説明

トナー用ポリエステル樹脂、静電荷像現像用トナー、静電荷像現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法

【課題】低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られるトナー用ポリエステル樹脂の提供。
【解決手段】多価カルボン酸成分と、下記一般式(1)で表されるロジンジオールを含み、前記ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して80モル%以上100モル%以下である多価アルコール成分と、の重縮合体であるトナー用ポリエステル樹脂。


一般式(1)中、L、L及びLは、二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用ポリエステル樹脂、静電荷像現像用トナー、静電荷像現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、酸成分が芳香族ジカルボン酸50〜100モル%、その他のジカルボン酸0〜50モル%、3官能以上の多価カルボン酸0〜15モル%であり、グリコール成分が、ビスフェノールAおよび/またはビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物5〜100モル%、その他のグリコール0〜95モル%、3官能以上の多価アルコール0〜15モル%であり、少なくともアルミニウム化合物を含有する触媒の存在下に共重合した共重合ポリエステル樹脂をバインダーとして含有してなる静電荷現像用トナーが開示されている。
【0003】
特許文献2には、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を60モル%以上含有するアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合して得られる、軟化点(Tm)が130〜160℃のトナー用ポリエステルであって、メチルエチルケトン不溶分が(Tm−110)×1.1重量%以上、(Tm−110)×3重量%以下であるトナー用ポリエステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−285195号公報
【特許文献2】特開2008−185681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られるトナー用ポリエステル樹脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、
多価カルボン酸成分と、
下記一般式(1)で表されるロジンジオールを含み、前記ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して80モル%以上100モル%以下である多価アルコール成分と、
の重縮合体であるトナー用ポリエステル樹脂である。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。Lは下記構造式(I)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す。
【0009】
【化2】

【0010】
請求項2に係る発明は、
多価カルボン酸成分と、
下記一般式(1)で表されるロジンジオールと、前記ロジンジオールを除く、下記構造式(I)を有する芳香族アルコール、下記構造式(II)を有する芳香族アルコール及び下記構造式(III)を有する芳香族アルコールのうち少なくとも1種と、を含み、前記ロジンジオール及び前記芳香族アルコールの含有量が全多価アルコール成分に対して合計で80モル%以上100モル%以下であり、前記ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して10モル%以上80モル%以下である多価アルコール成分と、
の重縮合体であるトナー用ポリエステル樹脂である。
【0011】
【化3】

【0012】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。Lは下記構造式(I)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す。
【0013】
【化4】

【0014】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は2に記載のトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナーである。
【0015】
請求項4に係る発明は、
請求項3に記載の静電荷像現像用トナーを含む静電荷像現像剤である。
【0016】
請求項5に係る発明は、
請求項3に記載の静電荷像現像用トナーを収納し、
画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジである。
【0017】
請求項6に係る発明は、
請求項4に記載の静電荷像現像剤を収納し、
像保持体の表面に形成された静電荷像を前記静電荷像現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【0018】
請求項7に係る発明は、
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電手段と、
前記像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成手段と、
請求項4に記載の静電荷像現像剤を収納し、前記静電荷像現像剤により前記静電荷像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、
を備える画像形成装置である。
【0019】
請求項8に係る発明は、
像保持体の表面を帯電する帯電工程と、
前記像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成工程と、
請求項4に記載の静電荷像現像剤により前記静電荷像を現像してトナー像を形成する現像工程と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、
を有する画像形成方法である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、一般式(1)で表されるロジンジオールを上記範囲で含むアルコール成分を重縮合成分として用いないトナー用ポリエステル樹脂に比べて、低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られるトナー用ポリエステル樹脂が得られる。
請求項2に係る発明によれば、一般式(1)で表されるロジンジオールと、前記ロジンジオールを除く、構造式(I)を有する芳香族アルコール、構造式(II)を有する芳香族アルコール及び構造式(III)を有する芳香族アルコールのうち少なくとも1種と、を上記範囲で含むアルコールアルコール成分を重縮合成分として用いないトナー用ポリエステル樹脂に比べて、低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られるトナー用ポリエステル樹脂が得られる。
請求項3に係る発明によれば、上記構成を有さないトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナーに比べて、低温定着性及び耐熱性を両立する静電荷像現像用トナーが得られる。
請求項4に係る発明によれば、上記構成を有さないトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナーを含む静電荷像現像剤に比べて、低温定着性及び耐熱性を両立する静電荷像現像剤が得られる。
請求項5〜8に係る発明によれば、上記構成を有さないトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナーを含む静電荷像現像剤を適用する場合に比べて、低温定着性が実現され、且つ、静電荷像現像用トナーの耐熱性の悪化に起因する画像欠陥が抑制された画像が得られるトナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係るプロセスカートリッジの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一例である実施形態について詳細に説明する。
【0023】
[トナー用ポリエステル樹脂]
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、まず、第1の態様として、多価カルボン酸成分と、下記一般式(1)で表されるロジンジオール(以下、ビスフェノールA型ロジンジオールと称する)の含有量が、全多価アルコール成分に対して80モル%以上100モル%以下である多価アルコール成分と、の重縮合体が挙げられる。
また、第2の態様として、多価カルボン酸成分と、ビスフェノールA型ロジンジオールと、ビスフェノールA型ロジンジオールを除く、下記構造式(I)を有する芳香族アルコール、下記構造式(II)を有する芳香族アルコール及び下記構造式(III)を有する芳香族アルコール(以下、特定芳香族アルコールと称する)のうち少なくとも1種と、を含み、ビスフェノールA型ロジンジオール及び特定芳香族アルコールの含有量が全多価アルコール成分に対して合計で80モル%以上100モル%以下であり、ビスフェノールA型ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して10モル%以上80モル%以下である多価アルコール成分と、の重縮合体が挙げられる。
なお、上記「合計」とは、ビスフェノールA型ロジンジオール及び特定芳香族アルコールの総含有量を示す。
【0024】
ここで、ロジン骨格を有するポリエステル樹脂は、ロジン骨格をアルコール成分に導入してカルボン酸成分と重縮合して得ることで、静電荷像現像用トナー(以下、トナーと称する場合がある)として用いた場合に帯電性に優れる傾向があると考えられる。
一方で、このようなポリエステル樹脂は、トナーとして用いた場合に低温定着性及び耐熱性を両立し難い傾向にあり、これらを両立するトナーを得るためには、ポリエステル樹脂の軟化温度を維持しつつ、ガラス転移温度を高くすることが考えられる。
これは、低温定着性がポリエステル樹脂の軟化温度に起因し、耐熱性がポリエステル樹脂のガラス転移温度に起因する傾向にあると考えられているためである。
【0025】
そこで、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、上記のような構成とすることによって、低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られるポリエステル樹脂となる。
この理由は定かではないが、以下に示す理由によるものと考えられる。
【0026】
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、下記(i)及び(ii)で示すように、第1の態様においてはビスフェノールA型ロジンジオールが多価アルコール成分に含まれ、第2の態様においてはビスフェノールA型ロジンジオール及び特定芳香族アルコールが多価アルコール成分に含まれている。
つまり、第1、第2の態様は、いずれの態様であったとしても、下記構造式(I)〜(III)のような2つの芳香環が直接又は2価の連結基を介して結合した構造を有するアルコールを含む多価アルコール成分を、重縮合成分として用いることとなる。
そして、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、第1、第2のいずれの実施形態においても、2つの芳香環が結合した構造を主鎖に有するトナー用ポリエステル樹脂となる。
その結果、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂には、多価アルコール成分に含まれた多価アルコールが有する芳香環同士に働く弱い相互作用が、複数箇所で生じることとなるため、ポリエステル樹脂全体のガラス転移温度が上昇すると考えられる。
一方で、上記相互作用は弱いため、ガラス転移温度以上の熱が加わると熱の作用によって相殺されて、上記相互作用が働かなくなる傾向にあることから、軟化温度は上昇が抑制され、維持される傾向にあると考えられる。
また、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、2つの芳香環が結合した構造を主鎖に有していることで樹脂同士の絡まりが抑制されており、ガラス転移温度を超えた場合に樹脂の分子鎖同士が容易に解離されるため、軟化温度は上昇が抑制され、維持される傾向にあると考えられる。
【0027】
以上から、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、低温定着性及び耐熱性を両立するトナーが得られると考えられる。
【0028】
以下、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂を詳細に説明する。
【0029】
(多価アルコール成分)
多価アルコール成分としては、まず、第1の態様の場合、以下の態様が考えられる。
(i)(a)ビスフェノールA型ロジンジオールの含有量が、全多価アルコール成分に対して80モル%以上100モル%以下であり、(b)特定芳香族アルコールを含まない、多価アルコール成分。
【0030】
(i)における多価アルコール成分は、(a)ビスフェノールA型ロジンジオールの含有量が、全多価アルコール成分に対して、80モル%以上100モル%以下が望ましく、90モル%以上100モル%以下がより望ましい。
【0031】
次に、第2の態様における多価アルコール成分としては、以下の態様が考えられる。
(ii)(a)ビスフェノールA型ロジンジオールと、(b)特定芳香族アルコールのうち少なくとも1種を含み、(a)ビスフェノールA型ロジンジオール及び(b)特定芳香族アルコールの含有量が全多価アルコール成分に対して合計で80モル%以上100モル%以下であり、(a)ビスフェノールA型ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して10モル%以上80モル%以下である多価アルコール成分。
【0032】
(ii)における多価アルコール成分は、(a)ビスフェノールA型ロジンジオール及び(b)特定芳香族アルコールの含有量が、全多価アルコール成分に対して合計で、80モル%以上100モル%以下が望ましく、90モル%以上100モル%以下がより望ましく、且つ、(a)ビスフェノールA型ロジンジオールの含有量が、全多価アルコール成分に対して、10モル%以上80モル%以下であり、50モル%以上80モル%以下が望ましい。
【0033】
上記(i)及び(ii)の態様においては、(c)下記構造式(I)〜(III)を有さない多価アルコールを、併用してもよい。
【0034】
以下、(a)〜(c)の各アルコールについて、詳細に説明する。
【0035】
(c)下記構造式(I)〜(III)を有さないその他のアルコールは、(a)及び(b)の含有量が上記のようになる範囲で、併用してもよい。
【0036】
−(a)ビスフェノールA型ロジンジオール−
ビスフェノールA型ロジンジオールは、下記構造式(I)を有し、1分子中に2個のロジンエステル基を有するアルコール化合物である。
なお、本実施形態において、ロジンエステル基とは、ロジンに含まれるカルボキシル基から水素原子を除いた残基をいう。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。Lは下記構造式(I)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す。
【0039】
【化6】

