説明

トランス−1−((1R,3S)−6−クロロ−3−フェニルインダン−1−イル)−3,3−ジメチルピペラジンの製造方法

トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン(式I)およびその塩を製造する方法、ならびに4-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-yl)-1,2,2-トリメチルピペラジン(式IX)およびその塩を製造する類似の方法が記載されており、この方法は、式IVの化合物をそれぞれ、式Iの化合物または式IXの化合物へ転化することを含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン(化合物I)およびその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の対象である化合物(化合物I、トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン)は、一般式(I):
【0003】
【化1】

を有する。
【0004】
化合物Iならびにそのフマル酸塩およびマレイン酸塩を含むその塩、ならびに、例えば統合失調症または精神病性の症状に関するその他の疾患においてこれらを医薬に使用する方法が特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載されているように、化合物Iがドーパミン(DA)D1受容体、DA D2受容体およびアルファ1アドレナリン受容体に対して高い親和性を示すことが本発明者によって見出されている。さらに、化合物Iは、ドーパミンD1およびD2受容体における、ならびにセロトニン5-HT2a 受容体におけるアンタゴニストであることが見出された。さらに特許文献1に記載されているように、化合物IはCYP2D6の比較的弱い阻害剤であり(すなわち薬剤−薬剤相互作用の可能性が低い)、ウサギモデルでのQT間隔においては比較的低い効果を有する(すなわち、ヒトにおいて、薬剤によって誘導されるQT間隔延長の誘導、および致死性不整脈、トルサード・ド・ポワント(TdP)の発症の可能性が低い)。さらに、化合物Iの5-HT2アンタゴニスト活性は、化合物Iの錐体外路系に関する副作用のリスクが比較的低いことを示唆している。
【0006】
上述の特性、例えば、結合試験(アルファ-1、DA D1またはD2受容体を含む)、有効性試験(DA D1もしくはD2受容体、またはセロトニン5-HT2A受容体を含む)、CYP2D6阻害およびQT間隔は、特許文献1に記載されるように測定することができる(特に、PCT/DK04/000546として出願された特許文献1の「実施例」の19〜24頁を参照)。
【0007】
さらに、本発明者は、ハロペリドールに感作させたブタにおいて試験を行った場合に、化合物Iが失調症を誘発しないことを見出しており、これは化合物IがヒトにおいてEPS(錐体外路系症状)応答/易罹病性を有していないことを示唆している。
【0008】
特許文献1には、化合物Iの以下の医薬用途が記載されている:精神疾患、特に統合失調症(例えば、陽性、陰性および/または抑うつ症状)または精神病性の症状に関する他の疾患、例えば統合失調症、統合失調症様障害(Schizophreniform Disorder)、分裂感情障害(Schizoaffective Disorder)、妄想性障害、短期精神病性障害、共有精神病障害、ならびに、精神病性の症状、例えば双極性障害における躁病を示すその他の精神病性障害または疾患、を含む中枢神経系における疾患。化合物Iを不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺、コカイン乱用、ニコチン乱用、アルコール乱用およびその他の乱用障害の治療に使用する方法もまた記載されている。
【0009】
特許文献1に示されているような、化合物Iと構造的に関連する化合物群、すなわち、ピペラジン環の2位および/または3位で置換されている3-アリール-1-(1-ピペラジニル)インダンのトランス異性体が、特許文献2、非特許文献1および非特許文献2に記載されている。例えば、式(I)に対応するがピペラジンにおけるN-水素の代わりにN-メチル基を有する点で異なるエナンチオマー的に純粋な化合物が非特許文献1(表5、化合物(-)-38参照)に開示されている。
【0010】
特許文献1以外の上記文献はいずれも、上述の特定のエナンチオマー体(化合物I)またはその医薬用途については開示していない。化合物Iのラセミ体中におけるトランス異性体のみが、非特許文献1において化合物38の合成における中間体として直接的に開示されているが、化合物Iまたはその対応するラセミ体の医薬用途については記載されていない。中間体としての化合物Iは特許文献3に開示されている。
【特許文献1】国際公開第05/016901号パンフレット(PCT/DK04/000546)
【特許文献2】欧州特許第638073号明細書
【特許文献3】国際公開第05/016900号パンフレット(PCT/DK04/000545)
【非特許文献1】Bogeso et al. in J. Med. Chem., 1995, 38, 4380-4392
【非特許文献2】Klaus P. Bogeso in "Drug Hunting, the Medicinal Chemistry of 1-Piperazino-3-phenylindans and Related Compounds", 1998, ISBN 87-88085-10-4I
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
1つの態様において本発明は、特許文献1に記載される方法と比較した場合に、製造工程の早期にキラリティーが導入される化合物Iの新規の製造方法に関する。1段階早いキラリティーの導入は、後続の段階が、例えば、容積収量、および試薬および溶剤の消費、および浪費の減少に関してより効率的となるために有利である。特許文献1においては、以下のラセミ中間体Vの酵素的なまたはキラルHPLCによる分割によって、キラリティーが導入される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者はこの度、式(I)のエナンチオマーがエナンチオマー的に純粋なIV、すなわち、化合物IVa((S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン、以下参照)から始まる一連の反応を経て得られる合成経路を開発した。従って、この方法においては、式IVの中間体を、例えばキラルクロマトグラフィーによって分割することにより、式IVaのエナンチオマーが得られる。
【0013】
さらに本発明者は、所望でないエナンチオマー(化合物IVb、以下参照)のラセミ化方法を開発し、これによって、このエナンチオマーを分割に再利用することができる。これは、分割の前の段階ならびにそれに続く段階の効率が増加するため、合成全体の効率に多大な影響をもたらすものである。
【0014】
式(I)のエナンチオマーは、以下の段階:
【0015】
【化2】

を含む工程により得ることができる。
【0016】
シアン化ベンジルを適当な溶剤、例えば1,2-ジメトキシエタン(DME)中で、カリウムtert-ブトキシド(t-BuOK)の存在下において、2,5-ジクロロベンゾニトリルと反応させ、さらに、メチルクロロアセテート(MCA)と反応させることにより、自発的な閉環および式(II)の化合物のワンポット形成が起こる。
【0017】
その後、式(II)の化合物を、好適には、酢酸、硫酸および水の混合物中で加熱して、酸加水分解に付すことによって式(III)の化合物が形成され、その後の脱炭酸、例えば、適当な溶剤(例えばトリエチルアミンもしくはN-メチルピロリジン-2-オン(NMP)とトルエン)における式(III)の化合物の加熱による脱炭酸によって、式(IV)の化合物が形成される。
【0018】
【化3】

式(IV)の化合物を分割することにより、さらに化合物Iを合成するための所望のエナンチオマー(式IVa)および所望でないエナンチオマー(式IVb)が得られ、所望でないエナンチオマー(式IVb)はラセミ化および再利用に付すことができる。
【0019】
【化4】

