説明

トランス

【課題】コイルを形成する線材を細くすることなくQ値を低くし、超音波センサの残響時間を短縮可能なトランスを提供する。
【解決手段】トランス11において、コイル14はコア13の少なくとも一部を包囲する。導電性のシールドケース16は、前記コア13および前記コイル14を収容する。導電性の磁気抵抗付与部材17は、前記シールドケース16内に配置され、閉回路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波センサに用いられるトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に車両のバンパは運転者の視界外に位置しているため、車両の走行時にバンパの角部等が人や物等の障害物に衝突する危険性がある。この問題を解消するため、車両のバンパ等に超音波センサを備えて構成されるコーナーセンサを取り付けることが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
超音波センサはスピーカより所定周波数の超音波を発信し、当該超音波が障害物により反射された反射波をマイクで受信する。車両に搭載され、超音波センサに接続されたコーナーセンサの制御部は、発信から受信までの時間差に基づいて障害物までの距離を算出し、当該距離が所定値よりも短い場合に警報を発するように構成されている。運転者は当該警報に基づいて車両と障害物の衝突を回避することができる。
【0004】
スピーカを構成する振動子は超音波の発信を停止しても直ぐには振動が停止しない。そこで当該振動がマイクにより反射波として誤検出されるのを防止するために、振動が十分減衰するまでの間(残響時間)はマイクによる受信を不可能にしておく必要がある。具体的には、スピーカを駆動する発信信号の停止後、残響時間に対応する待機時間の経過後にマイクによる反射波受信を可能にする。したがって残響時間が短いほど待機時間を短くすることが可能であり、より近距離の障害物を検出することが可能になる。これはコーナーセンサの性能向上を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−59867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スピーカから超音波を発生させるためにはある程度高い電圧が必要であるため、コーナーセンサにおいては昇圧機能を有するトランスが使用される。本発明者が検討を重ねた結果、トランスにおけるコイルのQ値を低くすることにより上記の残響時間を短縮可能であることを見出した。Q値とは、一般にコイルの信号の通し易さを示す指標であり、よってQ値を低くするためにはコイルを形成する線材を細くして抵抗値を大きくすればよい。しかしながら線材を細くすると線間短絡(ショート)や断線が発生し易くなり、トランスの信頼性が低下するという問題がある。
【0007】
したがって本発明の目的は、コイルを形成する線材を細くすることなくQ値を低くし、超音波センサの残響時間を短縮可能なトランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば以下に列挙するものが提供される。
(1):コアと、
前記コアの少なくとも一部を包囲するコイルと、
前記コアおよび前記コイルを収容する導電性のシールドケースと、
前記シールドケース内に配置され、閉回路を形成する導電性の磁気抵抗付与部材とを備えることを特徴とするトランス。
(2):前記シールドケース内に配置され、前記コアおよび前記コイルを包囲する磁性体を更に備え、前記導電性の磁気抵抗付与部材は、前記磁性体の内側に配置されることを特徴とする(1)に記載のトランス。
(3):前記磁気抵抗付与部材は、前記コアの少なくとも一部を包囲していることを特徴とする(1)または(2)に記載のトランス。
(4):前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルの少なくとも一部を包囲していることを特徴とする(1)から(3)のいずれか1つに記載のトランス。
(5):前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルと同一の材料から成ることを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のトランス。
(6):前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルの一部により形成されることを特徴とする(5)に記載のトランス。
【発明の効果】
【0009】
電圧の印加に伴ってコイルから発生する磁束の一部は、磁気抵抗付与部材が形成する閉回路の内側を通過し、導電性の磁気抵抗付与部材の表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイルの抵抗値が増大し、結果としてコイルのQ値が低下する。上記の構成によれば、コイルを形成する線材を細くする必要がないので線間絶縁や断線といった事態の発生を回避でき、トランスの信頼性を維持可能である。
【0010】