【0040】
が表す2価の連結基は、好適なものとして、以下の一般式(2)、(3)が挙げられるが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0041】
【化7】

【0042】
一般式(2)、(3)中、Xは、エーテル基、エステル基を表し、エーテル基がより望ましい。
一般式(3)中、Yは、オキシアルキレン基を表す。
オキシアルキレン基としては、炭素数が2以上7以下がよく、2以上5以下が望ましく、2がより望ましい。
nは、1以上の整数を表す。
【0043】
及びLの鎖状アルキレン基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキレン基が挙げられる。
及びLの環状アルキレン基としては、例えば、炭素数3以上7以下の環状アルキレン基が挙げられる。
及びLで表されるアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセン基が挙げられる。
【0044】
及びLの、鎖状アルキレン基、環状アルキレン基及びアリーレン基の置換基の例としては、例えば、炭素数1以上8以下のアルキル基、アリール基などが挙げられ、直鎖、分岐又は環状のアルキル基が望ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
【0045】
−(b)特定芳香族アルコール−
(b)特定芳香族アルコールとしては、(b−1)ロジンエステル基を有する特定芳香族アルコールと、(b−2)ロジンエステル基を有さない特定芳香族アルコールが挙げられる。
【0046】
(b−1)ロジンエステル基を有する特定芳香族アルコールとしては、例えば、下記一般式(4)で表されるロジンジオールが挙げられる。
【0047】
【化8】

【0048】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。L1Aは、下記構造式(II)又は(III)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す。
【0049】
【化9】

【0050】
、R、L、L、A及びAは、上記一般式(1)におけるR、R、L、L、A及びAと同様である。
【0051】
1Aが表す2価の連結基は、上記構造式(II)又は(III)を有する連結基であり、好適なものとして、下記記一般式(5)〜(8)が挙げられるが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化10】

【0053】
上記一般式(5)〜(8)中、X、Y及びnは、上記一般式(2)、(3)のX、Y及びnと同様である。
【0054】
なお、構造式(II)を有し、ロジンエステル基を有する特定芳香族アルコールをビフェニル型ロジンジオールと称し、構造式(III)を有し、ロジンエステル基を有する特定芳香族アルコールをビスフェノールF型ロジンジオールと称する。
【0055】
(b−2)ロジンエステル基を有さない特定芳香族アルコールは、下記構造式(I)〜(III)を有している。
【0056】
【化11】

