説明

トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法

【課題】
本発明は各種工業用基材の原料、医薬品として有用なトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを、高収率、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
トランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを、触媒存在下で、高圧水素を用いた水素化反応を行うことにより、効率よく水素化反応が進行し、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを高選択率で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関わるトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールは、他のシクロヘキサンジメタノール類と同様にポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの各種工業用基材の原料として有用である。また、医薬品中間体としても有用であることが知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを製造する方法としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化化合物を用い、有機溶媒中で1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを水素化する方法が知られている(特許文献2、非特許文献2)。しかし、この水素化化合物は、禁水性、発火性で取り扱いに注意を要するため、工業的に好まれない場合がある。また水素化化合物は高価であること、更に水素化反応時の副生成物の後処理や製品の精製工程が煩雑なることから、コストの面で工業的に有利な方法ではない。
【0004】
一方、水素化化合物を用いず、高圧水素を用いる水素化反応で1,3−シクロヘキサンジメタノール又は1,4−シクロヘキサンジメタノールは、対応するシクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルから収率よく、かつ工業的に有利に製造する方法が知られている(特許文献3〜7)。しかしこれら公知文献には、高圧水素を用いる水素化反応でトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを製造する方法については具体的な開示はされていない。
【0005】
【特許文献1】特開平5-17440号公報
【特許文献2】特開2005−272335号公報
【特許文献3】特開2000−001447号公報
【特許文献4】特開平7−196558号公報
【特許文献5】特開平7−188079号公報
【特許文献6】特開2005−007595号公報
【特許文献7】国際公開第WO1998/000383号パンフレット
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,58,7(1993)
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society,75,4780(1953)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを、高純度、高収率、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法の開発過程において、次の知見を得た。
【0008】
(1)
1、3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを、高圧水素を用いて水素化反応を行うことにより、それぞれ対応するシクロヘキサンジメタノールが得られることが知られている。しかし、この公知の反応方法と同様の条件で1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルのシス体、又はトランス体含有率が低いシス/トランス異性体混合物の水素化反応を行っても、反応性が悪いことから、収率良く目的とする1,2−シクロヘキサンジメタノール得ることは困難であり、更にトランス体を選択的に得ることが困難であること。
(2)
水素化原料としてトランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを用いた高圧水素を用いた水素化反応は、高転化率、高選択率で進行し、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールが効率よく得られること。
【0009】
即ち、本発明は係る知見に基づき完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0010】
(項1)
トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法であって、トランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを触媒の存在下で水素化反応を行うトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【0011】
(項2)
水素化反応を、銅系触媒存在下で反応温度180〜280℃、反応圧力10〜30MPaの反応条件下で行う(項1)記載の製造方法。
【0012】
(項3)
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルが、異性化反応を経由して得られたものである(項1)又は(項2)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高収率/高選択率で各種工業用基材の原料又は、医薬品中間体として有用なトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを工業的に有利な製造方法で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[水素化反応原料]
本発明に係る、水素化反応原料の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルは、トランス体含有量が80%以上のエステル化合物である。
尚、本明細書及び特許請求の範囲における、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル及び1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体含有量とは、該1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル及び1,2−シクロヘキサンジメタノールのシス−トランス異性体中のトランス体の比率を表す。