磁気抵抗付与部材は例えば銅線を環状にするのみで形成可能な簡素なものであり、従来仕様のコイルにそのような部材を追加するのみで超音波センサの残響時間短縮が可能である。またコイルを形成する線材の一部や余り材を用いて作製できるため、部品コストの上昇を最小限に抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るトランスの外観を示す4面図であり、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は右側面図である。
【図2】図1の(A)における線II−IIに沿ったトランスの断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るトランスを示す図1の(A)における線II−IIに沿った断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るトランスを示す図1の(A)における線II−IIに沿った断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るトランスを示す図1の(A)における線II−IIに沿った断面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係るトランスを示す図1の(A)における線II−IIに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について以下詳細に説明する。各実施形態間で同一、同等または同様の機能を有する要素には同一の参照番号を付与し、重複する説明については省略する。
【0013】
本発明の第1の実施形態に係るコイルをコーナーセンサ用トランスに適用した例を図1および図2に示す。トランス11は、絶縁性の基台12と、第1コア13と、コイル14と、第2コア15と、シールドケース16と、ショートリング17と、リード端子18とを備えている。
【0014】
基台12は、液晶ポリマー等の熱可塑性絶縁樹脂から成り、4つのリード端子18と一体成形されている。各リード端子18はリン酸銅から成り、基台12の側面から水平方向に突出する端子部18aとコイル接続部18bを備えている。
【0015】
端子部18aとコイル接続部18bとは基台12の内部で連結されており、電気的に連続である。トランス11が図示しない回路基板上に実装される際に、端子部18aは回路基板上に設けられた所定の接点上に配置され、はんだ付けに供される。これにより端子部18aは回路基板上に形成された所定の回路と電気的に接続されると共に、回路基板上に固定される。
【0016】
第1コア13は円柱形状のニッケル系フェライトコアであり、その底部が基台12に固定されている。第1コア13の外周面には銅線が巻き回されてコイル14を形成している。コイル14から引き出された図示しない4本のリード部(一次側コイルの端末および二次側コイルの端末)は、各々対応するリード端子18のコイル接続部18bに接続され、はんだ付けにより固定および導通が為される。コイル14を形成する線材は導電性を有していれば適宜の材料を選定可能である。
【0017】
第2コア15はニッケル系フェライトコアであり、上面が閉塞され、下面が開口された筒体である。この筒体は内部に第1コア13と共にコイル14を収容可能な寸法を有する。図1の(A)および図2に示すように、第2コア15の外周面にはねじ21が形成され、上面には十字溝22が形成されている。
【0018】
第1コア13およびコイル14を包囲する第2コア15をシールドケース16内に配置することにより、外部への磁束漏れを減少させることができる。第2コア15にはフェライト等の磁性体であれば適宜の材料を選択可能である。
【0019】
シールドケース16は銅合金製であり、内部に第2コア15を収容可能な寸法を有し、下面が開口された筒体である。図1の(A)および図2に示すように筒体の上面には第2コア15の十字溝22を露出させるための丸孔23が形成されている。シールドケース16はコイル14に電圧を印加した際に発生する磁束が外部に漏れるのを防ぐと共に、外部より到来する妨害磁束を遮断する機能を有する。
【0020】
シールドケース16にはシールド機能を有する金属等の導電材料であれば適宜のものを選択可能である。
【0021】
図2に示すように、シールドケース16は内側ケース16aと外側ケース16bから成る二重構造を有している。内側ケース16aには第2コア15のねじ21と螺合するねじ24が形成されている。
【0022】
このように構成されたトランス11は、シールドケース16の丸孔23からプラスドライバ等の工具を差し込み、該工具の先端を第2コア15の十字溝22と係合して回転させると、第2コア15がねじ21およびねじ24を介してシールドケース16の内部をコイル14の中心軸方向に沿って移動し、所望のインダクタンスが得られる。
【0023】
ショートリング17は、コイル14を形成する銅線の余り材を数回(本実施形態では2回)巻いて作製された円環形状の部材であり、コイル14の外周面の一部を覆うように配置されている。なお銅線の余り材を用いて作製された独立部材ではなく、第1コア13の周囲に巻き回されてコイル14を形成している線材の一部を引き出してショートリング17を形成することも可能である。
