説明

デュアル発光及びエレクトロクロミック装置

複合エレクトロクロミック及びエレクトロルミネセント装置が少なくとも1個の画素101〜104を有する。各画素は、導電性表面105を有する基板107と、導電性表面上に配置された電気化学活性対電極層110とを含む。対電極110上には、電解質を提供する電解質層115が配置されている。電解質層115上には、導電性層125が配置されている。導電性層125上には、電気活性層130が配置され、電気活性層は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミック活性作用電極の両方を提供し、導電性層125は、それを通じての電解質の輸送を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ装置、より具体的には、低光環境において発光され、十分な光が利用できる場合はその色を変えることのできるディスプレイ等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射アクティブ・マトリックス駆動ディスプレイは公知であり、各種の反射ディスプレイが知られている。反射ディスプレイは、低電力消費という大きな利点を有するが、十分な周辺光がある場合にしか見ることができない。この問題を解決する方法の一つとして、暗条件下で操作するためのフロントライト又はバックライトを備えることがある。この形態の照明では、画質の低下及び電力消費量の増大を招く。特に、フロント照明は、ディスプレイを反射モードで使用する場合、表示する画像の明るさやコントラスト等に影響を及ぼす虞がある。
【0003】
エレクトロルミネセント発光表示素子を用いるマトリクスディスプレイも公知である。その表示素子は、有機ポリマー及び分子を用いる有機薄膜エレクトロルミネセント素子、或いは、従来のIII〜V半導体化合物を用いる発光ダイオード(LED)を有する。最近の有機エレクトロルミネセント材料の開発、具体的には、ポリマー材料の開発にあって、特にビデオディスプレイでのそれらの使用可能性が示されている。これらの材料は、主に、一対の電極間に挟まれた1以上の半導体性共役ポリマーの層を有し、一方の電極は透明であり、他方はポリマー層中にホール又は電子を注入するのに好適な材料からなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、視覚ディスプレイは、低周辺光環境下で良好に動作する発光ディスプレイ(例えば、TVスクリーン及びコンピュータCRT)、又は、視覚のため周辺光を必要とする用途における吸収及び反射ディスプレイ(エレクトロクロミック)として動作する。周辺光レベルは、例えば、暗状態と明状態とが入れ代わる環境において大きく変動する。従って、そのような環境において、従来の発光ディスプレイは、吸収及び反射ディスプレイの使用を可能にする低エネルギー消費のため十分な周辺光がある期間、動作のためにかなりのエネルギーを消費する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複合エレクトロクロミック及びエレクトロルミネセント装置は、画素アレイ等の少なくとも1つの画素を有する。各画素は、導電性表面を有する基板、導電性表面上に配置された電気化学活性対電極層、対電極上に配置された電解質を提供する電解質層、及び電解質上に配置された導電性層を有する。導電性層上には、電気活性層が配置されている。電気活性層は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミック活性作用電極の両方を提供し、その導電性層は、それを通じて電解質の輸送を提供する。活性層上には、光学的に透明な電極層が配置されている。
【0006】
本発明の一実施形態では、導電性層は、多孔質膜を有し、導電性材料は、その膜の上面に配置され、導電性材料の一部が膜の中に侵入している。膜の裏面には、少なくとも1つの裏面コンタクトトレースが配置され、膜の上面に配置された導電性材料が、膜から裏面コンタクトトレースへと至る箇所で導電性材料を含む導電チャネルによって接続されている。
【0007】
