説明

トランスポゾンに基づく標的化システム

本発明は、(a)(aa)目的のポリヌクレオチド、および(ab)DNA結合ドメインにより特異的に認識されるDNA配列を含む、機能的トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠くトランスポゾン、ならびに(ba)(i)該DNA結合ドメイン、または(ii)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメイン、および(iii)DNA標的化ドメイン、または(iv)DNA標的化ドメインを含む細胞性の若しくは操作された(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメインを含む融合タンパク質、または(bb)(ba)の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに(ca)トランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体、または(cb)(ca)のトランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドを、好ましくは別個の成分として、含んでなる標的化システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)(aa)目的のポリヌクレオチド、および(ab)DNA結合ドメインにより特異的に認識されるDNA配列を含む、機能的トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠くトランスポゾン、ならびに(ba)(i)該DNA結合ドメイン、または(ii)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメイン、および(iii)DNA標的化ドメイン、または(iv)DNA標的化ドメインを含む細胞性の若しくは操作された(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメインを含む融合タンパク質、または(bb)(ba)の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに(ca)トランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体、または(cb)(ca)のトランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチド、を好ましくは異なる成分として、含んでなる標的化システムに関する。
【0002】
本明細書中には、多数の文書が引用されている。製造業者のマニュアルを含むこれらの文書の開示内容を参照により本明細書に組み入れることとする。
【背景技術】
【0003】
DNA転位はトランスポゾンシステムの2つの主たる機能的成分(すなわち、トランスポザーゼタンパク質、およびトランスポゾンの末端逆方向反復配列内のトランスポザーゼ結合部位)を必要とする。スリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)(SB)を含む多くの転位因子の転位はゲノム内の多くの部位で生じうるが、標的の選択は主としてトランスポザーゼにより媒介されると考えられている。部位特異的組込みのための要件は、特異的DNA-タンパク質相互作用により転位複合体を特定の染色体領域または部位へ導くことである。トランスポゾンシステムは2つの主たる機能的成分(すなわち、トランスポゾンDNAおよびトランスポザーゼタンパク質)からなることから、該転位複合体は、これらの2つの成分のいずれかとの相互作用により、ゲノム内の所与の部位につなぎ留められるものと思われる。
【0004】
遺伝子治療目的でDNAを配列特異的に挿入するためにトランスポゾンに基づくメカニズムを利用する方法について、当技術分野で検討されている。例えば、Kaminskiらは、部位選択的組込みに宿主DNA結合因子が潜在的に要求されることを回避するために、トランスポザーゼ部分と宿主DNA結合ドメインとよりなるキメラトランスポザーゼを使用するモデルを案出した(Kaminiskiら, FASEB J. 16 (2002), 1242-1247)。しかし、Kaminskiのグループによりなされた示唆に従うことは、有用な結果をもたらさないであろう。なぜなら、宿主DNA結合ドメインへのトランスポザーゼの直接的な融合はトランスポザーゼ活性を破壊して、所望の標的化挿入を不可能にするからである(参考例1を参照されたい)。また、Kaminskiらにより考察されているモデル系は、尚もトランスポゾンの一部であるトランスポザーゼコード化遺伝子に依存するものである。このアプローチの欠点は、標的化挿入が生じたとしても(実際には生じない;前記を参照されたい)、組込まれたトランスポゾン内のトランスポザーゼコード化遺伝子の存在は、遅かれ早かれ、異なる染色体部位内への該転位因子の転位を招くであろう。しかし、これは遺伝子治療アプローチには不適当な出発点である。したがって、本発明の根底にある技術的課題は、遺伝子治療において同様に有用でありうる選択されたDNA配列内への所望のポリヌクレオチドの部位特異的標的化のための、トランスポゾンに基づく標的化システムを設計することであった。この技術的課題の解決は、特許請求の範囲において特徴づけられている実施形態を提供することにより達成される。
【発明の開示】
【0005】
したがって、本発明は、(a)(aa)目的のポリヌクレオチド、および(ab)DNA結合ドメインにより特異的に認識されるDNA配列を含む、機能的トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠くトランスポゾン、ならびに(ba)(i)該DNA結合ドメイン、または(ii)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメイン、および(iii)DNA標的化ドメイン、または(iv)DNA標的化ドメインを含む細胞性の若しくは操作された(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメインを含む融合タンパク質、または(bb)(ba)の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに(ca)トランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体、または(cb)(ca)のトランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチド、を含んでなる標的化システムに関する。
【0006】
「標的化システム」なる語は、本発明においては、標的化DNA配列内への前記で規定したトランスポゾンの非ランダム標的化組込みを媒介する(異なる)DNA分子または(ポリ)ペプチドから構成されるシステムを意味する。このシステムは、少なくとも、好ましくは、前記(a)、(ba)/(bb)および(ca)/(cb)に記載の3つの異なる分子を含む。これらの分子は互いに及び標的DNA配列と機能的に相互作用し、それにより、標的DNA配列内へのトランスポゾンの組込みが達成される。本発明の根底にあるこの原理は、後記で更に詳しく説明される。
【0007】
成分(a)および(ba)または(bb)および(ca)または(cb)は、好ましくは、異なる成分として標的化システム内に存在する。いくつかの場合には、少なくともトランスポゾンが、異なる成分として保有されていることが、更に好ましい。「異なる成分」なる語は、本発明の標的化システムにおいて挙げられている成分、すなわち、トランスポゾン、ポリヌクレオチドおよび/または(ポリ)ペプチドが、物理的に別個の分子実体でありうることを意味する。例えば、1つの実施形態においては、(a)に挙げられているトランスポゾンならびに(bb)および(cb)に挙げられているポリヌクレオチドは1つの単一ポリヌクレオチドを形成しておらず、本発明の標的化システムにおいては、場合によっては別々に増幅される3つの異なるポリヌクレオチドとして存在する。一方、(aa)および(ab)に挙げられている2つのポリヌクレオチド/DNA配列が共に、異なる成分(a)の一部であることが可能であり、したがって物理的に連結されていてもよい。他の実施形態においては、第1 DNA結合ドメインにより特異的に認識されるDNA配列(ab)は、目的のポリヌクレオチド(aa)の一部であってよく、あるいは目的のポリヌクレオチド(aa)と同一であってもよい。
【0008】
「機能的トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠くトランスポゾン」なる語は、機能的な(好ましくは天然に存在する)トランスポザーゼをコードする完全配列を、もはや含まない、トランスポゾンに基づくDNA分子を意味する。好ましくは、機能的な(好ましくは天然に存在する)トランスポザーゼをコードする完全配列またはその一部がトランスポゾンから欠失している。あるいは、天然に存在するトランスポザーゼ、またはトランスポザーゼの機能(すなわち、DNA標的部位内へのトランスポゾンの挿入を媒介する機能)を有するその断片もしくは誘導体が、もはや含有されないよう、トランスポザーゼをコードする遺伝子が突然変異している。あるいは、その活性が有意に低下しており、例えば少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%または99%に低下している。前記の突然変異には、“Molecular Biology of the Gene” (Watsonら編) 4th edition, The Benjamin/Cummings Publishing Company, Inc., Menlo Park, CA, 1987のような分子生物学の標準的な教科書に記載されている置換、重複、逆位、欠失などが含まれる。
