説明

トラバーサ設備における開口部養生柵

【課題】 トラバーサ設備において、スライド方向に沿った一対の辺部に、移動台車への通路部分を保持しつつ効率良く設けることのできる開口部養生柵を提供する。
【解決手段】 トラバーサ設備11において、移動台車14への通路部分15を保持した状態で開口部12の対向する一対の辺部13,13に設けられる開口部養生柵10であって、移動台車14の角部分に設けられる移動支柱16と、開口部12の角部分に設けられる固定支柱17との間にワイヤー部材18を張設することによって構成され、ワイヤー部材18は、一端が一方の移動支柱16に連結され、一方の固定支柱17に設けた滑車19に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、辺部13に沿って移動台車14の上載面20よりも下方を通過して上方に折れ曲がり、他方の固定支柱17に設けた滑車21に巻き回されて移動台車14側へ折れ曲がった後に、他方の移動支柱16に他端が連結される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラバーサ設備における開口部養生柵に関し、特に、開口部の対向する一対の辺部に挟まれて配置される移動台車を、当該一対の辺部に沿ってスライド移動させるトラバーサ設備において設けられる開口部養生柵に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシールド工事やその他の土木工事においては、覆工された作業ヤードの床面に、種々の作業用の開口部が形成される場合があり、このような開口部を形成した際には、特に作業員の落下を防止するために、開口部の周囲を囲う養生柵が設けられる。また、このような養生柵として、開口部の大きさや形状等に応じて効率良く養生を行えるようにするために、柵の長さを伸縮可能とした開口部養生柵も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−158229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、土木工事においては、例えばズリトロ車や資機材運搬用の車両等の工事用車両を、ある搬送ラインから他の搬送ラインに移動させたり、クレーン設備等の他の機器による作業位置に移動させる設備として、トラバーサ設備が用いられる場合がある。かかるトラバーサ設備は、例えば矩形形状の開口部の対向する一対の辺部に挟まれるようにして配置される移動台車を、当該一対の辺部に沿って平行にスライド移動させるものであり、例えば搬送ライン上を搬送されてきた工事用車両を、開口部の辺部との連設部分を介して移動台車に載せた後、移動台車を平行移動させることにより工事用車両を所望に位置に移動させることになる。
【0004】
このようなトラバーサ設備においても、移動台車がスライド移動する開口部の周囲を養生柵で囲んで養生することが好ましいが、移動台車のスライド方向に沿った一対の辺部においては、養生柵を固定する従来の養生柵では、効率良く養生を行うことが困難だった。すなわち、トラバーサ設備の場合、移動台車のスライド方向に沿った辺部においては、当該辺部との連設部分を通路部分として工事用車両等の移動台車への搬入や搬出が行われるため、当該通路部分の養生柵は未設置としておく必要があり、またこのような養生柵の未設置部分は、移動台車のスライド移動に伴って移動させる必要があることから、当該未設置部分を移し替える作業に多くの時間と手間を要することになる。
【0005】
また、移動台車の角部分に台車の移動に伴って移動する移動支柱を設け、この移動支柱と開口部の角部分に設けた固定支柱とを伸縮可能な柵部材によって繋ぐことにより、スライド方向に沿った一対の辺部に、移動台車への通路部分を保持しつつ養生柵を設けることも可能であるが、柵部材を伸縮可能な部材とすると、作業員の落下を防止するのに十分な支持力が得られなくなると共に、移動台車を開口部の端部まで広い範囲に亘って移動させることが困難になる。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、スライド方向に沿った一対の辺部に、移動台車への通路部分を保持しつつ効率良く養生柵を設けることができると共に、作業員の落下を防止するのに十分な支持力が得られ、且つ移動台車を開口部の端部まで広い範囲に亘って移動させることのできるトラバーサ設備における開口部養生柵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、開口部の対向する一対の辺部に挟まれて配置される移動台車を、当該一対の辺部に沿ってスライド移動させるトラバーサ設備において、前記移動台車への通路部分を保持した状態で前記一対の辺部に設けられる開口部養生柵であって、前記移動台車の角部分に設けられる移動支柱と、前記開口部の角部分に設けられる固定支柱との間にワイヤー部材を張設することによって構成され、前記ワイヤー部材は、一端が前記通路部分を挟んだ一方の前記移動支柱に連結され