説明

デジタルカメラおよびフラッシュ光発光色決定方法

【課題】被写体周辺の環境光の色度に応じて複数のフラッシュ装置それぞれの発光色を可変制御する。
【解決手段】デジタルカメラは、撮像素子1と、A/D変換器2と、OB減算部3と、ホワイトバランス処理部4と、デモザイク・カラーマトリクス・トーン処理部5と、JPEGエンコーダ6と、画像データ記憶部7と、光源色検出部8と、フラッシュ発光色決定部9と、発光色可変フラッシュ装置10とを備える。被写体周辺の環境光を特定するとともに、色度がそれぞれ異なる複数のフラッシュ装置F1〜F3を単独で発光させた場合に撮像素子1が捉えるデジタル画素データを予め取得しておき、これらを用いて、各フラッシュ装置F1〜F3の発光量比率を計算するため、環境光の色度と同一または近似する発光色で各フラッシュ装置F1〜F3を発光させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュ光の発光色を変化させることができるデジタルカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、被写体周辺の環境光を簡易な手法で正確に検出できることを発明した(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、フラッシュ光を発光するフラッシュ装置を内蔵したデジタルカメラが普及しており、最近では、カメラ機能を有する携帯電話にもフラッシュ装置を内蔵したものが増えつつある。携帯電話では、バッテリ容量に制限があるため、フラッシュ装置の光源としてLEDを用いて消費電力の削減と小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4447520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
写真撮影時にフラッシュを発光すると、フラッシュ光で照明された部分と、フラッシュ光が届かなかった部分とで色が異なる場合がある。これは、フラッシュ光の色度と被写体周辺の環境光の色度が異なるために生じる。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被写体周辺の環境光の色度に応じて発光装置の発光色を可変制御できるようにしたデジタルカメラおよびフラッシュ光発光色決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、撮像素子と、
前記撮像素子で撮像された画像データに基づいて被写体を照明する光源色を検出する光源色検出部と、
前記撮像素子で撮像された画像データと前記光源色検出部で検出された光源色とに基づいて、被写体を照明可能な発光装置の発光色を決定するフラッシュ発光色決定部と、
前記フラッシュ発光色決定部による決定結果に基づいて、前記発光装置内の複数のフラッシュ装置それぞれの発光量を制御するフラッシュ発光量制御部と、を備えることを特徴とするデジタルカメラが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被写体周辺の環境光の色度に応じて発光装置の発光色を可変制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るデジタルカメラの概略構成を示すブロック図。
【図2】CIE 1960 UCS色度図。
【図3】色度座標値の一例を示す図。
【図4】図3に対応する色度図。
【図5】第1の実施形態に係るフラッシュ光発光色決定方法の処理手順の一例を示すフローチャート。
【図6】第2の実施形態に係るフラッシュ光発光色決定方法の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
まず、本実施形態によるフラッシュ光発光色決定方法の基本原理を説明する。フラッシュ装置が発光するフラッシュ光は、フラッシュ装置と被写体間の距離の2乗に反比例して弱まる性質がある。このため、フラッシュ装置に近い被写体は、フラッシュ光の影響を強く受けるのに対し、遠方の被写体はフラッシュ光の影響をほとんど受けない。
【0012】
従来のフラッシュ装置では、フラッシュ光の色度は固定されていた。このため、フラッシュ光の色度が被写体を照明する光源の色と異なる場合、フラッシュ撮影の結果が不自然なものになる。例えば、電球照明下でフラッシュ撮影を行うと、フラッシュ光で照明された場所は青白くなり、照明されなかった場所は黄色く撮影されてしまう。
【0013】