【0009】
トランスポゾンは、トランスで与えられるトランスポザーゼによる可動化(mobilization)に必要な配列を保有しなければならない。これらは、トランスポザーゼへの結合部位を含有する末端逆方向反復配列である。トランスポゾンは細菌または真核生物トランスポゾンに由来しうるが、後者が好ましい。さらに、トランスポゾンはクラスIまたはクラスIIトランスポゾンに由来しうる。遺伝子導入用途には、クラスIIまたはDNA媒介性転位因子が好ましい。なぜなら、これら転写因子の転位は、望ましくない突然変異をトランスジーン内に導入する可能性のある(クラスIまたはレトロエレメント(retroelement)の転位に伴う)逆転写過程を伴わないからである(Miller, A.D. (1997). Development and applications of retroviral vectors. in Retroviruses (Coffin, J.M., Hughes, S.H. & Varmus, H.E.編) 843 pp. (Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York,); Verma, I.M.およびSomia, N. (1997). Gene therapy ? promises, problems and prospects. Nature 389, 239-242)。
【0010】
本発明における「ポリヌクレオチド」なる語は、RNA、DNAもしくはPNAまたはそれらの修飾体を含む任意のタイプのポリヌクレオチドを意味する。この用語がDNA分子を意味するのが、本発明では好ましい。
【0011】
「特異的に認識される」なる語は、本発明においては、DNA結合ドメインが生理的条件下(例えば、細胞内に存在する条件下)で特定のDNA配列のみを認識しそれに結合するが、細胞内の望ましくないDNA配列に対しては認識も結合もしないか又は認識も結合も実質的にしないこと(これは、好ましくは、標的化にも当てはまる)を意味する。例えば、ヒトゲノムにおいては、一つながりの15ヌクレオチド、好ましくは18ヌクレオチド以上は、通常、対応配列が唯一のもの(unique)であることを保証するであろう。そのようなユニーク配列は、ヒトゲノムの知見に基づき、適当なコンピュータープログラムを使用して、特に問題なく当業者により同定され製造されうる。同様に、(DNAまたは(ポリ)ペプチドへの)結合に言及する場合はいつでも、その結合は特異的であることが意図されている。特異的結合/認識は、例えば、当技術分野でよく知られている競合結合アッセイを用いることにより評価することが可能である。
【0012】
「トランスポザーゼ機能を有する」トランスポザーゼの「断片もしくは誘導体」なる語は、好ましくは天然に存在するトランスポザーゼ中のアミノ酸を欠くがDNA挿入を尚も媒介する、天然に存在するトランスポザーゼに由来する断片を意味する。あるいは、この用語は、1以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された、あるいはそれほどは好ましくはないが逆位または重複が生じている、リンカーを介して融合相手に連結されていることが好ましい天然に存在するトランスポザーゼ又は天然に存在するトランスポザーゼを含む融合タンパク質のような、天然に存在するトランスポザーゼの誘導体を意味する。そのような改変は、好ましくは、組換えDNA技術によりもたらす。トランスポザーゼタンパク質に化学的改変を施すことにより、さらなる改変を生じさせてもよい。前記タンパク質(およびその断片または誘導体)は組換え的に製造されうるが、天然に存在するタンパク質と同一または実質的に同一の特徴を保有しうる。
【0013】
「(ポリ)ペプチド」なる語は、ペプチドまたはポリペプチドのいずれかを意味する。ペプチドは、通常は、30個以下のアミノ酸を有するアミノ酸配列であり、一方、ポリペプチド(「タンパク質」とも称される)は少なくとも31アミノ酸の一つながりを含む。
【0014】
「DNA結合ドメイン」なる語は、本発明においては、DNAの一領域に特異的に結合できるがそのDNA領域中へのトランスポゾン組み込みの媒介には関与しない、(ポリ)ペプチドのドメインを意味する。
【0015】
「(ポリ)ペプチド結合ドメイン」なる語は、本発明においては、第2の(ポリ)ペプチドに特異的に結合しうる(ポリ)ペプチドのドメインを意味する。タンパク質-タンパク質相互作用は当技術分野で幅広く理解されている。それは、抗体とそれに適合する抗原との間、ビオチンとアビジンとの間、または酵素と基質との間で生じるような「鍵と鍵穴(key-and-lock)」相互作用として生じうる。タンパク質-タンパク質相互作用の他の例には、シグナル伝達カスケードのようなタンパク質カスケードのメンバーの結合が含まれる。タンパク質-タンパク質相互作用は、例えば、FieldsおよびSongによって最初に確立されたツーハイブリッドまたはスリーハイブリッド系(A novel genetic system to detect protein-protein interactions. Nature. 1989 Jul 20;340(6230):245-6。TopcuおよびBorden, Pharm. Res. 17 (2000), 1049-1055, Zhangら, Meth. Enzymol. 306 (1999), 93-113, FieldsおよびSternglanz, Trends Genet. 10 (1994), 286-292も参照されたい)を使用して評価することが可能である。この一般的知見に基づき、(ポリ)ペプチド結合ドメインを選択または案出し、ついで本発明の標的化システムにおいて使用することが可能である。
【0016】
「DNA標的化ドメイン」なる語は、本発明においては、DNA領域(核内の反復領域のような高次構造の染色体領域を含む)に特異的に結合することができ、該DNA領域内へのトランスポゾンの組込みの媒介に直接的または間接的に関与する、(ポリ)ペプチドのドメインを意味する。該DNA領域は、好ましくは、それぞれのゲノム内で特有(ユニーク)なヌクレオチド配列により定められるであろう。
【0017】
前記の種々の結合ドメインは、融合タンパク質の一部を形成する、より大きな(ポリ)ペプチドの一部でありうる。
【0018】
「操作された(ポリ)ペプチド」なる語は、前記機能を有する非天然(ポリ)ペプチドを意味する。その(ポリ)ペプチドは、天然(ポリ)ペプチドに基づいているが(DNA標的化の実際の目的に応じて)DNA結合においてより高い又はより低い特異性、細胞環境中でより長い又は短い半減期などを示すように、操作されたものでありうる。それは組換え生産の手法に関する利点をも有しうる。例えば、それは、その天然の対応物よりも低いコストで製造されうる。また、該(ポリ)ペプチドは、一緒になって前記機能を果たす、異なるタンパク質のモジュールから構成されうる。
【0019】
「細胞性(ポリ)ペプチド」は、細胞内に見出され、天然タンパク質と同じでありうる(ポリ)ペプチドである。ある実施形態においては、それは細胞内で組換え的に産生されるか、または細胞内に導入されうる。
【0020】
第1 DNA結合ドメインを含む「(ポリ)ペプチド」も、細胞性の又は操作された(ポリ)ペプチドでありうる。
【0021】
本発明においては、脊椎動物細胞のような宿主細胞内でのトランスポゾンの標的化転位を達成するために、前記のような本発明の一般的原理にすべてが当てはまる以下の独特な実験ストラテジーを、案出した。このストラテジーを図1に図示する。1)標的化融合タンパク質の設計。この場合、一方の融合相手は転位因子内の部位に結合するかまたは転位因子内の部位と次に結合するDNA結合タンパク質と接触するが、もう一方の相手は染色体DNAと結合する(図1A)。2)標的化融合タンパク質の設計。この場合、一方の融合相手は(内因性または操作された)DNA標的化タンパク質とタンパク質-タンパク質相互作用により接触し、もう一方の相手は、転位因子内の部位に結合するドメインまたは(ポリ)ペプチドであるか、あるいは転位因子内の部位と次に結合するDNA結合タンパク質とタンパク質-タンパク質相互作用により接触するドメインまたは(ポリ)ペプチドである(図1B)。第3の選択肢は、前記タイプの構築物のいずれかが、本明細書中に定義されている高次構造の染色体領域(例えば、核内の反復領域)に結合する(図1C)。
【0022】
