説明

トランスカロテノイド、それらの合成、配合、および使用

【課題】トランスカロテノイド化合物およびそれらの塩、ならびにそれらの組成物、それらの製造方法、およびそれらの使用方法の提供。
【解決手段】i)下記式を有する二極性トランスカロテノイド塩、およびii)前記腫瘍に対する放射線を投与する方法。YZ−TCRO−ZY[式中、Y=カチオン(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、Z=カチオンと結合する極性基(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、TCRO=共役した炭素−炭素二重結合および単結合、ならびにペンダント基X(互いに同じであっても異なっていてもよい)を有する直鎖のトランスカロテノイド骨格であり、前記ペンダント基Xが、10以下の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基、あるいはハロゲンである]これらの化合物は、ヒトを含めた哺乳動物の赤血球と体内組織との間の酸素の拡散率を改善するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2005年2月24日出願の仮特許出願第60/655,422号による優先権を主張しており、その内容全体を参照により本出願に組み込む。
【0002】
本発明は、契約番号N00014−04−C−0146の下で海軍研究事務所により授与された政府助成を受けてなされたものである。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明には、トランスカロテノイド、トランスナトリウムクロセチネート(TSC)などの二極性トランスカロテノイド塩(BTCS)を含めた二極性トランスカロテノイド(BTC)製造のための改善された化学的合成方法、化合物それら自体、それらの配合方法、投与方法、および使用方法が含まれる。
【0004】
[発明の背景]
カロテノイドは、配列が分子の中心で逆になるように結合したイソプレノイド単位からなる、あるクラスの炭化水素である。分子の主鎖(骨格)は、共役した炭素−炭素二重結合および単結合からなり、ペンダント(pendant)基を有することもできる。かつてカロテノイドの骨格は、40個の炭素を含有すると考えられていたが、カロテノイドは、40個未満の炭素原子を含有する炭素骨格を有し得ることも、長らく認識されている。炭素−炭素二重結合を取り囲む4個の単結合は、全て同じ平面内にある。ペンダント基が炭素−炭素二重結合の同じ側にある場合、その基はシスと表され、それらが炭素−炭素二重結合の逆側にある場合、トランスと表される。多数の二重結合が理由で、カロテノイドの幾何(シス/トランス)異性の可能性は広く、溶液中で異性が容易に生じる。カロテノイドの特性等多くに対する優れた参照である一連の文献(参照によってその全体を本明細書に組み込む“Carotenoids”,edited by G.Britton,S.Liaaen−Jensen and H.Pfander,Birkhauser Verlag,Basel,1995)。
【0005】
多くのカロテノイドは非極性であり、したがって水不溶性である。これらの化合物は極度に疎水性であり、そのため、それらの配合物の生体利用が困難になる。というのは、それらを可溶化するために、水性溶媒ではなく有機溶媒を使用しなければならないからである。他のカロテノイドは単極性であり、界面活性剤の特徴を有する(疎水性部分および親水性極性基)。したがって、これらの化合物はバルク液体中に溶解するのではなく、水溶液の表面に付着する。いくつかの天然二極性カロテノイド化合物が存在し、これらの化合物は、中心の疎水性部分、ならびに分子のそれぞれの末端上の2個の極性基を含有する。硫酸カロテノイドは、「最大0.4mg/mlの水への著しい可溶性」を有することが報告されている(“Carotenoids”,Vol.1A,p.283)。二極性として考え得る他のカロテノイドも、さほど水溶性ではない。これらには、ジアルデヒドおよびジケトンが含まれる。クロセチンのジピリジン塩も報告されているが、その水溶度は、室温で1mg/ml未満である。二極性カロテノイドの他の具体例は、クロセチンおよびクロシンである(両方スパイスのサフランに見出される)。ただしクロセチンは、ごくわずかに水溶性である。実際、天然の二極性カロテノイド全ての中で、クロシンのみが、著しい水溶性を示す。
【0006】
米国特許第4,176,179号;同4,070,460号;同4,046,880号;同4,038,144号;同4,009,270号;同3,975,519号;同3,965,261号;同3,853,933号;および同3,788,468号(各々その全体を参照によって本明細書に組み込む)は、クロセチンの様々な使用に関する。
【0007】
米国特許第6,060,511号は、トランスナトリウムクロセチネート(TSC)およびその使用に関する。TSCは、天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、その後抽出することによって製造される。‘511特許は、二極性トランスカロテノイド塩(トランスナトリウムクロセチネート)を製造するための抽出方法、抽出から得られる精製組成物、ならびに酸素拡散率の改善および出血性ショックの治療など、組成物の様々な使用を包含する。
【0008】
PCT出願米国第03/05521号は、二極性トランスカロテノイド塩の製造のための化学的合成方法、およびそれらの使用方法に関する。
【0009】
以下の図は、PCT出願米国第03/05521号に記載されているTSCの化学的合成方法のいくつかの最終ステップを示す。
【化1】

【0010】
TSCの完全な合成手順は、PCT出願に記載されているように、以下の2つの図に示される多段階合成プロセスを介して、主要な中間体「化合物A」および「化合物B」に至った。
【化2】


【化3】

【0011】
悪性腫瘍または癌の一般的な治療形態は、照射である。投与される放射線は、電磁波、あるいは荷電粒子または中性粒子の形態である。電磁波は、X線またはガンマ線に代表される。荷電粒子は、電子、プロトン、または重イオンの形態をとる一方、中性子は、中性粒子の一例である。治療の間、放射線は、外部ビーム、組織内刺入、またはその2つの組合せによって投与することができる。照射では、ラジアンおよびグレイが、通常の測定単位である。任意のタイプの放射線1ラジアンの用量は、標的組織グラム当たりエネルギー100エルグの吸収量をもたらし、1グレイは、100ラジアンに等しい。したがって、1センチグレイ(cGy)は、1ラジアンに相当する。頭部および頚部の小さい腫瘍の大部分に関しては、通常、6〜6.5週にわたる6000〜6500cGyからなる放射線治療の過程が適している。より大きな塊を制御するためには、6.5〜7.5週にわたる6500〜7000cGyの用量を要することがあり、巨大病変に対しては、さらに高用量を要する。5週にわたる5000cGyの用量は、患者の90〜95%における無症状疾患を制御することが示されている。
【0012】
生存腫瘍細胞は、無制限な分裂能力を有する細胞である。腫瘍細胞が死滅したとされるには、この生殖能力を失わせなければならない。放射能治療での腫瘍の制御は、腫瘍内の全ての生存細胞の除去によって実現し、所与の放射線量は、各投与の度に、一定の割合の(数ではない)生存細胞の死滅をもたらす。したがって、腫瘍の体積が大きいほど、腫瘍の制御に要する放射線の合計線量も多くなる。放射線治療で滅菌または死滅した腫瘍細胞は、必ずしも形態学的に変化している必要はなく、一般的に、有糸分裂(細胞分裂)時に細胞死を示す。この死滅は、照射後の最初の細胞分裂では生じ得ないことに留意することが重要である。細胞死が顕著に現れる前に、明らかに良好ないくつかの細胞周期が起こり得るが、その細胞は、その無制限の生殖潜在能力が既に失われているという点で、もはや生存しないとみなされる。
【0013】
腫瘍細胞の放射線感受性は、多くの因子によって影響を受ける。最近まで、腫瘍組織および部位は、放射線治療での腫瘍の潜在的制御において主な役割を果たすと考えられていた。確かに、いくつかの腫瘍は、放射線治療では制御がより困難であるものの、もはや組織は重要視されていない。腫瘍内の生存腫瘍細胞の数および低酸素(酸素欠乏)細胞の割合は、主に放射能感受性に寄与し、これらは両方、所与の腫瘍の寸法の関数である。
【0014】
ここ数年、放射線治療に対する腫瘍の感受性において、酸素が重要な役割を果たすことが明らかになってきた。低酸素腫瘍細胞は、放射能抵抗性がより高いことが確立している。この現象の機構は完全には理解されていないが、酸素の存在は、それがなければ修復されていなかったであろう細胞内の不安定な放射線障害を治療すると考えられる。放射線感受性における最大変化は、静脈酸素圧を十分に下回る値であるHg0〜20mmの範囲にわたって生じる。実験的な固形腫瘍においては著しい低酸素が示されており、有意な間接的証拠が、ヒト腫瘍内の低酸素状態も同様に示している。低酸素状態が生じるのは、腫瘍が、しばしばそれらの既存の血液供給を増大させるからである。
【0015】
化学療法は、癌を治療するために使用される別法である。カルマスティン(BCNU)、テモゾロマイド(TMZ)、シスプラチン、メトトレキサートなどの薬剤が投与され、これらの薬剤は、腫瘍細胞の最終的な死滅または成長の停止をもたらす。放射能治療などの化学療法は、腫瘍にしばしば生ずる低酸素細胞が原因となり成功しにくいことが指摘されている。
【0016】
高血圧(high blood pressure)または高血圧(hypertension)は、アメリカ人の約4人に1人に影響を与えている。この潜在的に生命に関わる症状は、実質上、症状なしに生じ得る。血圧は、最高血圧および最低血圧の2つの値によって特徴付けられる。高血圧は、一般に、収縮期圧140mmHg超または拡張期圧90mmHg超と定義されるが、これらの定義は変化し、数人の医師は、血圧は、一生を通じて自然にまたは降圧薬を使用して、120/70に維持されるべきであるとしている。
【0017】
ある人々においては、血圧を制御する系が正常に機能しない。体内中の細動脈が収縮したまま、より大きい血管の圧が上昇する。ほとんどの専門家によれば、140/90mmHg超の持続的な高血圧が、高血圧と呼ばれる。高血圧を有する全てのヒトの約90パーセントは、最近「本態性(essential)」高血圧と呼ばれている高血圧であり、これは特定可能な原因を示さないことを意味する。症例の残りの10パーセントにおいては、上昇血圧は、腎臓病、糖尿病、または別の基礎疾患によるものである。
【0018】
[発明の概要]
本発明は、様々な新規トランスカロテノイド化合物、ならびにトランスカロテノイドおよびシクロデキストリンを含む組成物を含めた、トランスカロテノイド化合物を含有する多くの組成物に関する。
【0019】
本発明はまた、式
YZ−TCRO−ZY
(式中、
Y=HまたはH以外のカチオン、
Z=Yと結合する極性基、
TCRO=対称性または非対称性トランスカロテノイド骨格)
のカロテノイド化合物を合成する方法を含み、共役した炭素−炭素二重結合を含有するジアルデヒドとウィッティヒ剤をカップリングさせるステップと、場合によってはカップリングステップの生成物を鹸化するステップとを含む。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、哺乳動物にi)トランスカロテノイドおよびii)放射線または化学療法を投与することを含む哺乳動物の腫瘍の治療方法、ならびに治療が必要な哺乳動物に有効量のトランスカロテノイドを投与することを含む、哺乳動物の高血圧、心室細動または頻拍、あるいは高脂血症の治療方法に関する。
【0021】
[発明の詳細な説明]
本発明は、トランスカロテノイド、二極性トランスカロテノイド(BTC)、トランスナトリウムクロセチネート(TSC)を含めた二極性トランスカロテノイド塩(BTCS)を製造する改善された化学合成方法、化合物それら自体、それらの配合方法、およびそれらの使用方法に関する。本明細書で使用される用語「二極性」は、2つの極性基を有し、1つが分子のそれぞれの末端にあることを意味する。
【0022】
本明細書に記載される本発明の新しい合成方法は、前述の、すなわちその全体を参照によって本明細書に組み込む米国特許出願第10/647,132号の合成プロセスを改善したものである。本発明では、化合物Bを、化合物Dで置換する。得られた合成物は、最後から2番目の新しい中間体である化合物E(以下の図に示す)を介して最終生成物へと進む(例えばトランスナトリウムクロセチネート)。
【化4】

