説明

トラマドール及びセレコキシブを含む疼痛治療用組成物

本発明はトラマドールとセレコキシブからなる医薬組成物と、その薬剤又は鎮痛薬としての使用に関し、特に炎症性要素に伴う重度から中程度の疼痛の治療への使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラマドール及びセレコキシブを含む医薬組成物及びその薬剤又は鎮痛薬としての使用に関し、特に重度から中程度の疼痛の治療への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、感覚的要素、自律神経系要素、運動性要素、及び感情的要素に機能的に分類されている複合反応である。感覚的側面は、刺激位置及び強度に関する情報を含み、一方、適応要素は内因性疼痛の調節の活性化及び逃避反応のための運動計画の活性化であると考えられる。感情的要素は、疼痛の不快感と刺激の脅威とに関する評価並びに疼痛刺激の記憶及び状況により引き起こされる負の感情を含むものと思われる。
【0003】
一般に、疼痛症状は慢性と急性に分類できる。慢性疼痛は、神経障害性疼痛と慢性炎症性疼痛、例えば関節炎又は原因未知の疼痛(例えば線維筋痛症(fibromyalgia))とを含む。急性疼痛は通常、非神経組織の損傷、例えば外科手術による組織損傷又は炎症、あるいは偏頭痛に続いて起こる。疼痛は、重度から始まり中程度から軽微な疼痛までの異なるレベルに区分することができる。
【0004】
疼痛の治療又は管理に有用であることが分かっている多くの薬物がある。オピオイドは頻繁に疼痛の鎮痛薬として用いられる。モルヒネの誘導体は、ヒトの中程度ないし重度の疼痛の治療のために用いられるとされている。その鎮痛効果は、モルヒネの受容体、好ましくはμ−受容体に対する作用を通じて得られる。モルヒネのこれらの誘導体の中でも、モルヒネ、コデイン、ペチジン、デキストロプロポキシフェンメタドン(dextropropoxyphenemethadone)、レネフォパン(lenefopan)を挙げることができる。
【0005】
モルヒネの誘導体の一つで、経口投与時に極めて良好な結果を示し、広く取引されているものはトラマドールであり、生理学的に許容される塩、特に塩化水和物(chlorohydrate)として入手することもできる。トラマドールは中枢作用性鎮痛薬であり、オピオイド受容体を活性化し、ニューロンにおけるモノアミンのシナプス濃度を高めることにより、その効果を発揮する。トラマドールは、化学名が2−(ジメチルアミノメチル)−1−(3−メトキシフェニル)シクロヘキサノールであり、下記式を有する。
【0006】
【化1】

トラマドール
【0007】
この構造は2個の異なるキラル中心を示し、よってこの分子は異なるジアステレオ異性体として存在し得る。それらのうち、前記トラマドールはcis−ジアステレオ異性体である。光学異性体(1R, 2R)又は(1S, 2S)は(+)−トラマドール及び(−)−トラマドールとしても知られ、そのいずれもが異なる仕方でラセミ体トラマドールの総合的活性に寄与する。
【0008】
本発明では、「(rac)」とは「ラセミ体」の略称であり、従って「(rac)−トラマドール」又は「(rac)トラマドール」は、上記段落に記載したラセミ体トラマドール(cis−ジアステレオ異性体)を意味する。
【0009】
従って、「(rac)−トラマドール・HCl」又は「(rac)トラマドール・HCl」は、上記のラセミ体トラマドール(cis−ジアステレオ異性体)の塩酸塩と定義される。
【0010】
技術的には、この化合物は完全なオピオイド様でも非オピオイド様でもないと思われる。トラマドールがオピオイドアゴニストであることを実証した研究がいくつかあるのに対し、臨床的な経験からは、トラマドールが呼吸抑制、便秘症又は耐性等のオピオイドアゴニストの典型的な副作用の多くを欠くことが示されている。
【0011】
オピオイドは、その欠点のせいで、疼痛治療の鎮痛薬として繰り返して又はより高い用量で投与することが常にできるわけではない。オピオイドの作用は、例えばJ. Jaffe著「Goodman and Gilman's, The Pharmacological Basis of Therapeutics」, 第8版; Gilman et al., Pergamon Press, New York, 1990, Chapter 22, pages 522−573に論評されている。
【0012】
