説明

トラクタの動力伝達装置

【課題】油圧クラッチで構成された走行クラッチおよびPTOクラッチを安定して作動させることができるトラクタの動力伝達装置を提供する。
【解決手段】走行動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式の走行クラッチ31と、PTO動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式のPTOクラッチ32と、走行クラッチ31の作動を切り換える走行用電磁バルブ130およびPTOクラッチ32の作動を切り換えるPTO用電磁バルブ140が設けられる油路板180と、を具備するトラクタ1のトランスミッション10であって、油路板180上であって走行用電磁バルブ130とPTO用電磁バルブ140との間にアキュムレータ150を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧により作動する油圧クラッチを具備するトラクタの動力伝達装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧により作動する油圧クラッチを具備するトラクタの動力伝達装置の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のトラクタの動力伝達装置は、トラクタの前進と後進とを切り換える走行用のクラッチ、およびPTO軸への動力の伝達を断接するPTO用のクラッチ等を具備する。これら走行用のクラッチおよびPTO用のクラッチは油圧により作動する油圧クラッチで構成されており、当該油圧クラッチに作動油を適宜供給することで、当該油圧クラッチの作動を切り換えることができる。
【0004】
しかし、特許文献1に記載のトラクタの動力伝達装置のように油圧クラッチを利用する場合、当該油圧クラッチに供給される作動油の圧力が安定していないと当該油圧クラッチを所望のタイミングで作動させることができないなど、当該油圧クラッチの作動が安定しない場合がある点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−78566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、油圧クラッチで構成された走行クラッチおよびPTOクラッチを安定して作動させることができるトラクタの動力伝達装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、走行動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式の走行クラッチと、PTO動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式のPTOクラッチと、前記走行クラッチの作動を切り換える走行用電磁バルブおよび前記PTOクラッチの作動を切り換えるPTO用電磁バルブが設けられる油路板と、を具備するトラクタの動力伝達装置であって、前記油路板上であって前記走行用電磁バルブと前記PTO用電磁バルブとの間にアキュムレータを具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記油路板は、ミッションケースの前面に取り付けられるものである。
【0010】
請求項3においては、前記油路板は、一対のプーリに巻回されたベルトにより動力を伝達するベルト式無段変速機を変速する油圧サーボ機構の側部に配置されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、走行用電磁バルブおよびPTO用電磁バルブに供給する作動油の圧力を安定させることで、走行クラッチおよびPTOクラッチを安定して作動させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】トラクタの全体的な構成を示した左側面図。
【図2】ミッションケースを示した左側面図。
【図3】ミッションケースの前部を示した右側面図。
【図4】ミッションケースの前部を示した平面図。
【図5】ミッションケースの前部を示した正面図。
【図6】ミッションケースの前部を示した斜視図。
【図7】トランスミッション全体を示した右側面断面図。
【図8】クラッチ機構および慣性ブレーキ機構を示した右側面断面図。
【図9】ベルト式無段変速機を示した右側面断面図。
【図10】油圧回路を示した模式図。
【図11】図5におけるA−A断面図。
【図12】図3におけるB−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図1を用いて、トランスミッション10を具備するトラクタ1の全体構成について説明する。