【0023】
新しい改良された合成方法では、化合物A(2,7−ジメチルオクタ−2,4,6−トリエン−1,8−ジアール)は、化合物D(2−(エトキシカルボニル)2−ブテン−4−イル−トリフェニル−ホスホニウムブロミド)であるC5ウィッティヒエステルハロゲン化物と結合する。これらの2つが反応して、ジエチルクロセチネートすなわち化合物E(ジエチル2,6,11,15−テトラメチル−ヘキサデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E−ヘプタエン−1,16−ジオテート)を形成する。次いで化合物Eを鹸化して(水酸化ナトリウム/エタノールを使用する)、所望の最終生成物であるトランスナトリウムクロセチネートを形成する。
【0024】
本発明の化合物
本発明は、トランスカロテノイドジエステル、ジアルコール、ジケトン、および二塩基酸、二極性トランスカロテノイド(BTC)、ならびに二極性トランスカロテノイド塩(BTCS)化合物を含めたトランスカロテノイドと、以下の構造を有するこのような化合物の合成とに関する。
YZ−TCRO−ZY
式中、
Y(2つの末端で同じまたは異なっていてよい)=HまたはH以外のカチオンであり、好ましくはNaまたはKまたはLiである。Yは、有利には一価の金属イオンである。Yはまた、有機カチオン、例えばR、Rであってよく、RはHまたはC2n+1であり、nは1〜10、有利には1〜6である。例えば、Rは、メチル、エチル、プロピル、またはブチルであってよい。
【0025】
Z(2つの末端で同じまたは異なっていてよい)=Hと結合する極性基またはカチオンである。場合によっては、カロテノイド(またはカロテノイド関連化合物)上の末端炭素を含み、この基は、カルボキシル(COO)基またはCO基(例えば、エステル、アルデヒド、またはケトン基)、あるいはヒドロキシル基であってよい。この基はまた、硫酸基(OSO)または一リン酸基(OPO)、(OP(OH)O)、二リン酸基、三リン酸、あるいはそれらの組合せであってよい。この基はまた、COORのエステル基であってよく、RはC2n+1である。
【0026】
TCRO=直鎖のトランスカロテノイドまたはカロテノイド関連骨格(有利には100個未満の炭素)は、ペンダント基(以下に定義する)を有し、一般には「共役した」または交互の炭素−炭素二重結合および単結合を含む(一実施形態では、TCROは、リコペンなどで完全には共役していない)。ペンダント基(X)は一般にメチル基であるが、以下に記載する他の基であってよい。有利な一実施形態では、骨格の単位は、それらの配列が分子の中心で逆になるように結合している。炭素−炭素二重結合を取り囲む4つの単結合は、全て同じ平面内にある。ペンダント基が炭素−炭素二重結合の同じ側にある場合は、それらの基はシスと表され(「Z」としても公知)、それらが炭素−炭素二重結合の反対側にある場合には、それらはトランスと表される(「E」としても公知)。この場合を通して、異性体は、シスおよびトランスと呼ばれる。
【0027】
本発明の化合物はトランスである。シス異性体は、一般には有害なものであり、拡散率が増加しない結果となる。一実施形態では、骨格が直鎖のままであるシス異性体を使用することができる。ペンダント基の位置は、分子の中心点に対して対称になることができ、あるいは、中心の炭素に対するペンダント基のタイプまたはそれらの空間的関係の点から、分子の左側が分子の右側と同じに見えないように非対称になることができる。
【0028】
ペンダント基X(同じまたは異なっていてよい)は、水素(H)原子、あるいは10以下、有利には4以下の炭素を有する(場合によってはハロゲンを含有する)直鎖または分岐の炭化水素基、あるいはハロゲンである。Xはまた、エステル基(COO−)またはエトキシ/メトキシ基であってよい。Xの具体例は、メチル基(CH)、エチル基(C)、環からのペンダント基を伴うまたは伴わないフェニルまたは単一の芳香環構造、CHClなどのハロゲン含有アルキル基(C1〜C10)、あるいはClまたはBrなどのハロゲンまたはメトキシ(OCH)またはエトキシ(OCHCH)である。ペンダント基は、同じまたは異なっていてよいが、使用されるペンダント基は、直鎖としての骨格を維持しなければならない。
【0029】
多くのカロテノイドが天然に存在するが、カロテノイド塩は存在しない。その全体を参照によって本明細書に組み込む、共同所有の米国特許第6,060,511号は、トランスナトリウムクロセチネート(TSC)に関する。TSCは、天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、その後主としてトランス異性体を選択する抽出によって製造した。
【0030】
カロテノイドまたはカロテノイド塩のシスおよびトランス異性体の存在は、水溶液に溶解したカロテノイドサンプルに対する紫外可視スペクトルを見ることによって決定することができる。スペクトルが与えられると、最高ピークの吸収値は、可視光波長範囲380〜470nm内で生ずる(使用する溶媒およびBTCまたはBTCSの鎖長に依存する数値)。ペンダント基の付加または鎖長の変化によって、このピークの吸収値は変化するが、当業者には、これらの分子の共役した主鎖構造に対応する可視範囲における吸収のピークを、UV波長範囲220〜300nm内に存在するピークの吸収度で除算したものを、トランス異性体の純粋レベルを決定するために使用できることが理解されるであろう。トランスカロテノイドジエステル(TCD)またはBTCSが水に溶解する場合には、最高可視光波長範囲のピークは、380nm〜470nmの間にあり(正確な化学構造、主鎖の長さ、およびペンダント基に応じて)、UV波長範囲のピークは、220〜300nmの間にある。その全体を参照によって本明細書に組み込むM.Craw and C.Lambert,Photochemistry and Photobiology,Vol.38(2),241−243(1983)によれば、計算の結果(クロセチンが分析された場合)は3.1であり、精製後、6.6に増加した。
【0031】
共同所有の米国特許第6,060,511号のクロセチンのトランスナトリウム塩(天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、その後主にトランス異性体を選択する抽出によって製造したTSC)に関して、UVおよび可視波長範囲用に設計されたキュベットを使用してCrawおよびLambert分析を実施し、平均約6.8の値を得た。本発明の合成TSCに対してその試験を実施すると、その比率は7.0超(例えば7.0〜8.5)、有利には7.5超(例えば7.5〜8.5)、最も有利には8超である。合成された材料は、「純粋物」、または高度に精製されたトランス異性体である。
【0032】
非対称性化合物
非対称性化合物のいくつかの具体例には、それらには限定されないが、以下が含まれる。
【0033】
1)実施例6からのもの−化合物Pの合成
【化5】


【化6】

【0034】
2)実施例8からのもの−化合物Uの合成
【化7】


【化8】

【0035】
3)実施例9からのもの−化合物Wの合成
【化9】


【化10】

【0036】
当業者には、非対称が、TCRO鎖の長さに沿ったペンダント基の空間的位置によって、または分子の各側のペンダント基のタイプを変えることによって、あるいはその両方によって実現できることが理解されよう。さらに、非対称性トランスカロテノイド分子は、対称性トランスカロテノイド分子の場合と同じく、様々なカチオン、極性末端基、および鎖長を有することができる。
【0037】
中間化合物
カロテノイド化合物およびそれらの塩の製造において、最終生成物を得る前に、いくつかの中間化合物が合成される。
【0038】
例えば、TSCの合成における、本発明の方法の化合物AおよびDのカップリング後の主要な中間体を以下に示す。最初はジエチルクロセチネートである。化合物のジプロピル等の形態が代替できるように、ジメチルクロセチネートもジエチルクロセチネートに代替することができる。これらの中間体のいくつかの構造(本明細書の実施例に提示されるいくつかのBTCS分子に対する)を以下に示す。
【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】

【0039】
本発明の化合物の合成
本発明の一実施形態は、共同所有のPCT出願米国第03/05521号および米国特許出願第10/647,132号に記載のプロセスの最後の数ステップになされる改善に関する。新しい本発明において、長鎖カロテノイドの合成のために、C10ジアール(先に化合物Aとして示す)またはC20ジアールを、単一または二重ステップのカップリング反応を介してウィッティヒ塩(C2、C3、C5、C10、C15、またはその他)と反応させて、1つの中間体または2つの中間体(1つが各カップリングステップからのもの)を形成する。次いで、最終的な中間体を鹸化して、所望の鎖長、対称性、および塩のタイプのBTCSを形成する。
【0040】
具体的には、TSCの合成では(本明細書の実施例1および2に詳述)、本発明は、最後から2番目の中間体である化合物Eを生成する、化合物Aおよび化合物D(化合物Bではなく)が関与するカップリング反応に関する。次いで化合物Eを、水酸化ナトリウムとの鹸化反応を介してTSCに変換する。本発明では、形成するTSC生成物は、以前の共同所有の出願に記載されるよりも、高収率および高純度である(組成および異性体)。
【0041】
高収率および高純度をもたらすトランスナトリウムクロセチネート(TSC)などのカロテノイドの合成の改善
1)反応系用の酸化ブチレン溶媒
本発明では、化合物AおよびDのカップリング反応を、酸化ブチレン溶媒系中で実施した。酸化ブチレン/トルエンを、カップリング用の反応媒体として使用した。このステップの収率は、通常、55〜60%の間であった。比較すると、PCT出願米国第03/05521号に記載される合成は、類似のカップリング反応(化合物Aと化合物Bとの間)用の媒体としてベンゼンを使用し、そのステップでの収率は33%であった。
【0042】
このカップリング反応では、溶媒として酸化ブチレンを使用した。というのは、それがウィッティヒ反応用のpH中性溶媒系だからである。pH中性系は、1)pH中性環境において塩が生成されない、2)アルコール種の生成が阻害または排除される、3)最終化合物の沈殿が阻害されるがゆえに有利である。さらに、酸化ブチレンの使用および非常に高純度の出発材料(化合物AおよびD)によって、リンイリド変換用のNaOHを使用する第2の反応ステップが不要になる(前記PCT出願に記載)。したがって本発明のカップリングステップは1つの反応ステップに減り、全体的な生成収率を高めた。
【0043】
このステップに有用な他の溶媒には、塩化メチレン/水酸化ナトリウムおよびナトリウムエチラートまたはナトリウムメチラートが含まれる。
【0044】
2)鹸化ステップにおけるエタノール
新しい合成方法の第2ステップでは、ジエステル(化合物E)のTSCへの鹸化を、エタノールを溶媒として使用して実施する。反応混合物にエタノール/水酸化ナトリウム媒体を使用することによって、このステップでの収率(未修正)92.0%および修正収率80%が得られた。ここで報告したこれらの収率は、単離後のものである。反応物の完全な変換を観測した。
【0045】
ジエチルエステル(化合物E)は、PCT出願米国第03/05521号の合成方法に使用される水およびTHFなどの溶媒に溶けにくい。したがって、本発明においてジエチルエステルに対してより好ましい溶媒であるエタノールを使用することによって、反応時間が著しく低減し、最終的に高収率に至った。このステップでの別の適切な代替物は、イソプロパノールまたはメタノールである。
【0046】
合成プロセスに行った変更の結果を、本発明の方法と、PCT出願米国第03/05521号および米国特許出願第10/647,132号の方法との間の純度および収率の差を示す以下の表にまとめる。本発明のプロセスは、最後から2番目のステップでジエチルクロセチネート(化合物E)を介するが、PCT出願米国第03/05521号のプロセスは、同じステップでジメチルクロセチネート(化合物C)を介することに留意することが重要である。
【0047】
2つの方法によって合成されたトランスナトリウムクロセチネートの特徴の比較
【表1】

