説明

トマトジュース濃縮物およびトマト風味組成物

【課題】
トマトからリコピンを得る際に副産物として生じるトマトジュースの有効な利用方法。
【解決手段】
トマトジュースを濃縮した後、ペクチナーゼにより処理して得られたトマトジュースが、低粘度でしかも経時的に沈殿が出にくく、またトマトジュースに本来含まれるペクチンを減少させずに粘度を低下させることができる。また、飲食品に添加した際フレーバーリリースが良好で、旨味およびコク味を付与することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトマト由来の水溶性ペクチンを豊富に含有し、かつ高濃度においても粘度が少ないトマトジュース濃縮物に関する。また、このトマトジュース濃縮物に酵母エキス、香料、トマト以外の果実の果汁を含有させることを特徴とするトマト風味組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトジュースは一般にトマトを加熱または未加熱で粉砕し、搾汁することで得られる。トマトジュースには通常リコピンおよびパルプ質が含まれており、粘性があり赤色を呈している。
【0003】
生食用トマトは一般に樹上でまだ青いトマトを摘み取り、追熟して食用に供する。それに対し、加工用トマトは一般的には完熟トマトとも呼ばれるが、農水省の規定で、“樹の上で完熟したもので、標準赤色板より赤いこと、リコピンの含有量が100g当たり7mg以上であること”等が規定されている。トマトはアミノ酸が多く、特にグルタミン酸、アスパラギン酸が多く、非常に旨味が強い。トマトは熟度とともにアミノ酸および糖含量が増加し、旨味が増していくことが知られている。そのため加工用トマトは特にアミノ酸が多く風味が良好で、様々な食品との相性も良く、風味素材としても優れている。しかしながら加工用トマトは痛みやすく、運搬にコストがかかるため、栽培された地域でトマトジュース、トマトケチャップ、トマトピューレ等に加工用として使用されているのが現状である。
【0004】
加工用トマトはまた、リコピンやパルプの製造にも用いられるが、これらを精製する際、副産物としてトマト漿液が得られることが知られている。しかしながら、このトマト漿液はいまだ十分有効活用されているとは言い難い。
【0005】
トマト漿液の利用に関しては70℃以上で加熱したトマト汁から不溶分を比重分離して得たトマト液を酒精飲料、炭酸水、他の果実又は野菜の果汁、金属イオン等と混合した飲料(特許文献1〜4)、トマト果汁を限外濾過によりパルプを濾別しビールと混合した発泡アルコール飲料(特許文献5)が知られている。また、透明なトマトジュースに関してはトマトをペクチナーゼで処理した後0.03mm〜0.7mmのフィルターを通して分離して得られるスラリー液を1〜10μmで限外濾過した透過液(特許文献6)、トマトを潰した後、凍結してから解凍濾過することにより、トマト成分中のカロチンおよび食物繊維を除去する方法(特許文献7)、トマト色素やトマトパルプ等のトマト加工品を得る際に副生する漿液を脱色処理し、各種飲料原料や食品素材として用いる方法(特許文献8)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−95868
【特許文献2】特開昭59−95869
【特許文献3】特開昭59−95870
【特許文献4】特開昭59−95871
【特許文献5】特開昭62−253368
【特許文献6】特許第3606702号
【特許文献7】特開平11−113542
【特許文献8】特開2003−135038
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、トマト漿液をトマト由来のペクチンを豊富に含んだ組成のまま有効に利用している例は見当たらない。
従って本発明の目的は、トマトからリコピンを得る際に副産物として生じる漿液のパルプ質を除去し、アミノ酸及びペクチンを豊富に含み、かつ濃縮物においてもペクチン由来の粘度による取り扱いにくさが抑えられたトマトジュース濃縮物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はトマト漿液の有効な利用法について鋭意研究を行ったところ、トマトジュースを濃縮した後、ペクチナーゼにより処理して得られたトマトジュースが、低粘度でしかも経時的に沈殿が出にくく、またトマトジュースに含まれるペクチンを減少させずに粘度を低下させることができることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、トマトジュースを濃縮した後、ペクチナーゼにより処理してなるトマトジュースまたはその濃縮物を提供するものである。