この問題は、フラッシュ光の発光色が被写体周辺の環境光の色度と異なることによって生じる。そこで、本実施形態では、フラッシュ装置が環境光と同じ色のフラッシュ光を発光するようにして、フラッシュ光で照明されなかった部分と照明された部分とで、色の差が生じないようにする。
【0014】
フラッシュ撮影を行う場合の被写体周囲の環境光はさまざまである。例えば、昼光(太陽光(晴れ))、雲散乱光(曇り)、または青空散乱光(日陰)下でシンクロ撮影を行う場合や、蛍光灯や電球下でフラッシュ撮影を行う場合もある。本実施形態では、種々の環境光に合わせて、フラッシュ光の発光色を可変制御することにより、フラッシュ光で照明されなかった部分と照明された部分とで、色の差が生じないようにする。そのためには、まずは環境光を正しく特定する必要がある。
【0015】
そこで、本実施形態では、フラッシュ発光の前に、環境光の特定を行う。通常のデジタルカメラは、撮像素子が捉えた画像を表示装置に表示するスルー画表示を行っている。これを利用することで、撮像素子が捉えた画像から環境光(より正確には、環境光の色度)を特定することができる。この特定手法の詳細については、本発明者が発明した特許第4447520号公報を参照されたい。
【0016】
次に、特定した環境光と同じ色となるようフラッシュ光の発光色を制御した上で、フラッシュ撮影を行う。より詳細には、発光色度の異なる複数のフラッシュ装置を同時発光させて、複数のフラッシュ光の発光色を混ぜ合わせて、環境光と同じまたは近似した色になるようにする。
【0017】
以下、本実施形態の具体的な構成および動作をより詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係るデジタルカメラの概略構成を示すブロック図である。図1のデジタルカメラは、撮像素子1と、A/D変換器2と、OB(Optical Black)減算部3と、ホワイトバランス処理部4と、デモザイク・カラーマトリクス・トーン処理部5と、JPEGエンコーダ6と、画像データ記憶部7と、光源色検出部8と、フラッシュ発光色決定部9と、発光色可変フラッシュ装置10とを備えている。
【0018】
撮像素子1は、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOSセンサであり、被写体を撮像してアナログの画像データを生成する。A/D変換器2は、撮像素子1が撮像した画像データをデジタル画素データに変換する。OB減算部3は、デジタル画素データに含まれる撮像素子1の漏れ電流分のデータを除去する。ホワイトバランス処理部4は、OB減算部3から出力されたデジタル画素データのホワイトバランス調整を行う。デモザイク・カラーマトリクス・トーン処理部5は、ホワイトバランス調整されたデジタル画素データに対して公知の画像処理を行う。JPEGエンコーダ6は、画像処理後のデータをJPEG形式に圧縮して、画像データ記憶部7に格納する。
【0019】
光源色検出部8は、例えば特許第4447520号公報に記載された手法で、被写体の光源色、すなわち被写体周辺の環境光を検出する。フラッシュ発光色決定部9は、撮像素子1で撮像された画像データと光源色検出で検出された光源色とに基づいて、被写体の周囲を照明可能な複数のフラッシュ装置からなる発光装置の発光色を決定する。
【0020】
発光色可変フラッシュ装置10は、複数のフラッシュ装置F1〜F3と、複数のフラッシュ発光量制御部FC1〜FC3と、フラッシュ発光量決定部11とを有する。複数のフラッシュ装置F1〜F3は、それぞれが異なる色度を持っており、かつそれぞれの発光量を個別に制御可能である。フラッシュ発光量決定部11は、発光色決定部で決定された発光色に基づいて、複数のフラッシュ装置F1〜F3それぞれの発光量を決定する。複数のフラッシュ発光量制御部FC1〜FC3のそれぞれは、フラッシュ発光量決定部11で決定された発光量で発光するよう、対応するフラッシュ装置F1〜F3を制御する。
【0021】
複数のフラッシュ装置F1〜F3は、それぞれが異なる色度を持つようにするために、例えば、それぞれが異なる色のカラーフィルタを備えている。より具体的には、フラッシュ装置F1は赤色フィルタを、フラッシュ装置F2は青色フィルタを、フラッシュ装置F3は緑色フィルタを備えている。
【0022】
以下では、説明の簡略化のために、撮像素子1がRGBの3色の画像データを取得可能なカラーイメージセンサの例を説明するが、撮像で取得可能な色は、必ずしもRGBの3色である必要はない。例えば、CMYの3色でもよいし、CMYGの4色でもよいし、他の色の組合せでもよい。
【0023】