【0048】
改善された粒径分布
エタノール洗浄
エタノール洗浄ステップを使用した実験では、生成物の最終的な含水量は低かったが(すなわち0.5wt%)、水洗浄ステップを使用した場合には、最終生成物の含水量は、1.8wt%であった。エタノール洗浄の使用によって、ロット中の粒径の変動が低減し、分布がより均一になった。PCT出願米国第03/05521号の方法を介して生成したTSCの分布は二峰性であったが、本発明はその代わりに、単純な単峰性を示している。この改善は、特に重要である。というのは、粒径は可溶性に影響を及ぼすことができ、分布が均一であるほど、可溶性も均一になるからである。
【0049】
したがって本発明は、次式を有するトランスカロテノイド化合物の合成方法を含む。
YZ−TCRO−ZY
式中、
Y(2つの末端で同じまたは異なっていてよい)=Hまたはカチオンであり、好ましくはNaまたはKまたはLiである。Yは、有利には一価の金属イオンである。Yはまた、有機カチオン、例えばR、Rであってよく、RはHまたはC2n+1であり、nは1〜10、有利には1〜6である。例えば、Rは、メチル、エチル、プロピル、またはブチルであってよい。
【0050】
Z(2つの末端で同じまたは異なっていてよい)=Hと結合する極性基またはカチオンである。場合によっては、カロテノイド(またはカロテノイド関連化合物)上の末端炭素を含み、この基は、カルボキシル(COO)基またはCO基(例えば、エステル、アルデヒド、またはケトン基)、あるいはヒドロキシル基であってよい。この基はまた、硫酸基(OSO)または一リン酸基(OPO)、(OP(OH)O)、二リン酸基、三リン酸、あるいはそれらの組合せであってよい。この基はまた、COORのエステル基であってよく、RはC2n+1である。
【0051】
TCRO=直鎖のトランスカロテノイドまたはカロテノイド関連骨格(有利には100個未満の炭素)は、ペンダント基(以下に定義する)を有し、一般には「共役した」または交互の炭素−炭素二重結合および単結合を含む(一実施形態では、TCROは、リコペンなどで完全には共役していない)。ペンダント基は一般に、メチル基であるが、以下に記載する他の基であってよい。有利な一実施形態では、骨格の単位は、それらの配列が分子の中心で逆になるように結合している。炭素−炭素二重結合を取り囲む4つの単結合は、全て同じ平面内にある。ペンダント基が炭素−炭素二重結合の同じ側にある場合は、それらの基はシスと表され、それらが炭素−炭素二重結合の反対側にある場合には、それらはトランスと表される。本発明の化合物はトランスである。シス異性体は、一般には有害なものであり、拡散率が増加しない結果となる。一実施形態では、骨格が直鎖のままであるシス異性体を使用することができる。ペンダント基の位置は、分子の中心点に対して対称になることができ、あるいは、中心の炭素に対するペンダント基のタイプまたはそれらの空間的関係の点から、分子の左側が分子の右側と同じに見えないように非対称になることができる。
【0052】
本方法は、共役した炭素−炭素二重結合を含有する対称性ジアルデヒドを、トリフェニルホスホラン、例えば[3−カルボメトキシ−2−ブテン−1−イリデン]トリフェニルホスホラン、またはD(2−(エトキシカルボニル)−2−ブテン−4−イル−トリフェニル−ホスホニウムブロミド)などのトリフェニルホスホニウムブロミド、例えばC5ウィッティヒエステルハロゲン化物、あるいはトリフェニルホスホノアセテートなどのC2、C3、またはC5ホスホノエステルといったウィッティヒ剤とカップリングすることを含む。ウィッティヒ剤はまた、トリフェニルホスホニウムクロライド、または臭素化合物と塩素化合物の混合物であることもできる。単一または二重ステップのカップリング反応のいずれかが、所望のTCRO鎖の長さに応じて必要とされる。本明細書の実施例に示されるように、鎖長が長いと、各ステップで同じまたは異なるウィッティヒ剤を伴う2つ以上のカップリング反応が必要になる。
【0053】
有利には、カップリング反応は、場合によっては、トルエン、あるいは塩化メチレン/水酸化ナトリウムおよびナトリウムエチラートまたはナトリウムメチラートを含めた、酸化ブチレン溶媒系などのpH中性溶媒系中で行われる。
【0054】
カップリングステップ後は、カップリング反応の所望の生成物を単離するステップである。
【0055】
カップリングステップの後、第2のカップリングステップを実施し、上記のように生成物を単離する、あるいは先のステップから単離した生成物を鹸化して、BTCS化合物を形成する。第2のカップリング反応が関与する場合、この第2のステップからの生成物を単離し、次いで鹸化する。生成物は、NaOH、LiOH、KOH、およびメタノール、エタノール、またはイソプロパノールの溶液を溶媒として使用して鹸化することができる。
【0056】
鹸化ステップ後、所望の生成物を、エタノールまたは水で洗浄することができる。いくつかの場合、メタノールまたはイソプロパノールが適切な洗浄溶媒である。
【0057】
本発明の医薬品グレードの化合物および組成物の配合および投与
トランスナトリウムクロセチネート(TSC)などのBTCSを含むトランスカロテノイドの、他の成分(賦形剤)との配合では、可溶性を改善し(活性薬剤(例えばTSC)の溶液中濃度を高める)、安定性、バイオアベイラビリティー、およびBTCの等張バランスを改善し、水溶液のpHを低減し、および/または水溶液の浸透圧を高めることが有利である。賦形剤は、溶液中の単量体BTC単位の自己凝集を防止し、またはBTCの早期沈殿を防止するために、添加剤として作用すべきである。賦形剤の添加は、これらの態様の少なくとも1つの助けとすべきである。二極性トランスカロテノイド(BTC)分子は、様々なやり方で配合することができる。基本的な配合物は、BTCの滅菌水中混合物であり、静脈注射によって投与される。この配合物は、シクロデキストリンを含めた様々な医薬品賦形剤を含むことによって改変することができる。これらの配合物は、静脈注射によって投与することもできる。
【0058】
上記の任意の様々な液体配合物をフリーズドライ(凍結乾燥)させて、可溶性および安定性が強化した乾燥粉末を形成することができる。次いで、このような粉末形態は、投与のために再構成される。一方法は、注射用に、粉末を生理食塩水または滅菌水などの液体中で再構成し、次いでそれを静脈注射によって投与することである。この方法は、粉末を1つの区画(compartment)に、液体を他の区画に入れる多区画シリンジの使用を含むことができる。同様に、生成物は、粉末を液体と隔てる障壁を備えるバイアル内に詰めることができる。投与の前にその障壁を破壊し、静脈注射の前に、成分を混合する。
【0059】
特別に配合されたトランスカロテノイド分子に対する投与経路には、静脈注射に加えて、筋肉注射、吸入による送達、経口投与、および経皮投与が含まれる。
【0060】

シクロデキストリン
いくつかの医薬品を投与するためには、医薬品有効成分(API)の吸収性/可溶性/濃度を高める助けとなる別の化合物を添加する必要がある。このような化合物は、賦形剤と呼ばれ、シクロデキストリンは、賦形剤の具体例である。シクロデキストリンは、デンプンに由来する環式炭化水素鎖である。それらは、その構造内の多くのグルコピラノース単位の数によって、互いに異なっている。親シクロデキストリンは、6、7、および8個のグルコピラノース単位を含有し、それぞれα、β、およびγシクロデキストリンと呼ばれる。シクロデキストリンは、最初、1891年に発見され、数年来、医薬品調製物の一部として使用されてきた。
【0061】
シクロデキストリンは、比較的疎水性の中心空洞および親水性の外表面を含有するα−D−グルコ−ピラノースの環式(α−1,4)−結合オリゴサッカライドである。医薬業界では、シクロデキストリンは、主に、難水溶性薬剤の水溶性を高め、それらのバイオアベイラビリティーおよび安定性を高めるための錯化剤として使用されてきた。さらに、シクロデキストリンは、胃腸または眼球の刺激を低減または防止し、好ましくない匂いまたは味を低減または排除し、薬剤−薬剤または薬剤−添加剤との相互反応を防止し、さらには、油および液体薬剤を、微結晶または非晶質粉末に変換するために使用される。
【0062】
BTC化合物は水溶性であるが、シクロデキストリンを使用することによって、所与の用量に対して少量の薬剤溶液を投与することができるように、その可溶性をさらに高めることができる。
【0063】
本発明の化合物と共に使用することができる多くのシクロデキストリンが存在する。例えば、その全体を参照によって本明細書に組み込む米国特許4,727,064号を参照されたい。有利なシクロデキストリンは、γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、および2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、またはBTCの可溶性を高める他のシクロデキストリンである。
【0064】
γ−シクロデキストリンをTSCと共に使用することによって、TSCの水溶性が3〜7倍に増加する。これは、他のいくつかの場合に見られる、シクロデキストリンで活性薬剤の可溶性を高める因子ほど大きくはないが、ヒト(または動物)に対してTSCをより少ない用量で非経口投与できるようにすることが重要である。TSCおよびγ−シクロデキストリンの投与は、溶液ml当たり44ミリグラムものTSCを含有する水溶液をもたらす結果となった。溶液は等モルである必要はない。またγシクロデキストリンの組込みによって、筋肉内注射される場合に、TSCが血流に吸収される。吸収は迅速であり、効果的なTSCの血中レベルに急速に達する(ラットで示した)。
【0065】
シクロデキストリン配合物は、他のトランスカロテノイドおよびカロテノイド塩と共に使用することができる。本発明はまた、塩ではないカロテノイド(例えば、クロセチン、クロシン、または上記の中間化合物などの酸の形態)およびシクロデキストリンの新規組成物を含む。換言すれば、塩ではないトランスカロテノイドは、シクロデキストリンと共に配合することができる。マンニトールは、浸透圧のために添加することができ、またはシクロデキストリンBTC混合物を、等張の生理食塩水に添加することができる(以下参照)。
【0066】
使用されるシクロデキストリンの量は、トランスカロテノイドを含有するが、トランスカロテノイドを放出しない程度の量ではない。
【0067】
シクロデキストリン−マンニトール
TSCなどのトランスカロテノイドは、上記のようなシクロデキストリンおよびマンニトールなどの非代謝糖(例えば、浸透圧を血液と同じになるように調節するためのd−マンニトール)と配合することができる。溶液ml当たりTSC20mg超を含有する溶液は、このように製造することができる。この溶液は、それを希釈し、さらに適切な浸透圧を維持するために、等張の生理食塩水または他の等張溶液に添加することができる。実施例12参照。
【0068】
マンニトール/酢酸
TSCなどのBTCSを、d−マンニトールなどのマンニトール、および酢酸またはクエン酸などの穏やかな酸と共に配合して、pHを調節することができる。溶液のpHは、約8〜8.5にすべきである。溶液は等張溶液に近く、それ自体、直接血流に注射することができる。実施例13参照。
【0069】
水+生理食塩水
TSCなどのBTCSは、水に溶解することができる(有利には注射可能水)。次いでこの溶液を水、通常の生理食塩水、乳酸リンゲル液、またはリン酸緩衝液で希釈し、得られた混合物を注入または注射する。
【0070】
緩衝液
グリシンまたは重炭酸塩などの緩衝液を、TSCなどのBCTを安定にするために、約50mMのレベルで配合物に添加することができる。
【0071】
TSCおよびγ−シクロデキストリン
TSCとシクロデキストリンとの比は、TSC:シクロデキストリンの可溶性データに基づく。例えば、TSC20mg/ml、8%γシクロデキストリン、50mMグリシン、pH8.2+/−0.5の2.33%マンニトール、あるいはTSC10mg/mlおよび4%シクロデキストリン、あるいはTSC5mg/mlおよび2%シクロデキストリン。これらの成分の比は、当技術者には明らかであるように、いくらか変えることができる。
【0072】
マンニトールは、浸透圧を調節するために使用することができ、その濃度は、他の成分の濃度に依存して変わる。グリシンは一定に保たれる。TSCはpHが高いほど安定である。安定性および生理的適合性のためには、pH約8.2+/−0.5を要する。グリシンの使用は、凍結乾燥と適合する。あるいは、グリシンの代わりに50mM重炭酸塩緩衝液を使用して、TSCおよびシクロデキストリンを配合する。
【0073】
γ−シクロデキストリンのエンドトキシン除去
市販の医薬品グレードのシクロデキストリンは、静脈注射と不適合なエンドトキシンレベルを有する。静脈注射を企図したBTC配合物にシクロデキストリンを使用するためには、エンドトキシンレベルを低減しなければならない。
【0074】
凍結乾燥
BTC薬剤を乾燥させるために、凍結乾燥ならびに他の結晶化法を使用することができる。
【0075】
本発明の化合物はまた、米国特許出願10/647,132号に記載される配合物のセクションに従って配合することができる。
【0076】
肺内投与
TSCは、肺内投与後に血流に吸収されることが証明されている。γ−シクロデキストリンを組み込むと、血漿クリアランスを増加させる全体的な効果で、TSCの全身循環への吸収が高まる。また、注射量を増大することによって、より長期間にわたってTSCの吸収がより増大する。したがって、同じ投薬の注射量が多いほど、バイオアベイラビリティーが高まる。経肺経路を介するTSCの投与によって、ラットの出血性ショックを首尾よく治療できることが判明している。
【0077】
シクロデキストリンは、経肺吸収には不要である。pH’d脱イオン水中のTSCからなる経肺研究は、血流への首尾よい吸収を示した。
【0078】
筋肉内投与
TSCは、脱イオン水に溶解しただけでは筋肉内経路を介して吸収されないが、シクロデキストリンの添加(配合された薬剤生成物などで)によって、血流に吸収される。γ−シクロデキストリンをTSCと共に投与することによって、首尾よく全身循環に吸収される。筋肉内注射を介するTSCの投与によって、ラットの出血性ショックを首尾よく治療できることが判明している。TSCのプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリマー(PEG)、および他の薬剤との配合も、筋肉内注射を介してTSCを投与する場合には、血流への吸収の助けとなる。これらの薬剤は、筋肉内投与のために、他のBCTと共に使用することもできる。
【0079】
経皮投与
TSCは、シクロデキストリンと共に配合する場合、ラットでは、経皮投与後に血流に吸収されることが判明している。TSCのプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリマー(PEG)、DMSO、および他の薬剤との配合も、TSCを経皮投与する場合に、血流への吸収の助けとなる。これらの薬剤は、経皮投与のために、他のBCTと共に使用することもできる。
【0080】
経口投与
TSCは、経口投与後に血流に吸収されることが判明している。γ−シクロデキストリンなどのシクロデキストリンを、TSCなどのBCTと共に組み込むことによって、TSCの全身循環への吸収が高まることが見出された。BCTのプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリマー(PEG)、および他の薬剤との配合も、血流への経口による吸収性を高める。
【0081】
本発明の化合物および組成物の使用
本発明の化合物および組成物は、ヒトを含めた哺乳動物の様々な障害を治療するために使用することができる。中間化合物を含めた本発明の上記の化合物は、以下の使用、ならびに米国特許出願第10/647,132号に記載の使用に使用することができる。
【0082】
トランスカロテノイドおよび悪性腫瘍の照射
放射能抵抗性を高める腫瘍細胞の低酸素症を克服するためには、酸素治療が有用である。実際、ある量が定義されており、酸素効果比(OER)として公知である。その値は、所与のレベルの生存細胞をもたらす放射線量が、低酸素条件下での一定の要因によって、細胞が十分に酸素を送り込まれる場合よりも多いことを示すものである。ほとんどの哺乳動物の細胞では、OERは2.5〜3である。換言すれば、低酸素細胞を死滅させるためには、十分に酸素を送り込まれた細胞を死滅させるのに要する放射線量の2.5〜3倍を要する。したがって、腫瘍への酸素運搬を増加するほど、悪性細胞を「死滅」させるための放射線量を低減することができる。このことは、多くのタイプの腫瘍において重要である。
【0083】
トランスナトリウムクロセチネートなどの二極性トランスカロテノイド化合物の使用によって、低酸素組織に達する酸素量が増加することが示されており、したがってそれは非常に有用な放射線増感剤となっている。二極性トランスカロテノイド化合物は、使用する放射線量を低減することができ、または照射の効率を高め、腫瘍を退行させ治癒することができる。それは、現在放射線が使用されているいかなるタイプの癌に対しても有用である。放射線治療は、癌患者の約60%に施され、一般には、数週間にわたって約6000〜6500cGyの放射線量が使用される。TSCなどのBTCまたはBTCSを、放射線と併用して、より高い治癒率を得ることができる。一実施形態では、TSCは、各放射線投与の前に、0.02〜2mg/kg、有利には0.05〜1mg/kgで投与される。別のタイプの投与に対しては、より多くの用量が使用される(例えば、TSCが他の経路で全て吸収されないために3倍多い)。
【0084】
一実施形態では、放射の効率を高めるために、TSCなどのBTC化合物の投与に加えて、高圧酸素の使用、純酸素ガスの呼気、またはメソニジゾールといった別の化合物の投与などの別法を実施する。これらのさらなる方法は、以下に論じる他の使用(例えば、化学療法)と共に実施することもできる。
【0085】
放射線治療を伴う本発明の化合物は、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頚部癌、婦人科癌、泌尿器および男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨の癌、内分泌線の癌、消化管の癌(例えば、結腸癌)、主な消化腺/器官(例えば、胃、肝臓、膵臓)の癌、CNS癌(グリオーマなどの脳腫癌を含めた)、ならびに肺癌に関連した腫瘍を含めた多くのタイプの腫瘍の治療に使用することができる。
【0086】
トランスナトリウムクロセチネート(TSC)は、マウスに移植されたヒトの癌腫に対する放射線増感剤として、首尾よく使用されている。0.07mg/kg〜0.18mg/kgの範囲のTSCの投与量が、これら腫瘍のタイプへの照射の効果を高めることを結論付ける研究が実施された。
【0087】
トランスカロテノイドおよび化学療法
トランスナトリウムクロセチネートなどのトランスカロテノイド化合物によって、低酸素組織に達する酸素の量が増加することが示されており、したがって、癌の化学療法との組合せに有用となり得る。トランスカロテノイド化合物は、化学療法の効率を高めることができる。現在化学療法が使用されているいかなるタイプの癌に対しても有用である。化学療法は、癌患者の大多数に施され、多くの異なるタイプの薬剤に使用される。TSCなどのBTCまたはBTCSは、化学療法と組み合わせて使用して、腫瘍の退化および高い治癒率を得ることができる。一実施形態では、TSCは、0.02〜2mg/kg、有利には0.05〜1mg/kgで、各化学療法の薬剤が静脈投与される前、その最中、または後に投与される。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補う(account for)ために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0088】
化学療法を伴う本発明の化合物は、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頚部癌、婦人科癌、泌尿器および男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨の癌、内分泌線の癌、消化管の癌(例えば、結腸癌)、主な消化腺/器官(例えば、胃、肝臓、膵臓)の癌、CNS癌(グリオーマなどの脳腫癌を含めた)、ならびに肺癌に関連した腫瘍を含めた多くのタイプの腫瘍の治療に使用することができる。
【0089】
心室細動
心臓は、電気信号が心臓を通るときに脈打つ。心室細動(「V fib」)は、心臓の電気的活動に障害が生じる症状である。これが生じると、心臓の心室(拍出)は急速に、非同期的に収縮する。(心室が脈打つのではなく、「粗動」する。)心臓はほとんどまたは全く拍出しない。
【0090】
心室細動は、非常に深刻な症状である。続いて即座に医療の助けが提供されなければ、その後数分で虚脱および突然心臓死が起こる。治療が間に合えば、V fibおよび心室頻拍(極度の頻拍)が、通常の拍に戻る。この症状に対する現在の治療は、除細動器と呼ばれる装置を用いて、心臓にショックを与えること要する。生命に関わる拍を正常に戻す別の効果的なやり方は、植込み型除細動器と呼ばれる電子装置を使用することである。この装置は、心臓自体の電気信号が障害を受けた場合、心臓にショックを与えて心拍を正常化する。
【0091】
心室細動および頻拍は両方、トランスナトリウムクロセチネート(TSC)などの本発明の化合物を使用して「正常に戻す」こともできる。TSCは、心筋梗塞の前臨床試験中に静脈注射した際、心室細動を防止した。さらにTSCは、出血性ショックに罹患したラットの、頻拍を低減することが示された。
【0092】
TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0093】
高血圧
ヒトの酸素消費量は、経年につれて低下する。さらに高血圧の発症率は、年齢と共に増加する。特定の理論に拘泥するものではないが、これらの2つの因子は関連している、すなわち組織に対してより多くの酸素を提供するために、組織の酸素消費量は低下し、血圧は増加すると考えられている。したがって、他のいくつかの方法によってより多くの酸素が提供される場合には、血圧は低下するはずである。TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0094】
TSCなどの本発明の化合物は、最高血圧を低下すると同時に最低血圧を低下させる。それらはまた、心拍数を低減し、したがって高血圧の患者において頻繁に上昇する脈拍数を低下させることができる。
【0095】
高血圧を治療するためのTSCの有利な投与量は、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。
【0096】
高脂血症
TSCなどの本発明の化合物は、トリグリセリドを含めた血漿脂質レベルおよびコレステロールレベルを低下させることができる。TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0097】
早生児での使用
TSCなどの本発明の化合物は、知的技能の鈍化を回避するために、早生児に使用することができる。TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0098】
分娩中の使用
TSCなどの本発明の化合物は、分娩中の胎児の酸素欠乏を回避するために、分娩中に、胎児または母親に投与することによって使用できる。分娩中の胎児の酸素欠乏は、脳の損傷または自閉症を生じ得る。TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kgであり、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0099】
煙吸入後の使用
TSCなどの本発明の化合物は、著しい煙吸入後に投与することができる。TSCの有利な投与量は、静脈投与される場合、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与する場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0100】
筋繊維痛
TSCなどの本発明の化合物は、線維筋痛を治療するために、細胞の酸素レベルを増大させることによって使用することができる。TSCの有利な用量は、静脈投与の場合には、0.02〜2mg/kg、より有利には0.05〜1mg/kgである。別の経路を介して投与される場合、バイオアベイラビリティーの低下を補うために、用量を2〜3倍増加する必要がある。
【0101】
以下の実施例は、例示的なものであり、本発明の化合物、組成物、および方法を制限するものではない。当業者には明らかである通常生ずる様々な条件およびパラメータの他の適切な改変および適応は、本発明の精神および範囲に含まれる。
【0102】
[実施例]
実施例の略語リスト
a/a[%] 相対的純度%
AP 水層
Approx. 約
COA 分析証明
corr. 修正
d 日数
DCM ジクロロメタン
DSC 示差走査熱量
E−No. 個々の各化合物の参照番号
Eq 当量
EtOAc 酢酸エチル
FW 式量
GMP 良好な製造原理
h 時間
H−NMR 水素核磁気共鳴
HPLC 高圧液体クロマトグラフィー
HV Herstellungsvorschrift(合成手順)
IPC 工程管理
IT 内部温度
JT ジャケット温度
LC−MS 液体クロマトグラフィー質量分析
MeOH メタノール
min 分
ML 母液
MOR マスター操作記録
nc 修正なし
OP 有機層
RT 室温(約22℃)
sat. 飽和
soln. 溶液
sm 出発材料
Temp. 温度
TFA. トリフルオロ酢酸
Th. 理論的
TPPO トリフェニルホスフィンオキシド
TLC 薄層クロマトグラフィー
TSC トランスナトリウムクロセチネート(C−013229)
UV 紫外分光法
y. 収率
【0103】
実施例1
TSC165gの小スケール合成
化学反応の概説
【化19】