【0024】
コイル14に電圧を印加すると磁束が発生する。その一部は閉回路を形成しているショートリング17の内側を通過し、ショートリング17の表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイル14の抵抗値が増大し、ショートリング17は本発明の磁気抵抗付与部材として機能する。結果としてコイル14のQ値が低下し、超音波センサの残響時間を短縮することができる。
【0025】
上記の構成によれば、コイル14を形成する線材を細くする必要がないので線間絶縁や断線といった事態の発生を回避でき、トランス11の信頼性を維持可能である。また従来仕様のコイル14にショートリング17という簡素な部品を追加するのみで超音波センサの性能向上が図れる。またショートリング17はコイル14を形成する線材の余り材を用いて作製できるため、部品コストの上昇を最小限に抑えることが可能である。
【0026】
ショートリング17の磁気抵抗付与効果により超音波センサの性能が改善された事実を示す試験結果を表1に示す。ショートリング17を形成する線材の巻数を変化させてQ値および残響時間を測定し、ショートリング17を設けない構成と同一測定条件下で比較してQ値の減少率および残響時間の短縮率を求めた。この結果より、ショートリング17を設けることでコイル14のQ値が低下して超音波センサの残響時間が短縮されていることが判る。またショートリング17を形成する線材の巻数を増やすことにより磁気抵抗付与効果が増していることが判る。
【表1】

【0027】
磁気抵抗付与部材の要件としては、導電性を有すること、閉回路を形成できること、コイル14より発生する磁束が閉回路の内側を通過する位置に配置されることのみが要求される。これらを満足すれば任意の材料、形状、配置を採ることが可能である。例えばショートリング17の形状は上記の円環状に限定されず、矩形状や任意の多角形状を有する枠体としてもよい。
【0028】
図3に本発明の第2の実施形態に係るトランス11Aを示す。本実施形態では、銅製の円環状部材であるシールドリング17Aが第2コア15により画成される空間内に適宜の方法で固定配置されている。コイル14に電圧を印加すると磁束が発生する。その一部は閉回路を形成しているショートリング17Aの内側を通過し、ショートリング17Aの表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイル14の抵抗値が増大し、結果としてコイル14のQ値が低下する。
【0029】
なおショートリング17Aは、ショートリング17のようにコイル14を形成する線材の一部あるいは余り材を用いて作製してもよい。
【0030】
ショートリングの形状および配置は、コイルより発生する磁束の密度に応じて適宜に決定される。コイルの中心軸に対して同心であるか偏心であるかは問わない。一般に磁束密度の低い場所にシールドリングを配置する場合、所望の磁気抵抗付与効果を得るために磁束が通過する箇所の面積を大きくする必要がある。銅線を用いたショートリング17の例の場合は、円環の直径を大きくするか銅線の巻数を増やして磁束の通過長を大きくすればよい。ショートリング17Aの場合、円環の直径を大きくするかコイル14の中心軸に沿う向きの寸法を大きくして磁束の通過長を長くすればよい。このようなショートリングは銅板を円筒状あるいは角筒状に加工して作製することができる。
【0031】
図4に本発明の第3の実施形態に係るトランス11Bを示す。本実施形態では、銅製の円筒状部材であるシールドリング17Bがコイル14の外周面の略全体を包囲するように配置されている。コイル14に電圧を印加すると磁束が発生する。その一部は閉回路を形成しているショートリング17Bの内側を通過し、ショートリング17Bの表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイル14の抵抗値が増大し、結果としてコイル14のQ値が低下する。
【0032】
本実施形態ではコイル14の外周面にショートリング17Bを設けるため、所望の磁気抵抗付与効果を得るにあたってショートリング17Bの幅や位置の調整が容易である。
【0033】
ショートリング17Bのコイル14の中心軸に沿う向きの長さ寸法は、所望する磁気抵抗付与効果に応じて適宜決定され、コイル14の外周面の少なくとも一部を包囲する構成であればよい。
【0034】
図5に本発明の第4の実施形態に係るトランス11Cを示す。本実施形態では、銅製の円筒状部材であるシールドリング17Cが第2コア15の内周面に沿って配置される。コイル14に電圧を印加すると磁束が発生する。その一部は閉回路を形成しているショートリング17Cの内側を通過し、ショートリング17Cの表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイル14の抵抗値が増大し、結果としてコイル14のQ値が低下する。
【0035】
本実施形態の構成によれば、ショートリング17Cを予め第2コア15の内周面上に設けておくことが可能であり、トランスの組立作業性が高まる。
【0036】