従って、同程度の無痛を生じさせるのに必要なオピオイドの量を減らすため、オピオイドをオピオイド鎮痛薬剤ではない他の薬物と組み合わせることが提案されている。これらの組み合わせの中でも、トラマドールを非ステロイド系抗炎症薬 (NSAID)と会合させることが特に興味深いと報告されている (EP−0546676)。
【0013】
US 5,516,803には、トラマドールと非ステロイド系抗炎症薬 (NSAID)、具体的にはイブプロフェンとの組み合わせが開示されており、又トラマドール・HClと非ステロイド系抗炎症薬、例えばイブプロフェン等とを、1:1から1:200の組成比で組み合わせて相乗的に強化させた鎮痛作用を生じさせるとともに、望ましくない随伴症状を低減させることが開示されている。
【0014】
US6,558,701特許にはトラマドールとジクロフェナクの組み合わせが開示されており、更に「中程度から重度の疼痛の治療について、世界保健機関 (WHO)は、より効果的な疼痛緩和薬を製造するため、及び投与が必要な鎮痛薬の量を減らすために、オピオイド鎮痛薬剤と非ステロイド鎮痛薬を組み合わせることを推奨している」ことが記載されている。
【0015】
トラマドールと組み合わされる興味あるNSAIDのひとつは、市販の薬物であるセレコキシブである。セレコキシブの化学名は4−[5−(4−メチルフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−ピラゾール−1−イル]ベンゼンスルホンアミドである。セレコキシブは抗炎症薬であり、又鎮痛薬であり、慢性の筋骨格炎症性疾患の治療に最も多く使用されているものの一つである。セレコキシブの実験式はC17H14F3N3O2Sである。
【0016】
【化2】

セレコキシブ
【0017】
セレコキシブは、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)高選択的経口阻害剤であり、変形性関節症、リウマチ様関節炎、及び強直性脊椎炎(Goldenberg MM. Celecoxib, a selective cyclooxygenase−2 inhibitor for the treatment of rheumatoid arthritis and osteoarthritis. Clin. Ther. 1999, 21, 1497−513)の治療において症状軽減の処置に用いられている。
高選択的であることにより、セレコキシブ及び他のCOX−2阻害剤は、非選択的NSAIDでは一般的な胃腸への副作用(例えば胃潰瘍)を最小限にしながら、炎症(及び疼痛)を軽減することができる。
【0018】
シクロオキシゲナーゼは、プロスタグランジンの生成に関与する。COX−1及びCOX−2の2つのイソ型が特定されている。COX−2は炎症性刺激により誘導されることが示されている酵素のイソ型であり、主に疼痛、炎症、及び発熱のプロスタノイド・メディエータ(prostanoid mediator)の合成に関与すると仮定されている。また、COX−2は排卵、動脈管の移植及び閉塞、腎機能の調整、及び中枢神経系機能(発熱誘発、疼痛知覚、及び認知機能)にも関与する。COX−2は潰瘍治癒にも寄与する。COX−2は、ヒトの胃潰瘍の組織の周囲で確認されているが、潰瘍治癒との関係は明らかになっていない。
【0019】
WO00/51685には、一方が、遊離塩基、又は塩、溶媒和物、多形体としての(+)− 及び(−)−トラマドール、ラセミ体トラマドール、トラマドールのN−オキシド及びO−デスメチル−トラマドール(両者はいずれも単離された立体異性体、又は両者の混合物であってそれらのラセミ体を含む混合物) からなる群から選択されるトラマドール物質で;
他方が、セレコキシブ及びCOX−2阻害剤のリストに挙げられている選択的COX−2阻害剤である医薬組成物が記載されている。この出願の焦点は、トラマドールとJT−522の組み合わせの例示に向けられている。
【0020】
本願出願人は、ひとつの医薬組成物中においてトラマドール、特にオピオイド活性を有する(rac)−トラマドール塩酸塩と、セレコキシブ(特にその中性型)とを組み合わせることにより、特に中程度から重度の疼痛の治療において、特に炎症性要因に伴う疼痛において、相加効果が得られることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
すなわち、本発明は(rac)トラマドール・HClと、セレコキシブ又は薬学的に許容されるセレコキシブの塩又は水和物との組み合わせからなる医薬組成物を目的とする。
【0022】
通常、本発明の医薬組成物の個別の有効成分であるトラマドール及びセレコキシブは、単独で使用されたとき、固有の欠点を示す。
【0023】