複数のフラッシュ装置F1〜F3の光源は、キセノン管やLED光源等の公知のものを利用可能である。光源の照明光は、カラーフィルタを通して放射されるため、カラーフィルタの色で発光することになる。複数のフラッシュ発光量制御部FC1〜FC3は、対応するフラッシュ装置F1〜F3内の光源の発光量を可変制御する。これにより、各フラッシュ装置F1〜F3から発光されるフラッシュ光の発光量が個別に制御可能となる。色度の異なるフラッシュ装置F1〜F3の発光量を個別に制御することにより、被写体を照明するフラッシュ光の発光色は任意に変更可能となる。
【0024】
光源色検出部8は、上述したように、特許第4447520号公報に記載された手法を利用する。以下では、その手法の概略を説明する。まず、被写体画像を複数画素からなるブロックに分割し、各ブロックごとに、ブロック内の画素データの階調値を複数段階に分類し、各段階の階調値の平均値を計算する。次に、各ブロックごとに、最も明るい段階の階調値の平均値と、二番目に明るい段階の階調値の平均値との差分を計算し、計算した差分を全ブロックで加重平均することにより、被写体周辺の環境光の光源色を検出することができる。
【0025】
光源色検出部8は、フラッシュ撮影を行う前に、上述した光源色の検出を行っておく。以下では、検出された光源色を3次元ベクトル値e=(eR,eG,eB)で表す。この値は、被写体に降り注ぐ光の色を表している。すなわち、被写体の環境光と同じ光で白紙を撮影した場合に得られるデジタル画素データ(RGB値)の倍数となる。
【0026】
次に、フラッシュ発光色決定部9の処理動作を説明する。まず、例えば1m離れた白紙に複数のフラッシュ装置F1〜F3からのフラッシュ光を順次に照らした状態で3回撮影を行い、3種類のRGB値(R1,G1,B1)、(R2,G2,B2)、(R3,G3,B3)を取得する。
【0027】
ここで、複数のフラッシュ装置F1〜F3の発光量の比率を、f1:f2:f3とする。この比率で3つのフラッシュ光を同時に発光した状態で、例えば1m離れた白紙を撮影した場合の撮像素子1で捉えられるRGB値を(fR,fG,fB)とする。
【0028】
光は加法法則が成り立つため、以下の(1)〜(3)式が得られる。
【0029】
fR=f1×R1+f2×R2+f3×R3 …(1)
fG=f1×G1+f2×G2+f3×G3 …(2)
fB=f1×B1+f2×B2+f3×B3 …(3)
【0030】
撮像素子1で捉えられるRGB値を、被写体の環境光のRGB値(eR,eG,eB)と等しくするには、下記の(4)〜(6)式が成り立たなければならない。
【0031】
eR=f1×R1+f2×R2+f3×R3 …(4)
eG=f1×G1+f2×G2+f3×G3 …(5)
eB=f1×B1+f2×B2+f3×B3 …(6)
【0032】
上記(4)〜(6)式のうち、左辺は、上述したように光源色検出部8で検出でき、また、右辺の(R1,G1,B1)、(R2,G2,B2)、(R3,G3,B3)は上述したように予め取得したRGB値であるため、上記(4)〜(6)式を解くことにより、f1〜f3を算出することができる。以下では、f1〜f3を、3次元ベクトル値f=(f1,f2,f3)とし、(R1,G1,B1)、(R2,G2,B2)、(R3,G3,B3)を3行3列の行列mとすると、以下の(7)式のような行列式が得られる。
【0033】
【数1】

【0034】
上記(7)式は、簡略的に以下の(8)式のように表すことができる。
【0035】
e=m×f …(8)
【0036】
ここで、mの逆行列をm(inv)とすると、以下の(9)式が得られる。
【0037】
f=m(inv)×e …(9)
【0038】
この(9)式を解くことで、フラッシュ光の発光量比率f=(f1,f2,f3)を求めることができる。ただし、求めることができるのは、あくまで発光量比率であって、絶対的な発光量ではない。したがって、環境光とフラッシュ光の明るさが同じ割合で増減しても、発光量比率は変化しない。これは、環境光の検出時における環境光の光強度には無関係に、環境光の色比率によって、フラッシュ光の明るさとは無関係に、フラッシュ光の発光量比率が求まることを意味する。
【0039】
このように、被写体の環境光の光源色は周囲の明るさに依存せず、また、フラッシュ光の発光量比率はフラッシュ光の明るさに依存しない。
【0040】
上記(9)式を解いて得られるフラッシュ光の発光量比率fを構成するf1〜f3のうち一つか二つは、負の値として計算されることがある。実際には、負の値の発光は不可能であるため、負の値になった場合は、ゼロとして扱う。すなわち、ゼロまたは負の値に対応するフラッシュ装置F1〜F3は発光させないようにする。
【0041】