導電性層は、多孔質電極であってもよい。一実施形態において、電気活性層は、エレクトロルミネセンスを提供する第1の材料及びエレクトロクロミズムを提供する第2の材料を含む。別の実施形態において、電気活性層は、金属錯体又はエレクトロルミネセント及びエレクトロクロミックポリマー等、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する単一材料を含む。金属錯体は、好ましくは、ポリマーマトリクス中で混合されている。電気活性層は、ポリ(ビス−OR8−フェニレン−N−OR7−カルバゾール)又はポリ(OR−チオフェン−N−OR7−カルバゾール)等のエレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムを提供する新規材料を含む。
【0008】
作用電極は、陰極着色性ポリマー又は陽極着色性ポリマーを含む。電解質層は、ゲル電解質又は固体電解質を含む。固体電解質は、イオン伝導性ポリマー含有錯体を含み、その錯体は、少なくとも1種類の溶解金属塩を内部に有する少なくとも1種類のポリマーを含む。そのようなポリマーには、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)、メトキシエトキシエトキシ置換ポリホスファゼン及びポリエーテルに基づくポリウレタン等がある。
【0009】
電源装置は、好ましくは、導電性表面と導電性層との間、及び導電性層と光学的に透明な電極層との間で接続されている。電源装置は、少なくとも1つのスイッチを有する切換式電源装置であって、更に、周辺光のレベルを感知する光センサと、スイッチを閉じて周辺光が所定の閾値レベル以下である場合にエレクトロルミネセンスを提供し、周辺光が所定の閾値レベルより高い場合にエレクトロクロミズムを提供する構造を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
添付の図面とともに下記の詳細な説明を参照することで、本発明ならびに本発明の特徴及び利点についての理解が深まるであろう。
図1は、ディスプレイ画素101〜104のアレイを有する複合エレクトロクロミック及びエレクトロルミネセントディスプレイ100を示す。簡単にするため、4個の画素を示している。多くの実際の用途で、ディスプレイ100が提供する画素の数は、数百、数千となる。ディスプレイ100は、矢印170によって表されるように、光を上方に放出又は反射するよう配置されている。
【0011】
各画素101〜104は、導電性表面105を有する基板及び支持体107、導電性表面105上に配置された電気化学活性対電極層110、及び対電極層110上に配置され、電解質を提供する電解質層115を含む。電解質層115上には、導電性層125が配置されている。導電性層125上には、電気活性層130が配置されている。電気活性層130は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する(「作用電極」)。導電性層125は、それを通じて電解質層115により提供される電解質のイオン輸送と、電気活性層130への電気的コンタクトとを提供する。導電性層125は、通常は、多孔質導電性材料であるが、かならずしもそうあるとは限らない。電気活性層130上には、光学的に透明な電極層140が配置されている。透明電極層140上には、適宜の光学的に透明なカバー層(不図示)を配置してもよい。
【0012】
第1の電源装置155が、導電性表面105と導電性層125の間に接続されている。第2の電源装置160が、導電性層125と光学的に透明な電極層140との間に接続されている。当業者にとって、第1の電源装置155及び第2の電源装置160に代えて、単一の切換式電源装置(不図示)を使用できることは明らかである。多くの用途では、可視域において光学的透明性が必要とされる。
【0013】
ディスプレイ100は、加えられるバイアスに応じてエレクトロルミネセント(EL)モード又はエレクトロクロミック(EC)モードで動作される。従って、装置100の画素101〜104は、電源装置155、160による電圧の印加方式に基づいて、光を放出するか(発光)、又は色を変化させる(エレクトロクロミズム)ことができる。エレクトロルミネセンスの場合、層125、140を横切って電源装置160により印加される電圧は、少なくとも、電気活性層130を含む特定のエレクトロルミネセント材料がエレクトロルミネセンスを可能にする臨界電場を発生させるのに十分なものでなければならない。エレクトロクロミズムの場合、電源装置155により対電極110及び作用電極130に対して印加される電圧は、エレクトロクロミック活性作用電極材料の酸化還元状態を対電極110に関して電気化学的に変化させるものである。エレクトロルミネセンスとは異なり、得られるエレクトロクロミック状態は、印加電圧を維持しなくとも保持することができる。
