説明

トラニラストまたは薬理学的に許容される塩を含有する懸濁性医薬組成物

【課題】 安全性が高く、消化管や皮膚(眼)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、光に対する安定性が良好であり、かつ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供すること。
【解決手段】 トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有し、基剤のpHが3〜7の範囲にあり、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下である水性懸濁液剤によって解決される。この水性懸濁液剤は、例えば点眼剤、点鼻剤、経口剤、ローション剤、及び軟膏剤等に応用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を活性成分として含有し、安定性及び薬理効果が高く、かつ刺激性の少ない懸濁性医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラニラスト(3,4−ジメトキシシンナモイルアントラニル酸)は、肥満細胞、各種炎症細胞からのケミカルメディエーターの遊離抑制作用を有することから、アレルギーに起因する疾患の治療剤およびケロイド・肥厚性瘢痕の治療剤として有用である。この治療剤は、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、若しくは細粒剤といった経口剤、又は点眼剤等として医療の現場で用いられている。
【0003】
一般的に、経口投与された薬物が難溶性の場合は、消化管からの吸収率が低く、生物学的利用率は低下する。この点に関しては、トラニラストについても同様の傾向を示し、市販されている製剤に含有されているトラニラストは水に極めて溶解し難いことから、消化管からの吸収率が低い。加えて、現在市販されているトラニラスト製剤の粒子径分布の中心は80μm〜100μmという粗大な粒子であることから、更に消化管からの吸収率を低下させている。このため、有効血中薬物濃度を維持するために多量の薬物が投与されており、患者に負担を与え、しばしば胃障害、肝障害といった副作用を発現することがある。従って、経口投与剤において吸収性を向上したトラニラスト製剤の開発・研究が望まれている。
【0004】
また、トラニラスト製剤は、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療剤として、経口投与されているが、局所投与の方が経口投与に伴う副作用を軽減できることから、理想的な剤形として開発が進められており、種々の提案がなされている。例えば、支持体上に有効成分としてトラニラストを含有するアクリル系粘着剤層を設けたことを特徴とするトラニラスト経皮吸収貼付剤(特開2003−119132号)、溶解補助剤により均一に溶解した状態で膏体基剤に含有した外用剤(特開2001−131064号)、トラニラストを塩基性水溶液に加温溶解した後、所望により、界面活性剤、懸濁化剤、安定化剤、防腐剤、その他の医薬品添加物を加え、軟膏基剤と練り合わせて軟膏とする方法(特開平6−128153号)等の提案がなされている。しかしながら、吸収助剤の脂肪酸エステル及びアルコール類の配合量が多いことや、吸収助剤として塩基性物質を使用しており皮膚刺激性が懸念されるといった問題点があることに加え、高濃度の製剤化は困難である。
【0005】
また、アレルギーに起因する疾患の治療剤としての点眼剤は局所投与剤形として理想的製剤であり、可溶化について種々の提案がなされている。例えば、トラニラストに溶解補助剤としてポリビニルピロリドン及び必要に応じ塩基性物質を添加する方法(特開平1−294620号)、HLB10〜16の非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有させる方法(特公平7−116029号)、モノエタノールアミン、トロメタモール等の有機アミンを配合した水溶液製剤(特開平11−302162号)等が提案されている。しかし、溶解補助剤を用いた可溶化技術では、本質的に低温保存時に結晶を析出したり、光に対して分解されやすいといった問題が解決されるには至っていない。
【0006】
また、前述の可溶化技術では、塩基との併用でカルボン酸基をイオン型に解離させ溶解させている為、薬剤学的には一般にイオン型の薬剤は消化管や皮膚あるいは眼からの吸収が悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものでありその目的は、安全性が高く、消化管や皮膚(眼)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、かつ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することである。
【特許文献1】特開2003−119132号公報
【特許文献2】特開2001−131064号公報
【特許文献3】特開平6−128153号公報
【特許文献4】特開平1−294620号公報
【特許文献5】特公平7−116029号公報