【0104】
化合物E(ジエチル2,6,11,15−テトラメチル−ヘキサデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E−ヘプタエン−1,16−ジオテート)の合成
【化20】


サイズ: 化合物A130g 0.792mol(修正なし)
Th.量: 化合物E304.4g
Pr.量: 化合物D139.6g 0.736mol(修正なし)
+化合物E143.2g
収率(修正なし): 92.9% 純度: 93.68%+96.99%a/aHPLC
【表2】

【0105】
手順
1.フラスコを真空にし、窒素でパージした。
2.フラスコを、JT=20℃で、化合物A(1)および化合物D(2)で充填した。
3.酸化ブチレン(3)およびトルエン(4)をフラスコにJT=20℃で充填した。フラスコを真空にし、窒素で2回パージした。反応混合物をJT=100℃に温めた。均質な溶液を得た。
4.溶液をJT=100℃で6.5時間撹拌した(ITは約93℃であった)。
5.IPCに対するサンプルを取得した。
【表3】


6.混合物を、IT=20℃にゆっくり冷却した(15時間)。
7.赤色懸濁液を形成した。懸濁液を、2時間以内でIT=1℃に冷却した。
8.懸濁液を、ろ過乾燥機で数分以内ろ過した。
9.2℃に冷却したエタノール(5)を使用して、フラスコをすすいだ。リンス液をろ過乾燥機に移した。
10.ろ過ケーキを、22℃で、メチルシクロヘキサン(6)で洗浄した。
11.ろ過ケーキを、55℃で5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
12.化合物E139.6gを、赤色固体として得た。H−NMRによって識別を確認した。純度は、HPLCで決定して93.68%a/aであった。さらに、シス異性体2.90+3.00%も観測された。収率(修正なし)は45.9%であった。
13.母液(約3L)を、その体積の40%に濃縮し(依然として赤色溶液)、JT=100℃で15時間撹拌した(ITは約100℃であった)。
14.赤色懸濁液を形成した。IPCに対するサンプルを取得した。
【表4】


15.混合物を、酸化ブチレン(7)およびトルエン(8、依然として懸濁液)で希釈し、3.5時間以内でIT=2.9℃に冷却した。
16.懸濁液を、ろ過乾燥機で10分以内ろ過した。
17.約2℃に冷却したエタノール(9)を使用して、フラスコをすすいだ。リンス液を、ろ過乾燥機に移した。
18.ろ過ケーキを、18℃で、メチルシクロヘキサン(10)で洗浄した。
19.ろ過ケーキを、50℃で15時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
20.粗生成物384.5gを、赤色固体として得た。H−NMRは、所望の生成物に加えて、TPPOの存在を明らかにした。
21.粗生成物を、メタノール(11)で処理し、JT=60℃で30分間撹拌した。
22.懸濁液を、60分以内にJT=0℃に冷却した。
23.懸濁液を、ろ過乾燥機で数分以内ろ過した。
24.メタノール(11)を使用して、フラスコをすすいだ。リンス液を、ろ過乾燥機に移した。
25.ろ過ケーキを、55℃で2時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
26.粗生成物143.2gを、赤色固体として得た。H−NMRによって識別を確認した。純度は、HPLCによれば96.99%a/aであった。さらに、シス異性体1.02+1.26%が観測された。収率(修正なし)は47.0%であった。H−NMRは、TPPO約11.5%を示した。
【0106】
注記
1)最初のIPCを、2.5時間後に取得した。これによって、アルデヒドおよびさらなるシス異性体の完全な消費が示された。異性体の比は、反応時間と共に改善された。
【0107】
【表5】

【0108】
化合物EからのTSCの合成
【化21】


サイズ:化合物A185g 0.481mol(修正なし)
Th.量:TSC179.2g
Pr.量:TSC164.9g 0.443mol(修正なし)
収率(修正なし):92.0%
純度:97.56%a/aHPLC
【表6】

【0109】
手順
1.フラスコを真空にし、窒素でパージした。
2.フラスコを、JT=20℃で、化合物E(1)で充填した。
3.エタノール(2)および30%NaOH(3)を、JT=20℃でフラスコに充填した。フラスコを真空にし、窒素で2回パージした。反応混合物をJT=90℃に温めた。濃い橙色懸濁液を得た。
4.懸濁液を、JT=90℃で47時間撹拌した(IT約77℃)。
5.混合物を、16時間以内でIT=21℃に冷却した。IPCに対するサンプルを取得した。
【表7】