すなわち、経口で使われることが多いトラマドール塩酸塩は非常に苦みが強く、これにより薬物を飲み込むことが困難になり、患者の薬剤服用順守が低下する。また前記のように、オピオイドの有する欠点―その副作用―により、その利用は制限され、疼痛を治療するためにオピオイドを鎮痛薬として使用する際、オピオイドをより少ない用量で投薬しなければならず、又より低頻度で投薬することが通常求められる。一方、よく知られているようにセレコキシブは水にごく僅かしか溶けず、これによりセレコキシブの医薬処方物への使用はさらに制限されている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、オピオイド様トラマドール及びNSAID様セレコキシブからなる医薬組成物であって、各活性物質を単独で使用したとき得られる効能と同レベルの効能が得られ、
>> より高い用量において、より良い安全性プロフィールを有し
>> −相乗効果を示すことにより−各原料成分を少量用いて所望の活性を生じさせながら用量の削減を可能にし、これにより、各有効成分に伴う副作用を低減させ、及び/又は
>> 急性又は重度から中程度の疼痛、特に炎症性{えんしょう せい}要素に随伴する疼痛の治療に、より有効な新たな方法が提供される医薬組成物を提供することを目的とする。{ようそ}
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】A:術後疼痛のラット足切開モデルにおける、トラマドール、セレコキシブ、及びモル比が異なる(1:1、1:3及び3:1)ラセミ体トラマドール塩酸塩及びセレコキシブの様々な組み合わせの抗痛覚過敏効果の用量‐反応曲線。 B:熱過敏における顕著な(p<0.01)相乗的相互作用を示す、イソボログラム分析(isobologram analysis)。全てのデータは、平均値±標準誤差で示してある(投与群につきn=10〜3)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
新規な医薬組成物のその他の望ましい改良点/利点には、疼痛及びその亜型を伴う疾患又は症状において活性を有し、特に坐骨神経痛、凍結肩や中枢性感作(中枢性疼痛シンドローム)に伴う疼痛等の、現在の治療では不十分な疾患又は症状において活性を有することが含まれる。
【0027】
最も望ましくは、本発明の医薬組成物には1より多くの利点が組み合わされ、最も好ましくはこれらの利点全てが組み合わされている。
【0028】
本発明の医薬組成物は、いずれかの有効成分単独と比較したとき、改善された性質を示す。
【0029】
本発明の医薬組成物の好ましい一実施形態では、セレコキシブは中性型である。
【0030】
セレコキシブはpKaが11.1の弱酸性であり、従って本発明の「中性型」とは、セレコキシブはフリーである(塩の形態ではない)が、―pHに応じて―中性又は負荷を負った形態であると定義される。
【0031】
また本発明の医薬組成物の別の一実施形態では、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとの比が、重量比で約1:1から約1:300、又は約1:1から約300:1である。
【0032】
また本発明の医薬組成物の別の一実施形態では、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとの比が、モル比で約1:1から約1:300、又は約1:1から約300:1である。
【0033】
また本発明の医薬組成物の別の一実施形態では、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとの分子比が、重量比で約1:1から約1:30、又は約1:1から約30:1である。
【0034】
また本発明の医薬組成物の別の一実施形態では、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとの分子比が、モル比で約1:1から約1:30、又は約1:1から約30:1である。
【0035】
また本発明の医薬組成物の別の一実施形態では、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとの分子比が、モル比で約1:1から約1:5、又は約1:1から約5:1である。
【0036】
別の利点は、2種の有効成分を会合させて1つのユニークな化学種とすることにより、血液脳関門へのより良い浸透をも含めて、より良い薬物動態/薬力学(PKPD)が可能となり、これが疼痛の治療において役立つと考えられることである。