上記シス−トランス異性体の比率は、各種機器分析で測定することが可能である。例えばガスクロマトグラフィー分析(以下GC分析と略す。測定条件は後述の実施例で示す。)を用いる場合、観測される1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルのトランス体に帰属されるピークの面積とシス体に帰属されるピークの面積から、シス−トランス異性体中のトランス体の比率を求めることができる。
【0015】
上記1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルは、エステル基中のアルキル鎖の炭素数が1〜9、好ましくは1〜3、特に好ましくは1のエステル化合物である。1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルとして具体的には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジエチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−プロピルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソプロピルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−ブチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソブチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−ヘキシルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−オクチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル等が例示され、なかでも1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルが好ましい。
【0016】
本発明に係る1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルは市販品を使用してもよく、或いは公知方法に従って製造することもできる。
上記、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルは高純度品であることが好ましく、その純度は90%以上が好ましく、95以上がより好ましく、98%以上が特に好ましい。
上記、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルは、水素化反応における触媒被毒物が少ないものが好ましく、触媒被毒物としては硫黄、リン、ハロゲン化合物などが例示される。また、純度が低いもの又は触媒被毒物を含有する場合は、例えば蒸留、再結晶、吸着処理、カラム分離、溶媒抽出などの公知の方法で精製して使用してもよい。
【0017】
上記トランス体含有量80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルの好ましいトランス体含有量は84%以上であり、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であって、トランス体含有量を増加させることで、本エステルを原料として用いた水素化反応は、高い転化率で反応が進行し、水素化反応における1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体選択率も高い。
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルのトランス体含有量を増加させる方法としては、異性化反応、精留、再結晶、カラム分離、溶媒抽出などの方法が例示され、これらの方法で、若しくは必要に応じてこれらの方法を組み合わせて本エステルのトランス体含有量を高めることが可能である。
【0018】
上記の方法のうち、例えば異性化反応は、異性化触媒存在下、加熱攪拌を行うことにより異性化が進行し、トランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを効率よく得ることができる方法である。
【0019】
上記異性化反応触媒としては、公知の塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルコキシド類;リチウム、カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、及びメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N、N−ジイソプロピルエチルアミン、エチレンジアミン等のアミン類が例示される。これらの塩基性化合物は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
上記塩基性化合物のなかでも異性化反応触媒としてはアルコキシド類が好ましく、アルコキシド類のなかでも、コストや後処理行程の簡便さの観点からナトリウムメトキシドの使用が好ましい。
【0020】
異性化反応触媒の使用量は適宜選択できるが、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル100重量部に対して、0.001〜1重量部用いられる。
【0021】
異性化反応の反応温度は、通常、80〜280℃であり、100〜160℃が好ましい。80℃より低い場合には反応速度が遅く、280℃より高い場合には反応分解物の副生があり収率が低下する場合がある。
【0022】
異性化反応は、溶媒存在下でも無溶媒でも実施可能であるが、反応性及び反応後の精製工程の容易さの観点から無溶媒で実施することが好ましい。
溶媒を用いる場合、溶媒は異性化反応原料である1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを溶解し、異性化反応に不活性なものであれば特に限定されない。
【0023】
上記溶媒としては、具体的には、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、トリメチルベンゼン、アルキル(炭素数6〜14)ベンゼン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素系溶媒が例示される。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