発光量比率f1〜f3の一部が負の値をとるのは、3つのフラッシュ装置F1〜F3をどのような比率で発光しても、環境光と同じ色度にはならないことを意味する。例えば、図2はCIE 1960 UCS色度図である。図2では、フラッシュ装置F1〜F3のフラッシュ光の色度を色度図上に表現している。図の点F1〜F3は各フラッシュ装置F1〜F3の色度座標値である。これら3点F1〜F3で囲まれる領域内のどの色でも、フラッシュ光の発光量比率を制御することで、フラッシュ装置F1〜F3で発光可能である。
【0042】
ところが、この領域外では、3つのフラッシュ光のうち一つか二つは負の値になる。例えば、この領域の境界辺SD1を基準としてフラッシュ装置F3と反対側の領域では、フラッシュ装置F3の発光量は負の値になる。同様に、境界辺SD2を基準としてフラッシュ装置F2と反対側の領域では、フラッシュ装置F2の発光量は負の値になる。また、境界辺SD3を基準としてフラッシュ装置F1と反対側の領域では、フラッシュ装置F1の発光量は負の値になる。上述したように、負の値をとる場合は、強制的にゼロに置換されるため、フラッシュ光の色度と環境光の色度はずれてしまう。
【0043】
一方、図2の領域の境界辺上では、3つのフラッシュ装置F1〜F3のうちいずれか1つがゼロとなり、三角形の頂点ではいずれか2つがゼロとなる。
【0044】
通常の写真撮影に使用される光源の範囲は、電球光が最も色温度が低くて2500K duv(黒体放射線偏差)=0.0000程度、蛍光灯は2800K〜7000K duv=0.000〜0.020、太陽光4800K〜5500K duv=0.000〜0.007、雲散乱光(曇り)5500K〜7500K duv=0.000〜0.007、青空散乱光(晴天日陰)7000K〜15000K duv=0.000〜0.007であり、木漏れ日等の緑かぶりがあると、例えば6000K duv=0.015と偏差が大きくなることがある。
【0045】
これらを考慮に入れた上で、たいていの環境光をカバーできるようにフラッシュ光の色度を決定するのが望ましい。
【0046】
図2の実線曲線は、黒体放射線軌跡を表している。実際に撮影に用いられる環境光は、この黒体放射線軌跡上に存在することが多い。図2の例では、環境光を表す色度座標がフラッシュ光で囲まれる領域の外に位置しており、このままでは、フラッシュ装置F1〜F3のいずれかのフラッシュ光の発光量が負の値になってしまう。そこで、例えば、図3のように、各フラッシュ装置F1〜F3の色度座標u,vを設定すると、図4のように点F1〜F3で囲まれる領域が図2とは異なったものになり、その結果、たいていの環境光の色度座標を、3つのフラッシュ光で囲まれる領域内に収めることができる。
【0047】
このように、色度がそれぞれ異なるフラッシュ光を発光する3つのフラッシュ装置F1〜F3を用いる場合は、色度図上で必ず三角形の領域が得られるため、この領域内であれば任意の色度に調整可能であり、3つのフラッシュ光を合成した光の色度を環境光と同一または近似させることができるようになる。
【0048】
次に、2つのフラッシュ装置F1,F2のみを備えた場合について説明する。フラッシュ装置F1,F2が2つだけの場合は、色度図上で、二次元的な領域を形成することはなく、2つのフラッシュ光の色度座標を結ぶ1本の線分になる。したがって、この線分上に、黒体放射線軌跡上の環境光が位置するように、フラッシュ装置F1,F2の光源の色温度を設定する。例えば、フラッシュ装置F1,F2の色温度を2500Kと6500Kに設定する。
【0049】
フラッシュ装置F1,F2が2つの場合は、以下の(10)〜(12)式が成り立つ。
【0050】
fR=f1×R1+f2×R2 …(10)
fG=f1×G1+f2×G2 …(11)
fB=f1×B1+f2×B2 …(12)
【0051】
フラッシュ装置F1〜F3が3つの場合は、3行3列の行列mが必要であったが、2つの場合の行列mは3行2列となる。したがって、2行3列の疑似逆行列m(inv)を用いて、フラッシュ光の発光量比率fは、以下の(13)式で求められる。
【0052】
f=m(inv)×e …(13)
【0053】
上記(13)式において、f=(f1,f2)は二次元ベクトルであり、2つのフラッシュ装置F1,F2のフラッシュ光の発光比率を表している。
【0054】
なお、フラッシュ装置は、4つ以上設けてもよい。4つ以上のフラッシュ装置がある場合は、その中から3つの組合せのすべてにおいて、上述した(9)式にて3つのフラッシュ光の発光比率fを求める。そして、fの各要素f1〜f3がいずれも負にならない3つのフラッシュ光の組合せのいずれかを選択して発光させるか、あるいは、負にならない組合せの各フラッシュ光の発光比率を加算して発光比率を求め、その発光比率に基づいてすべてのフラッシュ装置F1〜F3を同時に発光させてもよい。また、すべての組合せが負の値を含む場合は、負の値の絶対値が最も小さい組合せを選択すればよい。