【0037】
本医薬組成物の両成分は、いずれも世界中で長期間使われてきた周知の薬物である。疼痛症状の治療におけるトラマドールの治療上の利益、及び医学的適用の分野において周知のセレコキシブの性質に鑑み、本発明の更なる目的は、(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブとからなる医薬組成物を含有する薬剤である。
【0038】
すなわち、本発明は、上記の本発明に係る(rac)−トラマドール・HCl及びセレコキシブと、任意に1種以上の薬学的に許容される賦形剤とからなる医薬組成物を含有する薬剤に関する。
【0039】
本発明の薬剤又は医薬組成物は、ヒト及び/又は動物、好ましくは乳児、幼児、成人を含むヒトへの投与に適した形態であればどのようなものでもよく、当業者に公知の標準的な方法で製造することができる。薬剤は当業者に公知の標準的な方法、例えば“Pharmaceutics: The Science of Dosage Forms”, 第二版, Aulton, M.E. (Churchill Livingstone編, Edinburgh (2002); “Encyclopedia of Pharmaceutical Technology”, 第二版, Swarbrick, J. and Boylan J.C. (編), Marcel Dekker, Inc. New York (2002); “Modern Pharmaceutics”, 第四版, Banker G.S. and Rhodes C.T. (編) Marcel Dekker, Inc. New York 2002 y “The Theory and Practice of Industrial Pharmacy”, Lachman L., Lieberman H. And Kanig J. (編), Lea & Febiger, Philadelphia (1986) に記載された表から公知の標準的な方法で製造することができる。これらの各記載内容は参照により本願に組み込まれ、本願の一部を構成する。薬剤の組成はその投与ルートにより異なるであろう。
【0040】
本発明の薬剤又は医薬組成物は、例えば水や適切なアルコール等の公知の注射液用キャリヤと組み合わせて、非経口的に投与される。このような注射用組成物には、安定化剤、溶解補助剤、及び緩衝液等の、注射液用の公知の医薬品添加剤が含まれていてもよい。このような薬剤又は医薬組成物は、例えば筋肉注射、腹腔内注射、又は静脈注射により注射することができる。
【0041】
本発明の薬剤又は医薬組成物は、生理学的に相溶性で固体状又は液体状の1以上のキャリヤ又は賦形剤を含む経口投与用組成物として処方されてもよい。このような組成物には、結合剤、充填剤、滑沢剤、及び許容される湿潤剤等の公知の成分が含まれていてもよい。本組成物は使いやすい形態、例えば即時放出性または制御放出性の錠剤、丸薬、顆粒、カプセル、トローチ剤、水性又は油性溶液、懸濁剤、エマルション、又は使用前に水や適切な液状媒体で戻せるように乾燥された粉体等の形態であればよい。丸薬や顆粒などの多粒子の形態の場合、例えばカプセルに充填したり、錠剤の形に圧縮したり、適切な液体中に懸濁させたりしてもよい。
【0042】
適切な制御放出処方を調合するための材料と方法は先行技術文献から知ることができ、例えば“Modified−Release Drug Delivery Technology”, Rathbone, M.J. Hadgraft, J. and Roberts, M.S. (編), Marcel Dekker, Inc., New York (2002); “Handbook of Pharmaceutical Controlled Release Technology”, Wise, D.L. (編), Marcel Dekker, Inc. New York, (2000); “Controlled Drug Delivery”, Vol, I, Basic Concepts, Bruck, S.D. (編), CRD Press Inc., Boca Raton (1983) y de Takada, K. and Yoshikawa, H., “Oral Drug Delivery”, Encyclopedia of Controlled Drug Delivery, Mathiowitz, E. (編), John Wiley & Sons, Inc., New York (1999), Vol. 2, 728−742; Fix, J., “Oral drug delivery, small intestine and colon”, Encyclopedia of Controlled Drug Delivery, Mathiowitz, E. (編), John Wiley & Sons, Inc., New York (1999), Vol. 2, 698−728に記載された表から知ることができる。これらの各記載内容は参照により本願に組み込まれ、本願の一部を構成する。