、前記辺部を挟んだ一方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、前記移動台車側へ折れ曲がり、前記辺部に沿って前記移動台車の上載面よりも下方を通過し、上方に折れ曲がって前記辺部を挟んだ他方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて前記移動台車側へ折れ曲がった後に、前記通路部分を挟んだ他方の前記移動支柱に他端が連結されるトラバーサ設備における開口部養生柵を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明のトラバーサ設備における開口部養生柵によれば、前記ワイヤー部材は、前記辺部を挟んだ一方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、前記一方の固定支柱の下方に設けた滑車に巻き回されて前記移動台車側へ折れ曲がり、前記辺部に沿って前記移動台車の上載面よりも下方を通過した後に、前記他方の固定支柱の下方に設けた滑車に巻き回されて上方に折れ曲がるようになっていることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明のトラバーサ設備における開口部養生柵によれば、前記開口部は矩形形状を備えており、前記一対の辺部と交差する他方の一対の辺部には、当該他方の辺部に沿って固定柵が設けらていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトラバーサ設備における開口部養生柵によれば、スライド方向に沿った一対の辺部に、移動台車への通路部分を保持しつつ効率良く養生柵を設けることができると共に、作業員の落下を防止するのに十分な支持力が得られ、且つ移動台車を開口部の端部まで広い範囲に亘って移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1(a),(b)に示す本発明の好ましい一実施形態に係るトラバーサ設備11における開口部養生柵10は、土木工事として例えばシールドトンネル工事において、立抗の底部の作業ヤードに設けられたトラバーサ設備11を構成する開口部12の周囲に設けられることにより、特に作業員の開口部12への落下を防止するために設置されるものである。ここで、トラバーサ設備11は、開口部12の対向する一対の辺部13,13に挟まれて配置される移動台車14を、当該一対の辺部13,13に沿って平行にスライド移動させることにより、移動台車14に載置された工事用車両(図示せず。)を、例えば上方にクレーン設備等が設けられた領域に移動させて、掘削土砂の搬出作業や資機材の搬入・搬出作業等を、容易に行わせるようにするものである。
【0012】
そして、本実施形態の開口部養生柵10は、上述のようなトラバーサ設備11において、移動台車14への通路部分15を保持した状態で、移動台車14のスライド方向Xに沿った開口部12の一対の辺部13,13に設けられる養生柵であって、移動台車14の角部分に設けられる移動支柱16と、開口部12の角部分に設けられる固定支柱17との間にワイヤー部材18を張設することによって構成され、ワイヤー部材18は、一端が通路部分15を挟んだ一方の移動支柱16に連結され、スライド方向Xに沿った辺部13を挟んだ一方の固定支柱17に設けた滑車19に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、移動台車14側へ折れ曲がり、スライド方向Xに沿った辺部13に沿って移動台車14の上載面20よりも下方を通過し、上方に折れ曲がって辺部13を挟んだ他方の固定支柱17に設けた滑車21に巻き回されて移動台車14側へ折れ曲がった後に、通路部分15を挟んだ他方の移動支柱16に他端が連結されるようになっている。
【0013】
本実施形態によれば、トラバーサ設備11の開口部12は、例えば立抗の底部の作業ヤードに形成されて、例えば長辺が670cm程度、短辺が500cm程度の平面矩形形状を備えると共に、例えば70cm程度の深さを有している。開口部12は、その長辺である一方の一対の辺部13,13が移動台車14のスライド方向Xに沿った辺部となっていて、これらの辺部13,13の間に垂直に挟まれるようにして移動台車14が配置されることになる。また、これらの辺部13,13と移動台車14との連設部分が、移動台車14への通路部分15となっている。さらに、矩形形状の短辺である他方の一対の辺部22,22は、移動台車14の側壁面を当接させて移動台車14の移動を規制する位置決め当接壁としての機能を備えると共に、これらの他方の辺部22,22に沿って、2段に配置されたパイプ部材23からなる固定柵24が、両側の固定支柱17の間に架設されて設けられている。
【0014】