【特許文献6】特開平11−302162号公報
【課題を解決するための手段】
【0008】
トラニラストの消化管や皮膚からの吸収性を高めるには、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域にする必要がある。しかしながら、トラニラストが分子型で存在するということは、水に溶解しないということになる。発明者らは、このような問題点を解決すべく、鋭意検討を行った結果、トラニラストが分子型で存在するpH3〜7の領域では、水には溶解しないという特徴を逆に利用して、トラニラストの粒子径を超微細化し、水性懸濁剤とすることを見出し、基本的には本発明を完成するに到った。
【0009】
こうして、本発明に係る水性懸濁液剤は、トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有し、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μm、好ましくは0.005μm〜2μmの範囲にあり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、基剤のpHを3〜7の領域としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高く、消化管や皮膚(眼を含む)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、安定性が良好であり、かつ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することができる。本発明において、「皮膚」とは、「後生動物の体表をおおっている一層又は多層の組織」(大辞林(第二版)、三省堂(1995−11−3))を意味し、網膜、角膜等眼を構成する細胞をも含む概念である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記実施形態又は実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明で使用されるトラニラストまたはその薬理学的に許容される塩は、基剤のpHが3〜7の範囲であり、この基剤に懸濁されており、トラニラストの粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であることが好ましい。但し、粒子径分布の中心は、0.005μm〜5μm、0.005μm〜2μm、0.005μm〜0.5μm、0.01μm〜5μm、0.01μm〜2μm、0.01μm〜0.5μm、0.05μm〜5μm、0.05μm〜2μm、0.05μm〜0.5μm、又は0.05μm〜0.1μmであることが好ましく、粒子径分布の90%メジアン径は、10μm以下、8μm以下、6μm以下、4μm以下、2μm以下であることが好ましい。上記粒子径分布の中心と、粒子径分布の90%メジアン径とに関する数値範囲に関しては、目的に応じて互いに矛盾しないものを任意に組み合わせて設定することができる。
【0012】
トラニラストは、基剤のpHが3〜7の範囲であれば、基剤に懸濁されている。しかし、基剤のpHが7より上がりアルカリ領域になると、トラニラストが見かけ上溶解し、溶解した溶液中のトラニラストは水による加水分解を受け分解しやすくなる。また、pHが3より下がると基剤の酸性度が強くなり、トラニラストではなく基剤による消化管や皮膚に対する刺激が大きくなるため好ましくない。
紛体の粒子径分布は一般的に横軸に粒子径の対数をとり、縦軸に頻度%をとるとき正規分布に近似したある広がりを持った分布を示す。このため、粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであったとしても、分布に広がりがあるために5μm以上の粒子を含むことになる。本発明では、この粒度分布の広がりに対し、トラニラストの粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であること(言いかえれば、10μmより大きな粒子径を示す粒子が全体に占める割合が、10%未満であること)が重要である。
【0013】
このような条件とすることにより、トラニラストの懸濁粒子がブラウン運動し、2次凝集による沈降を抑制する。更に、消化管や皮膚、粘膜への接触面積を増大し、かつ細胞間隙を通ることが出来るため、吸収性が高くなる。更に、本発明では、トラニラストの光に対する安定性が改善されることに加え、刺激性を低くすることができる。
吸収性が高まる事と、光に対する安定性や刺激性が低減される事は粒子の大きさに相関がある。粒子径分布の中心が5μm以上の場合や90%メジアン径が10μmを超えた場合、消化管や皮膚からの吸収が低くなり、光に対して不安定であり、刺激性も高くなる。
【0014】
本発明における水性懸濁液は、粒子径があまりに小さい為、微細粒子がブラウン運動するエネルギーだけで2次凝集を抑制する効果があるが、さらに界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とすることにより、再分散性を良好にできる。ゼータ電位の調製に用いる界面活性剤の種類、水溶性高分子の種類、薬物の量は、pHによっても異なるが0.05%〜3%の範囲であることが好ましい。
