デンプンの処理法
水結合特性を改良しつつ抵抗性が保持されるよう、高アミロースデンプンを処理する。生成物の粘度、抵抗性デンプンの含量、粒径、および分子量の変化がもたらされるよう、加熱とミクロ流動化によるデンプンの予備処理によってデンプンの機能を変える。処理したデンプンは食品グレードの抵抗性デンプンをもたらし、これらの抵抗性デンプンは、水と結合する能力、粘度を増大させる能力、ゲル化する能力、およびフィルムを形成する能力を有する。抵抗性デンプンは、脂肪代替成分として使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンの加工性と製品性能を向上させるための、デンプン(特に抵抗性デンプン)の機能修飾に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンは食品の特性に大きな影響を及ぼす。水分を保持する能力、増粘する能力、およびゲル化する能力は、質感の発現に寄与するデンプンの望ましい特性であり、これによりデンプンは貴重な食品成分となっている。デンプンの他の役割としては、エマルジョンを安定化させること、食品をコーティングすること、および影響されやすい成分の保護とターゲットデリバリーのために食物成分を封入することなどが挙げられる。デンプンは、2種のポリマー、すなわちアミロース(長鎖の線状ポリマー)とアミロペクチン(高度に分岐した高分子量ポリマー)で構成されている。アミロースとアミロペクチンとの比はデンプン供給源によって異なる。ある種のデンプンは、アミロースを全く含有しないよう遺伝学的に選定されている〔たとえばワキシーメイズデンプン(waxy maize starch)〕。デンプンは顆粒として存在し、デンプンが機能性を発揮するためには、水和し、膨潤し、そして熱にさらされる必要がある。攪拌しないで加熱調理すると、顆粒の膨潤が起こり、粘度が増大する。剪断力と攪拌は、一般には顆粒の破壊と粘度の低下を引き起こす。
【0003】
天然のデンプンは、プロセスの許容度が低く、腰の弱いペーストが得られるので、食品用途での使用が限定されている。デンプンを食品用途に対してより有用にするために、デンプンを誘導体化処理したり、あるいはデンプンに修飾を施したりすることができる。化学修飾を施したデンプンが多種あり、これらのデンプンに対しては、広範囲の食品用途が見出されている。化学修飾はデンプンに望ましい特性を付与することができるが、その一方で、デンプンを修飾するのに物理的処理を使用することに対して関心が高まっている。現在、予備ペースト処理と予備調理が施された予備ゲル化デンプン(pregelatinized starch)が市販されている。予備ゲル化デンプンは、低温で水和して粘度を増大させることができるので、簡単な食品において使用されているけれども、予備ゲル化デンプンの元のデンプンの場合よりは粘度が低い。
【0004】
食品用のバイオポリマーは、熱、剪断力、および高圧を加えることによって物理的に修飾することができる。小麦デンプンを60MPaにて25℃で15分にわたって高圧処理すると、膨潤特性が変わり、デンプン顆粒からアミロースが放出された(Douzals,J.P.,Perrier Cornet,J.M.,Gervais P.and Couquille J.C.,1998)。小麦デンプンの高圧ゲル化と圧力によって引き起こされるゲル(J.Agric.Food Chem 46,4824-4829)。トウモロコシデンプンや修飾トウモロコシデンプンに動的パルス圧力を加えると(70℃にて414〜620MPa)、溶融温度が低下したが、デンプン懸濁液の粘度は変わらなかった(Onwulata,C.I.and Elchediak,E.,2000)。動的パルス圧力によって処理したデンプンとファイバー(Food Research International 33,367-374)。ワキシーメイズデンプンの10%分散液を450〜600MPaの圧力で処理すると、一般には見掛け粘度が増大した(Stolt,M.,Stoforos,N.G.,Taoukis,P.S.and Autio,K.,1999)。高圧処理したワキシーメイズデンプン分散液のレオロジー特性の評価とモデリング(Journal of Food Engineering 40,293-298)。
【0005】
超音波処理は、小麦デンプンの分子量を低下させることが明らかになっている(Seguchi,M.,Higasa,T.and Mori,T.,1994)。超音波処理による小麦デンプンの構造の研究(Cereal Chemistry 71(6)636-639)。超音波を施した後に、ワキシーメイズデンプンの分解が観察された。分解は、デンプンのゲル化温度より高い温度で促進された(Isono,Y.,Kumagai,T.and Watanabe,T.,1994)。ワキシーコメデンプンの超音波分解(Biosci.Biotech.Biochem 58(10) 1799-1802)。マングビーンデンプン、ジャガイモデンプン、およびコメデンプンを超音波処理しても、重合度は変化しなかったが、これらデンプンの機能特性が超音波処理の影響によって変わり、デンプン分子中の結合が切れるより、むしろ膨潤した顆粒が壊れた(Chung,K.M.,Moon,T.W.,Kim,H.and Chun,J.K.,2002)。超音波処理したマングビーンデンプン、ジャガイモデンプン、およびコメデンプンの生理化学的特性(Cereal Chemistry,79(5) 631-633)。
【0006】
デンプンの特性を変える物理的方法が提唱されている。米国特許第5,455,342号は、デンプンとグアーガムの加圧処理について開示している。米国特許第5,945,528号は、高圧ホモジナイザーを使用することによって、狭い分子量分布を有するデンプン分解生成物を生成させることについて開示している。米国特許第6,048,563号は、酸性条件下にて高剪断力を使用することによって、低粘度と高ファイバー(high fibre)を有する機能修飾グアー生成物を製造することについて開示している。
【0007】
米国特許第6,689,389号は、デンプンを精製してタンパク質を除去するための洗浄・剪断処理、および分子量分布を低下させることについて開示している。
文献に記載の他の方法としては、高圧処理や超音波処理などがある。
【0008】
抵抗性デンプンは、小腸に吸収されないデンプンである。抵抗性デンプンは大腸に達し、そこで結腸の微生物叢によって発酵される。抵抗性デンプンは、ヒトの健康を維持する上での栄養成分として重要な役割を果たしている。
【0009】
抵抗性デンプンは加工するのが困難であり、成分の機能特性が良くない。これは主として、非抵抗性デンプンと比較して水結合特性が不十分だからである。
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、抵抗性デンプンの機能特性を、予測可能で且つ制御された仕方で変化させる新規の物理的方法を提供することにある。
この目的を達成するために、本発明は、高アミロースデンプンを、デンプンのゲル化温度より高い温度にて400バールより高い圧力で、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理する、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプンを得る方法を提供する。
【0011】
これらのプロセスパラメーターは、望ましい機能特性(たとえば、改良されたゲル化特性、増粘特性、および溶解性)が得られるように調整される。プロセシングの条件は、ゲル化や分解(retrogradation)に対して影響を与えることから、抵抗性デンプンの含量に影響を及ぼすことがある。
【0012】
本発明は、抵抗性デンプンを加熱したり、抵抗性デンプンにミクロ流動化を施したりすると、抵抗性デンプンの粘度、粒径、分子量、および熱的特性などの選択された特性が改良される、という発見にある程度基づいている。本発明の加圧処理は、ある範囲の食品用途や医薬用途において使用される場合には、かなりの抵抗性デンプン含量を保持しつつ、デンプンの望ましい特性の生成を可能にする(たとえば、50℃にて10cPsより高い粘度、抵抗性デンプンの含量が乾量基準にて30重量%より多い)。
【0013】
高圧均質化、ミクロ流動化、高圧プロセシング、および超音波の適用などの食品加工技術は、化学物質の使用に頼ることなくバイオポリマーの性能特性を変えることができる可能性があるので重要である。デンプンの性能特性を改良して差別化された特性を有する新規食品成分を得るために、他の処置の代わりに物理的プロセスを使用できることは、幾つかの利点を有する。物理的プロセスを使用する場合は、先行技術による多くのプロセスにおいて使用されている化学物質を使用する必要性がない。物理的改良プロセスは、よりクリーンでより環境に優しいプロセスである。物理的改良プロセスの利用は、環境をクリーンに保持することに益々重点が置かれつつある社会において有利であり、また食品加工において使用されている添加剤を減らすことにおいても有利である。
【0014】
デンプン顆粒を予備調理するために、高アミロースデンプンを改質するためのミクロ流動化を加熱と組み合わせて使用することは、これまでに提唱されていない。
