説明

トリアリールアミン系化合物の精製方法

【課題】残留溶媒が少ない高純度のトリアリールアミン系化合物を、効率的に製造することができるトリアリールアミン系化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(c)を含む。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下する工程
(c)一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程


(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリールアミン系化合物の精製方法に関し、特に、電子写真感光体の電荷輸送剤に用いられるトリアリールアミン系化合物に適した精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電式複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタなどの画像形成装置には、その画像形成装置に用いられる露光光源の波長領域に感度を有する電子写真感光体が使用されている。このような電子写真感光体は、一般に、電荷輸送剤を含有する感光層が導電性基体上に設けられている。
また、このような電子写真感光体は、感度に優れていることが望まれており、そのため、感度向上を図ることのできる電荷輸送剤として、トリアリールアミン系化合物が多く用いられている。
また、かかるトリアリールアミン系化合物を、効率的に製造する方法として、トリアルキルホスフィンとパラジウム触媒からなる触媒及び塩基の存在下で、一級アミンとアリールハライドとを反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−310561号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法において、合成したトリアリールアミン系化合物(粗製トリアリールアミン系化合物)を精製する際には、再結晶法が用いられていた。例えば、得られた化合物を良溶媒に溶解した後、さらに貧溶媒を加えて、再沈殿させる方法(再沈殿法)である。そのため、結晶の析出に時間がかかり、製造効率が低下するといった問題が見られた。
また、かかる再沈殿法を実施した場合には、得られたトリアリールアミン系化合物が、加えた貧溶媒の影響、あるいはその他の環境因子によって、油状物に変化し、所定粒径を有する結晶として析出させることが困難になりやすいという問題も見られた。その結果、得られた析出物に対して減圧乾燥を長時間実施した場合であっても、十分に残留溶媒を除去することが困難となるといった問題が見られた。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下することにより、特定の混合状態の混合溶液を得ることができるとともに、かかる特定の混合状態の混合溶液からであれば、トリアリールアミン系化合物が油状物に変化することを抑制し、微粒子状の結晶として効率的に析出させることができることを見出して、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、油状物に変化させることなく、微粒子状の結晶として析出させることによって、残留溶媒が少ない高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に得ることができるトリアリールアミン系化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法が提供され、上述した問題点を解決することができる。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下する工程
(c)一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【0006】
【化1】

【0007】
(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【0008】
すなわち、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させて溶液を得た後、かかる溶液を貧溶媒に対して滴下することにより、粗製トリアリールアミン系化合物と、貧溶媒とを、特定の混合状態とすることができる。そして、かかる特定の混合状態となった混合溶液に対して、例えば、冷却や撹拌等を実施することにより、トリアリールアミン系化合物を油状物に変化させることなく、効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
したがって、残留溶媒が少ない高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができる。
【0009】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(2)中、R1〜R13は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0012】
【化3】

【0013】
(一般式(3)中、R14〜R30は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0014】
【化4】

【0015】
(一般式(4)中、R31〜R46は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基であり、Rdは、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【0016】
このように実施することにより、優れた正孔輸送能を有するトリアリールアミン系化合物であって、高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができる。したがって、電子写真感光体における正孔輸送剤として、好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン及びシクロへキサンからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることが好ましい。
このように実施することにより、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を効率的に溶解することができるばかりか、後の工程(b)において、より容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができる。
【0018】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、30〜100℃の温度に加熱して、粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることが好ましい。