IVの分割は、例えば、キラルクロマトグラフィー、好ましくは液体クロマトグラフィーまたは亜臨界-もしくは超臨界流体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0020】
キラル液体クロマトグラフィーは、例えば、キラル固定相上で、好適には、キラルポリマーを固定化したシリカゲルのカラムで、あるいは、好ましくはキラルポリマー、例えば、修飾セルロールもしくは修飾アミロース(例えば、アミローストリス[(S)-α-メチルベンジルカルバメート])でコーティングされたシリカゲルのカラム、好ましくはアミローストリス[(S)-α-メチルベンジルカルバメート]でコーティングされたシリカゲルのカラムで行うことができる。
【0021】
例えば、アルコール(好ましくはC1-4-アルコール)、ニトリル、エーテルもしくはアルカン(好ましくはC5-10-アルカン)またはこれらの混合物、好適にはエタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、メチルtert-ブチルエーテルもしくはn-ヘプタンまたはこれらの混合物、好ましくはエタノールもしくはn-ヘプタンまたはこれらの混合物のような適当な溶剤が、キラル液体クロマトグラフィーに使用される。酸性または塩基性モディファイヤー、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリエチルアミンまたはN,N-ジエチルアミンを溶離液に添加することができる。
【0022】
亜臨界-もしくは超臨界流体クロマトグラフィーは、例えば、キラル固定相上で、好適には、キラルポリマーを固定化したシリカゲルのカラムで、あるいは、キラルポリマー、例えば、修飾アミロース、例えばアミローストリス[(S)-α-メチルベンジルカルバメート])、または好ましくはアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)でコーティングされたシリカゲルのカラム、最も好ましくはシリカゲル上にアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート) がコーティングされたカラム、または、シリカゲル上に修飾セルロース(例えば、セルローストリス(4-メチルベンゾエート))もしくは好ましくはセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)、最も好ましくはセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)がコーティングされたカラムで行うことができる。3,5-ジニトロベンゾイルテトラヒドロフェナントレンアミンが共有結合しているシリカゲルのカラムに好適なその他のタイプのキラル固定相、例えば、Pirkleタイプカラムを使用してもよい。
【0023】
亜臨界-もしくは超臨界流体クロマトグラフィーのための溶離液として、モディファイヤーを含む亜臨界-もしくは超臨界二酸化炭素、好適には超臨界二酸化炭素を使用することができる。モディファイヤーは、低級アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノールから選択され、あるいは、例えばアセトニトリルを使用してもよい。アミン、例えばジエチルアミン、場合により0.1%ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミンおよびジメチルイソプロピルアミン、および、場合により酸、例えばギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸を添加することができる。
【0024】
本発明の別の実施態様において、モディファイヤーがカラムと適合する限り、モディファイヤーは低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノールから選択され、あるいは例えばアセトニトリルを使用してもよい。
【0025】
キラルクロマトグラフィーは、適当な技術、例えば、擬似移動床技術(SMB)または亜臨界-もしくは超臨界流体技術を用いてスケールアップすることができる(「G. B. Cox (ed.) Preparative Enantioselective Chromatography, Blackwell Publishing Ltd., Oxford, UK, 2005」参照)。
【0026】
式(IVa)の化合物を、溶剤中で、例えば、アルコール(例えばC1-5-アルコール)、例えばエタノールまたはイソプロパノール中で、そして好ましくは、約-30℃〜+30℃の範囲の温度、例えば、30℃以下、20℃以下、10℃以下または好ましくは5℃以下において、例えば複合金属水素化物、例えばホウ化水素を用いて、好適には水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いて、または例えば水素化アルミニウムリチウムを用いて還元することにより、シス配置を有する式(Va)の化合物が形成される。
【0027】
【化5】

式(Va)のシス-アルコールのアルコール基は、好適には、不活性溶剤、例えばエーテル、好適にはテトラヒドロフラン中での、塩化チオニル、メシル(メタンスルホニル)クロリドまたはトシル(4-トルエンスルホニル)クロリドのような試薬との反応により、適当な脱離基、例えば、ハロゲン、例えばClもしくはBr、好ましくはCl、またはスルホネート、例えばメシレート(メタンスルホニレート)またはトシレート(4-トルエンスルホニレート)に転化することができる。得られる化合物は式(VI)(式中、LGは脱離基である)を有する。
【0028】
【化6】

好ましい実施態様において、LGはClであり、すなわち、式(VIa)のシス-クロリドである。
【0029】
【化7】

その後、例えばLGがクロロである化合物VIを、適当な溶剤、例えば、ケトン(例えば、メチルイソブチルケトンまたはメチルエチルケトン)、好ましくはメチルイソブチルケトン中で、塩基、例えば、炭酸カリウムの存在下において、2,2-ジメチルピペラジンと反応させることにより、化合物Iが得られる。
【0030】
あるいは、分子のピペラジン部分は、化合物VIを以下の式(VII)の化合物であって、式中、PGが保護基、例えば、これらに限定はされないがフェニルメトキシカルボニル(多くの場合にCbzまたはZと呼ばれる)、tert-ブチルオキシカルボニル(多くの場合にBOCと呼ばれる)、エトキシカルボニルまたはベンジルである前記の式(VII)の化合物と反応させることにより導入することができ、これによって、以下の式(VIII)の化合物が得られる。引き続いて化合物VIIIの脱保護を行うことにより、化合物Iが得られる。
【0031】
【化8】

本発明の別の実施態様は、以下の式(IX):
【0032】
【化9】

を有する化合物[化合物IX:4-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-1,2,2-トリメチルピペラジン]またはその塩の製造方法に関し、
この方法は、以下:
(i)本発明の方法により、特に化合物IVaから化合物Iを製造すること;および
(ii)好ましくは第二級アミン官能基のメチル化により、好適には、適当な試薬、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサンまたはジエトキシメタン(DEM)を用いる還元アルキル化により、化合物Iを化合物IXに転化すること、
を含む。
【0033】
還元アルキル化という語句は、還元剤、例えばギ酸と組み合わせた上述の試薬を参照する。
【0034】
本発明の別の実施態様は、化合物Iを製造するための本明細書に記載される方法であって、化合物Iを化合物IXと「入れ替えた」前記の方法に関する。
【0035】
化合物IXについては特許文献2において一般的な記載がなされており、式(IX)のエナンチオマーは非特許文献1にフマル酸塩の形態で記載されている(表5、化合物(-)-38参照)。化合物IX、および化合物Iからの化合物IXの製造方法、および化合物IXの塩(特に結晶質コハク酸塩および結晶質マロン酸塩)がさらに、特許文献3に記載されている。
【0036】
上述のように、本発明はまた、本明細書に記載され、化合物Iまたは化合物IXの合成にそれぞれ使用できるように化合物IVbが再利用される化合物Iまたは化合物IXの製造方法に関する(以下の図も参照のこと)。
【0037】
【化10】

驚くべきことに、化合物IVbのラセミ化は、種々のタイプの塩基、例えば、アミド、好ましくはジアルキルアミド、例えば、これらに限定はされないがリチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、または金属ビス-シリルアミド、例えば、アルカリビス(トリメチルシリル)アミド、または金属アルコキシド、例えば、これらに限定はされないが金属メトキシド、金属エトキシド、金属tert-ブトキシド、好適にはアルカリアルコキシド、好ましくはカリウムアルコキシド、最も好ましくはカリウムtert-ブトキシド、またはアルキル金属、好適にはアルキルリチウム、好ましくはブチルリチウムもしくはtert-ブチルリチウムを用いることにより達成できる。反応混合物のクエンチ(quenching)後に、ラセミ体のケトンIVを単離することができる。
【0038】
ラセミ化は2種の異なる塩基を用いても同様に達成することができ;この場合もやはり、異なるタイプの非求核性の塩基、例えば、アミド、好ましくはジアルキルアミド、例えば、これらに限定はされないがリチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、または金属ビス-シリルアミド、例えば、リチウムビス-シリルアミド、好適にはリチウムビス(トリメチルシリル)アミド、または金属アルコキシド、例えば、これらに限定はされないが金属メトキシド、金属エトキシド、金属tert-ブトキシド、好適にはアルカリアルコキシド、好ましくはリチウムアルコキシド、最も好ましくはリチウムtert-ブトキシドを、「先の塩基」(塩基1)として使用することができる。先の塩基(塩基1)をケトンと混合した後に、「後の塩基」(塩基2)を添加する。先の塩基と同様に、種々のタイプの塩基を使用することができる;例えば、アミド、好ましくはジアルキルアミド、例えば、これらに限定はされないがリチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、または金属ビス-シリルアミド、例えば、アルカリビス(トリメチルシリル)アミド、または金属アルコキシド、例えば、これらに限定はされないが金属メトキシド、金属エトキシド、金属tert-ブトキシド、好適にはアルカリアルコキシド、好ましくはカリウムアルコキシド、最も好ましくはカリウムtert-ブトキシド、またはアルキル金属、好適にはアルキルリチウム、好ましくはブチルリチウムもしくはtert-ブチルリチウム。
【0039】
さらに、2種またはそれ以上の異なる塩基を用いて、これら全てをまさに開始時から添加することにより、好ましくは2種の異なる塩基をまさに開始時から添加することにより、ラセミ化を行うことができる。
【0040】
本発明の別の実施態様においては、求核性の塩基を用いることによりラセミ化を達成することができる。
【0041】
あるいは、ラセミアルコールVを特許文献1に記載されるようなキラルクロマトグラフィーにより分割することによって、化合物Iの合成用のVa、およびVbが得られ、Vbは以下の図に示されるように、ラセミ化して分割に再利用することができる。Vbのラセミ化は、VbのIVbへの例えばクロロクロムピリジニウム(PCC)を用いることによる酸化、上記のようなIVbのIVへのラセミ化、およびそれに続く上述のような通常の方法におけるIVのVへの還元によって、達成される。
【0042】
【化11】