本発明においては、選択したDNA領域または部位を成功裏に標的化するために、種々の組合せの化合物を使用することも可能である。これらの化合物を組合せた後で細胞内へ挿入したり、あるいは分子ごとに細胞内へ挿入することが可能である。それらの構築は互いの及び標的DNAとの機能的相互作用を可能にする。本発明はまた、該標的化システムの成分の少なくとも1つが細胞内に既に挿入されており、該成分の残りのものは尚も挿入する必要がある実施形態を含む。本発明の標的化システムにより与えられる成分の選択は、トランスポゾンに基づく系中の目的のポリヌクレオチドの、選択したDNA配列、組成物または領域内への信頼性のある標的化挿入を、初めて可能にする。該DNA領域は、例えば、染色体外エレメント上の領域、または染色体上の部位(例えば、染色体遺伝子)でありうる。融合タンパク質の設計は、一方では、トランスポゾンDNAへの直接的な結合により又は介在性タンパク質を介して、トランスポゾン上につなぎ留めることを可能にし、そして、DNA標的化ドメインにより又はそうでなければDNA標的化ドメインを含有する介在性タンパク質を介して、選択したDNA領域を標的化することを可能にする。Kaminskiら, 前掲に記載されているようなプラスミドDNAへの結合ではないトランスポゾンDNAへの直接的な結合は、トランスポゾンを、ベクター/プラスミド配列から切り出される際に、所望のDNA位置に尚も標的化することが可能であって、細胞内で自由に浮遊しなようにすることを保証する。これは、Kaminskiらにより記載されているモデル系よりもかなり優れた利点を構成する。
【0023】
本発明の標的化システムの種々の成分は、(ポリ)ペプチドとして又は該(ポリ)ペプチドをコードする核酸分子として、細胞内に導入されうる。細胞内への(ポリ)ペプチドの導入は遺伝子治療アプローチにおいて利点を有しうる。例えば、ヒトゲノム内へのトランスポザーゼ遺伝子の安定な挿入は、更なる無制御な転位事象のリスクを引き起こし、これは、必須遺伝子の挿入による不活性化、または癌を引き起こす原癌遺伝子の異所性発現を招く可能性があるであろう。
【0024】
タンパク質性またはポリヌクレオチド性のものとしての該標的化システムの実際の組成には無関係に、前記(ポリ)ペプチドまたはドメインをコードするポリヌクレオチドはそれぞれの宿主細胞または宿主において実際に発現されることが必要である。
【0025】
本発明の標的化システムの好ましい実施形態においては、(bb)のポリヌクレオチドは更に、(ii)または(iv)に記載の少なくとも1つの(ポリ)ペプチドをコードする。本発明のこの実施形態においては、そのDNA結合または標的化ドメインを介してDNAと接触する介在性または「架橋性」(ポリ)ペプチドの少なくとも1つも、該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドによりコードされる。例えば、該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、該介在性または「架橋性」(ポリ)ペプチドが発現されるもう1つの発現カセットを含有しうる。あるいは、この/これらの(ポリ)ペプチドを生じるmRNAは、例えば、当技術分野でよく知られている停止/再開メカニズムを用いて、該融合タンパク質のmRNAと同じプロモーターから転写されうる。もう1つの実施形態においては、該(ポリ)ペプチドは(cb)のポリヌクレオチドから発現される。トランスポゾンを、標的化融合タンパク質、架橋性ポリペプチドまたはトランスポザーゼ(これらの任意の組合せ)をコードするポリヌクレオチドと組合せることが可能である。あるいは、転位因子は、独立したポリヌクレオチド分子として維持され、増幅され、送達されうる。
【0026】
介在性または「架橋性」(ポリ)ペプチドを使用する場合、あるいはこれらの(ポリ)ペプチドが前記ポリヌクレオチドのいずれにもコードされない場合には、本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、該標的化システムは更に、
(da)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチド、および/または
(db)該DNA標的化ドメインを含む細胞性の又は操作された(ポリ)ペプチド、または
(dc)(da)および/または(db)の(ポリ)ペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
【0027】
したがって、本発明の標的化システムは、全体として、所望のDNA内への目的のポリヌクレオチドの標的化挿入を保証する種々の成分から構成されうる。前記の本発明の成分のいくつかは、本発明の標的化システムにおいて選択的に使用されうることが理解されよう。したがって、(da)として示されている成分が該標的化システム中に存在する場合には、該標的化システム内には、(i)と示されているドメインではなくドメイン(ii)が存在することが好ましい。同様に、(db)として示されている成分が該システム中に存在する場合には、該システム中には、ドメイン(iii)ではなくドメイン(iv)も存在する。これらの成分の置換は当業者により容易に案出されうる。したがって、融合タンパク質(ba)はドメイン(i)およびドメイン(iv)を含みうる。したがって、該システムは成分(da)を優先的には含まないであろう。一方、該システムは成分(db)を優先的に含むであろう。もう1つの例においては、該融合タンパク質はドメイン(ii)および(iii)を含みうる。この場合、該システムは更に、エレメント(da)を必要とするが、エレメント(db)は必要としないであろう。もちろん、エレメント(da)または(db)の代わりに、対応エレメント(dc)が該システム内に存在してもよい。前記のとおり、本明細書に記載の指針に従い、すべて本発明の範囲内に含まれるさらなる置換が当業者にとって可能である。
【0028】
本発明の標的化システムのもう1つの好ましい実施形態においては、(a)のトランスポゾンおよび/または(cb)のポリヌクレオチドおよび/または(bb)のポリヌクレオチドが1以上のベクター内に含まれる(あるいは、該トランスポゾンは、ベクター配列を伴わずに、例えば環化形態として与えられうる)。
【0029】
前記ポリヌクレオチドのいずれかに使用するベクターは、本発明においては、発現ベクター、遺伝子導入ベクターまたは遺伝子標的化ベクターでありうる。発現ベクターは当業者によく知られており、広く入手可能である。Ausubelら, 前掲を参照されたい。本発明のベクターのこのより好ましい実施形態においては、該ポリヌクレオチドは、原核もしくは真核細胞またはその単離された画分における発現を可能にする発現制御配列に機能しうる形で連結されている。該ポリヌクレオチドの発現は、好ましくは翻訳可能なmRNAへの、該ポリヌクレオチドの転写を含む。真核細胞(好ましくは、哺乳類細胞)内での発現を保証する調節エレメントは当業者によく知られている。それは、通常、転写開始を保証する調節配列と、場合によっては、転写の終結および転写産物の安定化を保証するポリAシグナルとを含む。追加的な調節エレメントは、転写および翻訳エンハンサーを含みうる。原核宿主細胞内での発現を可能にする考えられうる調節エレメントは、例えば、大腸菌(E. coli)におけるlac、trpまたはtacプロモーターを含む。真核宿主細胞内での発現を可能にする調節エレメントの例としては、酵母におけるAOX1またはGAL1プロモーター、あるいは哺乳類および他の動物細胞におけるCMV-、SV40-、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMV-エンハンサー、SV40-エンハンサーまたはグロビンイントロンが挙げられる。転写の開始を引き起こすエレメントのほかに、そのような調節エレメントは、該ポリヌクレオチドの下流に、SV40-ポリA部位またはtk-ポリA部位のような転写終結シグナルをも含みうる。この場合、適当な発現ベクターは当技術分野で公知であり、例えば、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(In-vitrogene)、pSPORT1(GIBCO BRL)が挙げられる。
【0030】
ex vivoまたはin vivo技術による細胞内への治療用遺伝子の導入に基づく遺伝子治療は、遺伝子導入の最も重要な用途の1つである。in vitroまたはin vivo遺伝子治療のための適当なベクター、方法または遺伝子送達系は文献に記載されており、当業者に公知である。例えば、Giordano, Nature Medicine 2 (1996), 534-539; Schaper, Circ. Res. 79 (1996), 911-919; Anderson, Science 256 (1992), 808-813, Isner, Lancet 348 (1996), 370-374; Muhlhauser, Circ. Res. 77 (1995), 1077-1086; Onodua, Blood 91 (1998), 30-36; Verzeletti, Hum. Gene Ther. 9 (1998), 2243-2251; Verma, Nature 389 (1997), 239-242; Anderson, Nature 392 (Supp. 1998), 25-30; Wang, Gene Therapy 4 (1997), 393-400; Wang, Nature Medicine 2 (1996), 714-716; WO 94/29469; WO 97/00957; 米国特許第5,580,859号; 米国特許第5,589,466号; 米国特許第4,394,448号またはSchaper, Current Opinion in Biotechnology 7 (1996), 635-640、およびそれらにおいて引用されている参考文献を参照されたい。