トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を含有する懸濁性医薬組成物
【課題】 トラニラストを有効成分とする新たな形態の製剤を提供するものであり、安全性が高く、皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、且つ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供すること。
【解決手段】 トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されている水性懸濁液剤によって解決される。この水性懸濁液剤は、例えばケロイドを治療するために用いることができる。
【解決手段】 トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されている水性懸濁液剤によって解決される。この水性懸濁液剤は、例えばケロイドを治療するために用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する外用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラニラスト(3,4−ジメトキシシンナモイルアントラニル酸)は、肥満細胞、或いは各種炎症細胞からのケミカルメディエーターの遊離抑制作用を有し、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療剤として有用であることが知られており、経口剤としてカプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、細粒剤といった製剤が医療の現場で用いられている。
【0003】
しかしながら、トラニラストは難溶性物質であるために、吸収率が低いという特徴がある。このため例えば、体表面に生じるケロイド・肥厚性瘢痕を治療するために、トラニラストを経口剤として投与した場合には、有効血中薬物濃度を維持するために多量の薬物が投与される。多量のトラニラストは、患者に負担を与え、しばしば胃障害、肝障害といった副作用を発現することがある。このため、ケロイドなどに局所適用できる外用剤の開発・研究が望まれており、現在までに外用剤として種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、支持体上に有効成分としてトラニラストを含有するアクリル系粘着剤層を設けたことを特徴とするトラニラスト経皮吸収貼付剤(特開2003−119132)、溶解補助剤により均一に溶解した状態で膏体基剤に含有した外用剤(特開2001−131064)トラニラストを塩基性水溶液に加温溶解した後、所望により、界面活性剤、懸濁化剤、安定化剤、防腐剤、その他の医薬品添加物を加え、軟膏基剤と練り合わせて軟膏とする方法(特開平6−128153号)等の提案がなされている。しかし、吸収助剤の脂肪酸エステル及びアルコール類の配合量が多いことや、吸収助剤として塩基性物質を使用するために皮膚刺激性が懸念されるといった問題点がある。更に、高濃度のトラニラスト製剤化の開発は困難となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トラニラストを有効成分とする新たな形態の製剤を提供するものであり、安全性が高く、皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、且つ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することである。
【特許文献1】特開2003−119132号公報
【特許文献2】特開2001−131064号公報
【特許文献3】特開平6−128153号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
トラニラストの皮膚からの吸収性を高めるには、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域にすることが好ましい。しかしながら、トラニラストが分子型で存在するということは、水に溶解しないということになる。発明者らは、このような問題点を解決すべく、鋭意検討を行った結果、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域では、水には溶解しないという特徴を逆に利用して、トラニラストの粒子径を超微細化し、水性懸濁剤とすることを見出した。更に、適当な透過促進剤を併用することにより、皮膚からのトラニラストの吸収性を飛躍的に高められることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
【0007】
こうして、第1の発明に係る水性懸濁液剤は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されていることを特徴とする。
このとき、粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜5μm(より好ましくは、0.005μm〜2μm)の範囲にあり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましい。
【0008】
また、第2の発明に係るトラニラストの皮膚透過性を高める方法は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とし、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、pHが3〜7である懸濁物に、0.5質量%〜4質量%のメントールを添加させることを特徴とする。本発明においては、粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トラニラストを含有する剤をケロイドに直接塗布し、局所で治療することができるため、患者の安全性が高く、かつ皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れたトラニラスト含有医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記実施形態又は実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明で使用されるトラニラストまたはその薬理学的に許容される塩は、pHが3〜7の範囲にある基剤に懸濁されており、トラニラストの粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましく、0.005μm〜2μmであり、粒子径分布の90%メジアン径は、10μm以下であることがより好ましい。上記粒子径分布の中心と、粒子径分布の90%メジアン径とに関する数値範囲に関しては、目的に応じて互いに矛盾しないものを任意に組み合わせて設定することができる。