このように実施することにより、合成した特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を熱分解等させることなく、良溶媒に対してより効率的に溶解させることができる。
【0019】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施することにより、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
【0020】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、貧溶媒として、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、石油エーテル及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることが好ましい。
このように実施することにより、より容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができることから、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
また、後の工程(c)において得られる微粒子状の結晶から、残留溶媒をより容易に除去することができる。
【0021】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(b)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度を、貧溶媒の温度よりも高い温度とし、かつ、その温度差を10〜95℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施することにより、さらに容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができる。
【0022】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、冷却状態で、撹拌することが好ましい。
このように実施することにより、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、さらに効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
【0023】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、粗製トリアリールアミン系化合物溶液よりも低い温度であって、かつ、0〜70℃の温度に冷却することが好ましい。
このように実施することにより、結晶の成長速度を容易に調節することができることから、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
【0024】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、攪拌装置を用いて、10〜1000rpmの条件で攪拌することが好ましい。
このように実施することにより、トリアリールアミン系化合物、良溶媒及び貧溶媒との間における相互作用を、容易に調節することができることから、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができる。
【0025】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液/貧溶媒の体積比を0.01〜0.5の範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施することにより、混合溶液に対して冷却や撹拌等を実施した場合であっても、特定の混合状態を効果的に保持することができる。
【0026】
また、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を実施するにあたり、工程(a)〜(c)によって得られた一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて、8時間減圧乾燥させた場合における残留溶媒率を1.0重量%以下の値とすることが好ましい。
このように実施することにより、結晶析出条件が好適に設定されているか否かを、容易に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態は、下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(b)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法である。そして、かかる精製方法によって得られるトリアリールアミン系化合物は、図1に示すように、残留溶媒を容易に除去することができるという利点を有する。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下する工程
(c)一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【0028】
【化1】

【0029】
(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【0030】
以下、本発明のトリアリールアミン系化合物の精製方法を具体的に説明する。
【0031】
1.トリアリールアミン系化合物
(1)種類
本発明としての精製方法の対象となるトリアリールアミン系化合物は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物であることを特徴とする。
この理由は、かかる特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物であれば、優れた正孔輸送能を有することから、電子写真感光体における正孔輸送剤として、好適に使用することができるためである。
さらに、後の項において詳述する精製方法によって、高純度の結晶として効果的に析出させることができるためである。
【0032】
(2)具体例
また、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
この理由は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の中でも、これらの化合物であれば、特に優れた正孔輸送能を有する正孔輸送剤として用いることができるためである。
【0033】