特に、該ベクターおよび/または遺伝子送達系は、例えば神経組織/細胞における(とりわけ、Bloemer, J. Virology 71 (1997) 6641-6649を参照されたい)または視床下部(とりわけ、Geddes, Front Neuroendocrinol. 20 (1999), 296-316またはGeddes, Nat. Med. 3 (1997), 1402-1404を参照されたい)における遺伝子治療アプローチにおいても記載されている。神経細胞/組織において使用するための他の適当な遺伝子治療構築物も当技術分野で公知である(例えば、Meier (1999), J. Neuropathol. Exp. Neurol. 58, 1099-1110)。本発明において使用するベクターは、直接的な導入用に、またはリポソームもしくはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)を介した導入用に、またはエレクトロポレーション、衝撃法(例えば、遺伝子銃)または細胞内への他の送達系用に設計することができる。また、本発明の核酸分子用の真核発現系として、バキュロウイルス系を使用することが可能である。好ましくは、該導入および遺伝子治療アプローチは、機能性分子(好ましくは、治療的に活性な分子)の発現を引き起こすはずであり、それにより発現された分子は、遺伝子治療アプローチにより改善、予防または治療されうる任意の疾患の治療、改善および/または予防において特に有用である。
【0031】
特に好ましい実施形態においては、該ベクターの少なくとも1つはプラスミドである。プラスミドは当技術分野でよく知られており、組換え目的に関して、例えばSambrookら, “Molecular Cloning, A Laboratory Manual”, 2nd edition, CSH Press, Cold Spring Harbor, 1989; Ausubelら, “Current Protocols In Molecular Biology” (2001), John Wiley & Sons; N.Y.に記載されている。それは、自律的に複製する、通常は環状二本鎖の、小さな染色体外DNA分子として特徴づけられる。それは原核生物および真核生物において天然に存在し、通常、少なくとも1つの複製起点および少数の遺伝子を含む。
【0032】
目的のポリヌクレオチドは種々の性質のものでありうる。例えば、それが非コード性のものであって、したがって、過剰発現されると疾患の病因に関与する遺伝子の標的化破壊において有用なものであってもよい。もう1つの例においては、トランスポゾンは、そのトランスポゾンが内因性遺伝子に十分に近接して挿入される場合に遺伝子発現を活性化するプロモーター配列を含有しうるであろう。さらに、特定の標的内への挿入を同定するために適当な選択方法(例えば、改変された細胞表現型に基づくもの)が利用可能な場合には、トランスポゾンは、転位に必要とされる配列に加えて、いずれかの配列を欠損していてもよい。あるいは、該ポリヌクレオチドは、所望の標的の発現に関してRNAiを媒介するmRNA分子に転写されうる。更なる指針としては、Elbashirら, Nature 411 (2001), 494-498, Bernsteinら, RNA 7 (2001), 1509-1521, Boutlaら, Curr. Biol. 11 (2001), 1776-1780を参照されたい。もう1つの別態様においては、目的のポリヌクレオチドは、トランスポゾン挿入を同定するために後で利用されうる配列タグとして機能する。本発明は、別の好ましい実施形態においては、目的のポリヌクレオチドが(ポリ)ペプチドをコードする標的化システムに関する。目的の遺伝子は、マーカー、例えばin vivoモニターのためのグリーン蛍光タンパク質、およびレポーター、例えばルシフェラーゼ、または抗生物質耐性遺伝子をコードしうる。
【0033】
特に好ましいのは、該(ポリ)ペプチドが、治療的に活性な(ポリ)ペプチドである標的化システムである。この実施形態においては、治療的に重要な(ポリ)ペプチドを、そのような(ポリ)ペプチドを要する細胞内に標的化することが可能である。組織特異的発現の望まれる場合には、組織特異的プロモーターが該(ポリ)ペプチドの発現を駆動しうる。治療的に活性な(ポリ)ペプチドは、疾患の発症または進行を妨げる任意のペプチドまたはタンパク質でありうる。それは直接的または間接的に該開始または進行を妨げうる。治療的に活性な(ポリ)ペプチドには、増殖因子または分化因子のクラスのもの、例えばGCSF、GM-CSF、ならびにインターロイキンおよびインターフェロン、または体内の有害な化合物に結合するscFvのような操作された抗体誘導体が含まれる。該トランスポゾン標的化システムは、血友病のような単一遺伝子疾患に対する遺伝子治療用のベクターとして使用することが可能であろう。血液凝固因子であるVIII因子またはIX因子をコードする、適当な転写調節配列を伴うcDNAを、該転位因子ベクター内に組込むことが可能であろう。トランスポザーゼは染色体内への治療用遺伝子の安定な組込みを媒介し、長期的な遺伝子発現および血清中のトランスジーン産物の増加を保証する。その標的化特性を利用して、トランスポゾン挿入を、遺伝子に関連しない染色体位置へ方向付けて、該挿入が内因性遺伝子機能を破壊しないようにすることが可能であろう。
【0034】
本発明の標的化システムにおいては、該融合タンパク質中に含まれるドメインまたは(ポリ)ペプチドがリンカーにより連結されていることも好ましい。「リンカー」は、本明細書中では、それ自体は細胞内で生物学的機能を果たさない、場合によっては1つまたは2つの異なる種類のアミノ酸のみからなる、好ましくは少なくとも6アミノ酸のタンパク質性アミノ酸鎖として定義される。リンカーの機能は、2つの異なる(ポリ)ペプチドまたは(ポリ)ペプチドのドメインを連結して、それにより、これらの(ポリ)ペプチドが、該リンカーに結合していない場合に発揮するのと同じ生物学的機能(例えば、DNAへの又は異なる(ポリ)ペプチドへの結合)を発揮することを可能にすることである。該リンカーは、該ドメインまたは(ポリ)ペプチドに、コンホメーションのより大きな自由度を与え、これは、該ドメインまたは(ポリ)ペプチドに割り当てられた機能の、より良好な発揮をもたらしうる。リンカー中、好ましくは、柔軟な(flexible)リンカー中に含有されるアミノ酸の数は、典型的には、5〜20である(Crasto, C.J.およびFeng, J. LINKER: a program to generate linker sequences for fusion proteins. Protein Engineering, Vol. 13, No. 5, 309-312, 2000)。
【0035】
好ましくは、該リンカーは、柔軟なリンカーである。
【0036】
本発明の標的化システムの、より好ましい実施形態においては、該リンカーはグリシンリンカーまたはセリン-グリシンリンカーである(Chou PY, Fasman GD. Prediction of protein conformation. Biochemistry. 1974 Jan 15;13(2):222-45.; Ladurner AG, Fersht AR. Glutamine, alanine or glycine repeats inserted into the loop of a protein have minimal effects on stability and folding rates. J Mol Biol. 1997 Oct 17;273(1):330-7)。
【0037】
該DNA標的化ドメインは、細胞内に含有される任意のDNA配列または領域を標的化しうる。そのような領域または配列は、細胞内に天然に存在するものであることが可能であり、あるいは、例えばトランスジーンまたは細胞外保持DNA分子(プラスミドなど)として、人工的に導入されたものでありうる。好ましいのは、該DNA標的化ドメインが染色体DNA標的化ドメインである標的化システムである。
【0038】
本発明においては、染色体DNA標的化ドメインがユニーク染色体DNA配列、染色体DNA組成物、または染色体領域であることが、特に好ましい。「ユニーク染色体DNA配列」なる語は、真核生物においてハプロイドゲノム当たり1回のみ見出されるDNA配列である。そのようなユニーク配列の具体例としては、ヒトゲノムのようなゲノム内に1回のみ見出される遺伝子または遺伝子内配列が挙げられる。「染色体DNA組成物」なる語は、本発明においては、存在する塩基の比率により特徴づけられる組成物を意味する。そのような組成物の一例としては、A/Tリッチ領域が挙げられる。もう1つの例としては、G/Cリッチ領域が挙げられる。「染色体領域」なる語は、場合によっては高次構造により特徴づけられる染色体の所定領域を意味する。染色体領域の一例としては、反復遺伝子を含有する核小体が挙げられる。もう1つの例はミトコンドリアである。本発明においては、その根底にある技術的課題は、組込み部位が前記配列/組成領域/領域内に直接的に存在せずそれらの近傍に存在する場合(例えば、それほど好ましくはないのだが、500〜1000bpまたは更にはそれ以上の塩基対だけ離れている場合)にも、解決されていると理解されるべきである。これは、標的部位がユニーク配列である場合に特に当てはまる。
