説明

トランスファーの潤滑機構

【課題】簡素で強度の高い構造により、潤滑油をオイルシールへ直接的に供給可能なトランスファーの潤滑機構を提供する。
【解決手段】回転軸1と、回転軸1の後端部を収容するケーシング2と、回転軸1とケーシング2の間に介在して回転軸1を回転自在に支持するベアリング5と、回転軸1又は回転軸1と一体回転する部材(出力部材8)とケーシング2との間に設けられたオイルシール4と、回転軸1内にベアリング5の前方からベアリング5に向かって延在するよう形成された第1の油路1aと、回転軸1内に形成され、ベアリング5の直下で径方向に延在して一側が第1の油路1aと連通し他側が回転軸1の外周面上で開口する第2の油路1bと、回転軸1の外周面とベアリング5の内周面との間を延在するよう設けられ、一側が第2の油路1bの他側の開口と連通し、他側がベアリング5後方の空間10bに連通する第3の油路1cとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファーの潤滑機構に関し、特に、軸内潤滑を用いるトランスファーの潤滑機構に関し、中でも、四輪駆動車両等、動力を前後車輪に分配する車両に搭載されるトランスファーの潤滑機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トランスファー等を収容するケーシング内のベアリング前方の空間において、潤滑油が動力分配用のチェーン又はスプロケット等の回転によってケーシング内面に付着し、付着した潤滑油がケーシング内面を伝わって流れ落ち、流れ落ちた潤滑油の一部がリヤケースに形成された油溝を通じて、ベアリング後方の空間、すなわち、ベアリングとオイルシール間に導入されることによって、ベアリングとオイルシールが潤滑されるトランスファーの潤滑機構が提案されている。
【0003】
図3は、従来例に係るトランスファーの潤滑機構を説明するための部分断面図である。
【0004】
図3を参照すると、従来例に係るトランスファーは、回転軸11と、回転軸11等を収容するケーシング12と、回転軸11とケーシング12の間に介在して回転軸11を回転自在に支持するベアリング15と、ケーシング12内のベアリング15後方の空間において、回転軸11にスプライン嵌合された動力分配用の出力部材18とケーシング12との間に設けられたオイルシール14と、回転軸11に前記ベアリング前方で嵌合された動力分配用のスプロケット16と、回転軸11にベアリング15後方でスプライン嵌合された動力分配用の出力部材18と、前記スプロケット16と前記ベアリング15の間に嵌装されたワッシャ17と、を有する。ベアリング15のインナーレース15aは回転軸11に取り付けられ、同アウターレース15bはケーシング12の径方向延在壁に取り付けられている。
【0005】
図3に示した従来例に係るトランスファーの潤滑機構、特に、オイルシール14に潤滑油を導入するための潤滑機構は、回転軸11内にベアリング15の前方からベアリング15に向かって延在するよう形成された軸方向油路11aと、回転軸11内に形成され、ベアリング15前方で径方向に延在して一側が軸方向油路11aと連通し他側がベアリング15前方で回転軸11の外周面上で開口する径方向油路11bと、回転軸11の外周面とスプロケット16の内周面との間を延在するよう設けられ、一側が径方向油路11bの他側開口と連通し、スプロケット16とワッシャ17との間の隙間に連通するスプロケット内周側油路11cと、前記ワッシャ17の上方に設けられたベアリング15の前方空間10aと後方空間10bとの間を連通するオイルレシーバー13と、を有する。
【0006】
図3に示した従来例に係るトランスファーの潤滑機構によれば、軸方向油路11a、径方向油路11bを通って、スプロケット内周側油路11cに至った潤滑油が、ワッシャ17が回転することによる遠心力を受けて、スプロケット16とワッシャ17との間の隙間から径方向外方に飛散してオイルレシーバー13に捕捉される。そして、オイルレシーバー13に捕捉された潤滑油は、ケーシング12内壁に沿って流れ落ちオイルシール14に供給される。
【特許文献1】特開平9−133202号公報(図1、段落0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1又は図3に示したトランスファーの潤滑機構によれば、潤滑油を、回転軸から径方向に離間した位置に設けられた油溝又はオイルレシーバーを経由して、オイルシールに間接的に供給している。また、油溝又はオイルレシーバーを設けるため、潤滑機構に関する構造が複雑になるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡素で強度の高い構造により、潤滑油をオイルシールへ直接的に供給可能な信頼性の高いトランスファーの潤滑機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の視点において、軸内潤滑を用いるトランスファーの潤滑機構であって、回転軸と、少なくとも前記回転軸の後端部を収容するケーシングと、前記回転軸と前記ケーシングの間に介在して該回転軸を回転自在に支持するベアリングと、前記ケーシング内の前記ベアリング後方の空間において、前記回転軸又は該回転軸と一体回転する部材と前記ケーシングとの間に設けられたオイルシールと、前記回転軸内に前記ベアリングの前方から該ベアリングに向かって延在するよう形