先行技術による加圧処理とは対照的に、本発明のミクロ流動化プロセスは、粒子と小滴の均一な粒径減少を達成するために、明確な一定の形状のマイクロチャンネルを組み込んで設計された相互作用チャンバーと補助チャンバーを利用する。ミクロ流動化プロセスは、液体を2つのマイクロチャンネルに分けること、およびそれらを反応チャンバーにおいて再び合流させることを含む(反応チャンバーにて、液体コロイドの2つの噴流がキャビテーションを引き起こす)。均質化の場合と同じ圧力下にてミクロ流動化によって生成される生成物の粒径は、均一化による生成物よりやや小さく、またより狭い粒径分布を有する。
【0015】
他の態様においては、本発明は、高静圧処理または超音波処理を施すと、プロセシング後にかなりの抵抗性デンプン含量を保持しつつ、湿潤抵抗性デンプンの物理的特性が改良される、という発見に基づいている。
【0016】
本発明の方法は、デンプンのゲル化温度より高い温度を使用し、これらの温度は、一般には60℃〜160℃の範囲である。処理を行うのに必要な時間は、どのような特性変化を所望するかによって決まり、一般には30〜90分の範囲である。
【0017】
改良される特性は、デンプンの種類、加熱パラメーター、およびミクロ流動化パラメーターに応じて異なる。ミクロ流動化は、高圧処理や超音波処理によって得られるより大きな分子量変化をもたらすので好ましい加圧処理法である。圧力の範囲は400〜1000バールであるのが好ましい。
【0018】
他の態様においては、本発明は、高アミロースデンプンを、デンプンのゲル化温度より高い温度にて、400バールより高い圧力で、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理することによって得られる、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプンを提供する。こうして処理されたデンプンは、湿潤状態の成分として使用することもできるし、あるいは噴霧乾燥を含めた従来の任意の乾燥法によって乾燥して粉末にすることもできる。どちらの形態とも、処理されたデンプンは、種々の食品における脂肪代替品と同等の栄養価を有する食品成分として有用である。
【0019】
デンプンの特性を改良するためのプロセシング処理
ミクロ流動化の適用
予備的なミクロ流動化試験により、ミクロ流動化の前にデンプン懸濁液を90℃にて30〜60分熱処理しても、ジャガイモデンプンを除いた全ての抵抗性デンプンにおいて粘度はほとんど変化しないことがわかったので、その後の実験においては、ミクロ流動化の前にデンプンをより高い温度で加熱した(121℃にて60分)。これにより、ミクロ流動化の前にデンプンのゲル化が起こったことが確認された。
【0020】
特に明記しない限り、各デンプンの20%懸濁液(成分重量/総重量)を70℃の脱イオン水を使用して作製し、73×82mmの缶中に入れ、121℃にて60分熱処理して十分なゲル化を確実に起こさせた。ジャガイモデンプンの場合は、10%(成分重量/総重量)懸濁液にしてから熱処理に付した。これは、ジャガイモデンプンの開始温度が62.24℃であることが測定され、70℃の水に加えたときに生成物が増粘し始めるからであった。小麦デンプン、トウモロコシデンプン、およびワキシーメイズデンプンも、ジャガイモデンプンの場合と同様に増粘し、最大で10%(成分重量/総重量)の懸濁液として作製した。
【0021】
サンプルを60℃に加熱し、10%に希釈〔既に10%(成分重量/総重量)となっているジャガイモデンプン、小麦デンプン、トウモロコシデンプン、およびメイズデンプンは除く〕してから、425μmのQ50Z補助プロセシングモジュールと200μmのE230Z相互作用チャンバーとの組み合わせ〔分散と細胞破壊(cell disruption)のため〕を有するパイロットスケールのミクロフルイダイザーM210-EH-B(米国マサチューセッツ州ニュートンのMFIC社)を使用して、400バールまたは800バールにてミクロ流動化に付した。ミクロフルイダイザーに対する1回パスまたは3回パスを使用した。
【0022】
超音波処理または高静圧プロセシングの適用
ハイロン(Hylon VII)を、70℃の水中に直接分散させることによって最大で20%固体(デンプン成分重量/懸濁液総重量)となるよう作製し、73×82mmの缶中にて121℃で60分処理した。サンプルは、60℃にて最大で10%固体となるよう作製し、下記のように処理した:
ラボ超音波プロセッサー〔Hielscher UP400S(オーストラリア、イノベーティブ・ウルトラソニック社(Innovative Ultrasonics)〕を使用して、50ml/分にて380ワットで超音波処理。
【0023】
高圧プロセシングユニット〔QFP35L(Avure,USA)〕を使用して、6,000バールで15分にわたって高圧プロセシング。
デンプンの特性の特性決定
粘度
C-CC27/T200カップアタッチメント(cup attachment)とB-CC27/Q1ボブアタッチメント(bob attachment)を取り付けたPaar Physica MCR300レオメーター(Paar Scientific)を使用してデンプンの粘度を測定した。100ppmで作動し、生成物を30分で98℃に加熱し、98℃で30分保持し、10分で50℃に冷却し、そしてこの温度で3分保持するよう機器を設定した。ボブアタッチメントに作用する剪断力の変化を粘度単位(cP)として測定した。
【0024】
デンプンの種類とプロセシングの影響との間の比較を簡単にするために、50℃と98℃での粘度を、レオロジー特性の変化の指標として使用した。これらの指標は、温和な調理温度でのデンプンの挙動についての知見をもたらすからである。使用したデンプン液は、未加工デンプンの懸濁液と予備処理した湿潤デンプンの懸濁液であった。
【0025】
粒径の分析
Galai CIS-1〔パーティクル・アンド・サーフェス・サイエンスPty社(Particle and Surface Science Pty Ltd);測定は、タイム・オブ・トランジッション理論(time of transition theory)に基づいている〕を使用して、再構成されたハイロンVIIサンプル、小麦デンプンサンプル、トウモロコシデンプンサンプル、およびワキシーメイズデンプンサンプルの粒径分布を測定した。サンプルを水中に分散させ、小型の電磁攪拌機を取り付けたサンプルキャベット中に移し、Galai CIS-1中に装入して粒径を測定した。
【0026】
抵抗性デンプンの分析
メガザイム抵抗性デンプンアッセイ法(RSTAR11/02,AOACメソッド2002.02;AACCメソッド32-40)を使用して、粉末デンプン中の抵抗性デンプンの含量を測定した。各サンプルに対して2回分析を行った。サンプルを、水浴中にて振盪しながら膵アミラーゼおよびアミログルコシダーゼ(AMG)と共に37℃で16時間インキュベートし、この時間中に非抵抗性デンプンを可溶化し、これら2種の酵素の複合作用によってグルコースに加水分解させる。等体積のエタノールまたは工業用メチレーテッドスピリット(IMS,変性アルコール)を加えることによって反応を終結させ、RSを遠心分離によるペレットとして回収する。このペレットを水性IMSまたはエタノール(50%,v/v)中に懸濁させることによって2回洗浄し、次いで遠心分離にかける。
【0027】
上澄み液をデカンテーションによって除去する。ペレットを2MのHOH中に入れ、氷浴中にて電磁攪拌機で激しく攪拌することによって溶解する。この溶液を酢酸塩緩衝液で中和し、AMGを使用してデンプンをグルコースに定量的に加水分解させる。グルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ試剤(GOPOD)を使用してグルコースを測定し、これがサンプル中のRS含量の目安となる。初めの上澄み液と洗浄液をプールし、体積を100mlに調整し、そしてグルコース含量をGOPODで測定することによって、非抵抗性デンプン(可溶化デンプン)を測定することができる。
【0028】
フーリエ変換赤外線(FTIR)
本検討においては、FTIR法を使用してデンプン粉末の変化を特性決定した。FTIRから得られる構造データを使用して、デンプン成分の反応性アルデヒド基を推定した。予備処理したデンプンの分子量を、KBrマトリックス中に分散させたミクロ流動化サンプルから収集したFTIR吸光度から推定し、未加工デンプンの場合は、拡散無反射率吸光度の測定値を使用した。
【0029】
標準的なデキストラン(デキストラン10、40、150、および500)は、スウェーデンのアプサラのファルマシア社からのものを使用した。4mgの標準またはサンプルを315mgのKBr中に分散させ、瑠璃乳鉢と瑠璃乳棒で粉砕した。全ての粉末を、デシケーター中において減圧にてシリカゲル上で一晩乾燥してから分析した。8トン/cm2の圧力を2分間かけて、KBrディスクを作製した。サンプルと標準のそれぞれに対して2つのディスクを作製した。
【0030】
OMNIC EPSソフトウェアを組み込んだニコレット(Nicolet)モデル360スペクトロフォトメーター(ウィスコンシン州マジソン社)を使用して、FTIRスペクトルを記録した。KBrなしのバックグラウンドスペクトルのためのサンプルホルダーを使用し、各サンプルに対し、4000cm-1から500cm-1まで4cm-1の分解能にて32回スキャンを行った。
【0031】
吸光度単位でのスペクトルが得られるよう、サンプルのシングルビームスペクトルを得、サンプルホルダーのバックグラウンドスペクトルと対照して補正した。OMNIC EPSソフトウェアに利用可能なタンジェント法によって、補正したピーク高さ吸光度の測定値を得た。
【0032】
