説明

トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法

【課題】未反応物を再利用し効率よくトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る方法を提供する。
【解決手段】1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとHFを反応させトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとHF、副生したシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよびHCLを含む生成物を得る反応工程、生成物を蒸留し1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびHFを回収し反応工程に供給する粗分離工程、当該工程後の残存物よりHFを回収し反応工程に供給するフッ化水素分離工程、前記工程後の残存物に水またはNaOH水溶液を接触させHCLを除去する塩化水素分離工程、当該工程後の残存物を脱水する乾燥工程、当該工程後の残存物を蒸留する精製工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬、機能性材料の中間原料、スプレー等エアロゾルの噴射剤であるプロペラント、マグネシウム合金製造の保護ガス、発泡剤、消火剤、エッチングガス等の半導体製造用ガス、熱媒体または冷媒等として有用なトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法としては、以下の方法が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−ヨウ化プロパンをアルコール性水酸化カリウムにより脱ヨウ化水素する方法が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンをジブチルエーテル中で水酸化カリウムにより脱フッ化水素する開示されている。
【0005】
非特許文献1または非特許文献2に開示されている、水酸化カリウムにより脱ハロゲン化水素する方法は、反応率および1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率に優れた方法である。しかしながら、非特許文献1および非特許文献2の方法は、溶媒を用いる必要があること、水酸化カリウムを必要とされる化学量論量以上に用いなければならないこと、また副生するカリウム塩が多大となること等から、操作性に劣るおよびコストがかかる等、商業生産を主目的とする工業プラントにおける製造方法としては、採用し難かった。
【0006】
特許文献1には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを、触媒にクロム化合物等の金属化合物を担持した活性炭を用いて、脱フッ化水素する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに、クロムベースの触媒を接触させる方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、気相中、触媒存在下、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを脱フッ化水素反応させて1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法において、ジルコニウム化合物を金属酸化物又は活性炭に担持したジルコニウム化合物担持触媒を用いることを特徴とする方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、気相中において、フッ素化触媒存在下、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ化水素と反応させる方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献4に開示されている1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低いという問題がった。詳しくは、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは得られるものの、下記反応式のように、同時にフッ素化がさらに進行して得られる高次フッ素化生成物、すなわち1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが副生し、選択性が低下することがあった。
【化1】

【0011】
特許文献5には、気相中においてフッ素化触媒存在下、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させる方法が開示されている。
【0012】
特許文献6には、気相で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをフッ化水素と反応させて主として1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペン(1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)を得る第1工程と、次いで、前記第1工程で得られたガスから塩化水素を分離した後に気相でフッ化水素と反応させて1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを得る第2工程を有する製造方法が開示されている。特許文献6に記載の製造方法は、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを原料とし、前記2工程を経ることにより、変換率ならびに目的とする1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率を高め、その結果、反応物から蒸留分離し難い原料または中間生成物である不飽和化合物の含有量を著しく低減させ、目的とする1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを効率よく得られるとされる。
【0013】
しかしながら、特許文献6に開示されている1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法は、未だ1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低いという問題があった。詳しくは、特許文献6の製造方法における第2工程の反応物は、塩化水素、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、未反応1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、未反応フッ化水素の混合物であるが、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの収量を比較すると、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低いという問題があった。
【0014】
特許文献7には、第1工程:1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンに、フッ化水素を反応させることにより、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得る第1の工程と、第1工程で得られた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、気相中、フッ素化触媒存在下、フッ化水素を反応させることにより、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る第2の工程を含む以下のスキームに示す製造方法が開示されている。
【化2】

【0015】
尚、特許文献7では、第2工程において、フッ素化触媒として活性炭、またはクロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、ジルコニウムの中から選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、オキシフッ化塩化物を担持した活性炭、アルミナ、フッ素化アルミナ、フッ化アルミニウム、ジルコニア又はフッ素化ジルコニアを用いている。
【0016】
アンチモン化合物等の触媒を用いて、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを得る方法について、以下に開示されている。
【0017】
特許文献8には、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをアンチモン触媒存在下フッ化水素により液相フッ素化することを特徴とする方法が開示されている。
【0018】
特許文献9には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロぺンをアンチモン触媒存在下フッ化水素により液相フッ素化する方法が開示されている。
【0019】
特許文献10には、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをアンチモン触媒存在下フッ化水素で液相フッ素化して1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを製造する際に、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンおよび/またはフッ化水素を連続的に反応域に供給する1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン方法が開示されている。
【0020】
特許文献11には、アルミニウム、錫、ビスマス、アンチモンおよび鉄から選ばれる1種または2種以上の金属のハロゲン化物からなるハロゲン化水素付加触媒存在下、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンにフッ化水素を付加する方法が開示されている。
【0021】
特許文献12には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに付加触媒存在下フッ化水素を付加して1,1,1,3−テトラフルオロ−3−クロロプロパンを得、次いで該1,1,1,3−テトラフルオロ−3−クロロプロパンを不均化触媒存在下不均化する方法が開示されている。
【0022】
特許文献13には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素から塩素存在下1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを製造する方法であって、それぞれ五塩化アンチモン担持活性炭を充填した反応器(A)および反応器(B)を含んでなるフッ素化反応装置を使用し、上流から150℃以上に設定された第一反応器、20〜150℃に設定された第二反応器が直列に配列され、第一の時間区分において反応器(A)を第一反応器とし、反応器(B)を第二反応器とし、第二の時間区分において反応器(B)を第一反応器とし、反応器(A)を第二反応器として反応を行い、次いで前記と同様に反応器(A)と反応器(B)の交換を繰り返して反応を行うことからなる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平11−140002号公報
【特許文献2】特開2000−63300号公報
【特許文献3】特開2008−19243号公報
【特許文献4】特開10−7604号公報
【特許文献5】特開10−7605号公報
【特許文献6】特開平9−183740号公報
【特許文献7】特開2010−100613号公報
【特許文献8】特開平8−239334号公報
【特許文献9】特開平9−241188号公報
【特許文献10】特開平9−268141号公報
【特許文献11】特開平10−17502号公報
【特許文献12】特開平10−72381号公報
【特許文献13】特開2002−105006号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】R.N.Haszeldine et al.,J.Chem.Soc.1953,1199-1206; CA 48 5787f
【非特許文献2】I.L.Knunyants et al.,Izvest.Akad.Nauk .S.S.R.,Otdel.Khim.Nauk.1960,1412-18;CA 55,349f
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