本発明はまた、ペクチナーゼ処理を行う際のトマトジュースの濃度が屈折糖度(20℃)で30゜〜80゜(Bx)であるトマトジュースまたはその濃縮物を提供するものである。
本発明はまた、原料トマトが加工用トマトである前記トマトジュースまたはその濃縮物が提供される。
さらに、本発明は、屈折糖度(20℃)Bx60゜に濃縮したときの粘度が400mPa・s以下である前記トマトジュース濃縮物を提供するものである。
本発明にはまた、上記のトマトジュースまたはその濃縮物に酵母エキス、香料、トマト以外の果実の果汁から選ばれる1種又は2種以上を含有させることにより得られるトマト風味組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られるトマトジュース濃縮物は次のような特徴を持っている。すなわち赤色が少ない、低粘度、喉ごしが良い、旨味およびコク味が強い。そのためこのトマトジュース濃縮物は風味素材としてきわめて有用である。また、このトマトジュース濃縮物にさらに酵母エキス、香料、トマト以外の果汁を含有させることにより嗜好性に優れたトマト風味組成物を製造することができる。また、これらのトマトジュース濃縮物およびトマト風味組成物を飲料もしくはカレールー等に添加することで、旨味、コク味が増強され、さらにフレーバーリリースに優れ、味のインパクトも増強されるという付随した効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
原料として使用しうるトマトは、トマト(Lycopersicon esculentum)の果実であれば、特に品種は問わず、いかなる品種でも使用することができる。トマトは完熟したものを使用することが好ましい。前述の通り加工用トマトは一般的には完熟トマトとも呼ばれており、農水省の規定で、“樹の上で完熟したもので、標準赤色板より赤いこと、リコピンの含有量が100g当たり7mg以上であること”等が規定されている。加工用トマトを使用することで、アミノ酸および糖類が多く、旨味の強いトマトジュースを得ることができる。
【0011】
選別されたトマトは洗浄後、そのまま、あるいはトマト果実が有するトマト由来の酵素活性を失活させるためホールの状態で70℃以上に加熱処理を行った後粉砕する。トマトを加熱せずに粉砕した場合はトマト果実が本来持つペクチナーゼが作用し、ペクチン含量が低下するため、その場合は粉砕後直ちに酵素失活を兼ねて90℃程度の殺菌工程を行うことが好ましい。
【0012】
粉砕物は引き続き遠心分離、濾過等の分離手段による処理を行いトマトジュースを得る。まず、裏ごし器、パルパーフィニッシャー、振動篩(20〜60メッシュ程度)等で粗大なパルプを除去した後、遠心分離(1500G、15分程度)を行いトマトジュース(トマト漿液)を得る。
【0013】
得られたトマトジュースは引き続き濃縮する。トマトのストレート果汁は一般的にはBx5゜〜8゜であるが、濃縮によりBx30゜〜80゜とすることで濃縮後に行うペクチナーゼ処理においてペクチン含量を低下させずに粘度を低下させることができる。濃縮方法としては減圧濃縮、凍結濃縮あるいは逆浸透膜濃縮等いかなる濃縮方法を採用しても良い。
【0014】
得られたトマトジュース濃縮物は引き続きペクチナーゼ処理を行う。本発明者等の研究においてストレート果汁の濃度(Bx5゜〜8゜)の条件でペクチナーゼを作用させたところ、ペクチンの分解が進みペクチン含量が低下してしまう傾向が見られた。ところが驚くべきことにBx30゜〜80゜の濃度の条件下でペクチナーゼを作用させた場合、ペクチナーゼの作用が抑えられ、粘度は低下するが、ペクチン含量はほとんど低下しないことが判明した。
【0015】
その結果、粘度の低下によりトマトジュースは扱い易いものとなり、なおかつペクチンが果実と同程度量残存しているトマトジュース濃縮物が得られた。これは、濃縮トマト果汁の浸透圧によりペクチナーゼの作用が抑えられ、ペクチンが部分的に分解し低分子化するためと推定されるが、詳細な作用は定かではない。
【0016】