成された第1の油路と、前記回転軸内に形成され、前記ベアリングの直下で径方向に延在して一側が前記第1の油路と連通し他側が前記回転軸の外周面上で開口する第2の油路と、前記回転軸の外周面と前記ベアリングの内周面との間を延在するよう設けられ、一側が前記第2の油路の前記他側の開口と連通し、他側が前記ベアリング後方の空間に連通する第3の油路とを有することを特徴とするトランスファーの潤滑機構を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトランスファーの潤滑機構によれば、回転軸内に形成された第1の油路と第2の油路、さらに、回転軸とベアリングの間に設けられた第3の油路を経由して、潤滑必要部位、例えば、ベアリング後方に位置しトランスミッションケース(エクステンションハウジング)後端と回転軸又は回転部材後端の間を封止するオイルシールに、潤滑油を直接的に供給することができるため、簡素な構造によりオイルシールの潤滑及びシールの信頼性が向上される。また、回転軸において、一般的に、ベアリング後方よりも径が太く形成されるベアリング直下に、第2の油路を穿設することにより、回転軸の強度を低下させることなく、上記潤滑必要部位へ直接的に潤滑油を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構において、前記第3の油路がポート状である。なお、第3の油路は、スプラインの小径切れ上がり部位でもよく、形状の自由度は制限されない。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構は、前記回転軸にスプライン嵌合する出力部材を有し、前記ベアリング後方側面と、前記回転軸と前記出力部材のスプライン嵌合部との間にある隙間を通じて、前記第3の油路と前記ベアリング後方の空間が連通する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構は、前記ベアリング後方側面と、前記回転軸又は該回転軸と一体回転する部材との間で径方向に延在するよう形成され、一側が前記第3の油路と連通し、他側が前記ベアリング後方の空間に開口する第4の油路を有する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構において、前記回転軸の径は、前記ベアリング直下よりも前記ベアリング後方が小さく形成され、前記第2の油路は前記ベアリング直下のより径大な部分に形成される。この潤滑機構によれば、回転軸において、強度余裕代の大きいベアリング直下に油路(径方向穴)が設けられる。このように、本発明によれば、回転軸において径大な部分に径方向油路を穿設することができるため、本発明は、体として径が細い回転軸にも好適に適用することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構においては、前記ベアリング前方の側面が、前記回転軸に直接的に当接する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態に係るトランスファーの潤滑機構において、前記ケーシングは、トランスミッションケース、エクステンションハウジング、エンドカバーなどを含む。
【実施例】
【0017】
図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構を示す部分断面図である。図2(A)及び図2(B)は、図1に示した潤滑機構における第3の油路(ポート状油路)を示す部分図であり、図2(A)は上面図、図2(B)は断面図である。
【0019】
図1、図2(A)及び図2(B)を参照すると、本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構は、回転軸1と、少なくとも回転軸1の後端部を収容するケーシング2と、回転軸1とケーシング2の間に介在して回転軸1を回転自在に支持するベアリング5と、ケーシング2内のベアリング5後方の空間において、回転軸1又は回転軸1と一体回転する部材(出力部材8)とケーシング2との間に設けられたオイルシール4と、回転軸1内にベアリング5の前方からベアリング5に向かって延在するよう形成された第1の油路1aと、回転軸1内に形成され、ベアリング5の直下で径方向に延在して一側が第1の油路1aと連通し他側が回転軸1の外周面上で開口する第2の油路1bと、回転軸1の外周面とベアリング5の内周面との間を延在するよう設けられ、一側が第2の油路1bの他側の開口と連通し、他側がベアリング5後方の空間10bに連通する第3の油路1cとを有する。
【0020】
ケーシング2内においては、回転軸1、ベアリング5、ケーシング2の径方向延在壁によって、ベアリング5前方の空間10aと後方の空間10bが隔てられている。
【0021】
回転軸1の後端部には出力部材8がスプライン嵌合されている。ベアリング5後方側面と、回転軸1と出力部材8のスプライン嵌合部との間にある隙間、すなわち、第4の油路1dを通じて、第3の油路1cとベアリング後方5の空間10bが連通する。
【0022】
回転軸1の径は、ベアリング5直下よりもベアリング5後方が小さく形成されている。第2の油路1bはベアリング5直下のより径大な部分(図2(A)中のA部分)に形成され、油路は、回転軸1においてベアリング5後方の径小な部分(図2(A)中のB部分)に形成されていない。
【0023】