10 gスケールでのラセミ化において調べると、副生成物としての不純物はLC-MS(液体クロマトグラフィー−質量分析法)によって検出でき;解析データにより、不純物がIVの二量体および/またはエナンチオマーIVaおよびIVbであることがわかる。解析データからはさらに、製造手順に依存して、二量体が水を排除することが示唆される。多くの労力と時間を費やした研究により、ラセミ化の条件を注意深く選択することによって二量体の形成を大幅に抑制でき、そして生成物を適当な溶剤、例えばアルコール、好ましくはエタノールまたは2-プロパノールから再結晶化させることによって、生成物における二量体の含有量をさらに減少させることができることが示された。
【0043】
化合物Iの合成の間に、化合物Iのシスジアステレオ異性体(すなわち、1-((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン)がいくらか、最終生成物における不純物として形成され得る。この不純物は主に、化合物VIが形成される段階において、(VI)のトランス体(例えば、LGがClである(1S,3R)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン)が一部形成されることに起因する。従って、トランスおよびシス(VI)の混合物から所望の化合物VIのシス体を再結晶化させることによって、不純物を最小限にすることができ;化合物VIのLGがClの場合には、これは、混合物を適当な溶剤、例えばアルカン(C5-10-アルカン)、例えばヘプタンと一緒に撹拌することによって行われ、これによって、所望であるVIのシス体が沈殿し、所望でない化合物VIのトランス体は溶液に含まれるようになる。所望の化合物VI(例えばLGがClの場合)のシス体は、例えば、ろ過により単離し、そして好ましくは、当該溶剤で洗浄し、乾燥する。
【0044】
化合物Iのシス体は、化合物Iの好適な塩、例えば、式(I)の化合物の塩酸塩または有機酸(例えば有機二価酸)の塩、好適にはフマル酸塩またはマレイン酸塩を沈殿させ、場合によっては、引き続き、例えば特許文献1に記載されるように1回またはそれ以上再結晶化させることにより除去することもできる。
【0045】
別の態様において本発明はまた、化合物Iの合成のための本明細書に記載されるような中間体、特に中間体IvaおよびIVbにも関する。これに関して、立体異性の形態を特定する場合には、立体異性体が主要な構成要素であることが理解できる。特に、鏡像異性の形態を特定する場合には、化合物においては当該エナンチオマーがエナンチオマー的に過剰である。
【0046】
従って、本発明の1つの実施態様は、好ましくは、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%のエナンチオマー過剰率(60%のエナンチオマー過剰率は、混合物中における化合物IVaとそのエナンチオマーとの比率が80:20であることを意味する)を有する式(IVa)の化合物に関する。1つの実施態様は、実質的に純粋な化合物IVaに関する。
【0047】
本発明の別の実施態様は、好ましくは少なくとも60%のエナンチオマー過剰率を有する式(IVb)の化合物に関する。
【0048】
別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる化合物Iまたはその塩(例えば、そのHCl、フマル酸塩またはマレイン酸塩)、およびその医薬用途、特に本明細書において開示されるような、例えば、抗精神病薬(例えば統合失調症に対する)としての医薬への適用に関する。本発明の方法により得られる化合物Iまたはその塩の医薬調合物もまた、本発明の範囲内にある。
【0049】
ここでは、特に化合物Iの医薬用途に関しては、式(I)で示されるエナンチオマー体を特定する場合には、該化合物は比較的立体化学的に純粋であり、好ましくはエナンチオマー過剰率は少なくとも60%、少なくとも70%、そしてより好ましくは少なくとも80%(80%のエナンチオマー過剰率は、混合物中におけるIとそのエナンチオマーとの比率が90:10であることを意味する)、少なくとも90%、少なくとも96%、または好ましくは少なくとも98%である。好ましい実施態様において、化合物Iのジアステレオマー過剰率は、少なくとも90%(90%のジアステレオマー純度は、化合物Iとシス-1-((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンとの比率が95:5であることを意味する)、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも98%である。
【0050】
従って、本発明の方法は、化合物Iまたはその塩を医薬調合物に製剤化する段階を含むことができる。化合物(化合物Iの塩または調合物)は、適当な方法、例えば経口、口腔内、舌下または非経口で投与することができ、該化合物または塩は、このような投与に適した形態で、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤または注射用の液剤もしくは分散剤の形態で存在することができる。1つの実施態様において、本発明の化合物または塩は固体の薬剤、好適には錠剤またはカプセル剤の形態で投与される。
【0051】
固体の医薬調合物の製造方法は当業者に公知である。従って、錠剤は活性成分を通常の佐剤、増量剤および希釈剤と混合し、引き続き該混合物を慣用の打錠機において圧縮することにより製造することができる。佐剤、増量剤および希釈剤の例には、トウモロコシデンプン、ラクトース、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、増粘剤(gums)等が含まれる。その他の任意の佐剤、または着色剤、香料、保存料等のような添加剤も、活性成分と適合することを条件として使用することができる。
【0052】
注射用液剤は、本発明の塩および使用可能な添加物を注射用溶剤、好ましくは無菌水の一部に溶解させ、該溶液を所望の容積に調節し、該溶液を滅菌して適当なアンプルまたはバイアルに充填することにより製造することができる。等張化剤、 保存料、酸化防止剤、可溶化剤等のような本技術分野において一般的に使用される適当な添加剤を添加することもできる。
【0053】
上記の式(I)の化合物の1日あたりの用量は、遊離塩基として計算して、好適には1.0〜160 mg/日、より好適には1〜100 mg/日、例えば好ましくは2〜55 mgである。
【0054】
本明細書において疾患または障害に関連して使用される「治療」という語句には、場合によっては予防も含まれる。
【0055】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
<解析方法>
化合物(IV)、(IVa)および(IVb)のエナンチオマー過剰率は、Gilson製のSF3超臨界流体クロマトグラフィーシステムを用いて超臨界流体クロマトグラフィーにより測定し、検出を254nm でGilson 製UV/VIS-831検出器を用いて行う。CHIRALPAK(R) AD-Hカラム(0.46cm ID X 25 cm L)を室温で、以下の条件下で使用する:溶離液:0.1%ジエチルアミンを含むエタノール(30%)をモディファイヤーとして使用し、流速は3 ml/分、そして圧力は200 barである。2種のエナンチオマーの保持時間は2.36分(IVa)および2.99分(IVb)である。あるいは、CHIRALCEL(R) OD-Hカラム(0.46cm ID X 25 cm L)を室温で、以下の条件下で使用する:溶離液:エタノール(30%)をモディファイヤーとして使用し、流速は4 ml/分、そして圧力は200 barである。
【0057】
実施例8における化合物(Va)のエナンチオマー過剰率は、CHIRALPAK(R) AD-Hカラム(0.46cm ID X 25 cm L)を装着したGilson製のSF3超臨界流体クロマトグラフィーシステムを用いて、室温で超臨界流体クロマトグラフィーにより測定する。溶離液:0.1%ジエチルアミンを含むエタノール(30%)をモディファイヤーとして使用し、流速は3 ml/分、そして圧力は200 barである。検出を254nm でGilson 製UV/VIS-831検出器を用いて行う。2種のエナンチオマーの保持時間は2.41分(Va)および3.06分(Vb)である。実施例1aにおける化合物(Va)のエナンチオマー過剰率は、CHIRALCEL(R) ODカラム(0.46cm ID X 25 cm L、10μm)を用いるキラルHPLCにより40℃で測定される。n-ヘキサン/エタノール(95:5,vol/vol)を1.0 ml/分の流速で移動相として使用し、検出を220nm でUV検出器を用いて行う。
【0058】
化合物(I)のエナンチオマー過剰率は、石英ガラスキャピラリー電気泳動(CE)により、以下の条件を用いて測定する:キャピラリー:50μm ID X 48.5 cm L、泳動バッファー:25mMリン酸二水素ナトリウム(pH 1.5)における1.25mMのβシクロデキストリン、電圧:16kV、温度:22℃、注入:40mbar で4秒間、検出:195nmでのカラムダイオードアレイ検出、サンプル濃度:500μg/ml。この系では、化合物Iは約10分の保持時間を有し、他方のエナンチオマーは約11分の保持時間を有する。
【0059】