トラバーサ設備11の移動台車14は、例えば開口部12の一対の長辺間に収まる495cm程度の長さの長辺と、開口部12の一対の短辺間をスライド移動できる240cm程度の幅の短辺を有する縦長矩形形状の上載面20を有すると共に、上載面20を、周囲の作業ヤードの上面30と略同じ高さに配置して設置されている(図3参照)。また、移動台車14の底面の凹部25には、図3に示すように、回転可能に支持された車輪26や、車輪26の車軸27と連結して当該車軸27を回転駆動するモータ28等が設けられている。一方、開口部12の底面には、移動台車14のスライド方向Xに沿って、一対の辺部13,13と平行に延設する一対のレール29が敷設されており、これらのレール29に支持させて車輪26を走行させることにより、移動台車14を開口部12の一対の辺部13,13に沿って容易にスライド移動させることができるようになっている。
【0015】
移動台車14の角部分に設けられる移動支柱16は、例えば山形鋼からなり、上載面20から例えば100cm程度の高さで立設して、溶接や固定金具を介して4箇所の角部分に各々強固に接合固定されている。これらの移動支柱16には、図1(a),(b)に示すように、2段に配置されたワイヤー部材18の一端又は他端が各種の連結金具を介して連結されると共に、移動台車14のスライド方向Xに沿った各辺部13,13に立設する各一対の移動支柱16の間の部分は、ワイヤー部材18が未設置の通路部分15となっている。また、ワイヤー部材18は、その端部を例えば滑車やターンバックル等の張力調整具を介して移動支柱16に連結することができ、これによって養生柵として張設されるワイヤー部材18の張力を調整して、たるみの発生等を効果的に回避することが可能になる。
【0016】
開口部12の角部分に設けられる固定支柱17は、例えば山形鋼からなり、開口部12の角に近接する作業ヤードの上面30において、例えば100cm程度の高さで立設して、溶接や固定金具を介して4箇所の角部分に各々強固に接合固定されている(ここで、開口部の角部分は、開口部の角の内側部分のみならず、開口部の角の外側の作業ヤード上に位置する部分も含まれる。)。これらの移動支柱16には、2段に配置されたワイヤー部材18が各々巻き回されて、これらのワイヤー部材18を例えば下方へ案内する滑車19や、これらのワイヤー部材18を例えば移動台車14側へ案内する滑車21が、2段のワイヤー部材18の移動支柱16からの延長開始位置と略同じ高さに配置されて取り付けられている。また、これらの移動支柱16には、他方の一対の辺部22,22に沿って設けられる固定柵24を構成する一対のパイプ部材23の端部が、滑車19,21と略同じ高さに配置されて、溶接や固定金具を介して各々接合固定されている。
【0017】
さらに、本実施形態によれば、各固定支柱17の下方には、開口部12の内側角部分に配置されて、2段のワイヤー部材18に対応させた各一対の下方滑車31,32が、移動台車14の上載面20よりも下方に配置されて各々取り付けられている。これらの下方滑車31,32によって、ワイヤー部材18は、例えばスライド方向Xに沿った辺部13,13を挟んだ一方の固定支柱17に設けた滑車19に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、一方の固定支柱17の下方に設けた下方滑車31に巻き回されて移動台車14側へ折れ曲がったり、例えばスライド方向Xに沿った辺部13,13に沿って移動台車14の上載面20よりも下方を通過した後に、他方の固定支柱17の下方に設けた下方滑車32に巻き回されて上方に折れ曲がるようになっている。
【0018】
養生柵10を構成するワイヤー部材18は、鉄線、鋼線、銅線等からなる金属製の線状部材であって、複数の針金を撚り合わせて形成さたワイヤロープ等も含まれる。また、ワイヤー部材18は、長さ方向に弾性変形し難い部材を用いることが好ましく、これによって、ワイヤー部材18を所定の張力で移動支柱16と固定支柱17の間に張設することにより養生柵10を形成した際に、作業員の落下を防止するのに十分な支持力を、より安定した状態で得られることになる。またワイヤー部材18は、各々、一端が通路部分15を挟んだ一方の移動支柱16に連結され、スライド方向Xに沿った辺部13を挟んだ一方の固定支柱17に設けた滑車19に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、移動台車14側へ折れ曲がり、スライド方向Xに沿った辺部13に沿って移動台車14の上載面20よりも下方を通過し、上方に折れ曲がって辺部13を挟んだ他方の固定支柱17に設けた滑車21に巻き回されて移動台車14側へ折れ曲がった後に、通路部分15を挟んだ他方の移動支柱16に他端が連結されることにより、本実施形態の開口部養生柵10が形成されることになる。
【0019】