ここで、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の具体例としては、下記式(5)〜(10)で表される化合物(HTM−1〜6)を挙げることができる。
なお、これらの化合物のうち、式(5)で表される化合物(HTM−1)は、一般式(2)で表される化合物に該当する。
また、式(6)で表される化合物(HTM−2)は、一般式(3)で表される化合物に該当する。
さらに、式(7)で表される化合物(HTM−3)は、一般式(4)で表される化合物に該当する。
【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
(3)合成方法
また、粗製トリアリールアミン系化合物の合成方法としては、特に限定されるものではなく、一般に実施されている種々の合成方法を採用することができる。
例えば、下記反応式(1)及び(2)に示すように、式(11)で表されるアミン化合物(Amine)と、式(12)で表されるアリールハライド(AH)と、を原料として、ホスフィン化合物と、パラジウム化合物と、を含む触媒を用いた合成方法であれば、優れた収率で、例えば、式(5)で表される特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物(HTM−1)を合成することができる。
【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
2.精製方法
(1)工程(a)
まず、精製方法の(a)工程として、上述した合成方法等によって得られた粗製トリアリールアミン系化合物を、良溶媒に溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得ることを特徴とする。
この理由は、合成直後の特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物は、未反応材料や、触媒といった不純物を含んでおり、これらの不純物を、除去可能な状態にする必要があるためである。
すなわち、まず工程(a)において、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させ、後の工程(b)において、貧溶媒に対して滴下することで、特定の混合状態の混合溶液を得ることができる。次いで、工程(c)において、かかる特定の混合状態の混合溶液に対して、例えば、冷却や撹拌等を実施することによって、トリアリールアミン系化合物を油状物に変化させることなく、効率的に微粒子状の結晶として析出させて、上述した不純物を除去することができるためである。
【0044】
(1)−1 良溶媒
また、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を溶解させるための良溶媒としては、室温における特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物の溶解度が0.1重量%以上のものと定義することができる。
したがって、トリアリールアミン系化合物を溶解させるための良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン及びシクロへキサン等の一種単独または二種以上の組み合わせが好適に用いられる。
また、これらの良溶媒であれば、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を効率的に溶解することができるばかりか、後の工程(b)において、より容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができる。
【0045】
(1)−2 濃度
また、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、粗製トリアリールアミン系化合物の濃度をかかる範囲内の値とすることによって、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。
より具体的には、粗製トリアリールアミン化合物の濃度が5重量%未満の値となると、精製効率が過度に低下する場合があるためである。一方、粗製トリアリールアミン化合物の濃度が50重量%を超えた値となると、後の工程(b)において、特定の混合状態の混合溶液を得ることが困難となる場合があるためである。
したがって、工程(a)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を10〜40重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、15〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0046】
(1)−3 加熱条件
また、工程(a)において、30〜100℃の温度に加熱して、粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることが好ましい。
この理由は、かかる範囲内の温度で粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることによって、合成した特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を熱分解等させることなく、良溶媒に対してより効率的に溶解させることができるためである。
すなわち、加熱温度が30℃未満になると、トリアリールアミン系化合物の溶解性が過度に低下したり、あるいは、精製効率が過度に低下したりする場合があるためである。一方、加熱温度が100℃を超えると、トリアリールアミン系化合物が熱分解したり、使用可能な溶媒の種類が過度に制限されたりする場合あるためである。
したがって、工程(a)における加熱温度を40〜80℃の範囲内の値とすることがより好ましく、45〜60℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、加熱時間については、精製するトリアリールアミン系化合物の種類や、使用する良溶媒の種類、あるいは加熱温度等によって適宜調節したり、変更したりすることができるが、通常、1分〜10時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0047】
(2)工程(b)
次いで、本発明の精製方法における工程(b)として、上述した工程(a)において得られた粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下することを特徴とする。
この理由は、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を貧溶媒に対して滴下することにより、粗製トリアリールアミン系化合物と、貧溶媒とを、特定の混合状態とすることができるためである。