化合物(IX)のエナンチオマー過剰率は、石英ガラスキャピラリー電気泳動(CE)により、以下の条件を用いて測定する:キャピラリー:50μm ID X 64.5 cm L、泳動バッファー:50mMリン酸二水素ナトリウム(pH 1.5)における3.0 mMのβシクロデキストリンおよび10 mMのヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、電圧:15kV、温度:22℃、注入:40mbar で4秒間、検出:192nmでのカラムダイオードアレイ検出、サンプル濃度:100μg/ml。この系では、化合物IXは約47分の保持時間を有し、エナンチオマーは約46分の保持時間を有する。他の2種のジアステレオ異性体4-((1R,3R)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-イル)-1,2,2-トリメチル-ピペラジンおよび4-((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-イル)-1,2,2-トリメチル-ピペラジンは、それぞれ約49分および約52分の保持時間を有する。
【0060】
1H NMRスペクトルは、Bruker製Avance DRX500装置における500.13 MHzで、またはBruker製AC 250装置における250.13 MHzで記録する。クロロホルム(99.8%D)またはジメチルスルホキシド(99.8%D)を溶剤として使用し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として使用する。
【0061】
化合物IおよびIXのシス/トランス比は、1H NMRを用いて非特許文献1(4388ページ、右の段)に記載されているように測定する。化合物VIaのシス/トランス比は、DMSO-d6における1H NMRにより、シス異性体に関しては5.6 ppmにおけるシグナルの積分を用いて、そしてトランス異性体に関しては5.75 ppmにおけるシグナルの積分を用いて、あるいは、クロロホルムにおける1H NMRにより、シス異性体に関しては5.3 ppmにおけるシグナルの積分を用いて、そしてトランス異性体に関しては5.5 ppmにおけるシグナルの積分を用いて、測定される。一般に、NMRにより約1%の含有量の不要な異性体を検出することができる。
【0062】
融点は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定する。装置は、融点が開始値(onset value)となるように5°/分でキャリブレーションを行ったTA-Instruments製の DSC-Q1000またはTA-instruments製の DSC-2920である。約2 mgのサンプルを窒素流下でゆるく閉めたパンにおいて5°/分で加熱する。
【0063】
元素分析は、C、HおよびN含有量測定用のエレメンタール製Vario EL分析装置を用いて行う。得られる値は、それぞれ約4 mgを用いた2回の測定の平均値である。
【0064】
旋光度は旋光計であるPerkin Elmer製model 241で測定し、特に明記しない限り濃度はメタノール中1%である。
【0065】
LC-MSは、Waters Symmetry C-18カラム(0.46cm ID X 3cm L、3.5μm)を用いて60℃で行う。溶離液は(A)0.05%トリフルオロ酢酸を含む水、ならびに(B)5%の水および0.035%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの勾配である(2分間で90%のAおよび10%のBから100% Bへ;流速3ml/分)。検出を254nmにおいてShimadzu製検出器を用いて行う。マススペクトルは、Sciex製API300マススペクトロメーターによって記録する。
【0066】
<合成>
<重要な出発物質の合成>
「Boges0 J. Med. Chem. 1983, 26, 935」に記載される方法に従って、溶剤としてエタノールを用い、約0℃で反応を行って、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)での還元により、化合物VをIVから合成する。両化合物は非特許文献1に記載されている。化合物IVは、「Sommer et al., J. Org. Chem. 1990, 55, 4822(IIおよびその合成についても記載されている)」に記載される一般的な方法を用いてIIから合成される。
【0067】
<実施例0a キラルクロマトグラフィーの使用による(S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVa)および(R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)の合成>
ラセミ体の6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IV)を、CHIRALPAK(R)AS-Vカラムを用いる分取クロマトグラフィーにより分割する。n-ヘプタン、エタノールおよびN,N-ジエチルアミンの混合物を移動相として使用し、検出はUV検出器を用いて220nmで行う。ラセミ体のケトン(IV)を溶離液中における溶液として注入する;適当な容積の溶液を適当な間隔で注入する。98%を超えるエナンチオマー過剰率を有する化合物(IVa)を含む全ての画分を合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。化合物(IVb)、または化合物(IVa)および(IVb)の混合物を含む全ての画分を合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。
【0068】
<実施例0b (1R,3R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Vb)の酸化によるエナンチオマー的に純粋な(R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)の合成>
実施例1aのように単離した(1R,3R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Vb)(20g)をジクロロメタン(400 ml)に溶解し、クロロクロムピリジニウム(PCC)(26.5g)を添加する。混合物を室温で1.5時間撹拌する。混合物をろ過し、反応槽における油性の残渣をジクロロメタンで洗浄する。有機画分を合わせ、ロータリーエバポレーターで蒸発乾固させることにより、黒色の油状物(25 g)が得られる。酢酸エチル(200 ml)および水酸化ナトリウム(水中において2M、200 ml)を添加する。相を分離し、水性相を酢酸エチル(200 ml)で2回抽出する。有機相を合わせて、水酸化ナトリウム(水中において2M、100 ml)で3回、水(100 ml)で2回、そしてブライン(100 ml)で1回洗浄し、そして最後に硫酸ナトリウムで乾燥する。蒸発乾固させた後、40℃の真空オーブン中で乾燥することにより、15グラムの結晶が得られる。[α]D20-61° (c=1.0、メタノール)。キラル分析において90% ee。
【0069】
<実施例0c (R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)のラセミ化>
ジイソプロピルアミン(5.1 ml)を乾燥テトラヒドロフラン(THF)(50 ml)に溶解し、該溶液をアセトン/ドライアイス浴中で冷却しながら窒素下で撹拌する。ブチルリチウム(ヘキサン中に1.6 M、22.6 ml)をゆっくりと添加し、その後に冷却浴を氷/水浴に交換する。1.5時間撹拌した後に、実施例0bにおいて合成し、乾燥THF(60 ml)に溶解した(R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)を、30分間かけて添加し、冷却浴での撹拌を17分間継続する。その後、カリウムtert-ブトキシド(THF中に1.0 M、28.8 ml)を17分間かけて添加し、撹拌を氷/水浴においてさらに2時間継続する。反応混合物を塩酸(4 M、50 ml)でクエンチし(quenched)、その後、ロータリーエバポレーターにおいてTHFを混合物から除去する。水(200 ml)およびジエチルエーテル(350 ml)を添加し、相を分離する。水性相をジエチルエーテルで2回(200 ml、その後100 ml)抽出する。有機相を合わせて、水(100 ml)で2回、ブライン(100 ml)で1回洗浄し、そして硫酸ナトリウムで乾燥する。ロータリーエバポレーターで蒸発乾固させた後、40℃の真空オーブン中で乾燥することにより、6.70gの赤色固体が得られる。[α]D20-2.34° (c=1.0、メタノール)。生成物はキラル分析において2%のエナンチオマー過剰率を有しており、HPLCにおいて6%の副生成物(本文参照)を含む。そのままの生成物(4.99 g)を無水エタノール(40 ml)から再結晶化させることにより、3.71gの赤色固体が得られる。[α]D20 -0.84° (c=1.0、メタノール)。HPLCにおいて2.6%の副生成物(本文参照)を含む。
【0070】