【0011】
トラニラストは、基剤のpHが3〜7の範囲(好ましくはpH4〜6.5、更に好ましくはpH5〜6の範囲)であれば、基剤に懸濁されている。しかし、基剤のpHが7より上がりアルカリ領域になると、トラニラストが見かけ上溶解し、溶解した溶液中のトラニラストは水による加水分解を受け分解しやすくなる。また、pHが3より下がると基剤の酸性度が強くなり、トラニラストではなく基剤による皮膚に対する刺激が大きくなるため好ましくない。
【0012】
粉体の粒子径分布は一般的に横軸に粒子径の対数をとり、縦軸に頻度%をとるとき正規分布に近似したある広がりを持った分布を示す。このため、粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであったとしても、分布に広がりがあるために5μm以上の粒子を含むことになる。本発明では、この粒度分布の広がりに対し、トラニラストの粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であること(言いかえれば、10μmより大きな粒子径を示す粒子が全体に占める割合が、10%未満であること)が重要である。
【0013】
メントールは、市販のものを購入して使用できる。メントールの配合量は0.5質量%〜4質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%が更に好ましい。0.5質量%以下では、皮膚透過性が低く、また4質量%以上ではメントールの刺激感が強すぎて好ましくない。
本発明における水性懸濁液は、2次凝集を抑制する目的で、さらに界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とすることにより、再分散性を良好にできる。ゼータ電位の調製に用いる界面活性剤の種類、水溶性高分子の種類、薬物の量は、pHによっても異なるが0.05%〜3%の範囲であることが好ましい。
【0014】
界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の4級アミン系界面活性剤やポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤類、などを挙げることができる。
【0015】
水溶性高分子としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることできる。
本発明におけるトラニラストの含有量は、特に制限はない。通常、0.5%〜10%の実際に使用されている製剤の含有量と同じ濃度であるが、更に高濃度のトラニラスト懸濁液を作り、使用濃度に合わせて希釈して製剤とする事も可能である。
また、さらに製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調整剤、軟膏基剤等を添加し、軟膏剤、ローション剤等とすることができる。かかる製剤学的に汎用されている成分としては、例えば、以下のような成分を挙げることができる。
【0016】
基剤成分として、グリセリン、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、水、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、イプシロンアミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム、ステアリン酸グリセリン、ポリエチレングリコール類、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールやセチルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールなどのアルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルポリシロキサン等のシリコーン油類、アボガド油、アルモンド油、オリーブ油、カカオ脂、牛脂、ゴマ油、小麦胚芽油、サフラワー油、タートル油、椿油、パーシック油、ひまし油、ブドウ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、黄卵油、紅花油、モクロウ、ヤシ油、ローズヒップ油等の油脂類、オレンジラフィー油、ホホバ油等の液状蝋類、流動パラフィン、液状ワセリン、スクワラン、スクワレン等の液状炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル等の脂肪酸エステル類を挙げることができる。
【0017】
安定剤としては、エデト酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールなどを挙げることができる。
清涼化剤としては、メントール、ハッカ油、カンフル、ユーカリ油などを挙げることができる。
【0018】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルポリアミノエチルグリシン類、ソルビン酸などが挙げることができる。
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、アンモニア及びこれらの塩類などを挙げることができる。
【0019】
軟膏基剤として、ワセリン、パラフィン、プラスチベース、シリコーン、豚脂、ろう類、単軟膏、単鉛硬膏、親水軟膏、親水ワセリン、精製ラノリン、アクアホール、オイセリン、ネオセリン、吸水軟膏、加水ラノリン、親水プラスチベース、マクロゴール類、ソルベース、ゲル炭化水素、などを挙げることができる。
【0020】
次に、本発明製剤の製造方法の代表例を以下に述べるが、本発明の技術的範囲は、これらの例によって限定されるものではない。
トラニラストは、粒子径分布の中心が80μm〜100μmのものを購入できる。これを各種の粉砕・分散機にかけることにより、所定の粒子径を備えたトラニラストとすることができる。粉砕機としては、例えばボールミル、振動ボールミル、遠心ボールミル、ロッドミル、ミクロンミル、ジェットミル、遠心流動ボールミル、ハンマーミル、ピンミル、アドマイザー、各種のホモジナイザー、ミキサー、超音波、高圧ホモジナイザー、超薄膜式高速回転粉砕機を例示でき、これらのうち1つあるいは2つ以上の粉砕、分散機を用いて、トラニラストを微細化することができる。これらのうち、特に超薄膜式高速回転粉砕機を好適に使用することができる。
【0021】
本実施品の製造方法として、トラニラストに必要な場合には、pH調整剤によりpHを調整した水を加えた後、超薄膜式高速回転粉砕機を用いて粉砕分散することで、所望の粒度分布を持った微細化物とすることができる。
必要に応じ、界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とした懸濁性医薬組成物を得る。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<1.トラニラスト微細化物の皮膚透過性試験>