【0014】
好ましい実施形態において、導電性表面105は、基板及び支持体層107を被覆するAu層等の金属層からなる。基板及び支持体層107上に配置された導電性表面105は、光学的に不透明であることで反射表面を提供することができる。対電極110は、非常に広範囲の電気化学活性材料から選択することができる。好ましい実施形態において、対電極110は、電気化学活性ポリマー材料を含む。
【0015】
一実施形態において、電解質層115は、ポリ(メタクリル酸メチル)及び塩であるLiClOを含むアセトニトリル(ACN)溶液等のゲル電解質からなる。特定の用途にあっては、高粘度ゲル電解質を本発明の装置に組み込むことで、非常に有効なエレクトロクロミズムをもたらす一方で、限定的な発光しか生じないことが認められている。ELモードでは、ある種のゲルが発光を消失させてしまうと考えられている。これは、実施例に記載されるように、電解質を除去すると強い発光が観察されるものの、エレクトロクロミズムが観察されないことからも明らかである。
【0016】
別の実施形態において、電解質層115は、固体電解質であってもよい。固体電解質を用いて、全て固体のセルに変換することで、ある種のゲル電解質で観察されるEL消光を解消できるものと予想される。本発明で使用可能なものとして各種の固体電解質が挙げられる。極性ポリマーホストとして、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)、メトキシエトキシエトキシ置換ポリホスファゼン、ポリエーテルをベースとするポリウレタン、及び金属塩を溶解させると共にイオン伝導性錯体を付与する他の同様のポリマー等がある。代表的な金属塩として、アルカリ、及び非求核性アニオン(テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、トリフ酸イオン及びビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等)とのアルカリ塩(Li+、Na+、Cs+等)等がある。通常は、10−5〜10−4S/cmの室温伝導率が得られ、それは、本発明に係る多くの用途で十分なものとなる。高温で、これらポリマーにより到達できる比較的高いイオン伝導率によって、エレクトロクロミック切換速度を高めることができる。
【0017】
導電性層125は、電解質層115によって提供される電解質のイオン輸送を提供する。好ましい実施形態において、導電層125は多孔質導電層である。本明細書で定義されるように、「多孔質基板」又は「多孔質電極」との表現は、表面に液体が浸透可能な材料を指す。
【0018】
公知の材料として、本質的に多孔質な導電性物質がある。それとは別に、十分に薄い場合、非多孔質材料の中で多孔質としてよいものもある。例えば、約5〜10nm(50〜100Å)未満の金層は、本明細書で定義されるように多孔質に含まれる。
【0019】
多孔質電極が必要な電池の分野で、公知の方法を用いることによって、非多孔質材料から多孔質導電性層を形成することもできる。例えば、多孔質電極を製造する方法の一つとして、多孔質基板(発泡体又は編組み繊維)上に金属(例えば、ニッケル)をメッキし、基板を焼成して微細多孔質金属構造を残存させる方法がある。その製造方法は、メッキ方法であることから、他のメッキ方法と同じ特徴を有する。さらに別の方法として、複数の開口を有するように非多孔質材料を形成又はパターニングすることもできる。
【0020】
好ましい実施形態では、例えば、多孔質基板の正面に導電性材料を成膜することによって、多孔質基板(不図示)上に導電性層125が配置される。従来のように、導電層125を有する画素に接触するコンタクトパッドへの導電性トレースを、多孔質基板の表側に配置することもできる。それとは別に、コンタクトパッドへの導電性トレースを多孔質基板の裏面に配置することができる。裏面コンタクトの場合、多孔質基板の頂部に配置された導電性材料を含む導電チャネルを、多孔質基板を通じて、基板の裏面上の導電性トレースに接続することもできる。2005年9月29日に公開された「多孔質基板上のパターニングされた電極のコンタクト方法及びそれによる装置」という表題の米国特許出願第20050210672号明細書には、多孔質基板の態様が記載されており、これは、本発明の発明者を含む発明者によるものである。そのような配置は、多孔質金属化基板上のパターニングされた作用電極への裏面コンタクトを可能とすることで、反射エレクトロクロミック装置の外観及び密度の両方を大きく向上させることができる。