デンプンの赤外線スペクトルを、2つの主要な領域に関して検討した。アルデヒドのカルボニル基に直接結合したただ一つの水素の吸収は2929cm-1での吸収であり、アルデヒドカルボニルの吸収は1647cm-1での吸収であった。C-H伸縮振動とC=O伸縮振動のピーク高さ吸光度は、デンプンの分子量が減少するにつれて増大すると考えられる。補正したピーク高さ吸光度を、デキストラン標準物質の分子量に対してプロットした。
【実施例】
【0033】
(実施例1: ミクロ流動化した抵抗性デンプンの特性)
粘度
図1と図2は、湿潤状態のデンプンの粘度に及ぼすミクロ流動化の影響を示している。
【0034】
予測されるように、未加工の抵抗性デンプンの粘度はいずれも低かった(1.3〜2.3cP)。予測されるように、熱処理(121℃/60分)を行うと、デンプン懸濁液の粘度が増大した。温度が上昇するにつれて、デンブン顆粒の膨潤とゲル化が起こり、これと共に粘度が増大するからである。熱処理とミクロ流動化を組み合わせると、処理した抵抗性デンプンの懸濁液はいずれも粘度が著しく変化した。
【0035】
処理したデンプンの懸濁液
これらの懸濁液の粘度を図1と図2に示す。このケースでは、抵抗性デンプンを予備処理(すなわち、121℃での熱処理/ミクロ流動化)して、まだ液体状態(10重量%成分/懸濁液総重量)であるときに試験した。
【0036】
処理プロセス後における50℃での粘度
予備処理した抵抗性デンプンの50℃での粘度はいずれも、加熱すると元の未加工デンプンの粘度と比較して増大した(図1)。試験した全てのデンプンのうち、ジャガイモデンプンは、加熱すると最も高い粘度(511cPs)を有したが、他の抵抗性デンプンの粘度は4〜72cPsの範囲であった。加熱・ミクロ流動化デンプンの50℃での粘度は、デンプンの種類、ミクロフルイダイザーに対するパス回数、および圧力に依存した。加熱処理と800バールにて1回パスのミクロ流動化処理を施したデンプンの粘度は、一般には、加熱処理と400バールにて3回パスのミクロ流動化処理を施した対応するデンプンの粘度と同等であるか又はそれより低い、ということがわかった。実際的な観点から、同等程度の粘度が要求される場合は、800バールにて1回パスのミクロ流動化処理のほうが、400バールにて3回パスのミクロ流動化処理より好ましい。加熱処理した抵抗性デンプン〔ハイロン(Hylon)VII、Hi-メイズ、ノベロース(Novelose)260、ノベロース330〕にミクロ流動化を施すと、50℃(スタート)での粘度が増大し、そしてミクロ流動化の圧力が増大するにつれて粘度が増大した。加熱・ミクロ流動化処理したデンプンの粘度は、ハイロンVIIの場合が88〜717cPs、Hi-メイズの場合が14〜226cPs、ノベロース260の場合が73〜1160cPs、そしてノベロース330の場合が19〜561cPsであった。加熱デンプンのミクロ流動化によって得られる粘度増大は10〜1088cPsの範囲であった。こうした粘度増大は、デンプンの特性が顕著に変化していることを示している。ジャガイモデンプンの粘度に及ぼすミクロ流動化の影響は複雑であった。
【0037】
98℃での粘度(処理プロセスのあとに50℃に冷却してから98℃に加熱)
未加工デンプンと処理デンプンの98℃における粘度は、ハイロンVIIの場合が12〜49cPs、Hi-メイズの場合が2〜12cPs、ジャガイモデンプンの場合が40〜274cPs、ノベロース260の場合が2〜85cPs、そしてノベロース330の場合が5〜85cPsの範囲であった(図2)。これらの結果から、ノベロース260とHi-メイズ1043は、レオメーター中にて少なくとも98℃および100rpmまでは熱的に安定であって且つ剪断力に対して抵抗性があるが、他のデンプンはそうではない、ということがわかった。ジャガイモデンプンのミクロ流動化に対しては、未加工デンプンまたは加熱デンプンの場合と比較して、98℃にて粘度低下の傾向がみられた。ミクロ流動化デンプンに対する98℃での粘度低下傾向(400バール/1回パスと比較したときの400バール/3回パス)は、全てのRS2デンプンに対して明らかであった(すなわち、ハイロンVII、Hi-メイズ1043、およびノベロース260)。しかしながら、ミクロ流動化・加熱処理したノベロース260またはハイロンVIIに対する98℃での粘度低下傾向(図2)は、50℃での粘度に対して観察される傾向(図1)とは逆(ミクロ流動化が粘度の増大を引き起こした)であった。
【0038】
50℃での粘度(処理プロセスのあとに温度サイクル−50℃に冷却、98℃に加熱、そして50℃に冷却)
デンプン懸濁液を98℃から50℃に冷却すると、予測されたように、測定温度の低下による50℃(エンド)での粘度増大が見られた。デンプンの処理プロセス後に直接冷却した場合の50℃での粘度(図1)と温度サイクル後の50℃での粘度(図3)にかなり差があることがわかった。これは、温度サイクルにおいて、粘度の測定時にデンプン懸濁液を98℃で30分保持することによるものである(図1と図3を比較のこと)。
【0039】
これらの結果は、熱処理とミクロ流動化との組み合わせが、50℃と98℃の両方の温度における抵抗性デンプンの粘度を効果的に変える、ということを示している。実際的な関心という点から、ミクロ流動化が抵抗性デンプンの50℃での粘度を大幅に増大させるということは1つの発見である(ジャガイモデンプンの場合も推定される)。ミクロ流動化を使用すると、物理的処理の利用によるデンプンの粘度の変更が可能となる。こうした粘度増大は、デンプンが食品に質感を付与するために使用される場合は役立つ。さらなる利点は、デンプンを調理温度にて簡単に処理できるようになるという点である。これらの変化を使用して、食品工業における種々の用途向け(たとえば、低温増粘効果や高温低粘度化効果)のデンプンを設計することができる。加熱・ミクロ流動化処理が施された抵抗性デンプンの改良性能は、処理されたデンプンが、処理プロセス後に相当量の抵抗性デンプン含量を有していても確認された。
【0040】
デンプン処理プロセス後に液体状態における粘度が増大するが、乾燥プロセスが適切に制御されない場合は、乾燥時に粘度が幾らか低下することがある。しかしながら、デンプンの乾燥に関する当業者であれば、乾燥処理したデンプン粉末が得られるよう、デンプンの機能性低下を抑えることができる。
【0041】
ミクロ流動化デンプンの抵抗性デンプン含量
噴霧乾燥した抵抗性デンプンの抵抗性デンプン含量を表1に示す。これらの結果から、処理したデンプン(Hi-メイズ1043、ハイロンVII、ノベロース260、およびノベロース330)が、相当量の抵抗性デンプンを保持していることがわかる。これらのデンプンの殆どが、アミロース含量の高いデンプンであった。例外はジャガイモデンプン(20%だけ含有するリン酸化デンプン)であって、抵抗性の殆どが失われた。
【0042】
【表1】
【0043】
湿潤加熱デンプンと加熱・ミクロ流動化デンプンの抵抗性デンプン含量(%乾量基準)は、湿潤処理デンプンが噴霧乾燥によって粉末に転化した後においては同等であった(表2)。
【0044】
【表2】
【0045】
ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの粒径
加熱処理デンプンとミクロ流動化処理デンプンの粒径を表3に示す。これらの処理は、デンプンの粒径の減少を引き起こした。
【0046】
【表3】
【0047】
ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの分子量
噴霧乾燥した抵抗性デンプンの平均分子量は処理によって低下し、このことは、施された処理の結果として結合の切断が起こったことを示している(図4〜8)。
【0048】
(実施例2: 高圧プロセシングまたは超音波によって処理した抵抗性デンプンの特性)
処理したデンプンの選定された特性を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
プロセシング後に、最初の抵抗性の約60%が保持される。粒径のデータから、処理したデンプンの粒径が減少していることがわかる。デンプンの平均分子量も減少している(図9)。
【0051】
(実施例3: ミクロ流動化処理した非抵抗性穀類デンプンの特性)
非抵抗性デンプンを処理すると、非抵抗性デンプンの特性が変化した(表5、図10)。
【0052】
【表5】
【0053】
処理後に抵抗性デンプンの含量が増大し、これに伴って粒子の粒径が減少した。図10は、処理によって小麦デンプン分子内の結合の切断が引き起こされたことを示している。
修飾デンプン成分の製品における性能
修飾した抵抗性デンプン成分の改良された性能を実証するために、新規成分を湿潤状態にて使用して数多くの製品例を配合作製した。
【0054】
(実施例4: ヨーグルト中のミクロ流動化抵抗性デンプン成分の性能)
抵抗性デンプンをミクロ流動化処理すると、抵抗性デンプンをヨーグルト中に加えることが可能となる。未加工のハイロンVIIと処理したハイロンVII(加熱・ミクロ流動化800バール/1回パス)を使用した。
【0055】
脱脂粉乳を必要とされる総固形分(9〜12重量%)にもどし、400rpmにて攪拌しながら85℃で30分加熱し、次いで43℃に冷却した。デンプンは、培養物を加える前、または発酵の後に加えた。培養物〔ストレプトコッカス・サーモフィリス(Streptococcus Thermophilis)ST2とラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)LB1との3:2の比の混合物〕を加え、ヨーグルトミルク混合物を、pHが4.6に達するまで43℃にて発酵させた。ヨーグルトを4℃に冷却し、300rpmで攪拌し、次いで4℃で保存した。発酵後(after fermentation; AF)にデンプンを加える必要がある場合のヨーグルトに対しては、デンプンを加えてから攪拌した。