縦形フランツセル(有効面積0.035cm2、リザーバー容量15mL)に、ヒト人工培養皮膚(テストスキンLSE-high、東洋紡製)を真皮層がリザーバー側になるよう固定した。リザーバー液は、20%ポリエチレングリコール溶液とした。
トラニラストは、粒子径の中心が約50μm、90%メジアン径が80μmの原末の市販品を購入して使用した。トラニラストは、原末そのもの、またはクエン酸と適量の精製水に分散した後、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕した微細化物を用いた。
【0023】
ドナー側には、原末(1%)(比較例1)、原末(10%)(比較例10)、又は微細化物(1%)(比較例2)の各溶液1.0mLを加えた。ドナー側に溶液を加えた時刻をゼロ時間目とし、経時的に8時間目までリザーバー液をサンプリングした。サンプリング液中のトラニラスト濃度をHPLCにて測定し、角質側から真皮側に皮膚を移行してきたトラニラストを評価した。
結果を図1及び図2に示した。データは、3回の平均値±SDで示した。図より明らかなように、トラニラスト原末を微細化することにより、皮膚に対する透過性が、原末に比べて約3倍程度に増加することが分かった。また、トラニラストの現実的な製剤濃度限界である10%の原末を用いた場合であっても、1%の原末との間に大きな透過性の差異は認められず、微細化物の透過性には大きく及ばなかった。
【0024】
<2.トラニラスト含有クリームの皮膚透過性試験>
トラニラストの分子内には、カルボキシル基が存在しており、カチオン存在下ではイオン型として溶解する。このため、有機アミンを用いてトラニラストを溶解させたクリームを調製し、その製剤の皮膚透過性を確認した。
モノエタノールアミンにトラニラスト原末を溶解させ、クリームに含有させて、トラニラスト含有クリーム(トラニラスト濃度1%)を調製した(比較例9)。また、トラニラスト粒子のpH変化による溶解性を評価したところ、pHが、3,4.55,6,及び7では、トラニラストが溶解せず粒子として存在した。一方、pHが、7.2及び7.5では、トラニラストが溶解し、粒子としては存在しなかった。
また、トラニラストはポリエチレングリコール(PEG)に対して高い溶解性を示すことから、PEG(商品名:マクロゴール)を用いて、上記と同じ濃度のトラニラスト含有マクロゴール軟膏を調製した(比較例6)。
【0025】
これら2種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
結果を図3〜図5に示した。モノエタノールアミンを用いたクリーム製剤(比較例9)においては、トラニラスト原末をそのまま用いたよりも高い皮膚透過性が認められたものの、その透過性はトラニラスト微細化物には及ばなかった。なお、マクロゴール軟膏(比較例6)については、基剤に対するトラニラストの親和性が高すぎて、皮膚に対するトラニラストの透過性は、ほとんど認められなかった。
また、pHを弱アルカリ性に調整したトラニラストを溶解させたクリームは、トラニラスト原末を用いたよりも透過性は低く、よりアルカリ性になると透過性は更に低下した(図5。なお、比較例7及び比較例8の組成については、表1〜表4を参照。)。
【0026】
<3.各種の微細化トラニラスト製剤による比較評価>
トラニラストは、粒子径の中心が約50μm、90%メジアン径が80μmの原末の市販品を購入して使用した。トラニラストは、原末そのもの、またはクエン酸と適量の精製水に分散した後、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕した微細化物を用いた。分散液に表1〜表4に記載の成分を加え、穏やかに加温し、攪拌して軟膏基材を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例8に従って得られた各試験液につき、中心粒子径(粒子径分布の中心)および90%メジアン径を測定した。中心粒子径、及び90%メジアン径は、粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所製)のフローセルを使用して求めた。また、循環液として、pH3の水溶液を用いた。各表には、それぞれのパラメータの測定結果を示した。中心粒子径(D50)、及び90%メジアン径(D90)の単位は、「μm」である。
なお、比較例6〜比較例9は、基材にトラニラストが溶解したため、粒子径が測定出来なかった。
【0032】
<4.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(1)>
次に、上記実施例4、実施例7、及び比較例2の3種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
結果を図6及び図7に示した。比較例2の薬物皮膚透過性は、3種類のクリームのうち最も低かった。また、実施例4の薬物皮膚透過性は、比較例2に比べると、約2.5倍程度であったが、十分なものとは言えなかった。一方、実施例7の皮膚透過性は、実施例4に比べると、約2.5倍程度に上昇したことから、微細化した効果とl−メントールの効果とが相乗的に作用したものと考えられた。
【0033】
<5.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(2)>
次に、メントールの濃度を変化させて、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。実施例1〜実施例7、比較例1、及び比較例2の9種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
【0034】
結果を図8〜図10に示した。トラニラスト原末クリームを用いた場合(実施例1〜実施例4、比較例1)のトラニラストの皮膚透過量は、l−メントールが2%までは、その濃度に依存して増加した。しかし、4%l−メントールと2%l−メントールとの間では、トラニラストの透過量には、ほとんど変化が認められなかったことから、皮膚透過促進効果について上限があることが分かった。メントール濃度が2%のとき、トラニラスト透過量は6時間後で15μg以上となり、比較例1の約8倍の透過性を示した。
また、トラニラスト微細化物クリームを用いた場合(実施例5〜実施例7、比較例2)には、トラニラストの皮膚透過量は、l−メントールの濃度に依存して増加し、メントール濃度が2%〜4%間においても増加が認められた。全透過量は、原末を用いた場合に比べて、約2倍程度に上昇した。また、4%l−メントールと2%l−メントールとの間では、トラニラストの透過量の増加が認められた。
【0035】
<6.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(3)>