なお、ペクチナーゼとは、ポリガラクツロナーゼ、ペクチックエンザイム、ポリメチルガラクツロナーゼ、ペクチンデポリメラーゼとも呼ばれ、ペクチニン酸、ペクチン、ペクチン酸などのα(1−4)結合を加水分解する酵素である。ペクチナーゼは、細菌、カビ、酵母、高等植物、カタツムリなどに含まれていることが知られており、本発明ではこれらをはじめとする生物から採取したペクチナーゼを広く使用することができる。また、市販のペクチナーゼ製剤を使用してもよい。市販のペクチナーゼ製剤としては、例えば、スクラーゼ(三共(株)社製(登録商標))、ペクチネックスウルトラSP−L(ノボノルディクスA/S社製(登録商標))、メイセラーゼ(明治製菓(株)社製(登録商標))、ウルトラザイム(ノボノルディクスA/S社製(登録商標))、ペクチナーゼG、ペクチナーゼPL(登録商標)、ニューラーゼF(登録商標)、ペクチナーゼPL(登録商標)、ペクチナーゼG(登録商標)(以上天野エンザイム(株)社製)などを例示することができる。ペクチナーゼの添加量は、トマトジュースの粘度を低下させるがペクチン含量を減らさない範囲内に設定する。酵素活性等によっても異なるが、例えば、トマトジュース濃縮物の重量を基準として0.005〜0.5重量%の範囲内を例示することができる。トマトジュース濃縮物をペクチナーゼ処理する条件もまたトマトジュースの粘度を低下させるがペクチン含量を減らさない範囲内に設定するが、静置条件下、好ましくは撹拌条件下に、約0℃〜約55℃の温度範囲で、約10分〜約24時間作用させる方法を例示することができる。酵素反応終了後、例えば、約70℃〜約100℃の温度範囲で、約1秒〜約30分間加熱することにより酵素を失活させる。
【0017】
得られたペクチナーゼ処理液は引き続き、濾過または遠心分離処理を行うことが好ましい。濾過の方法として保持粒子経0.2〜5μmの濾紙または膜口径0.2〜5μmのミクロフィルターによる濾過処理を例示することができる。また、8000G、1分またはそれ以上に相当する遠心分離を行ってもよい。この濾過または遠心分離処理によりトマトジュース中に残存するパルプ質とその中に含まれるリコピンが除去される。
【0018】
また、以上の方法により得られた、トマトジュース濃縮物の粘度を測定したところ、屈折糖度(20℃)でBx60°の濃縮液において400mPa・s以下であることが判明した(粘度の測定方法:B型粘度計(東京計器社製)ローターNo.3にて、20℃、60rpm、1分)。
【0019】
かくして得られたトマトジュースまたはその濃縮物はそのまま、あるいは希釈して、殺菌し、容器に充填してトマト果汁飲料とすることもできるが、トマトジュース中に含まれる豊富な旨味を利用し、食品の風味増強剤として使用することもできる。風味増強剤として使用する場合は、トマトジュースまたはその濃縮物にさらに酵母エキス、香料、トマト以外の果実の果汁から選ばれる1種又は2種以上を含有させ、トマト風味組成物とすることにより、より効果的に風味を付与することができる。
【0020】
酵母エキスの具体例としては食品に使用されている酵母、例えばパン酵母、ビール酵母、トルラ酵母等から得られるエキスをあげることができる。酵母エキスとは、酵母を、1)pH5〜12の温熱水で抽出する方法、2)タンパク質分解酵素、細胞壁分解酵素などを添加して抽出する方法、3)酵母中の酵素を利用して自己消化により抽出する方法、4)これらの方法を二つ以上組み合わせた方法、5)抽出した酵母抽出物にさらに核酸分解酵素、AMPデアミナーゼ等を作用させる方法、等の方法で得られる酵母抽出物をいう。これら酵母エキスの中でも、酵母を温熱水で抽出したのち、核酸分解酵素、AMPデアミナーゼを作用させることにより得られる、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム、5’−ウリジル酸ナトリウム及び5’−シチジル酸ナトリウムを各々1〜15%、及びグルタミン酸ナトリウムを1〜20%含有した酵母エキスが特に好ましい。酵母エキスの配合量としてはトマトジュースまたはその濃縮物を基準として0.1〜10%の範囲内を例示することができる。
【0021】
香料の具体例としては、例えば、トマト天然精油の他、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、タンジェリン油、マンダリン油およびベルガモット油などのごとき公知の柑橘精油類;ペパ−ミント油、スペアミント油、シンナモン油などのごとき精油類;オールスパイス、アニスシード、バジル、ローレル、カルダモン、セロリ、クローブ、クミン、デイル、ガーリック、ジンジャー、メース、マスタード、オニオン、パプリカ、パセリ、ブラックペパー、ナッツメグ、サフラン、ローズマリー等のスパイス類の精油またはオレオレジン類;さらにリモネン、リナロール、ネロール、シトロネロール、ゲラニオール、シトラール、l−メントール、オイゲノール、シンナミックアルデヒド、アネトール、ペリラアルデヒド、バニリン、γ−ウンデカラクトン、l−カルボン、マルトール、フルフリルメルカプタン、プロピオン酸エチル、カプロン酸アリル、メチル−n−アミルケトン、ジアセチル、酢酸、酪酸等の公知のフレーバー物質;着香油(反応フレ−バ−);及びこれらの天然精油、オレオレジン及び香料化合物等を任意に組み合わせて混合したトマト風味の調合香料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。香料の配合量としてはトマトジュースまたはその濃縮物を基準として0.001〜10%の範囲内を例示することができる。
