説明

トリグリセリド中の遊離脂肪酸をエステル化する方法

【課題】トリグリセリド中の遊離脂肪酸をC〜C脂肪族アルコールによってエステル化する方法を提供する。
【解決手段】本方法は触媒として酸性イオン交換樹脂を用いる。エステル化に適した条件下で、その触媒を少なくとも1%の遊離脂肪酸を含むトリグリセリドおよびC〜C脂肪族アルコールを含有する反応混合物と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、トリグリセリド中の遊離脂肪酸をアルコールでエステル化して、脂肪酸アルキルエステルを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料が高価格であることや環境への懸念が、代替燃料、特に再生可能資源から得られる燃料の開発を推進している。一般に「バイオディーゼル」燃料として知られているある種のそのような燃料は、脂肪酸のメチルエステルを含有し、ディーゼルエンジンで燃焼される。バイオディーゼル燃料は、トリグリセリド、たとえば植物油などとアルコール、典型的にはメタノールとのエステル交換によって生成される。しかしながら、トリグリセリド中に存在する少量の遊離脂肪酸が、エステル交換工程において、反応混合物の発泡を含む問題を引き起こす。先行技術は、たとえばWO2006/064643号において、これらの遊離脂肪酸をエステル化する方法が開示する。しかしながら、先行技術はトリグリセリド中の遊離脂肪酸のエステル化を触媒するために、架橋剤レベルの高い樹脂が必要とされることを教示している。
【特許文献1】国際公開WO2006/064643号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が扱う問題は、トリグリセリド中の遊離脂肪酸をエステル化する改善された方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、トリグリセリド中の遊離脂肪酸をC〜C脂肪族アルコールまたはジオールによってエステル化する方法に関し、前記方法は、(a)0.25%から2.75%の架橋剤を有するゲル型酸性イオン交換樹脂を含む触媒を提供する工程、並びに(b)エステル化に適した条件下で、前記触媒を(i)少なくとも1%の遊離脂肪酸を有するトリグリセリド、および(ii)C〜C脂肪族アルコールまたはジオールを含む反応混合物と接触させる工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
別段の指示のないかぎり、パーセントはすべて重量パーセントであり、温度はすべて℃である。イオン交換樹脂の重量パーセントは、乾燥樹脂に基づく。「アルキル」基は、直鎖、分枝鎖、または環式配置で1から20個の炭素原子を有する飽和ヒドロカルビル基である。好ましい一実施形態において、アルキル基は非環式である。本発明で用いられる「トリグリセリド」は、脂肪酸のグリセリントリエステルを含む脂肪または油である。好ましくは、トリグリセリドは植物油の形態であるが、動物性脂肪も出発材料として用いることができる。脂肪酸は、8から20個の炭素原子を含有する非環式脂肪族カルボン酸であり、典型的にそれらは12から18個の炭素原子を含有する。炭素−炭素結合に関して、これらの脂肪酸は飽和、一不飽和、または多不飽和(典型的に2または3の炭素−炭素二重結合)であってよい。天然脂肪は少量の他のエステル化または遊離脂肪酸、並びに少量(1〜4%)のリン脂質、たとえばレシチン、および非常に少量(<1%)の他の化合物、たとえばトコフェロールをさらに含有してもよい。
【0006】
本発明の一実施形態において、反応混合物は、触媒と接触させて、少なくとも15分間、40℃から150℃の範囲の温度で加熱される。あるいは、温度は少なくとも50℃、あるいは少なくとも55℃、あるいは少なくとも60℃である。あるいは、温度は110℃以下、あるいは90℃以下、あるいは85℃以下、あるいは80℃以下、あるいは75℃以下である。反応がバッチ反応器で行われるとき、好ましくは、反応時間は少なくとも0.5時間、あるいは少なくとも1時間、あるいは少なくとも2時間、あるいは少なくとも3時間、あるいは少なくとも6時間である。あるいは、反応時間は24時間以下、あるいは16時間以下、あるいは10時間以下、あるいは6時間以下である。温度が55〜75℃である一実施形態において、反応時間は0.5〜6時間である。触媒は、濾過、遠心分離、または固体および液体を分離するための他の標準的な任意の方法によって、反応混合物から除去される。反応が連続反応器で行われるとき、好ましくは、接触時間は少なくとも30分間、あるいは少なくとも45分間である。好ましくは、接触時間は6時間以下、あるいは4時間以下、あるいは2時間以下である。
【0007】
本発明の一実施形態において、トリグリセリドは、1%から99%、あるいは80%まで、あるいは50%まで、あるいは40%まで、あるいは30%まで、あるいは20%まで、あるいは10%までの遊離(非エステル化)脂肪酸を含有する。一実施形態において、トリグリセリドは、少なくとも1%、あるいは少なくとも2%、あるいは少なくとも3%、あるいは少なくとも5%の遊離脂肪酸を含有する。本発明の一実施形態において、トリグリセリドは、2%から40%の遊離脂肪酸を含有する。
【0008】
本発明の一実施形態において、C〜C脂肪族アルコールまたはジオールは、C〜Cアルコールであるか、あるいはメタノール、エタノール、またはn−ブタノールであるか、あるいはメタノールまたはエタノールであり、もっとも好ましくはメタノールである。本発明の一実施形態において、C〜C脂肪族アルコールまたはジオールは、C〜Cジオール、あるいはC〜Cジオール、たとえばエチレングリコールである。本発明の一実施形態において、アルコールは、遊離脂肪酸に基づいて少なくとも1.1当量、あるいは少なくとも2当量、あるいは少なくとも5当量、あるいは少なくとも10当量、あるいは少なくとも15当量の量で存在する。本発明の一実施形態において、アルコールは、25当量以下の量で存在する。
【0009】