異性化反応時間は、触媒の使用量や上記の反応条件によっても異なるが、トランス体含有量80%以上になるまで反応を行うことが好ましい。反応時間としては通常0.5〜15時間程度、好ましくは1〜10時間程度、特に好ましくは1〜5時間程度である。0.5時間未満では高い転化率が得られにくく、一方15時間を超えると副反応が起こり、収率が低下する場合がある。
【0025】
[水素化反応条件]
本発明の水素化反応に用いられる触媒は、エステルの水素化反応に用いられる金属系触媒であり、反応性やコストの観点から銅系触媒が好ましい。かかる触媒としては、銅−亜鉛−アルミニウム酸化物触媒、銅−クロム酸化物触媒、並びにこれらの触媒にマグネシウム、バリウム、カルシウム及びこれらの酸化物を添加した変性触媒が例示される。これらの触媒は1種又は2種以上を適宜組み合わせて反応に用いることができる。これらの触媒の製造方法は、特に限定されず公知の方法により製造できる。
【0026】
上記水素化反応触媒の使用量は水素化反応原料のジエステルに対して0.01〜10重量%が推奨され、特に0.05〜5重量%が好ましい。0.01重量%未満では反応速度が非常に遅く、10重量%を越えると添加量に見合った反応速度が得られず合理的ではない。
【0027】
上記水素化反応触媒の形態は、特に限定されず、選択される反応方式に応じて粉末状触媒やタブレット状触媒など適宜選択して使用することができる。回分或いは連続の懸濁床反応には粉末触媒が好適に使用される。
【0028】
上記水素化反応触媒は、粉末状触媒のサイズは特に限定されず任意の粒度分布のものが使用される。
【0029】
本発明の水素化反応は、溶媒を用いなくても実施できるが、原料の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルの融点が高くて取り扱いが煩雑な場合や反応熱の除去を容易にするためには、溶媒を使用することもできる。
【0030】
上記溶媒としては、水素化反応に悪影響を与えない限り特に限定されず、通常水素化反応に用いられる溶媒を使用することができる。反応溶媒の使用量は、適宜選択される。
【0031】
本発明の水素化反応温度としては、通常180〜280℃であって、200〜250℃がより好ましい。反応温度が180℃未満では転化率が低く、一方、250℃を超える温度では、副反応が増加する傾向が見られる。
【0032】
反応圧力は、ゲージ圧力として10〜30MPaが好ましく、15〜25MPaがより好ましい。10MPa未満の場合には転化率が低く、一方、30MPaを超える場合には、効果が少ない割に建造費が高価で、管理も難しい。
【0033】
本発明の水素化反応は、回分反応、連続反応、いずれの反応方式も用いることができる。
【0034】
本発明の水素化反応は、固定床型反応器、懸濁床型反応器、いずれの反応器を用いて行なうことができるが、懸濁床型反応器を用いて行うことが好ましい。懸濁床型反応器としては懸濁床気泡塔型反応器及び、懸濁床攪拌機反応器等が例示される。懸濁床気泡塔型反応器は、懸濁床攪拌機反応器と比べて攪拌機の軸シール等の問題が無く容器のメンテナンスが容易である上、建造費が安価で、大量生産に好適な装置である。
【0035】
反応時間は、生産性の観点から短いほうが好ましいが、製品品質や後処理工程(蒸留工程)の負荷を考慮した場合、転化率90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上を達成するまで水素化反応を行うことが好ましい。
水素化反応が連続反応方式の場合平均滞留時間で、0.5〜10時間程度が好ましく1〜5時間程度がより好ましい。平均滞留時間が短い場合には転化率が低くなる傾向が見られる。
水素化反応が回文反応方式の場合反応時間は通常0.5〜15時間程度であり、1〜10時間程度が好ましい。反応時間が短い場合には転化率が低くなる傾向が見られる。
【0036】
水素化反応が連続反応方式の場合、水素ガス線速度としては、1〜20cm/秒が好ましく、より好ましくは3〜4cm/秒である。1cm/秒未満では転化率が低く、一方、20cm/秒を超える場合は、触媒が高濃度になりすぎる傾向が見られる。
【0037】
本発明の水素化反応における、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの選択率は下記計算式(一)で表される。
水素化反応トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノール選択率
=(A/水素化反応原料転化率)*100(%)・・・(一)
[A=反応生成液のトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノール(GC面積%)]
【0038】
水素化反応原料としてトランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを用いた場合、水素化反応のトランス体選択率は通常65%以上であって、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく80%以上であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の水素化反応によって得られる1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体含有量は下記計算式(二)で表される。
水素化反応生成物トランス体含有量=(A/(A+B))*100・・・(二)
[A=反応生成液中のトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノール(GC面積%)
B=反応生成液中のシス−1,2−シクロヘキサンジメタノール(GC面積%)]
【0040】
水素化反応原料としてトランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを用いた場合、得られる1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体含有量は通常70%以上であって、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。
【0041】
本発明の水素化反応で得られるトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールは必要に応じて精留、再結晶、カラム分離、溶媒抽出など公知の精製方法を用いることで、未反応原料、反応時に副生するアルコール及びその他副生成物が除去され、更に高純度なトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールを得ることができる。
また、精留を行う際、必要に応じて吸着剤を用いて吸着処理を行い蒸留原料中の不純物(微量金属成分)含有量を低減させることができる。該吸着処理を行った蒸留原料を用いると蒸留操作時の副反応物の発生が抑制される。
【0042】
具体的な反応方式としては、例えば、後述の図面(図1)に示すような懸濁床気泡塔型反応器を用いたプロセスが例示されるが、本発明はこのプロセスに限定されるものではない。