【0056】
一定の総固形分におけるヨーグルトの特性を表6に示す。これらの結果から、ミクロ流動化デンプンを加えると、ヨーグルトの特性が改良されることがわかる。高粘度とシネレシスに対する改良された抵抗性は、ヨーグルトにおける望ましい特性である。さらに、デンプン中の抵抗性デンプン物質は栄養特性に寄与する。ミクロ流動化デンプン成分を使用して作製されたヨーグルトは、滑らかな質感を有した。本実施例は、処理した成分を使用して、ヨーグルトにおける水結合特性と質感発現を向上させることを説明している。
【0057】
【表6】
【0058】
(実施例5: ミクロ流動化抵抗性デンプンを含有するデンプンゲルデザート)
加熱・ミクロ流動化処理(800バール/3回パス)したデンプンをゲルデザート中に使用するという本実施例は、修飾デンプン成分がゲル化剤として機能できることを示している。
【0059】
加熱・ミクロ流動化処理したハイロンVII(固形分10%)と砂糖(10重量%)を含有する配合物を60℃で混合し、モールド中に入れ、4℃で24時間保存した。スタンドアップデザート(a stand-up dessert)が形成される。本実施例から、加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンは、簡単なゲルデザート用の成分として使用することができ、これを使用することで、デザートに室温で安定なしっかりしたゲルがもたらされる、ということがわかる。
【0060】
(実施例6: ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンを組み込んだアイスクリーム)
アイスクリームにおける脂肪代替品としての使用が有望な用途であると考えられており、この場合、抵抗性デンプンを加えることで、製品の物理的特性を悪化させることなく、脂肪非含有のアイスクリームを作製することができる。本実施例では、アイスクリーム製品において、未加工のハイロンVIIまたは処理した抵抗性デンプン(加熱し、800バール/3回パスにてミクロ流動化処理)が、乳脂肪、乳化剤、および安定剤の代わりに使用されている。
【0061】
使用したアイスクリーム混合配合物を表7に示す。これらの混合物を、低温殺菌し、4℃で一晩エージングし、次いでアイスクリームメーカー(サンビーム社)中でかき混ぜた。アイスクリームは、−20℃にて7日間硬化させた。
【0062】
【表7】
【0063】
アイスクリームの物理的特性を表8に示す。
【0064】
【表8】
【0065】
処理(加熱・ミクロ流動化)した抵抗性デンプンは、オーバーラン、混合物の粘度、および堅さを増大させつつ、そして室温での溶融を遅くさせつつ、質感に全く悪影響を及ぼすことなくアイスクリーム製品用の脂肪代替物として適切に使用することができる。
【0066】
(実施例7: ミクロ流動化処理したデンプン成分を含有する低脂肪スプレッド)
処理したハイロンVII(加熱および800バール/3回パスでのミクロ流動化)を組み込んだ40%脂肪スプレッドを作製した。処理したデンプンは、スプレッドの唯一の“水性”成分であった。試験は、パイロットスケールのGerstenberg and Aggerスプレッドプラント(フェーズインバーターが組み込まれている)にて行った。
【0067】
表9に記載の配合処方にしたがって18.33kgのエマルジョンを作製した。
【0068】
【表9】
【0069】
実現性に関してのみ製品を作製したので、配合に着色剤や風味剤は使用しなかった。先ず、全ての油溶性成分をブレンダーに加え、処理したデンプン(総固形分10%の懸濁液として)と食塩混合物(salt mixture)を、激しく攪拌しながら徐々に加えた。
【0070】
エマルジョン(脂肪分はわずか40%)を作製すると、パイロットプラントによって容易に処理された安定な油性連続相エマルジョンが得られた。製品は、プラントに対して普通の背圧を使用して適切に充填することができた。最終製品の顕微鏡検査により、従来のスプレッドと同等のエマルジョン特性(水性小滴の殆どが3〜5ミクロンの範囲、一部の小滴が最大で10ミクロン)を有することがわかった。
【0071】
最終製品のスプレッド適性は極めて良好であり、従来のスプレッドに劣らなかった。スプレッディング作用の繰り返しで生じる剪断力が加えられている間に、エマルジョンから水が分離しているという証拠は観察されなかった。本製品は、デンプンに付きものの固有の風味を有した。
【0072】
(実施例8: 水溶性生物活性物質の封入)
選定した生物活性物質は加水分解した乳清タンパク質であった。2.44%の加水分解乳清タンパク質と9.76%の加熱・ミクロ流動化処理したハイロンVIIを含有する湿潤配合物(総固形分12.2%)を作製し、ラボスケールのドライテック(Drytec)噴霧乾燥機(入口温度180℃;出口温度80℃)中にて乾燥した。ソリッドステートの13C-CPMAS(交差分極マジック角回転)NMRスペクトルにより、粉末サンプル中における加水分解乳清タンパク質の存在が実証された(図11)。
【0073】
上記の説明から、本発明は、栄養上の利点と、従来の脂肪代替成分がもつ簡単なプロセシング特性とを有する、ユニークな成分を提供していることがわかる。当業者にとっては言うまでもないことであるが、本発明は、デンプン原料の種類と所望する機能特性に応じて、多くの異なったやり方で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の50℃での粘度を示している。
【図2】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の98℃での粘度を示している。
【図3】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の50℃での粘度を示している(50℃に冷却、98℃に加熱、次いで50℃に冷却、という温度サイクル後)。
【図4】ミクロ流動化処理によるHi-メイズ1043の鎖長の減少を示している。
【図5】ミクロ流動化処理によるハイロンVIIの鎖長の減少を示している。
【図6】ミクロ流動化処理によるノベロース260の鎖長の減少を示している。
【図7】ミクロ流動化処理によるジャガイモデンプンの鎖長の減少を示している。
【図8】ミクロ流動化処理によるノベロース330の鎖長の減少を示している。
【図9】種々のプロセシング法によるハイロンVIIの鎖長の減少を示している。
【図10】ミクロ流動化処理による小麦デンプンの鎖長の減少を示している。
【図11】ソリッドステートの13C-CPAS(交差分極マジック角回転)NMRスペクトルを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンの加工性と製品性能を向上させるための、デンプン(特に抵抗性デンプン)の機能修飾に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンは食品の特性に大きな影響を及ぼす。水分を保持する能力、増粘する能力、およびゲル化する能力は、質感の発現に寄与するデンプンの望ましい特性であり、これによりデンプンは貴重な食品成分となっている。デンプンの他の役割としては、エマルジョンを安定化させること、食品をコーティングすること、および影響されやすい成分の保護とターゲットデリバリーのために食物成分を封入することなどが挙げられる。デンプンは、2種のポリマー、すなわちアミロース(長鎖の線状ポリマー)とアミロペクチン(高度に分岐した高分子量ポリマー)で構成されている。アミロースとアミロペクチンとの比はデンプン供給源によって異なる。ある種のデンプンは、アミロースを全く含有しないよう遺伝学的に選定されている〔たとえばワキシーメイズデンプン(waxy maize starch)〕。デンプンは顆粒として存在し、デンプンが機能性を発揮するためには、水和し、膨潤し、そして熱にさらされる必要がある。攪拌しないで加熱調理すると、顆粒の膨潤が起こり、粘度が増大する。剪断力と攪拌は、一般には顆粒の破壊と粘度の低下を引き起こす。
【0003】
天然のデンプンは、プロセスの許容度が低く、腰の弱いペーストが得られるので、食品用途での使用が限定されている。デンプンを食品用途に対してより有用にするために、デンプンを誘導体化処理したり、あるいはデンプンに修飾を施したりすることができる。化学修飾を施したデンプンが多種あり、これらのデンプンに対しては、広範囲の食品用途が見出されている。化学修飾はデンプンに望ましい特性を付与することができるが、その一方で、デンプンを修飾するのに物理的処理を使用することに対して関心が高まっている。現在、予備ペースト処理と予備調理が施された予備ゲル化デンプン(pregelatinized starch)が市販されている。予備ゲル化デンプンは、低温で水和して粘度を増大させることができるので、簡単な食品において使用されているけれども、予備ゲル化デンプンの元のデンプンの場合よりは粘度が低い。
【0004】