発明者らが鋭意検討したところ、特許文献7に開示される1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法は優れた方法であるが、未反応のフッ化水素の回収が大切であり、未反応のフッ化水素を回収しないと、後工程の蒸留でトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを取り出し難いことがわかった。具体的には、特許文献7に開示されている方法の第2工程の反応には化学平衡があり、目的生成物である1,3,3,3−テトラフルオロプロペン側に平衡を傾け、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを高収率で得るには、原料中のフッ化水素の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対する化学量論比を増加させ、反応温度を好適な範囲にする必要があることがわかった。即ち、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して過剰のフッ化水素を加えないと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの収率が低下するとともに、好適な反応温度の範囲におけるフッ素化触媒が失活するまでの寿命が短いことがわかった。さらに、フッ化水素を1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して高濃度で反応させた効果として1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が高くなり、効率的に1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが得られることがわかった。また、反応生成物よりフッ化水素を分離回収しないと、副生する塩化水素等の酸性成分を水洗して分離する後工程において、塩化水素の分離が極めて困難であることがわかった。
【0026】
従来技術における1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法には、前述のように、操作性に劣るおよびコストがかかる等、商業生産を主目的とする工業プラントにおける製造方法としては採用し難いという問題があった。また、その生成反応において1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率が低いという問題があった。
【0027】
本発明は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法において、前述の従来技術の問題を解決し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの生成反応におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率を高め、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを高純度に分離精製し、商業生産を主目的とする工業プラントにおいて、工業的規模でトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを効率的かつ高収率で得る方法を提供することを目的とする。また、本発明は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法において、未反応物を再利用するとともに、副生物を極めて少なくし、効率的且つ省エネルギーで環境に優しい方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、かかる問題を解決するため、鋭意検討した結果、原料、即ち、反応物(reactant)としての1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ化水素と反応させ、目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成する際、反応後の生成物および副生物を含む混合物(以下、反応生成物または残存物と呼ぶことがある)より、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素、副生物である塩化水素を回収し、回収した1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を、再度、反応物として、反応系内に戻すことで、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが高い選択率で効率的に得られることを見出した。さらに、効率的に高純度のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを分離精製する手段を見出した。これらの知見に基づき、環境に優しく、且つ副生物が少なく効率的にトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法に到達した。
【0029】
本明細書中、反応生成物とは、目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素に加え、副生物である塩化水素および有機物等を含めた反応後の混合物である。操作とは、フッ化水素を除くこと、塩化水素を除くこと、脱水すること、または蒸留し缶出液として目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン以外の有機物を除くこと等の処理を指す。反応生成物に対し、前記操作を行い、目的の物を除去した後のものを残存物と呼ぶ。
【0030】
特に断らない限り、本明細書中、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとは、シス体およびトランス体の混合物を示す。同様に、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとは、シス体およびトランス体の混合物を示す。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの沸点は、トランス体が21℃であり、シス体が39℃である。1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの沸点は、トランス体が−19℃であり、シス体が9℃である。1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの沸点は15℃であり、これらの混合物より、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは沸点の差により、蒸留により分離することが可能である。トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率とは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが転化して得られた、反応生成物中のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合である。原料としての反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの転化率に、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率を掛けると、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの反応収率、即ち、収率となる。
【0031】
即ち、本発明は、以下の発明1〜11を提供する。
【0032】
[発明1]
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素を反応させてトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成し、生成したトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素と、副生したシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび塩化水素を含む反応生成物Aを得る反応工程と、
反応工程の反応生成物Aを蒸留し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を含む缶出液を回収し前記反応工程に供給する粗分離工程と、
粗分離工程で缶出液を回収した後の残存物Bよりフッ化水素を分離回収して前記反応工程に供給するフッ化水素分離工程と、
フッ化水素分離工程でフッ化水素を回収した後の残存物Cに水または水酸化ナトリウム水溶液を接触させて塩化水素を分離除去する塩化水素分離工程と、
塩化水素分離工程で塩化水素を分離した後の残存物Dを脱水する脱水乾燥工程と、
脱水乾燥工程で脱水した後の残存物Eを蒸留し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る精製工程と、
を有する、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
【0033】
[発明2]
反応工程の反応が、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、気相条件下、フッ素化触媒の存在下、フッ化水素によりフッ素化しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る反応である、発明1の方法。
【0034】
[発明3]
反応工程の反応が、気相条件下、圧力、0.05MPa以上、0.3MPa以下、温度、200℃以上、450℃以下で行われる、発明2の方法。
【0035】
[発明4]
フッ素化触媒が、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、銅、亜鉛、銀、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、イリジウム、錫、ハフニウム、バナジウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、硫酸塩、フッ化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物である、発明2または3の方法。
【0036】
[発明5]
反応工程の反応が、塩化クロムを担持させたフッ素化アルミナを用いたフッ素化触媒下で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給量をモル比が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であり、気相条件下、0.05MPa以上0.3MPa以下の圧力、350℃以上400℃以下の頭で行われる、発明1〜3の方法。
【0037】
[発明6]
反応工程の反応が、クロムの酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物またはオキシフッ化塩化物を担持させた活性炭を用いたフッ素化触媒下、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給量をモル比が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であり、気相条件下、0.05MPa以上0.3MPa以下の圧力、350℃以上400℃以下の温度で行われる、発明1〜3の方法。
【0038】
[発明7]
フッ化水素分離工程において、フッ化水素を硫酸に吸収させて回収する、発明1〜6の方法。
【0039】
[発明8]
脱水乾燥工程において、塩化水素分離工程後の残存物Dの同伴水を、熱交換器を用い氷結凝固させて脱水する、発明1〜7の方法。
【0040】
[発明9]
脱水乾燥工程において、塩化水素分離工程後の残存物Dの同伴水を、吸着剤に吸着して脱水する、発明1〜7の方法。
【0041】
[発明10]
精製工程後の蒸留残渣Fを前記反応工程に供給する工程をさらに有する、発明1〜9の方法。
【0042】
[発明11]
精製工程後の蒸留残渣Fに含まれるシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換した後に前記反応工程に供給する、発明10の方法。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、反応工程における未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を回収し、反応工程の反応系内に戻し原料を再利用する、環境に優しいトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法が得られた。加えて、工業的に実施可能な容易な製造条件において、従来技術よりも高い収率で高純度に製造可能であり、高い生産性でトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造することが可能となった。このことは、反応工程で入手容易な1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料とし反応物に用い、過剰のフッ化水素と反応させる際、特定のフッ素化触媒を選択し、当該フッ素化触媒に対し反応温度を調整して、フッ素化触媒の触媒活性を持続させつつ反応させて選択率よく目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得たこと、その後工程の精製工程で反応生成物より未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を回収し反応工程に戻し供給したこと、その後工程のフッ化水素分離工程で反応生成物よりフッ化水素を分離回収し反応工程に戻したことによる。これら一連の操作で、反応工程における1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対する過剰のフッ化水素の供給に容易にした。さらに後工程の塩化水素分離工程で、反応生成物より副生物である塩化水素を水洗吸収分離し、次いで脱水乾燥工程で、反応生成物より前段の塩化水素分離工程での水洗による同伴水を脱水したことで、その後工程の精製工程における反応生成物の蒸留の負荷を軽減し、高純度でトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることを容易とした。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造工程のフロー図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0046】