<実施例1a キラルクロマトグラフィーの使用による(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Va)および(1R,3R)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-オール(Vb)の合成>
ラセミ体のシス-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(V)(492グラム)を、40℃でCHIRALPAK(R) ADカラム(10cm ID X 50cm L, 10μm)を用いる分取クロマトグラフィーにより分割する。メタノールを190 ml/分の流速で移動相として使用し、検出をUV検出器を用いて287nmで行う。ラセミアルコール(V)をメタノールにおける50,000 ppmの溶液として注入する;90 mlを28分の間隔で注入する。98%を超えるエナンチオマー過剰率を有する化合物(Va)を含む全ての画分を合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させ、その後「減圧下」において40℃で乾燥する。収量は固体として220グラムである。元素分析およびNMRは構造と一致し、キラルHPLCにおけるエナンチオマー過剰率は98%より高い、[α]D20 +44.5° (c=1.0、メタノール)。同様に、化合物(Vb)を含む画分を合わせ、蒸発乾固させることにより、214gの(Vb)が得られる。
【0071】
<実施例1b エナンチオマー的に純粋な(IVa)の還元による(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Va)の合成>
(S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVa)を、「Bogeso J. Med. Chem. 1983, 26, 935」に記載される方法に従って、溶剤としてエタノールを用い、約0℃で反応を行って、水素化ホウ素ナトリウムで還元することにより、化合物(Va)が得られる。
【0072】
<実施例2 (1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン(VI, LG=Cl)の合成>
実施例1aに記載されるように得られたシス-(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Va)(204グラム)をTHF(1500ml)に溶解し、-5℃に冷却する。塩化チオニル(119グラム)をTHF(500 ml)における溶液として1時間かけて滴加する。混合物を室温で一晩撹拌する。氷(100 g)を反応混合物に添加する。氷が融解すると水性相(A)および有機相(B)が分離し、有機相Bを飽和重炭酸ナトリウム(200 ml)で2回洗浄する。重炭酸ナトリウム相を水性相Aと合わせ、水酸化ナトリウム(28%)でpH 9に調節し、そして有機相Bをもう一度洗浄するのに使用する。得られた水性相(C)および有機相Bを分離し、水性相Cを酢酸エチルで抽出する。酢酸エチル相を有機相Bと合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させることにより、表題化合物を油状物として得る。収量は240グラムであり、これを実施例5に直接使用する。NMRによるシス/トランス比は77:23。
【0073】
<実施例3 3,3-ジメチルピペラジン-2-オンの合成>
炭酸カリウム(390グラム)およびエチレンジアミン(1001グラム)をトルエン(1.50 L)とともに撹拌する。トルエン(750 ml)におけるエチル2-ブロモイソブチレート(500グラム)の溶液を添加する。懸濁液を一晩加熱還流し、ろ過する。ろ過ケーキをトルエン(500 ml)で洗浄する。ろ過液を合わせ(容積4.0 L)、水浴で加熱し、クライゼン式の装置を用いて0.3 気圧で蒸留する;最初に1200 mlの留出物を35℃(混合物の温度は75℃)で回収する。さらにトルエンを添加し(600 ml)、別に1200 mlの留出物を76℃(混合物の温度は80℃)で回収する。トルエン(750 ml)を再度添加し、1100 mlの留出物を66℃(混合物の温度は71℃)で回収する。混合物を氷浴で撹拌し、接種(seeded)すると生成物が沈殿する。生成物をろ過により単離し、トルエンで洗浄し、50℃の真空オーブンで一晩乾燥する。収量:171 g(52%)の3,3-ジメチルピペラジン-2-オン。NMRは構造と一致する。
【0074】
<実施例4 2,2-ジメチルピペラジンの合成>
3,3-ジメチルピペラジン-2-オン(8.28 kg、64.6 mol)およびテトラヒドロフラン(THF)(60 kg)の混合物を50〜60℃に加熱することにより、わずかに不透明な溶液が得られる。THF(50 kg)を窒素下で撹拌し、LiAlH4(250 g、可溶性のプラスチックバッグにおける)を添加することにより、ガスがゆっくりと発生する。ガスの発生が止んだ後に、さらにLiAlH4を添加すると(全部で3.0 kg, 79.1 molを使用する)、発熱のために温度が22℃から50℃に上昇する。3,3-ジメチルピペラジン-2-オンの溶液を41〜59℃で2時間かけてゆっくりと添加する。懸濁液を59℃(ジャケット温度60℃)でもう1時間撹拌する。混合物を冷却し、温度を25℃以下に維持しながら水(3 L)を2時間かけて添加する(0℃のジャケット温度で冷却する必要がある)。その後、必要な場合には冷却しながら、水酸化ナトリウム(15%、3.50 kg)を23℃で20分間かけて添加する。さらに、水(9 L)を30分間かけて添加し(要冷却)、混合物を窒素下で一晩撹拌する。ろ過剤であるセライト(4 kg)を添加し、混合物をろ過する。ろ過ケーキをTHF(40 kg)で洗浄する。ろ液を合わせて、反応器の温度が800 mbarで70℃(蒸留温度66℃)になるまで反応器において濃縮する。残留物(12.8 kg)をrotavaporにおいて10 Lまでさらに濃縮する。最後に、混合物を大気圧で分別蒸留し、生成物を163-4℃で回収する。収量:5.3 kg (72%)。NMRは構造と一致する。
【0075】
<実施例5 トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジニウム (化合物I)マレイン酸水素塩の合成>
シス-(1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン(VI、LG=Cl)(240 g)をブタン-2-オン(1800 ml)に溶解させる。炭酸カリウム(272 g)および2,2-ジメチルピペラジン(実施例4に記載されるとおりに製造)(113 g)を添加し、該混合物を還流温度で40時間加熱する。反応混合物にジエチルエーテル(2 L)および塩酸(1M, 6 L)を添加する。相を分離し、水性相のpHを濃塩酸で8から1まで下げる。前記水性相を、全ての生成物が水性相にあることを確実にするために再度有機相を洗浄するのに使用する。水酸化ナトリウム(28%)をpHが10になるまで前記水性相に添加し、前記水性相をジエチルエーテル(2 L)で2回抽出する。該ジエチルエーテル抽出物を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、そしてロータリーエバポレータを用いて蒸発乾固させる。油状物として251グラムの表題化合物が得られる。NMRによるシス/トランス比は18:82である。粗製油状物(約20グラム)をさらにシリカゲルにおけるフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/エタノール/トリエチルアミン 90:5:5)によって精製し、引き続き、ロータリーエバポレータにおいて蒸発乾固させる。油状物として12グラムの表題化合物が得られる(NMRによるシス/トランス比は10:90)。該油状物をエタノール(100 ml)に溶解し、この溶液にエタノールにおけるマレイン酸の溶液をpH 3まで添加する。得られる混合物を室温で16時間撹拌し、形成する沈殿物をろ過により回収する。エタノールの容積を減少させ、別のバッチの沈殿物を回収する。3.5グラムの固体の表題化合物(NMRではcis異性体は検出されず)が得られる。CEによるエナンチオマー過剰率は99%を超える。融点は175〜178℃。NMRは構造と一致する。
【0076】
<実施例6 超臨界流体クロマトグラフィーによる6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IV)の分割のための条件の選別>
Gilson製のSF3超臨界流体クロマトグラフィーシステムを用いて、一連のカラムを(IV)の分割能に関して選別する。溶離液:0.1%のジエチルアミンを含む種々の溶剤をモディファイヤー(30%)として使用し、流速は4 ml/分であり、圧力は200 barであり、そしてカラムは室温に維持される。検出はGilson製UV/VIS-831検出器を用いて254nmで行う。2つのエナンチオマーの保持時間(RT1およびRT2)および2つのピークの半分の高さにおける幅(ω1およびω2)をGilson製Unipoint(バージョン3.2)ソフトウェアを用いて計算する。以下の表は、一連のモディファイヤーを用いた個々のカラムに関して計算された分割(Rs)を示す;Rsは以下:
RS = 2(RT2 - RT1)/(ω12)
の式から計算する。
【0077】
【表1】