【0043】
本発明の薬剤又は医薬組成物は、溶解がpH値に依存するように、腸溶コーティングを備えていてもよい。このコーティングにより、本薬剤は溶解せずに胃を通過し、医薬組成物及び各成分は腸管内で放出される。好ましくは、腸溶コーティングは5から7.5のpH値において溶解する。その調製に適した材料と方法は、先行技術文献から知ることができる。
【0044】
通常、本発明の薬剤又は医薬組成物は、本明細書に規定する(rac)−トラマドール・HClとセレコキシブの組み合わせを1から60重量%含有し、1種以上の補助物質(添加剤/賦形剤)を40から99重量%含有し得る。
【0045】
本発明の組成物はまた、局所的に又は坐薬により投与してもよい。
【0046】
ヒト及び動物に対する毎日の用量は、それぞれの種においてそれらが基礎とする要因、例えば年齢、性、体重又は病気の程度、等により変化し得る。ヒトについての毎日の用量は、好ましくは、1日当たり1回又は数回の摂取で投与される活性物質が10から2000ミリグラムの範囲である。
【0047】
本発明の別の態様は、疼痛、好ましくは糖尿病性神経障害又は変形性関節症を含む、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚過敏、異痛又は癌性疼痛や;重度から中程度の疼痛;又リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛又は凍結肩を含む、疼痛の治療において鎮痛薬として用いられる本発明の(rac)−トラマドール・HCl及びセレコキシブの組み合わせを含む本発明の医薬組成物に関する。
本発明の医薬組成物の使用は、特に重度から中程度の炎症性要素を伴う疼痛の治療、例えばリウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛又は凍結肩の治療に向けられている。
【0048】
本発明の別の態様は、糖尿病性神経障害、又は糖尿病性末梢神経障害、及び変形性関節症、線維筋痛症、リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、凍結肩又は坐骨神経痛を含む、疼痛、好ましくは急性疼痛、又は好ましくは急性疼痛、慢性疼痛(急性及び慢性疼痛)、神経障害性疼痛、侵害受容性疼(内臓及び/又は身体疼痛)、軽度及び重度から中程度の疼痛、痛覚過敏、中枢性感作に関する疼痛、異痛又は癌性疼痛の治療に用いられる、本発明の(rac)−トラマドール・HCl及びセレコキシブの組み合わせを含む本発明の医薬組成物に関する。
従って、本発明は疼痛の治療、好ましくは糖尿病性神経障害、又は糖尿病性末梢神経障害、及び変形性関節症, 線維筋痛症;リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、凍結肩又は坐骨神経痛を含む、急性疼痛、慢性疼痛(急性及び慢性疼痛)、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛(内臓及び/又は身体疼痛)、軽度及び重度から中程度の疼痛、痛覚過敏、中枢性感作に関する疼痛、異痛又は癌性疼痛の治療に用いられる薬剤の製造における、本発明に係る上記の共結晶の使用にも関する。
【0049】
本発明に関する別の態様は、上記の本発明の医薬組成物の疼痛治療用薬剤の製造における使用、好ましくは糖尿病性神経障害、線維筋痛症又は変形性関節症;さらに重度から中程度の疼痛;又リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛及び凍結肩を含む、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚過敏、異痛又は癌性疼痛の治療用薬剤の製造における使用を目的とする。好ましくは、この使用により上記の本発明薬剤又は医薬組成物の形態が提供される。この薬剤は特に、例えば リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛及び凍結肩等の炎症性要素を伴う重度から中程度の疼痛の治療に向けられている。