1.トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法
本発明のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法は、以下の工程を有する。
【0047】
原料としての1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素を反応器内で反応させてトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成し、目的生成物である1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素と、副生物であるシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび塩化水素を含む反応生成物Aを得る反応工程(第1工程)。
【0048】
反応生成物Aを蒸留し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を有する缶出液を回収し反応工程の気相反応器内に供給する粗分離工程(第2工程)。
【0049】
粗分離工程で缶出液を回収した後の残存物Bよりフッ化水素を回収して反応工程の気相反応器内に供給するフッ化水素分離工程(第3工程)。
【0050】
フッ化水素分離工程でフッ化水素を回収した後の残存物Cに水または水酸化ナトリウム水溶液を接触させて、塩化水素を分離除去する塩化水素分離工程(第4工程)。
【0051】
塩化水素分離工程で塩化水素を分離除去した後の残存物Dを脱水する脱水乾燥工程(第5工程)。
【0052】
脱水乾燥工程で脱水した後の残存物Eを蒸留し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る精製工程(第6工程)。
【0053】
本発明の製造方法は、反応生成物Aを蒸留し、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を缶出液として回収して反応工程に戻す粗分離工程と、粗分離工程の残存物Bよりフッ化水素を回収して反応工程に戻すフッ化水素分離工程とを、反応工程の後工程に採用したことを特徴とする。尚、粗分離工程における蒸留を粗蒸留と呼ぶことがある。回収した未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を、再度、原料として反応工程に戻すことで、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して過剰量のフッ化水素を容易に供給して、目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを高選択率かつ高収率で得ることができる。粗分離工程およびフッ化水素分離工程で、反応生成物Aおよび残存物Bよりフッ化水素を回収分離除去することにより、反応生成物中に残存する未反応のフッ化水素による後工程の塩化水素分離工程、脱水乾燥工程および精製工程(第4〜6工程)の負荷が大きく軽減できる。また、精製工程において、残存物Eを蒸留し、高純度のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを容易且つ選択的に分離精製でき、分離精製の効率が著しく高まる。このように、本発明の製造方法は、原料を有効利用して、副生物が少なく効率よく目的生成物が得られるため、環境にも優しく、工業生産にも適している。
【0054】
特に、本発明の反応工程において、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素によりトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成する反応には化学平衡があり、目的生成物側に平衡を傾けるには、前述のように1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対するフッ化水素の化学量論比を増加させる必要がある。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して過剰のフッ化水素を加え、且つ、特定のフッ素化触媒を選出し、当該フッ素化触媒に対する反応条件(圧力・温度)を最適化することにより、フッ素化触媒を保護し、触媒活性を持続させた効果として、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの高い選択率および収率が得られる。
【0055】
塩化水素分離工程において、塩化水素を分離除去するために、反応生成物(残存物C)を水洗または水酸化ナトリウム水溶液と接触させるため、反応生成物に同伴水が混入するが、その後の脱水乾燥工程において、混入した同伴水を脱水するため、精製工程におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの精製が容易となる。
【0056】
本発明の方法は、精製工程において残存物Eを蒸留してトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得た後の、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが含まれる蒸留残渣(以下、残存物Fと呼ぶことがある)を反応工程に供給する工程をさらに有していてもよい。この工程により、さらなる未反応物の再供給および副生成物の有効利用が図れる。このとき、残存物F中のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換した後で残存物Fを反応系に供給すれば、さらに効率よくトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得られる。
【0057】
即ち、本発明の製造方法は、以下の(а)〜(c)の操作を含むことが好ましい。
【0058】
(a)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素をフッ素化触媒の存在下連続的に反応させ、目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、副生するシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび塩化水素、並びに未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を含む反応生成物Aを得る操作。(尚、本操作における反応温度は350℃以上、400℃以下、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給はモル比で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であることが特に好ましい。)
(b)反応生成物Aから、フッ化水素、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを分離しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを分離回収する操作。
【0059】
(c)分離されたフッ化水素、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを再度(a)に供給する操作であって、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとした後に供給する操作。
【0060】
2.工程
以下、本発明の方法における工程について、順を追って説明する。
【0061】
2.1.反応工程(第1工程)
初めに、反応工程(第1工程)について説明する。
【0062】
本反応工程は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、気相中、フッ素化触媒存在下、フッ化水素と反応させることにより、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成し、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、フッ化水素、および目的生成物である1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、副生物である塩化水素、他有機物を含む反応生成物Aを得る工程である。
【0063】
反応工程においては、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率を高めるために、原料である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して過剰量のフッ化水素を反応系内、具体的には、反応器内に供給することが好ましい。また、フッ化水素を過剰に供給することは、フッ素化触媒の保護につながり、触媒活性のある寿命を長引かせる効果もある。尚、反応工程における原料、即ち、反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンはシス体、トランス体が存在するが、シス体、トランス体、またはシス体およびトランス体の混合物であっても、反応は良好に進行する。
【0064】
反応工程に使用するフッ素化触媒は、金属酸化物、金属フッ素化酸化物、金属塩が挙げられる。
【0065】
金属酸化物、金属フッ素化酸化物または金属塩の金属としては、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、銅、亜鉛、銀、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、イリジウム、錫、ハフニウム、バナジウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンチモンが挙げられる。
【0066】
具体的には、フッ素化触媒は、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、銅、亜鉛、銀、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、イリジウム、錫、ハフニウム、バナジウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、硫酸塩、フッ化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物であることが好ましい。
【0067】
金属酸化物は、その酸素原子の一部または全部をフッ化水素やフッ素含有有機化合物によりフッ素原子に置換したものが好ましく、アルミナ、クロミア、ジルコニア、チタニア、マグネシア等をフッ素化して酸素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したフッ素化酸化物を選ぶことができる。これらのなかでアルミナ、特に活性アルミナをフッ化水素等でフッ素化して調製されるフッ素化アルミナが好ましい。以下、本発明において、金属フッ素化酸化物を、単に「金属酸化物」と称することがある。
【0068】
金属酸化物は、市販品を使用することができる他、触媒調製法として公知の方法で調製できる。金属塩水溶液からアンモニア等でpHを調整して水酸化物を沈殿させ、沈殿を乾燥または焼成して、金属酸化物が調製される。得られた金属酸化物は、粉砕または成形することもできる。例えば、アルミナは、通常、アルミニウム塩水溶液からアンモニア等を用いて生じさせた沈殿を、成型または脱水させて得られる。また、本発明の反応工程のフッ素化触媒として、触媒担体用あるいは乾燥用として市販されているγ−アルミナを好ましく使用できる。また、チタニア、ジルコニア等も同様の方法で調製することができ、市販品を使用できる。また、これらの金属酸化物は、共沈法等で調製した複合酸化物としてもよく、本発明の反応工程のフッ素化触媒として使用できる。
【0069】
また、フッ素化触媒として、金属担持触媒を好適に使用することもできる。金属担持触媒は、担持される金属の種類、量および担持の方法等は、触媒の技術分野における当業者の通常の知識に基づいて選択することが可能である。
【0070】
金属担持触媒としては、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、鉄、銅、銀、モリブテン、アンチモンからなる群より選ばれた1種以上の金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、硫酸塩、フッ化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、もしくはオキシフッ化塩化物を活性炭やフッ素化アルミナ等の担体に担持したものが挙げられる。
【0071】