すなわち、例えば、従来の再沈殿法のように、化合物を良溶媒に溶解した溶液に対して、単に貧溶媒を混合した場合には、その混合状態が、不均一となる場合が多かった。
したがって、結晶化自体も不均一に進むこととなり、一部は結晶として析出するものの、他の部分は貧溶媒や良溶媒の影響によって油状物に変化しやすいという問題が見られた。その結果、得られた析出物に対して減圧乾燥を長時間実施した場合であっても、十分に残留溶媒を除去することが困難となるといった問題が見られた。
一方、本発明においては、貧溶媒に対して、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を滴下する方法を採用していることから、特定の混合状態、より具体的には、滴下された一滴一滴の粗製トリアリールアミン系化合物溶液が、均一かつ好適な結晶析出環境下にある状態の混合溶液を、効果的に得ることができる。
したがって、トリアリールアミン系化合物が、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒に対して不均一に接触及び相互作用して、油状物に変化することを抑制し、後の工程(c)において、微粒子状の結晶として効率的に析出させることができる。
【0048】
(2)−1 滴下条件
また、工程(b)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の滴下速度を、10〜100ミリリットル/分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の滴下速度を、かかる範囲内の値とすることによって、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、さらに効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。
すなわち、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の滴下速度が10ミリリットル/分未満の値となると、過度に精製効率が低下する場合があるためである。一方、粗製トリアリールアミン系化合物の滴下速度が100ミリリットル/分を超えた値となると、先に滴下された液滴による影響が過度に大きくなり、トリアリールアミン系化合物が油状物に変化しやすくなる場合があるためである。
したがって、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の滴下速度を20〜90ミリリットル/分の範囲内の値とすることがより好ましく、30〜80ミリリットル/分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
また、粗製トリアリールアミン系化合物を滴下する際の各液滴の量としては、50〜500マイクロリットルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、液滴の量が50マイクロリットル未満の値となると、滴下効率が過度に低下する場合があるためである。一方、液滴の量が500マイクロリットルを超えた値となると、液滴中における析出環境にばらつきが生じて、トリアリールアミン系化合物が油状物に変化しやすくなる場合があるためである。
したがって、粗製トリアリールアミン系化合物を滴下する際の各液滴の量を100〜400マイクロリットルの範囲内の値とすることがより好ましく、150〜300マイクロリットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
なお、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を滴下するために使用する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、滴下ロート等の単純な器具を用いてもよいが、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の流量、滴下時間及び滴下間隔時間等を調節することが可能なポンプ式の滴下装置を用いることがより好ましい。
一方、工業的な規模で実施する場合には、図2に示すような精製設備100を用いることが好ましい。
すなわち、粗製トリアリールアミン系化合物溶液5が収容された滴下用タンク1を、貧溶媒6が収容された容器4上に台座11を介して設置することが好ましい。かかる滴下用タンク1は、その下方に滴下速度を調節するためのコック3を備えた滴下ノズル2を有していることが好ましい。
ここで、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下する際の滴下箇所としては、図2に示すように、容器4の中央部を避けた箇所とすることが好ましい。
この理由は、中央部に滴下した場合、後の工程(c)において、撹拌手段7に対して析出固体が付着しやすくなって、撹拌効率が低下する場合があるためである。その結果、析出固体が油状や粘土状に変化しやすくなる場合があるためである。
なお、滴下効率を向上させるために、先端に滴下孔が複数設けられた滴下ノズルを使用したり、あるいは、滴下タンクを複数設置することも好ましい。
また、滴下タンク1は、粗製トリアリールアミン系化合物溶液5を供給するための供給タンク10と、ポンプを介してパイプ12にて連結されていることが好ましい。
また、容器4は、その底部において、撹拌手段7を有することも好ましい。さらに、滴下タンク1及び容器4は、温度管理をするための温度センサ8、9を有することも好ましい。
いずれにしても、工業的な規模で本発明における工程(b)を実施する場合であっても、上述したような簡易な設備によって、効率的に特定の混合状態の混合溶液を得ることができる。
【0051】
(2)−2 貧溶媒
また、工程(b)において、貧溶媒として、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、石油エーテル及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることが好ましい。
この理由は、これらの貧溶媒であれば、より容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができることから、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。また、後の工程(c)において得られる微粒子状の結晶から、残留溶媒をより容易に除去することができるためである。
【0052】
(2)−3 温度差
また、工程(b)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度を、貧溶媒の温度よりも高い温度とし、かつ、その温度差を10〜95℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、粗製トリアリールアミン系化合物溶液と、貧溶媒と、の温度差を所定の範囲とすることによって、さらに容易に特定の混合状態の混合溶液を得ることができるためである。