食品用のバイオポリマーは、熱、剪断力、および高圧を加えることによって物理的に修飾することができる。小麦デンプンを60MPaにて25℃で15分にわたって高圧処理すると、膨潤特性が変わり、デンプン顆粒からアミロースが放出された(Douzals,J.P.,Perrier Cornet,J.M.,Gervais P.and Couquille J.C.,1998)。小麦デンプンの高圧ゲル化と圧力によって引き起こされるゲル(J.Agric.Food Chem 46,4824-4829)。トウモロコシデンプンや修飾トウモロコシデンプンに動的パルス圧力を加えると(70℃にて414〜620MPa)、溶融温度が低下したが、デンプン懸濁液の粘度は変わらなかった(Onwulata,C.I.and Elchediak,E.,2000)。動的パルス圧力によって処理したデンプンとファイバー(Food Research International 33,367-374)。ワキシーメイズデンプンの10%分散液を450〜600MPaの圧力で処理すると、一般には見掛け粘度が増大した(Stolt,M.,Stoforos,N.G.,Taoukis,P.S.and Autio,K.,1999)。高圧処理したワキシーメイズデンプン分散液のレオロジー特性の評価とモデリング(Journal of Food Engineering 40,293-298)。
【0005】
超音波処理は、小麦デンプンの分子量を低下させることが明らかになっている(Seguchi,M.,Higasa,T.and Mori,T.,1994)。超音波処理による小麦デンプンの構造の研究(Cereal Chemistry 71(6)636-639)。超音波を施した後に、ワキシーメイズデンプンの分解が観察された。分解は、デンプンのゲル化温度より高い温度で促進された(Isono,Y.,Kumagai,T.and Watanabe,T.,1994)。ワキシーコメデンプンの超音波分解(Biosci.Biotech.Biochem 58(10) 1799-1802)。マングビーンデンプン、ジャガイモデンプン、およびコメデンプンを超音波処理しても、重合度は変化しなかったが、これらデンプンの機能特性が超音波処理の影響によって変わり、デンプン分子中の結合が切れるより、むしろ膨潤した顆粒が壊れた(Chung,K.M.,Moon,T.W.,Kim,H.and Chun,J.K.,2002)。超音波処理したマングビーンデンプン、ジャガイモデンプン、およびコメデンプンの生理化学的特性(Cereal Chemistry,79(5) 631-633)。
【0006】
デンプンの特性を変える物理的方法が提唱されている。米国特許第5,455,342号は、デンプンとグアーガムの加圧処理について開示している。米国特許第5,945,528号は、高圧ホモジナイザーを使用することによって、狭い分子量分布を有するデンプン分解生成物を生成させることについて開示している。米国特許第6,048,563号は、酸性条件下にて高剪断力を使用することによって、低粘度と高ファイバー(high fibre)を有する機能修飾グアー生成物を製造することについて開示している。
【0007】
米国特許第6,689,389号は、デンプンを精製してタンパク質を除去するための洗浄・剪断処理、および分子量分布を低下させることについて開示している。
文献に記載の他の方法としては、高圧処理や超音波処理などがある。
【0008】
抵抗性デンプンは、小腸に吸収されないデンプンである。抵抗性デンプンは大腸に達し、そこで結腸の微生物叢によって発酵される。抵抗性デンプンは、ヒトの健康を維持する上での栄養成分として重要な役割を果たしている。
【0009】
抵抗性デンプンは加工するのが困難であり、成分の機能特性が良くない。これは主として、非抵抗性デンプンと比較して水結合特性が不十分だからである。
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、抵抗性デンプンの機能特性を、予測可能で且つ制御された仕方で変化させる新規の物理的方法を提供することにある。
この目的を達成するために、本発明は、高アミロースデンプンを、デンプンのゲル化温度より高い温度にて400バールより高い圧力で、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理する、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプンを得る方法を提供する。
【0011】
これらのプロセスパラメーターは、望ましい機能特性(たとえば、改良されたゲル化特性、増粘特性、および溶解性)が得られるように調整される。プロセシングの条件は、ゲル化や分解(retrogradation)に対して影響を与えることから、抵抗性デンプンの含量に影響を及ぼすことがある。
【0012】
本発明は、抵抗性デンプンを加熱したり、抵抗性デンプンにミクロ流動化を施したりすると、抵抗性デンプンの粘度、粒径、分子量、および熱的特性などの選択された特性が改良される、という発見にある程度基づいている。本発明の加圧処理は、ある範囲の食品用途や医薬用途において使用される場合には、かなりの抵抗性デンプン含量を保持しつつ、デンプンの望ましい特性の生成を可能にする(たとえば、50℃にて10cPsより高い粘度、抵抗性デンプンの含量が乾量基準にて30重量%より多い)。
【0013】
高圧均質化、ミクロ流動化、高圧プロセシング、および超音波の適用などの食品加工技術は、化学物質の使用に頼ることなくバイオポリマーの性能特性を変えることができる可能性があるので重要である。デンプンの性能特性を改良して差別化された特性を有する新規食品成分を得るために、他の処置の代わりに物理的プロセスを使用できることは、幾つかの利点を有する。物理的プロセスを使用する場合は、先行技術による多くのプロセスにおいて使用されている化学物質を使用する必要性がない。物理的改良プロセスは、よりクリーンでより環境に優しいプロセスである。物理的改良プロセスの利用は、環境をクリーンに保持することに益々重点が置かれつつある社会において有利であり、また食品加工において使用されている添加剤を減らすことにおいても有利である。
【0014】
デンプン顆粒を予備調理するために、高アミロースデンプンを改質するためのミクロ流動化を加熱と組み合わせて使用することは、これまでに提唱されていない。
先行技術による加圧処理とは対照的に、本発明のミクロ流動化プロセスは、粒子と小滴の均一な粒径減少を達成するために、明確な一定の形状のマイクロチャンネルを組み込んで設計された相互作用チャンバーと補助チャンバーを利用する。ミクロ流動化プロセスは、液体を2つのマイクロチャンネルに分けること、およびそれらを反応チャンバーにおいて再び合流させることを含む(反応チャンバーにて、液体コロイドの2つの噴流がキャビテーションを引き起こす)。均質化の場合と同じ圧力下にてミクロ流動化によって生成される生成物の粒径は、均一化による生成物よりやや小さく、またより狭い粒径分布を有する。
【0015】
他の態様においては、本発明は、高静圧処理または超音波処理を施すと、プロセシング後にかなりの抵抗性デンプン含量を保持しつつ、湿潤抵抗性デンプンの物理的特性が改良される、という発見に基づいている。
【0016】
本発明の方法は、デンプンのゲル化温度より高い温度を使用し、これらの温度は、一般には60℃〜160℃の範囲である。処理を行うのに必要な時間は、どのような特性変化を所望するかによって決まり、一般には30〜90分の範囲である。
【0017】
改良される特性は、デンプンの種類、加熱パラメーター、およびミクロ流動化パラメーターに応じて異なる。ミクロ流動化は、高圧処理や超音波処理によって得られるより大きな分子量変化をもたらすので好ましい加圧処理法である。圧力の範囲は400〜1000バールであるのが好ましい。
【0018】
他の態様においては、本発明は、高アミロースデンプンを、デンプンのゲル化温度より高い温度にて、400バールより高い圧力で、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理することによって得られる、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプンを提供する。こうして処理されたデンプンは、湿潤状態の成分として使用することもできるし、あるいは噴霧乾燥を含めた従来の任意の乾燥法によって乾燥して粉末にすることもできる。どちらの形態とも、処理されたデンプンは、種々の食品における脂肪代替品と同等の栄養価を有する食品成分として有用である。
【0019】
デンプンの特性を改良するためのプロセシング処理
ミクロ流動化の適用
予備的なミクロ流動化試験により、ミクロ流動化の前にデンプン懸濁液を90℃にて30〜60分熱処理しても、ジャガイモデンプンを除いた全ての抵抗性デンプンにおいて粘度はほとんど変化しないことがわかったので、その後の実験においては、ミクロ流動化の前にデンプンをより高い温度で加熱した(121℃にて60分)。これにより、ミクロ流動化の前にデンプンのゲル化が起こったことが確認された。
【0020】
特に明記しない限り、各デンプンの20%懸濁液(成分重量/総重量)を70℃の脱イオン水を使用して作製し、73×82mmの缶中に入れ、121℃にて60分熱処理して十分なゲル化を確実に起こさせた。ジャガイモデンプンの場合は、10%(成分重量/総重量)懸濁液にしてから熱処理に付した。これは、ジャガイモデンプンの開始温度が62.24℃であることが測定され、70℃の水に加えたときに生成物が増粘し始めるからであった。小麦デンプン、トウモロコシデンプン、およびワキシーメイズデンプンも、ジャガイモデンプンの場合と同様に増粘し、最大で10%(成分重量/総重量)の懸濁液として作製した。