【0057】
具体的には、ビスフェノール化合物、エーテル化ジフェノール、ビフェニル型アルコール化合物、エステル化ベンゼン、エーテル化ベンゼンが挙げられる。
ここで、エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるジオールを示す。
【0058】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及びビスフェノールZが挙げられる。
エーテル化ジフェノールとしては、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドであり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2モル以上16モル以下であるものが望ましく、具体的には、例えば、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2付加物及びビスフェノールAエチレンオキサイドが挙げられる。
ビフェニル型アルコール化合物としては、4−ヒドロキシメチルビフェニル及び4−(1−ヒドロキシエチル)ビフェニルが挙げられる。
これらのなかでも、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2付加物及びビスフェノールAエチレンオキサイドが望ましく、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2付加物がより望ましい。
【0059】
−(c)構造式(I)〜(III)を有さない多価アルコール−
構造式(I)〜(III)を有さない多価アルコールは、当該構造を有さなければ、ロジンエステル基を有するものであっても、ロジンエステル基を有さないものであってもよい。
構造式(I)〜(III)を有さない多価アルコールとしては、例えば、以下の脂肪族ジオール及び芳香族ジオールが挙げられる。
脂肪族ジオールとして、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチル-1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,14−エイコサンデカンジオール、ダイマージオール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
芳香族ジオールとしては、ベンゼンジメタノール、サリチルアルコール及びホモバニリルアルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
その他、2つの芳香環が結合した構造を有さない3価以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
これらの多価アルコールは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ここで、ロジンジオール全般の合成方法について説明する。
ロジンジオールは、公知の方法によって合成され、例えば、2官能エポキシ化合物とロジンとの反応により合成される。
以下に、ロジンジオールの合成スキームを一例として示す。
【0062】
【化12】

【0063】
2官能エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を2個含むものであり、芳香族系ジオールのジグリシジルエーテル、芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテル、脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式エポキシド等が挙げられる。
芳香族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジオール成分としてビスフェノールA、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールAの誘導体類、ビスフェノールF、ビスフェノールFのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールFの誘導体類、ビスフェノールS、ビスフェノールSのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールSの誘導体類、レソルシノール、t−ブチルカテコール、ビフェノールなどが挙げられる。
【0064】
芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。
【0065】
脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂肪族ジオール成分としてエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0066】
脂環式ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂環式ジオール成分として水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等の水添ビスフェノールAの誘導体類、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0067】
脂環式エポキシドの代表例としては、リモネンジオキサイドが挙げられる。
【0068】
上記エポキシ基含有化合物は、例えば、ジオール成分とエピハロヒドリンの反応で得られるが、その量比によって重縮合させて、高分子量化してもよい。
【0069】
ロジンと2官能エポキシ化合物との反応は、主としてロジンのカルボキシル基と2官能エポキシ化合物のエポキシ基との開環反応により進む。その際、反応温度としては両構成成分の溶融温度以上、又は混合が実現される温度であることが望ましく、具体的には60℃以上200℃以下の範囲が一般的である。反応に際し、エポキシ基の開環反応を促進する触媒を加えてもよい。
【0070】
触媒としては、エチレンジアミン、トリメチルアミン、2−メチルイミダゾールなどのアミン類、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、ブチルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィンなどを挙げられる。
【0071】
反応は種々の方法で行われ、例えば、一般的には回分式の場合は冷却管、撹拌装置、不活性ガス導入口、温度計等を備えた加熱する機能を有するなフラスコにロジンと2官能エポキシ化合物を仕込み、加熱溶融し反応物をサンプリングすることによって反応進行を追跡する。反応の進行度は主として酸価の低下によって確認し、化学量論的な反応終点あるいはその近くに到達した時点をもって反応を完結する。
【0072】
ロジンと2官能エポキシ化合物との反応比率は、2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.5モル以上2.5モル以下の範囲で反応させることが望ましく、さらには2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.8モル以上2.2モル以下の範囲で反応させることがより望ましく、1.85モル以上2.1モル以下の範囲で反応させることが最も望ましい。ロジンが1.5モルよりも少ないと、2官能エポキシ化合物のエポキシ基が次工程のポリエステル製造工程で残存することとなり、架橋剤としての作用により急激に分子量上昇を引き起こし、ゲル化の懸念がある。一方、ロジンが2.5モルよりも多いと未反応のロジンが残存し、酸価上昇による帯電悪化を引き起こすことがある。
【0073】
本実施形態で用いるロジンとは樹木から得られる樹脂酸の総称であり、主成分は3環性ジテルペン類の1種であるアビエチン酸とその異性体類を含む天然物由来の物質である。具体的な成分としては、例えば、アビエチン酸の他にパラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸などがあり、本実施形態で用いるロジンはこれらの混合物である。ロジンは採取方法による分類では、原料をパルプとするトールロジン、原料を生松脂とするガムロジン、及び原料を松の切り株とするウッドロジンの3種に大別される。本実施形態で用いるロジンは入手が容易であることからガムロジン及び/又はトールロジンが望ましい。
【0074】
これらのロジン類は精製することが望ましく、未精製のロジン類から樹脂酸の過酸化物から生起したと考えられる高分子量物や、未精製のロジン類に含まれていた不ケン化物を除去することにより精製ロジンを得られる。精製方法は特に限定されず、公知の各種精製方法が選択される。具体的には蒸留、再結晶、抽出等の方法が挙げられる。工業的には蒸留による精製を行うことが望ましい。蒸留は、通常、200℃以上300℃以下、6.67kPa以下の圧力で蒸留時間を考慮して選択される。再結晶は、例えば、未精製ロジンを良溶媒に溶解し、ついで溶媒を留去して濃厚な溶液とし、この溶液に貧溶媒を添加することにより行う。良溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロホルムなどの塩素化炭化水素類、低級アルコール等のアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどの酢酸エステル類等が挙げられ、貧溶媒としてはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、イソオクタン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。抽出は、例えば、アルカリ水を用いて未精製のロジンをアルカリ水溶液となし、これに含まれる不溶性の不ケン化物を、有機溶媒を用いて抽出したのち、水層を中和することで精製ロジンを得る方法である。
【0075】
本実施形態のロジンは、不均化ロジンでもよい。不均化ロジンとは、主成分としてアビエチン酸を含むロジンを不均化触媒の存在下で高温加熱することによって、分子内の不安定な共役二重結合を消失させたもので、主成分として、デヒドロアビエチン酸とジヒドロアビエチン酸との混合物である。
不均化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボンなどの担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物、リン系化合物等の各種公知のものが挙げられる。該触媒の使用量はロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下が望ましく、さらに望ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下が望ましく、さらに望ましくは150℃以上290℃以下である。なおデヒドロアビエチン酸量を制御する方法としては例えば、不均化ロジンからエタノールアミン塩として結晶化する方法(J.Org.Chem.,31,4246(1996))により単離したデヒドロアビエチン酸を狙いとするデヒドロアビエチン酸量になるように不均化触媒の存在下で高温加熱して調製した不均化ロジンに添加してもよい。
【0076】
本実施形態のロジンは水素化ロジンでもよい。水素化ロジンとは、主成分としてテトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸を含み、公知の水素化反応により分子内の不安定な共役二重結合を消失することで得られる。水素化反応は水素化触媒の存在下に通常10Kg/cm2以上200Kg/cm2以下、望ましくは50Kg/cm2以上150Kg/cm2以下の水素加圧下で、未精製ロジンを加熱することにより行なう。水素化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボンなどの担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物等の各種公知のものを例示しうる。該触媒の使用量は、ロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下、望ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下、望ましくは150℃以上290℃以下である。
これらの不均化ロジン、水素化ロジンは、不均化処理、又は水素化処理の前後において、上記精製工程を設けてもよい。
【0077】
また、本実施形態のロジンはロジンを重合して得られる重合ロジン、ロジンに不飽和カルボン酸を付加させた不飽和カルボン酸変性ロジン、フェノール変性ロジンでもよい。なお、不飽和カルボン酸変性ロジンの調製に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。当該不飽和カルボン酸変性ロジンは、原料ロジン100質量部に対し、不飽和カルボン酸を通常1質量部以上30質量部以下程度用いて変性したものである。
【0078】
本実施形態におけるロジンは上記ロジンのうち上記精製ロジン、不均化ロジン、水素化ロジンが望ましく、これらを単独で用いても、いずれかの混合物でもよい。
【0079】
以下に、ロジンジオールの例示化合物を示す。
但し、例示化合物(1)、(2)、(18)、(19)及び(38)は、ビスフェノールA型ロジンジオールを例示し、例示化合物(3)、(4)、(20)、(21)及び(39)は、ビスフェノールF型ロジンジオールを例示し、(43)〜(47)は、ビフェニル型ロジンジオールを例示する。
なお、以下の例示化合物において、nは1以上の整数を表す。
【0080】
【化13】