【0021】
多孔質基板を用いる場合、対電極層110(導電層105を介して)と作用電極130との間にバイアスが印加される。作用電極130へのコンタクトは、多孔質基板(不図示)から導電層125に至り層130に到達する正面又は裏面トレース(不図示)へのコンタクトによって提供される。多孔質基板として、例えば、オスモニクス社により提供される平均孔径が10μmであるポリカーボネート膜又は濾紙が挙げられる。
【0022】
電気活性層130の代表的な厚さは、50〜500nmである。上記のように、電気活性層130は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する。第1の実施形態において、電気活性層130は、エレクトロルミネセンスを提供する第1の材料、及びエレクトロクロミズムを提供する第2の材料を含む。第1及び第2の材料を混ぜたり(混合)、互いに積層したり、又は表面上で(例えば、ストライプ又は画素として)パターニングしたりしてもよい。
【0023】
図2(a)は、MEH−PPV、PPP及びPFOを含む例示的なエレクトロルミネセントポリマー、並びに、PEDOT、Ppy及びPANIを含む例示的なエレクトロクロミックポリマーの構造を示す。1以上のエレクトロルミネセントポリマーを1以上のエレクトロクロミックポリマーと共に用いることで、個々の代表的なポリマー構造が上記の機能を良好に果たすように、電気活性層130に必要な所望のエレクトロクロミック及びエレクトロルミネセンスを提供することができる。
【0024】
好ましい実施形態において、電気活性層130は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミック活性作用電極材料の両方を提供する単一材料からなる。図2(a)は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する材料の例を示し、それらには、P3OT及びポリ(ビス−EDOT−Et−Cz)が含まれている。
【0025】
図2(b)は、別の例として、本発明によるエレクトロクロミック及びエレクトロルミネセント装置用のエレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する材料の組成物を示す。第1の種類の材料として、金属錯体が挙げられる。Ru(bpy)(PFトリス(2,2′−ビピリジル)ルテニウム[II]ヘキサフルオロホスフェート、及びRu(bec−bpy)(PFトリス[ビス(エトキシカルボニル)−2,2′−ビピリジン]ルテニウム[II]ヘキサフルオロホスフェートが、図2(b)に示されるこの種類の金属錯体の例であり、それらは単独で用いてもよく、不活性ポリマーマトリクス中に混合して用いてもよい。
【0026】
第2の種類の材料として、新規エレクトロルミネセントポリマーが挙げられる。図2(b)は、この種類のポリマーの例として、ポリ(ビス−OR8−フェニレン−N−OR7−カルバゾール)、及びポリ(OR9−チオフェン−N−OR7−カルバゾール)に関する構造を示す。
【0027】
第3の種類の材料として、ポリマーマトリクスに混合されたエレクトロルミネセント及びエレクトロクロミック材料が挙げられる。図2(b)は、PMMA中に混合されたポリ(アルト−9−ジヘキシル−フルオレン−N−エチル−カルバゾール)、並びにPEO中に混合されたMEH−PPVを示す。
【0028】
光学的に透明な電極層140として、インジウムスズ酸化物(ITO)又はフッ素ドープ酸化スズ等の材料が挙げられる。それとは別に、PEDOT及びPSS等の光学的に透明な導電性ポリマーを用いることができる。
【0029】
図示しないが、ディスプレイは、ヤングらにより公開された米国特許出願第20030103021号に開示されているように、当業界で公知の画素駆動回路を含む。画素駆動回路(不図示)は、いずれの画素がオン又はオフ(ELモード)されるか、いずれの画素が中間色状態(ECモード)を含む特定の色状態とされるかを選択する。通常、ELがオフのとき色状態が用いられ、ELがオンのときECポリマーの初期は中間色である。ELモードでは、ECポリマーが着色され、透過性とされる。EC状態ではその色を維持するのにバイアスを必要としないとの理由から、EC状態はエネルギー節約モードであり、「メモリ」を有すると言われる。