【0021】
サンプルを60℃に加熱し、10%に希釈〔既に10%(成分重量/総重量)となっているジャガイモデンプン、小麦デンプン、トウモロコシデンプン、およびメイズデンプンは除く〕してから、425μmのQ50Z補助プロセシングモジュールと200μmのE230Z相互作用チャンバーとの組み合わせ〔分散と細胞破壊(cell disruption)のため〕を有するパイロットスケールのミクロフルイダイザーM210-EH-B(米国マサチューセッツ州ニュートンのMFIC社)を使用して、400バールまたは800バールにてミクロ流動化に付した。ミクロフルイダイザーに対する1回パスまたは3回パスを使用した。
【0022】
超音波処理または高静圧プロセシングの適用
ハイロン(Hylon VII)を、70℃の水中に直接分散させることによって最大で20%固体(デンプン成分重量/懸濁液総重量)となるよう作製し、73×82mmの缶中にて121℃で60分処理した。サンプルは、60℃にて最大で10%固体となるよう作製し、下記のように処理した:
ラボ超音波プロセッサー〔Hielscher UP400S(オーストラリア、イノベーティブ・ウルトラソニック社(Innovative Ultrasonics)〕を使用して、50ml/分にて380ワットで超音波処理。
【0023】
高圧プロセシングユニット〔QFP35L(Avure,USA)〕を使用して、6,000バールで15分にわたって高圧プロセシング。
デンプンの特性の特性決定
粘度
C-CC27/T200カップアタッチメント(cup attachment)とB-CC27/Q1ボブアタッチメント(bob attachment)を取り付けたPaar Physica MCR300レオメーター(Paar Scientific)を使用してデンプンの粘度を測定した。100ppmで作動し、生成物を30分で98℃に加熱し、98℃で30分保持し、10分で50℃に冷却し、そしてこの温度で3分保持するよう機器を設定した。ボブアタッチメントに作用する剪断力の変化を粘度単位(cP)として測定した。
【0024】
デンプンの種類とプロセシングの影響との間の比較を簡単にするために、50℃と98℃での粘度を、レオロジー特性の変化の指標として使用した。これらの指標は、温和な調理温度でのデンプンの挙動についての知見をもたらすからである。使用したデンプン液は、未加工デンプンの懸濁液と予備処理した湿潤デンプンの懸濁液であった。
【0025】
粒径の分析
Galai CIS-1〔パーティクル・アンド・サーフェス・サイエンスPty社(Particle and Surface Science Pty Ltd);測定は、タイム・オブ・トランジッション理論(time of transition theory)に基づいている〕を使用して、再構成されたハイロンVIIサンプル、小麦デンプンサンプル、トウモロコシデンプンサンプル、およびワキシーメイズデンプンサンプルの粒径分布を測定した。サンプルを水中に分散させ、小型の電磁攪拌機を取り付けたサンプルキャベット中に移し、Galai CIS-1中に装入して粒径を測定した。
【0026】
抵抗性デンプンの分析
メガザイム抵抗性デンプンアッセイ法(RSTAR11/02,AOACメソッド2002.02;AACCメソッド32-40)を使用して、粉末デンプン中の抵抗性デンプンの含量を測定した。各サンプルに対して2回分析を行った。サンプルを、水浴中にて振盪しながら膵アミラーゼおよびアミログルコシダーゼ(AMG)と共に37℃で16時間インキュベートし、この時間中に非抵抗性デンプンを可溶化し、これら2種の酵素の複合作用によってグルコースに加水分解させる。等体積のエタノールまたは工業用メチレーテッドスピリット(IMS,変性アルコール)を加えることによって反応を終結させ、RSを遠心分離によるペレットとして回収する。このペレットを水性IMSまたはエタノール(50%,v/v)中に懸濁させることによって2回洗浄し、次いで遠心分離にかける。
【0027】
上澄み液をデカンテーションによって除去する。ペレットを2MのHOH中に入れ、氷浴中にて電磁攪拌機で激しく攪拌することによって溶解する。この溶液を酢酸塩緩衝液で中和し、AMGを使用してデンプンをグルコースに定量的に加水分解させる。グルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ試剤(GOPOD)を使用してグルコースを測定し、これがサンプル中のRS含量の目安となる。初めの上澄み液と洗浄液をプールし、体積を100mlに調整し、そしてグルコース含量をGOPODで測定することによって、非抵抗性デンプン(可溶化デンプン)を測定することができる。
【0028】
フーリエ変換赤外線(FTIR)
本検討においては、FTIR法を使用してデンプン粉末の変化を特性決定した。FTIRから得られる構造データを使用して、デンプン成分の反応性アルデヒド基を推定した。予備処理したデンプンの分子量を、KBrマトリックス中に分散させたミクロ流動化サンプルから収集したFTIR吸光度から推定し、未加工デンプンの場合は、拡散無反射率吸光度の測定値を使用した。
【0029】
標準的なデキストラン(デキストラン10、40、150、および500)は、スウェーデンのアプサラのファルマシア社からのものを使用した。4mgの標準またはサンプルを315mgのKBr中に分散させ、瑠璃乳鉢と瑠璃乳棒で粉砕した。全ての粉末を、デシケーター中において減圧にてシリカゲル上で一晩乾燥してから分析した。8トン/cm2の圧力を2分間かけて、KBrディスクを作製した。サンプルと標準のそれぞれに対して2つのディスクを作製した。
【0030】
OMNIC EPSソフトウェアを組み込んだニコレット(Nicolet)モデル360スペクトロフォトメーター(ウィスコンシン州マジソン社)を使用して、FTIRスペクトルを記録した。KBrなしのバックグラウンドスペクトルのためのサンプルホルダーを使用し、各サンプルに対し、4000cm-1から500cm-1まで4cm-1の分解能にて32回スキャンを行った。
【0031】
吸光度単位でのスペクトルが得られるよう、サンプルのシングルビームスペクトルを得、サンプルホルダーのバックグラウンドスペクトルと対照して補正した。OMNIC EPSソフトウェアに利用可能なタンジェント法によって、補正したピーク高さ吸光度の測定値を得た。
【0032】
デンプンの赤外線スペクトルを、2つの主要な領域に関して検討した。アルデヒドのカルボニル基に直接結合したただ一つの水素の吸収は2929cm-1での吸収であり、アルデヒドカルボニルの吸収は1647cm-1での吸収であった。C-H伸縮振動とC=O伸縮振動のピーク高さ吸光度は、デンプンの分子量が減少するにつれて増大すると考えられる。補正したピーク高さ吸光度を、デキストラン標準物質の分子量に対してプロットした。
【実施例】
【0033】
(実施例1: ミクロ流動化した抵抗性デンプンの特性)
粘度
図1と図2は、湿潤状態のデンプンの粘度に及ぼすミクロ流動化の影響を示している。
【0034】
予測されるように、未加工の抵抗性デンプンの粘度はいずれも低かった(1.3〜2.3cP)。予測されるように、熱処理(121℃/60分)を行うと、デンプン懸濁液の粘度が増大した。温度が上昇するにつれて、デンブン顆粒の膨潤とゲル化が起こり、これと共に粘度が増大するからである。熱処理とミクロ流動化を組み合わせると、処理した抵抗性デンプンの懸濁液はいずれも粘度が著しく変化した。
【0035】
処理したデンプンの懸濁液
これらの懸濁液の粘度を図1と図2に示す。このケースでは、抵抗性デンプンを予備処理(すなわち、121℃での熱処理/ミクロ流動化)して、まだ液体状態(10重量%成分/懸濁液総重量)であるときに試験した。
【0036】
処理プロセス後における50℃での粘度
予備処理した抵抗性デンプンの50℃での粘度はいずれも、加熱すると元の未加工デンプンの粘度と比較して増大した(図1)。試験した全てのデンプンのうち、ジャガイモデンプンは、加熱すると最も高い粘度(511cPs)を有したが、他の抵抗性デンプンの粘度は4〜72cPsの範囲であった。加熱・ミクロ流動化デンプンの50℃での粘度は、デンプンの種類、ミクロフルイダイザーに対するパス回数、および圧力に依存した。加熱処理と800バールにて1回パスのミクロ流動化処理を施したデンプンの粘度は、一般には、加熱処理と400バールにて3回パスのミクロ流動化処理を施した対応するデンプンの粘度と同等であるか又はそれより低い、ということがわかった。実際的な観点から、同等程度の粘度が要求される場合は、800バールにて1回パスのミクロ流動化処理のほうが、400バールにて3回パスのミクロ流動化処理より好ましい。加熱処理した抵抗性デンプン〔ハイロン(Hylon)VII、Hi-メイズ、ノベロース(Novelose)260、ノベロース330〕にミクロ流動化を施すと、50℃(スタート)での粘度が増大し、そしてミクロ流動化の圧力が増大するにつれて粘度が増大した。加熱・ミクロ流動化処理したデンプンの粘度は、ハイロンVIIの場合が88〜717cPs、Hi-メイズの場合が14〜226cPs、ノベロース260の場合が73〜1160cPs、そしてノベロース330の場合が19〜561cPsであった。加熱デンプンのミクロ流動化によって得られる粘度増大は10〜1088cPsの範囲であった。こうした粘度増大は、デンプンの特性が顕著に変化していることを示している。ジャガイモデンプンの粘度に及ぼすミクロ流動化の影響は複雑であった。
【0037】