【0022】
果汁の具体例としてはいちご、オレンジ、梅、レモン、グレープフルーツ、すいか、梨、パイナップル、バナナ、ぶどう、パパイヤ、マンゴー、メロン、桃、りんご、柚子等を挙げることができる。果汁の配合量はトマトジュースまたはその濃縮物の基本的なトマト的な風味を変えない程度であれば特に限定されないがトマトジュースまたはその濃縮物を基準として1〜50%の範囲内を例示することができる。
【0023】
上記のごとくして得られたトマトジュース濃縮物およびトマト風味組成物は、フレーバーリリースに優れ、味のインパクトも増強されるという効果が得られる。これは高分子のパルプ質を含まないためと推定される。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0024】
実施例1
加工用トマト(蔕まで赤くなった物)12Kgを水洗浄した後、蒸し器にて40分間蒸煮し、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、粉砕物を40メッシュ金網にて固形物を除いた後、さらに遠心分離(1500G、15分)にて固形物を除き、pH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°のトマトジュース10.2Kgを得た。次いで90℃達温殺菌後、ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮し、スクラーゼN(三共社製ペクチナーゼ(登録商標))1.4gを加え、40℃で1時間攪拌反応させ、90℃達温殺菌後、20℃まで冷却した。反応後3倍量の水を加えた後、膜口径1μmのミクロフィルターにより濾過を行い、濾液を得、再度ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮しトマトジュース濃縮物(発明品1)1250gを得た。
【0025】
実施例2
加工用トマト(蔕まで赤くなった物)12Kgを水洗浄した後、蒸し器にて40分間蒸煮し、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、粉砕物を40メッシュ金網にて固形物を除いた後、さらに遠心分離(1500G、15分)にて固形物を除き、pH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°のトマトジュース10.2Kgを得た。次いで90℃達温殺菌後、ロータリーエバポレーターにてBx30°まで濃縮し、スクラーゼN(三共社製ペクチナーゼ(登録商標))0.7gを加え、40℃で1時間攪拌反応させ、90℃達温殺菌後、20℃まで冷却した。反応後等量の水を加えた後、膜口径1μmのミクロフィルターにより濾過を行い、濾液を得、再度ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮しトマトジュース濃縮物(発明品2)1260gを得た。
【0026】
実施例3(生食用トマトを使用した例)
生食用トマト(スーパーマーケットで購入したもの)12Kgを使用した以外は実施例1と同様に処理し、トマトジュース濃縮物(発明品3)1050gを得た。
【0027】
比較例1(ペクチナーゼ処理を行わない例)
加工用トマト(蔕まで赤くなった物)12Kgを水洗浄した後、蒸し器にて40分間蒸煮し、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、粉砕物を40メッシュ金網にて固形物を除いた後、さらに遠心分離(1500G、15分)にて固形物を除き、pH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°のトマトジュース10.2Kgを得た。次いで90℃達温殺菌後、ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮した後90℃達温殺菌し、濃縮液に対し3倍量の水を加えた後、膜口径1μmのミクロフィルターにより濾過を行い、濾液を得た。なお、濾過には発明品と比べ約3倍の時間を要した。濾液は再度ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮しトマトジュース濃縮物(比較品1)1250gを得た。