【0030】
一実施形態において、対電極層110及び電気活性層130の両方が電気化学活性ポリマー材料を含む。電気活性層130は、陰極着色性又は陽極着色性ポリマーであってもよい。電気活性層130が陰極着色性ポリマーである場合、対電極110について層130に対し負バイアスが加えられると着色状態が生じる。電気活性層が陽極着色性ポリマーを含む場合、対電極110について層130に対し正バイアスが加えられると着色状態を生じる。
【0031】
陰極着色性ポリマーは、好ましくは、中性状態でバンドギャップ(Eg)≦2.0EVを与える。例えば、陰極着色性ポリマーは、アルキレンジオキシピロール又はアルキレンジオキシチオフェン等のポリ(3,4−アルキレンジオキシ複素環)を含むことができる。ポリ(3,4−アルキレンジオキシ複素環)は、PProDOT−(メチル)、PProDOT−(ヘキシル)又はPProDOT−(エチルヘキシル)等の架橋アルキル置換ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)を含むことができる。
【0032】
電気活性層130により提供される電気化学活性作用電極は、陽極着色性ポリマーであってもよい。例えば、PPVやPPP誘導体等、非常に広範囲に亘るそのような材料を利用することができる。
【0033】
「エレクトロクロミックポリマー及びポリマーエレクトロクロミック装置」という表題の米国特許第6791738号(738特許)には、バンドギャップが3.0eVよりも大きい高バンドポリマー等の半導体性エレクトロクロミックポリマーがいくつか記載されている。738特許の発明者は、本発明の発明者に含まれる。提供されるバンドギャップが可視領域からπ−π*吸収を排除する上で十分に高くなく、それゆえに、装置の透過状態に対して着色を生じるとの理由から、738特許以前に開示の電気化学活性陽極着色性ポリマーは、透過状態で光学的に透明無色ではない。例えば、そのようなポリマーのバンドギャップは2.7eV以下である。410nm(紫)光が光子エネルギー(E)約3eVに相当することから、光学的に透明であるため、陽極着色性ポリマーは、その中性状態で、少なくとも約3.0eVのバンドギャップを提供するものでなければならない(E=hc/λ;hはプランク定数であり、cは光速である)。本発明で使用するのに高バンドギャップポリマーは不要であるが、電気活性層130に対し高透過状態を提供でき、所定の用途において反射金属電極125を可視できるようにすることができる。
【0034】
EL材料は、非常に広範囲に亘る材料から選択することができる。例えば、EL材料は、図2(a)に示すようなMEH−PPV、PPP又はPFOであってもよく、図2(b)に示すようなEL及びECを提供する単一材料により提供されてもよい。
【0035】
本発明によるディスプレイは周辺光から独立して動作するとの理由から、本発明は、非常に広範囲の用途を有するものとして期待される。表面上での発光や色変化が望まれるあらゆる形態のディスプレイにとって、本発明は有効である。例示的な用途の幾つかを以下に示す。
【0036】
1.外部光源なしで昼夜視覚可能な公告及び標識。
2.明るい光、弱い光及び無光下で読むことができる電子ブック及び電子ペーパー。
3.周辺光から独立して視覚及び動作可能な緊急及び安全灯(例えば、スイッチング)。
【0037】
4.明るい光及び弱い及び無光のいずれの場合にも視覚可能なコンピュータ画面。
5.カモフラージュ。
6.PDA、携帯電話ディスプレイ及び関連機器。
【0038】
一つの例として、明るい光からトンネル内に繰り返し移動する汽車やバスにおいて画面上でPDAを使用する人を想定する。明るい光の下で、画面は、エレクトロクロミックモードで動作することができる。適切な酸化還元反応によって色変化が設定されれば、画素において電流を必要としないため、エレクトロクロミック装置は、本来は、エレクトロクロミックメモリーにより動作する。従って、エレクトロクロミック動作では、一定の電力消費を必要とする発光装置よりも使用するエネルギーが少ないため、システムで使用される電源装置、主にバッテリーの動作時間を延長することができる。暗いトンネルに進入すれば、ユーザ(又は何らかの光レベル閾値に基づく光センサ)がスイッチを発光モードに切り替えれば、ディスプレイは暗所でも見えるようになる。技術的に公知の光センサは、光ダイオード、光抵抗器、光トランジスタ又はCCD等の多様な装置に基づくものである。
【0039】
実施例