本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構の動作を説明する。
【0024】
引き続き図1、図2(A)及び図2(B)を参照すると、回転軸1が回転すると、潤滑油は遠心力を受けて、第1の油路1a及び第2の油路1bを経由して第3の油路1cに導入され、さらに、ベアリング5後方側面に設けられた第4の油路1dを経由して、ベアリング5後方の空間10bに向かって飛散し、飛散した潤滑油の一部がオイルシール4を潤滑する。
【0025】
以上説明した本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構によれば、回転軸1内の潤滑油を潤滑必要部位であるオイルシール4に直接的に供給することができる。
【0026】
また、本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構によれば、回転軸1において、強度余裕代の大きいベアリング5直下に第2の油路1b(径方向油路)が設けられていることにより、回転軸1の強度を維持しながら、上記したような直接潤滑経路が設定される。
【0027】
さらに、本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構によれば、図3に示した従来例に係るトランスファーの潤滑機構が有するオイルレシーバー13及びワッシャ17などを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、エンジンと、エンジンの動力を変速するトランスミッションと、トランスミッションから出力される動力を前後輪に分配するトランスファ−と、を有する四輪駆動車等の車両において、トランスファーの潤滑機構に好適に適用され、特に、ケース(ハウジング)後端と回転軸後端又は該回転軸と一体回転する回転部材との間に設けられたオイルシールの潤滑に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係るトランスファーの潤滑機構を示す部分断面図である。
【図2】(A)及び(B)は、図1に示した潤滑機構における第3の油路(ポート状油路)の形状例を示す部分図である。
【図3】従来例に係るトランスファーの潤滑機構を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 回転軸
1a 第1の油路(軸内軸方向油路)
1b 第2の油路(軸内径方向油路)
1c 第3の油路(ポート状油路、軸外軸方向油路)
1d 第4の油路(ベアリング後方側面油路)
2 ケーシング
4 オイルシール
5 ベアリング
5a インナレース
5b アウタレース
6 スプロケット
8 出力部材
10a ベアリング前方の空間
10b ベアリング後方の空間
A 回転軸の径大な部分
B 回転軸の径小な部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸内潤滑を用いるトランスファーの潤滑機構であって、
回転軸と、
少なくとも前記回転軸の後端部を収容するケーシングと、
前記回転軸と前記ケーシングの間に介在して該回転軸を回転自在に支持するベアリングと、
前記ケーシング内の前記ベアリング後方の空間において、前記回転軸又は該回転軸と一体回転する部材と前記ケーシングとの間に設けられたオイルシールと、
前記回転軸内に前記ベアリングの前方から該ベアリングに向かって延在するよう形成された第1の油路と、
前記回転軸内に形成され、前記ベアリングの直下で径方向に延在して一側が前記軸方向油路と連通し他側が前記回転軸の外周面上で開口する第2の油路と、
前記回転軸の外周面と前記ベアリングの内周面との間を延在するよう設けられ、一側が前記径方向油路の前記他側の開口と連通し、他側が前記ベアリング後方の空間に連通する第3の油路と、
を有する、ことを特徴とするトランスファーの潤滑機構。
【請求項2】
前記第3の油路がポート状であることを特徴とする請求項1記載のトランスファーの潤滑機構。
【請求項3】
前記回転軸にスプライン嵌合する出力部材を有し、前記ベアリング後方側面と、前記回転軸と前記出力部材のスプライン嵌合部との間にある隙間を通じて、前記第3の油路と前記ベアリング後方の空間が連通することを特徴とする請求項1記載のトランスファーの潤滑機構。
【請求項4】
前記ベアリング後方側面と、前記回転軸又は該回転軸と一体回転する部材との間で径方向に延在するよう形成され、一側が前記第3の油路と連通し、他側が前記ベアリング後方の空間に開口する第4の油路を有することを特徴とする請求項1記載のトランスファーの潤滑機構。
【請求項5】
前記回転軸の径は、前記ベアリング直下よりも前記ベアリング後方が小さく形成され、前記第2の油路は前記ベアリング直下のより径大な部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載のトランスファーの潤滑機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−316932(P2006−316932A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141439(P2005−141439)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】