【0043】
図1において、円筒形の反応器1の下部には水素導入管2、並びに触媒及び1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの懸濁液(以下、「原料懸濁液」という。)導入管3が配設されている。水素導入管からフィルタ−を介して反応溶液中に水素気泡を噴出する構造となっている。この装置では、水素ガス、生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノール及び触媒(以下、「生成物懸濁液」という。)は反応塔上部の排出管4から気液分離器5に排出され、水素ガスと生成物懸濁液に分離される。更に、生成物懸濁液は濾過器6で触媒と1,2−シクロヘキサンジメタノールに濾別される。濾過器としては、フンダー型濾過器等の通常当該分野で使用されている慣用の装置を用いることができる。ここで、触媒及び回収水素ガスは、廃棄又は循環再使用することができ、コストの面からは再使用することが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0045】
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル及び1,2−シクロヘキサンジメタノールのシス体及びトランス体の含有量、並びに水素化反応の原料転化率は、下記に示す条件でガスクロマトグラフィー分析を行い測定した。また、[0037]に記載の計算式(一)を用いて水素化反応におけるトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの選択率を、[0039]に記載の計算式(二)を用いて水素化反応生成物のトランス体含有量を算出した。GC分析結果及び計算結果を後述の表1に示す。
【0046】
<ガスクロマトグラフィー(GC)分析>
以下の条件で、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステル及び1,2−シクロヘキサンジメタノールのGC分析を行った。
装置:SHIMADZU GC−2010
カラム:DB-1701(GLサイエンス社製) 0.25mm×30m 0.25μm
カラム温度:250℃(定温)
流量:1ml/min.
スプリット:1/50
インジェクション温度:300℃
ディテクション温度:300℃
【0047】
製造例1
シス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造
(1)滴下ロート、冷却管付水分離器、温度計を装着した反応器に1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物100重量部とp−トルエンスルホン酸1水和物を3重量部入れ攪拌した。
(2)メタノール(100重量部)を反応系の温度が50℃以下になるようにコントロールしながら滴下する。発熱がなくなったのを確認した後、110℃に昇温した。
(3)110℃でメタノール(100重量部×10)を滴下しながら還流下攪拌を行い、生成水を留去した。
(4)反応液の酸価(AV)を測定し反応の終了を確認した。反応液を冷却した後、炭酸ナトリウムを用いての中和を行い、静置後分離した水層を抜き出した。次いで得られたジエステル層を温水で洗浄水のpHが中性になるまで洗浄した。洗浄後、110℃/20mmHgで脱水処理を行いシス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(GC分析:シス体99%)を得た。
【0048】
製造例2
トランス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造
製造例1で得られたシス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(GC分析:シス体99%)100重量部に対して、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28%ナトリウムメトキシド含有)を0.5重量部添加し、窒素ガス流通下に140℃で2時間加熱攪拌を行い、反応後60℃まで冷却し、50重量部の温水で2回洗浄した後、減圧脱水し、反応粗物(トランス体/シス体=84/16)を得た。更に、反応粗物を90℃/5mmHgの条件でトランス−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを精留しトランス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(GC分析:トランス体99%)を得た。
【0049】
実施例及び比較例に用いるシス体、トランス体の含有量が異なる水素化反応原料は、上記製造例1及び2で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを混合することにより調製した。尚、実施例及び比較例には、純度99.5%(この場合の純度とはGC分析においてシス体とトランス体の合計の値を示す。)の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを用いた。
【0050】
実施例1
4Lでオーバーフローする仕組みの円筒型高圧気泡塔(内径4.6cm、長さ3m)の水素圧力を20MPa、反応温度220℃に保ちながら水素ガスを気泡塔型反応器底部より空塔線速度3cm/秒で供給し、更に、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(トランス体含有量99%)及び銅−クロム酸化物触媒(日揮化学製、商品名N−203SD)の懸濁溶液(触媒濃度5%)を、1L/h(平均滞留時間4時間)で供給し、20時間連続運転することにより水素化反応生成物として、1,2−シクロヘキサンジメタノールを得た。反応開始後7時間で定常状態に達していることを確認した。
反応生成液をGC分析したところ、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は98%であった。水素化反応生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量は88%であった(トランス体=84GC面積%、シス体=12%GC面積%)。
GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される水素化反応トランス体選択率は86%であった。
【0051】
水素化反応で得られた、反応生成液を脱メタノール処理した後、理論段数20段を有する精密蒸留器で148℃/0.7kPaの条件で精留し、高純度トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノール(蒸留収率81%、トランス体含有量99%)を得た。
【0052】
実施例2