【0015】
界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の4級アミン系界面活性剤やポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤類、などを挙げることができる。
【0016】
水溶性高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルメチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることできる。
本発明におけるトラニラストの含有量は、特に制限はない。通常、0.5%〜10%の実際に使用されている製剤の含有量と同じ濃度であるが、更に高濃度のトラニラスト懸濁液を作り、使用濃度に合わせて希釈して製剤とする事も可能である。
また、さらに製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調製剤、軟膏基剤等を添加し、経口剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、ローション剤等とすることができる。かかる製剤学的に汎用されている成分としては、例えば、以下のような成分を挙げることができる。
【0017】
賦形剤として、乳糖、白糖、しょ糖、デンプン、結晶セルロース等を挙げることができる。
等張化剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、マンニトール等を挙げることができる。
基剤成分として、グリセリン、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、ブチレングリコール、水、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、イプシロンアミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム、ステアリン酸グリセリン、ポリエチレングリコール類、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールやセチルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールなどのアルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルポリシロキサン等のシリコーン油類、アボガド油、アルモンド油、オリーブ油、カカオ脂、牛脂、ゴマ油、小麦胚芽油、サフラワー油、タートル油、椿油、パーシック油、ひまし油、ブドウ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、黄卵油、紅花油、モクロウ、ヤシ油、ローズヒップ油等の油脂類、オレンジラフィー油、ホホバ油等の液状蝋類、流動パラフィン、液状ワセリン、スクワラン、スクワレン等の液状炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル等の脂肪酸エステル類を挙げることができる。
【0018】
安定剤としては、エデト酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールなどを挙げることができる。
清涼化剤としては、メントール、ハッカ油、カンフル、ユーカリ油などを挙げることができる。
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルポリアミノエチルグリシン類、ソルビン酸などが挙げることができる。
【0019】
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、アンモニア及びこれらの塩類などを挙げることができる。
軟膏基剤として、ワセリン、パラフィン、プラスチベース、シリコーン、豚脂、ろう類、単軟膏、単鉛硬膏、親水軟膏、親水ワセリン、精製ラノリン、アクアホール、オイセリン、ネオセリン、吸水軟膏、加水ラノリン、親水プラスチベース、マクロゴール類、ソルベース、ゲル炭化水素、などを挙げることができる。
【0020】
本発明では、前述の水性懸濁液剤を脱水し、前述の製剤学的に汎用されている賦形剤、基剤、安定剤、保存剤、pH調製剤、軟膏基剤等を添加し、経口剤又は外用剤とすることができる。これらの製剤を水に分散懸濁させて服用したり(ドライシロップ剤、散剤等)、水と同時に服用した場合(錠剤、カプセル剤等)には、トラニラストは胃や腸内で水に懸濁された状態となる。また、本発明の製剤は、用事分散懸濁させて皮膚に塗布する事もできる。
【0021】
次に、本発明製剤の製造方法の代表例を以下に述べるが、本発明の技術的範囲はこれらの例によって限定されるものではない。
トラニラストは、粒子径分布の中心が80μm〜100μmのものを購入できる。これを各種の粉砕・分散機にかけることにより、所定の粒子径を備えたトラニラストとすることができる。粉砕機としては、例えばボールミル、振動ボールミル、遠心ボールミル、ロッドミル、ミクロンミル、ジェットミル、遠心流動ボールミル、ハンマーミル、ピンミル、アドマイザー、各種のホモジナイザー、ミキサー、超音波、高圧ホモジナイザー、超薄膜式高速回転粉砕機を例示でき、これらのうち1つあるいは2つ以上の粉砕、分散機を用いて、トラニラストを微細化することができる。これらのうち、特に超薄膜式高速回転粉砕機を好適に使用することができる。