6.混合物を、水(4)で希釈した。
7.懸濁液を、ろ過乾燥機で50分以内ろ過した。
8.3℃に冷却した水(5)を使用してフラスコをすすぎ、ろ過ケーキを洗浄した。
9.ろ過ケーキを、5℃および2℃に冷却した水(6+7)でさらに洗浄した。
10.ろ過ケーキを、55℃で20時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
11.TSC164.9gを橙色固体として得た。H−NMRによって識別を確認した。純度は、HPLCで測定して97.56%a/aであった。収率(修正なし)は92.0%であった。含水量は、1.89%w/wと測定され、421nmと254nmのUV比は、8.42であった。分析的計算C2022Na−0.5HO−0.2NaOH:C,61.41;H,6.03;Na,12.93;O,19.63。実測値:C,61.5;H,6.2;Na,13.0;O,19.8。
【0110】
【表8】

【0111】
実施例2
cGMP条件下での大スケール(2kg)TSCの生成
反応スキーム概説
【化22】

【0112】
原料
出発材料(化合物AおよびD)の質を検証し、試験結果を以下に示す。
【表9】

【0113】
全ての材料は、所与の仕様書を満たしていた(化合物D:≧97.0%;化合物A:≧94.0%)。さらに、全ての材料は、いかなる動物性成分または動物性生成物に由来するいかなる成分も使用せずに、合成的に調製した。
【0114】
C−10ジアール(化合物A)は、黄色結晶性粉末であった。ホスホランである化合物Dは、白色から黄色の粉末であった。H−NMRによって識別をチェックした。
【0115】
化合物Eの合成
【化23】


サイズ:化合物A2.99kg 18.21mol(修正なし)
Th.量:化合物E7.00kg
Pr.量:化合物E3.79kg+化合物E705g 11.69mol(修正なし)
収率(修正なし):64.2%
純度:93.70%+90.01%a/aHPLC
【表10】

【0116】
手順
1.100L反応器を真空にし、窒素で2回パージした。
2.100L反応器を、JT=20℃で、化合物A(1)および化合物D(2)で充填した。
3.酸化ブチレン(3)およびトルエン(4)を、JT=20℃で反応器に充填した。100L反応器を真空にし、窒素で2回パージした。反応混合物を、JT=100℃に温めた。均質な溶液を得た。
4.溶液をJT=100℃で4時間撹拌した(ITは約98℃であった)。
5.溶液を、わずかな減圧下、JT=110℃で濃縮した。溶媒9.0Lを除去した。混合物をJT=110℃で13時間撹拌した(ITは約105℃であった)。
6.混合物を酸化ブチレン(5)で希釈し、IT=20℃に冷却した(2.75時間)。赤色懸濁液を形成した。
7.IPCに対するサンプルを取得した。
【表11】


8.混合物をIT=0℃に冷却した(80分)。
9.懸濁液を、ろ過乾燥機で100分以内ろ過した。
10.冷却したエタノール(6)を使用して、100L反応器をすすいだ。リンス液を、ろ過乾燥機に移した。
11.ろ過ケーキを、メチルシクロヘキサン(7)で洗浄した。
12.ろ過ケーキを、55℃で4.5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
13.粗生成物5.246kgを、赤色固体として得た。H−NMRスペクトルは、所望の生成物に加えて、著しい量のTPPO(約25%〜30%)の存在を明らかにした。
14.粗生成物をろ過乾燥機に移し、メタノール(8)で洗浄した。
15.ろ過ケーキを55℃で19時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
16.化合物E3.787kgを、赤色固体として得た(粗原料3#1)。H−NMRによって識別を確認した。純度はHPLで測定して93.70%a/aであった。さらに、シス異性体3.17+2.54%も観測された。収率(修正なし)は54.1%であった。
17.母液(約81L)を、わずかな減圧下、JT=100℃で濃縮した。溶媒30Lを除去した。混合物を、JT=110℃で12.5時間、撹拌した(ITは約105℃であった)。
18.混合物を、酸化ブチレン(9)およびトルエン(10)で希釈し、IT=20℃に冷却した(2.75時間)。赤色懸濁液を形成した。
19.IPCに対するサンプルを取得し、0℃に冷却し、ろ過した。
【表12】


20.混合物を酸化ブチレン(11)およびトルエン(12)で希釈し、JT=60℃に温め、再びIT=20℃に冷却した。
21.ろ過したサンプルを取得し、メタノールで洗浄した。
【表13】


22.懸濁液を、60分以内で1℃に冷却し、ろ過乾燥機で60分以内ろ過した。
23.ろ過ケーキを、メチルシクロヘキサン(13)で洗浄した。
24.ろ過ケーキを、メタノール(14+15)で2回洗浄した。
25.ろ過ケーキを、55℃で4.5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
26.粗生成物705gを、赤色固体として得た(粗原料2#1)。H−NMRによって識別を確認した。純度は、HPLCで測定して90.01%a/aであった。さらに、HPLCで、シス異性体3.83%+5.34%を観測した。収率(修正なし)は10.1%であった。全修正収率は、63.0%であった。
【0117】
注記
1)異性体の比は、HPLCによれば約60:40トランス/シスであった。
【0118】
【表14】

【0119】
化合物EからのTSCの合成
【化24】


サイズ:化合物A3.70kg 9.62mol(修正なし)
Th.量:TSC3.58kg
Pr.量:TSC2.19kg 5.88mol(修正なし)
収率(修正なし):61.2%
純度:98.76%a/aHPLC
【表15】

【0120】
手順
1.100L反応器を真空にし、窒素で2回パージした。
2.100L反応器を、JT=20℃で、化合物E(1)で充填した。
3.エタノール(2)および30%NaOH(3)を、JT=20℃で100L反応器に充填した。100L反応器を真空にし、窒素で2回パージした。反応混合物を、JT=90℃に温めた。濃い橙色の懸濁液を得た。
4.懸濁液を、JT=90℃で63時間撹拌した(IT81℃)。
5.混合物を、IT=21℃に2時間以内冷却した。IPCに対するサンプルを取得した。
【表16】


6.混合物を、水(4)で希釈した。
7.懸濁液を、ろ過乾燥機で15時間以内ろ過した。
8.エタノール(5)を使用して、100L反応器をすすいだ。
9.ろ過ケーキを、0℃〜5℃の間の冷却水(6、7+8)で3回洗浄した。
10.ろ過ケーキを、エタノール(9)で洗浄した。
11.ろ過ケーキを、50℃で5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。
12.TSC2.186kgを、橙色固体として得た。H−NMRによって識別確認した。純度は、HPLCで測定して97.96%a/aであった。収率(修正なし)は、61.2%であった。注記1参照。含水量は、1.58%w/wと測定され、421nmと254nmのUV比は、8.9であった。分析的計算C2022Na−0.34HO:C,63.47;H,6.04;Na,12.15;O,18.35。実測値:C,63.81;H,5.64;Na,12.21;O,18.34。
13.粗原料1#1 2.184kgを、RTで4日間、ブレンダーで振とうした。残りの塊を、すりこぎで簡単に粉砕した。粗原料2#1 2.183kg(AA−013329−バッチ−01−2004に対応)である橙色固体を得た。純度は98.76%a/aHPLCであった。DSC測定値には違いがないことが明らかになった。
【0121】
注記
1)生成物は水溶性である。したがって、長時間のろ過ならびにさらなる水洗浄は、この特定の場合において観測された低収率をもたらした可能性があった。3度目の水洗浄を行って、生成物に所望のナトリウム量を含有させた。
【0122】
【表17】

【0123】
分析論
HPLC法
方法: HPLC−TSC−M.1.2
代替法: HPLC−TSC−M.1.1
方法が有効となるもの:C−009594、化合物A、TSC、化合物D、化合物E
化学物質: アセトニトリル、HPLCグレード(J.T.Bakerまたは相当物)
水、HPLCグレード(精製されたミリQ系または相当物)
トリフルオロ酢酸(Merckまたは相当物)
THF、安定剤なしのHPLCグレード(Scharlauまたは相当物)
MeOH、HPLCグレード(Scharlauまたは相当物)
装置: HP−1100系または相当物
カラム:YMC Pack Pro C18、100×4.6mm、3μm
移動相調製:
溶液A: HO/ACN 90:10%v/v中TFA0.1%
溶液B: CAN
サンプル調製:
混合溶媒: THF、MeOH、HO、ACN
C−009594、C−013327:粗材料6〜7mg(正確に秤量)をMeOHに溶かす。
C−014679:粗材料6〜7mg(正確に秤量)をACN30mLに溶かし、100mL線まで水で満たす。
C−014681:粗材料6〜7mg(正確に秤量)をTHF100mLに溶かす。
C−013329:粗材料6〜7mg(正確に秤量)をHO10mLに溶かし、100mLまでTHFで満たす。
【表18】


積分パラメータ:NA
【表19】

【0124】
UV法
この合成のための改変方法
方法: UV−TSC−M.2.1
代替法: −
方法が有効となるもの:TSC
化学物質: 水、HPLCグレード(精製されたミリQ系または相当物)
装置: Perkin Elmer Lambda25系または相当物
キュベット: 石英ガラス1cm
UVパラメータ: 波長:421nm;350nm;254nm
サンプル調製: 10mg(正確に秤量)を、水50mLに溶かした。サンプルを、45〜50℃で30分間、超音波処理した。この溶液1mLを、さらなる水49mLで希釈した(全溶液体積50mlを製造した)。
ドキュメント履歴および方法履歴:線形範囲内で測定するために改変したカスタマー法のサンプル調製。
【0125】
実施例3
トランスカリウムクロセチネート(二カリウム2,6,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E−ヘプタン−1,16−ジオテート)の合成
トランスカリウムクロセチネートを、以下、TPCまたは化合物Fとも呼ぶ。化学的合成を以下に示す。
【化25】

【0126】
鹸化反応(合成の最後のステップ)を、先の実施例1および2で使用したプロセスと同じように実施した。ジエチルエステルである化合物Eを、先の実施例1および2に記載したように調製した。
【0127】
この実施例では、化合物Eを、90℃で4日間、エタノール(EtOH)(1.5ml/mmol)中30%水酸化カリウム(KOH)(1.5ml/mmol)で処理した。プロセス中にいくらかの溶媒が損失することから、混合物をエタノールで希釈した。室温(22℃)でろ過し、水中50%エタノール(3回)で洗浄することによって、橙色生成物を単離した。生成物を、JT=60℃で5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。これによって、反応収率86%を得た(12gスケールの実験(12g experiment))。H−NMRスペクトルおよびLC−MSスペクトルによって、所望の生成物がトランスカリウムクロセチネートであることを確認した。HPLCの質は、先の実施例2に記載したHPLC法を使用して、検出波長421nmで98.3%であった。
【0128】
実施例4
トランスリチウムクロセチネート(二リチウム2,6,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E−ヘプタン−1,16−ジオテート)の合成
トランスリチウムクロセチネートを、以下にTLCまたは化合物Gとも呼ぶ。化学的合成を以下に示す。
【化26】

【0129】
鹸化反応を、実施例1〜3で概説したプロセスに類似のプロセスによって実施した。ただしこの場合、水酸化リチウムを鹸化剤として使用した。この実施例では、化合物Eを、再び実施例1および2に記載のように合成した。化合物Eを、90℃で4日間、エタノール(EtOH)(1.5ml/mmol)中10%水酸化リチウム(LiOH)(2.8ml/mmol)で処理した。濃い橙色懸濁液を室温(22℃)でろ過し、水中50%エタノール(3回)および純粋エタノールで洗浄した。濃い橙色の固体を、ジャケット温度(JT)=60℃で5時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。これによって、濃い橙色の固体9.5gを生成した。
【0130】
この化合物のHPLC分析は、所望の生成物に加えて、38%a/aの出発材料が残ったことを示した。著しい量の残りの出発材料は、この鹸化反応において、あまり濃縮されていない塩基性溶液(LiOH)を使用した結果である可能性が高い。この場合、LiOHの水溶性には限界があることを鑑み、わずか10%のLiOH水溶液を使用した。他の実施例(本明細書に記載した1〜3)では、30%塩基性水溶液を使用した。
【0131】
反応収率を改善するために、前のステップから単離した生成物を、95℃でさらに2日間、水中50%EtOH(2.9ml/mmol)中、固体LiOH(13当量)で処理した。水酸化リチウムを用いたこの第2の処理から得られた橙色生成物を、室温でろ過し、水中50%EtOH(3回)および純粋EtOHで洗浄することによって単離した。得られた固体を、ジャケット温度=60℃で3時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。これによって、生成物14gの収量を得た。これは、理論的な収量を超えることから、水中でのさらなるスラリー化(1.6ml/mmol)を実施して、過剰のLiOHを除去した。室温でろ過し、水中50%EtOH(3回)および純粋EtOHで洗浄することによって、橙色生成物を単離した。生成物を、ジャケット温度=60℃で2時間、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。これによって、全体的反応収率67%(12gスケールの実験)に相当する8.5gの収量を得た。
【0132】
H−NMRおよびLC−MSスペクトルの両方によって、所望の生成物であるトランスリチウムクロセチネートを得たことを確認した。HPLCの質は、先の実施例1に記載した分析手順を使用して、検出波長を421nmに設定して99.7%であった。
【0133】
実施例5
TSCのC−14誘導体(二ナトリウム4,9−ジメチルドデカ−2E,4E,6E,8E,10E−ペンタン−1,12ジオテート)の合成
TSCより短い鎖長の対称性化合物の合成には、実施例1〜4に示される化合物Bとは異なるウィッティヒ剤の使用が必要であった。短い鎖長のBPTC化合物は、以前使用した化合物AであるC−10ジアルデヒドを使用して合成する。次いで化合物Aを、市販のC2またはC3−ホスホン酸塩またはホスホニウムブロミド(化合物H)とのホルナー−エモンズ反応またはウィッティヒカップリング反応を介して変換して、それぞれ対応するC14−およびC16−エステルを形成した。NaOH/EtOHとの加水分解によって反応が完了し、その結果、TSCの所望のC14またはC16−誘導体を形成した。
【0134】
TSCのC−14誘導体である化合物Jの合成は、化合物Aおよび化合物H(エトキシカルボニル−メチル−トリフェニルホスホニウムブロミド)の反応を介して完了した。以下に示すように、化合物AおよびHが反応して、化合物Jを生成する鹸化ステップの前に、最終中間体である化合物Iを形成した。
【化27】

