説明

デジタル電文を使用した三線式軌道回路用の列車検知装置に付加する破断検知装置

【課題】3線式軌道回路において、従来手法の破断検知CTを用いた共通レールの破断検知では、検知能力が限定されており、また特別な検知用のCTが別途必要であった。
【解決手段】在来線と新幹線それぞれの列車検知回路に送信用MTと受信用MTを直列に付加し、在来線用および新幹線用のMTを流れるそれぞれの列車検知信号の受信レベルの組み合わせを判定する機能を設け、共通レールの破断によって発生する信号受信レベルの組み合わせを検出することによって、共通レールの破断を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道における列車検出装置のひとつである軌道回路のうち、3本のレールによって異なる軌間の列車を走行させる三線式軌道における軌道回路を対象とし、特に列車検知信号としてデジタル電文を使用する装置における、共通レールの破断を検知する破断検知装置に関する。
【0002】
三線式軌道回路においては、共通レールが破断した場合、在来線の専用レールと新幹線の専用レールとを経由する還流により、受信レベルがほとんど減衰せず、異常と判断することができない。
【背景技術】
【0003】
本発明に関する従来技術としては、破断検知CT(カレントトランス)を用いた破断検知手法がある。通常の軌道回路では、レール破断が発生した場合は列車検知信号が流れなくなり、受信レベルが減衰するために、軌道回路が落下状態となり、軌道回路は安全側に遷移する。
【0004】
しかし、三線式軌道回路では、従来の軌道回路と異なり、3本目のレールが列車検知信号の回路となるため、共通レールの破断が発生した場合でも、信号が他のレールを流れて信号の受信レベルが十分に減衰しない。よって三線式軌道回路では、レール破断の状態によっては軌道回路が落下せずに安全側に遷移しない可能性がある。
【0005】
そこで、従来技術では、図5に示すように、三線式軌道回路に適用する列車検知装置において、在来線と新幹線それぞれの列車検知用回路に三巻線カレントトランス2を直列に付加し、それらの出力を合成した信号を検出する破断検知CTを用いている。平常時は、破断検知CTの出力は在来線と新幹線それぞれの信号を合成した信号を出力しているが、共通レールが破断した場合には、前記カレントトランスに流れ込む列車検知信号の向きが変化し、その合成した信号の受信レベルが大きく減衰する。よってこの信号レベルを監視することで共通レール破断を検知するとしている。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、共通レールと標準軌専用レールと狭軌専用レールと2台のインピーダンスボンドZB11,ZB22とで三線式の軌道回路を形成し、標準軌用信号電流検出器と狭軌用信号電流検出器により列車検知信号の信号電流を検出してレールの破断を検知する三線式軌道回路の発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−53134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記技術では、軌道回路の電流漏れ、在来線と新幹線の信号レベルのアンバランス、または、ケーブル混触等により、他の軌道回路への列車検知信号が回りこんできた場合に、共通レール破断時においても、破断検知CTからの受信レベルが十分に減衰しない可能性がある。また、破断検知の閾値の設定が軌道回路ごとの条件を考慮して細かく設定しなくてはならない可能性がある。
【0009】
ケーブル混触等により、他の軌道回路への列車検知信号が回りこんできた場合を考慮すると、軌道回路毎にケーブルを分けるか、混触を検知する装置を設置する必要がある。これらの手法を取らなければならないことは、設備費用、メンテナンスコストの削減を考慮したとき、大きな負担となる。
【0010】
また、上記引用文献1記載の技術では、2台のインピーダンスボンドZB11,ZB22と標準軌用信号電流検出器と狭軌用信号電流検出器を必要となり装置構成が複雑で大掛かりなものになるという問題点があった。
【0011】
本発明の目的は、軌道回路の漏れ状態などの各種条件が異なっていたり、ケーブル混触等により、カレントトランスからの受信レベルが十分に減衰しない場合に、前記の負担を負うことなく、異常を判断できる手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の破断検知装置は、列車検知用信号にデジタル電文を使用した三線式軌道回路用の列車検知装置に付加する破断検知装置であって、在来線と新幹線それぞれの列車検知用回路に送信用MTと受信用MTを直列に付加し、在来線と新幹線が共通で使用する共通レールが破断した場合に、前記受信用MTからの受信レベルが大きく減衰することで前記共通レールの破断を検知すると共に、前記三巻線カレントトランスから受信する信号を復調し、復調できない場合又は復調信号が不正な内容である場合には、該当軌道回路を落下とすることで安全側制御とすることを特徴とする。
【0013】
本発明では、列車検知装置においては、列車検知用の信号として、デジタル電文を使用している。カレントトランスにおいても、このデジタル電文を受信するので、この受信した信号を復調することで、復調できない又は不正な内容である場合には、異常と判断して該当軌道回路を落下とし、安全側制御とする。
【0014】