次に、メントール含有トラニラスト微細化物クリームのpHを変化させて、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。実施例8、実施例9、及び比較例13の3種類のクリームを用い上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。結果を図11に示した。トラニラスト粒子が溶解しないpH4〜6.5の範囲では、pHによらず同等の効果が得られた。しかし、トラニラストが溶解するpHではトラニラストの透過は大きく低下した。
【0036】
<7.他の透過促進剤によるトラニラスト製剤の皮膚透過性に与える影響確認試験>
次に、l−メントール以外の透過促進剤が、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。トラニラスト原末クリームの皮膚透過促進効果を示したミリスチン酸イソプロピル(IPM)(比較例4)とベンジルアルコール(比較例5)の2種類について、トラニラストの皮膚透過促進効果を確認した。
比較例1〜比較例5、比較例11、比較例12、及び実施例7について、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。なお、IPMおよびベンジルアルコールについては、比較例4及び比較例5のトラニラスト原末に代えて、微細化物を用いて、同様のクリームを処方したものの皮膚透過性を確認した。
【0037】
結果を図12〜図14に示した。2%IPPを添加したクリームについては、トラニラスト原末(比較例1)に比べると、皮膚透過性の向上は認められず、2%ベンジルアルコール及び2%IPMを添加したクリームについては、僅かな皮膚透過性の向上が認められたものの、その効果はトラニラスト微細化物(比較例2)と同程度であり、IPMを用いた場合であっても6時間後でも最大値(比較例4)は5μg/mLを越えなかった(図12)。また、トラニラスト微細化物を用いた場合であっても、4%l−メントールの効果には、全く及ばなかった(図13、図14)。
この結果より、微細化トラニラスト含有クリームについて、皮膚透過性を向上させるために添加する透過促進剤には、高度な選択性があることが分かった。特に、有効な透過促進剤としては、l−メントールが選択されることが分かった。
【0038】
<8.ラットを用いた皮膚透過性試験>
ラットをエーテルを用いて麻酔した後、腹部を剃毛し、ガラス製の内径20mmのリングを固定し、リングの内面に空気を巻き込まないよう、実施例5、実施例6、実施例7及び比較例1、比較例2、比較例9の膏体2gを塗り、5時間放置したのち、リング並びに膏体を取り外し、皮膚を摘出した。摘出した皮膚は精製水でよく洗ったのち、重量を正確に計り、精製水を加えホモジナイズした。この液に酢酸エチルを加え激しく攪拌した後、酢酸エチルを正確に計り取り、蒸発乾固したのち薬物濃度をHPLCを用いて測定した。
結果を図15に示した。比較例1、2、9と比較し、実施例5、6、7では約8〜13倍皮膚組織中の薬物濃度が高くなった。
【0039】
このように本実施形態によれば、安全性が高く、皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、且つ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】トラニラストを微細化したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図2】トラニラストを微細化したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図3】モノエタノールアミンとマクロゴール軟膏で溶解させたものを用いたときのトラニラストの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図4】モノエタノールアミンとマクロゴール軟膏で溶解させたものを用いたときのトラニラストの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図5】pHがトラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図6】トラニラストの微細化、及びメントールを用いたときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図7】トラニラストの微細化、及びメントールを用いたときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図8】トラニラスト微細化物にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図9】トラニラスト原末にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図10】トラニラスト微細化物および原末にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図11】pHがトラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図12】トラニラスト原末クリームにIPP、IPMまたはベンジルアルコールを添加したときの、皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図13】トラニラスト原末クリームまたは微細化物クリームにIPMまたはベンジルアルコールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図14】トラニラスト微細化物クリームにIPMまたはベンジルアルコールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図15】トラニラスト含有水性懸濁液剤について、ラットを用いた皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有する外用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラニラスト(3,4−ジメトキシシンナモイルアントラニル酸)は、肥満細胞、或いは各種炎症細胞からのケミカルメディエーターの遊離抑制作用を有し、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療剤として有用であることが知られており、経口剤としてカプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、細粒剤といった製剤が医療の現場で用いられている。
【0003】