なお、以下では図中の矢印Fの方向を前方向、矢印Lの方向を左方向として説明を行う。
【0014】
トラクタ1においては、機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置され、その前部でフロントアクスルを介して左右一対の前輪4・4に支持されるとともに、その後部で左右一対のリアアクスル5・5を介して左右一対の後輪6・6に支持される。機体フレーム2の前部にはボンネット7で覆われた駆動源としてのエンジン8が設けられ、前記ボンネット7の後方には運転操作部9が設けられ、機体フレーム2の後部には後述するトランスミッション10(図3参照)を収納するミッションケース11が設けられる。また、作業機として、トラクタ1の前部にフロントローダ12が、トラクタ1の前後中央下部にミッドモア13が、それぞれ装着される。
【0015】
以下では、ミッションケース11について説明する。
【0016】
図2から図6までに示すように、ミッションケース11は、前ケース11a、後ケース11b、およびリアアクスルケース11c・11c等を具備する。
【0017】
前ケース11aおよび後ケース11bは略直方体箱状に形成される部材である。後ケース11bの前端部に前ケース11aがボルト等により固定される。また、後ケース11bの左右両側面にリアアクスルケース11c・11cがそれぞれボルト等により固定される。左右のリアアクスルケース11c・11cからは、リアアクスル5・5がそれぞれ左右方向に向かって突出している。
前ケース11aの前面には、後述する油圧サーボ機構44、および油路板180等が固定される。より詳細には、前ケース11aの前面右側には油圧サーボ機構44が配置され、前ケース11aの前面左側(油圧サーボ機構44の左側部)には油路板180が配置される。
【0018】
以下では、動力伝達装置としてのトランスミッション10の概要について説明する。
【0019】
図7から図9までに示すトランスミッション10は、エンジン8からの動力を変速して前輪4・4、および後輪6・6、ならびに後述するリヤPTO軸91、およびミッドPTO軸92へと伝達するものである。トランスミッション10は、概ねミッションケース11に収納されている。トランスミッション10は、ミッション入力軸20、クラッチ機構30、ベルト式無段変速機40、出力軸60、前輪駆動伝達軸70、慣性ブレーキ機構80、PTO入力軸90、リヤPTO軸91、ミッドPTO軸92、および油圧回路100等を具備する。
本発明に係る走行動力伝達機構は、ベルト式無段変速機40、出力軸60、および前輪駆動伝達軸70等により構成され、本発明に係るPTO動力伝達機構は、慣性ブレーキ機構80、PTO入力軸90、リヤPTO軸91、およびミッドPTO軸92等により構成される。
【0020】
エンジン8からの動力はミッション入力軸20に伝達された後、クラッチ機構30を介してベルト式無段変速機40およびPTO入力軸90に伝達される。
ベルト式無段変速機40に伝達された動力は、当該ベルト式無段変速機40において無段階に変速された後、出力軸60および前輪駆動伝達軸70に伝達される。
出力軸60に伝達された動力は、最終減速機構(不図示)等を介してリアアクスル5・5へと伝達され、ひいては後輪6・6へと伝達される。
前輪駆動伝達軸70に伝達された動力は、前車軸(不図示)等を介して前輪4・4へと伝達される。
また、PTO入力軸90に伝達された動力は、当該PTO入力軸90の後端部に形成されるギヤ部90a、およびリヤPTO軸91に設けられるギヤ91aを介してリヤPTO軸91へと伝達される。
さらに、リヤPTO軸91に伝達された動力は、ギヤ91a、中間ギヤ92a、およびミッドPTO軸92に設けられるギヤ92bを介してミッドPTO軸92へと伝達される。
【0021】
このように構成されたトランスミッション10において、ベルト式無段変速機40における変速比を変更することにより、トラクタ1の車速を任意に調節することができる。
また、リヤPTO軸91およびミッドPTO軸92へと伝達された動力により、リヤPTO軸91に連結された作業機(例えば、ロータリ耕耘装置等)、およびミッドPTO軸92に連結された作業機(本実施形態においては、ミッドモア13)を駆動させることができる。
さらに、クラッチ機構30によりエンジン8からPTO入力軸90への動力の伝達が遮断された場合、慣性ブレーキ機構80によってPTO入力軸90の回動が制動される。
【0022】
以下では、クラッチ機構30および慣性ブレーキ機構80について詳細に説明する。
【0023】
図8に示すクラッチ機構30はミッション入力軸20上の後端部近傍に設けられ、前記走行動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式の走行クラッチ31、および前記PTO動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式のPTOクラッチ32等を具備する。