すなわち、かかる温度差が10℃未満の値となると、温度差を利用して効率的に特定の混合状態を創り出す効果を、十分に発揮させることが困難となる場合があるためである。一方、かかる温度差が95℃を超えた値となると、微粒状の結晶を得ることが困難となる場合があるためである。
したがって、粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度を、貧溶媒の温度よりも高い温度とし、かつ、その温度差を20〜80℃の範囲内の値とすることがより好ましく、30〜70℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、滴下する粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度としては、0〜100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
【0053】
(3)工程(c)
次いで、本発明の精製方法における工程(c)として、上述した工程(b)において得られた特定の混合状態の混合溶液から、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させることを特徴とする。
この理由は、上述した工程(b)において得られた特定の混合状態の混合溶液に対して、例えば、冷却や撹拌といった、積極的に結晶化を促進したり、結晶成長速度等の結晶析出条件を調節したりする工程を実施することによって、トリアリールアミン系化合物を効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。
したがって、残留溶媒が少ない高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に製造することができるためである。
【0054】
(3)−1 結晶析出条件
また、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、冷却状態で、撹拌することが好ましい。
この理由は、特定の混合状態の混合溶液を冷却状態で撹拌することにより、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、さらに効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。
すなわち、冷却することによって、結晶化を促進させて、トリアリールアミン系化合物が、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒に対して過度に接触及び相互作用して、油状物に変化することを抑制することができるためである。
また、撹拌することによって、結晶成長速度を調節したり、結晶の沈殿等によって混合溶液全体が不均一な状態になるのを抑制することができるためである。
【0055】
(i)冷却条件
また、上述した冷却状態として、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、粗製トリアリールアミン系化合物溶液よりも低い温度であって、かつ、0〜70℃の温度に冷却することが好ましい。
この理由は、混合溶液の温度が0℃未満の値となると、結晶成長速度が過度に速くなって、粗製トリアリールアミン系化合物が油状化し高純度の結晶を得ることが困難となる場合があるためである。一方、混合溶液の温度が70℃を超えた値となると、溶解度が上がるため析出量が過度に減少する場合があるためである。
したがって、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び貧溶媒の混合溶液を、5〜50℃の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0056】
(ii)撹拌条件
また、上述した撹拌の条件としては、粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び混合溶液を、攪拌装置を用いて、10〜1000rpmの条件とすることが好ましい。
この理由は、かかる範囲内の回転数にて撹拌することによって、トリアリールアミン系化合物、良溶媒及び貧溶媒との間における相互作用を、容易に調節することができることから、特定の構造を有するトリアリールアミン系化合物を、より効率的に微粒子状の結晶として析出させることができるためである。
すなわち、回転数が10rpm未満の値となると、撹拌による効果が、十分に発揮されない場合があるためである。一方、回転数が1000rpmを超えた値となると、貧溶媒中に滴下した各液滴が過度に交じり合ってしまい、特定の混合状態を安定的に保持することが困難となる場合があるためである。
したがって、貧溶媒の撹拌における回転数を、50〜800rpmの範囲内の値とすることがより好ましく、100〜500rpmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、撹拌手段としては、例えば、プロペラミキサ、ボールミル、ジェットミル等の撹拌装置を用いることができ、撹拌時間としては、0.1〜100時間の範囲内の値とすることが好ましい。
なお、冷却または撹拌等の対象として、上述した工程(b)において得られた特定の混合状態の混合溶液、すなわち、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を貧溶媒に対して滴下することによって得られた混合溶液以外の混合溶液を用いた場合には、効率的に微粒子状の結晶を析出させることが困難となる。
例えば、粗製トリアリールアミン系化合物溶液に対して、単にデカント等にて貧溶媒を加えて得られる混合溶液に対して、冷却または撹拌等を実施したような場合は、本発明の技術的範囲に含まれず、当然本発明の効果を得ることも困難となる。
【0057】
(3)−2 混合比
また、工程(c)において、粗製トリアリールアミン系化合物溶液/貧溶媒の体積比を0.01〜0.5の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる範囲の混合体積比の混合溶液とすることによって、かかる混合溶液に対して冷却や撹拌等を実施した場合であっても、特定の混合状態を効果的に保持することができるためである。
すなわち、混合体積比が0.01未満の値となると、精製効率が過度に低下する場合があるばかりか、トリアリールアミン系化合物と貧溶媒との相互作用が、過度に生じやすくなる場合があるためである。一方、混合体積比が0.5を超えた値となると、冷却や撹拌等を実施した際に、混合溶液における特定の混合状態を保持することが困難となる場合があるためである。