しかしながら、トラニラストは難溶性物質であるために、吸収率が低いという特徴がある。このため例えば、体表面に生じるケロイド・肥厚性瘢痕を治療するために、トラニラストを経口剤として投与した場合には、有効血中薬物濃度を維持するために多量の薬物が投与される。多量のトラニラストは、患者に負担を与え、しばしば胃障害、肝障害といった副作用を発現することがある。このため、ケロイドなどに局所適用できる外用剤の開発・研究が望まれており、現在までに外用剤として種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、支持体上に有効成分としてトラニラストを含有するアクリル系粘着剤層を設けたことを特徴とするトラニラスト経皮吸収貼付剤(特開2003−119132)、溶解補助剤により均一に溶解した状態で膏体基剤に含有した外用剤(特開2001−131064)トラニラストを塩基性水溶液に加温溶解した後、所望により、界面活性剤、懸濁化剤、安定化剤、防腐剤、その他の医薬品添加物を加え、軟膏基剤と練り合わせて軟膏とする方法(特開平6−128153号)等の提案がなされている。しかし、吸収助剤の脂肪酸エステル及びアルコール類の配合量が多いことや、吸収助剤として塩基性物質を使用するために皮膚刺激性が懸念されるといった問題点がある。更に、高濃度のトラニラスト製剤化の開発は困難となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トラニラストを有効成分とする新たな形態の製剤を提供するものであり、安全性が高く、皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、且つ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することである。
【特許文献1】特開2003−119132号公報
【特許文献2】特開2001−131064号公報
【特許文献3】特開平6−128153号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
トラニラストの皮膚からの吸収性を高めるには、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域にすることが好ましい。しかしながら、トラニラストが分子型で存在するということは、水に溶解しないということになる。発明者らは、このような問題点を解決すべく、鋭意検討を行った結果、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域では、水には溶解しないという特徴を逆に利用して、トラニラストの粒子径を超微細化し、水性懸濁剤とすることを見出した。更に、適当な透過促進剤を併用することにより、皮膚からのトラニラストの吸収性を飛躍的に高められることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
【0007】
こうして、第1の発明に係る水性懸濁液剤は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されていることを特徴とする。
このとき、粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜5μm(より好ましくは、0.005μm〜2μm)の範囲にあり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましい。
【0008】
また、第2の発明に係るトラニラストの皮膚透過性を高める方法は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とし、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、pHが3〜7である懸濁物に、0.5質量%〜4質量%のメントールを添加させることを特徴とする。本発明においては、粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トラニラストを含有する剤をケロイドに直接塗布し、局所で治療することができるため、患者の安全性が高く、かつ皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れたトラニラスト含有医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記実施形態又は実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明で使用されるトラニラストまたはその薬理学的に許容される塩は、pHが3〜7の範囲にある基剤に懸濁されており、トラニラストの粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましく、0.005μm〜2μmであり、粒子径分布の90%メジアン径は、10μm以下であることがより好ましい。上記粒子径分布の中心と、粒子径分布の90%メジアン径とに関する数値範囲に関しては、目的に応じて互いに矛盾しないものを任意に組み合わせて設定することができる。
【0011】
トラニラストは、基剤のpHが3〜7の範囲(好ましくはpH4〜6.5、更に好ましくはpH5〜6の範囲)であれば、基剤に懸濁されている。しかし、基剤のpHが7より上がりアルカリ領域になると、トラニラストが見かけ上溶解し、溶解した溶液中のトラニラストは水による加水分解を受け分解しやすくなる。また、pHが3より下がると基剤の酸性度が強くなり、トラニラストではなく基剤による皮膚に対する刺激が大きくなるため好ましくない。
【0012】
粉体の粒子径分布は一般的に横軸に粒子径の対数をとり、縦軸に頻度%をとるとき正規分布に近似したある広がりを持った分布を示す。このため、粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであったとしても、分布に広がりがあるために5μm以上の粒子を含むことになる。本発明では、この粒度分布の広がりに対し、トラニラストの粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であること(言いかえれば、10μmより大きな粒子径を示す粒子が全体に占める割合が、10%未満であること)が重要である。
【0013】
メントールは、市販のものを購入して使用できる。メントールの配合量は0.5質量%〜4質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%が更に好ましい。0.5質量%以下では、皮膚透過性が低く、また4質量%以上ではメントールの刺激感が強すぎて好ましくない。
本発明における水性懸濁液は、2次凝集を抑制する目的で、さらに界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とすることにより、再分散性を良好にできる。ゼータ電位の調製に用いる界面活性剤の種類、水溶性高分子の種類、薬物の量は、pHによっても異なるが0.05%〜3%の範囲であることが好ましい。
【0014】