【0028】
比較例2(濃縮前にペクチナーゼ処理を行った例)
加工用トマト(蔕まで赤くなった物)12Kgを水洗浄した後、蒸し器にて40分間蒸煮し、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、粉砕物を40メッシュ金網にて固形物を除いた後、さらに遠心分離(1500G、15分)にて固形物を除き、pH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°のトマトジュース10.2Kgを得た。次いで90℃達温殺菌後、40℃に冷却し、スクラーゼN(三共社製ペクチナーゼ(登録商標))1.4gを加え、40℃で1時間攪拌反応させ、90℃達温殺菌後、20℃まで冷却した。反応後、膜口径1μmのミクロフィルターにより濾過を行い、濾液を得、ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮しトマトジュース濃縮物(比較品2)1285gを得た。
【0029】
比較例3(パルプ質を残存させた例)
加工用トマト(蔕まで赤くなった物)12Kgを水洗浄した後、蒸し器にて40分間蒸煮し、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、粉砕物を40メッシュ金網にて固形物を除き、pH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°のトマトジュース10.5Kgを得た。次いで90℃達温殺菌後、ロータリーエバポレーターにてBx60°まで濃縮し、トマトジュース濃縮物(比較品3)1342gを得た。
【0030】
発明品1〜3および比較品1〜3はアミノ酸、ペクチン、粘度の測定を行った。結果を表1に示す。
分析方法
アミノ酸:日立高速アミノ酸分析計 L−8800A
ペクチン:プロスキー変法
粘度の測定方法:
装置:B型粘度計(東京計器社製)ローターNo.2
測定条件:20℃、60rpm、1分
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、発明品1および2はアミノ酸含量が高く粘度が低くペクチンもある程度残存していることが読み取れる。また、生食用トマトを使用した発明品3は粘度も低くペクチンも残存しているが、アミノ酸含量が低いことがわかる。一方、ペクチナーゼ処理を全く行わない比較品1は粘度が高いこと、濃縮前にペクチナーゼを行った比較品2はペクチンの残存量が少ないことが判明した。また、パルプ質を残存させた比較品3は他の製法と比べきわめて高い粘度となった。
【0033】
実施例4(トマト果汁入り飲料の調製)
表2に示す調合処方に従って原料を混合した後、95℃、15秒殺菌を行い、89℃冷却後500mlペットボトルに充填し、2分間保持した後30℃まで冷却し、飲料を調製した。
【0034】
【表2】

【0035】
発明品1を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品4とした。
発明品2を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品5とした。
発明品3を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品6とした。
比較品1を使用して表2の処方にて調製した飲料を比較品4とした。
比較品2を使用して表2の処方にて調製した飲料を比較品5とした。
比較品3を使用して表2の処方にて調製した飲料を比較品6とした。
得られた飲料に関して6人の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。官能評価結果を表3に示す。官能評価の採点基準は「喉ごし」、「なめらかさ」、「おいしさ」をそれぞれついて5点を最高点、0点を最低点として採点し、6名の平均点とその合計点を示した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示したとおり、発明品4および5は喉ごし、なめらかさ、おいしさとも比較品と比べ高い評価であった。また、発明品6は良好な喉ごし、なめらかさを有していたが、旨味にかけるためおいしさの評点がやや低かった。一方比較品4は喉ごし、なめらかさが悪く、比較品5はコク味不足のためおいしさの評点が低いという結果であった。また、比較品6はトマトジュース特有のパルプ質を含んでいるため他の実施品と異なるタイプの飲料となっているが、喉ごしなめらかさとも低い評価であった。また、発明品4〜6はフレーバーリリースが比較品と比べ有意に改善されており、旨味の感じ方も比較品と比べより鋭利になっていると評価された。