【0039】
ユニーク配列内への転位の標的化は、任意の18bpのDNA配列に特異的に結合するよう選択されうる人工的ジンクフィンガーペプチドにより行うことが可能であろう(Beerli RR, Barbas CF 3rd. Engineering polydactyl zinc-finger transcription factors. Nat Biotechnol. 2002 Feb;20(2):135-41)。18bpの配列は、ヒトまたは他の複雑な脊椎動物ゲノムにおいて、おそらくユニークな部位であろう。ある種のタンパク質は、A/TリッチなDNAに対して高いアフィニティを有することが公知である。これらとしては、SATB1(Dickinson LA, Joh T, Kohwi Y, Kohwi-Shigematsu T. A tissue-specific MAR/SAR DNA-binding protein with unusual binding site recognition. Cell. 1992 Aug 21;70(4):631-45)、およびSAF-A(Kipp M, Gohring F, Ostendorp T, van Drunen CM, van Driel R, Przybylski M, Fackelmayer FO. SAF-Box, a conserved protein domain that specifically recognizes scaffold attachment region DNA. Mol Cell Biol. 2000 Oct;20(20):7480-9)(これらは共に、核マトリックスと相互作用する)が挙げられる。したがって、標的化融合タンパク質中にこれらのタンパク質のDNA結合ドメインが含まれていれば、A/Tリッチな(A/Tに富む)DNA内への優先的なトランスポゾン挿入が生じると予想される。核小体はリボソームRNA遺伝子の反復領域を含有する。したがって、この領域内へのトランスポゾン挿入は細胞に有害ではないと予想される。転位複合体を核小体内へ導く標的化ペプチドを使用することが可能であろう。核小体局在化シグナルが公知であり(Newmeyer DD. The nuclear pore complex and nucleocytoplasmic transport. Curr Opin Cell Biol. 1993 Jun;5(3):395-407)、他のタンパク質に融合されうる。
【0040】
トランスポゾン、およびそれに由来するトランスポザーゼは、細菌由来でありうる。しかし、本発明の標的化システムのもう1つの好ましい実施形態においては、トランスポザーゼ、またはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体は、真核生物トランスポザーゼ、または真核生物トランスポザーゼの断片もしくはそれに由来する断片である。トランスポザーゼはクラスIまたはクラスIIトランスポゾンに由来しうる。前記のとおり、トランスポゾンは、好ましくは、クラスIIエレメントである。
【0041】
本発明において特に好ましいのは、トランスポザーゼがスリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)トランスポザーゼまたはフロッグ・プリンス(Frog Prince)トランスポザーゼであるか又はそれらに由来することである。スリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)トランスポゾンおよびトランスポザーゼは、例えばIzsvakら, J. Mol. Biol. 302 (2000), 93-102に記載されている。フロッグ・プリンス(Frog Prince)トランスポゾンおよびトランスポザーゼはドイツ国特許出願102 24 242.9に記載されている。
【0042】
本発明のもう1つの好ましい実施形態においては、該標的化システムは、核局在化シグナル(NLS)を更に含む融合タンパク質を含む。NLSは当技術分野で広く知られており、後記実施例において言及されているNLSを含む。NLSは、融合タンパク質を標的細胞の核内へ導くのに特に有用である。あるいは、融合タンパク質は更に、それを核小体(核小体局在化シグナル)のような染色体領域内へ又はミトコンドリアへ導くシグナルを含みうる。NLSは、好ましくは、リンカーに隣接する融合タンパク質の2つの融合相手を連結するリンカー領域内に位置するであろう。
【0043】
本発明は、もう1つの好ましい実施形態において、DNA標的化ドメインまたは結合ドメインを含む(ポリ)ペプチドが二量体化ドメインを含む標的化システムに関する。天然に存在する多数のDNA結合/標的化タンパク質は二量体化ドメインを含む。二量体化ドメインの保有は結合/標的化事象の効率/忠実度を増加させると予想される。後記実施例も参照されたい。
【0044】
本発明はまた、本発明の標的化システムを含有する宿主細胞に関する。本発明の宿主細胞は原核細胞でありうるが、好ましくは、真核細胞、例えば昆虫細胞、例えばスポドプテラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞、酵母細胞、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞、真菌細胞、例えばアスペルギルス(Aspergillus)細胞または脊椎動物細胞である。最後者の場合には、細胞は哺乳類細胞、例えばヒト細胞であることが好ましい。細胞は細胞系の一部でありうる。
【0045】
また、本発明は、本発明の宿主細胞を含んでなる宿主生物に関する。該宿主は原核生物または真核生物宿主であってよく、好ましくは、真核生物宿主、例えば昆虫、酵母、真菌、脊椎動物、好ましくは、哺乳類、例えばヒトである。哺乳類は、好ましくは、非ヒト哺乳類である。
【0046】
また、本発明は、本発明の標的化システムを含んでなる組成物に関する。該組成物は、例えば診断用組成物または医薬組成物でありうる。該組成物の種々の成分を1以上の容器、例えば1以上のバイアル内にパッケージングしてもよい。バイアルは、該成分に加えて、保存用のバッファーまたは保存剤を含みうる。
【0047】
好ましくは、該組成物は医薬組成物である。医薬組成物は固体、液体または気体形態であることが可能であり、とりわけ、散剤、錠剤、液剤またはエアゾール剤の形態でありうる。該組成物は、本発明の前記の異なる成分を、少なくとも2つ、好ましくは3つ、より好ましくは4つ、最も好ましくは5つの組見合わせで、含みうる。
【0048】
医薬組成物は、場合によっては、製薬上許容される担体および/または希釈剤を含むことが好ましい。本明細書中に開示されている医薬組成物は、遺伝子治療により予防、改善または治癒されうる任意の疾患の治療に特に有用でありうる。該疾患には、血友病、αアンチトリプシン欠損、家族性高コレステロール血症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、癌、重症複合免疫不全症、糖尿病、遺伝性チロシン血症1型および接合部性表皮水疱症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
適当な医薬担体、賦形剤および/または希釈剤の具体例は当技術分野でよく知られており、それらには、リン酸緩衝食塩水、水、エマルション、例えば油/水エマルション、種々のタイプの湿潤剤、無菌溶液などが含まれる。そのような担体を含む組成物は、よく知られた通常の方法により製剤化することが可能である。これらの医薬組成物は、適当な用量で対象に投与することが可能である。適当な組成物の投与は、種々の方法、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、鼻腔内または気管支内投与により行うことが可能である。筋肉、肝臓、肺、膵臓または固形腫瘍における部位への注射および/または送達により投与を行うことが特に好ましい。本発明の組成物は、標的部位へ直接的に、例えば、外部または内部標的部位(例えば、脳)へのバイオリスチック(biolistic)送達により投与することが可能である。投与計画は担当医師により臨床的要因に応じて決定される。医学分野ではよく知られているとおり、いずれかの1人の患者に対する投与は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与する個々の化合物、性別、投与の時間および経路、全身健康状態、ならびに現在投与されている他の薬物を含む多数の要因に左右される。タンパク質性の薬学的に活性な物質は1ng〜10mg/kg体重/用量の量で存在しうるが、この典型的範囲より多い又は少ない用量が、特に前記要因を考慮して、予想される。該計画が連続的注入である場合には、それは1μg〜10mg単位/キログラム体重/分の範囲であるべきである。DNAの投与のための好ましい投与量はDNA分子106〜1012コピーである。
【0050】