【0078】
<実施例7 超臨界流体クロマトグラフィーによる6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IV)の分割>
CHIRALPAK(R)AD-H カラム(20 mm ID x 250 mm L、5μm)でBerger Multigram II Prep-SFCシステムを用いて分割を行った。溶離液:エタノールをモディファイヤー(20%)として使用し、流速は50 ml/分であり、圧力は100 barであり、カラムは35℃に維持する。検出をUV検出器を用いて230 nmで行う。画分の回収および減圧にはBergerセパレーターを使用する。装置はSFC Prontoソフトウェアにより制御される。2つのエナンチオマーは3.9分(IVa)および4.8分(IVb)の保持時間を有する。ラセミ体のケトン(IV)をアセトニトリル中の溶液(800 mlのアセトニトリル中に55gの(IV))として注入する;この溶液の500 μlを132秒の間隔で注入する。化合物(IVa)を含む全ての画分を合わせて減圧することにより、エタノール中における(IVa)の溶液が得られ、化合物(IVb)を含む全ての画分を同様に合わせて減圧する。
【0079】
ロータリーエバポレーターにおいて溶液を蒸発させることにより、化合物(IVa)を単離し、残渣を40℃の真空オーブンにおいて乾燥する。収量:25.6 g (47%)の固体。融点:110.8℃、NMRは構造と一致する。[α]D20 +72.65°(c=1.0、メタノール)。C15H11OClに関して算出されたCHN: C 74.23, H 4.57; found: C 74.09, H 4.70。キラル分析においてeeは99%を超える。
【0080】
化合物(IVb)を同じ方法で単離することにより、23.9 g(43%)の固体が得られる。融点は110.6℃であり、NMRは構造と一致する。[α]D20 -70.33(c=1.0、メタノール)。C15H11OClに関して算出されたCHN:C 74.23, H 4.57; found: C 73.79, H 4.70。キラル分析においてeeは99%を超える。
【0081】
<実施例8 エナンチオマー的に純粋な(IVa)の還元による(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Va)の合成>
3〜5℃で、エタノール(160 ml)における水素化ホウ素ナトリウム(1.6 g)の懸濁液に、(S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVa)(実施例7のように単離)(23 g)を少量ずつ添加する。添加が終わった後に、混合物を室温にする。反応混合物を2.75時間撹拌し、その後蒸発乾固させる。残渣を水(150 ml)および酢酸エチル(200 ml)の混合物に溶解し、相を分離し、そして水性相を酢酸エチル(100 ml)で抽出する。有機相を合わせ、水(100 ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、そして蒸発乾固させる。残渣をヘプタン(250 ml)から再結晶化させることにより、20.9 g(90%)の表題化合物が固体として得られる。融点:108.9℃、NMRは構造と一致する。[α]D20+48.30°(c=1.0、メタノール)。C15H13OClに関して算出されたCHN: C 73.62, H 5.35; found: C 73.55, H 5.29。キラル分析においてeeは99%を超える。
【0082】
<実施例9 (1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン(VI, LG=Cl)の合成>
テトラヒドロフラン(130 ml)における(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Va)(17 g)(実施例8のように合成した)の溶液を氷浴で冷却する。テトラヒドロフラン(50 ml)における塩化チオニル(9.9 g)を4〜5℃で滴加し、その後、混合物を一晩常温で撹拌する。水および氷の混合物(約25 ml)を添加し、全ての氷が融解するまで撹拌を継続する。相を分離し、有機相を重炭酸ナトリウム(水中において5%、25 ml)で2回洗浄する。その後、水性相を合わせ、有機相で抽出し、酢酸エチル(50 ml)で抽出する。その後、有機相を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、そしてロータリーエバポレーターを用いて蒸留乾固させる。収量:部分的に固化した油状物としての表題化合物を18.7 g(102%)。NMRにおける(1S,3R)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダンの含有量は18%である。
【0083】
<実施例10 トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン(化合物I)の合成>
(1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン(VI, LG=Cl)(18 g)(実施例9のように合成)、炭酸カリウム(20.8 g)、2,2-ジメチルピペラジン、およびメチルエチルケトン(135 ml)の混合物を一晩加熱還流する。室温に冷却後、ジエチルエーテル(150 ml)および塩酸(1 M、450 ml)を添加し、混合物を数分間撹拌する。相を分離し、水性相のpHを水酸化ナトリウム(28%)を用いて1から12に調節する。水性相をジエチルエーテルで抽出する(170 mlで2回)。全ての有機相を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、そしてロータリーエバポレーターを用いて蒸発させる。収量:油状物としての表題化合物を20.7 g(89%)。NMRにおけるシス異性体の含有量は19%である。
【0084】
<実施例11 トランス-4-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-1,2,2-トリメチルピペラジニウム(IX)フマル酸水素塩の合成>
トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン(I、実施例10のように合成した)を、ギ酸(15.2 ml)およびホルムアルデヒド(水中において37%、12.5 ml)とともに撹拌し、油浴(温度110℃)において1.5時間加熱する。室温に冷却後、反応混合物に水を添加し、水酸化ナトリウム(28%)でpHを約14に調節する。生成物をジエチルエーテルで、その後酢酸エチルで抽出し、pHが12未満になった場合には、水酸化ナトリウム(28%)を抽出の間に添加する。有機相を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、そしてロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。収量:油状物として(IX)を10.9 g(100%)、NMRにおいてシス体を20%含む。
【0085】
該油状物(10 g)を1-プロパノール(150 ml)とともに加熱することにより、溶液が得られる。フマル酸(3.3 g)を添加し、全てが溶解するまで加熱を続ける。混合物を室温に冷却し、接種することにより、生成物が沈殿する。固体をろ過により単離し、少量の1-プロパノールで洗浄し、そして40℃の真空オーブン中で乾燥する。収量:6.85 g (52%)。融点は193.3℃であり、NMRは構造と一致する。[α]D20 -15.2°(c=1.0、メタノール)。 CEにおいて4%のシス体を含み、他の2種のジアステレオ異性体は検出されない(すなわち、含有量が1%以下)。C26H31N2O4Clに関して算出されたCHN: C 66.30, H 6.63, N 5.95; found: C 65.96, H 6.61, N 5.57。CEにおいてeeは98%を超える。
【0086】
<実施例12 (1R,3R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール(Vb)の酸化によるエナンチオマー的に純粋な (R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)の合成>
ジクロロメタン(840 ml)における(1R,3R)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-オール(Vb)(実施例1aのように単離した)(50.0 g)の溶液に、クロロクロムピリジニウム(66.1 g)を添加し、混合物を常温で2時間撹拌する。混合物をろ過し、容器中の残渣をジクロロメタン(200 ml)で2回洗浄し、ジクロロメタンはろ過ケーキの洗浄にも同様に使用する。ろ液を合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。残渣を水酸化ナトリウム(2 M, 1 L)および酢酸エチル(750 ml)とともに0.5時間撹拌する。相を分離し、水性相を酢酸エチル(500 ml)で抽出する。有機相を合わせて水酸化ナトリウム(2 M、250 ml)で2回洗浄し、そして25%塩化ナトリウム(250 ml)で洗浄する。その後、有機相を硫酸マグネシウム(60 g)、炭(1.4 g)およびシリカゲル60(0.06〜0.2 mm、5 g)とともに撹拌し、ろ過し、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。残渣(31.5 g)を2-プロパノール(125 ml)から再結晶化させ;生成物をろ過により単離し、2-プロパノール(40 ml)で洗浄する。50℃の真空オーブンにおいて乾燥することにより、26.0 g(53 %)の生成物が固体として得られる。融点は110.8℃であり、NMRは構造と一致する。[α]D20-75.6°(c=1.0、メタノール)。C15H11OClに関して算出されたCHN: C 74.23, H 4.57, N 0.00; found: C 73.89, H 4.71, N 0.05。キラル分析におけるeeは99.2%を超える。
【0087】
反応を2回繰り返すことにより、それぞれ、99.6%のeeを有する生成物が48 g、および98.9%のeeを有する生成物が48 g得られる。
【0088】
<実施例13 (R)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-オン(IVb)のラセミ化のための塩基の選別>
使用した塩基は、Aldrich製のブチルリチウム(BuLi)(カタログ番号18,617-1)、tert-ブチルリチウム(tBuLi)(カタログ番号18,619-8)、カリウムtert-ブトキシド(KOtBu)(カタログ番号32,865-0)、リチウムtert-ブトキシド(LiOtBu)(カタログ番号398195)、ナトリウムtert-ブトキシド(NaOtBu)(カタログ番号35,927-0)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)(カタログ番号225770)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)(カタログ番号24,558-5)、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド(KHMDS)(324671)である。リチウムジイソプロピルアミドは、ジイソプロピルアミン(Sigma-Aldrich製、カタログ番号386464)およびBuLiから各実験の直前に調製した。
【0089】
以下の方法は、各実験に関して代表的なものであり、LDAの使用および2種の異なる塩基の使用を例証するものである:
ジイソプロピルアミン(437μl)およびテトラヒドロフラン(THF)(4 ml)の混合物を窒素下で撹拌し、1回分のドライアイスおよびアセトンで冷却する。ブチルリチウム(BuLi)(ヘキサンにおける1.6 M、1.60 ml)を5分かけて添加する。撹拌を10分間継続し、その後、冷却槽を氷-水浴に取り替える。さらに10分間撹拌した後、LDA (「先の塩基」、塩基1)の溶液にTHF(4 ml)における(R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オンの溶液(IVb)(実施例12のように合成)(0.50 g)を5分間かけて滴加し、水-氷浴での撹拌を0.5時間続ける。その後、BuLi(ヘキサンにおいて1.6 M)(1.61 ml)(「後の塩基」、塩基2)を5分間かけて滴加し、その後、水-氷浴での撹拌を2.5時間継続し、そして塩酸(4 M、4 ml)を添加する。10分間撹拌した後、相を分離し、水性相を酢酸エチルで抽出する(10 mlで2回)。有機相を合わせ塩化ナトリウム(25 %、10 ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、そしてロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。収量:0.47g(94 %)の油状物。化学的純度はLC-MSにおいて83%であり、エナンチオマー過剰率はキラル分析において1%である。
【0090】
以下の表に得られた結果を示す:
【0091】
【表2】