下記の具体的なシミュレーション例によって本発明をさらに説明するが、それらはいかなる形態でも本発明の範囲及び内容を制限するものと解釈すべきでない。
【実施例1】
【0040】
特定の種類の金属錯体のエレクトロクロミック特性及びエレクトロルミネセント特性の両方を利用するため装置を作製した。ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)及び金属錯体であるトリス(2,2′−ビピリジル)ルテニウム(II)ヘキサフルオロホスフェート([Ru(bpy)](PF)(図2(b))の原液をアセトニトリル中で33mg/mLの濃度と53mg/mLの濃度とにそれぞれ調製した。PMMAは、良好な薄膜形成特性を提供する不活性マトリクスとして機能する。これらの溶液を体積比1:3で混合した。この溶液から、2000rpmの速度でITOコートガラス上に複合体薄膜を回転成形して、厚さ100nmとした。ガラスITO基板上の薄膜を室温において真空下で1時間キープし、その後、減圧下で加熱して120℃とし、2時間加熱した。
【0041】
金の厚さが約100nmである多孔質金膜を薄膜の上面に配置した。少量の電解質を多孔質金膜上に展着させた。PEDOTを、金の上に電気化学的に成膜した。MYLAR(登録商標)を金に対向する最上部に配置し、対電極材料110として機能させた。2個の金電極及びITO電極へのコンタクトを銅バンドによって作製した。多孔質金膜及びITOを発光電気化学的セルモードで装置を運転するための電極としてアクセスし、ITO及び金MYLAR(登録商標)電極を利用してエレクトロクロミックモードで装置を運転した。
【実施例2】
【0042】
上記のようにエレクトロクロミズム及びエレクトロルミネセンスの両方を提供する材料であるMEH−PPVを用いて装置を作製した。重量比が1:1:0.18である5mg/mLのポリ[2−メトキシ−5−(2′−エチル−ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(トリフ酸Li)の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液から、ITOコートガラス上に2000rpmの速度で複合体薄膜を回転成形して、厚さ200nmとした。ガラスITO基板上の薄膜を真空下で80℃、1時間加熱した。
【0043】
金の厚さが約100nmである多孔質金膜を薄膜の上面に配置した。少量の電解質を多孔質金膜上に展着させた。PEDOTを、金の上に電気化学的に成膜した。MYLAR(登録商標)を金に対向する最上部に配置した。2個の金電極及びITO電極へのコンタクトを銅バンドによって作製した。多孔質金膜及びITOを発光電気化学的セルモードで装置を運転するための電極としてアクセスし、ITO及び金MYLAR(登録商標)電極を利用してエレクトロクロミックモードで装置を運転した。
【実施例3】
【0044】
図3は、デュアルEL及びECを形成する作製ステップの説明を容易にするためその一部を分離して示す本発明のデュアルEL及びEC装置300を含む層の例を示す。図3中でEC及びELと示すように、バイアスが印加される場所に応じて、装置300は、色を変化させるか(ECモード)、或いは発光する(ELモード)。このことは、EL動作及びEC動作の両方が電気活性層315(MEH−PPV)を必要とするとの理由から可能である。ELモードは、発光材料と混合したイオン伝導性材料を用いることができる。ECモードは、ゲル電解質として示されるイオン輸送層320を用いる。電気活性層315は、その上に薄い金層318を有する。このハイブリッドEL及びEC装置300において中間電極として上部に金335を有する多孔質膜(基板)330を用いることにより、電気化学活性層と装置外部への電気的コンタクトとの間でイオンを確実に高速移動させる。さらに、完成した装置において互いに隣接して配置される場合、電気活性層315上の薄い金層318が、膜330上の金層335とともに、良好な電気的コンタクトを有する金の単一層を効果的に提供する。酸化PXDOT340として示される対電極により、装置300の活性部が完成する。ガラス層361,362上の光学的に透明なITOが、装置300の活性部を狭持している。
【0045】