【0081】
【化14】

【0082】
【化15】

【0083】
【化16】

【0084】
【化17】

【0085】
【化18】

【0086】
【化19】

【0087】
【化20】

【0088】
(多価カルボン酸成分)
多価カルボン酸成分としては、例えば、ジカルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、分岐鎖を有する炭素数1以上20以下のアルキルコハク酸、分岐鎖を有する炭素数1以上20以下のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及び、それらの酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。これらの中では、トナーの耐久性、定着性及び着色剤の分散性の観点から芳香族カルボン酸化合物が望ましい。
【0089】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸等の特定の芳香族カルボン酸、及びこれらの無水物やこれらの低級アルキルエステルなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
また、酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸の他に、スルホン酸基を持つジカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0091】
(トナー用ポリエステル樹脂の製造方法)
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製される。その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応のいずれも適用してもよい。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進してもよい。上記反応によっては、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンより選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒が用いられ、反応が促進されてもよい。これら反応触媒の添加量は多価カルボン酸と多価アルコールの総量100質量部に対して、0.01質量部以上1.5質量部以下が望ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下がより望ましい。反応温度は例えば180℃以上300℃以下の温度で行うことがよい。
以下に、ビスフェノールA型ロジンジオールと多価カルボン酸成分との反応スキームの一例を示す。
なお、ポリエステル樹脂を表す構造式のうち、点線で囲まれた部分が本実施形態に係るロジンエステル基に該当する。
【0092】
【化21】

【0093】
なお、本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂を加水分解すると、下記モノマーに分解する。ポリエステルはジカルボン酸とジオールの1:1縮合物なので、分解物から樹脂の構成成分が推定される。
【0094】
【化22】