【0024】
走行クラッチ31は、ピストン31a、プレート群31b、クラッチケース31c、およびギヤ31d等を具備する。
走行クラッチ31に作動油が供給されると、ピストン31aが前方に摺動し、複数の摩擦板等からなるプレート群31bを押圧する。これによって、ミッション入力軸20にスプライン嵌合されるクラッチケース31cとギヤ31dとが連動連結され、ミッション入力軸20の動力はギヤ31dへと伝達可能となる。この状態のことを、走行クラッチ31が接続された状態と定義する。ギヤ31dに伝達された動力は、当該ギヤ31dに歯合された後述するベルト式無段変速機40の変速入力ギヤ41a、および遊星歯車機構51に伝達される。
走行クラッチ31に作動油が供給されない場合、上述のようなクラッチケース31cとギヤ31dとの連動連結は解除され、動力の伝達は不可能となる。この状態のことを、走行クラッチ31が切断された状態と定義する。
【0025】
PTOクラッチ32は、ピストン32a、プレート群32b、およびPTO入力部材32c等を具備する。
PTOクラッチ32に作動油が供給されると、ピストン32aが後方に摺動し、複数の摩擦板等からなるプレート群32bを押圧する。これによって、ミッション入力軸20にスプライン嵌合されるクラッチケース31cとPTO入力部材32cとが連動連結され、ミッション入力軸20の動力はPTO入力部材32cへと伝達可能となる。この状態のことを、PTOクラッチ32が接続された状態と定義する。PTO入力部材32cに伝達された動力は、当該PTO入力部材32cの後端部にスプライン嵌合されたPTO入力軸90に伝達される。
PTOクラッチ32に作動油が供給されない場合、上述のようなクラッチケース31cとPTO入力部材32cとの連動連結は解除され、動力の伝達は不可能となる。この状態のことを、PTOクラッチ32が切断された状態と定義する。
【0026】
慣性ブレーキ機構80は、PTOクラッチ32が切断された場合にPTO入力部材32cを制動するものである。慣性ブレーキ機構80は、ピストン80a、プレート群80b、およびスプリング80c等を具備する。
PTOクラッチ32に作動油が供給されない場合、慣性ブレーキ機構80にも作動油は供給されない。この場合、スプリング80cの付勢力によりピストン80aが前方に摺動し、複数の摩擦板等からなるプレート群80bを押圧する。これによって、PTO入力部材32cと後ケース11bとが連結され、当該PTO入力部材32cは制動される。
PTOクラッチ32に作動油が供給された場合、慣性ブレーキ機構80にも作動油は供給される。この場合、当該作動油の圧力により、ピストン80aが後方に摺動され、PTO入力部材32cと後ケース11bとの連結が解除される。これによりPTO入力部材32cの制動が解除される。
【0027】
以下では、後述する油圧ポンプ110を駆動させるための構成について説明する。
【0028】
図8に示すように、クラッチ機構30のギヤ31dの前方において、ポンプ出力ギヤ21がミッション入力軸20にスプライン嵌合される。ミッション入力軸20の動力は、ポンプ出力ギヤ21、および当該ポンプ出力ギヤ21と歯合される中間ギヤ22を介して、当該中間ギヤ22と歯合されるポンプ駆動ギヤ23に伝達される。ポンプ駆動ギヤ23は油圧ポンプ110の駆動軸110aにスプライン嵌合されており、当該ポンプ駆動ギヤ23に伝達された動力によって油圧ポンプ110が駆動される。
【0029】
以下では、ベルト式無段変速機40について詳細に説明する。
【0030】
ベルト式無段変速機40は、変速入力軸41、入力プーリ42、油圧シリンダ43、油圧サーボ機構44、伝達軸45、出力プーリ46、出力部材47、カム機構48、付勢部材49、ベルト50、および遊星歯車機構51等を具備する。
【0031】
図7および図9に示す変速入力軸41は、ミッション入力軸20と平行に配置され、ギヤ31dおよび変速入力ギヤ41aを介して当該ミッション入力軸20からの動力が伝達可能とされる。
【0032】
変速入力軸41の中途部には、入力プーリ42が設けられる。入力プーリ42は、変速入力軸41に相対回転不能かつ摺動不能に固定される固定シーブ42a、および変速入力軸41に相対回転不能かつ摺動可能に支持される可動シーブ42b等を具備する。
【0033】
油圧シリンダ43は、入力プーリ42の可動シーブ42bを前後方向に摺動させ、当該可動シーブ42bと固定シーブ42aとの間の距離を変更するものである。油圧シリンダ43は、可動シーブ42bの前部に設けられる。
【0034】
油圧サーボ機構44は、油圧シリンダ43の動作を制御するものである。油圧サーボ機構44は、フロントケース44a、サーボスプール44b、およびフィードバックスプール44c等を具備する。