本発明に関する別の態様は、本発明の上記の医薬組成物の疼痛治療用薬剤の製造における使用、好ましくは糖尿病性神経障害、又は糖尿病性末梢神経障害及び変形性関節症、線維筋痛症;リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、凍結肩又は坐骨神経痛を含む、急性疼痛、慢性疼痛(急性及び慢性疼痛)、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛(内臓及び/又は身体疼痛)、軽度及び重度から中程度の疼痛、痛覚過敏、中枢性感作に関する疼痛、異痛又は癌性疼痛の、疼痛治療用薬剤の製造における使用を目的とする。
【0050】
本発明の別の目的は、上記の本発明の(rac)−トラマドール・HCl及びセレコキシブの組み合わせからなる医薬組成物を、治療を必要とする患者に十分な量提供する疼痛の治療方法に関し、好ましくは糖尿病性神経障害、線維筋痛症又は変形性関節症;更に重度から中程度の疼痛;及びリウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛及び凍結肩を含む、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚過敏、異痛又は癌性疼痛の治療方法に関する。
この治療方法は特に、例えばリウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、坐骨神経痛及び凍結肩等の炎症性要素を伴う重度から中程度の疼痛の治療に関する。
本発明の関連する別の目的は、上記の本発明の(rac)−トラマドール・HCl及びセレコキシブの組み合わせからなる医薬組成物を、患者に必要とされる十分な量提供する疼痛の治療方法に向けられ、好ましくは糖尿病性神経障害、又は糖尿病性末梢神経障害及び変形性関節症、線維筋痛症;リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、凍結肩又は坐骨神経痛を含む、急性疼痛、慢性疼痛(急性及び慢性疼痛)、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛(内臓及び/又は身体疼痛)、軽度及び重度から中程度の疼痛、痛覚過敏、中枢性感作に関する疼痛、異痛又は癌性疼痛の治療方法に向けられている。
【0051】
「疼痛」とは、国際疼痛研究協会(IASP)により、「不快な感覚的かつ感情的経験であって、実際のもしくは潜在的な組織損傷に関連した又はかかる損傷に関して記述された経験(IASP, Classification of chronic pain, 第2版, IASP Press (2002), 210)と定義される。疼痛は常に主観的であるが、その原因又は症候群は分類できる。疼痛の亜型を命名する1つの分類は、一般的疼痛症候群を急性及び慢性疼痛の亜型、又は‐疼痛強度により‐軽度、中程度及び重度の疼痛に分け得る。他の定義において、一般的疼痛症候群はまた、(侵害受容器の活性化によって引き起こされる)「侵害受容性」、(神経系の損傷又は機能不全によって引き起こされる)「神経障害性」及び中枢性感作に関する疼痛(中枢性疼痛症候群)に分けられる。
【0052】
「坐骨神経痛」すなわち「坐骨神経炎は、本明細書において、坐骨神経又はその根の過敏に由来する疼痛を含む一群の症状と定義される。
【0053】
「凍結肩」すなわち「癒着性関節包炎」は、本明細書において、肩関節を取り囲む結合組織又は肩関節包(shoulder capsule)そのものが慢性疼痛の原因となり、炎症を起こし硬くなる症状と定義される。
【0054】
「強直性脊椎炎」又は「ベヒテレフ病(Morbus Bechterew)」は、慢性的な炎症性の関節炎であり、自己免疫疾患であり、主に脊椎の関節及び骨盤の仙腸関節(sacroilium)に悪影響を及ぼし、最終的には脊椎の癒着を引き起こす。
【0055】
「中枢性感作に関する疼痛」/「中枢性疼痛症候群」は、本願において、脳、脳幹及び脊髄を含む中枢神経系(CNS)の損傷又は機能障害によって引き起こされる神経学的疾患と定義される。この症候群は、とりわけ、脳卒中、多発性硬化症、腫瘍、てんかん、脳若しくは脊髄の外傷、又はパーキンソン病によって引き起こされることがある。
【0056】
「侵害受容性疼痛」は、侵害受容器の活性化によって引き起こされる疼痛のタイプと定義される。侵害受容性疼痛は、身体及び内臓疼痛に分けられる。「内臓疼痛」は、一般的に器官から生じる疼痛であるのに対し、「(激しい)身体疼痛」は、靭帯、腱、骨、血管、筋膜及び筋肉から生じる。