本発明に用いられるイオン交換樹脂は、ゲル型樹脂であり、マクロレティキュラー樹脂ではない。マクロレティキュラー樹脂は、表面積25m/gから200m/gおよび平均孔直径50Åから500Å、あるいは表面積30m/gから80m/gおよび平均孔直径100Åから300Åを有する樹脂である。適切なゲル型樹脂には、たとえばアクリル樹脂、スチレン樹脂、およびそれらの組み合わせがあげられる。樹脂は、多エチレン性不飽和モノマー(架橋剤)の重合単位を含有する。好ましくは、樹脂中の架橋剤のレベルは2.5%以下、あるいは2.25%以下、あるいは2%以下、あるいは1.75%以下である。一実施形態において、架橋剤のレベルは少なくとも0.5%、あるいは少なくとも0.75%、あるいは少なくとも1%である。好ましくは、ゲル樹脂の平均粒子サイズは100μmから2000μm、より好ましくは200μmから800μmである。本発明の一実施形態において、イオン交換樹脂は、スチレンと架橋剤、たとえばジビニル芳香族化合物;ジ−、トリ−、およびテトラ−(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド;ジ−、トリ−、およびテトラ−アリルエーテルおよびエステル;グリコール類およびポリオール類のポリアリルおよびポリビニルエーテルの重合単位を含む。本発明の一実施形態において、架橋剤は、ジエチレン性不飽和、たとえばジビニルベンゼン(DVB)である。本発明の一実施形態において、イオン交換樹脂の酸官能基は、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、またはそれらの混合物を含む。典型的な酸性イオン交換樹脂は、乾燥ベースで0.4から8meq/kg、あるいは少なくとも2meq/kg、あるいは少なくとも4meq/kgの酸官能基を有する。好ましくは、酸官能基は、スルホン酸基の形態である。本発明の一実施形態において、反応がバッチ反応器で行われるとき、樹脂は反応混合物の0.1%から20%(樹脂の乾燥重量に基づく)、あるいは1%から15%、あるいは2%から8%の量で存在する。反応はまた、触媒が反応器に限局(たとえば触媒床中で)されている連続反応器で行うこともできる。
【実施例】
【0010】
エステル化反応のデータは、遊離脂肪酸(FFA)のメチルエステルへの転化パーセントに基づく。これらの実施例に用いたFFAは試薬グレードのステアリン酸であり、植物油(<0.1%の総酸を有する食品グレードキャノーラ油)に混入され、一定量の固相触媒と共にメタノール中で2、4、または6時間還流された。標準的な条件は、ステアリン酸8.2%(22.5g)、油73.6%(202.5g)、メタノール18.2%(50g)、および乾燥樹脂5%(13.75g)である。特定の反応条件を例1に詳述する。実施例1に略述した手順は、このエステル化試験を通じて一定のままであった。触媒の種類、触媒量、およびFFAの量の変更例はすべて、例1に略述したものと同じ実験条件下で行った。ヨーロッパ産のチキン油およびマレーシア産のパーム油など、市販され入手可能である油を用いるその後の反応はすべて、実施例1と同じ条件下で行った。廃棄グリセロールから分離されたFFAのエステル化は、実施例1に示したものと同じ条件下で行った。
【0011】
例1:植物油中のステアリン酸のエステル化
50gの活性化モレキュラーシーブ3A、温度計、および機械式攪拌機を含有する、ソックスレーコンデンサを備えた1Lの4口RBフラスコに、メタノールで洗浄したイオン交換樹脂触媒ビーズ(13.75g、反応混合物の5重量%)を添加した。キャノーラ油(202.5g、トリグリセリド0.23モル)をフラスコに充填し、機械的攪拌を185rpmで開始した。次いで、ステアリン酸(22.5g、0.079モル、油の8.2%)を添加し、フラスコを20分かけて60℃に達するまで、外部赤外線ランプで加熱した。60℃で、メタノール(50g、1.56モルまたはFFAに基づいて20当量)をフラスコに充填した。混合物を有効に攪拌しながら(235rpm)、還流温度(〜65から67℃)に到達させた。この還流物を水コンデンサで凝縮し、モレキュラーシーブを通してフラスコに戻した。
【0012】
反応は65℃〜67℃(還流温度)および大気圧で6時間行った。触媒ビーズが取り出されるのを避けるために小口径を有するステムの長いポリエチレン製ピペットを用いて、試料を30分間隔で採取した。試料を0.45umのMILLIPORE PTFEフィルターを通してろ過して、風袋計量した1オンスのガラスバイアル中にいれた。試料の重量を記録した。試料は脂肪酸のメチルエステルの混合物を含有する上部メタノール相と主として未反応ステアリン酸およびキャノーラ油の下相の2相に分離した。6時間後、混合物を周囲温度に冷却した。触媒を有機相から濾過によって回収した。液相の最終試料を分析用に採取し、残存する油、メタノール、ステアリン酸混合物を廃棄した。
【0013】
例2から36は、表に記載したとおり、触媒の種類と量、油の種類、FFAの種類と量が変化することを除いて、例1と同じである。
【0014】
GC法
ステアリン酸メチルを分析するために、反応混合物のGC/MS分析を行った。この分析は、DVB含量2%を有するゲル樹脂に関して、120分で転化率100%を示した。
【0015】
反応混合物試料をTHFで1%に希釈した。この希釈試料を、HP5972MS検出器を備えたHP5890シリーズII GCに注入した。GCカラムはSUPELCO EQUITY1、30m×0.25mm、膜厚0.25umであった。インジェクターは1μl、スプリット22:1、注入温度は250℃であった。キャリアガスはヘリウムであり、線速度は定流量モードで32cm/秒@210℃であった。オーブン温度は210℃で8分間保持し、昇温は320℃まで15℃/分、320℃で5分間保持した。
【0016】
エステルを分析するために、出発キャノーラ油と反応混合物のGC/MS分析を行った。分析は、脂肪酸のメチルエステルの混合物{典型的なバイオディーゼル混合物(パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、およびリノレン酸などのメチルエステル)}の存在とステアリン酸の存在を示した。この分析はまたグリセロールの存在を明らかにした。
【0017】
これらの表は、残存する最初のステアリン酸のパーセントを示す表2を除いて、ステアリン酸メチルの収量パーセントを示す。
【0018】
【表1】