界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の4級アミン系界面活性剤やポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤類、などを挙げることができる。
【0015】
水溶性高分子としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることできる。
本発明におけるトラニラストの含有量は、特に制限はない。通常、0.5%〜10%の実際に使用されている製剤の含有量と同じ濃度であるが、更に高濃度のトラニラスト懸濁液を作り、使用濃度に合わせて希釈して製剤とする事も可能である。
また、さらに製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調整剤、軟膏基剤等を添加し、軟膏剤、ローション剤等とすることができる。かかる製剤学的に汎用されている成分としては、例えば、以下のような成分を挙げることができる。
【0016】
基剤成分として、グリセリン、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、水、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、イプシロンアミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム、ステアリン酸グリセリン、ポリエチレングリコール類、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールやセチルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールなどのアルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルポリシロキサン等のシリコーン油類、アボガド油、アルモンド油、オリーブ油、カカオ脂、牛脂、ゴマ油、小麦胚芽油、サフラワー油、タートル油、椿油、パーシック油、ひまし油、ブドウ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、黄卵油、紅花油、モクロウ、ヤシ油、ローズヒップ油等の油脂類、オレンジラフィー油、ホホバ油等の液状蝋類、流動パラフィン、液状ワセリン、スクワラン、スクワレン等の液状炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル等の脂肪酸エステル類を挙げることができる。
【0017】
安定剤としては、エデト酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールなどを挙げることができる。
清涼化剤としては、メントール、ハッカ油、カンフル、ユーカリ油などを挙げることができる。
【0018】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルポリアミノエチルグリシン類、ソルビン酸などが挙げることができる。
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、アンモニア及びこれらの塩類などを挙げることができる。
【0019】
軟膏基剤として、ワセリン、パラフィン、プラスチベース、シリコーン、豚脂、ろう類、単軟膏、単鉛硬膏、親水軟膏、親水ワセリン、精製ラノリン、アクアホール、オイセリン、ネオセリン、吸水軟膏、加水ラノリン、親水プラスチベース、マクロゴール類、ソルベース、ゲル炭化水素、などを挙げることができる。
【0020】
次に、本発明製剤の製造方法の代表例を以下に述べるが、本発明の技術的範囲は、これらの例によって限定されるものではない。
トラニラストは、粒子径分布の中心が80μm〜100μmのものを購入できる。これを各種の粉砕・分散機にかけることにより、所定の粒子径を備えたトラニラストとすることができる。粉砕機としては、例えばボールミル、振動ボールミル、遠心ボールミル、ロッドミル、ミクロンミル、ジェットミル、遠心流動ボールミル、ハンマーミル、ピンミル、アドマイザー、各種のホモジナイザー、ミキサー、超音波、高圧ホモジナイザー、超薄膜式高速回転粉砕機を例示でき、これらのうち1つあるいは2つ以上の粉砕、分散機を用いて、トラニラストを微細化することができる。これらのうち、特に超薄膜式高速回転粉砕機を好適に使用することができる。
【0021】
本実施品の製造方法として、トラニラストに必要な場合には、pH調整剤によりpHを調整した水を加えた後、超薄膜式高速回転粉砕機を用いて粉砕分散することで、所望の粒度分布を持った微細化物とすることができる。
必要に応じ、界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とした懸濁性医薬組成物を得る。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<1.トラニラスト微細化物の皮膚透過性試験>
縦形フランツセル(有効面積0.035cm2、リザーバー容量15mL)に、ヒト人工培養皮膚(テストスキンLSE-high、東洋紡製)を真皮層がリザーバー側になるよう固定した。リザーバー液は、20%ポリエチレングリコール溶液とした。
トラニラストは、粒子径の中心が約50μm、90%メジアン径が80μmの原末の市販品を購入して使用した。トラニラストは、原末そのもの、またはクエン酸と適量の精製水に分散した後、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕した微細化物を用いた。
【0023】
ドナー側には、原末(1%)(比較例1)、原末(10%)(比較例10)、又は微細化物(1%)(比較例2)の各溶液1.0mLを加えた。ドナー側に溶液を加えた時刻をゼロ時間目とし、経時的に8時間目までリザーバー液をサンプリングした。サンプリング液中のトラニラスト濃度をHPLCにて測定し、角質側から真皮側に皮膚を移行してきたトラニラストを評価した。
結果を図1及び図2に示した。データは、3回の平均値±SDで示した。図より明らかなように、トラニラスト原末を微細化することにより、皮膚に対する透過性が、原末に比べて約3倍程度に増加することが分かった。また、トラニラストの現実的な製剤濃度限界である10%の原末を用いた場合であっても、1%の原末との間に大きな透過性の差異は認められず、微細化物の透過性には大きく及ばなかった。
【0024】
<2.トラニラスト含有クリームの皮膚透過性試験>
トラニラストの分子内には、カルボキシル基が存在しており、カチオン存在下ではイオン型として溶解する。このため、有機アミンを用いてトラニラストを溶解させたクリームを調製し、その製剤の皮膚透過性を確認した。
モノエタノールアミンにトラニラスト原末を溶解させ、クリームに含有させて、トラニラスト含有クリーム(トラニラスト濃度1%)を調製した(比較例9)。また、トラニラスト粒子のpH変化による溶解性を評価したところ、pHが、3,4.55,6,及び7では、トラニラストが溶解せず粒子として存在した。一方、pHが、7.2及び7.5では、トラニラストが溶解し、粒子としては存在しなかった。