【0057】
図の簡単な説明:
図1:
A:術後疼痛のラット足切開モデルにおける、トラマドール、セレコキシブ、及びモル比が異なる(1:1、1:3及び3:1)ラセミ体トラマドール塩酸塩及びセレコキシブの様々な組み合わせの抗痛覚過敏効果の用量‐反応曲線。
B:熱過敏における顕著な(p<0.01)相乗的相互作用を示す、イソボログラム分析(isobologram analysis)。全てのデータは、平均値±標準誤差で示してある(投与群につきn=10〜3)。
【0058】
本発明を、下記の図及び実施例を用いて以下に説明する。これらの説明は単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例1
トラマドール塩酸塩及びセレコキシブの投与組成物の調製
(rac)−トラマドール・HCl:セレコキシブのモル比が異なる(1:1、1:3及び3:1)、ラセミ体トラマドール塩酸塩及びセレコキシブの組み合わせを調製した。全ての薬剤及び組み合わせについて、0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース蒸留水溶液中へ溶解させて、ラット1匹につき10ml/kgの投与量で、腹腔(i.p.)経由で投与した。表1に種々の濃度で調製した異なる比率のリストを示す。
【0060】
表1.腹腔経由で投与した各薬剤又は組み合わせの対応用量
【0061】
【表1】

【0062】
ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する効果
この研究の目的は、ラット足切開術後疼痛モデルにおけるトラマドール/セレコキシブの組み合わせから成る組成物の鎮痛効能及び効力を評価すること、特に、モル比が異なる(1:1,1:3,及び3:1)ラセミ体トラマドール塩酸塩とセレコキシブの鎮痛効能及び効力を評価することであった。試験した化合物の効能及び効力の信頼性を評価するために、プランターテスト(plantar test)法 (Hargreaves et al., Pain 1988, 32, 77)を用いて、熱過敏(痛覚過敏)の評価を行なった。
【0063】
実験デザイン:
動物
オスのウィスターラット(120〜160g、ハーラン、イタリア)を、テスト前に少なくとも5日間、室温調節された部屋に収容した。食糧と水をテスト時間まで適宜与えた。
【0064】
動物投与
全てのラットに、ラセミ体トラマドール塩酸塩とセレコキシブとを異なる比率で組み合わせて成る組成物を、蒸留水中0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース懸濁液へ溶解させて、腹腔内に投与した。投与量は10ml/kgであった。次に、動物の抗痛覚過敏 (antihyperalgesic)反応を、組成物投与から60分後に評価した。
【0065】
手術
3%イソフルランを用いてラットを麻酔し、かかとの端から0.5cmの付近からつま先にかけて、足底面の皮膚を貫き筋膜に至る長さ1cmの切開を施した。表面組織(皮膚)及び深部組織(筋肉)の両方と神経を負傷させた。最後に、絹撚の縫合糸(3.0)で足の皮膚を縫い合わせた。
【0066】
ラットにおける術後疼痛の鎮痛作用評価
外科手術(足底切開)4時間後に薬物をテストした;薬物の投与60分後、
【0067】
ラットにおける術後疼痛の熱過敏(痛覚過敏)評価
熱過敏又は痛覚過敏は、個々の足の温度を選択的に上昇させるハーグリーブス(Hargreaves)装置(Ugo Basile プランターテスト)を用いて、熱刺激に対する反応測定により評価した(Dirig, et al., J Neurosci Methods, 1997, 76, 183)。動物を、クリスタル製の床を備えた該装置のメタクリル樹脂製ケージ内に入れた。ケージ内の順応期間はおよそ10分であった。熱刺激は、クリスタル製の床の下を移動するランプから生じ、両足に加えられ、学習行動を避けるために2つの刺激の間に最低1分の間隔をもたせた。ラットは、ランプからくる熱により生じる不快(疼痛)を感じると、自由に足を引き込むことができる;次に、ランプのスイッチを切り、引き込み反応の潜伏時間を秒単位で記録する。動物の足を痛めつけるのを避けるために、ランプのスイッチは32秒後に自動的に切られた。痛覚過敏は、疼痛を伴う刺激に対する反応の増大と定義され、テスト化合物の鎮痛効果は、正常値に向かう潜伏時間の(部分的)回復として観察される (Dirig, et al., J. Pharmacol Expt Therap. 1998, 285, 1031)。