【0019】
触媒は以下の特性を有した。すべてスルホン酸基を有するスチレン樹脂であった。樹脂ビーズの調和平均粒子サイズ(HMS)、重量容量(wt cap)、および体積容量(vol cap)を表1に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
【表6】

【0025】
これらの実験の結果は、ゲル相、低DVB(3%未満)強スルホン酸樹脂が非常に容易で、定量的かつ選択的方法でFFAのメチルエステルへの反応を触媒し、かつすべての要件(速い速度、総転化率、および樹脂リサイクル)を満たすことを示している。軽度(2%)に架橋されたゲル陽イオン樹脂は、速い反応速度(1時間未満で転化)、完全な転化(100%)、および良好な樹脂リサイクル(10サイクル後でも活性低下なし)であった。市販油による試験も、速い速度および完全な反応の両方に関して有望に見える。
【0026】
エステル化の良好な選択性は、検出されなかったジメチルエーテル副生成物についての分析によって、並びに本質的にすべてのステアリン酸を占める物質収支によって実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族アルコールまたはジオールを用いてトリグリセリドをエステル交換する方法であって、
(a)0.25%から2.75%の架橋剤を有するゲル型酸性イオン交換樹脂を含む触媒を提供する工程;並びに
(b)エステル化に適した条件下で、前記触媒を(i)少なくとも1%の遊離脂肪酸を有するトリグリセリド、および(ii)C〜C脂肪族アルコールまたはジオールを含む反応混合物と接触させる工程:を含む方法。
【請求項2】
〜C脂肪族アルコールまたはジオールが、メタノールまたはエタノールである請求項1記載の方法。
【請求項3】
樹脂が、0.5%から2.5%の架橋剤を有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
イオン交換樹脂が、スルホン酸官能基を有する請求項3記載の方法。
【請求項5】
トリグリセリドが、1%から80%の遊離脂肪酸を有する請求項4記載の方法。
【請求項6】
樹脂が、平均粒子サイズ100μmから2000μmを有する請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応混合物が、少なくとも0.5時間、40℃から100℃の温度範囲で、バッチ反応器において加熱される請求項6記載の方法。
【請求項8】
反応混合物が、少なくとも15分間、40℃から100℃の温度範囲で、連続反応器において触媒と接触する請求項6記載の方法。
【請求項9】
〜C脂肪族アルコールまたはジオールが、C〜Cジオールである請求項1記載の方法。
【請求項10】
樹脂が、0.5%から2.5%の架橋剤を有する請求項9記載の方法。

【公開番号】特開2009−185215(P2009−185215A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−28087(P2008−28087)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】