定期的な評価により進行をモニターすることが可能である。本発明の組成物は、局所または全身に投与することが可能である。非経口投与用の製剤には、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁剤および乳剤が含まれる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。水性担体としては、水、アルコール性/水性溶液、エマルション、懸濁液、例えば食塩水および緩衝化媒体が挙げられる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液または不揮発性油が含まれる。静脈内ビヒクルには、流体および栄養補充物、電解質補充物(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)などが含まれる。保存剤および他の添加剤、例えば抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤および不活性ガスなども存在してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、該医薬組成物の意図される用途に応じてさらなる物質を含みうる。該医薬組成物が免疫増強剤などのような他の物質を含むことが特に好ましい。
【0051】
本発明はまた、本発明の標的化システムを宿主細胞内に導入することを含んでなる、染色体位置を特異的に標的化するための方法に関する。
【0052】
好ましくは、該導入は、トランスフェクション、インジェクション(注入)、リポフェクション、ウイルストランスフェクションまたはエレクトロポレーションにより行う。すべてのこれらの導入技術は当技術分野で広く記載されており(前記で引用した文献を参照されたい)、特に問題なく当業者により個々の必要性に適合されうる。
【0053】
単離された細胞(例えば、細胞培養したもの)または哺乳類のような生物から取り出した組織の細胞を本発明の標的化システムで処理する場合には、本発明の方法のさらなる好ましい実施形態においては、該方法は更に、該宿主細胞を宿主内に導入することを含む。該宿主細胞の導入は、輸液もしくは注入または当業者によく知られた他の手段により行うことが可能である。
【0054】
本発明の方法においては、該宿主細胞が宿主の一部であることも好ましい。この場合、本発明の標的化システムの導入はin vivoで行う。遺伝子送達のようなin vivo DNA送達は、DNA構築物の(局所的または全身的な)注射により達成することが可能であろう。DNA構築物は裸DNA、リポソーム、PEIまたは他の凝縮剤(condensing agent)と複合体化したDNAの形態であってもよいし、あるいは感染性粒子(ウイルスまたはウイルス様粒子)内に組み込んでもよい。DNA送達は、エレクトロポレーションまたは遺伝子銃またはエアゾールを使用することによっても行うことが可能である。同様に、前記のとおり、本発明の標的化システムを宿主細胞または宿主内に導入する場合には、該成分のいくつかは宿主細胞または宿主内に既に含まれていてもよく、その宿主細胞または宿主は、該システムの機能完成のために欠けている成分を導入する際にはトランスジェニック宿主細胞または宿主とみなされるであろう(その成分は染色体外に保有されるかもしれないが)。
【0055】
図面の内容は後述する。
【0056】
以下、実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0057】
参考例1:ヒスチジンタグでのSBトランスポザーゼのタグ付け
ヒスチジンタグを組換え手段によりスリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)トランスポザーゼのN末端およびC末端に融合させた。N末端融合は転位活性を完全に喪失させた。一方、C末端タグはin vivoで転位活性を約5〜10%減少させた。SBトランスポザーゼはこれらの付加を許容しないようであった。これはおそらく、タンパク質のフォールディングに対する影響によるものであろう。SBトランスポザーゼのN末端領域は、トランスポゾン逆方向反復配列へのトランスポザーゼの特異的結合を引き起こす2つのへリックス-ターン-へリックス(HTH)ドメインを含有する。C末端の機能は未知であるが、該タンパク質のこの領域は、らせん構造を有すると推定される。種々のリコンビナーゼ中にはC末端タンパク質会合決定基が存在する。例えば、二量体として作用するTn5トランスポザーゼの結晶構造は、主要二量体化表面がC末端により提供されることを示している。レトロウイルスインテグラーゼのC末端領域も多量体化機能をコードしていることが判明した。総合すると、タンパク質タグは、DNA結合および二量体化を含むトランスポザーゼの特定の機能を損なうことにより、転位を妨げるものと思われる。したがって、本発明者らは、特異的に設計された標的化融合タンパク質を使用することによるトランスポゾン標的化の可能性を調べることに集中的に力を注いだ。
【0058】
実施例1:培養したヒト細胞における染色体スカフォールド結合領域内への標的化スリーピング・ビューティー転位
トランスポゾン標的化の効率は先験的には不明であったため、本発明者らは、複雑なゲノム内に何度も示される染色体領域(SBがそれに効率的に組込まれうるよう、その塩基組成はATに富み、それに対する相互作用性タンパク質決定基は判明しており、十分に特徴づけられている)内への標的化から実験を開始した。核マトリックスへの結合により、別々の独立したループ内にゲノムを分割する、マトリックス結合領域またはMARとも称されるスカフォールド結合領域(SAR)は、前記基準を満足する。スカフォールド結合因子A(SAF-A)は、SAR DNAに結合することが知られている幾つかのタンパク質の1つである。SAF-Aは、SAFボックスと称される進化的に保存されたタンパク質ドメインを含有し、これは、SAR結合を媒介するのに必要かつ十分なものである。本発明者らは、SAFボックスを含有する、SAF-AのN末端の45アミノ酸が、大腸菌(E. coli)LexAタンパク質のC末端に融合した融合タンパク質を、設計した(図2A)。該融合タンパク質はまた、転位が生じるはずである細胞の核内への標的化タンパク質の効率的な輸送を保証するための、SV40 T抗原の核局在化シグナル(NLS)を含有していた。この実験アプローチにおけるLexAタンパク質の機能は、SBトランスポゾンベクター内へ挿入操作(engineer)されたLexAオペレーター部位(図2A)への該標的化融合タンパク質の結合を特定することである。LexAは、ヒト細胞にとっては外来性のタンパク質であり、16bpのLexAオペレーター配列(図2A)は、おそらくヒトゲノム内には存在しない。したがって、該標的化融合タンパク質の発現が内因性遺伝子活性を妨げるとは考えにくい。LexAオペレーター部位を、SBの左逆方向反復配列と、該トランスポゾン内のゼオシン(zeo)抗生物質耐性遺伝子の発現を駆動するSV40エンハンサー/プロモーターエレメントとの間に配置した(図2A中のpTzeo-322/LexOP)。本発明者らは、該標的化タンパク質の結合が転位もトランスジーン発現も妨げないことを期待して、該トランスポゾンのこの領域をオペレーター部位として選択した。本発明者らは、該融合タンパク質と、該トランスポゾンベクターおよび染色体SAR領域の両方との、同時相互作用により、標的化転位が生じ、それにより、転位複合体が近傍部位内に組込まれるであろうと仮定した。
【0059】
まず、SB転位に対する該標的化タンパク質の発現の効果を、SBトランスポザーゼを発現するプラスミド(pCMV/SB)、pTzeo-322/LexOP、および、LexA/NLS/SAF融合体またはLexA/NLSのみを発現するプラスミド(図2A)でトランスフェクトされたヒトHeLa細胞内での転位効率を比較することにより調べた。転位活性における差異は観察されなかったが(図2B)、このことは、該トランスポゾンへの該融合タンパク質の結合が転位を妨げないことを示している。
【0060】
つぎに、本発明者らは、SAR DNA内への標的化転位が生じうるかどうかを問題とした。HeLa細胞をコトランスフェクトし、前記のとおりにゼオシン選択下に置いた。SARにおける転位事象を直接的に選択するための適当な方法が無いため、細胞をプールし、該エレメント内のプラスミド複製起点(図2A)を利用して、プラスミドレスキューを行うことにより、SB組込み部位をゲノムDNAから切り出してクローニングした。挿入されたトランスポゾンに隣接するゲノムDNAを配列決定し、http://www.futuresoft.org/modules/MarFinder/index.htmlで入手可能なMAR-Wizと称されるコンピューターソフトウェア(これは、DNA配列内のMARの存在を発見する目的で開発されたものである)を使用して分析した。MAR-Wizは、MARの近傍に存在することが示されている、AT豊富性、可屈曲性およびトポイソメラーゼII認識部位の存在のような構造的特徴ならびにDNA配列パターンの同時出現に基づいて、MARを推定する。DNA領域内のこれらの特徴の存在の数学的密度はその領域内のMARの存在を示唆すると推定される。
【0061】
本発明者らは、LexA/NLS/SAF標的化融合タンパク質を発現する細胞から回収された56個のユニークSB挿入、およびLexA/NLSのみを発現する細胞からの57個を分析した。推定MARへの各挿入部位の近接性をMAR-Wizプログラムで計算し、距離を6群に類別した(図3)。図3に示されているとおり、それらの2つのデータセット間の最も顕著な差異は、MARに最も近い挿入のグループにおけるものである。特に、該標的化群における9個の挿入は推定MARから1kb以内の距離で生じた(一方、対照群では2事象)。MARピークおよびトランスポゾン挿入の位置を示すMAR-Wizプログラムの出力を図4に示す。本発明者らの結果は、該標的化融合タンパク質の存在下でのSBの挿入スペクトルのシフト(shift)を示しており、該標的化融合タンパク質の存在下では、ゲノムMAR配列の近傍で、より多くの挿入が生じたことを示している。