【0095】
(トナー用ポリエステル樹脂の特性)
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、トナーの耐久性、耐オフセット性の観点から、4000以上1000000以下が望ましく、7000以上300000以下がより望ましい。
【0096】
なお、トナー用ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、次の手法により測定する。
「HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー(株)製6.0mmID×15cm)」を2本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。実験条件としては、試料濃度0.5%、流速0.6ml/min、サンプル注入量10μl、測定温度40℃、RI検出器を用いて測定する。また、検量線は東ソー(株)製「Polystyrene標準試料TSK standard」:「A−500」、「F−1」、「F−10」、「F−80」、「F−380」、「A−2500」、「F−4」、「F−40」、「F−128」、「F−700」の10サンプルから作成する。
【0097】
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂の軟化点は、トナーの定着性、保存性、及び耐久性の観点から、80℃以上160℃以下が望ましく、90℃以上150℃以下がより望ましい。
なお、軟化点は、高化式フローテスターCFT−500(島津製作所社製)を用い、ダイスの細孔の径を0.5mm、加圧荷重を0.98MPa(10Kg/cm2)、昇温速度を1℃/分とした条件下で、1cm3の試料を溶融流出させたときの流出開始点から終了点の高さの1/2に相当する温度として求める。
【0098】
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、定着性、保存性、及び耐久性の観点から35℃以上80℃以下が望ましく、40℃以上70℃以下がより望ましい。軟化点及びガラス転移温度は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整、又は反応条件の選択により容易に調整する。
なお、ガラス転移温度は、「DSC−20」(セイコー電子工業(株)製)を使用し、試料10mgを昇温速度(10℃/min)で加熱して測定する。
【0099】
本実施形態のトナー用ポリエステル樹脂の酸価は、トナーの帯電性の観点から3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下とされるが、9mgKOH/g以上21mgKOH/g以下が望ましい。酸価が30mgKOH/gより大きいと含水しやすく、特に夏場環境において帯電が悪化し、酸価が3mgKOH/gより小さいと帯電が著しく悪化することがある。
【0100】
本実施形態のトナー用ポリエステル樹脂は、ロジンエステル基を含有するが、該ロジンエステル基は疎水性を示し嵩高い基である。また、一般にトナーの空気界面は疎水性を示すことから、本実施形態のトナー用ポリエステル樹脂を含有する本実施形態のトナー表面にはロジンエステル基が露出しやすい。特に本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は主鎖中ではなく、側鎖にロジンエステル基を含有するため、自由度が高く、より表面に露出しやすい傾向がある。しかし、トナー表面に露出するロジンエステル基の量が多いとトナーの帯電が悪化する場合がある。本実施形態においては、トナー用ポリエステル樹脂の酸価を3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下とすることで、トナーが望ましい帯電量となるように調整される。
なお、酸価は、JIS K0070に従って行い、中和滴定法を用いた測定で行う。即ち、適当量の試料を分取し、溶剤(ジエチルエーテル/エタノール混合液)100ml、及び、指示薬(フェノールフタレイン溶液)数滴を加え、水浴上で試料が溶けるまで充分に振り混ぜる。これに、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬の薄い紅色が30秒間続いた時を終点とした。酸価をA、試料量をS(g)、滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液をB(ml)、fを0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクターとした時、A=(B×f×5.611)/Sとして算出する。
【0101】
本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂は、変性されたポリエステル樹脂であってもよい。変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂を包含する。
【0102】
[静電荷像現像用トナー]
本実施形態に係るトナーは、上記本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂を含んで構成されている。
【0103】
以下、本実施形態に係るトナーの詳細について説明する。
【0104】
本実施形態に係るトナーは、例えば、トナー粒子と、必要に応じて、外添剤と、を有して構成される。
【0105】
(トナー粒子)
トナー粒子について説明する。
トナー粒子は、結着樹脂と、必要に応じて、着色剤、離型剤及びその他添加剤と、を含んで構成される。
そして、結着樹脂としては、非晶性樹脂が挙げられ、非晶性樹脂として上記本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂が適用される。
結着樹脂としては、非晶性樹脂と共に結晶性樹脂を併用してもよい。
結着樹脂としては、上記本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂と共に、当該本実施形態に係るトナー用ポリエステル樹脂以外のその他非晶性樹脂を併用してもよい。
但し、本実施形態に係るトナー用ポリエステルの含有量は、全結着樹脂100質量部に対して、70質量部以上が望ましく、90質量部以上がより望ましい。
【0106】
ここで、非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)を用いた熱分析測定において、明確な吸熱ピークではなく、階段状の吸熱変化のみを有するものであり、常温(例えば25℃)固体で、ガラス転移温度以上の温度において熱可塑化するものを指す。
一方、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有するものをいう。
具体的には、例えば、結晶性樹脂とは、昇温速度10℃/minで測定した際の吸熱ピークの半値幅が10℃以内であることを意味し、非晶性樹脂とは、半値幅が10℃を超える樹脂や、明確な吸熱ピークが認められない樹脂を意味する。
【0107】
結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、長鎖アルキル(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられるが、加熱による粘度の急激な変化がより現れる点、さらに機械的強度と低温定着性との両立の観点から、結晶性ポリエステル樹脂が望ましい。
結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、低温定着性を実現する観点から、脂肪族ジカルボン酸(その酸無水物および酸塩化物を含む)と脂肪族ジオールとの縮重合体であることがよい。
結晶性樹脂の含有量としては、全結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが望ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより望ましい。
なお、本実施形態において低温定着とは、トナーを120℃程度以下で加熱して定着させることをいう。
【0108】
その他非晶性樹脂としては、公知の結着樹脂、例えば、スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が挙げられる。
【0109】
−着色剤−
着色剤としては、例えば、染料であっても顔料であってもかまわないが、耐光性や耐水性の観点から顔料が望ましい。
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、アニリンブルー、カルコイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、キナクリドン、ベンジシンイエロー、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド185、C.I.ピグメント・レッド238、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3等の公知の顔料を使用してもよい。
【0110】
着色剤としては、必要に応じて表面処理された着色剤を使用したり、顔料分散剤を使用したりしてもよい。
着色剤の種類を選択することにより、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナー等が得られる。
【0111】
着色剤の含有量としては、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下の範囲が望ましい。
【0112】
−離型剤−
離型剤としては、例えば、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン等のパラフィンワックス;シリコーン樹脂;ロジン類;ライスワックス;カルナバワックス;等が挙げられる。これらの離型剤の融解温度は、50℃以上100℃以下が望ましく、60℃以上95℃以下がより望ましい。
【0113】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上15質量部以下が望ましく、1.0質量部以上12質量部以下がより望ましい。
離型剤の含有量が0.5質量%以上であれば、特にオイルレス定着において剥離不良の発生が防止される。離型剤の含有量が15質量%以下であれば、トナーの流動性が悪化することがなく、画質および画像形成の信頼性が向上する。
【0114】
−その他添加剤−
帯電制御剤としては、公知のものを使用してもよいが、アゾ系金属錯化合物、サリチル酸の金属錯化合物、極性基を含有するレジンタイプの帯電制御剤を用いてもよい。
【0115】
−トナー粒子の特性−
トナー粒子は、単層構造のトナー粒子であってもよいし、芯部(コア粒子)と芯部を被覆する被覆層(シェル層)とで構成された所謂コア・シェル構造のトナー粒子であってもよい。
コア・シェル構造のトナー粒子は、例えば、結着樹脂(本実施形態に係るポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂)と必要に応じて着色剤及び離型剤等のその他添加剤とを含んで構成された芯部と、結着樹脂(本実施形態に係るポリエステル樹脂)を含んで構成された被覆層と、で構成されていることがよい。
【0116】
トナー粒子の体積平均粒径は、例えば2.0μm以上10μm以下であることがよく、望ましくは3.5μm以上7.0μm以下μm以下である。
なお、トナー粒子の体積平均粒径の測定法としては、分散剤として界面活性剤、望ましくはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの5質量%水溶液2ml中に、測定試料を0.5mg以上50mg以下加え、これを前記電解液100ml以上150ml以下中に添加した。この測定試料を懸濁させた電解液を超音波分散器で1分間分散処理を行い、前記コールターマルチサイザーII型(ベックマン−コールター社製)により、アパーチャー径が100μmのアパーチャーを用いて、粒径が2.0μm以上60μm以下の範囲の粒子の粒度分布を測定する。測定する粒子数は50,000とする。