【0055】
次に、フラッシュ発光量決定部11の処理動作を説明する。
【0056】
フラッシュ発光色決定部9で求まった各フラッシュ光の発光量比率f1:f2:f3で同時発光を行う場合のガイドナンバーが計算できれば、一つのフラッシュ光とみなして、発光量制御を行うことができる。
【0057】
そこで、各フラッシュ装置F1〜F3をフル発光させた場合のガイドナンバーGN1,GN2,GN3を予め計測しておく。
【0058】
各フラッシュ装置F1〜F3が発光量比率f1:f2:f3を維持しながら、最大の光量で発光する条件は、発光量比率を定数倍した値がいずれかのフラッシュ装置F1〜F3のフル発光量に達した場合であり、これをmax(f1,f2,f3)と記述することにする。各フラッシュ装置F1〜F3の最大発光に対する発光量は、f1/max(f1,f2,f3)、f2/max(f1,f2,f3)、f3/max(f1,f2,f3)となる。これを同時最大発光と呼ぶ。このときのガイドナンバーは以下の(14)式で表される。
【0059】
GN=(f1×GN1+f2×GNF2+f3×GN3)/max(f1,f2,f3)
…(14)
【0060】
(14)式は、3つのフラッシュ装置F1〜F3を同時発光させた場合のガイドナンバーであり、これにより、3つのフラッシュ装置F1〜F3を同時発光させた場合でも、1つのフラッシュ光と同様に露出制御を行うことができる。
【0061】
デジタルカメラの感度がISO=100、被写体距離がd、絞り値がFNoの場合、最大発光に対する発光量比率μは以下の(15)式で表されることが知られている。
【0062】
μ=(FNo×d/GN) …(15)
【0063】
したがって、各フラッシュ装置F1〜F3のフル発光に対する発光量比率μ1〜μ3はそれぞれ以下の(16)〜(18)式で表される。
【0064】
μ1=μ×f1/max(f1,f2,f3) …(16)
μ2=μ×f2/max(f1,f2,f3) …(17)
μ3=μ×f3/max(f1,f2,f3) …(18)
【0065】
図5は第1の実施形態に係るフラッシュ光発光色決定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、光源色検出部8にて環境光の特定を行い(ステップS1)、その検出結果を三次元ベクトル値eに代入する(ステップS2)。次に、フラッシュ装置F1〜F3を同時発光させた場合に、予め計測してある各フラッシュ装置F1〜F3の単独発光時の撮像素子1で捉えられるデジタル画素データRGB値を取得し(ステップS3)、上述した(9)式に示す3行3列の行列mの逆行列m(inv)を計算する(ステップS4)。
【0066】
次に、上述した(9)式に基づいて、フラッシュ光の発光量比率fを計算する(ステップS5)。これにより、各フラッシュ光の発光量比率を決定できる。発光量比率を決定するということは、発光色を決定することを意味する。したがって、上述したステップS5で計算された発光量比率で発光するよう、フラッシュ発光量制御部FC1〜FC3にて各フラッシュ装置F1〜F3を制御することにより、各フラッシュ光を環境光の色度に同一または近似する発光色で発光させることができる。
【0067】
図5のフローチャートは、3つのフラッシュ装置F1〜F3を用いた場合の処理手順を示しているが、2つのフラッシュ装置F1〜F2を用いる場合は、上述した(13)式に基づいて各フラッシュ光の発光量比率を計算すればよい。また、4つ以上のフラッシュ装置F1〜Fnを用いる場合も、上述したように、基本的には、図5のフローチャートに沿った処理手順を繰り返すことで対応可能である。
【0068】
このように、第1の実施形態では、被写体周辺の環境光を特定するとともに、色度がそれぞれ異なる複数のフラッシュ装置F1〜F3を同時発光させた場合に撮像素子1が捉えるデジタル画素データを予め取得しておき、これらを用いて、各フラッシュ装置F1〜F3の発光量比率を計算するため、環境光の色度と同一または近似する発光色で各フラッシュ装置F1〜F3を発光させることができる。
【0069】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、被写体距離が短くて、かつ被写体周辺の環境光の明るさがフラッシュ光に比べて十分に暗い場合を念頭に置いたものである。
【0070】