【0135】
化合物Iを形成するためのカップリング反応
化合物Iの最も良好な形成方法は、C2ホスホニウムブロミド(化合物H)の使用であった。このカップリング反応は、先の実施例1〜4で使用したように、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.7ml+1.4ml/mmol)中で実施した。ウィッティヒ試薬3当量を用いて、ジャケット温度=100℃で良好な生成物が形成した。0℃でろ過し、続いてメチルシクロヘキサンで(2回)洗浄することによって、黄色生成物を単離した。このステップの収率は、56〜61%(10gスケール)であった。
【0136】
純度は、HPLCを使用して、検出波長369nm(11.5分)でトランス異性体83.4%a/aと測定された。化合物Iに加えて、HPLCトレースにおいてさらなる3つの化合物の存在が観測されたが、それらは化合物Iのシス異性体であると推測される(1.0%a/a、10.5分;13.4%a/a、11.2分;2.0%a/a、11.9分)。
【0137】
最終生成物(化合物J)を形成するための鹸化反応
化合物Iを化合物Jに変換するための鹸化反応を、実施例1〜4に記載したものに類似のやり方で実施した。ジエチルエステルである化合物Iを、90℃で3日間、EtOH(4ml/mmol)中30%NaOH(2ml/mmol)で処理した。室温でろ過し、水中50%EtOH(5回)および純粋EtOH(3回)で洗浄することによって、黄色生成物を単離した。鹸化反応によって、約100%の粗原料収率を得た。純度を改善するために、混合物を、90℃で4時間、EtOH(1ml/mmol)中30%NaOH(0.5ml/mmol)中でスラリー化した。懸濁液を0℃でろ過し、EtOH(3回)で洗浄し、未修正収率79%(10gスケール)に相当する黄色生成物を得た。H−NMRによって、所望の生成物である化合物Jを、383nmに設定された検出波長で、HPLCの質97.8%で合成したことを確認した。
【0138】
実施例6
TSCのC−15誘導体(二ナトリウム2,4,9−トリメチルドデカ−2E,4E,6E,8E,10Eペンタエン−1,12−ジオテート)の合成
化合物Aは、化合物K(1−(エトキシカルボニル)−エチルトリフェニルホスホニウムブロミド)であるC3ホスホニウム塩/C3ウィッティヒエステル臭化物と反応して、この反応順序における最初の中間体である化合物Mを生成した。あるいは、この最初のステップにおいて、化合物Aが化合物L(トリエチル−2−ホスホノプロピオネート)であるC3ホスホノエステルと反応して中間化合物Mを生成する場合、同じ結果を実現することができる。
【0139】
第2のカップリング反応において、化合物Mは化合物H(エトキシカルボニル−メチルトリフェニルホスホニウムブロミド)であるC2ホスホニウム塩/C2ウィッティヒエステル臭化物と反応して、最後から2番目の中間体である化合物Oを形成した。あるいは、化合物Oは、化合物Mと化合物N(トリエチル−ホスホノアセテート)であるC2ホスホノエステルとの間の反応を介して形成することができる。
【0140】
最終反応ステップでは、化合物Oが鹸化反応して、TSCのC−15非対称性誘導体である化合物Pを形成した。反応スキームを下の図に示す。
【化28】

【0141】
C15誘導体は、2つの異なる単一カップリング反応を連続的に使用することを必要とした。第1反応はC3ホスホノエステルまたはホスホニウムブロミドとの反応であり、第2反応は、C2ホスホニウムブロミドとの反応である。あるC16ジエチルエステルの形成に起因して、第1の単一カップリング反応からの粗生成物を、シリカゲルでのクロマトグラフィーによって精製した。
【0142】
化合物Mを形成するための第1のカップリング反応
化合物Aを、100℃で1日間、1当量のC−3ホスホニウムブロミド(化合物K)で処理した。このカップリング反応を、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.7ml+1.4ml/mmol)中で実施し、良好な生成物形成を示した。室温に冷却し、後に0℃に冷却する間、沈殿物は観測されなかった。次いで、橙色混合物をシリカゲルでろ過した(0.33g/mmol)。ろ過ケーキをトルエン(1.7ml/mmol)で洗浄した。ろ液を混合し、蒸発させてJT=45℃で乾燥させて、橙色の油として現れる粗生成物を得た。
【0143】
次に、反応混合物を蒸発させて乾燥させた。残渣をMeOH中でスラリー化して、固体の形態の粗生成物を得て、次いで、MeOH(3回)で洗浄した。得られた粗生成物の質は、所望のC13単一カップリング生成物である化合物Mに加えて、C16ジエチルエステルが存在したことに起因して、不十分であった。したがって、10:1メチルシクロヘキサン/EtOAcを用いたシリカゲルでの精製ステップを実施した。粗生成物をジクロロメタンに溶かした(粗生成物0.3ml/g)。C−16ジエチルエステル(約7%)が、溶出する最初の化合物であった。このステップの実施後、収率は45%(20gスケールの実験)であった。小スケールでは、収率は70%もの高さであった。最高の質の生成物は、検出波長383nm(9.22分)で、98.1%a/aのトランス異性体を有していると測定された。化合物Mのシス異性体と推測されるさらなる化合物が存在していた(1.7%a/a、9.47分)。
【0144】
化合物Oを形成するための第2のカップリング反応
化合物Mを、100℃で1.5当量のC−2ホスホニウムブロミド(化合物H)で処理した。このカップリング反応を、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.5ml+1ml/mmol)中で実施し、良好な生成物形成を示した。0℃でろ過し、メチルシクロヘキサンで2回洗浄することによって、黄色生成物を単離した。このステップでの収率は36%であった。
【0145】
収率を改善するために、母液を元の体積の約半分に濃縮し、0℃に冷却して、収率27%の第2の収穫物を得た。混合した両方の収穫物の全収率は、63%であった(13gスケール)。
【0146】
最高の質の生成物(化合物O)は、検出波長383nm(12.4分)で、87.0%a/aのトランス異性体を有していると測定された。さらに、第2の化合物をHPLCトレースで認めた(11.3%a/a、11.8分)が、これは化合物Oのシス異性体であり得る。
【0147】
最終生成物(化合物P)を形成するための鹸化反応
ジエチルエステルである化合物Oを、90℃で3日間、EtOH(4ml/mmol)中30%NaOH(2ml/mmol)で処理した。緑黄色生成物をRTでろ過し、水中50%EtOH(5回)およびEtOH(3回)で洗浄することによって単離した。鹸化反応によって、収率83%がもたらされた(6gスケール)。
【0148】
H−NMR実験によって、所望の生成物である化合物Pを確認した。HPLCの質は、検出波長383nmで97.0%化合物Pであった。さらに、1.4%a/a+1.2%a/aに相当する他の可能なシス異性体を観測した。LCMSデータによって、所与の構造を確認した。
【0149】
実施例7
TSCのC−16誘導体(二ナトリウム2,4,9,11−テトラメチルドデカ−2E,4E,6E,8E,10E−ペンタエン−1,12−ジオテート)の合成
化合物Aは、化合物L(トリエチル−2−ホスホノプロピオネート)であるC3ホスホノエステルと反応して、この合成における重要な中間体である化合物Qを形成した。あるいは、化合物Qは、化合物Aと、化合物K(1−(エトキシカルボニル)−エチルトリフェニルホスホニウムブロミド)であるC3ホスホニウム塩/C3ウィッティヒエステル臭化物との間の反応によって生成することができる。最初の反応物(化合物A、K、およびL)は、実施例6に見出されるように同じであるが、ここで使用した反応条件は、異なる対称性中間体である化合物Qを産出した。
【0150】
反応の最終ステップでは、化合物Qが、鹸化反応において水酸化ナトリウムおよびエタノールと反応し、最終生成物である化合物Rが生成した。化合物R(二ナトリウム2,4,9,11−テトラメチルドデカ−2E,4E,6E,8E,10E−ペンタエン−1,12−ジオテート)は、TSCのC−16対称性誘導体である。反応スキームを、以下の図に示す。
【化29】

【0151】
化合物Qを形成するためのカップリング反応(反応物として化合物Lを使用)
C16−誘導体(化合物R)の合成を、実施例6に示した化合物Aと化合物Lとの間のカップリング反応に類似のやり方で開始した。化合物Aを、100℃でトルエン/酸化ブチレン2:1中、化合物Lで処理した。化学反応は塩基の添加なしでは観測されず、この場合、混合物を0℃に冷却し、NaOMe(3当量)を添加した。
【0152】
C−3ホスホノエステル(2×1.5当量)およびDCM中NaOMeから2回調製した第2の量の試薬を、反応混合物に添加した。混合物をJT=65℃で撹拌し、高い割合の所望の生成物を観測した。HPLCトレースは、ごくわずかの割合の未反応化合物Aが残っていた(2.3%a/a)ことを示した。反応混合物を水でクエンチし、有機相を、水、飽和NaHCO溶液、および50%飽和NaCl溶液からなる溶液で洗浄した。蒸発後、化合物Q36.4gが得られた。
【0153】
シリカゲル、10:1メチルシクロヘキサン/EtOAcを使用して、化合物Qの精製を行った。淡黄色生成物(化合物Q)0.26gおよび黄色固体(化合物M)4.0gを得た。エステル交換生成物である化合物Q(ジエチルエステルではなくジメチルエステル)を、MeOHを溶媒として使用して、収率32%で単離した。アルコール溶媒も、カップリング反応に適していたと考えられる。全体としてこのステップからの生成物の質は、純度85.7%と優れていた。HPLC実験により、不純物の大部分は化合物Qのシス異性体であることが示された。
【0154】
化合物Qを形成するためのカップリング反応(化合物Kを反応物として使用)
化合物Qを合成するための第2の実験では、カップリング反応における、化合物Lを化合物Kで置き換えた。この置換によって、全体的により良好な反応交換が示された。化合物Aと化合物Kとの間のカップリング反応を、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.9ml+1.8ml/mmol)の混合物中で実施し、3当量のウィッティヒ試薬を用いて、JT=100℃(22時間)で良好な生成物の形成を示した。0℃でろ過し、メチルシクロヘキサンで2回洗浄することによって、黄色生成物を単離した。収率は、61〜62%(10gスケール)であった。HPLC分析によって、化合物Qの純度は、369nm(13.3分)でトランス異性体85.2%a/aであり、不純物の大部分はシス異性体であることが示された。
【0155】
最終生成物(化合物R)を形成するための鹸化反応
化合物Rを生成するための鹸化反応を、実施例5に記載のものに類似のやり方で実施した。ジエチルエステル(化合物Q)を、90℃で3日間、EtOH(4ml/mmol)中30%NaOH(2ml/mmol)で処理した。鹸化によって、RTでのろ過と、水中50%EtOH(3回)およびEtOH(3回)での洗浄の後に、収率85%(12.5gスケール)を得た。H−NMRによって、所望の生成物が化合物Rであることを確認した。HPLCの質は、検出波長383nmで95.7%であった。さらに、シス異性体3.8%が観測された。LCMSデータによって、所与の構造を確認した。
【0156】
実施例8
TSCのC−17誘導体(二ナトリウム2,6,11−トリメチルテトラデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12Eヘキサエン−1,14−ジオテート)の合成
TSCの長鎖の非対称性誘導体の調製を、実施例1〜2のように、化合物AおよびDを出発材料として使用して実施した。ただしこの場合、第1のカップリング中間体である化合物Sを好都合に形成するために、反応条件を変化させた。次いで化合物Sを、第2のカップリング反応で化合物Hと反応させて、化合物Tを形成した。この反応順序の最終ステップで、化合物Tを水酸化ナトリウムおよびエタノールと鹸化反応させて、所望の最終生成物である化合物Uを形成した。化合物Uは、TSCのC−17誘導体であり、ジエン主鎖の周りのペンダントメチル基の位置で非対称である。合成順序の詳細を以下の図に示す。
【化30】