したがって、粗製トリアリールアミン系化合物溶液/貧溶媒の体積比を0.05〜0.4の範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜0.3の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0058】
(4)乾燥工程
次いで、得られたトリアリールアミン系化合物の結晶を、良溶媒から濾別した後、減圧乾燥または真空乾燥することが好ましい。かかる乾燥工程により、結晶中に残留している溶媒を揮発及び除去することができるが、このとき、所定条件下で乾燥させた場合の残留溶媒率を所定の範囲内の値とすることが好ましい。
より具体的には、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて、8時間減圧乾燥させた場合における残留溶媒率を1.0重量%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、上述した条件下にて乾燥させた際の残留溶媒率を所定の範囲とすることにより、結晶析出条件が好適に設定されているか否かを、容易に確認することができるためである。
すなわち、所定条件下で乾燥させた場合の残留溶媒率が1.0重量%を超えた値となると、乾燥工程を8時間以上、より具体的には150時間以上実施した場合であっても、結晶中に残留する溶媒を除去することが困難となるためである。一方、所定条件下で乾燥させた場合の残留溶媒率が過度に低い値となると、使用する両溶媒及び貧溶媒や、滴下条件等が過度に制限されて、精製効率が過度に低下する場合がある。
したがって、所定条件下で乾燥させた場合の残留溶媒率を0.01〜0.8重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜0.5重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、残留溶媒率の測定方法については、後の実施例において記載する。
【0059】
次いで、図1を用いて、精製方法と、残留溶媒率と、の関係を説明する。
図1においては、横軸に、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて減圧乾燥を実施した時間(時間)を採り、縦軸に、トリアリールアミン系化合物における残留溶媒率(重量%)を採った特性曲線が示してある。
また、特性曲線Aは、本発明の精製方法を実施して得られたトリアリールアミン系化合物結晶を用いて減圧乾燥を行った場合の特性曲線であり、特性曲線Bは、本発明以外の精製方法を実施して得られたトリアリールアミン系化合物結晶を用いて減圧乾燥を行った場合の特性曲線である。
なお、特性曲線Bにおける精製方法としては、本発明の滴下工程とは逆に、粗製トリアリールアミン系化合物溶液に対して貧溶媒を滴下する精製方法を実施した。また、トリアリールアミン系化合物としては、特性曲線A及びBの両方の場合とも、式(5)で表される化合物(HTM−1)を用いた。その他の詳細については、後の実施例において記載する。
まず、特性曲線Aから理解されるように、本発明の精製方法を実施した場合には、減圧乾燥を8時間実施した時点で、残留溶媒率が1以下となっており、容易に残留溶媒を除去することができる。一方、減圧乾燥を8時間を超えて実施した場合であっても、残留溶媒率を0.1重量%未満にまで減少させることは、困難であることがわかる。
つまり、本発明の精製方法を実施した場合であれば、減圧乾燥を少なくとも8時間程実施しすれば、可能な限りの残留溶媒を除去することができることがわかる。
他方、特性曲線Bから理解されるように、本発明以外の精製方法を実施した場合には、減圧乾燥を8時間実施しても、残留溶媒率が5重量%以上であり、除去効率が極めて低くなっている。さらに、減圧乾燥を8時間を超えて実施した場合であっても、残留溶媒率が約2重量%以下にまで減少させることが困難となることがわかる。
したがって、本発明の精製方法であれば、その他の精製方法と比較して、著しく効率的に残留溶媒を除去することができることがわかる。
【0060】
3.電子写真感光体
上述した精製方法により得られたトリアリールアミン系化合物は、いずれも電子写真感光体の電荷輸送剤、より詳しくは、正孔輸送剤として好適である。
ここで、適用される電子写真感光体としては、特に限定されるものではなく、例えば、導電性基体上に、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含む感光層を備える、公知の種々の電子写真感光体が挙げられる。
そして、導電性基体、電荷発生剤、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、バインダ樹脂などの種類や態様は、特に制限されるものではなく、従来公知材料の中から適宜選択して用いることができる。
したがって、電子写真感光体の感光層は、電荷発生剤、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を単一の感光層中に含有する、いわゆる単層型感光層や、電荷発生剤およびバインダ樹脂を含む電荷発生層と、電荷輸送剤およびバインダ樹脂を含む電荷輸送層とを積層してなる、いわゆる積層型感光層のいずれであってもよい。
また、かかる電子写真感光体に用いられる電荷輸送剤としては、一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物以外の正孔輸送剤を併用してもよい。さらに、電荷輸送剤として、精製された一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物を、複数併用してもよい。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
1.トリアリールアミン系化合物の精製
撹拌機付きの4リットルのフラスコ容器内に、式(5)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−1)10gと、テトラヒドロフラン20ミリリットルと、を収容した後、フラスコ内の温度が40℃になるように加熱して、均一に溶解するまで、撹拌機を用いて、回転数30rpmで撹拌し、粗製トリアリールアミン系化合物溶液(濃度:36重量%、体積:21ミリリットル)とした。
次いで、撹拌機付きの1リットルのフラスコ容器内に、温度が25℃であるメタノール100ミリリットルを収容した後、かかるメタノールに対して、得られた粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、滴下ロートを用いて20ミリリットル/分の滴下速度にて滴下した。なお、液滴の体積は200マイクロリットルであった。