【0038】
実施例5(トマト風味組成物の調整)
発明品1を500gに対しレモン1/5濃縮果汁90g、酵母エキス「アロマイルド」((株)興人社製(登録商標))20gおよび水44gを混合し、55〜60℃で攪拌溶解し、さらに上白糖344gを混合溶解し、90℃にて20分間加熱殺菌した後、70℃まで冷却し、トマトフレーバー(調合香料:長谷川香料)2gを添加し、60メッシュ金網濾過後70℃にて熱時充填し、充填後30℃以下に冷却し、トマト風味組成物(発明品7)1000gを得た。
【0039】
実施例6(トマト風味組成物を用いた飲料の調整および官能評価)
発明品7、発明品1および発明品2を用いて表2の調合処方に従って実施例4と全く同様に飲料を調整した。得られた飲料に関して6人の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。官能評価結果を表3に示す。官能評価の採点基準は「喉ごし」、「なめらかさ」、「おいしさ」をそれぞれついて5点を最高点、0点を最低点として採点し、6名の平均点とその合計点を示した。
発明品7を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品8とした。
発明品1を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品4とした。
発明品2を使用して表2の処方にて調製した飲料を発明品5とした。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示したとおり、発明品8は発明品4、5と比べてさらにおいしさが増しているという評価であった。
【0042】
実施例7
表5に示す処方にてレトルトカレーを調製した。まず、たまねぎ、ガーリックペースト、ジンジャーペーストを無塩バターにて炒め、次いで小麦粉を加えてさらに炒め、さらに、じゃがいも、にんじん、牛肉以外の材料を加えて炒め、とろみが出るまで攪拌しながら加熱した。そこに、じゃがいも、にんじん、牛肉を加え、121℃で20分間レトルト殺菌して、レトルトカレーを得た。
【0043】
【表5】

【0044】
発明品1を使用して表5の処方にて調製したレトルトカレーを発明品9とした。
比較品1を使用して表5の処方にて調製したレトルトカレーを比較品7とした。
比較品2を使用して表5の処方にて調製したレトルトカレーを比較品8とした。
得られたレトルトカレーを6名のパネラーにて評価したところ、いずれのパネラーも発明品9が比較品7、8に比べて、旨味、コクが強く、またフレーバーリリースが良くスパイス感が引き立つとの評価であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトジュースを濃縮した後、ペクチナーゼにより処理してなるトマトジュースまたはその濃縮物。
【請求項2】
ペクチナーゼ処理を行う際のトマトジュースの濃度が屈折糖度(20℃)で30゜〜80゜(Bx)である請求項1に記載のトマトジュースまたはその濃縮物。
【請求項3】
原料トマトが加工用トマトである請求項1または2に記載のトマトジュースまたはその濃縮物。
【請求項4】
屈折糖度(20℃)60゜(Bx)に濃縮したときの粘度が400mPa・s以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のトマトジュース濃縮物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のトマトジュースまたはその濃縮物に酵母エキス、香料、トマト以外の果実の果汁から選ばれる1種又は2種以上を含有させることを特徴とするトマト風味組成物。

【公開番号】特開2007−37530(P2007−37530A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337944(P2005−337944)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】