フッ素化触媒を担持する活性炭は、木材、のこくず、木炭、椰子殻炭、パーム核炭もしくは素灰等を原料とする植物質系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青単もしくは無煙炭等を原料とする石炭系、石油残渣、硫酸スラッジもしくはオイルカーボン等を原料とする石油系、または合成樹脂を原料とするもの等がある。このような活性炭は、各種市販されており、市販品の中から選んで使用することができる。例えば、瀝青炭から製造された活性炭(例えば、商品名、カルゴン粒状活性炭CAL、カルゴンカーボンジャパン株式会社製)、椰子殻炭(例えば、日本エンバイロケミカルズ株式会社製)等を挙げることができ、これらの種類、製造業者に限られるものではない。また、通常、これら活性炭は粒状で使用するが、その形状および粒径等は特に限定されない。活性炭は、そのまま用いてもよく、または予めフッ化水素、塩化水素、塩素化フッ素化炭化水素等によりハロゲンで修飾された活性炭を用いてもよい。
【0072】
担体への金属担持量は0.1mass(容量)%以上、80mass%以下、好ましくは1mass%以上、50mass%以下である。0.1mass%より少ないと触媒効果が薄く、80mass%より多く担持させることは難しく、必要性もない。
【0073】
金属担持触媒の調製方法は、担体に上記の1種以上の金属の可溶性化合物を溶媒に溶解した溶液を含浸するか、散布し付着させる方法が挙げられる。
【0074】
溶媒に可溶性の金属化合物としては、上記金属の硝酸塩、塩化物、酸化物または硫酸塩等が挙げられる。具体的には、硝酸クロム、三塩化クロム、三酸化クロム、重クロム酸カリウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、三塩化チタン、四塩化チタン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガン、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸コバルト、塩化コバルト、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、硝酸銀、亜クロム酸銅、二クロム酸銅、二クロム酸銀、または二クロム酸ナトリウム等を用いることができる。
【0075】
前記溶媒としては、金属化合物を溶解し、反応により分解を引き起こさない化合物であれば特に限定されず、例えば、水、またはメタノール、エタノールもしくはイソプロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトンもしくはアセトン等のケトン類、酢酸エチルもしくは酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類、塩化メチレン、クロロホルムもしくはトリクロロエチレン等のハロゲン系化合物、またはベンゼン、トルエン等の芳香族類が挙げられる。水に溶解しにくい場合には、塩酸、硝酸、硫酸もしくは王酸等の酸、または水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはアンモニア水等のアルカリ等の溶解助剤を添加することにより溶解を促進することができる。
【0076】
なかでも、反応率およびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン選択率および収率を上げるには、クロム、鉄または銅の硝酸塩、塩化物、酸化物または硫酸塩を活性炭に担持したものを用いることが好ましく、特にクロムの酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物を担持させた活性炭を用いることが好ましい。
【0077】
また、反応率およびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率を上げるには、触媒として、フッ素化アルミナにクロム、鉄または銅の硝酸塩、塩化物、酸化物または硫酸塩等を担持したものを用いることが好ましい。
【0078】
何れの方法で調製したフッ素化触媒であっても、反応で使用する前に所定の反応温度以上の温度で、予めフッ化水素、フッ素化炭化水素または塩素化炭化水素等のフッ素化剤と共に加熱し、反応中の触媒の組成変化を防止することが有効である。
【0079】
また、反応中に酸素、塩素、フッ素化または塩素化炭化水素等を反応器中に供給することはフッ素化触媒の寿命の延長、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの反応率および収率の向上に有効である。
【0080】
反応工程におけるフッ素化触媒の添加量としては、反応器への原料化合物の総供給量の100mass%以下とするのが好ましい。100mass%より大きいと目的生成物の処理量が減少するので好ましくない。
【0081】
反応工程において、反応器内の反応領域へ供給する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素のモル比は、基本的には化学量論量以上あればよいが、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの高い選択率および収率を得るには、モル比で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であることが好ましい。フッ化水素が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの25モル倍を超える程に供給すると、反応工程の反応生成物Aに含まれる未反応のフッ化水素と、目的生成物である1,3,3,3−テトラフルオロプロペン等の有機物の分離に支障をきたす。一方、フッ化水素が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの8モル倍よりも少ないと反応率が低下し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低下するので好ましくない。
【0082】
反応工程における反応温度は、200℃以上、450℃以下であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、400℃以下である。反応温度が200℃より低ければ反応は遅く実用的ではない。反応温度が450℃を超えるとフッ素化触媒の触媒寿命が短くなり、反応は速く進行するが分解生成物、高分子物質等が生成し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低下するので好ましくない。反応工程の反応温度が高いほど反応器内の平衡状態が生成物側に偏るため、反応温度が高い方が反応は速く進行するが、前述の高温による触媒劣化の問題に加え、反応器材質の制限、または熱エネルギー消費の問題等もあるため、実用的には450℃より高い温度、好ましくは400℃より高い温度は避けることが望ましい。
【0083】
反応工程の反応圧力は、常圧(大気圧)より減圧または同じが好ましいが、大気圧より加圧であっても反応を阻害しない限り限定されることなく、反応系内に存在するフッ化水素および有機物が、反応工程の反応系内で液化しなければよく、0.01MPa以上、0.3MPa以下で行うのが好ましい。
【0084】
反応工程の接触時間(反応時間)は、通常0.1秒以上、300秒以下、好ましくは3秒以上、60秒以下である。接触時間が0.1秒より短いと、反応が進行しない虞があり、好ましくは3秒以上である。300秒より長いと、タクトタイムがかかりすぎ、好ましくは、60秒以下である。
【0085】
反応工程において、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率を高める圧力、温度の適正反応条件は触媒により異なるが、フッ素化触媒に塩化クロムを担持させたフッ素化アルミナ、またはクロムの酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物を担持させた活性炭を用いた場合、0.05MPa以上、0.3MPa以下の圧力、350℃以上、400℃以下の温度で反応を行うことが好ましい。この範囲を外れると、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率が低下する。
【0086】
より具体的には、フッ素化触媒として、塩化クロムを担持させたフッ素化アルミナ、またはクロムの酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物を担持させた活性炭を用い、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給量をモル比で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25とし、気相条件下、圧力、0.05MPa以上、0.3MPa以下、温度、350℃以上、400℃以下で反応工程の反応を行うことが、反応生成物A中の全有機物を基準としてトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの高い選択率および収率を得るためには好ましい。
【0087】
反応工程で使用する反応器の材料は、耐熱性、およびフッ化水素、塩化水素等に対する耐食性を有するものであればよく、ステンレス鋼、ハステロイ、モネル、インコネルまたは白金等が好ましい。また、反応器壁をこれらの金属でライニングした反応器を用いてもよい。
【0088】
反応工程において、触媒表面のコーキングを防ぐため、例えば、酸素、空気、塩素等のガスを反応領域へ同伴させてもよい。また、窒素、アルゴン、ヘリウム等のイナートガスを共存させてもよい。前記ガスの供給量は、反応物である有機物および塩化水素の総容量に対し1倍未満とする。イナートガスの存在は、反応工程の反応では、減圧状態に相当する、反応工程への供給量を1倍以上とすると、後工程で、反応生成物の回収を困難としかつ過大の装置を必要とし、生産性の低下を来す虞がある。
【0089】
触媒を賦活させることについては、フッ素化触媒の再生に用いられる通常の方法を採用することができる。例えば、反応温度以上の温度下で、活性が低下した触媒を、乾燥空気、塩素、フッ化水素等に、発熱を制御しながら適宜接触させることにより再活性化、即ち、賦活させることができる。
【0090】
2.2 粗分離工程(第2工程)
次いで粗分離工程(第2工程:粗蒸留)について説明する。
【0091】
本粗分離工程は、前工程(反応工程)の反応器の直後に蒸留塔(以下、粗分離塔と称することがある)を設置して反応生成物Aを蒸留することで、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素の大部分を缶出液として分離回収し、回収した1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を再び前工程(反応工程)の反応系に戻す工程である。即ち、本粗分離工程は、液相反応における反応蒸留と同様の操作を気相反応器に粗分離塔を直結して行なう様なものであり、過剰の未反応原料である有機物およびフッ化水素が反応生成物中に存在する場合には有効となる。本粗分離工程の残存物Bは、回収されなかった残りのフッ化水素の他、目的生成物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、副生する塩化物、他有機物を含み、次工程のフッ化水素分離工程に送られる。残存物Bの組成は、反応方法、反応条件により異なるが、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1モルに対して、概ね1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが0.5モル以上、1モル以下、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが0.1モル以上、0.2モル以下、塩化水素が1モル以上、1.5モルであり、フッ化水素は0.5モル以上、10モル以下となる。
【0092】
粗分離工程で回収した未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を反応工程に戻すことで、過剰量のフッ化水素を反応工程の反応系中に供給することが容易になり、前述のように、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率および収率を高めることができる。
【0093】
過剰量のフッ化水素を反応工程の反応系中に供給すると、反応生成物Aに過剰量のフッ化水素が残ることになり、そのような反応生成物Aを蒸留しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る精製工程を行うと、精製工程の負荷が増大する。しかしながら、本発明では、粗分離工程でフッ化水素の大部分を分離回収し、残存物Bを次工程のフッ化水素分離工程に送り、残りのフッ化水素を分離回収し、その後段の塩化水素分離工程で副生した塩化水素を分離除去する。大部分のフッ化水素を粗分離工程で分離除去したことで、後段のフッ化水素分離工程で残りのフッ化水素を分離回収することが容易となり、塩化水素分離工程、脱水乾燥工程および精製工程の負荷が軽減する。また、精製工程において、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンにフッ化水素や塩化水素が混入することなく、高純度のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを簡便に得ることが容易となる。
【0094】