98℃での粘度(処理プロセスのあとに50℃に冷却してから98℃に加熱)
未加工デンプンと処理デンプンの98℃における粘度は、ハイロンVIIの場合が12〜49cPs、Hi-メイズの場合が2〜12cPs、ジャガイモデンプンの場合が40〜274cPs、ノベロース260の場合が2〜85cPs、そしてノベロース330の場合が5〜85cPsの範囲であった(図2)。これらの結果から、ノベロース260とHi-メイズ1043は、レオメーター中にて少なくとも98℃および100rpmまでは熱的に安定であって且つ剪断力に対して抵抗性があるが、他のデンプンはそうではない、ということがわかった。ジャガイモデンプンのミクロ流動化に対しては、未加工デンプンまたは加熱デンプンの場合と比較して、98℃にて粘度低下の傾向がみられた。ミクロ流動化デンプンに対する98℃での粘度低下傾向(400バール/1回パスと比較したときの400バール/3回パス)は、全てのRS2デンプンに対して明らかであった(すなわち、ハイロンVII、Hi-メイズ1043、およびノベロース260)。しかしながら、ミクロ流動化・加熱処理したノベロース260またはハイロンVIIに対する98℃での粘度低下傾向(図2)は、50℃での粘度に対して観察される傾向(図1)とは逆(ミクロ流動化が粘度の増大を引き起こした)であった。
【0038】
50℃での粘度(処理プロセスのあとに温度サイクル−50℃に冷却、98℃に加熱、そして50℃に冷却)
デンプン懸濁液を98℃から50℃に冷却すると、予測されたように、測定温度の低下による50℃(エンド)での粘度増大が見られた。デンプンの処理プロセス後に直接冷却した場合の50℃での粘度(図1)と温度サイクル後の50℃での粘度(図3)にかなり差があることがわかった。これは、温度サイクルにおいて、粘度の測定時にデンプン懸濁液を98℃で30分保持することによるものである(図1と図3を比較のこと)。
【0039】
これらの結果は、熱処理とミクロ流動化との組み合わせが、50℃と98℃の両方の温度における抵抗性デンプンの粘度を効果的に変える、ということを示している。実際的な関心という点から、ミクロ流動化が抵抗性デンプンの50℃での粘度を大幅に増大させるということは1つの発見である(ジャガイモデンプンの場合も推定される)。ミクロ流動化を使用すると、物理的処理の利用によるデンプンの粘度の変更が可能となる。こうした粘度増大は、デンプンが食品に質感を付与するために使用される場合は役立つ。さらなる利点は、デンプンを調理温度にて簡単に処理できるようになるという点である。これらの変化を使用して、食品工業における種々の用途向け(たとえば、低温増粘効果や高温低粘度化効果)のデンプンを設計することができる。加熱・ミクロ流動化処理が施された抵抗性デンプンの改良性能は、処理されたデンプンが、処理プロセス後に相当量の抵抗性デンプン含量を有していても確認された。
【0040】
デンプン処理プロセス後に液体状態における粘度が増大するが、乾燥プロセスが適切に制御されない場合は、乾燥時に粘度が幾らか低下することがある。しかしながら、デンプンの乾燥に関する当業者であれば、乾燥処理したデンプン粉末が得られるよう、デンプンの機能性低下を抑えることができる。
【0041】
ミクロ流動化デンプンの抵抗性デンプン含量
噴霧乾燥した抵抗性デンプンの抵抗性デンプン含量を表1に示す。これらの結果から、処理したデンプン(Hi-メイズ1043、ハイロンVII、ノベロース260、およびノベロース330)が、相当量の抵抗性デンプンを保持していることがわかる。これらのデンプンの殆どが、アミロース含量の高いデンプンであった。例外はジャガイモデンプン(20%だけ含有するリン酸化デンプン)であって、抵抗性の殆どが失われた。
【0042】
【表1】
【0043】
湿潤加熱デンプンと加熱・ミクロ流動化デンプンの抵抗性デンプン含量(%乾量基準)は、湿潤処理デンプンが噴霧乾燥によって粉末に転化した後においては同等であった(表2)。
【0044】
【表2】
【0045】
ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの粒径
加熱処理デンプンとミクロ流動化処理デンプンの粒径を表3に示す。これらの処理は、デンプンの粒径の減少を引き起こした。
【0046】
【表3】
【0047】
ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの分子量
噴霧乾燥した抵抗性デンプンの平均分子量は処理によって低下し、このことは、施された処理の結果として結合の切断が起こったことを示している(図4〜8)。
【0048】
(実施例2: 高圧プロセシングまたは超音波によって処理した抵抗性デンプンの特性)
処理したデンプンの選定された特性を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
プロセシング後に、最初の抵抗性の約60%が保持される。粒径のデータから、処理したデンプンの粒径が減少していることがわかる。デンプンの平均分子量も減少している(図9)。
【0051】
(実施例3: ミクロ流動化処理した非抵抗性穀類デンプンの特性)
非抵抗性デンプンを処理すると、非抵抗性デンプンの特性が変化した(表5、図10)。
【0052】
【表5】
【0053】
処理後に抵抗性デンプンの含量が増大し、これに伴って粒子の粒径が減少した。図10は、処理によって小麦デンプン分子内の結合の切断が引き起こされたことを示している。
修飾デンプン成分の製品における性能
修飾した抵抗性デンプン成分の改良された性能を実証するために、新規成分を湿潤状態にて使用して数多くの製品例を配合作製した。
【0054】
(実施例4: ヨーグルト中のミクロ流動化抵抗性デンプン成分の性能)
抵抗性デンプンをミクロ流動化処理すると、抵抗性デンプンをヨーグルト中に加えることが可能となる。未加工のハイロンVIIと処理したハイロンVII(加熱・ミクロ流動化800バール/1回パス)を使用した。
【0055】
脱脂粉乳を必要とされる総固形分(9〜12重量%)にもどし、400rpmにて攪拌しながら85℃で30分加熱し、次いで43℃に冷却した。デンプンは、培養物を加える前、または発酵の後に加えた。培養物〔ストレプトコッカス・サーモフィリス(Streptococcus Thermophilis)ST2とラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)LB1との3:2の比の混合物〕を加え、ヨーグルトミルク混合物を、pHが4.6に達するまで43℃にて発酵させた。ヨーグルトを4℃に冷却し、300rpmで攪拌し、次いで4℃で保存した。発酵後(after fermentation; AF)にデンプンを加える必要がある場合のヨーグルトに対しては、デンプンを加えてから攪拌した。
【0056】
一定の総固形分におけるヨーグルトの特性を表6に示す。これらの結果から、ミクロ流動化デンプンを加えると、ヨーグルトの特性が改良されることがわかる。高粘度とシネレシスに対する改良された抵抗性は、ヨーグルトにおける望ましい特性である。さらに、デンプン中の抵抗性デンプン物質は栄養特性に寄与する。ミクロ流動化デンプン成分を使用して作製されたヨーグルトは、滑らかな質感を有した。本実施例は、処理した成分を使用して、ヨーグルトにおける水結合特性と質感発現を向上させることを説明している。
【0057】
【表6】
【0058】
(実施例5: ミクロ流動化抵抗性デンプンを含有するデンプンゲルデザート)
加熱・ミクロ流動化処理(800バール/3回パス)したデンプンをゲルデザート中に使用するという本実施例は、修飾デンプン成分がゲル化剤として機能できることを示している。
【0059】
加熱・ミクロ流動化処理したハイロンVII(固形分10%)と砂糖(10重量%)を含有する配合物を60℃で混合し、モールド中に入れ、4℃で24時間保存した。スタンドアップデザート(a stand-up dessert)が形成される。本実施例から、加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンは、簡単なゲルデザート用の成分として使用することができ、これを使用することで、デザートに室温で安定なしっかりしたゲルがもたらされる、ということがわかる。
【0060】
(実施例6: ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンを組み込んだアイスクリーム)
アイスクリームにおける脂肪代替品としての使用が有望な用途であると考えられており、この場合、抵抗性デンプンを加えることで、製品の物理的特性を悪化させることなく、脂肪非含有のアイスクリームを作製することができる。本実施例では、アイスクリーム製品において、未加工のハイロンVIIまたは処理した抵抗性デンプン(加熱し、800バール/3回パスにてミクロ流動化処理)が、乳脂肪、乳化剤、および安定剤の代わりに使用されている。
【0061】
使用したアイスクリーム混合配合物を表7に示す。これらの混合物を、低温殺菌し、4℃で一晩エージングし、次いでアイスクリームメーカー(サンビーム社)中でかき混ぜた。アイスクリームは、−20℃にて7日間硬化させた。
【0062】
【表7】
【0063】
アイスクリームの物理的特性を表8に示す。
【0064】
【表8】
【0065】
処理(加熱・ミクロ流動化)した抵抗性デンプンは、オーバーラン、混合物の粘度、および堅さを増大させつつ、そして室温での溶融を遅くさせつつ、質感に全く悪影響を及ぼすことなくアイスクリーム製品用の脂肪代替物として適切に使用することができる。