また、トラニラストはポリエチレングリコール(PEG)に対して高い溶解性を示すことから、PEG(商品名:マクロゴール)を用いて、上記と同じ濃度のトラニラスト含有マクロゴール軟膏を調製した(比較例6)。
【0025】
これら2種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
結果を図3〜図5に示した。モノエタノールアミンを用いたクリーム製剤(比較例9)においては、トラニラスト原末をそのまま用いたよりも高い皮膚透過性が認められたものの、その透過性はトラニラスト微細化物には及ばなかった。なお、マクロゴール軟膏(比較例6)については、基剤に対するトラニラストの親和性が高すぎて、皮膚に対するトラニラストの透過性は、ほとんど認められなかった。
また、pHを弱アルカリ性に調整したトラニラストを溶解させたクリームは、トラニラスト原末を用いたよりも透過性は低く、よりアルカリ性になると透過性は更に低下した(図5。なお、比較例7及び比較例8の組成については、表1〜表4を参照。)。
【0026】
<3.各種の微細化トラニラスト製剤による比較評価>
トラニラストは、粒子径の中心が約50μm、90%メジアン径が80μmの原末の市販品を購入して使用した。トラニラストは、原末そのもの、またはクエン酸と適量の精製水に分散した後、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕した微細化物を用いた。分散液に表1〜表4に記載の成分を加え、穏やかに加温し、攪拌して軟膏基材を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例8に従って得られた各試験液につき、中心粒子径(粒子径分布の中心)および90%メジアン径を測定した。中心粒子径、及び90%メジアン径は、粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所製)のフローセルを使用して求めた。また、循環液として、pH3の水溶液を用いた。各表には、それぞれのパラメータの測定結果を示した。中心粒子径(D50)、及び90%メジアン径(D90)の単位は、「μm」である。
なお、比較例6〜比較例9は、基材にトラニラストが溶解したため、粒子径が測定出来なかった。
【0032】
<4.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(1)>
次に、上記実施例4、実施例7、及び比較例2の3種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
結果を図6及び図7に示した。比較例2の薬物皮膚透過性は、3種類のクリームのうち最も低かった。また、実施例4の薬物皮膚透過性は、比較例2に比べると、約2.5倍程度であったが、十分なものとは言えなかった。一方、実施例7の皮膚透過性は、実施例4に比べると、約2.5倍程度に上昇したことから、微細化した効果とl−メントールの効果とが相乗的に作用したものと考えられた。
【0033】
<5.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(2)>
次に、メントールの濃度を変化させて、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。実施例1〜実施例7、比較例1、及び比較例2の9種類のクリームを用い、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。
【0034】
結果を図8〜図10に示した。トラニラスト原末クリームを用いた場合(実施例1〜実施例4、比較例1)のトラニラストの皮膚透過量は、l−メントールが2%までは、その濃度に依存して増加した。しかし、4%l−メントールと2%l−メントールとの間では、トラニラストの透過量には、ほとんど変化が認められなかったことから、皮膚透過促進効果について上限があることが分かった。メントール濃度が2%のとき、トラニラスト透過量は6時間後で15μg以上となり、比較例1の約8倍の透過性を示した。
また、トラニラスト微細化物クリームを用いた場合(実施例5〜実施例7、比較例2)には、トラニラストの皮膚透過量は、l−メントールの濃度に依存して増加し、メントール濃度が2%〜4%間においても増加が認められた。全透過量は、原末を用いた場合に比べて、約2倍程度に上昇した。また、4%l−メントールと2%l−メントールとの間では、トラニラストの透過量の増加が認められた。
【0035】
<6.メントール含有トラニラスト製剤の皮膚透過性試験(3)>
次に、メントール含有トラニラスト微細化物クリームのpHを変化させて、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。実施例8、実施例9、及び比較例13の3種類のクリームを用い上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。結果を図11に示した。トラニラスト粒子が溶解しないpH4〜6.5の範囲では、pHによらず同等の効果が得られた。しかし、トラニラストが溶解するpHではトラニラストの透過は大きく低下した。
【0036】
<7.他の透過促進剤によるトラニラスト製剤の皮膚透過性に与える影響確認試験>
次に、l−メントール以外の透過促進剤が、トラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認した。トラニラスト原末クリームの皮膚透過促進効果を示したミリスチン酸イソプロピル(IPM)(比較例4)とベンジルアルコール(比較例5)の2種類について、トラニラストの皮膚透過促進効果を確認した。
比較例1〜比較例5、比較例11、比較例12、及び実施例7について、上記1と同様の操作を行い、トラニラストの皮膚透過性を確認した。なお、IPMおよびベンジルアルコールについては、比較例4及び比較例5のトラニラスト原末に代えて、微細化物を用いて、同様のクリームを処方したものの皮膚透過性を確認した。
【0037】
結果を図12〜図14に示した。2%IPPを添加したクリームについては、トラニラスト原末(比較例1)に比べると、皮膚透過性の向上は認められず、2%ベンジルアルコール及び2%IPMを添加したクリームについては、僅かな皮膚透過性の向上が認められたものの、その効果はトラニラスト微細化物(比較例2)と同程度であり、IPMを用いた場合であっても6時間後でも最大値(比較例4)は5μg/mLを越えなかった(図12)。また、トラニラスト微細化物を用いた場合であっても、4%l−メントールの効果には、全く及ばなかった(図13、図14)。
この結果より、微細化トラニラスト含有クリームについて、皮膚透過性を向上させるために添加する透過促進剤には、高度な選択性があることが分かった。特に、有効な透過促進剤としては、l−メントールが選択されることが分かった。