ショートリング17Cのコイル14の中心軸に沿う向きの長さ寸法は、所望する磁気抵抗付与効果に応じて適宜決定され、コイル14の外周面の少なくとも一部を包囲する構成であればよい。またショートリング17Cは、ショートリング17のようにコイル14を形成する線材の一部あるいは余り材を用いて作製してもよい。
【0037】
図6に本発明の第5の実施形態に係るトランス11Dを示す。本実施形態では、銅製の円筒状部材であるシールドリング17Dが、コイル14の内側において第1コア13の外周面の略全体を包囲するように配置されている。コイル14に電圧を印加すると磁束が発生する。その一部は閉回路を形成しているショートリング17Dの内側を通過し、ショートリング17Dの表面に渦電流が流れる。この渦電流によって磁束に損失が生じるためコイル14の抵抗値が増大し、結果としてコイル14のQ値が低下する。
【0038】
本実施形態の構成によれば、ショートリング17Dを予め第1コア13の外周面上に設けておくことが可能であり、トランスの組立作業性が高まる。
【0039】
ショートリング17Dのコイル14の中心軸に沿う向きの長さ寸法は、所望する磁気抵抗付与効果に応じて適宜決定され、第1コア13の外周面の少なくとも一部を包囲する構成であればよい。またショートリング17Dは、ショートリング17のようにコイル14を形成する線材の一部あるいは余り材を用いて作製してもよい。
【0040】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするための例示であって、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において改変され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれ得ることは勿論である。
【0041】
上記の実施形態では円柱形状の第1コア13を備えているが、角柱形状等の任意の断面形状を有するコアを用いることができる。また第1コア13は、空芯コア、積層コア、トロイダルコアとしてもよい。コイル14は第1コア13の少なくとも一部を包囲するように形成すればよい。
【0042】
上記の実施形態では二重構造を有するシールドケース16を備えているが、一枚のシールド板のみを備える一重構造としてもよい。
【0043】
上記の実施形態では第2コア15の外周面と内側シールド16aの内周面に互いに螺合するねじ21、24が形成され、第2コア15がシールドケース16の内部をコイル14の軸方向に沿って可動とされている。しかしながら第2コア15がシールドケース16の内部で固定配置される構成としてもよい。
【0044】
本発明に係るトランスを用いた超音波センサの用途は、車両のバンパ等に取り付けられるコーナーセンサに限られるものではなく、車両の前部や後部に取り付けられる車間距離センサに用いられる超音波センサに適用してもよい。また車両への搭載用途のみならず、残響時間の短縮が期待される適宜の用途に用いられる超音波センサへの利用が可能である。
【符号の説明】
【0045】
11 トランス
12 基台
13 第1コア(コア)
14 コイル
15 第2コア(磁性体)
16 シールドケース
17 ショートリング(磁気抵抗付与部材)
18 リード端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアの少なくとも一部を包囲するコイルと、
前記コアおよび前記コイルを収容する導電性のシールドケースと、
前記シールドケース内に配置され、閉回路を形成する導電性の磁気抵抗付与部材と
を備えることを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記シールドケース内に配置され、前記コアおよび前記コイルを包囲する磁性体を更に備え、
前記導電性の磁気抵抗付与部材は、前記磁性体の内側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記磁気抵抗付与部材は、前記コアの少なくとも一部を包囲していることを特徴とする請求項1または2に記載のトランス。
【請求項4】
前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルの少なくとも一部を包囲していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のトランス。
【請求項5】
前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルと同一の材料から成ることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のトランス。
【請求項6】
前記磁気抵抗付与部材は、前記コイルの一部により形成されることを特徴とする請求項5に記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−124368(P2012−124368A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274740(P2010−274740)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】