記抽出手順を繰り返した。粗デオキシビオラセインを含む上清を全て回収した。
【0041】
対照株P.プチダ−pCOM10から青色産物は得られなかったが、P.プチダ−VioΔDから青色産物が得られた。
【0042】
組み換え株P.プチダ−VioΔDから得られた青紫色産物のエタノール溶液の常圧−減圧蒸留産物を100%メタノールに溶解させ、次いでAgilent Eclipse XDB−C18カラム(150mm×4mm、5μm)を備えるHPLC(Agilent−1100)により分析した。脱離溶媒は、流速1mL/分、温度30℃の70%メタノールであった。モニタリング波長は、570nmであった。
【0043】
HPLC分析の結果を図4に示す。組み換え株P.プチダ−VioΔDから得られた青色色素の保持時間(4.9分間)は、デュガネラ B2のビオラセイン生合成の副産生物であるデオキシビオラセインと一致しており、HPLCのピークは1つだけであった。これら結果は、青色産物がデオキシビオラセインであり、P.プチダ−VioΔDが、ビオラセイン生合成のための4種の酵素、VioA、VioB、VioC、及びVioEを正しく発現し、次いでデオキシビオラセインを合成できることを示す。
【0044】
図4のIは、デュガネラ属B2 CGMCC No.2056から得られた色素のHPLC結果であり、第1のピークがビオラセイン、第2のピークがデオキシビオラセインである。図4のIIは、P.プチダ−VioΔDから得られた粗色素のHPLC結果である。
【0045】
(実施例2:デオキシビオラセインを産生する組み換え株)
1)デオキシビオラセインを産生する組み換え株大腸菌BL−DV CGMCC No.2557
組み換え株大腸菌BL−DV CGMCC No.2557によるデオキシビオラセイン産生に対する、L−トリプトファン、誘導物質(IPTG)を添加する細胞濃度(OD600)、誘導物質の濃度、及び誘導時間の影響を、4因子及び3水準の直交実験計画により試験した。結果を表3に示す。
【0046】
色素抽出法は、実施例1に示す。色素の濃度は、エタノール溶液中における色素サンプルの最大吸収により測定した。デュガネラ属B2により産生されるデオキシビオラセインを測定する波長は、562nmであり、ブランク対照としてエタノールを用いた。吸光度と色素濃度との検量線に基づいて、相当する色素濃度を得た。全ての測定を3回繰り返し、結果を平均した。色素について得られた吸光係数は、9.0955[l/g/cm]である。
【表3】

【0047】
表3の結果は、デオキシビオラセイン産生に対する影響が、細胞濃度>L−トリプトファン>誘導時間>誘導物質濃度の順に大きいことを示した。最適な組み合わせは、0.4g/LのL−トリプトファンをLB培地に添加し、1.0mmol/Lの誘導物質(IPTG)及びOD600=0.8の細胞濃度でIPTG誘導を行うことであると判定された。
【0048】
前記最適条件で、3回の検証を行ったところ、それぞれ0.183g/L、0.165g/L、及び0.153g/Lのデオキシビオラセインが産生され、平均は0.167g/Lであった。
【0049】
2)デオキシビオラセインを産生する組み換え株P.プチダ−VioΔD
P.プチダ−VioΔDを、0.4g/LのL−トリプトファンを含有しているE2液体培地(1.3g/LのNaHPO・2HO、3.0g/LのNaHPO・12HO、0.9g/LのNHCl、7.5g/LのKHPO・3HO、10mL/Lの100mM MgSO・7HO、3mL/Lのグリセロール、及び1.0g/Lの酵母抽出物、pH7.0に調整)に接種し、200rpm、30℃の条件下で一晩培養した。次いで、培養培地(一晩)を、0.4g/LのL−トリプトファン及び50μg/mLのカナマイシンを含有している新たなE2液体培地に、接種材料10%となるように接種し、30℃で3時間〜4時間培養し、OD600が1.0に達したときに誘導物質n−オクタンを発酵ブロスに添加した。次いで培養温度を20℃に変更して30時間培養し、次いで遠心分離して細胞を回収した。回収された細胞をエタノールと十分に混合し、青紫色色素のエタノール抽出物を遠心分離により細胞から分離した。
【0050】
デュガネラ属B2 CGMCC No.2056を、液体培地(15g/Lのデンプン、0.03g/Lの硫酸第一鉄、1g/Lの硝酸カリウム、0.7g/Lのリン酸水素二カリウム、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、0.5g/Lのトリプトファン、pH7.0に調整)に接種し、200rpm、25℃の条件下で36時間培養し、次いで遠心分離して細胞を回収した。回収された細胞をエタノールと十分に混合し、青紫色色素のエタノール抽出物を遠心分離により細胞から分離した。
【0051】
2種の青紫色産物をHPLCにより分析した。この方法は、実施例1に示す。
【0052】
P.プチダ−VioΔDの青紫色産物のHPLC結果は、前記青紫色産物がデオキシビオラセインであることを示した。デュガネラ属B2 CGMCC No.2056の青紫色産物のHPLC結果は、前記青紫色産物がビオラセインとデオキシビオラセインとの混合物であることを示した。
【0053】
P.プチダ−VioΔD及びデュガネラ属B2 CGMCC No.2056により産生されるデオキシビオラセインの定量分析を実施した。
【0054】
最大吸収における青紫色色素のエタノール溶液の吸光度を測定することにより、定量分析を実施した。デュガネラ属B2により産生されるデオキシビオラセインを測定するための波長は、562nmであり、ブランク対照としてエタノールを用いた。吸光度と色素濃度との検量線に基づいて、相当する色素濃度を得た。全ての測定を3回繰り返し、結果を平均した。吸光係数は、14.852[l/g/cm]である。
【0055】
定量分析の結果は、P.プチダ−VioΔDのデオキシビオラセイン産生が最も多く、最終産物は1.5g/L(平均)であることを示した。これは、デュガネラ属B2 CGMCC No.2056により産生されるデオキシビオラセイン(0.16g/L)よりも遥かに多い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