【0062】
SB標的部位に近接してMAR配列を含有することがコンピューター解析(MAR-Wiz)により推定される染色体DNA断片の幾つかを、SAF-Aタンパク質による結合についてin vitroアッセイで試験した。ZZ-45タンパク質は、人工的二重Zドメインタグ(プロテインAのIgG結合ドメインの縦列体)にC末端融合した融合体として発現された組換えSAF-Aペプチドである。該タンパク質は、Goehringら (1997) EMBO K. 16:7361-7371に記載されているのと同様にして、該タグに対するアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製される。
【0063】
DNA断片がSAFドメインに特異的に結合するかどうかを試験するために、Kippら(MCB 20(20):7480-7489)のものに類似したDNA結合アッセイを用いた。SAFドメインペプチドをIgG樹脂上に固定化した。被検DNA断片および対照DNAを放射性標識した。陽性対照は、SAF-Aに有効に結合するpMIIヒトDNA(Kippら, 2000)である。細菌プラスミドDNAを陰性対照として使用した。
【0064】
該標識されたDNA断片を、結合バッファー中、該固定化SAF結合性ペプチドと共にインキュベートした。せん断された大腸菌(Escherichia coli)DNAを、非標識非特異的競合体として、1000倍過剰で、該結合反応に加えた。該複合体を該結合バッファーで十分に洗浄することにより、未結合DNAを除去した。シンチレーション計測により、DNA結合を定量した。該アッセイが、該対照で、再現性をもって機能していた場合に、DNAサンプルを試験した。図5に示すとおり、試験した3個中2個のSB標的部位がSAFボックスペプチドへの相当な結合を示した。この結果は、これらのSB挿入が、SAFボックスを含有する標的化融合タンパク質により実際にMAR領域へ標的化されたという説明を、強く支持するものである。
【0065】
実施例2:ヒト細胞内のユニーク染色体部位への標的化スリーピング・ビューティー転位
前記の結果に促されて、本発明者らは次に、ヒトゲノム内のユニーク部位への標的化転位に関する証拠を探した。この目的のために、本発明者らは、Tet-On/Tet-Off調節可能遺伝子発現ベクターにおいて広く使用されているテトラサイクリンリプレッサー-オペレーター系に集中的に力を注いだ。スカフォールド結合領域へのSAFボックスの結合とは異なり、テトラサイクリンリプレッサーのそのオペレーター部位との相互作用は非常に配列特異的である。本発明者らは、トランスポゾン組込みの染色体標的として働く、テトラサイクリン応答エレメント(TRE)駆動性EGFP遺伝子を含有するトランスジェニックHeLa由来細胞系を作製した(図6A)。該標的化融合タンパク質は、テトラサイクリンリプレッサー、NLSおよびLexAタンパク質より構成されるものであった(図6A)。トランスポゾンベクターは、前記と同様に、pTzeo-322/LexOPであった。前記と同様に、本発明者らの仮定は、TRE内またはその近傍への標的化転位が該融合タンパク質と該トランスポゾンベクターおよびTREの両方との相互作用により生じうるというものであった。
【0066】
まず、本発明者らは、TREおよびLexAオペレーター含有トランスポゾンへの結合に関して2つの融合タンパク質の相対効率を試験した。それらのタンパク質のうちの一方は、テトラサイクリンリプレッサーに融合した、LexAタンパク質のDNA結合ドメインをコードするN末端の87アミノ酸のみを含有し(図6AにおけるTetR/NLS/LexA-DBD)、もう一方は、完全なLexAタンパク質を含有していた(図6AにおけるTetR/NLS/LexA-FL)。これを試験したかった理由は、テトラサイクリンリプレッサーおよびLexAタンパク質の両方がそれらの結合部位へ二量体として結合することにあり、該融合タンパク質中の2つの二量体化ドメインの組合せがDNA結合に影響を及ぼすかどうかを試験することに関心があった。融合タンパク質発現構築物でトランスフェクトされたHeLa細胞の核抽出物、ならびに放射性標識TREおよびトランスポゾンプローブを使用して、電気泳動移動度シフト実験を行った(図6B)。該TREプローブおよび該トランスポゾンプローブの両方はTetR/NLS/LexA-FLと同様にシフトしたが(図6B、レーン3および8)、TetR/NLS/LexA-DBD(図6B、レーン4および9)やTetR/NLS(図6B、レーン2および7)や非トランスフェクト細胞から調製された核抽出物(図6B、レーン5および10)と同様にはシフトしなかった。この結果は、LexAのC末端二量体化ドメインが、テトラサイクリンおよびLexAオペレーター部位の両方への該融合タンパク質の効率的な配列特異的DNA結合に必要であることを示している。レトロウイルスインテグラーゼ-LexA融合タンパク質について、およびLexAとの他の融合体についても、同様の観察、すなわち、LexAのC末端二量体化ドメインが効率的DNA結合に必要であることが、認められた。本発明者らは、TRE-EGFPに関してトランスジェニックであるHeLa細胞において、TetR/NLS/LexA-FLまたはTetR/NLS/LexA-DBDとテトラサイクリントランスアクチベーターとの共発現により、本発明者らの結果をin vivoで確認した。TREに対する標的化融合タンパク質のアフィニティーが高ければ高いほど、それがEGFP発現に及ぼす抑制効果は高くなる。これはおそらく、それが、TRE結合に関して、テトラサイクリントランスアクチベーターと競合するからであろう。陽性対照においては、テトラサイクリントランスアクチベーターのみをトランスフェクトした。TetR/NLS/LexA-FLは、EGFP陽性細胞の数を該陽性対照の約50%に低下させた。一方、TetR/NLS/LexA-DBDは、EGFP発現に、明らかな影響を及ぼさなかった(データ非表示)。したがって、TRE内への標的化SB転位を証明するための後続の実験においては、TetR/NLS/LexA-FLを使用した。
【0067】
TRE-EGFPトランスジェニック細胞系をpCMV/SB、pTzeo-322/LexOPおよびTetR/NLS/LexA-FLでコトランスフェクトした。ゼオシンでの2週間の選択の後、約400個の細胞コロニーをプールし、ゲノムDNAを調製し、EGFP遺伝子の上流の転位事象を増幅するよう設計されたプライマーを使用するPCR分析に付した(図7A)。EGFP遺伝子に対して両方の向きのトランスポゾン組込みに相当するPCR産物を得て、プラスミドベクター内にクローニングした。該PCR産物の配列決定は、TRE領域の44および48bp下流の、EGFP遺伝子のプロモーター領域内の2つのTA部位内への、2つの異なる可能性のある向きでのSBの転位を示した(図7B)。これらのTA部位はCMV最小プロモーターのTATAボックスの一部である。PCRは同一部位内への組込み事象間を識別しないため、本発明者らは、この実験におけるトランスポゾン標的化の効率が、合計400転位事象当たり少なくとも2事象であったと算出している。結論としては、本発明者らの標的化融合タンパク質は、標的化SBエレメント転位をヒトゲノム内の特異的DNA配列の近傍へ方向付けることができる。本発明者らの結果は、本発明を用いなければ高等脊椎動物の細胞内に比較的ランダムに組込まれるエレメントの標的化転位をin vivoで初めて実証するものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】転位因子内の特異的DNA配列に結合するタンパク質を一方の融合相手として含む融合タンパク質を使用した、トランスポゾン標的化のための実験ストラテジー。該標的化システムの成分は、トランスポザーゼ結合部位(矢じり)を含有する末端逆方向反復配列を少なくとも含有する転位因子を含み、適当なプロモーターを備えた目的遺伝子を含有しうる。転位因子内の特異的DNA配列に結合するタンパク質(アンカードメイン)である一方の融合相手と、標的化を担うもう一方の融合相手とを含む融合タンパク質により、標的化が達成される。このストラテジーにおいては、トランスポザーゼは改変されていない。(A)この融合タンパク質においては、標的DNAへの結合を担う特異的DNA標的化タンパク質ドメインがアンカードメインに融合しており、それにより、新規かつ配列特異的なDNA結合/標的化機能が付与されている。(B)この融合タンパク質においては、タンパク質ドメインが、内因性の又は操作されたDNA標的化タンパク質と相互作用する。(C)この融合タンパク質においては、核小体局在化シグナルが、転位複合体を、反復リボソームRNA遺伝子から構成される核小体内へ方向付ける。
【図2】染色体スカフォールド結合領域内へのトランスポゾン標的化。(A)スカフォールド結合領域(SAR)内へのトランスポゾン挿入のための標的化システムの成分。該標的化融合タンパク質は、細菌LexA DNA結合タンパク質と、融合タンパク質を核内へと方向付ける核局在化シグナル(NLS)と、SARに結合することが知られているタンパク質の1つであるヒトSAF-Aタンパク質のDNA結合ドメインであるSAFボックスとよりなる。対照タンパク質はSAFボックスを欠く。該転位因子は、トランスポゾンの左逆方向反復配列と、ゼオシン耐性遺伝子の発現を駆動するSV40プロモーターとの間に、LexAタンパク質に対する16bpの結合部位を含有する。(B)該標的化融合タンパク質の存在下または非存在下のヒトHeLa細胞における、上記エレメントの転位が上方に示されている。