被写体距離が短くて、環境光が十分に弱い場合は、フラッシュ光が支配的となり、ほぼフラッシュ光だけで撮影が行われる。例えば、ほぼ真っ暗の中で撮影する場合や、人物をクローズアップして撮影する場合のように被写体が近い場合である。これらの場合、環境光の影響が小さいので、フラッシュ光の色度をどのように設定しても問題ない。ただし、撮影画像のホワイトバランスをフラッシュ光の発光色に合わせないと、発光色に色かぶりが生じるため、ホワイトバランス処理部4は、フラッシュ光の発光色に応じたホワイトバランス調整を行う必要がある。
【0071】
ところで、通常の撮像素子1は、色チャネルごとに感度が異なっている。例えば、RGBの原色フィルタによるカラーセンサーの場合、Gが最も感度が高く、RとBは感度が低い。このため、RとBはホワイトバランス処理部4によって増幅処理を行う必要がある。RとBの感度が低いのは、カラーフィルタを透過する光の波長の帯域が狭いことに起因するが、この帯域を広くすると、色が薄くなり、色分離性能が低下する。例えば、CMYやCMYGの補色系センサーでは、各色チャネルの帯域が広いことから、感度は高いが、色再現性の点では劣っている。逆に、原色系センサーでは、RとBを増幅する際に、RとBチャネルに乗ったノイズも同時に増幅し、色ノイズが大きくなるという問題がある。
【0072】
このような問題は、フラッシュ光の発光色(色度)を変化させることにより、軽減することができる。原色系センサーの場合、RとBの色チャネルが大きくなるようにフラッシュ光の色度を制御する。より具体的には、フラッシュ光がピンク色またはマゼンダ色で発光すると、ホワイトバランス処理部4でのRとBの増幅率を下げることができる。
【0073】
その結果、画像に乗る色ノイズを減らすことができ、画質が向上する。特に、人間の肌色は、彩度や色相の変化に対して敏感であり、クローズアップで人物を撮影した際に肌の荒れが目立たない撮影が可能となる。
【0074】
本明細書では、撮像素子1の各チャネルの感度差を小さくする発光をピンク発光と呼ぶ。撮像素子1によっては、必ずしもピンクに発光させることが最適とは限らないが、現在広く使用されているRGB原色系センサーでは、RとBの感度がGに比べて低いので、最適な発光色はピンクになることから、ピンク発光と名付けることにした。
【0075】
本実施形態では、ピンク発光を行うべきかどうかを判断するために、フラッシュ光が支配的になる撮影条件を判断するピンク発光判定を行う。この判定では、被写体のBv(Brightness Value:輝度値)、被写体距離d、自動露出AEで決定された絞りFNo、シャッタ速度、ETm(露光時間)、およびフラッシュ装置F1〜F3の発光量(ここでは、実発光量のガイドナンバーGNとする)に基づいて、ピンク発光を行うべきか否かを判定する。
【0076】
ここで、感度値Sv=log2(ASA/3.125)とすると、フラッシュ光が発光されない場合の適正露出の絞り値Avは、シャッタ速度Tv=−log2(ETm)とすると、以下の(19)式が成り立つことから、この式を変形することで、(20)式が得られる。
【0077】
Bv=Tv+Av−Sv …(19)
Av=Bv−Tv+Sv …(20)
【0078】
ここで、フラッシュ光のみの場合の適正露出の絞り値は、以下の(21)式で表される。
【0079】
AvFlash=2×log2(GN×sqrt(ASA/100)/d) …(21)
【0080】
絞り値AvがAvFlashよりも十分に小さい場合はフラッシュ光が支配的となるため、例えば、絞り値AvがAvFlashよりも3EV以上小さい場合、すなわちAv<AvFlash−3の場合にピンク発光を行うと判定する。
【0081】
ピンク発光を行った場合は、発光色度から計算したホワイトバランスゲインをホワイトバランス処理部4に渡す。なお、上記の説明では、ピンク発光を行うか行わないかで2つの処理を切り替える例を説明したが、ピンク発光と通常の光源色に合わせた発光との中間の発光を行うようにしてもよい。
【0082】
次に、ピンク発光時のフラッシュ発光量決定部11の処理動作を説明する。RとBが大きくなるように発光すれば耐ノイズ効果があるが、本実施形態では、フラッシュ光を受けた真っ白な被写体で、R=G=Bとなる色度を設定することにした。これは、先の計算で、eR=eG=eBとなることに等しいので、例えばeR=eG=eB=1として、上述した(16)〜(18)式の計算を行って発光量比率μ1〜μ3を求める。このとき、f1〜f3に負の値が含まれる場合はゼロとする。
【0083】
上述の計算により、発光量比率μ1〜μ3を求める際に、f1〜f3に負の値が含まれていない場合は、ホワイトバランスゲインは、GainR=1、GainG=1、GainB=1となるのは自明である。f1〜f3のいずれか1つか2つが負の値をとる場合は、負の値をゼロにした上で、上述した(1)〜(3)式を再度計算し、以下の(22)〜(24)式にてホワイトバランスゲインを求め、その結果をホワイトバランス処理部4に渡す。