【0022】
本実施品の製造方法として、トラニラストに必要な場合には、pH調整剤によりpHを調整した水を加えた後、超薄膜式高速回転粉砕機を用いて粉砕分散することで、所望の粒度分布を持った微細化物とすることができる。
必要に応じ、界面活性剤及び/或いは水溶性高分子を加え、トラニラスト粒子のゼータ電位の絶対値を20mV〜150mVの範囲とした懸濁性医薬組成物を得る。
更に、エバポレーター、噴霧乾燥機、真空乾燥機あるいは凍結乾燥機を用いて脱水し、乳糖を加え練合した後、顆粒剤や散剤とする。また、打錠して錠剤とすることもできる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
トラニラストは、粒子径の中心が約500μm、90%メジアン径が800μmの原末の市販品を購入した。下表1中の成分量に従って、各成分を量り取り、ホモジナイザー(クレアミックス2.2S、エム・テクニック株式会社製)で9000rpm、30分間予備粉砕分散した。更に、実施例1〜3では、超薄膜式高速回転粉砕機(SS−5−100型、エム・テクニック株式会社製)にて微細化処理し粉砕分散した。一方、比較例1、3では、ホモジナイザー処理のみを施し、高速回転粉砕機による処理は行わなかった。比較例2はホモジナイザー処理、高速回転粉砕機による処理をどちらも行わなかった。
【0024】
【表1】

実施例1〜3、又は比較例1〜3に従って得られた各試験液につき、pH、中心粒子径(粒子径分布の中心)、及び90%メジアン径を測定した。pHは、各試験液中にpHメーター(堀場製作所製)のプローブを浸漬することで測定した。中心粒子径、及び90%メジアン径は、粒度分布測定装置(SALD−7000、島津製作所製)のフローセルを使用して求めた。なお、循環液として、pH3の水溶液を用いた。表2には、各パラメータの測定結果を示した。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例1〜3については、pHが3.0〜7.0、中心粒子径が0.05μm〜4.8μm、90%メジアン径が0.8μm〜9.0μmであった。一方、比較例1では、pHが8.0と高く、トラニラスト粒子が溶解していたため、粒子の検出ができなかった。また、比較例2及び3では、トラニラスト粒子は確認されたものの、中心粒子径及び90%メジアン径は、本発明の範囲よりも大きかった。
実施例1〜3、及び比較例1〜3の各検体について、吸収性に関する以下の試験を行った。
【0027】
<皮膚透過性試験>
縦形フランツセル(有効面積0.035cm、リザーバー容量15mL)に、ヒト人工培養皮膚(テストスキンHi、東洋紡製)を真皮層がドナー側になるよう固定した。リザーバー液は、20%ポリエチレングリコール溶液とした。ドナー側には、実施例1〜3、及び比較例1〜3の各溶液1.0mLを加えた。ドナー側に溶液を加えた時刻をゼロ時間目とし、経時的にリザーバー液をサンプリングした。サンプリング液中のトラニラスト濃度をHPLCにて測定し、真皮側からドナー側に皮膚を移行してきたトラニラストを評価した。
【0028】
結果を図1に示した。図に示す通り、比較例1〜3は、皮膚の透過性が低く、7時間後でも最大値(比較例3)は100μg/mLを越えなかった。中でも、比較例1は皮膚透過性が最低であった。比較例1では、トラニラストが溶解しており、イオン型の薬物が皮膚透過に劣る事によるものと考えられた。このことから、トラニラストでは、イオン型に比べて分子型となるpH(3≦pH≦7)の方が、皮膚移行性が高い事が示された。
【0029】
一方、実施例1〜3では、トラニラスト濃度は、いずれも試験開始後から徐々に上昇し、3時間目以降に顕著に増加を示し、7時間後には全例で1100μg/mL以上の高値を示した。また、実施例1〜3では、pHが低いほど皮膚の透過性が高いというpH依存性を示した。
比較例3と実施例3を比較すると、粒子径分布の中心が5μm以下であり、90%メジアン径が10μm以下であることが、トラニラストの吸収性を大きく高める要因であることが明らかとなった。
【0030】
<経口投与による吸収性の比較試験>
日本白色種雄性ウサギに胃内ゾンデを用いて、実施例1〜3及び比較例1〜3の各試験液を5mL(トラニラストとして50mg)投与した。投与開始を0時間目として、8時間目まで経時的に耳静脈より血液約1mLを採血し、血漿中のトラニラストの未変化体濃度をHPLCにて測定した。
結果を表3及び図2に示した。
【0031】
【表3】

比較例1〜3では、Cmax(血漿中トラニラスト濃度の最大値)は、30μg/mL〜50μg/mLであり、Tmax(最大濃度に達したときの時間)は、3時間〜4時間であった。また、AUC(曲線下面積)は、123μg/mL・hr〜161μg/mL・hrであった。
【0032】
一方、実施例1〜3では、Cmaxは、80μg/mL〜95μg/mL、Tmaxは、1.5時間〜2時間、AUCは、212μg/mL・hr〜231μg/mL・hrであった。