よって、反応工程の反応生成物Aから、粗蒸留により未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと大部分のフッ化水素を回収して反応器に戻し供給する、本粗分離工程は、本発明の製造方法において必須の工程であり、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する効率的なプラント操業において重要である。
【0095】
粗分離工程の蒸留条件は、操作圧力としては0.1MPa以上、1.0MPa以下が好ましく、操作圧力が常圧(0.1MPa)の場合では、温度条件は塔底温度5℃以上、25℃以下、塔頂温度−20以上、5℃以下が好ましい。
【0096】
粗分離塔の充填材としては、フッ化水素、塩化水素に耐食性があるステンレス、ニッケル、ハステロイまたはモネル等の金属、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂またはテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニールエーテル共重合体(以下、PFAと略する)樹脂等のフッ素樹脂製の規則充填物、あるいはレッシングリング、ポールリングまたはスルザーパッキン等の不規則充填物を用いることができる。
【0097】
粗分離塔の段数は操作圧力により異なるが、常圧の場合15段以上あればよい。
【0098】
また、粗分離工程では、加圧条件で分離を行えば粗分離塔の冷却伝熱面積を小さくすることができる。加圧条件で行う場合には、粗分離塔入口に圧縮機を備え、出口に調圧弁を備えることが好ましい。
【0099】
2.3 フッ化水素分離工程(第3工程)
次いで、フッ化水素分離工程(第3工程)について説明する。
【0100】
本フッ化水素分離工程は、前段の粗分離工程の粗分離塔から留出したフッ化水素および塩化水素と、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、他有機物を含む残存物Bからフッ化水素を除く工程である。
【0101】
例えば、残存物Bと硫酸との接触により、フッ化水素を硫酸に吸収させることができる。即ち、フッ化水素と硫酸を主とする液相部と、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等の有機物と塩化水素を主とする気相部とに分割し、液相部から主としてフッ化水素を分離することによりフッ化水素を分離回収することができる。
【0102】
フッ化水素を回収する際の、硫酸のフッ化水素に対する質量比は、硫酸:フッ化水素=2:1〜20:1である。より好ましくは、その質量比は、硫酸:フッ化水素=2:1〜15:1であり、最も好ましくは、硫酸:フッ化水素=2:1〜10:1である。系内に塩化水素が混在する系において、硫酸の割合が少なくてフッ化水素の溶解が充分でないと、気相部にフッ化水素がともなわれることから塩化水素中のフッ化水素が増加するため、塩化水素の除去が困難になるので好ましくない。
【0103】
フッ化水素分離工程では、硫酸へのフッ化水素の吸収が可能であれば、如何なる装置形態、操作方法を採用してもよいが残存物Bは気体状態で硫酸と接触させることが好ましい。よって、硫酸の液温度は常圧(大気圧、101325パスカル以下同じ)において、10℃以上、50℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上、30℃以下である。硫酸とフッ化水素は反応によりフルオロ硫酸(フルオロスルホン酸)を形成するが、硫酸の温度は10℃以下では操作しがたく、50℃以上では、反応生成物中の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン等が高分子化して回収率が低下するので好ましくない。硫酸を槽に張り込み、そこへ反応生成物をガス状態で吹き込む方法、充填物を充填した硫酸洗浄塔へ吹き込み、ガスと硫酸を向流接触させる方法等が採用されるが、硫酸へのフッ化水素の吸収が可能であれば、これらに方法に限らず、別の方法を用いることができる。
【0104】
フッ化水素分離工程で得られたフッ化水素と硫酸を主とする液相部は、加熱することでフッ化水素を気化させ、次いでそれを凝縮させて、フッ化水素を分離回収する。回収されたフッ化水素は、再び最初の反応工程の気相反応器へ再供給することができる。
【0105】
2.4 塩化水素分離工程(第4工程)
次いで、塩化水素分離工程(第4工程)について説明する。
【0106】
本塩化水素分離工程は、前工程のフッ化水素分離工程後の残存物Cより、水洗により塩化水素を除く工程である。
【0107】
詳しくは、残存物Cを、水槽に微小な気泡状態となるように吹き込む方法、充填物を充填した水洗浄塔へ吹き込み向流接触させる方法等により水洗し、塩化水素を水に吸収させ、液相部、即ち、塩酸とし、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等の有機物より、塩化水素を分離除去する。
【0108】
塩化水素分離工程では、残存物Cを水洗することにより、塩化水素を分離除去することが可能であれば、如何なる装置形態、操作方法をとってもよい。また、塩化水素と分離した前記有機物は、気体あるいは液体の状態で回収することができる。低沸点のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(沸点−19℃)の組成が高い混合物では、気体状態で水に接触吸収させ、有機物と塩化水素の前記混合物より、塩化水素を分離回収することが好ましい。
【0109】
水洗にて塩化水素を除去する際に使用する水の塩化水素に対する質量比は、常温(約20℃、以下同じ)、常圧で、水:塩化水素=3:1〜20:1であることが好ましい。より好ましくは、その質量比は、水:塩化水素=5:1〜10:1である。塩化水素の水に対する溶解性は、常温、常圧で、通常状態で25質量%、飽和状態で37質量%であり、これ以上に溶解度を上げると、過剰の塩化水素が蒸気となり揮発しやすくなるため好ましくない。
【0110】
塩化水素分離工程で塩化水素を水に吸収させることで回収した塩酸は、不純物のフッ化水素、有機物を、ゼオライト等の吸着剤に吸着させる等の公知の手段を用いて精製することができる。
【0111】
塩化水素分離工程では、水洗の代わりに、前工程のフッ化水素分離工程後の残存物Cを水酸化ナトリウム水溶液と接触させることで塩化水素を分離回収してもよい。
【0112】
2.5 脱水乾燥工程(第5工程)
次いで、脱水乾燥工程(第5工程)について説明する。
【0113】
本脱水乾燥工程は、前工程の塩化水素分離工程後の残存物Dを脱水乾燥する工程である。
【0114】
残存物Dには、前工程の塩化水素分離工程における水洗または水酸化ナトリウム水溶液との接触により、少なくとも水を含むものであって、同時にミスト状の同伴水を伴う。脱水乾燥工程では、このような水分を含む反応生成物を、熱交換器により氷結凝固させて脱水する方法、またはゼオライト等の吸着剤に吸着して脱水する方法を用いて脱水乾燥させる。
【0115】
吸着剤を用いて脱水する方法、例えば、特定のゼオライトと接触させる脱水方法は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが気体状態または液体状態の何れであっても実施可能であり優れた方法である。しかしながら、ゼオライトを充填した脱水塔を用いて、この脱水方法を実施する場合、塩化水素分離工程後の残存物Dは、水蒸気を含む含水量が1000ppm以上となる気体状態の混合ガスであり、液体と比較して体積が概ね230倍になることから、工業生産に見合う量に対応させるために、単位時間当たりに脱水塔を通過する水分を含む混合ガスの質量流量を多くする必要がある。しかしながら、質量流量を多くすると、それに伴い脱水塔の容量を大きくする必要があり、脱水剤であるゼオライトを多量使用しなければならないこと、さらにゼオライトの再生も必要であるという問題がある。
【0116】
それに比較して、熱交換器を用いて脱水する方法は、残存物D中の水分を氷結分離するだけでなく、同時に1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの凝縮を行うので、従来のゼオライトを用いる脱水塔を用いての脱水に比べ、脱水設備を小型・簡略化でき、脱水操作を効率的且つ容易にする。
【0117】
本脱水乾燥工程において、熱交換器を用い水分を氷結凝固させて分離脱水する脱水方法を用いれば、前工程の塩化水素分離工程後の飽和水分量以上の多量に水を含む残存物D、即ち、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等の有機物が混合した混合ガスを、これらの有機物の凝縮温度以下に設定した熱交換器に導入し、冷却し、凝縮させることで、水分を殆ど除くことができる。
【0118】
脱水乾燥工程において、混合ガス中の水分を氷結除去するために使用する熱交換器は、隔壁型の熱交換器が好ましく、隔壁型の熱交換機の冷却伝熱面を介して、冷却媒体と残存物Dを熱交換させる。このような隔壁型の熱交換器としては、二重管式、円筒多重管式、円筒コイル式またはジャケット付円筒式熱交換器が挙げられる。円筒多重管式または円筒コイル式に外部ジャケットを付けて伝熱面積を拡大した熱交換器を用いることもできる。
【0119】
熱交換器の材質としては、熱伝導率が大きい金属が好ましく、鉄、鉄鋼、銅、鉛、亜鉛、真鍮、ステンレス、チタン、アルミニウム、マグネシウム、モネル、インコネルまたはハステロイ等が挙げられ、腐食性の物質が含まれる場合には、冷却伝熱面に樹脂ライニング、セラミックス、グラスライニング等を施した熱交換器を用いることができる。
【0120】
熱交換器の伝熱面積は、用いる冷却媒体の温度に依存するが、最低限、ガス状の残存物Dを凝縮し、その同伴水を氷結するために必要な熱量を交換するに十分な面積があることが好ましい。また、水分が熱交換器の冷却伝熱面に付着すると伝熱係数が下がるため、少なくとも計算上必要な伝熱面積の1.5倍以上の面積をとることが好ましい。
【0121】
また、熱交換器の伝熱面にはフィンを取り付けたものを使用することもできる。特に、残存物Dが接触する伝熱面側にフィンを取り付けて伝熱面積を拡大することは、伝熱効率の点からも有効である。
【0122】
残存物Dの熱交換器への導入方法は、十分な伝熱面積を有する熱交換器へ前記残存物Dを通過させる流通式方法が挙げられる。混合ガスである残存物Dの導入方向は、熱交換器を縦型にした場合、上部からガスを導入することが好ましく、その場合、氷結は熱交換器の冷却伝熱面の上部から発生し、閉塞してくるので、導入口を下部に複数個設け、残存物Dの導入を下部に移動することが望ましい。また、熱交換器を横型としても利用することができ、この場合も上部から残存物Dを導入することが望ましく、導入口を並列して複数個設けることもできる。
【0123】
熱交換器における冷却伝熱面の設定温度、即ち、冷却温度は、特に限定されないが、操作圧力下において、気体状のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(沸点−19℃)が凝縮する温度以下に下げて行う。冷却温度としては、常圧においては−50℃以上、−20℃以下であり、−40℃以上、−25℃以下が好ましい。水分を氷結除去し凝縮した液化処理された混合ガスは、熱交換器の下部に設けた受槽に回収する。受槽の温度はトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが凝縮する温度以下であることが好ましい。また、受槽内部にU字型またはコイル型の冷却管を設置し、液化した1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む残存物D中の水分を氷結除去することも可能である。
【0124】
熱交換に使用する冷却媒体は特に限定されないが、冷却温度によって、水性媒体、無機ブライン、有機ブラインを選択して使用することができる。
【0125】
また、冷却方法として、液化したトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの蒸発潜熱を利用することも可能である。特に、工業的な製造方法の中間精製工程として、熱交換器によるガスの凝縮を行う場合、液化したガスを、再度蒸発させて蒸留塔へ供することが考えられる。このため、液化したガスの蒸発を熱交換式脱水装置の冷却媒体流通側で行うと外部熱源による加熱および除熱の負荷を低減することができるため、省エネルギーの観点からも有効であり、本発明の方法に好適に採用される。
【0126】
熱交換器による残存物Dの脱水方法は、加圧条件にても適用でき、熱交換器中の混合ガスの圧力は通常0.1MPa以上、1MPa以下で行うことが好ましい。加圧条件での冷却温度は処理圧力に応じて適宜選択することができる。
【0127】
熱交換器における流通式方法では、脱水処理する残存物Dの、熱交換器内の線速は30m/hr以上、1200m/hr以下程度であり、60m/hr以上、600m/hr以下が好ましい。線速が30m/hrより小さいと脱水処理時間が長くなるため好ましくない。1200m/hrより大きい場合は、残存物D中の水分の氷結および有機物の凝縮が不十分となるため好ましくない。
【0128】
また、熱交換器における流通式方法では、脱水装置である熱交換器の冷却伝熱面への氷結水の付着量は、水を含む混合ガスの流通時間が長くなるにつれて多くなる。このため、一定時間経過後に氷結水の融解除去が必要となる。氷結水の融解除去方法は、5℃以上、200℃以下の乾燥したイナートガスを脱水装置である熱交換器上部より流通させる方法を用いることができる。イナートガスの温度は高温であってもよいが、熱交換器による脱水装置の材料の熱応力負荷および省エネルギーの観点から、20℃以上、100℃以下が望ましい。氷結水を融解するための加熱の方法として、冷却媒体が流通する部位に対向して、加熱媒体を流通させることも可能である。このとき、冷却媒体と加熱媒体は同一の物質または別の物質であることは限定されない。また、前記イナートガスの種類は特に限定されないが、経済性の観点から乾燥した空気または乾燥した窒素を使用することが望ましい。