次いで、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を滴下したメタノールを、撹拌機を用いて、回転数100rpmで30分間撹拌し、室温25℃に至るまで自然冷却した。その結果、フラスコ容器の底部に微粒子状の結晶が析出した。
最後に、得られた微粒子状の結晶を濾過した後、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて、8時間減圧乾燥し、トリアリールアミン系化合物(HTM−1)の微粒子状の結晶9.5gを得た。
【0062】
2.残留溶媒率の評価
得られたトリアリールアミン系化合物における残留溶媒率の測定を実施した。
すなわち、得られた微粒子状の結晶について、室温〜250℃の温度範囲(昇温速度10℃/分)での減量率を、差動型示差熱天秤(リガク(株)製、差動型示差熱天秤TG−DTA TG8101D)を用いて測定することにより、減圧乾燥を8時間実施した段階での残留溶媒率(重量%)を測定した。
また、減圧乾燥をさらに継続し、24、48、72、120及び168時間実施した場合についても、それぞれ上述した方法と同様の方法で、残留溶媒率(重量%)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
実施例2においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(6)で表される化合物(HTM−2)を用いて、微粒子状の結晶9.2gを得たほかは、実施例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
実施例3においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(7)で表される化合物(HTM−3)を用いて、微粒子状の結晶9.1gを得たほかは、実施例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
実施例4においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(8)で表される化合物(HTM−4)を用いて、微粒子状の結晶9gを得たほかは、実施例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
[実施例5]
実施例5においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(9)で表される化合物(HTM−5)を用いて、微粒子状の結晶9gを得たほかは、実施例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0067】
[実施例6]
実施例6においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(10)で表される化合物(HTM−6)を用いて、微粒子状の結晶9.5gを得たほかは、実施例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0068】
[比較例1]
比較例1においては、実施例1と同様にして式(5)で表される粗製トリアリールアミン系化合物(HTM−1)溶液を調製した後、これを室温まで自然冷却させた。
次いで、室温まで冷却された粗製トリアリールアミン系化合物溶液に対して、25℃のメタノール100ミリリットルを滴下ロートを用いて200ミリリットル/分の滴下速度にて滴下し、回転数100rpmで30分間撹拌した。
その結果、フラスコ容器の底部に油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶が析出した。
最後に、得られた微粒子状の結晶を濾過した後、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて、8時間減圧乾燥し、トリアリールアミン系化合物(HTM−1)の微粒子状の結晶8.7gを得た。
また、残留溶媒率の評価を、実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0069】
[比較例2]
比較例2においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(6)で表される化合物(HTM−2)を用いて、油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶8.5gを得たほかは、比較例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0070】
[比較例3]
比較例3においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(7)で表される化合物(HTM−3)を用いて、油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶8.2gを得たほかは、比較例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[比較例4]
比較例4においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(8)で表される化合物(HTM−4)を用いて、油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶8gを得たほかは、比較例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0072】
[比較例5]
比較例5においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(9)で表される化合物(HTM−5)を用いて、油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶8.5gを得たほかは、比較例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0073】
[比較例6]
比較例6においては、粗製トリアリールアミン系化合物として、式(10)で表される化合物(HTM−6)を用いて、油状物が一部含まれた状態の微粒子状の結晶9gを得たほかは、比較例1と同様にトリアリールアミン系化合物の精製を実施するとともに、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
以上、詳述してきたように、本発明によれば、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下することにより、特定の混合状態の混合溶液を得ることができるとともに、かかる特定の混合状態の混合溶液からであれば、トリアリールアミン系化合物が油状物に変化することを抑制して、微粒子状の結晶として効率的に析出させることができるようになった。