【0157】
化合物Sを形成するための第1のカップリング反応
化合物Aを、100℃で1日間、1当量の化合物Dで処理した。このカップリング反応を、実施例1で使用したように、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.44ml+0.88ml/mmol)中で実施し、良好な生成物の形成を示した。その後の0℃での冷却ステップ中に、元の濃い(dark)赤色溶液から、懸濁液を形成した。最終的に、0℃でろ過し、メチルシクロヘキサン(3回)で洗浄することによって、赤色−橙色固体を単離した。この赤色−橙色固体を、実施例1〜4に前述の化合物Eと同定した。この場合の化合物Eの収率は、約4%であった。
【0158】
前述のステップからの母液を、蒸発させてJT=45℃で乾燥させて、粗化合物S生成物を赤色油として得た。得られた粗生成物の質は、所望の生成物である化合物Sに加えて、いくらかの化合物Eが存在したことに起因して不十分であった。化合物Sを単離するために、8:1メチルシクロヘキサン/EtOAcを用いたシリカゲルでの精製ステップを実施した。そのために、粗生成物を、まずジクロロメタン(粗生成物0.3ml/g)中で溶媒和した。この混合物から最初に溶出した生成物は、C−20ジエチルエステル(化合物E)であった。残りの画分(fraction)は、所望の化合物Sを含む、化合物の混合物を含有していた。このステップ後の収率は、橙色固体が46%(30gスケールの実験)であった。質は、検出波長369nm(10.4分)でトランス異性体71.2%a/aと測定された(HPLCによる)。さらに、化合物Sのシス異性体である可能性が高い2つのさらなる化合物が同定された(0%a/a+4.9%a/a)。
化合物Tを形成するための第2のカップリング反応
【0159】
化合物Sを、100℃で1.5当量の化合物Hと反応させた。このカップリング反応を、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.6ml+1.2ml/mmol)中で実施し、良好な生成物の形成を示した。0℃でろ過し、メチルシクロヘキサンで2回洗浄することによって、赤色生成物である化合物Tを単離した。収率は58%(10gスケール)であった。質は、検出波長421nm(14.2分)でトランス異性体97.2%a/aと測定された。さらに、他の2つの化合物を検出したが、それらは化合物Tのシス異性体であると推測される。
【0160】
化合物Uを形成するための鹸化反応
鹸化反応を、実施例1〜4に類似のやり方で実施した。化合物Tを、90℃で4日間、EtOH(2ml/mmol)中30%NaOH(2ml/mmol)で処理した。2日後、混合物を水で希釈した(1ml/mmol)。RTでろ過し、水中50%EtOH(2回)およびEtOH(3回)で洗浄することによって、黄色生成物である化合物Uを単離した。鹸化反応は、収率93%(7gスケール)を示した。H−NMRによって、所望の生成物が化合物Uであることを確認した。HPLCの質は、検出波長399nmで98.4%であり、ある主な不純物0.7%が見出された。
【0161】
実施例9
TSCのC−18誘導体(二ナトリウム2,4,9,13−テトラメチルテトラデカ−2E,4E,6E,8E,10E,12Eヘキサエン−1,14−ジオテート)の合成
TSCのC18誘導体である化合物Wを、本出願の実施例6および8に見られるように、2つの連続した単一カップリング反応を介して調製した。第1のカップリング反応を、実施例8のように開始して、化合物Sを形成した。第2のカップリング反応では、化合物Sを化合物Kと反応させて、最後から2番目の中間体である化合物Vを形成した。所望の最終生成物である化合物Wを、化合物Vの鹸化反応を介して生成した。以下の図は、合成順序の詳細を示す。
【化31】

【0162】
化合物Sを形成するための第1のカップリング反応
化合物Sを形成する上記の第1のカップリング反応は、本願の実施例8で先に述べている。この実施例で使用した方法は、同じものである。
【0163】
化合物Vを形成するための第2のカップリング反応
化合物S(C15モノエステルとしても公知)を、100℃で1.5当量の化合物K(C−3ホスホニウムブロミド)と反応させることによって、第2のカップリング反応を実施した。このカップリング反応を、酸化ブチレン/トルエン2:1(0.6ml+1.2ml/mmol)中で実施し、良好な生成物の形成を示した。0℃でろ過し、メチルシクロヘキサン中で2回洗浄するステップによって、橙色生成物を単離した。このステップの収率は、56%(9gスケール)であった。化合物Vの質を、HPLCを使用して測定し、検出波長369nm(14.2分)で、トランス異性体96.7%a/aであることを見出した。さらに、観測された主な不純物(1.7%a/a、13.6分)は、化合物Vのシス異性体であると推測される。
【0164】
化合物Wを形成するための鹸化反応
鹸化反応を、先の実施例に類似のやり方で実施した。化合物Vを、90℃で4日間、EtOH(3.4ml/mmol)中30%NaOH(2.2ml/mmol)で処理した。2日後、混合物を水で希釈した(1.1ml/mmol)。RTでろ過し、水中50%EtOH(2回)およびEtOH(3回)で洗浄することによって、黄色生成物を単離した。鹸化反応によって、収率98%(6gスケール)を得た。H−NMRによって、得られた生成物が所望の生成物、化合物Wであることを確認した。HPLC分析によって、化合物Wの純度が、検出波長405nmで99.2%であることが示された。さらに、不純物0.3%a/aが観測されたが、それは化合物Wのシス異性体であると思われる。
【0165】
実施例10
TSCのC−24誘導体(二ナトリウム4,8,13,17−テトラメチルエイコサ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E,16E,18Eノナエン−1,10−ジオテート)の合成
TSCの長鎖誘導体は、還元および酸化ステップを伴う多段階合成プロセスの使用を要した。この実施例は、TSCのC24誘導体(二ナトリウム4,8,13,17−テトラメチルエイコサ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E,16E,18Eノナエン−1,10−ジオテート)の合成を例示する。化合物Eを用いて合成を開始したが、これは本明細書に既に記載したいくつかの実施例の出発点である。化合物E(ジエチルエステル)を、還元ステップを介して、ジアルコールである化合物Xに変換した。反応順序における第3のステップは、化合物XをMnOで酸化して化合物Yを形成するステップであった。次のステップは、化合物Hとカップリング反応して化合物Zを形成するステップであり、最終鹸化ステップで、所望の生成物である化合物AAを形成した(TSCのC−24誘導体)。反応順序を以下に示す。
【化32】

【0166】
化合物Eを形成するための反応
化合物Eを形成するための化合物AとDとの間のカップリング反応は、既に実施例1〜4に記載した。
【0167】
化合物Xを形成するための還元反応
ジエチルエステル(化合物E)40gをトルエンに懸濁し、JT=−70℃で、DiBAl(6当量)で処理した。混合物をJT=−70℃で4.5時間撹拌した。IPCによって、完全な変換が明らかになった。混合物を、−77℃で、2MのHClでクエンチした。
【0168】
混合物を3つの部分に分割した。各部分を、水およびTHFで希釈した。有機層をブラインで3回洗浄した。混合有機層を、JT=45℃で蒸発させて、収率98%に相当する橙色固体30.63gを得た。水性層の再抽出によって、橙色固体をさらに1.48g得た。
【0169】
上記のプロセスから、HPLCによって測定して89.0%a/aの質の橙色生成物を得た。さらに、アルデヒド副反応生成物と思われる不純物を、異性体4.8%a/aの濃度で得た。
【0170】
さらに、還元反応が、LAHまたはNaBHを用いて実施できるかどうかを決定するための別の研究を実施した。THF中、0℃でのLAHの還元(2当量)と共に、4時間以内でRTにゆっくり温めることによって、1gスケールの実験で収率約80%を得たが、その質は、DiBAl−H法を用いたほど高くはなかった。しかし、この試薬は、このステップでのさらなる評価の選択肢となり得る。逆に、THF中NaBH(2当量)での還元は、このステップでは不適切であることが見出された。さらに、MeOHの共溶媒としての添加は、反応を改善しなかった。
【0171】
化合物Yを形成するための酸化反応
化合物Yを形成するための酸化反応を最適化するために、2つの実験を実施した。第1の実験では、アセトン中、低濃度の化合物X(1.7%)および過剰のMnO(30当量)を使用して、酸化反応を実施した。反応を0℃で開始し、1日かけてRTに温めた。試薬をセライトまたはシリカゲルでのろ過および蒸発によって除去して、収率42〜57%で紫色固体生成物を得た。生成物の質を、検出波長421nmでHPLC87.7%a/aと測定した。この手法は、HPLCで測定して、高い純度の生成物をもたらした。
【0172】
酸化反応を実施するための第2の手法として、小スケールの実験を、結晶化手順に焦点を合わせて実施した。アセトン/水2:3の比(0.013g/ml)の混合物を溶媒として使用して、このステップで最高の結果を得た。ジオキサン/MCH(1:2)、THF、およびEtOAcなどの他の溶媒では、良好な結晶化の結果が得られなかった。結晶化を改善した1つのパラメータは、ジャケット温度の変化であった。ジャケット温度を75℃に上昇させると、生成のための変換が顕著に改善され、全体の反応に要するMnOの量が30当量から10当量に低減した。この改変された手法に取り入れたステップのより詳細な説明を、以下の段落に記載する。
【0173】
化合物X5gをアセトンに懸濁させ、JT=75℃で、MnO5当量で処理した。混合物を75℃で2日間撹拌した。IPCによって、出発材料に加えて、ジアルデヒドおよびモノアルデヒド種の存在が明らかになった。結果として、さらなるMnO5当量を添加して、反応を完了するためにさらに促進させた。8時間の反応時間後には、ほとんどの出発材料および中間体が消費された。混合物を冷却し、まずシリカゲルでろ過し、続いてセライトでろ過した。二重ろ過ステップは、MnOを除去するために必要であった。膜での第3のろ過ステップを実施した。全体として、ろ過ケーキをTHFで洗浄することによって、微量のマンガンを伴う濃い褐色生成物1.95g+2.51gに加えて、赤色生成物0.7gを生成した。反応の全質量の収量は、5.16g(99.6%)であった。IPCのHPLC:463nmで61.0%+5.4%+19.3%(異性体を含む)。
【0174】
酸化反応に対するこの第2の手法では、生成物の収率は、第1の合成順序より高いが、HPLCの質は、化合物Y生成物中に残る酸化マンガンの残量が起因して高くはなかった。
【0175】
いずれの手法でも、中間体(モノアルデヒド)は、良好な収率および質を実現するために消費されなければならないことに留意されたい。マンガン残渣は、高温のTHFまたはEtOAcでの溶媒交換を介して、ろ過ステップの前に除去することができる。
【0176】
化合物Zを形成するためのカップリング反応
C24ジエチルエステル(化合物Z)の合成を、実施例5、6、および8に類似のやり方で、化合物Hを使用して実施した。C20ジアール(化合物Y)を、100℃で1日間、トルエン/酸化ブチレン2:1(1mlおよび0.5ml/mmol)中、化合物Hで処理した。RTに冷却する間、沈殿物は観測されなかった。依然として澄んだ濃い赤色溶液であった。
【0177】
次いで、混合物を蒸発させて、JT=40〜50℃で乾燥させた。残渣をMeOH(1.25ml/mmol)で処理し、0℃に冷却した。懸濁液をろ過し、ろ過ケーキを2回、メタノールで洗浄した。このステップによって、JT=50℃のロータリーエバポレーターでの乾燥後に、赤褐色生成物を得た。
【0178】
この反応の収率は、19〜22%であった。この収率は、母液からの生成物のさらなる再生で改善することができた。最高の質は、検出波長421nm(16.8分)で、(化合物Zの)トランス異性体92.4%a/aと測定された。HPLCスペクトルで観測されたさらなる化合物は、化合物Zのシス異性体であると思われる。
【0179】
化合物AAを形成するための鹸化反応
鹸化反応を、本願に先に報告したものに類似のやり方で実施した。ジエチルエステル(化合物Z)を、90℃で3日間、EtOH(3ml/mmol)中30%NaOH(3ml/mmol)で処理した。水(6ml/mmol)およびエタノール(3ml/mmol)で希釈し、RTでろ過し、水中50%EtOH(12ml/mmol)およびEtOH(12ml/mmol)で洗浄した後、鹸化反応によって収率83%(0.8gスケール)を得た。HPLCの質は、463nmで、シス異性体0.5%に加えて化合物AA95.3%であった。
【0180】
実施例11
TSCのC−26誘導体(二ナトリウム2,4,8,13,17,19−ヘキサメチルエイコサ−2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E,16E,18Eノナエン−1,10−ジオテート)の合成
【化33】