1)全てを混合した後に0℃で撹拌した時間を示す。
2)エナンチオマー過剰率;負の符号は、IVaが過剰であり、サンプル中における不純物が分析の妨げとなっていることを示す。
3)LDAは2.50当量のジイソプロピルアミンおよび2.25当量のBuLiを用いて調製される。
4)LDAは1.50当量のジイソプロピルアミンおよび1.25当量のBuLiを用いて調製される。
5)LDAは1.25当量のジイソプロピルアミンおよび1.50当量のBuLiを用いて調製される。
6)これらの実験において、BuLiは全て(塩基2として示される量も)化合物IVbを添加する前に実験の始めから添加される。
【0092】
<実施例14 (R)-6-クロロ-3-フェニル-インダン-1-オン(IVb)のラセミ化のスケールアップ>
使用した塩基は実施例13におけるものと同一である。
【0093】
代表的な方法は以下のとおりである:
ジイソプロピルアミン(6.25 g)をテトラヒドロフラン(THF)(160 ml)に溶解し、混合物を窒素下で撹拌しながらドライアイス/アセトン浴で冷却する。温度を-60℃以下に維持しながらブチルリチウム(ヘキサンにおいて1.6 M、33 ml)をゆっくりと添加する。ドライアイス/アセトン浴で5分間撹拌を継続し、その後これを氷/水浴と交換する。混合物を-10〜0℃で10分間撹拌し、その後、温度を5℃以下に保ちながらTHF(80 ml)における(R)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オン(IVb)(実施例12のように合成)(10.0 g)の溶液をゆっくりと添加する。約0.5時間撹拌後、温度を5℃以下にに保ちながらブチルリチウム(ヘキサンにおける1.6 M、33 ml)をゆっくりと添加する。0〜5℃で2.5時間撹拌後、塩酸(4 M、100 ml)をゆっくりと添加する。相を分離し、水性相を酢酸エチル(100 ml)で2回抽出する。有機相を25%塩化ナトリウム(100 ml)で洗浄し、硫酸マグネシウム(26 g)、炭(1 g)、およびシリカゲル(2.6 g)で10分間撹拌する。ろ過後、有機相をロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させる。残渣を2-プロパノール(40 ml)から再結晶化させる。生成物をろ過により単離し、氷冷2-プロパノール(20 ml)で洗浄し、50℃の真空オーブンで一晩乾燥する。収量:5.85 g(60 %)。融点は95.2℃であり、NMRは構造と一致する。[α]D20 -1.1°(c=1.0、メタノール)。C15H11OClに関して算出されたCHN:C 74.23, H 4.57; found: C 74.29, H 4.62。キラル分析によるeeは-1.0 %。純度はLC-MSにおいて97%である。
【0094】
結果を以下の表に示す:
【0095】
【表3】