【0066】
(実施例7: ミクロ流動化処理したデンプン成分を含有する低脂肪スプレッド)
処理したハイロンVII(加熱および800バール/3回パスでのミクロ流動化)を組み込んだ40%脂肪スプレッドを作製した。処理したデンプンは、スプレッドの唯一の“水性”成分であった。試験は、パイロットスケールのGerstenberg and Aggerスプレッドプラント(フェーズインバーターが組み込まれている)にて行った。
【0067】
表9に記載の配合処方にしたがって18.33kgのエマルジョンを作製した。
【0068】
【表9】
【0069】
実現性に関してのみ製品を作製したので、配合に着色剤や風味剤は使用しなかった。先ず、全ての油溶性成分をブレンダーに加え、処理したデンプン(総固形分10%の懸濁液として)と食塩混合物(salt mixture)を、激しく攪拌しながら徐々に加えた。
【0070】
エマルジョン(脂肪分はわずか40%)を作製すると、パイロットプラントによって容易に処理された安定な油性連続相エマルジョンが得られた。製品は、プラントに対して普通の背圧を使用して適切に充填することができた。最終製品の顕微鏡検査により、従来のスプレッドと同等のエマルジョン特性(水性小滴の殆どが3〜5ミクロンの範囲、一部の小滴が最大で10ミクロン)を有することがわかった。
【0071】
最終製品のスプレッド適性は極めて良好であり、従来のスプレッドに劣らなかった。スプレッディング作用の繰り返しで生じる剪断力が加えられている間に、エマルジョンから水が分離しているという証拠は観察されなかった。本製品は、デンプンに付きものの固有の風味を有した。
【0072】
(実施例8: 水溶性生物活性物質の封入)
選定した生物活性物質は加水分解した乳清タンパク質であった。2.44%の加水分解乳清タンパク質と9.76%の加熱・ミクロ流動化処理したハイロンVIIを含有する湿潤配合物(総固形分12.2%)を作製し、ラボスケールのドライテック(Drytec)噴霧乾燥機(入口温度180℃;出口温度80℃)中にて乾燥した。ソリッドステートの13C-CPMAS(交差分極マジック角回転)NMRスペクトルにより、粉末サンプル中における加水分解乳清タンパク質の存在が実証された(図11)。
【0073】
上記の説明から、本発明は、栄養上の利点と、従来の脂肪代替成分がもつ簡単なプロセシング特性とを有する、ユニークな成分を提供していることがわかる。当業者にとっては言うまでもないことであるが、本発明は、デンプン原料の種類と所望する機能特性に応じて、多くの異なったやり方で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の50℃での粘度を示している。
【図2】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の98℃での粘度を示している。
【図3】未加工の抵抗性デンプンの10%懸濁液、加熱処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液、および加熱・ミクロ流動化処理した抵抗性デンプンの10%懸濁液の50℃での粘度を示している(50℃に冷却、98℃に加熱、次いで50℃に冷却、という温度サイクル後)。
【図4】ミクロ流動化処理によるHi-メイズ1043の鎖長の減少を示している。
【図5】ミクロ流動化処理によるハイロンVIIの鎖長の減少を示している。
【図6】ミクロ流動化処理によるノベロース260の鎖長の減少を示している。
【図7】ミクロ流動化処理によるジャガイモデンプンの鎖長の減少を示している。
【図8】ミクロ流動化処理によるノベロース330の鎖長の減少を示している。
【図9】種々のプロセシング法によるハイロンVIIの鎖長の減少を示している。
【図10】ミクロ流動化処理による小麦デンプンの鎖長の減少を示している。
【図11】ソリッドステートの13C-CPAS(交差分極マジック角回転)NMRスペクトルを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と結合できるよう、粘度を増大させることができるよう、ゲル化できるよう、そしてフィルムを形成できるよう熱と圧力で処理される、湿潤状態の食品用高アミロースの抵抗性デンプン成分。
【請求項2】
50℃にて10cPsより高い粘度と乾量基準にて30重量%より高い抵抗性デンプン含量を有する、請求項1に記載の湿潤状態の食品用高アミロースデンプン。
【請求項3】
50℃にて10cPsより高い粘度と乾量基準にて30重量%より高い抵抗性デンプン含量を有する高アミロースデンプンを含んだ脂肪代替食品成分。
【請求項4】
高アミロースデンプンを、前記デンプンのゲル化温度より高い温度、および400バールより高い圧力にて、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理することによって得られる、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプン。
【請求項5】
ゲル化温度より高い温度にて加圧処理した後に湿潤状態に保持される、請求項4に記載の抵抗性デンプン。
【請求項6】
ゲル化温度より高い温度にて加圧処理した後に乾燥される、請求項4に記載の抵抗性デンプン。
【請求項7】
高アミロースデンプンを、前記デンプンのゲル化温度より高い温度、および400バールより高い圧力にて、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理する工程を含む、高アミロースデンプンの特性を改良する方法。
【請求項8】
圧力が超音波処理またはミクロ流動化によって加えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理が、デンプンのゲル化温度〜160℃の温度にて、ミクロ流動化チャンバーに対する2回以上のパスを使用して行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
処理された高アミロースデンプンが引き続き乾燥される、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
水と結合できるよう、粘度を増大させることができるよう、ゲル化できるよう、そしてフィルムを形成できるよう熱と圧力で処理される、湿潤状態の食品用高アミロースの抵抗性デンプン成分。
【請求項2】
50℃にて10cPsより高い粘度と乾量基準にて30重量%より高い抵抗性デンプン含量を有する、請求項1に記載の湿潤状態の食品用高アミロースデンプン。
【請求項3】
50℃にて10cPsより高い粘度と乾量基準にて30重量%より高い抵抗性デンプン含量を有する高アミロースデンプンを含んだ脂肪代替食品成分。
【請求項4】
高アミロースデンプンを、前記デンプンのゲル化温度より高い温度、および400バールより高い圧力にて、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理することによって得られる、改良された水結合特性を有する抵抗性デンプン。
【請求項5】
ゲル化温度より高い温度にて加圧処理した後に湿潤状態に保持される、請求項4に記載の抵抗性デンプン。
【請求項6】
ゲル化温度より高い温度にて加圧処理した後に乾燥される、請求項4に記載の抵抗性デンプン。
【請求項7】
高アミロースデンプンを、前記デンプンのゲル化温度より高い温度、および400バールより高い圧力にて、抵抗性を保持しつつ、改良された水結合特性をもたらすに足る時間にわたって処理する工程を含む、高アミロースデンプンの特性を改良する方法。
【請求項8】
圧力が超音波処理またはミクロ流動化によって加えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理が、デンプンのゲル化温度〜160℃の温度にて、ミクロ流動化チャンバーに対する2回以上のパスを使用して行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
処理された高アミロースデンプンが引き続き乾燥される、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−534804(P2007−534804A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509828(P2007−509828)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000586
【国際公開番号】WO2005/105851
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(598152079)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼイション (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000586
【国際公開番号】WO2005/105851
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(598152079)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼイション (16)
【Fターム(参考)】
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