これらの結果より、実施例1〜3は、比較例1〜3と比べると、Cmax及びAUCが約2倍程度と高いことから、消化管からの吸収率が向上していることが示された。また、実施例1〜3では、Tmaxが短い時間に短縮されており、吸収速度の高くなることが示された。
【0033】
<光安定性試験>
実施例1〜3及び比較例1〜3の各試験液を10mLずつガラス透明バイアルに入れ、光照射試験機にて2000Lux・hrの光源より光を照射した。各バイアルの試験液を経時的にサンプリングし、トラニラスト濃度をHPLCにて測定し、トラニラストの残存割合(%)を評価した。
結果を図3に示した。図より明らかなように、比較例1では、試験開始後から速やかにトラニラストの分解が認められ、2日目では、ほとんど全てのトラニラストが分解し残存率は0%となった。比較例2及び3においても、試験開始後から速やかなトラニラストの分解が認められ、25日目(1.2 × 10Lux・hr)の残存率は、比較例2では約20%、比較例3では約65%であった。これらのことより、比較例1〜3では、いずれもトラニラストは光に対して、顕著な分解性が認められた。
【0034】
一方、試験例1〜3では、いずれもトラニラストの安定性は極めて高く、試験開始から25日目における残存率は、いずれも90%以上の高値であった。
比較例2及び3と実施例1〜3を比較すると、トラニラストの粒子径が小さくなるほど光に対する安定性が増加することが示された。こうして、トラニラストの懸濁液では、その中心粒子径が5μm以下であり、90%メジアン径が10μm以下であることが、光に対する安定性が高いことが示された。
【0035】
<皮膚刺激試験>
SDラットの背中を剃毛し、実施例1〜3及び比較例1〜3の各試験液0.5mLを一回塗布し、24時間後、48時間後及び72時間後に、塗布領域における炎症や損傷の状態を肉眼で調べた。炎症や損傷の状態は、正常な皮膚と同様の場合には刺激性スコア「0」とし、明らかに発赤を認めるものを刺激性スコア「1」、輪郭の明瞭な発赤を認めるものを刺激性スコア「2」、炎症を認めるものを刺激性スコア「3」として、4段階で評価した。
結果を表4に示した。
【0036】
【表4】

比較例1〜3においては、24時間目では0.7〜1.7、48時間目では1.0〜1.7、72時間目では1.0〜2.3の刺激性スコアが観察された。一方、実施例1〜3においては、24時間目〜72時間目の全例において、刺激性スコアは「0」であり、刺激性は観察されなかった。
【0037】
これらのことから、本実施例品は、低刺激性のトラニラスト製剤であることがわかった。
以上の試験結果より、本発明品は、安全性が高く、消化管や皮膚(眼を含む)からの有効成分の吸収性に極めて優れ、光に対する安定性が良好であり、かつ刺激性の少ないトラニラスト含有医薬組成物を提供することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1〜3及び比較例1〜3のトラニラスト製剤を用いて皮膚透過試験を行ったときの結果を示すグラフである。
【図2】実施例1〜3及び比較例1〜3のトラニラスト製剤をウサギに経口投与したときの経時的な血漿中トラニラスト濃度変化を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜3のトラニラスト製剤を光照射試験機にかけたときの経日的なトラニラストの残存率変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニラストまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有し、その粒子径分布の中心が0.005μm〜5μmであり、粒子径分布の90%メジアン径が10μm以下であり、かつpHが3〜7であることを特徴とする水性懸濁液剤。
【請求項2】
粒子径分布の中心が0.005μm〜2μmである請求項1に記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】
点眼剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】
点鼻剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項5】
経口剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項6】
ローション剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項7】
軟膏剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項8】
脱水した請求項1または2に記載の水性懸濁液剤と、薬学的に許容される成分とを含有する医薬品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28108(P2006−28108A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210969(P2004−210969)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】