1) 全てを混合した後に0℃で撹拌した時間を示す。
2) エナンチオマー過剰率;負の符号は、IVaが過剰であることを示す。
3) LDAは2.50当量のジイソプロピルアミンおよび2.25当量のBuLiを用いて調製される。
4) LDAは1.50当量のジイソプロピルアミンおよび1.25当量のBuLiを用いて調製される。
5) LDAは1.25当量のジイソプロピルアミンおよび1.50当量のBuLiを用いて調製される。
6) これらの実験において、BuLiは全て(塩基2として示される量も)化合物IVbを添加する前に実験の始めから添加され;すなわち、1.25当量のジイソプロピルアミンおよび全部で2.50当量のBuLiを使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物(化合物I)またはその塩の製造方法であって、この方法が、式IVaの化合物(化合物IVa)を式Iの化合物へ転化することを含み、式IおよびIVaが以下:
【化1】

で表される、前記の製造方法。
【請求項2】
式IVaの化合物を対応するシス配置のアルコールVaへ転化することを含み、IVaおよびVaが以下:
【化2】

で表される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式Vaのシス-アルコールのアルコール基を脱離基LGへ転化して、式VI
【化3】

で表される化合物を得ることを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
LGがハロゲン、例えばClまたはBr、好ましくはClであるか、またはスルホネート、例えば、トシレートまたはメシレートである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
化合物VIを適当な溶剤から沈殿させる、請求項3または4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
LGがハロゲン、例えばClであり、溶剤がアルカン、例えばヘプタンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
化合物VIを2,2-ジメチルピペラジンと反応させることによって化合物Iが得られる、請求項3〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
化合物Iを塩として沈殿させる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
形成される塩が化合物Iのフマル酸塩、マレイン酸塩または塩酸塩である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
化合物Iを遊離塩基として単離する、請求項7記載の方法。
【請求項11】
以下:
− 化合物VIを、PGが保護基である1-保護2,2-ジメチルピペラジン(VII)と反応させることにより式VIIIの化合物を得ること;および
− 化合物VIIIの脱保護を行うことにより化合物Iを得ること、
を含み、化合物VIIおよびVIIIが以下:
【化4】

で表される、請求項3〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
化合物IVaがキラルクロマトグラフィーを用いるラセミ化合物IVの分割によって得られる、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記のキラルクロマトグラフィーがキラル液体クロマトグラフィーを用いて行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記のキラルクロマトグラフィーがキラル固定相で行われる、請求項12または13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記のキラルクロマトグラフィーが修飾アミロースでコーティングされたシリカゲルのカラムで行われる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記のキラルクロマトグラフィーがアミローストリス-[(S)-α-メチルベンジルカルバメート]でコーティングされたシリカゲルのカラムで行われる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記のキラルクロマトグラフィーに、n-ヘプタンおよびエタノール、および場合によりN,N-ジエチルアミンの混合物を含む溶剤が使用される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記のキラルクロマトグラフィーが亜臨界-もしくは超臨界流体クロマトグラフィー、好ましくは超臨界流体クロマトグラフィーを用いて行われる、請求項12記載の方法。
【請求項19】
前記のキラルクロマトグラフィーがキラル固定相で行われる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記のキラルクロマトグラフィーがキラルポリマーでコーティングされたシリカゲルのカラムで、またはキラルポリマーが固定化されたシリカゲルのカラムで、またはキラルモノマーが共有結合したシリカゲルのカラムで行われる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記のキラルクロマトグラフィーがアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)もしくはアミローストリス[(S)-α-メチルベンジルカルバメート]でコーティングされたシリカゲルのカラムで、またはアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)が固定化されたシリカゲルのカラムで、またはセルローストリス (3,5-ジメチルフェニルカルバメート)もしくはセルローストリス(4-メチルベンゾエート)でコーティングされたシリカゲルのカラムで、または3,5-ジニトロベンゾイルテトラヒドロフェナントレンアミンが共有結合したシリカゲルのカラムで行われる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記のキラルクロマトグラフィーがアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)でコーティングされたシリカゲルのカラムで行われる、請求項20または21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
前記のキラルクロマトグラフィーが、場合によりジエチルアミン、場合により0.1%のジエチルアミンを含むメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトニトリルからなる群から選択されるモディファイヤーを用いて行われる、請求項20〜22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
エナンチオマー的に富化された化合物IVbを実質的にラセミ体の化合物IVに転化することによって化合物IVbを再利用することを含み、IVbおよびIVが以下:
【化5】

で表される、請求項1〜23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
塩基、または2種またはそれ以上の塩基の混合物を用いることによりラセミ化が達成される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
1当量またはそれ以上の非求核性塩基(「先の塩基」)を使用し、それに続いて触媒量のまたは1当量もしくはそれ以上の同一または別の塩基(「後の塩基」)を添加することによってラセミ化が達成される、請求項24または25のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
エナンチオマー的に富化された化合物IVbを実質的にラセミ体の化合物IVに転化する方法であって、IVbおよびIVが以下:
【化6】

で表され、1当量またはそれ以上の非求核性塩基を使用し、それに続いて触媒量のまたは1当量もしくはそれ以上の同一または別の塩基を添加することによってラセミ化が達成される、前記の方法。
【請求項28】
アミド、好ましくはジアルキルアミド、例えば、これらに限定はされないがリチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、または金属ビス-シリルアミド、例えば、リチウムビス-シリルアミド、好適にはリチウムビス(トリメチルシリル)アミド、および、金属アルコキシド、例えば、これらに限定はされないが金属メトキシド、金属エトキシド、金属tert-ブトキシド、好適にはアルカリアルコキシド、好ましくはリチウムアルコキシド、最も好ましくはリチウムtert-ブトキシドからなる群から選択される1当量またはそれ以上の非求核性塩基(「先の塩基」)を使用し、それに続いて、アミド、好ましくはジアルキルアミド、例えば、これらに限定はされないがリチウムジエチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジド、好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、または金属ビス-シリルアミド、例えば、アルカリビス(トリメチルシリル)アミド、および、金属アルコキシド、例えば、これらに限定はされないが金属メトキシド、金属エトキシド、金属tert-ブトキシド、好適にはアルカリアルコキシド、好ましくはカリウムアルコキシド、最も好ましくはカリウムtert-ブトキシド、およびアルキル金属、好適にはアルキルリチウム、好ましくはブチルリチウムもしくはtert-ブチルリチウム、またはこれらの混合物からなる群から選択される触媒量のまたは1当量もしくはそれ以上の同一または別の塩基(「後の塩基」)を添加することによってラセミ化が達成される、請求項26または27のいずれか1つに記載の方法。
【請求項29】
非求核性塩基(「先の塩基」)がリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)およびリチウムtert-ブトキシドからなる群から選択される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
「後の塩基」がリチウムジイソプロピルアミド(LDA)、カリウムtert-ブトキシド、ブチルリチウムおよびtert-ブチルリチウムからなる群から選択される、請求項28記載の方法。
【請求項31】
「先の塩基」および「後の塩基」が開始時から存在する、請求項24〜26または請求項27〜30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
実質的にラセミ体の生成物(IV)を適当な溶剤、例えば、アルコール(例えばC1-6-アルコール)、例えばエタノールまたは2-プロパノール、またはこれらの混合物から再結晶化させる、請求項24〜31のいずれか1つに記載の方法。
【請求項33】
以下の構造:
【化7】

を有する化合物(IVa)。
【請求項34】
以下の構造:
【化8】

を有する化合物(IVb)。
【請求項35】
実質的に純粋である、請求項33または34に定義される化合物。
【請求項36】
化合物Iを化合物IXと入れ替え、化合物IXが式:
【化9】

を有する、請求項1〜8または請求項11〜32のいずれか1つに記載の方法。
【請求項37】
化合物IXを、化合物IXのコハク酸塩またはマロン酸塩として沈殿させる、請求項36記載の方法。
【請求項38】
化合物IXを、結晶質のコハク酸塩または結晶質のマロン酸塩として沈殿させる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記の塩を医薬調合物に製剤化する、請求項38記載の方法。

【公表番号】特表2008−530038(P2008−530038A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554424(P2007−554424)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000086
【国際公開番号】WO2006/086984
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】