【0181】
化合物Yを形成するための反応順序
化合物Yを形成するために要する反応順序は、実施例10に前述した。この実施例では同じ順序に従った。
【0182】
化合物BBを形成するためのカップリング反応
C26ジエチルエステルの合成を、実施例9に記載のように、化合物Yの生成から開始した。化合物Yを、100℃で1日間、トルエン/酸化ブチレン2:1(2mlおよび1ml/mmol)中、化合物Kで処理した。RTに冷却する間、沈殿物は観測されなかった。依然として澄んだ濃い赤色溶液であった。混合物を0℃に冷却した。得られた懸濁液をろ過した。その後、ろ過ケーキをMeOHで3回洗浄して、JT=45℃のロータリーエバポレーターでの乾燥後に、濃い紫色固体を得た。
【0183】
このステップでの収率は17〜26%の間であった。主な理由の1つは、母液中に生成物のいくらかが残留したことであった。最高の質の生成物は、検出波長463nmでトランス異性体83.9%a/aと測定された(HPLCによる)。観測されたさらなる化合物は、化合物BBのシス異性体であると推測される。この実験は、1.5gスケールで実施した。
【0184】
化合物CCからの鹸化反応
鹸化反応を、実施例9に記載のものに類似のやり方で実施した。ジエチルエステル(化合物BB)を、90℃で3日間、EtOH(3ml/mmol)中30%NaOH(3ml/mmol)で処理した。水(6ml/mmol)およびエタノール(3ml/mmol)で希釈し、RTでろ過し、水中50%EtOH(12ml/mmol)およびEtOH(12ml/mmol)で洗浄した後に、鹸化反応によって収率84%(0.8gスケール)を得た。H−NMRによって、所望の生成物(化合物CC)を得たことを確認した。HPLCの質は、検出波長460nmで91.5%であった。さらに、シス異性体0.2%が観測された。
【0185】
実施例12
シクロデキストリン−マンニトールでのTSCの配合
1.等モル濃度のシクロデキストリンおよびTSCを含有する溶液を製造する。溶液ml当たりTSC20mg超を含有する溶液をこのやり方で製造することができる。まず、シクロデキストリンを注射用水に添加し、次いでその溶液にTSCを添加する。
2.d−マンニトールを添加し、それによって最終濃度が、溶液中マンニトール約20〜50mg/mlになるようにする。
3.この溶液を、希釈し、適切な浸透圧に維持するために、等張の生理食塩水に添加することができる。溶液を生理食塩水に添加する、または生理食塩水を溶液に添加する。
【0186】
実施例13
マンニトール/酢酸を用いたTSCの配合
1.蒸留水中0.01M酢酸溶液を製造する。
2.この溶液を、最終酢酸濃度が0.0005Mになるように、注射用水と適切な割合で混合する。注記:強すぎる酢酸を使用しない。例えば0.0006Mは可、0.001MではTSCを溶解しない。
3.0.0005M酢酸溶液をTSCにゆっくり添加する。最大溶解度は溶液ml当たりTSC約6〜6.5mgである。
4.適切な浸透圧を得るために、d−マンニトールを上記溶液に50mg/mlの濃度で添加する。この溶液のpHは、約8〜8.5である。その溶液は等張溶液に近くすべきであり、それ自体、血流に直接注射することができる。
【0187】
実施例14
肺内投与
TSCは、ラットでは、肺内投与後に血流に吸収されることが証明されている。この方法では、ラットに挿管し、少量(通常0.1mL)のTSC溶液を注射し、その後2回、空気パフ3mLを注射する。所与の投与量の40〜70%が、急速に血流に存在することが見出された(最大血漿濃度に達するまでの時間は5分未満であった)。
【0188】
気管に注射される液体の体積、ならびに配合済み薬剤生成物の形態としてのTSCの使用の効果を調査する、経肺投与に関するさらなる研究が実施されてきた。配合済み薬剤生成物は、滅菌水で再構成した、γ−シクロデキストリン8%、マンニトール2.3%、および50mMグリシン、ならびにTSC20mg/mLを含有していた。所望の用量を実現するために、これらの研究では滅菌生理食塩水(0.9%)を希釈剤として添加した。同じ用量(937μg/kg)を、全てのラットに投与した。
【0189】
γ−シクロデキストリンの組込みは、TSCの全身循環への吸収と共に、血漿クリアランスの全体的な増加効果を高めるらしいことが見出された。また、注射量を増加すると、より長期にわたってTSCの吸収がさらに高まる。したがって、同じ投薬でも多量に注射するほど、バイオアベイラビリティーが高くなる。ラットの出血性ショックは、経肺経路を介したTSC投与によって、首尾よく治療できることを見出したことにも留意されたい。
【0190】
実施例15
筋肉内投与
TSCは、単に脱イオン水に溶解させると、筋肉内経路を介して吸収されないが、シクロデキストリンを添加すると(配合済み薬剤生成物として)、血流に吸収される。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンと配合し、水に溶かしたTSCを含む少量(0.05ml)を、ラットの各大腿筋に注射した。体重kg当たり3347μgの筋肉内投与(体重kg当たり2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン14mgと共に)によって、最高の血漿TSC濃度4.8μg/mLおよびバイオアベイラビリティー0.27を得た。γ−シクロデキストリンをTSCと共に投与することによって、全身循環への首尾よい吸収性も得られた。ラットの出血性ショックは、筋肉内注射を介してTSCを投与することによって、首尾よく治療された。
【0191】
実施例16
経皮投与
TSCは、ラットでは、経皮投与後に血流に吸収されることが証明されている。これらの研究では、角質層を露出させるために、腹部周りおよび/または外部大腿部の選択領域を切り、および/または削った。配合済み薬剤生成物(γ−シクロデキストリン8%、マンニトール2.3%、および50mMグリシン、ならびにTSC20mg/mL)を露出した角質層に塗布し、所与の用量の0.25〜0.5%が、投与後15〜30分で血流に存在していた。
【0192】
実施例17
経口投与
PE−50管を使用して、配合済みTSCをラットの胃に供給し、その後血漿濃度を測定した。各実験の前に、ラットを24時間断餌させた。水は任意に与え、ワイヤメッシュの床を備えるケージを使用することによって食糞を防止した。ある研究ではTSC投与後に任意に食餌させたラットを使用し、別の研究ではTSC投与後に食餌を与えないラットを使用した。両グループの所与のTSCの用量は55mg/kgであり、投与量の1〜2%が、投与後15〜30分で血流に存在していた。
【0193】
実施例18
γ−シクロデキストリンのエンドトキシン除去
製造者から得た市販の薬剤グレードのγシクロデキストリンは、静脈注射に適合しないエンドトキシンレベルを有する。静脈注射を企図したTSC配合物にγシクロデキストリンを使用するためには、エンドトキシンレベルを低減しなければならない。エンドトキシン除去フィルタ(ミリポア0.22ミクロンのデュラポアフィルター)を介する、シクロデキストリン溶液の多重ろ過パスを使用するプロセスが開発され、それによってエンドトキシンレベルが約10〜30分の1に低下した。シクロデキストリンの回収率は、90〜100%である。8%γシクロデキストリン溶液に対してこのプロセスを使用することによって得られた結果の一例が、以下の表である。
【表20】

【0194】
実施例19
凍結乾燥
水分3%未満のケーキを生成するための凍結乾燥プロセスは以下の通りである。
【表21】

【0195】
希釈剤
浸透圧をマンニトールで調節したグリシン緩衝液の希釈液(例えば、マンニトール2〜4%を含む50mMグリシン緩衝液)を、希釈剤として使用することができる。
【0196】
実施例20
放射線増感剤
0.25および0.35cmの間であると測定されたHCT116ヒト結腸癌腫瘍を、無胸腺の雄マウス(購入時6〜7週)の後足で増殖させ、それを使用前に2〜3週成長させる必要があった。患者は通常、放射線治療中は麻酔されないので(麻酔は、腫瘍への血流を減少させ、より低酸素にすることがある)、研究は、麻酔しない動物で実施した。
【0197】
研究グループ1から6と指定した、グループ当たり5匹のラットの6つの研究グループ(合計30匹のマウス)であった。研究では、全てのマウスに、TSC用量または生理食塩水の対照を、連続5日間静脈注射した。以下に示すように、研究グループ1、2、および3には、TSC用量A、B、およびCを投与した。研究Bについては、それぞれ0.07、0.14、および0.28mg/kgに対応し、研究Aについては、それぞれ1.35、0.54、および0.18mg/kgに対応する。
【表22】

【0198】
グループ4には、生理食塩水対照を注射した。連続5日間のそれぞれの注射の45分後に、研究グループ1〜4の腫瘍に、2Gy照射を施した。研究グループ5には、TSCのみを与え、研究グループ6には、生理食塩水のみを与え、研究グループ5にも6にも照射しなかった。全てのグループの腫瘍の体積を、毎週4週間の早期に、または腫瘍が治療開始時の体積の4倍に達するまで測定した。これらの試験の結果を以下に示す。
【表23】


【表24】

【0199】
研究Aの最適な投与量は、0.18mg/kgであり、研究Bについては、投与量0.07および0.14mg/kgが同様に良好に機能した。TSCのみの使用も研究した。それらの結果を放射線のみの効果と共に以下に示す(上のグラフにも示す)。TSCだけでは、腫瘍の増殖に明らかな影響を与えないことがわかる。
【表25】

【0200】
当業者には、本発明の化合物および組成物両方、ならびに関連する方法に対して、開示する本発明から逸脱することなく、数々の修正および追加を加えられることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の腫瘍の治療方法であって、哺乳動物に、
i)下記式を有する二極性トランスカロテノイド塩、および
ii)前記腫瘍に対する放射線
を投与するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩を、前記放射線の投与前、その最中、または後に投与する方法。
YZ−TCRO−ZY
[式中、Y=カチオン(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、Z=カチオンと結合する極性基(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、TCRO=共役した炭素−炭素二重結合および単結合、ならびにペンダント基X(互いに同じであっても異なっていてもよい)を有する直鎖のトランスカロテノイド骨格であり、前記ペンダント基Xが、10以下の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基、あるいはハロゲンである]
【請求項2】
前記放射線を、線量約6000〜6500cGyで数週間にわたって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍が、グリア芽種、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頚部癌、婦人科癌、泌尿器および男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨の癌、内分泌線の癌、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌ならびに肺癌に関連した腫瘍からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍が脳腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記二極性トランスカロテノイド塩が下記構造を有するトランスナトリウムクロセチネートである、請求項1に記載の方法。
【化1】

【請求項6】
前記トランスナトリウムクロセチネートを、前記放射線の投与前に0.02〜2mg/kgで投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1又は6に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物の癌の治療方法であって、哺乳動物に、
i)下記式を有する二極性トランスカロテノイド塩、および
ii)化学療法
を投与するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩を、前記化学療法の投与前、その最中、または後に投与する方法。
YZ−TCRO−ZY
[式中、Y=カチオン(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、Z=カチオンと結合する極性基(互いに同じであっても異なっていてもよい)であり、TCRO=共役した炭素−炭素二重結合および単結合、ならびにペンダント基X(互いに同じであっても異なっていてもよい)を有する直鎖のトランスカロテノイド骨格であり、前記ペンダント基Xが、10以下の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基、あるいはハロゲンである]
【請求項9】
前記癌が、グリア芽種、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頚部癌、婦人科癌、泌尿器および男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨の癌、内分泌線の癌、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌ならびに肺癌からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が脳腫癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記二極性トランスカロテノイド塩が下記構造を有するトランスナトリウムクロセチネートである、請求項8に記載の方法。
【化2】

【請求項12】
前記トランスナトリウムクロセチネートを、前記化学療法の投与前に0.02〜2mg/kgで投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物がヒトである、請求項8又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの組成物を形成している、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項15】
前記Yが一価の金属イオンである、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項16】
前記YがNa、KまたはLiである、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項17】
前記Yが有機カチオンである、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項18】
前記Yが、R及びRからなる群より選ばれる有機化合物であり、前記RがHまたはC2n+1であり、前記nが1〜10である、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項19】
前記ZがTCROの末端炭素を含む、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項20】
前記Zが、カルボキシル(COO)基、CO基およびヒドロキシル基からなる群より選ばれる、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項21】
前記CO基が、エステル、アルデヒドまたはケトン基である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記Zが、硫酸基(OSO)、一リン酸基(OPO)、(OP(OH)O)、二リン酸基及び三リン酸基からなる群より選ばれる、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項23】
前記ZがCOORのエステル基であり、前記RがC2n+1である、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項24】
前記TCROの炭素数が100未満である、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項25】
前記TCROが対称性を有する、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項26】
前記ペンダント基Xがメチル基である、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項27】
前記ペンダント基Xが、4以下の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基である、請求項1又は8に記載の方法。
【請求項28】
前記ペンダント基Xが、メチル基(CH)およびエチル基(C)からなる群より選ばれる、請求項1又は8に記載の方法。


【公開番号】特開2012−51896(P2012−51896A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209754(P2011−209754)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2007−557157(P2007−557157)の分割
【原出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(504322138)ディフュージョン・ファーマシューティカルズ・エルエルシー (8)
【Fターム(参考)】