【0084】
GainR=fG/fB …(22)
GainG=1 …(23)
GainB=fG/fB …(24)
【0085】
図6は第2の実施形態に係るフラッシュ光発光色決定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、被写体の輝度Bv値、被写体距離d、絞りFNo、シャッタ速度、露光時間ETm、およびフラッシュ装置F1〜F3の発光量GNを検出し(ステップS11)、その検出結果に基づいてピンク発光を行うべきか否かを判定する(ステップS12)。
【0086】
ピンク発光を行うべきと判定されると、ピンク発光時の環境光の基準色度ep=(1,1,1)を設定する(ステップS13)。ここでは、上述したように、フラッシュ光で照らされた白紙を撮像素子1で撮像したときのデジタル画素データがR=G=Bとなるように、環境光の基準色度epを定める。
【0087】
次に、基準色度epを三次元ベクトル値eに代入する(ステップS14)。次に、予め計測してある各フラッシュ装置F1〜F3の単独発光時の撮像素子1で捉えられるデジタル画素データRGBを取得し(ステップS15)、上述した(9)式に示す3行3列の行列mの逆行列m(inv)を計算する(ステップS16)。次に、上述した(13)式に基づいて、フラッシュ光の発光量比率fを計算する(ステップS17)。これにより、各フラッシュ光の発光量を決定できる。
【0088】
一方、ステップS12でピンク発光を行わないと判定されると、図5のステップS1〜S5と同様の処理が行われる(ステップS18〜S20、S17)。
【0089】
このように、第2の実施形態では、被写体距離が短くて、環境光が十分に弱くてフラッシュ光が支配的な場合は、撮像素子1の色チャネル間の感度差を考慮に入れて、感度差が低減されるように、フラッシュ光の発光色の調整を行うため、暗所での撮影であっても、撮像素子1の色ノイズを抑制できる。また、第2の実施形態では、フラッシュ光が支配的でない場合は、第1の実施形態と同様の処理を行うため、上述した効果、すなわち環境光の色度と同一または近似する発光色で各フラッシュ装置F1〜F3を発光させることが可能となる。
【0090】
(第3の実施形態)
夕焼けでは、夕焼け光を基準にホワイトバランス調整をせず、意図的に赤みを強調させた方が雰囲気のある写真が得られる。この場合、フラッシュ装置F1〜F3は、光源色検出部8で検出した光源色(4500K〜3500K)よりも青みがかった発光を行う。ホワイトバランス処理部4は、フラッシュ光の発光色をホワイトバランスするゲインが渡されるため、青みがかったフラッシュ光を白くするホワイトバランス調整が行われて、その結果、赤のゲインが大きくなり、被写体は正しい色に再現されるが、夕焼けはより赤く表現される。
【0091】
本実施形態では、被写体の輝度Bv値が大きく(例えばBv値≧6.0)、光源色検出部8で検出された色度が4500K〜3500Kの間にある場合、夕焼けと判断して、フラッシュ光が6000Kの色度となるように発光する。6000Kの発光を行うためには、予め6000Kの基準光源で白紙を撮影し、そのとき計測されたRGB値を環境光の値eとして、上述した(13)式を解いて、フラッシュ光の発光量比率を求めればよい。
【0092】
第3の実施形態は、撮影シーンに応じて、フラッシュ装置F1〜F3の発光色を調整することで、特定の色合いを強調させた撮影画像を得るものであり、撮影シーンは、夕焼けに限らず、種々のシーンが考えられる。最近のデジタルカメラの中には、撮影シーンの選択/特定を行う機能を備えたものがある。このような機能を利用して、例えば青空をバックに被写体を撮影する場合は、意図的に赤みを強めた発光色でフラッシュ撮影を行うことで、空の色をより青く仕上げることができる。
【0093】
このように、第3の実施形態では、撮影シーンに応じて、特定の色合いが強調されるように、フラッシュ光の発光量制御を行うため、夕焼けシーンであればより赤みを強調するなど、人目を引くインパクトのある撮影画像を得ることができる。
【0094】
(その他の変形例)
上述した実施形態では、複数のフラッシュ装置F1〜F3がデジタルカメラ内に内蔵されている例について説明したが、フラッシュ装置F1〜F3がデジタルカメラとは別個に設けられる場合であっても、デジタルカメラからフラッシュ装置F1〜F3の発光量制御が可能な場合は、上述した各実施形態の処理を行うことができる。
【0095】
上述した各実施形態において、環境光の色度に応じたフラッシュ光の発光量制御を行うか否かをメニュー画面や設定ボタン等で選択できるようにしてもよい。