得られた粒度分布を分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、小粒径側から体積累積分布を引いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとする。
【0117】
トナー粒子の形状係数SF1は、例えば、110以上150以下であることがよく、望ましくは120以上140以下である。
ここで上記形状係数SF1は、下記式(1)により求められる。
SF1=(ML/A)×(π/4)×100 ・・・ 式(1)
上記式(1)中、MLはトナーの絶対最大長、Aはトナーの投影面積を各々示す。
【0118】
なお、SF1は、主に顕微鏡画像または走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析装置を用いて解析することによって数値化され、例えば、以下のようにして算出される。すなわち、スライドガラス表面に散布した粒子の光学顕微鏡像をビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個の粒子の最大長と投影面積を求め、上記式(1)によって計算し、その平均値を求めることにより得られる。
【0119】
(外添剤)
外添剤としては、例えば、無機粒子が挙げられ、該無機粒子として、SiO、TiO、Al、CuO、ZnO、SnO、CeO、Fe、MgO、BaO、CaO、KO、NaO、ZrO、CaO・SiO、KO・(TiO、Al・2SiO、CaCO、MgCO、BaSO、MgSO等が挙げられる。
【0120】
外添剤としての無機粒子の表面は、予め疎水化処理をしてもよい。疎水化処理は、例えば疎水化処理剤に無機粒子を浸漬する等して行う。疎水化処理剤は特に制限されないが、例えば、シラン系カップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
疎水化処理剤の量としては、通常、例えば、無機粒子100質量部に対して、1質量部以上10質量部程度である。
【0121】
外添剤としては、樹脂粒子(ポリスチレン、PMMA、メラミン樹脂等の樹脂粒子)、クリーニング活剤(例えば、ステアリン酸亜鉛に代表される高級脂肪酸の金属塩、フッ素系高分子量体の粒子粉末)等も挙げられる。
【0122】
外添剤の外添量としては、例えば、トナー粒子100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下であることがよく、望ましくは0.01質量部以上2.0質量部以下である。
【0123】
(トナーの製造方法)
以下、本実施形態に係るトナーの製造方法について説明する。
トナー粒子の製造方法としては、乾式製法(例えば、混練粉砕法等)、湿式製法(例えば凝集合一法、懸濁重合法、溶解懸濁造粒法、溶解懸濁法、溶解乳化凝集合一法等)のいずれにより製造してもよいが、中でも、例えば、結着樹脂、必要に応じて着色剤、離型剤その他内添剤等を加えて混練、粉砕、分級する混練粉砕法;混練粉砕法にて得られた粒子を機械的衝撃力又は熱エネルギーにて形状を変化させる方法;により、トナー粒子を得ることがよい。
【0124】
そして、本実施形態に係るトナーは、例えば、得られた乾燥状態のトナー粒子に、外添剤を添加し、混合することにより製造される。混合は、例えばVブレンダーやヘンシュルミキサー、レディーゲミキサーなどによっておこなうことがよい。更に、必要に応じて、振動師分機、風力師分機などを使ってトナーの粗大粒子を取り除いてもよい。
【0125】
[静電荷像現像剤]
本実施形態に係る静電荷像現像剤は、本実施形態に係るトナーを少なくとも含むものである。
本実施形態に係る静電荷像現像剤は、本実施形態に係るトナーのみを含む一成分現像剤であってもよいし、当該トナーとキャリアと混合した二成分現像剤であってもよい。
【0126】
キャリアとしては、特に制限はなく、公知のキャリアが挙げられる。キャリアとしては、例えば、樹脂コートキャリア、磁性分散型キャリア、樹脂分散型キャリア等が挙げられる。
【0127】
二成分現像剤における、本実施形態に係るトナーと上記キャリアとの混合比(質量比)は、トナー:キャリア=1:100乃至30:100程度の範囲が望ましく、3:100乃至20:100程度の範囲がより望ましい。
【0128】
[画像形成装置/画像形成方法]
次に、本実施形態に係る画像形成装置/画像形成方法について説明する。
本実施形態に係る画像形成装置は、像保持体と、像保持体の表面を帯電する帯電手段と、像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成手段と、静電荷像現像剤を収納し、静電荷像現像剤により静電荷像を現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、記録媒体にトナー像を定着する定着手段と、を備える。そして、静電荷像現像剤として、上記本実施形態に係る静電荷像現像剤を適用する。
【0129】
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、例えば、現像手段を含む部分が、画像形成装置に対して脱着されるカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよく、該プロセスカートリッジとしては、例えば、本実施形態に係る静電荷像現像剤を収容し、現像手段を備えるプロセスカートリッジが好適に用いられる。
【0130】
本実施形態に係る画像形成方法は、像保持体の表面を帯電する帯電工程と、像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成工程と、静電荷像現像剤により静電荷像を現像してトナー像を形成する現像工程と、トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、記録媒体にトナー像を定着する定着工程と、を有する。そして、静電荷像現像剤として、上記本実施形態に係る静電荷像現像剤を適用する。
【0131】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示すが、これに限定されるわけではない。なお、図に示す主用部を説明し、その他はその説明を省略する。
【0132】
図1は、4連タンデム方式のカラー画像形成装置を示す概略構成図である。図1に示す画像形成装置は、色分解された画像データに基づくイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を出力する電子写真方式の第1乃至第4の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10K(画像形成手段)を備えている。これらの画像形成ユニット(以下、単に「ユニット」と称する場合がある)10Y、10M、10C、10Kは、水平方向に互いに予め定められた距離離間して並設されている。なお、これらユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成装置本体に対して脱着するプロセスカートリッジであってもよい。
【0133】
各ユニット10Y、10M、10C、10Kの図面における上方には、各ユニットを通して中間転写体としての中間転写ベルト20が延設されている。中間転写ベルト20は、図における左から右方向に互いに離間して配置された駆動ローラ22及び中間転写ベルト20内面に接する支持ローラ24に巻きつけて設けられ、第1のユニット10Yから第4のユニット10Kに向う方向に走行されるようになっている。尚、支持ローラ24は、図示しないバネ等により駆動ローラ22から離れる方向に力が加えられており、両者に巻きつけられた中間転写ベルト20に張力が与えられている。また、中間転写ベルト20の像保持体側面には、駆動ローラ22と対向して中間転写体クリーニング装置30が備えられている。
また、各ユニット10Y、10M、10C、10Kの現像装置(現像手段)4Y、4M、4C、4Kのそれぞれには、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kに収められたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーを含むトナーの供給がなされる。
【0134】
上述した第1乃至第4のユニット10Y、10M、10C、10Kは、同等の構成を有しているため、ここでは中間転写ベルト走行方向の上流側に配設されたイエロー画像を形成する第1のユニット10Yについて代表して説明する。尚、第1のユニット10Yと同等の部分に、イエロー(Y)の代わりに、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を付した参照符号を付すことにより、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kの説明を省略する。
【0135】
第1のユニット10Yは、像保持体として作用する感光体1Yを有している。感光体1Yの周囲には、感光体1Yの表面を予め定められた電位に帯電させる帯電ローラ2Y、帯電された表面を色分解された画像信号に基づくレーザ光線3Yよって露光して静電荷像を形成する露光装置(静電荷像形成手段)3、静電荷像に帯電したトナーを供給して静電荷像を現像する現像装置(現像手段)4Y、現像したトナー画像を中間転写ベルト20上に転写する1次転写ローラ5Y(1次転写手段)、及び1次転写後に感光体1Yの表面に残存するトナーを除去する感光体クリーニング装置(クリーニング手段)6Yが順に配置されている。
尚、1次転写ローラ5Yは、中間転写ベルト20の内側に配置され、感光体1Yに対向した位置に設けられている。更に、各1次転写ローラ5Y、5M、5C、5Kには、1次転写バイアスを印加するバイアス電源(図示せず)がそれぞれ接続されている。各バイアス電源は、図示しない制御部による制御によって、各1次転写ローラに印加する転写バイアスを可変する。
【0136】
以下、第1ユニット10Yにおいてイエロー画像を形成する動作について説明する。まず、動作に先立って、帯電ローラ2Yによって感光体1Yの表面が−600V乃至−800V程度の電位に帯電される。
感光体1Yは、導電性(20℃における体積抵抗率:1×10−6Ωcm以下)の基体上に感光層を積層して形成されている。この感光層は、通常は高抵抗(一般の樹脂程度の抵抗)であるが、レーザ光線3Yが照射されると、レーザ光線が照射された部分の比抵抗が変化する性質を持っている。そこで、帯電した感光体1Yの表面に、図示しない制御部から送られてくるイエロー用の画像データに従って、露光装置3を介してレーザ光線3Yを出力する。レーザ光線3Yは、感光体1Yの表面の感光層に照射され、それにより、イエロー印字パターンの静電荷像が感光体1Yの表面に形成される。
【0137】
静電荷像とは、帯電によって感光体1Yの表面に形成される像であり、レーザ光線3Yによって、感光層の被照射部分の比抵抗が低下し、感光体1Yの表面の帯電した電荷が流れ、一方、レーザ光線3Yが照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成される、いわゆるネガ潜像である。
このようにして感光体1Y上に形成された静電荷像は、感光体1Yの走行に従って予め定められた現像位置まで回転される。そして、この現像位置で、感光体1Y上の静電荷像が、現像装置4Yによって可視像(現像像)化される。
【0138】