その結果、残留溶媒が少ない高純度のトリアリールアミン系化合物を効率的に得ることができるようになった。
したがって、本発明のトリアリールアミン系化合物の製造方法は、電子写真感光体製造の効率化、及び電子写真感光体、ひいては画像形成装置の低コスト化に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】精製方法と、残留溶媒率と、の関係を説明するために供する図である。
【図2】本発明にかかるトリアリールアミン系化合物の精製方法についての実施態様を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0077】
1:滴下用タンク、2:滴下ノズル、3:コック、4:容器、5:粗製トリアリールアミン系化合物溶液、6:貧溶媒、7:撹拌部材、8,9:温度センサ、10:供給タンク、11:台座、12,13:パイプ、100:精製設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の精製方法であって、下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするトリアリールアミン系化合物の精製方法。
(a)粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に溶解させて、粗製トリアリールアミン系化合物溶液を得る工程
(b)前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液を、貧溶媒に対して滴下する工程
(c)前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を析出させる工程
【化1】


(一般式(1)中、Ra〜Rcはそれぞれ独立しており、炭素数6〜30の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜40の置換または非置換の複素環基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【化2】


(一般式(2)中、R1〜R13は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【化3】


(一般式(3)中、R14〜R30は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【化4】


(一般式(4)中、R31〜R46は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換または非置換のアラルキル基、あるいは炭素数3〜20の置換または非置換の複素環基であり、Rdは、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは炭素数6〜20の置換または非置換の複素環基である。)
【請求項3】
前記工程(a)において、前記良溶媒として、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、2−ブタノン、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン及びシクロへキサンからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、30〜100℃の温度に加熱して、前記粗製トリアリールアミン系化合物を良溶媒に加熱溶解させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液の全体量における粗製トリアリールアミン系化合物の濃度を5〜50重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記貧溶媒として、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、石油エーテル及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一つの溶媒を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度を、前記貧溶媒の温度よりも高い温度とし、かつ、その温度差を10〜95℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項8】
前記工程(c)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び前記貧溶媒の混合溶液を、冷却状態で、撹拌することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項9】
前記工程(c)において、前記冷却状態として、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び前記貧溶媒の混合溶液を、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液の温度よりも低い温度であって、かつ、0〜70℃の温度に冷却することを特徴とする請求項8に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項10】
前記工程(c)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液及び前記貧溶媒の混合溶液を、撹拌装置を用いて、10〜1000rpmの条件で撹拌することを特徴とする請求項8または9に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項11】
前記工程(c)において、前記粗製トリアリールアミン系化合物溶液/前記貧溶媒の体積比を0.01〜0.5の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。
【請求項12】
前記工程(a)〜(c)によって得られた前記一般式(1)で表されるトリアリールアミン系化合物の結晶を、温度40℃、気圧266.6Paの条件下にて、8時間減圧乾燥させた場合における残留溶媒率を1.0重量%以下の値とすることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のトリアリールアミン系化合物の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222652(P2008−222652A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64836(P2007−64836)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】