【0129】
尚、融解した氷結水は、水または水蒸気の状態で、脱水装置としての熱交換器下部より排出される。この有機物を含む融解水は、前工程の塩化水素分離工程の洗浄水として使用することができる。
【0130】
また、前工程の塩化水素分離工程と本脱水乾燥工程の間に、ミストセパレータ等を用いる水分分離工程を設けることが好ましい。前述のように、塩化水素分離工程において、残存物Cを水洗または水酸化ナトリウム水溶液と接触させたことにより、残存物Dは少なくとも水を含むものであって、同時にミスト状の同伴水を伴うものであり、水洗浄後の水分の含有率は、3000ppm以上、10%以下であった。しかしながら、塩化水素分離工程と本脱水乾燥工程の間に、ミストセパレータ等を用いる水分分離工程を設ければ、水の含量を1300ppm程度に低減できる。ミストセパレータで脱水した後で、さらに本脱水乾燥工程において、反応生成物中の水分を、熱交換器を用いて氷結凝固させて脱水を行えば、前記残存物Eの水の含有率を100ppm未満に減少させることができる。
【0131】
さらに、前記残存物Dを凝縮させた液において、さらなる水分低下が望まれる場合には、本脱水乾燥工程の後段で、残存物Dを、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化二リン等の脱水剤、またはシリカゲル、ゼオライト等の吸着剤と接触させて乾燥することができる。
【0132】
2.6 精製工程(第6工程)
精製工程(第6工程)について説明する。
【0133】
本精製工程は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを精製する工程であり、即ち、前工程の脱水乾燥工程後の残存物Eを蒸留しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る工程である。
【0134】
蒸留は、バッチ式で行うことも連続式で行うこともでき、操作圧力は常圧(大気圧)または加圧、いずれの圧力下においても、可能であるが、蒸留における凝縮温度を上げることができる圧力条件を選定することが好ましい。
【0135】
例として、第1蒸留塔および第2蒸留塔からなる2連の蒸留塔を用いて連続で行う場合について説明する。しかしながら、さらに多段の蒸留塔群を用いることも、バッチ式で蒸留を行うことも可能である。
【0136】
第1蒸留塔においては、残存物Eに微量に含まれる副生物である低沸点の3,3,3−トリフルオロプロピン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン等を蒸留塔の頂部から留出物として回収し、再び、反応工程の反応系に戻す、即ち、気相反応器に供給して再利用する。第2蒸留塔においては、第1蒸留塔の缶出液を蒸留し、目的物のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを蒸留塔の頂部から留出物として回収する。一方、低沸点分の缶出液として、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等を回収し、最初の反応工程の反応系に供給して再利用する。第2蒸留塔で回収したシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンからなる混合物は、抽出蒸留等によりそれぞれ分離精製することができる。
【0137】
また、精製工程で使用する蒸留塔は、壁面が蒸留物に対して不活性であればよく、壁面がガラス製またはステンレス製でもよく、鋼等の基材に四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂またはガラスを内部にライニングしている蒸留塔でもよい。蒸留塔は、棚段式あるいは、ラシヒリング、レッシングリング、ディクソンリング、ポールリング、インターロックサドルまたはスルザーパッキン等の充填物を充填した充填塔であってもよい。
【0138】
蒸留は、常圧でも行うことができるが、加圧条件下で行うと、蒸留塔内の圧力損失を小さくすることができ、凝縮器の負荷を低減することができるため好ましい。この蒸留操作に要求される蒸留塔の段数に制限はないが、5段〜100段が好ましく、さらに好ましくは10段〜50段である。段数が5段未満であると、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの純度が十分に高まらず、段数が100段以上であると蒸留塔自体の経済的負担が大きくなること、加えて蒸留操作の所要時間が長くなることから好ましくない。
【0139】
2.7.その他の工程
さらに、本発明において、精製工程後に以下の工程を加えてもよい。
【0140】
具体的には、精製工程において、(前工程の脱水乾燥工程後の)残存物Eを蒸留しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得た際の、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが含まれる蒸留残渣Fを反応工程に供給する工程が挙げられる。この工程により、さらなる未反応物の再供給および副生成物の有効利用が図れる。
【0141】
蒸留残渣F中のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換した後で残存物Fを反応系に供給すれば、さらに効率よくトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得られる。
【0142】
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換するには、五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、五臭化アンチモン、三臭化アンチモン、四塩化スズ、四塩化チタン、五塩化モリブテン、五塩化タンタル、五塩化ニオブ等を活性炭、フッ素化アルミナ、フッ素化ジルコニア等の担体に担持した固体触媒を用い、気相で過剰のフッ化水素と反応させるか、液相で五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、五臭化アンチモン、三臭化アンチモン、四塩化スズ、四塩化チタン、五塩化モリブテン、五塩化タンタル、五塩化ニオブ等の触媒存在下でフッ化水素と反応させるのが好ましく、特に五塩化アンチモンを活性炭に担持した触媒を用いて、連続的にフッ化水素と反応させることが好ましい。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたはシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換する方法は特許文献8〜13に開示されており、これら公知の方法を用いることが可能である。尚、反応器から排出した過剰のフッ化水素等は生成した1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとともに、そのまま最初の反応工程の反応系に戻すことができる。また、蒸留残渣Fは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換して、別途、有効利用してもよい。
【0143】
3.トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造工程
本発明のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造工程の一例を、図1を用いて説明する。図1は、本発明のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造工程のフロー図の例である。本発明は、本フローに限定されるものではない。
【0144】
反応工程(第1工程)においては、気相反応器1で原料aである1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を、フッ素化触媒の存在下で反応させ、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る反応を行う。
【0145】
反応後の反応生成物Aは、粗分離工程(第2工程)の粗分離塔2に供給されて蒸留を行い、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、塩化水素およびフッ化水素等および他有機物を含む残存物Bと、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を含む粗分離塔の缶出液bに分けられ、缶出液bは気相反応器1に供給され、原料として再使用される。
【0146】
次いで、フッ化水素分離工程(第3工程)で、残存物Bはフッ化水素吸収塔3に送られ、硫酸と接触することで、フッ化水素が硫酸に吸収される。硫酸およびフッ化水素を含む混合物cは、放散塔4に送られ、フッ化水素dが取り出され、取り出されたフッ化水素dは気相反応器1に供給され、原料、即ち、反応物として再使用される。
【0147】
フッ化水素dが回収された後の残存物Cは、塩化水素分離工程(第4工程)で、塩化水素吸収塔5に導入され、塩化水素吸収塔5内で、水または水酸化ナトリウム水溶液と接触混合、例えば、バブリング等の手段で水洗され、塩化水素eが分離除去される。
【0148】
塩化水素eが分離除去された残存物Dは、脱水乾燥工程(第5工程)で、必要であれば、ミストセパレータ6に導入され脱水されて水分h1が除去される。その後、残存物Dは、熱交換器7に導入され水分は、冷却されて氷結凝固され、残存物Dは、冷却されてガスから凝縮して液化物となり、水分h2が除去される。
【0149】
水分を除去された残存物Eは、精製工程(第6工程)で精留塔8に送られ、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンgが精製される。この際の蒸留残渣Fを気相反応器1に供給し、原料として再使用する工程を加えてもよい。
【0150】
当該工程においては、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを精製した際の、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが含まれる蒸留残渣F中のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換した後に反応工程(第1工程)に供給してもよい。
【実施例】
【0151】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、本実施例における反応生成物の組成比は、蒸留塔よりの留出物を含む反応生成物を、直接、ガスクロマトグラフィー(以下、GCと略する)に注入し、検出器に水素炎イオン検出器(以下、FIDと略する)を用い測定した。各成分の組成比は、GCチャートの面積によるモル%で示す。
【0152】
[フッ素化触媒の調製]
始めに、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの生成反応に用いるフッ素化触媒を下記の手順で調製した。
【0153】
[触媒調製例1]
活性アルミナにフッ化水素を接触させフッ素化アルミナとし、そのフッ素化アルミナにクロムを担持させることにより、フッ素化触媒を得た。詳細な手順は以下の通りである。
【0154】
粒径、2mm〜4mmの活性アルミナ(住友化学工業株式会社製、商品名、NKHD−24、比表面積、340m/g)を、1200g計り取り洗浄した。次いで、水4140gにフッ化水素460gを溶解し、10質量%濃度のフッ酸を調製した。10質量%のフッ酸を攪拌しつつ、洗浄した活性アルミナを徐々に加え、その後、3時間静置した。再度、活性アルミナを水洗し、ろ過した後、電気炉にて、200℃に加熱して2時間、乾燥させた。乾燥した活性アルミナ、1600ml(1600cm)を、気相反応装置に充填した。直径5cm、長さ90cmの、熱媒循環装置に接続した外套を備えたステンレス鋼(SUS316L)製の円筒形反応管からなる気相反応器に窒素を流しながら、熱媒循環装置を作動させ、200℃の熱媒を循環させ円筒型反応管を加熱した。次いで、質量比、HF/N=1/10〜1/5にて、フッ化水素を窒素に同伴させて導入した。フッ化水素を導入するにつれて活性アルミナの温度が上昇する。その際、活性アルミナの温度が350℃を越えないように、フッ化水素と窒素の流量、およびフッ化水素と窒素の比率を調節した。発熱が終了した時点で、熱媒の設定温度を450℃に変更し、さらに2時間フッ化水素と窒素を導入して、フッ素化アルミナを調製した。次いで、市販の特級試薬、CrCl・6HO、2016gを純水に溶かして、1L(1000cm)の水溶液を得た。当該水溶液に、調製したフッ素化アルミナ1500ml(1500)を浸漬し、一昼夜静置した。次に濾過してフッ素化アルミナを取り出し、さらに、100℃に加熱した熱風循環式乾燥器中で一昼夜乾燥させ、クロム担持フッ素化アルミナを得た。得られたクロム担持フッ素化アルミナを、直径5cm、長さ90cmの円筒形SUS316L製反応管に充填した後、窒素ガスを流しながら、反応管を300℃に昇温し、反応管より水の留出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ反応管内に導入し、フッ化水素の濃度を徐々に高めた。充填されたクロム担持アルミナのフッ素化の吸着により、周囲より高温になっている部位であるホットスポットが反応管出口端に達したところで、反応管を450℃に昇温した後、450℃で1時間保ち、フッ素化触媒を得た。