現像装置4Y内には、例えば、少なくともイエロートナーとキャリアとを含む本実施形態に係る静電荷像現像剤が収容されている。イエロートナーは、現像装置4Yの内部で攪拌されることで摩擦帯電し、感光体1Y上に帯電した帯電荷と同極性(負極性)の電荷を有して現像剤ロール(現像剤保持体)上に保持されている。そして感光体1Yの表面が現像装置4Yを通過していくことにより、感光体1Y表面上の除電された潜像部にイエロートナーが静電的に付着し、潜像がイエロートナーによって現像される。イエローのトナー画像が形成された感光体1Yは、引続き予め定められた速度で走行され、感光体1Y上に現像されたトナー画像が予め定められた1次転写位置へ搬送される。
【0139】
感光体1Y上のイエロートナー画像が1次転写へ搬送されると、1次転写ローラ5Yに1次転写バイアスが印加され、感光体1Yから1次転写ローラ5Yに向う静電気力がトナー画像に作用され、感光体1Y上のトナー画像が中間転写ベルト20上に転写される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と逆極性の(+)極性であり、例えば第1ユニット10Yでは制御部に(図示せず)よって+10μA程度に制御されている。
一方、感光体1Y上に残留したトナーはクリーニング装置6Yで除去されて回収される。
【0140】
また、第2のユニット10M以降の1次転写ローラ5M、5C、5Kに印加される1次転写バイアスも、第1のユニットに準じて制御されている。
こうして、第1のユニット10Yにてイエロートナー画像の転写された中間転写ベルト20は、第2乃至第4のユニット10M、10C、10Kを通して順次搬送され、各色のトナー画像が重ねられて多重転写される。
【0141】
第1乃至第4のユニットを通して4色のトナー画像が多重転写された中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20と中間転写ベルト内面に接する支持ローラ24と中間転写ベルト20の像保持面側に配置された2次転写ローラ(2次転写手段)26とから構成された2次転写部へと至る。一方、記録紙(被転写体)Pが供給機構を介して2次転写ローラ26と中間転写ベルト20とが圧接されている隙間に予め定められたタイミングで給紙され、2次転写バイアスが支持ローラ24に印加される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と同極性の(−)極性であり、中間転写ベルト20から記録紙Pに向う静電気力がトナー画像に作用され、中間転写ベルト20上のトナー画像が記録紙P上に転写される。尚、この際の2次転写バイアスは2次転写部の抵抗を検出する抵抗検出手段(図示せず)により検出された抵抗に応じて決定されるものであり、電圧制御されている。
【0142】
この後、記録紙Pは定着装置(ロール状定着手段)28における一対の定着ロールの圧接部(ニップ部)へと送り込まれトナー画像が記録紙P上へ定着され、定着画像が形成される。
【0143】
トナー画像を転写する被転写体としては、例えば、電子写真方式の複写機、プリンター等に使用される普通紙、OHPシート等が挙げられる。
定着後における画像表面の平滑性をさらに向上させるには、被転写体の表面も平滑であることが望ましく、例えば、普通紙の表面を樹脂等でコーティングしたコート紙、印刷用のアート紙等が好適に使用される。
【0144】
カラー画像の定着が完了した記録紙Pは、排出部へ向けて搬出され、一連のカラー画像形成動作が終了される。
なお、上記例示した画像形成装置は、中間転写ベルト20を介してトナー画像を記録紙Pに転写する構成となっているが、この構成に限定されるものではなく、感光体から直接トナー画像が記録紙に転写される構造であってもよい。
【0145】
[プロセスカートリッジ、トナーカートリッジ]
図2は、本実施形態に係る静電荷像現像剤を収容するプロセスカートリッジの好適な一例の実施形態を示す概略構成図である。プロセスカートリッジ200は、感光体107とともに、帯電ローラ108、現像装置111、感光体クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を取り付けレール116を用いて組み合わせ、そして一体化したものである。なお、図2において符号300は被転写体を示す。
そして、このプロセスカートリッジ200は、転写装置112と、定着装置115と、図示しない他の構成部分とから構成される画像形成装置に対して着脱自在としたものである。
【0146】
図2で示すプロセスカートリッジ200では、帯電装置108、現像装置111、クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を備えているが、これら装置は選択的に組み合わせてもよい。本実施形態のプロセスカートリッジでは、感光体107のほかには、帯電装置108、現像装置111、クリーニング装置(クリーニング手段)113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117から構成される群から選択される少なくとも1種を備える。
【0147】
次に、本実施形態に係るトナーカートリッジについて説明する。本実施形態に係るトナーカートリッジは、画像形成装置に脱着され、少なくとも、画像形成装置内に設けられた現像手段に供給するための補給用の静電荷像現像トナーを収容するトナーカートリッジである。
【0148】
なお、図1に示す画像形成装置は、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kの着脱される構成を有する画像形成装置であり、現像装置4Y、4M、4C、4Kは、各々の現像装置(色)に対応したトナーカートリッジと、図示しないトナー供給管で接続されている。また、トナーカートリッジ内に収容されているトナーが少なくなった場合には、このトナーカートリッジが交換される。
【実施例】
【0149】
以下、実施例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。なお、実施例中において「部」及び「%」は、特に断りのない限り「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0150】
(多価アルコール成分の調製)
−ビスフェノールA型ロジンジオール(1)−
2官能エポキシ化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名jER828、三菱化学(株)製、Mw340.41)113部、ロジン成分として蒸留による精製処理(蒸留条件:6.6kPa、220℃)を行ったガムロジン(Mw302.45)200部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、ビスフェノールA型ロジンジオール(1)を得た。
なお、ビスフェノールA型ロジンジオール(1)は、例示化合物(1)に該当する。
【0151】
−ビフェニル型ロジンジオール(1)−
2官能エポキシ化合物としてビフェニル型エポキシ(商品名YL6121H、三菱化学株式会社製)49部、不均化ロジン(荒川化学工業株式会社 KR−614)を87部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、ビフェニル型ロジンジオール(1)を得た。
【0152】
−ビスフェノールF型ロジンジオール(1)−
2官能エポキシ化合物としてビスフェノールF型(商品名jER806、三菱化学株式会社製)49部、不均化ロジンを89部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、ビスフェノールF型ロジンジオール(1)を得た。
【0153】
−比較ロジンジオール(1)−
2官能エポキシ化合物として1,4−ビス(グリシジルオキシ)ベンゼン(商品名:B20628、和光純薬工業(株)製)50部、不均化ロジン(荒川化学工業株式会社 KR−614)を87部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、比較ロジンジオール(1)を得た。
なお、比較ロジンジオール(1)は、上記例示化合物(7)に該当する。
【0154】
(ポリエステル樹脂の合成)
−ポリエステル樹脂A−
多価アルコール成分としてビスフェノールA型ロジンジオール(1)を50部、酸成分としてテレフタル酸(和光純薬工業(株)製)10部、ドデセニルコハク酸(東京化成工業(株)製)30部、セバシン酸(和光純薬(株)製)10部及び架橋剤としてチタンジイソプロポキシビス(マツモトファインケミカル(株)製)1部を攪拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、目的とする分子量、酸価に達したことを確認し、特定ポリエステル樹脂1を合成した。
ポリエステル樹脂Aの重量平均分子量、ガラス転移温度及び軟化温度を、既述の方法で測定した。
結果を表1に示す。
【0155】
−ポリエステル樹脂B〜I、比較ポリエステル樹脂A〜E−
表1、2に従って、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分とを変更した以外は、ポリエステル樹脂Aと同様にして、ポリエステル樹脂B〜I、比較ポリエステル樹脂A〜Eを合成した。
ポリエステル樹脂B〜I、比較ポリエステル樹脂A〜Eの重量平均分子量、ガラス転移温度及び軟化温度を、既述の方法で測定した。
結果を表1、2に示す。
【0156】
[実施例1]
(トナー粒子1の作製)
−配合量−
ポリエステル樹脂A 100質量部
マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド57) 3質量部
【0157】
上記組成物をエクストルーダーで混練し、表面粉砕方式の粉砕機で粉砕した。その後、風力式分級機(ターボクラシファイアー(TC−15N)、日清エンジニアリング社製)で細粒、粗粒を分級し、その中間サイズの粒子を得る過程を3回繰り返し、体積平均粒径=8μmのマゼンタトナー粒子1を得た。
【0158】
(静電荷像現像剤の作製)
−トナーの製造−
トナー粒子1(100質量部)にシリカ(商品名:R812(日本エアロジル社製))0.5質量部を加え、高速混合機によって混合し、トナーを得た。
【0159】
上記トナーとメチルメタクリレート−スチレン共重合体で被覆した粒径50μmのフェライトよりなるキャリアを用い、キャリア100質量部に対して、トナー1を7質量部添加し、タンブラーシェーカーミキサーで混合して静電荷像現像剤を得た。
【0160】
得られた静電荷像現像剤を用いて、以下の評価を行った。
結果を表3に示す。
【0161】
(評価)
−帯電量−
作製した現像剤をフタ付きのガラス瓶に秤量し、トナーの帯電量(μC/g)をブローオフ帯電量測定装置で測定して帯電量を得た。
【0162】
−低温定着性−
作製したトナーの低温定着性について、次のようにして調べた。
画像を40mm×50mmのソリッド画像とし、トナー量は1.5mg/cm、記録紙はミラーコートプラチナ紙(坪量:127gsm)を使用し手評価した。ついで、DocuPrint C2220の定着機を定着温度が可変となるように改造し、定着温度を100℃から段階的に上昇させながら定着性を評価した。
そして、低温定着性は、離型不良による画像欠損のない良好な定着画像を定められた荷重の重りを用いて折り曲げ、その部分の画像欠損度合いをグレード付けし、ある一定のグレード以上になる定着温度を最低定着温度として、低温定着性の指標とした。
低温定着性は、最低定着温度が140℃以下で、許容範囲とする。
【0163】
−耐熱性(粉体特性)−
得られたトナーを温度53℃湿度50%の環境下において16時間放置した後、トナーの凝集塊が形成されたかどうかを目視で観察した。
評価基準は以下のようにした。
耐熱性は、△及び○で、許容範囲とする。
【0164】
○:凝集塊は観察されなかった、
△:凝集塊がわずかに観察されたが、許容範囲内である。
×:凝集塊が多く観察され、許容範囲を超えている
【0165】
[実施例2〜9、比較例1〜5]
ポリエステル樹脂1を表3に従って変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製し、実施例1と同様にして評価した。
結果を表3に示す。
【0166】
【表1】