【0068】
相乗効果の分析
トラマドールとセレコキシブの相乗的相互作用はR. J. Tallarida, et al., Life Sci., 1989, 45, 947に開示されたイソボログラム分析(isobologram analysis)によって決定した。この方法には、50%用量レベルにおいて所定の相乗的な抗痛覚過敏効果を生じさせるために必要とされる混合物の総量(すなわち、ED50 又はZt)の決定と、これに対応する単純な加成性により予想される総量(ED50 add 又は Zadd)の決定とが含まれる。特定の固定比率においてZt < Zaddが成立する場合、その組成物は相乗的な抗痛覚過敏効果を有する。ED50tとED50addの値は両方とも任意変数である。ED50tは、各化合物の特定の固定比率の用量‐反応曲線から決定する;ED50addは、個々の薬剤のED50の値から算出する。そして、スチューデントのt検定によりZtをZaddと比較する。
【0069】
結果:
この研究では、ラセミ体トラマドール塩酸塩とセレコキシブとの組み合わせの比率が異なる(1:1、1:3、及び3:1)組成物の用量‐反応曲線が得られた(図1A参照)。熱過敏を評価したとき、全ての薬剤は完全な効能を発揮した。
【0070】
術後疼痛ラットにおいて、ラセミ体トラマドール塩酸塩とセレコキシブとの全ての組み合わせ比率が相乗的な熱痛覚過敏阻害効果を示した。1:1と3:1の組み合わせ比率は、抗痛覚過敏効果を約4倍に大幅に向上させた。1:3の組み合わせ比率は、抗痛覚過敏効果を約1倍向上させた(表2及び図1B参照)。
【0071】
表2.スチューデントのt検定を用いたZt(実験値)とZadd(加成性)の統計的比較分析
【0072】
【表2】

【0073】
結論
ラセミ体トラマドール塩酸塩とセレコキシブとの組み合わせから成る組成物は、ラット足切開術後疼痛モデルの熱痛覚過敏阻害において、相乗的相互作用を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(rac)-トラマドール・HClと、セレコキシブ又は薬学的に許容されるセレコキシブの塩又は水和物との組み合わせからなる医薬組成物。
【請求項2】
前記セレコキシブが中性型である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記(rac)-トラマドール・HClと前記セレコキシブとの比が、モル比で約1:1から約1:300、又は約1:1から約300:1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記(rac)-トラマドール・HClと前記セレコキシブとの分子比が、モル比で約1:1から約1:30、又は約1:1から約30:1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記(rac)-トラマドール・HClと前記セレコキシブとの分子比が、モル比で約1:1から約1:5、又は約1:1から約5:1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、鎮痛薬として使用されるか、又は疼痛の治療、好ましくは糖尿病性神経障害又は糖尿病性末梢神経障害、及び変形性関節症、線維筋痛症;リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、凍結肩、又は坐骨神経痛を含む、急性疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛、軽度及び重度から中程度の疼痛、痛覚過敏、中枢性感作に関する疼痛、異痛又は癌性疼痛の治療に使用される医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2013−507408(P2013−507408A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533530(P2012−533530)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006317
【国際公開番号】WO2011/045075
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(504379198)ラボラトリオス・デル・デエレ・エステベ・エセ・ア (19)
【復代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
【Fターム(参考)】