【図3】トランスポゾン標的化によるSAR内への選択的挿入。形質転換細胞から転位事象を回収(recover)し、挿入部位に隣接するヒト染色体DNAを染色体SAR(またはMAR)への近接性に関して分析した。トランスポゾン挿入の近傍のSARの存在を推定するために、MAR-Wizプログラムを用いた。距離を区分した。各区分における該標的化融合タンパク質の存在下または非存在下で得られた挿入の数が示されている。
【図4】推定SAR(MAR)の位置を示すMAR-Wiz出力。このMARに近いトランスポゾン挿入が示されている。
【図5】SAFボックスによるSB標的部位のin vitro結合。放射性標識したトランスポゾン標的部位を、樹脂に結合したSAFボックスペプチドと共にインキュベートし、十分な洗浄後に該樹脂上に保持された放射活性を測定した。3個中2個のサンプルが、陰性対照(細菌プラスミドDNA)と比較して著しい結合を示している。
【図6】テトラサイクリン応答エレメント内へのトランスポゾン標的化。(A)テトラサイクリン応答エレメント(TRE)内へのトランスポゾン挿入のための標的化システムの成分。該標的化融合タンパク質は、テトラサイクリン・リプレッサーと、TREに結合する細菌DNA結合タンパク質と、該融合タンパク質を核内へと方向付ける核局在化シグナル(NLS)と、該転位因子内の16bpの結合部位に結合する細菌LexA DNA結合タンパク質とよりなる。2つの形態を作製した。1つは、LexAタンパク質のDNA結合ドメイン(DBD)のみを含有するものであり、もう1つは、完全長(FL)LexAタンパク質を含有するものである。この実験における標的DNAは、ヒトHeLa細胞中の、CMV最小プロモーターおよびEGFP遺伝子の上流の、染色体に組込まれたTRE配列である。(B)完全長LexAタンパク質を含有する標的化融合タンパク質の、放射性標識TREおよびトランスポゾンプローブに特異的に結合する能力を示す移動度シフト実験。
【図7】TRE染色体標的の近傍にあるCMV最小プロモーター内への標的化転位。(A)この実験系の成分は、トランスポゾンの左逆方向反復配列とゼオシン耐性遺伝子の発現を駆動するSV40プロモーターとの間にLexA結合部位を有する転位因子、完全長LexAタンパク質を含有する標的化融合タンパク質、トランスポザーゼ、およびヒト染色体DNA内に予め組込まれたTRE-CMV-EGFP標的を含む。(B)TREに近接した標的化転位。CMVプロモーターTATAボックスの2つのTAジヌクレオチド中、TRE領域の近傍に生じた2つのトランスポゾン挿入が回収(recover)された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(aa)目的のポリヌクレオチド、および、
(ab)DNA結合ドメインにより特異的に認識されるDNA配列
を含む、機能的トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠くトランスポゾン、ならびに
(ba)(i)該DNA結合ドメイン、または
(ii)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメイン、および
(iii)DNA標的化ドメイン、または
(iv)DNA標的化ドメインを含む細胞性の若しくは操作された(ポリ)ペプチドに結合する(ポリ)ペプチド結合ドメイン
を含む融合タンパク質、または
(bb)(ba)の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに
(ca)トランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体、または
(cb)(ca)のトランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチド、
を含んでなる標的化システム。
【請求項2】
(bb)のポリヌクレオチドが更に、(ii)または(iv)に記載の少なくとも1つの(ポリ)ペプチドをコードする、請求項1記載の標的化システム。
【請求項3】
(da)該DNA結合ドメインを含む(ポリ)ペプチド、および/または
(db)該DNA標的化ドメインを含む細胞性の又は操作された(ポリ)ペプチド、または
(dc)(da)および/または(db)の(ポリ)ペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、
を更に含む、請求項1記載の標的化システム。
【請求項4】
(a)のトランスポゾンおよび/または(cb)のポリヌクレオチドおよび/または(bb)のポリヌクレオチドおよび/または(dc)のポリヌクレオチドが1以上のベクター内に含まれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項5】
ベクターの少なくとも1つがプラスミドである、請求項4記載の標的化システム。
【請求項6】
目的のポリヌクレオチドが(ポリ)ペプチドをコードする、請求項1〜5のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項7】
(ポリ)ペプチドが、治療的に活性な(ポリ)ペプチドである、請求項6記載の標的化システム。
【請求項8】
融合タンパク質内に含まれる前記のドメインまたは(ポリ)ペプチドがリンカーにより連結されている、請求項1〜7のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項9】
リンカーが、柔軟なリンカーである、請求項8記載の標的化システム。
【請求項10】
リンカーがグリシンリンカーまたはセリン-グリシンリンカーである、請求項1〜9のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項11】
DNA標的化ドメインが染色体DNA標的化ドメインである、請求項1〜10のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項12】
染色体DNA標的化ドメインがユニーク染色体DNA配列、染色体DNA組成物または染色体領域である、請求項11記載の標的化システム。
【請求項13】
トランスポザーゼまたはトランスポザーゼ機能を有するその断片もしくは誘導体が、真核生物トランスポザーゼ、または真核生物トランスポザーゼの若しくはそれに由来する断片である、請求項1〜12のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項14】
トランスポザーゼが、スリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)トランスポザーゼまたはフロッグ・プリンス(Frog Prince)トランスポザーゼである、またはそれらに由来する、請求項13記載の標的化システム。
【請求項15】
融合タンパク質が更に、核局在化シグナル(NSL)を含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項16】
前記DNA標的化ドメインまたは結合ドメインを含む前記(ポリ)ペプチドが、二量体化ドメインを含む、請求項1〜15のいずれか1項記載の標的化システム。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項記載の標的化システムを含有する宿主細胞。
【請求項18】
請求項17記載の宿主細胞を含んでなる宿主生物。
【請求項19】
哺乳動物である、請求項18記載の宿主生物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項記載の標的化システムを含んでなる組成物。
【請求項21】
医薬組成物である、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか1項記載の標的化システムを宿主細胞内に導入することを含んでなる、染色体位置を特異的に標的化するための方法。
【請求項23】
トランスフェクション、インジェクション、リポフェクション、ウイルストランスフェクションまたはエレクトロポレーションにより導入を行う、請求項22記載の方法。
【請求項24】
宿主内に該宿主細胞を導入することを更に含む、請求項22または23記載の方法。
【請求項25】
宿主細胞が宿主の一部である、請求項22または23記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−518204(P2006−518204A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501791(P2006−501791)
【出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001221
【国際公開番号】WO2004/070042
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505301011)
【Fターム(参考)】