フロントケース44aは、前ケース11aの前面に設けられる(図6参照)。フロントケース44a内には作動油が流通する油路が適宜形成される。サーボスプール44bはフロントケース44a内に摺動可能に設けられる。図示せぬ変速操作具によりサーボスプール44bを摺動させることで、作動油が流通する油路を切り換えて、作動油を油圧シリンダ43に供給、または油圧シリンダ43から作動油を排出し、油圧シリンダ43の動作を制御することができる。また、サーボスプール44b内にはフィードバックスプール44cが摺動可能に設けられる。フィードバックスプール44cの後端は油圧シリンダ43に当接され、当該油圧シリンダ43の動作位置に応じて油路を切り換えることにより、当該油圧シリンダ43に供給される作動油を制御することができる。
【0035】
伝達軸45は、変速入力軸41と平行に配置される。伝達軸45の前端部近傍には、出力プーリ46が設けられる。出力プーリ46は、伝達軸45に相対回転不能かつ摺動不能に固定される固定シーブ46a、および伝達軸45に相対回転不能かつ摺動可能に支持される可動シーブ46b等を具備する。
【0036】
出力部材47は、出力プーリ46の後方において伝達軸45により挿通された状態で配置される。出力プーリ46と出力部材47との間には、互いに対向する前後一対のカム部材からなるカム機構48が設けられる。出力プーリ46の可動シーブ46bおよび出力部材47には、カム機構48のカム部材がそれぞれ固定される。また、可動シーブ46bと出力部材47との間には付勢部材49が配置され、当該付勢部材49の付勢力により可動シーブ46bは前方に付勢される。
【0037】
入力プーリ42と出力プーリ46との間には、ベルト50が巻回される。当該ベルト50を介して、入力プーリ42と出力プーリ46との間で動力が伝達される。
【0038】
出力部材47の後方には、遊星歯車機構51が設けられる。遊星歯車機構51は、出力部材47、変速入力ギヤ41a、および出力軸60と連結され、当該出力部材47からの動力と変速入力ギヤ41aからの動力とを合成した後に出力軸60へと出力する。
【0039】
このように構成されたベルト式無段変速機40において、変速入力軸41の動力は入力プーリ42およびベルト50を介して出力プーリ46に伝達される。出力プーリ46に伝達された動力は、カム機構48および出力部材47を介して遊星歯車機構51に伝達される。また、変速入力軸41の動力は、変速入力ギヤ41aからも遊星歯車機構51に伝達される。遊星歯車機構51に伝達された上記2つの動力は、当該遊星歯車機構51において合成された後、出力軸60へと伝達される。
また、油圧サーボ機構44により油圧シリンダ43の動作を制御することにより、入力プーリ42の幅(固定シーブ42aと可動シーブ42bとの間の距離)を変更することができる。これによって、入力プーリ42から出力プーリ46に動力が伝達される際の変速比を任意に変更することができ、ひいては出力軸60に伝達される動力を任意に変更(変速)することができる。
【0040】
以下では、トランスミッション10の油圧回路100について詳細に説明する。
【0041】
図10に示すように、油圧回路100は、油圧ポンプ110、フィルタ120、走行用電磁バルブ130、PTO用電磁バルブ140、アキュムレータ150、シーケンスバルブ160、リリーフバルブ170、および油路板180、ならびに、ミッションケース11、クラッチ機構30、油圧サーボ機構44、および油圧シリンダ43等から構成される。
【0042】
油圧ポンプ110は、ミッションケース11に貯溜される作動油をフィルタ120を介して吸入ポートから吸入し、吐出ポートから吐出する。
【0043】
ここで、ミッションケース11に貯溜される作動油が油圧ポンプ110に吸引されて流通する油路について説明する。
【0044】
図4、図5、および図11に示すフィルタ120は、後ケース11bの前面右側下部に設けられる。ミッションケース11(後ケース11b)内の作動油は、後ケース11b下部に概ね前後方向に向けて形成される油路11d(図11参照)を介してフィルタ120に流通する。
フィルタ120内で不純物を除去された作動油は、後ケース11bにおけるフィルタ120の排出口120a近傍から垂直上方に向けて形成される油路11e(図11参照)、および当該油路11eの上端に連通接続される配管111を介して、前ケース11aの上部に設けられた油圧ポンプ110に吸入される。
【0045】
このように、ミッションケース11(前ケース11a)に油路11eを形成することにより、配管111の長さを短くすることができる。これによって、材料コストの低減や配管が占有するスペースの削減を図ることができる。
【0046】