デオキシビオラセインは、多くの野生株におけるビオラセイン生合成の副産生物であり、生産性が低く且つ分離が困難であるため、科学的研究、大規模生産、及び応用が全体的に限定されている。大腸菌BL−DV CGMCC No.2557及びP.プチダ−VioΔDは、高収量でデオキシビオラセインを産生することができた。Erlenmeyerフラスコ中における液体発酵を用いた、大腸菌BL−DV CGMCC No.2557によるデオキシビオラセイン産生は、発酵ブロス1L当たり0.17gに達し、P.プチダ−VioΔDによるデオキシビオラセイン産生は、発酵ブロス1L当たり1.5gに達した。更に、産生されるデオキシビオラセインは、抽出が簡便であり、且つ分離及び精製が容易である。組み換え株は、大腸菌又はP.プチダであり、これらはデオキシビオラセイン産生のために容易に制御及び工業化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VioA、VioB、VioC、VioD、及びVioEを含む天然ビオラセイン合成関連遺伝子クラスタのVioD遺伝子をノックアウトすることにより得られることを特徴とするデオキシビオラセイン合成関連遺伝子クラスタ。
【請求項2】
遺伝子クラスタが、以下の1)、2)、又は3)に示す遺伝子である、請求項1に記載の遺伝子クラスタ:
1)配列表の配列番号1に示される塩基配列を有するDNA分子、
2)配列表の配列番号1に示される塩基配列と厳しい条件下でハイブリダイズすることができ、且つビオラセインの生合成経路における4種の酵素VioA、VioB、VioC、及びVioEをコードするDNA分子、
3)1)の遺伝子と75%超の塩基配列同一性を有し、且つビオラセインの生合成経路における4種の酵素VioA、VioB、VioC、及びVioEをコードするDNA分子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遺伝子クラスタを大腸菌BL21−CodonPlus(DE3)−RILに導入することにより得られることを特徴とするデオキシビオラセインを産生する組み換え大腸菌。
【請求項4】
組み換え大腸菌が、大腸菌BL−DV CGMCC No.2557である請求項3に記載の組み換え大腸菌。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の遺伝子クラスタをP.プチダmt−2に導入することにより得られることを特徴とするデオキシビオラセインを産生する組み換えシュードモナス・プチダ。
【請求項6】
シュードモナス・プチダが、シュードモナス・プチダmt−2 NCIMB 10432(VioABCE)である請求項5に記載の組み換えシュードモナス・プチダ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の遺伝子クラスタを含むことを特徴とする発現カセット。
【請求項8】
請求項1若しくは2に記載の遺伝子クラスタ、又は請求項7に記載の発現カセットを含むことを特徴とする組み換え発現ベクター。
【請求項9】
請求項3又は4に記載の組み換え大腸菌が、基質としてL−トリプトファンを用いる発酵によりデオキシビオラセインを産生することを特徴とするデオキシビオラセインの産生方法。
【請求項10】
L−トリプトファンの濃度が、0.3g/L〜0.5g/Lである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
L−トリプトファンの濃度が、0.4g/Lである請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
発酵温度が、10℃〜37℃である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
発酵温度が、20℃である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
組み換え株の細胞濃度がOD600=0.6〜1.0に達したとき、前記組み換え株に誘導物質を添加する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞濃度が、OD600=0.8である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
誘導物質が、IPTGであり、且つ前記IPTG濃度が、0.7mmol/L〜1.3mmol/Lである請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
IPTG濃度が、1.0mmol/Lである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項5又は6に記載の組み換えシュードモナス・プチダを発酵させて、基質としてL−トリプトファンを用いることによりデオキシビオラセインを産生させることを特徴とするデオキシビオラセインの産生方法。
【請求項19】
L−トリプトファンの濃度が、0.3g/L〜0.5g/Lである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
L−トリプトファンの濃度が、0.4g/Lである請求項18に記載の方法。
【請求項21】
発酵培地が、1.0g/L〜2.0g/LのNaHPO・2HO、3.0g/L〜4.0g/LのNaHPO・12HO、0.5g/L〜1.0g/LのNHCl、7.0g/L〜8.0g/LのKHPO・3HO、10mL/L〜15mL/Lの100mM MgSO・7HO、3mL/L〜4mL/Lのグリセロール、及び0.5g/L〜1.5g/Lの酵母抽出物であり、溶媒が水である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
細胞濃度がOD600=1.0に達したとき、前記組み換え株に誘導物質を添加する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
誘導物質が、n−オクタンであり、且つ前記n−オクタン濃度が、培地100mL当たり0.05mLである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
発酵温度が、20℃である請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−527183(P2011−527183A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516946(P2011−516946)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国際出願番号】PCT/CN2009/000430
【国際公開番号】WO2010/003304
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(511009628)スター レイク バイオサイエンス カンパニー インコーポレーテッド チャオチン グァンドン (1)
【Fターム(参考)】