作製に関し、MEH−PPV、PEO(図2(b)に化学構造を示す)、及びリチウムトリフレート(各化学構造は下記を参照)の混合物を、ジクロロエタンから、清浄なITO及びガラス(約2.54cm×約2.54cm(1インチ×1インチ))基板上で回転成形し、電気活性MEH−PPV層315を形成した。高真空下(約4×10−7Torr)で、マスクを介し、MEH−PPV層315上に、金の薄層(約10nm)318を蒸着した。微細多孔質膜330(孔径が約10μm)上に100nmの金335を成膜することで、中間コンタクトを形成した。その後、中間コンタクトをMEH−PPV層315上に押圧することで、金層318、335間の電気的コンタクトを確保した。PXDOT(構造は下記に示す)の薄膜を、別々にITO及びガラス基板上に成膜し(電気化学的重合又は溶液成形)、電気化学的に酸化して対電極340を形成した。この対電極340を、イオン伝導性ゲル電解質320の薄層によって分離した中央コンタクト(表を下にして)上に配置した。
【0046】
【化1】

橙赤色及び赤色状態と透明薄青色状態との間でパターニングEL及びEC装置300(共に押圧した後)のエレクトロクロミック動作の写真を記録した。パターニング金コンタクト(コンタクト面積=0.07cm)を用いて、装置を+1Vと−1Vの間で切り替えた。中央コンタクト335を介した作用電極315と、ITO362を介した対電極340との間に+1Vを印加したとき、MEH−PPV作用電極層315は酸化状態となり、PXDOT層340が還元されて、装置が変色し、MEH−PPVの薄青色と、下層にあるPXDOT層340の青色とを示した。この切り替えにより、一連の操作を繰り返すことで可逆的であることが明らかとなった。
【0047】
図4(a)は、10秒間に亘り±1Vを印加し、時間に対して電流をモニタリングしたときの装置の電流−電圧特性を示す。切り替え時間により、電流の減衰から約3秒であることを確認した。最大電流値は約0.1mAであり、ポリマーに基づくエレクトロクロミック装置では代表的な値である。図4(b)は、可視領域における2つの極端な状態(±1V)でのこの装置の反射率スペクトラムを示す。−1Vの場合、MEH−PPV層は中性であり、反射率は、約510nmであり最小である。バイアスを+1Vに切り替えた場合、MEH−PPVが酸化され(漂白)、510nmで相対的に高い反射率(相対的に低い吸収)値を生じる。これによっても、下のPEDOT層の着色が生じ、580nmより上の波長での反射率の値が低くなる。
【0048】
EL操作のため装置にバイアスを印加し、MEH−PPV層と中央コンタクトとの間に約6Vを印加した場合、装置が短時間発光し、続いて、MEH−PPV層が完全に酸化(変色)した。
【0049】
対照として、ゲル電解質層320が存在しない以外は、実施例3と同じ構成により別のEL及びEC装置を作製した。予想した通り、MEH−PPV作用電極層と対電極との間で電荷を移動させるイオン伝導性媒体が存在しないため、この装置では、エレクトロクロミズムを示さなかった。この装置のEL動作によって、予想した通り、パターニング金コンタクトからの発光(橙赤色)が生じた。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態を図示し、説明してきたが、本発明は、それに限定されるものではないことは明らかである。特許請求の範囲に記載の本発明の思想及び範囲を逸脱しない限り、当業者にとって、多くの修正、変更、改変、置換及び均等物をなしえるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による複数の画素を有するデュアル発光及びエレクトロクロミックディスプレイを示す図。
【図2】(a)は電気光学特性による共役ポリマーの例を示す図、(b)はエレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムを提供する材料のいくつかの種類を示す図。
【図3】デュアルEL及びECを形成する作製ステップの説明を容易にするためその一部を分離して示す本発明のデュアルEL及びEC装置を含む層の例を示す図。
【図4】(a),(b)は、2つの極端な状態(±1V)での本発明のEL及びEC装置の電気化学的スイッチング及び反射率スペクトラムを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの画素を有する複合エレクトロクロミック及びエレクトロルミネセント装置において、前記各画素は、
導電性表面を有する基板と、
前記導電性表面上に配置された電気化学活性対電極層と、
前記対電極上に配置された電解質を提供する電解質層と、
前記電解質上に配置された導電性層と、