図6および図10に示すように、油圧ポンプ110から吐出された作動油は、配管112を介して前ケース11aの前面(より詳細には、油圧サーボ機構44の左側部)に設けられた油路板180に供給される。油路板180の右側部には走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140が(図5および図12参照)、油路板180の左側部にはアキュムレータ150が(図12参照)、油路板180の前面にはシーケンスバルブ160が(図5参照)、油路板180の内部にはリリーフバルブ170が、それぞれ設けられている。油圧ポンプ110から油路板180に供給された作動油は、走行用電磁バルブ130、PTO用電磁バルブ140、アキュムレータ150、およびシーケンスバルブ160に供給される。
【0047】
ここで、アキュムレータ150の構成、および油圧回路100における配置について説明する。
【0048】
図12に示すように、アキュムレータ150は、ピストン151、スプリング152、閉塞板153、およびスペーサ154等を具備する。
ピストン151は、油路板180の右側面から左方に向かって形成された穴に摺動可能に挿通され、当該ピストン151の右側にスプリング152が配置される。また、ピストン151の右方には、ピストン151が過剰に右方へと摺動することを防止するための円筒状のスペーサ154が配置され、ピストン151等が配置された油路板180の穴は閉塞板153により閉塞される。
【0049】
このように構成されたアキュムレータ150において、ピストン151がスプリング152によって右方(油路側)に付勢されることにより、油路内の作動油(より詳細には、油圧ポンプ110から走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140に供給される作動油)に一定の圧力を付与することができる。
【0050】
またこの際、図10に示すように、アキュムレータ150は、油圧回路100において走行用電磁バルブ130とPTO用電磁バルブ140との間に配置されているため、走行用電磁バルブ130に供給される作動油とPTO用電磁バルブ140に供給される作動油との圧力損失の差は小さく、当該走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140には、略同一圧力の作動油を供給することができる。
【0051】
図示せぬコントローラによって走行用電磁バルブ130が作動され、作動油が当該走行用電磁バルブ130を流通することが可能になった場合、作動油は当該走行用電磁バルブ130、配管131(図6参照)、およびミッション入力軸20に形成される油路20a(図8参照)等を介して走行クラッチ31に供給される。これによって、走行クラッチ31が接続される。
【0052】
図示せぬコントローラによってPTO用電磁バルブ140が作動され、作動油が当該PTO用電磁バルブ140を流通することが可能になった場合、作動油は当該PTO用電磁バルブ140、配管141(図6参照)、およびミッション入力軸20に形成される油路20b(図8参照)等を介してPTOクラッチ32および慣性ブレーキ機構80に供給される。これによって、PTOクラッチ32が接続されるとともに、慣性ブレーキ機構80によるPTO入力部材32c(図8参照)の制動が解除される。
【0053】
上述の如く、アキュムレータ150によって走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140に供給される作動油に一定の圧力を付与することができるため、走行クラッチ31およびPTOクラッチ32の接続、ならびに慣性ブレーキ機構80による制動の解除を安定して行うことができる。
【0054】
また、図6および図10に示すように、油圧ポンプ110から油路板180へと供給された作動油は、配管181等を介して油圧サーボ機構44(サーボスプール44bおよびフィードバックスプール44c)に供給される。当該作動油は、油圧サーボ機構44によって適宜油圧シリンダ43へと供給され、これによってベルト式無段変速機40を変速することができる。
【0055】
また、図10に示すように、油圧ポンプ110から油路板180上のシーケンスバルブ160に供給された作動油は、所定の圧力以上になった場合、当該シーケンスバルブ160を流通する。リリーフバルブ170によって、シーケンスバルブ160を流通した作動油の圧力の過剰な上昇が防止される。
【0056】
シーケンスバルブ160を流通した作動油は、配管161(図6参照)等を介してクラッチ機構30および慣性ブレーキ機構80に供給され、当該クラッチ機構30および慣性ブレーキ機構80を潤滑する。
【0057】