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(トランス体含有量84%、シス体含有量16%)を使用した以外は実施例1と同様の反応条件で水素化反応を実施した。反応生成液をガスクロマトグラフィー分析したところ、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は98%であり、水素化反応生成物である1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量はトランス体の含有量は88%であった(トランス体=77GC面積%、シス体=11%GC面積%)。
GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される水素化反応トランス体選択率は79%であった。
【0053】
実施例3
銅−亜鉛−アルミニウム触媒(日揮化学製、商品名E01−X1)を使用した以外は実施例2と同様の反応条件で水素化反応を実施した。反応生成液をガスクロマトグラフィー分析したところ、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は97%であり、生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量は88%であった(トランス体=73GC面積%、シス体=10%GC面積%)。
GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される水素化反応トランス体選択率は75%であった。
【0054】
比較例1
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル(トランス体含有量75%、シス体含有量25%)を使用した以外は実施例1と同様の反応条件で水素化反応を実施した。反応生成液をガスクロマトグラフィー分析したところ、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は84%であり、生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量は69%であった(トランス体=51GC面積%、シス体=23GC面積%)。
GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される水素化反応トランス体選択率は61%であった。
【0055】
比較例2
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル(トランス体含有量53%、シス体含有量47%)を使用した以外は実施例2と同様の反応条件で水素化反応を実施した。反応生成液をガスクロマトグラフィー分析したところ、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は71%であり、生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量は68%であった(トランス体=45GC面積%、シス体=21GC面積%)。
GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される水素化反応トランス体選択率は63%であった。
【0056】
比較例3
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル(シス体含有量99%)を使用した以外は実施例1と同様の反応条件で水素化反応を実施した。反応生成液をガスクロマトグラフィー分析したところ、
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの転化率は55%であり、生成物の1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体の含有量は52%であった(トランス体=24GC面積%、シス体=22GC面積%)。 GC分析によって得られた転化率、及び水素化反応生成物のトランス体、シス体の含有量から計算される計算される水素化反応トランス体選択率は44%であった。
【0057】
【表1】

【0058】
各実施例、比較例における水素化反応の結果をまとめた表1から明らかなように、本願発明のトランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを原料に用いた水素化反応(実施例1〜3)は高転化率、高選択率で水素化反応が進行し、トランス体含有量が高い1,2−シクロヘキサンジメタノールが得られた。
一方、トランス体含有量が80%未満の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを原料に用いた水素化反応(比較例1〜3)は、実施例1〜3と比較して原料転化率及びトランス体選択率が低く、得られた1,2−シクロヘキサンジメタノールのトランス体含有量も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の製造方法で工業的に有利に製造される、トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールは各種工業用基材の原料、医薬品の中間体として有用な素材である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明に係る懸濁床気泡型反応器の好ましい一態様を示す図面である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・・・懸濁気泡塔型反応器
2・・・・・水素導入管
3・・・・・原料懸濁液導入管
4・・・・・排出管
5・・・・・高圧気液分離器
6・・・・・濾過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法であって、トランス体含有量が80%以上の1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを触媒の存在下で水素化反応を行うトランス−1,2−シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項2】
水素化反応を、銅系触媒存在下で反応温度180〜280℃、反応圧力10〜30MPaの反応条件下で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルが、異性化反応を経由して得られたものである請求項1又は2に記載の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−7267(P2009−7267A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168516(P2007−168516)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】