【0096】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 撮像素子
2 A/D変換器
3 OB減算部
4 ホワイトバランス処理部
5 デモザイク・カラーマトリクス・トーン処理部
6 JPEGエンコーダ
7 画像データ記憶部
8 光源色検出部
9 フラッシュ発光色決定部
10 発光色可変フラッシュ装置
11 フラッシュ発光量決定部
FC1〜FC3 フラッシュ発光量制御部
F1〜F3 フラッシュ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子と、
前記撮像素子で撮像された画像データに基づいて被写体を照明する光源色を検出する光源色検出部と、
前記撮像素子で撮像された画像データと前記光源色検出部で検出された光源色とに基づいて、被写体を照明可能な発光装置の発光色を決定するフラッシュ発光色決定部と、
前記フラッシュ発光色決定部による決定結果に基づいて、前記発光装置内の複数のフラッシュ装置のそれぞれの発光量を制御するフラッシュ発光量制御部と、を備えることを特徴とするデジタルカメラ。
【請求項2】
前記フラッシュ発光色決定部は、前記複数のフラッシュ装置を同時発光させたときのフラッシュ光が前記光源色検出部で検出された光源色と同一または近似した色度になるように、前記発光装置の前記発光色を決定することを特徴とする請求項1に記載のデジタルカメラ。
【請求項3】
前記発光装置内の前記複数のフラッシュ装置は、それぞれの発光色度が異なっており、
前記フラッシュ発光量制御部は、前記複数のフラッシュ装置を同時発光させたときのフラッシュ光が前記光源色検出部で検出された光源色と同一または近似した色度になるように、前記フラッシュ発光色決定部による決定結果に基づいて前記複数のフラッシュ装置それぞれの発光量を個別に制御することを特徴とする請求項1または2に記載のデジタルカメラ。
【請求項4】
被写体周囲の環境光の明るさに対する前記複数のフラッシュ装置を同時発光させた場合のフラッシュ光の明るさの割合が所定の基準値を超えるか否かを判定する明暗判定部を備え、
前記フラッシュ発光色決定部は、前記明暗判定手段により前記基準値未満と判定されると、前記撮像素子の複数の色チャネル間での感度差がより縮小するように、前記発光装置の発光色を決定し、前記明暗判定手段により前記基準値以上と判定されると、前記光源色検出部で検出された光源色により近づくように、前記発光装置の発光色を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のデジタルカメラ。
【請求項5】
前記フラッシュ発光色決定部は、前記明暗判定手段により前記基準値未満と判定されると、前記複数のフラッシュ装置を同時発光させたときのフラッシュ光がピンク色になるよう、前記発光装置の発光色を決定することを特徴とする請求項4に記載のデジタルカメラ。
【請求項6】
被写体画像の赤みをより強調するか、または青みをより強調するかを選択する特定色強調選択部を備え、
前記フラッシュ発光色決定部は、前記特定色強調選択部にて赤みまたは青みの強調が選択された場合、該選択に応じて前記発光装置の発光色を決定し、前記特定色強調選択部による選択が行われなかった場合、前記光源色検出部で検出された光源色により近づくように、前記発光装置の発光色を決定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のデジタルカメラ。
【請求項7】
被写体の周囲を照明可能で色度がそれぞれ異なる発光装置の発光色を決定するフラッシュ発光色制御方法であって、
撮像素子で撮像された画像データに基づいて被写体を照明する光源色を検出するステップと、
前記撮像素子で撮像された画像データと前記検出された光源色とに基づいて、被写体の周囲を照明可能な前記発光装置の発光色を決定するステップと、
前記決定された発光色に基づいて、前記発光装置内の複数のフラッシュ装置のそれぞれの発光量を制御するステップと、を備えることを特徴とするフラッシュ発光色制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−141445(P2012−141445A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294019(P2010−294019)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(596046118)株式会社市川ソフトラボラトリー (19)
【Fターム(参考)】