前記導電性層上に配置された電気活性層であって、前記電気活性層がエレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミック活性作用電極の両方を提供し、前記導電性層がそれを通じて電解質の輸送を提供する電気活性層と、
前記活性層上に配置された光学的に透明な電極層と
を有する複合エレクトロクロミック及びエレクトロルミネセント装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記導電性層は、
多孔質膜と、
前記膜の上面に配置された導電性材料であって、前記導電性材料の一部が前記膜中に侵入している導電性材料と、
前記膜の裏面に配置された少なくとも1つの裏面コンタクトトレースであって、前記膜の上面に配置された前記導電性材料が前記膜から前記裏面コンタクトトレースへと至る箇所で前記導電性材料を含む導電チャネルによって接続されている裏面コンタクトトレースと
を含む装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記導電性層は多孔質電極である装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
エレクトロルミネセンスを提供する第1の材料と、エレクトロクロミズムを提供する第2の材料とを含む装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記少なくとも1つの画素が前記画素のアレイを含む装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記電気活性層は、エレクトロルミネセンス及びエレクトロクロミズムの両方を提供する単一材料を含む装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記単一材料は金属錯体を含む装置。
【請求項8】
請求項6記載の装置において、
前記単一材料は、エレクトロルミネセント及びエレクトロクロミックポリマーを含む装置。
【請求項9】
請求項7記載の装置において、
前記金属錯体は、ポリマーマトリクス中に混合されている装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記作用電極は陰極着色性ポリマーを含む装置。
【請求項11】
請求項1記載の装置において、
前記作用電極は陽極着色性ポリマーを含む装置。
【請求項12】
請求項1記載の装置において、
前記電解質層はゲル電解質を含む装置。
【請求項13】
請求項1記載の装置において、
前記電解質層は固体電解質を含む装置。
【請求項14】
請求項13記載の装置において、
前記固体電解質は、イオン伝導性ポリマー含有錯体を含み、
前記錯体は、少なくとも1種類の溶解金属塩を有する少なくとも1種類のポリマーを含む装置。
【請求項15】
請求項14記載の装置において、
前記ポリマーは、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)、メトキシエトキシエトキシ置換ポリホスファゼン及びポリエーテルをベースとしたポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種類を含む装置。
【請求項16】
請求項1記載の装置は、更に、
前記導電性表面と前記導電性層との間、及び前記導電性層と前記光学的に透明な電極層との間に接続された電源装置を備える装置。
【請求項17】
請求項1記載の装置において、
前記電気活性層は、ポリ(ビス−OR8−フェニレン−N−OR7−カルバゾール)又はポリ(OR−チオフェン−N−OR7−カルバゾール)を含む装置。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−517350(P2008−517350A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538063(P2007−538063)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/037893
【国際公開番号】WO2006/045043
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(500228159)ユニバーシティ・オブ・フロリダ・リサーチ・ファンデーション・インコーポレーテッド (13)
【Fターム(参考)】