電文の復調は、カレントトランスからの受信レベルを受信するデジタルシグナルプロセッサ(以下、「DSP」という)で行い、正常/異常の判断は、列車検知装置の核となる論理部で行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、破断検知CTを設置しなくても共通レールの破断を検知することが可能となる。また、ケーブル混触等により、他の軌道回路への列車検知信号が回りこんできた場合でも、軌道回路毎にケーブルを分けるか、混触を検知する装置を設置するといった対応をしなくても、異常を判断することができる。なお前記の対応を併用することで、より高信頼性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例の構成を示す図である。
【図2】図2は、平常時の列車検知信号の流れを示す図である。
【図3】図3は、共通レール破断時の列車検知信号の流れを示す図である。
【図4】図4は、レール破断判定条件を示す図である。
【図5】図5は、従来の破断検知方式の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0018】
図1に、本発明の構成を示す。送信用MT6,7から軌道に送信された列車検知信号は、受信用MT8,9で受信され、その受信レベルや位相などの各種計測情報は破断検知機能1に伝送される。在来線用MT,新幹線用MTそれぞれについて同様である。
【0019】
破断検知機能1に伝送された受信レベルや位相などの各種計測情報は、DSP10により電文の復調処理が行われ、論理部11において、復調できない場合又は復調信号が不正な内容である場合には、該当軌道回路を落下とすることで安全側制御とする。
【0020】
図2は、レールに異常がない平常時の列車検知信号の主な流れを示している。この図では新幹線用の信号を示している。この信号はMTが電気的に接続している在来線用のMTにもわずかながら流れているが、図2では省略している。
【0021】
図3は、共通レールに異常がある場合の列車検知信号の流れである。図3で示した流れが破断によって遮断されるため、在来線MTへの回りこみ信号が増加し、回路全体のインピーダンスが増加するので、新幹線MTで観測される信号レベルは低下する。
【0022】
図4は、観測されるレベルの変化とレール破断の判定の関係を示している。
平常時、破断時のレベルについて一定の範囲があるのは、天候変動などによる軌道状態の変化によるものである。この変動が大きい場合、天候変動による受信レベルの変化と、レール破断によるレベルの変化とが、単純な閾値設定では区別できない可能性がある。
【0023】
図4では横軸だけの判定では、領域が重複していることからこれがわかる。本発明では、在来線側の受信レベルの変化についても同時に判定することにより、平常時と破断発生時の信号レベルの変化を区別することが可能となる。なお、ここでのレベルの符号については、信号の位相によって判定することが可能である。
【0024】
図4の説明では、受信レベルの組み合わせの2次元領域での判定としたが、電圧・電流・インピーダンスを入力とすることにより、多次元領域での判定も同様に実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、鉄道における信号保安装置のうち、特に三線式軌道を採用している信号保安装置への適用が可能である。また、無絶縁軌道回路のように、列車検知信号や列車制御信号が複数の受信装置に回り込む可能性がある信号保安装置については、本発明と同様の手法を用いて、装置の故障を検知することが可能である。
【0026】
例えば、軌道回路への打ち込み点に接続するケーブルが脱落した場合などでも、軌道回路に接続する信号送信装置および受信装置からみたインピーダンスが変化するため、受信装置で直接受信している信号、または回り込みで受信している信号のレベルが変化する。各装置で検知される信号レベルの組み合わせを、あらかじめ故障や異常パターンに対応して、検出できるようにすることによって、従来は単純に軌道回路異常としていた故障や見逃されていた故障についても検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 破断検知機能
2 三巻線カレントトランス
3 新幹線用レール
4 在来線用レール
5 共通レール
6 送信用MT
7 送信用MT
8 受信用MT
9 受信用MT
10 DSP
11 論理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車検知用信号にデジタル電文を使用した三線式軌道回路用の列車検知装置に付加する破断検知装置において、在来線と新幹線それぞれの列車検知用回路に送信用MTと受信用MTを直列に付加し、在来線と新幹線が共通で使用する共通レールが破断した場合に、前記受信用MTからの受信レベルが大きく減衰することで前記共通レールの破断を検知すると共に、前記三巻線カレントトランスから受信する信号を復調し、復調できない場合又は復調信号が不正な内容である場合には、該当軌道回路を落下とすることで安全側制御とすることを特徴とする破断検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の破断検知装置において、在来線と新幹線それぞれの列車検知用回路で検出する列車検知信号の強さの組み合わせを判定し、前記共通レールの破断を検出することを特徴とする破断検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−976(P2011−976A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146017(P2009−146017)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】