【0155】
[触媒調製例2]
4×10メッシュアンダーの椰子殻破砕炭(カルゴンカーボンジャパン株式会社製、製品名、PCB )100gを純水150gに浸漬し、別途、CrCl・6HO(特級試薬)40gを純水100gに溶かした溶液と混合し攪拌した後、一昼夜静置した。次いで、静置後の液を濾過して活性炭を取り出し、電気炉中で200℃に加熱し、2時間焼成した。得られた塩化クロム担持活性炭を、直径5cm、長さ30cmのSUS316L製円筒形反応管に充填し、窒素ガスを流しながら、反応管を200℃に過熱し、円筒管より水の留出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ、フッ化水素の濃度を徐々に高くした。充填されたクロム担持活性炭へのフッ化水素の吸着により、周囲より高温になっている部位であるホットスポットが反応管出口端に達したところで、450℃に昇温した後、450℃で1時間保ち、フッ素化触媒を得た。
【0156】
[1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの生成(反応工程)]
次いで、触媒調製例1および触媒調整例2で得たフッ素化触媒を用い、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)をフッ化水素(HF)と反応させて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)を得る反応を気相反応器1中で行った。その際、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)の供給量を一定にして、フッ化水素(HF)の供給量を0.25g/minまたは0.49g/min、温度を360℃または380℃、反応器内圧力を0.1MPaまたは0.2MPaとした。以下に詳細な手順を示す。
【0157】
直径、1インチ(約2.54cm)、長さ、30cmの円筒形反応管からなるステンレス鋼(SUS316L)製の管型の気相反応器1に、調製例1または調製例2で調製したフッ素化触媒を50ml(50cm)充填した。
【0158】
次いで、窒素を30ml/min(30cm/min)の流量で流しながら、気相反応器1の反応管を200℃に加熱し、次いで、フッ化水素を0.10g/minの流量で流し、反応管中、窒素と同伴させつつ、反応管を450℃に昇温し、1時間保った。
【0159】
次いで、反応管の温度を360℃または380℃に下げ、フッ化水素(HF)を0.25g/minまたは0.49g/minの速度で供給し、予め気化させた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)を0.16g/minの速度で気相反応器1へ供給した。
【0160】
反応開始から1時間経過後に反応は安定し、その後、2時間、気相反応器1から留出する反応生成物Aとしての生成ガスを、水中に吹き込み酸性ガスを分離除去した後、ドライアイス−アセトントラップで6.0〜8.0gの有機物を捕集し、捕集した有機物のGC分析を行った。
【0161】
尚、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)の供給速度が0.16g/min、フッ化水素(HF)の供給速度0.25g/minである場合の供給量のモル比は、CTFP:HF=1:8であり、尚、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)の供給速度が0.16g/min、フッ化水素(HF)の供給速度0.49g/minである場合の供給量のモル比は、CTFP:HF=1:20である。
【0162】
GCでFID検出器を用い測定した反応条件に対する反応生成物Aの割合(選択率)を表1に示す。単位はモル%であり、ガスクロマトグラフィーのピークの総面積を100%とした面積百分率法を用いて、FID検出器によるGCチャートの各有機物に対する面積より求めたものである。
【表1】

【0163】
触媒調製例1の触媒を用いた反応系において、フッ化水素(HF)の供給速度が0.25g/minである場合のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率32.1モル%、34.5モル%に比べ、HF供給速度が0.49g/minである場合の方がトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率が高く、各々44.4モル%、46.6モル%である。また、他が同一の反応条件では、反応温度360℃に比較して、380℃の方がトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率が高い。具体的には、表1に記載のように、触媒調製例1の触媒を用いた場合は、HFの供給速度が0.25g/min、反応温度360℃の条件におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率は32.1モル%であるが、反応温度380℃では34.5%である。また、HFの供給速度が0.49g/min、反応360℃におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率は44.4モル%であるが、反応温度380℃では46.6モル%である。
【0164】
触媒調製例2の触媒を用いた場合は、HFの供給速度が0.25g/min、反応温度360℃の条件におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の選択率は30.3モル%であるが、反応温度380℃では33.1モル%である。
【0165】
また、触媒調製例1の触媒を用い、反応管の温度を150℃とし、フッ化水素(HF)を0.25g/minまたは0.49g/minの速度で供給し、予め気化させた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)を0.16g/minの速度で気相反応器1へ供給した。反応開始から1時間経過後に反応は安定し、その後、2時間、気相反応器1から留出する反応物(B)としての生成ガスを、水中に吹き込み酸性ガスを除去した後、ドライアイス−アセトントラップで8.5gの有機物を捕集し、捕集した有機物のガスクロマトグラフィー分析を行った。得られた有機物の殆どが、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)であり、目的物であるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の収率は、1%未満であり、満足のいくものではなかった。このことは、反応温度が低すぎた結果である。
【0166】
[1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの生成とリサイクル(反応工程+粗分離工程)]
[工程例1]
内径、52.7cm、長さ、58cmの円筒形反応管からなるステンレス鋼(SUS316L)製の気相反応器1に調製例1で得たフッ素化触媒を1200ml(1200cm)充填した。
【0167】
次いで、気相反応器1の後段に、冷却凝縮器を上部に、加熱槽を下部に備えた粗分離塔2を設置した。粗分離塔2は、蒸留塔であり、下部に缶出液を加熱するための加熱槽、上部に留出分を液化するための冷却凝縮器を有し、粗分離塔2の内径は54.9mm、長さは40cmであり、6mmのラシヒリングを充填した。
【0168】
次いで、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)をフッ化水素(HF)と反応させて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)を得る反応を気相反応器1中で行った。反応温度、360℃、反応圧力、0.2MPa、フッ化水素(HF)の供給量を6.0g/minとし、予め気化させた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)を3.8g/minの条件で、気相反応器1へ供給した。供給量のモル比は、CTFP:HF=1:10である。
【0169】
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の生成反応開始後、反応が安定した2時間後に、粗分離塔2にガスである反応生成物Aを導入した。
【0170】
粗分離塔2における蒸留条件および蒸留物(残存物B)の組成測定結果を表2に示す。
【表2】

【0171】
表2に示すように、加熱槽の温度設定および冷却凝縮器の温度設定を変えた2種類の蒸留条件で蒸留を行った。具体的には、条件1として、加熱槽の温度24℃、冷却凝縮器の温度を−5℃、粗分離塔2内の圧力を0.2MPaとし、条件2として、加熱槽の温度25℃、冷却凝縮器の温度を1℃、粗分離塔2内圧力を0.2MPaとし、粗分離塔2を用いて蒸留を行った。フッ化水素(HF)および塩化水素(HCl)の定量は滴定により行なった。尚、表2で言う留出率とは、反応生成物A中の有機物、HFまたはHClの量を各々100とした際の、粗蒸留における留出物である残存物B中の有機物、HFまたはHClの量をモル%で表したものである。即ち、各々の化合物の粗分離塔2入口におけるモル量(反応生成物A中のモル量)で、出口におけるモル量(残存物B中の)を割ることにより、算出した。
【0172】
条件1の残存物Bにおける有機物の留出率は48.1モル%、フッ化水素(HF)の留出率は6.9モル%、塩化水素の留出率は91.8モル%であり、有機物中のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の濃度は粗分離塔入口で26.0モル%であり、出口で55.6モル%であり、濃縮比は2.1であった。条件2の残存物Bにおける有機物の留出率は63.8モル%、フッ化水素(HF)の留出率は10.2モル%、塩化水素の留出率は91.5モル%であり、有機物中のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の濃度は粗分離塔2入口で26.6モル%であり、粗分離塔2出口の留出分で42.5モル%であり、濃縮比は2.1であった。
【0173】
また、条件1により蒸留した際の、粗分離塔2入口の反応生成物Aガス中の有機物組成は、GCにて測定したところ、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)が26.0モル%、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シス−TFP1234zeZ)が6.3モル%、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(PFP)が17.7モル%、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)が49.6モル%であった。一方、粗分離塔2の出口ガス、即ち、粗分離塔2の残存物B中の有機物組成は、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)が、55.6モル%、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シス−TFP)が9.3モル%、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(PFP)が9.6モル%、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)が、25.3モル%であった。
【0174】
即ち、条件1の蒸留条件で粗分離塔2を用いて蒸留を行えば、粗分離塔2後の残存物Bとして、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)を主成分とする有機物が、反応工程後の反応生成物A中の有機物に対し、約50モル%、塩化水素が理論生成量に対し、約90モル%が留出する。
【0175】
このようにして、粗分離塔2の下部加熱槽に貯まった粗分離塔2の缶出液bとして、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)および1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(PFP)を主成分とする有機物、および反応工程のフッ酸投入量に対して約90モル質量%のフッ化水素(HF)を回収し、粗分離塔2の缶出液bを、反応工程における気相反応器1に再供給することが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)をフッ化水素(HF)と反応させて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)を得る反応に対し有効であり、反応工程を効率化できることを確認した。
【0176】