【0038】
<8.ラットを用いた皮膚透過性試験>
ラットをエーテルを用いて麻酔した後、腹部を剃毛し、ガラス製の内径20mmのリングを固定し、リングの内面に空気を巻き込まないよう、実施例5、実施例6、実施例7及び比較例1、比較例2、比較例9の膏体2gを塗り、5時間放置したのち、リング並びに膏体を取り外し、皮膚を摘出した。摘出した皮膚は精製水でよく洗ったのち、重量を正確に計り、精製水を加えホモジナイズした。この液に酢酸エチルを加え激しく攪拌した後、酢酸エチルを正確に計り取り、蒸発乾固したのち薬物濃度をHPLCを用いて測定した。
結果を図15に示した。比較例1、2、9と比較し、実施例5、6、7では約8〜13倍皮膚組織中の薬物濃度が高くなった。
【0039】
このように本実施形態によれば、安全性が高く、皮膚からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、且つ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】トラニラストを微細化したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図2】トラニラストを微細化したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図3】モノエタノールアミンとマクロゴール軟膏で溶解させたものを用いたときのトラニラストの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図4】モノエタノールアミンとマクロゴール軟膏で溶解させたものを用いたときのトラニラストの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図5】pHがトラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図6】トラニラストの微細化、及びメントールを用いたときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図7】トラニラストの微細化、及びメントールを用いたときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図8】トラニラスト微細化物にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図9】トラニラスト原末にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図10】トラニラスト微細化物および原末にメントールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図11】pHがトラニラストの皮膚透過性に与える影響を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図12】トラニラスト原末クリームにIPP、IPMまたはベンジルアルコールを添加したときの、皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図13】トラニラスト原末クリームまたは微細化物クリームにIPMまたはベンジルアルコールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。横軸には時間(hr)を、縦軸には累積皮膚透過量(μg/cm2)を示した。
【図14】トラニラスト微細化物クリームにIPMまたはベンジルアルコールを添加したときの皮膚透過性を確認する試験結果を示すグラフである。試験開始から6時間後の累積量を比較したものである。
【図15】トラニラスト含有水性懸濁液剤について、ラットを用いた皮膚透過性試験の結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されていることを特徴とする水性懸濁液剤。
【請求項2】
前記粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下である請求項1記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】
前記粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmである請求項1または2記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】
軟膏剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項5】
トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とし、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、pHが3〜7である懸濁物に、0.5質量%〜4質量%のメントールを添加させることを特徴とするトラニラストの皮膚透過性を高める方法。
【請求項1】
トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする粒子がpH3〜7の範囲で懸濁しており、かつ0.5質量%〜4質量%のメントールが含有されていることを特徴とする水性懸濁液剤。
【請求項2】
前記粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下である請求項1記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】
前記粒子の粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmである請求項1または2記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】
軟膏剤である請求項1〜3のいずれかに記載の水性懸濁液剤。
【請求項5】
トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とし、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、pHが3〜7である懸濁物に、0.5質量%〜4質量%のメントールを添加させることを特徴とするトラニラストの皮膚透過性を高める方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−230957(P2007−230957A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57048(P2006−57048)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】
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