【0167】
【表2】

【0168】
【表3】

【0169】
上記の結果から、本実施例においては、比較例と異なり、低温定着性及び耐熱性が両立されていることが明らかである。
【符号の説明】
【0170】
1Y,1M,1C,1K,107 感光体(像保持体)
2Y,2M,2C,2K,108 帯電ローラ
3Y,3M,3C,3K レーザ光線
3 露光装置
4Y,4M,4C,4K,111 現像装置(現像手段)
5Y,5M,5C,5K 1次転写ローラ
6Y,6M,6C,6K,113 感光体クリーニング装置
8Y,8M,8C,8K トナーカートリッジ
10Y,10M,10C,10K ユニット
20 中間転写ベルト
22 駆動ローラ
24 支持ローラ
26 2次転写ローラ(転写手段)
28,115 定着装置(定着手段)
30 中間転写体クリーニング装置
32 搬送ロール(排出ロール)
112 転写装置
116 取り付けレール
117 除電露光のための開口部
118 露光のための開口部
200 プロセスカートリッジ,
P,300 記録媒体(被転写体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分と、
下記一般式(1)で表されるロジンジオールを含み、前記ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して80モル%以上100モル%以下である多価アルコール成分と、
の重縮合体であるトナー用ポリエステル樹脂。
【化1】


(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。Lは下記構造式(I)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す)
【化2】

【請求項2】
多価カルボン酸成分と、
下記一般式(1)で表されるロジンジオールと、前記ロジンジオールを除く、下記構造式(I)を有する芳香族アルコール、下記構造式(II)を有する芳香族アルコール及び下記構造式(III)を有する芳香族アルコールのうち少なくとも1種と、を含み、前記ロジンジオール及び前記芳香族アルコールの含有量が全多価アルコール成分に対して合計で80モル%以上100モル%以下であり、前記ロジンジオールの含有量が全多価アルコール成分に対して10モル%以上80モル%以下である多価アルコール成分と、
の重縮合体であるトナー用ポリエステル樹脂。
【化3】

(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素、又はメチル基を表す。Lは下記構造式(I)を有する2価の連結基を表し、L及びLは、それぞれ独立に、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。A及びAはロジンエステル基を表す)
【化4】

【請求項3】
請求項1又は2に記載のトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
請求項3に記載の静電荷像現像用トナーを含む静電荷像現像剤。
【請求項5】
請求項3に記載の静電荷像現像用トナーを収納し、
画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジ。
【請求項6】
請求項4に記載の静電荷像現像剤を収納し、
像保持体の表面に形成された静電荷像を前記静電荷像現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【請求項7】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電する帯電手段と、
前記像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成手段と、
請求項4に記載の静電荷像現像剤を収納し、前記静電荷像現像剤により前記静電荷像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項8】
像保持体の表面を帯電する帯電工程と、
前記像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成工程と、
請求項4に記載の静電荷像現像剤により前記静電荷像を現像してトナー像を形成する現像工程と、
前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、
前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、
を有する画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−230376(P2012−230376A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93314(P2012−93314)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】