そして、上述の構成を備える本実施形態の開口部養生柵10によれば、スライド方向Xに沿った一対の辺部13,13に、移動台車14への通路部分15を保持しつつ効率良く養生柵10を設けることができると共に、作業員の落下を防止するのに十分な支持力が得られ、且つ移動台車14を開口部12の端部まで広い範囲に亘って移動させることができる。すなわち、本実施形態によれば、移動台車14の角部分に設けられる移動支柱16と、開口部12の角部分に設けられる固定支柱17との間に張設されるワイヤー部材18は、滑車19,21等を介して下方に折れ曲がり、移動台車14の上載面20よりも下方を通過して上方に折れ曲がることにより、通路部分15を挟んだ両側のワイヤー部材18が連続して取り付けられることになるので、図1(a)及び(b)に示すように、移動台車14の移動に伴って、通路部分15を挟んだ反対側にワイヤー部材18を送り出しつつ、ワイヤー部材18が未設置の通路部分15を容易に移動させて行くことが可能になり、これによって、養生柵10を設置し直すことなく、移動台車14への通路部分15を容易に保持することが可能になる。また、通路部分15を挟んだ反対側にワイヤー部材18を送り出しつつ、移動支柱16が固定支柱17に近接するまで移動台車14をスライド移動させることができるので、移動支柱16を開口部12の広い範囲に亘って移動させることが可能になる。さらに、ワイヤー部材18を、長さ方向に伸縮しない部材によって構成することが可能になることから、作業員の落下を防止するのに十分な養生柵としての支持力を容易に得ることが可能になる。
【0020】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明はシールドトンネル工事に限定されることなく、その他の種々の土木・建築工事において用いられるトラバーサ設備に取り付けて用いることができる。また、養生柵を構成するワイヤー部材は、2段に限定されることなく、1段又は3段以上取り付けて用いることもできる。さらに、ワイヤー部材を、移動台車の両側の側面の間を貫通させるようにして、移動台車の上載面よりも下方を通過させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の好ましい一実施形態に係るトラバーサ設備における開口部養生柵の構成を説明する略示斜視図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトラバーサ設備における開口部養生柵の構成を説明する図1(b)のA−Aに沿った略示断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 開口部養生柵
11 トラバーサ設備
12 開口部
13 移動台車のスライド方向に沿った開口部の一対の辺部
14 移動台車
15 通路部分
16 移動支柱
17 固定支柱
18 ワイヤー部材
19,21 滑車
20 移動台車の上載面
22 開口部の他方の一対の辺部
23 固定柵のパイプ部材
24 固定柵
25 移動台車の底面の凹部
26 車輪
27 車軸
28 モータ
29 レール
30 作業ヤードの上面
31,32 下方滑車
X 移動台車のスライド方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部の対向する一対の辺部に挟まれて配置される移動台車を、当該一対の辺部に沿ってスライド移動させるトラバーサ設備において、前記移動台車への通路部分を保持した状態で前記一対の辺部に設けられる開口部養生柵であって、
前記移動台車の角部分に設けられる移動支柱と、前記開口部の角部分に設けられる固定支柱との間にワイヤー部材を張設することによって構成され、
前記ワイヤー部材は、一端が前記通路部分を挟んだ一方の前記移動支柱に連結され、前記辺部を挟んだ一方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、前記移動台車側へ折れ曲がり、前記辺部に沿って前記移動台車の上載面よりも下方を通過し、上方に折れ曲がって前記辺部を挟んだ他方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて前記移動台車側へ折れ曲がった後に、前記通路部分を挟んだ他方の前記移動支柱に他端が連結されるトラバーサ設備における開口部養生柵。
【請求項2】
前記ワイヤー部材は、前記辺部を挟んだ一方の固定支柱に設けた滑車に巻き回されて下方に折れ曲がった後に、前記一方の固定支柱の下方に設けた滑車に巻き回されて前記移動台車側へ折れ曲がり、前記辺部に沿って前記移動台車の上載面よりも下方を通過した後に、前記他方の固定支柱の下方に設けた滑車に巻き回されて上方に折れ曲がる請求項1に記載のトラバーサ設備における開口部養生柵。
【請求項3】
前記開口部は矩形形状を備えており、前記一対の辺部と交差する他方の一対の辺部には、当該他方の辺部に沿って固定柵が設けらている請求項1又は2に記載のトラバーサ設備における開口部養生柵。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−125077(P2006−125077A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315525(P2004−315525)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】