粗分離塔2でフッ化水素(HF)を回収し、回収したフッ化水素(HF)を反応工程の気相反応器1に再供給することで、反応するフッ化水素(HF)に対して過剰のフッ化水素(HF)が容易に供給され、反応後のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の高い選択率が得られ、生成物中のフッ化水素(HF)を粗分離塔2で大方回収することで、例えば、後段のフッ化水素分離工程におけるフッ化水素吸収塔3および放散塔4での硫酸を用いたフッ化水素(HF)の回収、塩化水素分離工程における塩化水素吸収塔5での塩化水素(G)の分離、脱水乾燥工程におけるミストセパレータ6および熱交換器7による脱水、精製工程の精留塔8におけるトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンg(トランス−TFP)の分離精製の負荷が著しく軽減される。
【0177】
[工程例2]
次いで、内径、52.7cm、長さ、58cmの円筒形反応管からなるステンレス鋼(SUS316L)製の前記気相反応器1に、調製例1で得たフッ素化触媒を1200ml充填した。
【0178】
冷却凝縮器を上部に、加熱槽を下部に備えた、内径は54.9mm、長さは40cmで、6mmのラシヒリングを充填した前記粗分離塔2を用い、蒸留条件に前述の条件1を採用し、粗分離塔2の缶出液bとして回収したフッ化水素(HF)および有機物と新たに1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)およびフッ化水素(HF)を追加した原料を前記気相反応器1に供給し、反応条件を変えて、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)をフッ化水素(HF)と反応させてトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)を得る反応を行なった。
【0179】
反応条件および結果を表3に示す。具体的には、新規トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)およびフッ化水素(HF)に加え、粗分離塔2の缶出液bとして回収した回収有機物を前記気相反応器1に供給した。尚、回収有機物の組成(選択率)は、モル%で表して、GC法によるFIDでの測定結果、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)が、9.7モル%、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シス−TFP)が4.8モル%、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(PFP)が40.3モル%、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)が、41.1モル%であった。
【表3】

【0180】
表3に示すように、反応温度は360℃、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CTFP)の供給は1.2g/min、回収有機物の供給は2.7g/minで等しくして、フッ化水素(HF)の供給を3.5g/minまたは7.1g/min、反応圧力を0.1MPaまたは0.2MPaで反応させた。その結果、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)が、フッ化水素(HF)の供給量が3.5g/minである場合の34.4モル%および29.2モル%に比べて、フッ化水素(HF)の供給量が7.1g/minの場合は47.3モル%であり、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランス−TFP)の高い選択率が得られることがわかった。
【0181】
[脱フッ化水素(フッ化水素分離工程)、脱塩化水素(塩化水素分離工程)および脱水(脱水乾燥工程)]
粗分離工程において前述の蒸留条件2にて粗分離塔2により反応生成物Aの蒸留を行い、粗分離塔2から留出した残存物Bを、フッ化水素分離工程でフッ化水素吸収塔3にて硫酸に接触させて、フッ化水素(HF)を硫酸に吸収させて除去した。
【0182】
フッ化水素分離後の残存物Cを、塩化水素分離工程で、塩化水素吸収塔5内で、2.0g/minの速度で水にバブリングさせ、塩化水素eを除去した。
【0183】
その後段の脱水乾燥工程で、予めSUS−316製充填物を充填し、温度5℃の冷媒を用いて冷却したSUS−316製ミストセパレータ6を用意した。塩化水素e分離後の残存物Dを、用意した当該ミストセパレータ6に導入した。ミストセパレータ6により、混合ガスである残存物Dに同伴する霧状の水分h1を除去した。ミストセパレータ6出口の残存物Dである複数の有機物が混合したガスを捕集し、カールフィッシャ法で水分の測定したところ、水分濃度は1300ppmであった。
【0184】
[トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの精製(精製工程)]
その後段の精製工程では、熱交換器7としての、外管の内径12mm、内管の外径6mm、長さ300mmのSUS−316製二重管式冷却管を用意した。内管には−40℃の冷媒を流通させて、ミストセパレータ6通過後の残存物Dである前記ガスを、二重管式冷却管の外管と内管の間に2.0g/minの速度で供給することにより、前記ガスを冷却し凝縮させ、冷却管下部から液化した有機物(残存物E)を捕集した。捕集した有機物の水分濃度をカールフィッシャ法で測定したところ、65ppmであった。また、GC分析した結果、新たな有機物は見出されなかった。このようにして、冷却管に導入した有機物の98.0質量%を回収した。
【0185】
上記の方法で脱水した有機物である残存物Eを、精製工程で精留塔8にて蒸留し、留出分として、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンg(トランス−TFP)を単離した。カールフィッシャ法で測定した水分濃度は78ppm、ガスクロマトグラフィーで測定した純度は99.9%であった。
【0186】
上記の実施例から、本発明のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法において、粗分離工程に蒸留操作を設け、未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素の大部分を缶出液として回収したことで、フッ化水素分離工程における残存物Bを硫酸と接触させるによるフッ化水素の分離において、使用する硫酸の量を減らし、プラント生産を容易なものとしたこと、塩化水素分離工程で塩化水素の分離および脱水乾燥工程の脱水を容易としたことは明白である。また、実生産において、工程の省力化、粗分離工程以降の操作の安定化および安全化、およびフッ酸に対する装置の保護がはかれたことも明白である。加えて、粗分離工程を設けたことで、精製工程での反応生成物の蒸留による分離精製において、より簡便に高純度のトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることを可能とした。
【0187】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0188】
1 気相反応器
2 粗分離塔
3 フッ化水素吸収塔
4 放散塔
5 塩化水素吸収塔
6 ミストセパレータ
7 熱交換器
8 精留塔
A 反応生成物A
B〜E 残存物(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等を含む)
F (蒸留残渣である)残存物
a 原料(1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素)
b 缶出液(未反応の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン等の回収有機物およびフッ化水素)
c フッ化水素および硫酸
d フッ化水素
e 塩酸
h1、h2 水分
g トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素を反応させてトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを生成し、生成したトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、未反応物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素と、副生したシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび塩化水素を含む反応生成物Aを得る反応工程と、反応工程の反応生成物Aを蒸留し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素を含む缶出液を回収し前記反応工程に供給する粗分離工程と、粗分離工程で缶出液を回収した後の残存物Bよりフッ化水素を分離回収して前記反応工程に供給するフッ化水素分離工程と、フッ化水素分離工程でフッ化水素を回収した後の残存物Cに水または水酸化ナトリウム水溶液を接触させて塩化水素を分離除去する塩化水素分離工程と、塩化水素分離工程で塩化水素を分離した後の残存物Dを脱水する脱水乾燥工程と、脱水乾燥工程で脱水した後の残存物Eを蒸留し、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る精製工程と、を有する、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項2】
反応工程の反応が、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、気相条件下、フッ素化触媒の存在下、フッ化水素によりフッ素化しトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応工程の反応が、気相条件下、圧力、0.05MPa以上、0.3MPa以下、温度、200℃以上、450℃以下で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
フッ素化触媒が、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、銅、亜鉛、銀、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、イリジウム、錫、ハフニウム、バナジウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の硝酸塩、塩化物、酸化物、硫酸塩、フッ化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物もしくはオキシフッ化塩化物である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
反応工程の反応が、塩化クロムを担持させたフッ素化アルミナを用いたフッ素化触媒下で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給量をモル比が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であり、気相条件下、0.05MPa以上0.3MPa以下の圧力、350℃以上400℃以下の頭で行われる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応工程の反応が、クロムの酸化物、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物またはオキシフッ化塩化物を担持させた活性炭を用いたフッ素化触媒下、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとフッ化水素の供給量をモル比が1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:フッ化水素=1:8〜1:25であり、気相条件下、0.05MPa以上0.3MPa以下の圧力、350℃以上400℃以下の温度で行われる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フッ化水素分離工程において、フッ化水素を硫酸に吸収させて回収する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
脱水乾燥工程において、塩化水素分離工程後の残存物Dの同伴水を、熱交換器を用い氷結凝固させて脱水する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
脱水乾燥工程において、塩化水素分離工程後の残存物Dの同伴水を、吸着剤に吸着して脱水する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
精製工程後の蒸留残渣Fを前記反応工程に供給する工程をさらに有する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
精製工程後の蒸留残渣Fに含まれるシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換した後に前記反応工程に供給する、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116830(P2012−116830A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202071(P2011−202071)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】