同じくシーケンスバルブ160を流通した作動油は、配管162(図6参照)および変速入力軸41に形成される油路41b(図9参照)等を介して入力プーリ42に供給され、当該入力プーリ42を潤滑する。
【0058】
同じくシーケンスバルブ160を流通した作動油は、伝達軸45に形成される油路45a(図9参照)等を介して出力プーリ46および遊星歯車機構51に供給され、当該出力プーリ46および遊星歯車機構51を潤滑する。
【0059】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1のトランスミッション10(動力伝達装置)は、前記走行動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式の走行クラッチ31と、前記PTO動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式のPTOクラッチ32と、走行クラッチ31の作動を切り換える走行用電磁バルブ130およびPTOクラッチ32の作動を切り換えるPTO用電磁バルブ140が設けられる油路板180と、を具備するトラクタ1のトランスミッション10であって、油路板180上であって走行用電磁バルブ130とPTO用電磁バルブ140との間にアキュムレータ150を具備するものである。
このように構成することにより、走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140に供給する作動油の圧力を安定させることで、走行クラッチ31およびPTOクラッチ32を安定して作動させることができる。また、アキュムレータ150を、油圧回路100における走行用電磁バルブ130とPTO用電磁バルブ140の間に配置することで、両電磁バルブに供給される作動油の圧力をより均一に保つことができる。また、2つの電磁バルブ(走行用電磁バルブ130およびPTO用電磁バルブ140)に供給される作動油の圧力を1つのアキュムレータで安定させることができ、部品コストの削減を図ることができる。
【0060】
また、油路板180は、ミッションケース11(前ケース11a)の前面に取り付けられるものである。
このように構成することにより、ミッションケース11の前方のスペースを有効に利用して油路板180を配置することができる。
【0061】
また、油路板180は、一対のプーリ(入力プーリ42および出力プーリ46)に巻回されたベルト50により動力を伝達するベルト式無段変速機40を変速する油圧サーボ機構44の側部に配置されるものである。
このように構成することにより、油圧に関する機構を一箇所(ミッションケース11の前面)に集中して配置することができ、メンテナンス性を向上させることができる。また、油路板180と油圧サーボ機構44とを隣接させることで、これらを接続する配管を短くすることができ、部品コストの削減および作動油の圧力損失の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 トラクタ
10 トランスミッション(動力伝達装置)
11 ミッションケース
30 クラッチ機構
31 走行クラッチ
32 PTOクラッチ
40 ベルト式無段変速機
42 入力プーリ(プーリ)
44 油圧サーボ機構
46 出力プーリ(プーリ)
50 ベルト
80 慣性ブレーキ機構
110 油圧ポンプ
120 フィルタ
130 走行用電磁バルブ
140 PTO用電磁バルブ
150 アキュムレータ
180 油路板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式の走行クラッチと、
PTO動力伝達機構への動力の伝達を断接する油圧式のPTOクラッチと、
前記走行クラッチの作動を切り換える走行用電磁バルブおよび前記PTOクラッチの作動を切り換えるPTO用電磁バルブが設けられる油路板と、
を具備するトラクタの動力伝達装置であって、
前記油路板上であって前記走行用電磁バルブと前記PTO用電磁バルブとの間にアキュムレータを具備する、
トラクタの動力伝達装置。
【請求項2】
前記油路板は、
ミッションケースの前面に取り付けられる、
請求項1に記載のトラクタの動力伝達装置。
【請求項3】
前記油路板は、
一対のプーリに巻回されたベルトにより動力を伝達するベルト式無段変速機を変速する油圧サーボ機構の側部に配置される、
請求項1に記載のトラクタの動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−127403(P2012−127403A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278552(P2010−278552)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】