説明

トリチウム検査装置およびトリチウム検査方法

【課題】ごく少量のトリチウム含有被検体を対象に高精度で且つ短時間でトリチウムを正確に検査可能なトリチウム検査装置およびトリチウム検査方法を提供すること。
【解決手段】トリチウム検査装置は、その主要部として被検査気体供給装置、被検体採取装置の一例としての平板体3、冷却装置4、β線検出装置6、およびトリチウム検出装置7から構成されており、平板体3の付着用面は冷却コイル42により冷却されていて、付着用面に供給されたトリチウム含有被検体中の水蒸気は付着用面上で凝縮あるいは凝固して被検体層TLが形成され、CaF(Eu)シンチレータ、YAlO(Ce)シンチレータなどから形成されたβ線検出装置6は被検体層TLから発せられるβ線を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム検査装置およびトリチウム検査方法に関し、原子力炉施設、使用済燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、粒子線使用施設、あるいはかかる施設の解体前後でのトリチウム汚染の検査に好適なトリチウム検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のトリチウム検査装置は、汚染物を密閉容器に入れて加熱し、トリチウムを含む水蒸気をカバーガス中に蒸発させ、当該水蒸気を含むカバーガスを通気式電離箱に通し、トリチウムから放射されるβ線でカバーガスが電離して生成される電離電流を、高電圧を印加した電極に収集し、通気式電離箱から出力される電離電流を測定することによりトリチウムの放射能レベルを測定する。天然核種のラドン、トロンから放射されるα線のエネルギーは、ラドンが5.5MeV、トロンが6.3MeVと高エネルギーであるのに対し、トリチウムから放射される放射線はβ線であって、その最大エネルギーが18keV、平均エネルギーが5.7keVと低エネルギーであるため、トリチウム測定上での障害を防止する観点からカバーガスとしてはラドン、トロンを含まない窒素ガスが窒素ボンベより供給する。将来、トリチウムの検査対象となる各種施設の解体の際に生じるトリチウム汚染物の量が増大すると、上記密閉容器も大型になり、また窒素ガスの消費量が増大してボンベの交換の頻度が高まることが予想され、このための労務改善策および保守費低減策が課題となる。また、トリチウムを水蒸気の形態で通気式電離箱で測定した場合は、水の形態で液体シンチレーションカウンターで測定した場合に比べて検出感度が低いという課題があった。
【0003】
上記の対策として、トリチウム捕集部とトリチウム測定部とからなり、前記トリチウム捕集部は、サンプリング場所からサンプリング空気を引き込むサンプリング配管と、このサンプリング配管の一端が接続されサンプリング空気中の水分を凝結すると共に解凍してサンプリング水を取得する湿分採集部と、この湿分採集部からサンプリング水を採り出すサンプリング水導入管と、当該捕集部の各部の動作を制御する制御部とを備え、前記トリチウム測定部は、前記サンプリング水導入管の一端に接続されプラスチックシンチレータまたは液体シンチレータと前記サンプリング水とを直接接触させる測定容器と、この測定容器におけるプラスチックシンチレータまたは液体シンチレータとサンプリング水中のトリチュウとの反応による発光を検出する光検出手段と、この光検出手段から出力される信号パルスを計数する計数手段と、前記測定容器に導入されたサンプリング水の水量を測定する水量測定手段と、前記湿分採集部に導入されたサンプリング空気の量を測定する空気量測定手段と前記計数手段の計数値と前記水量測定手段の水量測定値と前記空気量測定手段の空気量測定値とを使用してトリチウム濃度を計算するデータ処理手段とを備えたトリチウム自動測定装置が、後記する特許文献1から従来公知である。
【0004】
また、ガス中のトリチウム化水蒸気または他の親水性のトリチウム化核種に対して選択的に応答するのに適した吸湿シンチレータ部材において、前記シンチレータは、吸湿性材料の層を表面に有する固体シンチレータ材料からなるシンチレータ部材、および上記吸湿シンチレータ部材を製造する方法として、固体シンチレータ材料を吸湿性材料の層により皮膜するステップからなる方法は、後記する特許文献2から従来公知である。
【0005】
従来のトリチウム汚染検査装置は、上記のように構成されているため、トリチウム捕集部で捕集された試料水が測定容器に導入される経路に試料水が付着し、測定に必要な試料水の量を確保するには水蒸気発生装置で多量の水蒸気を供給して試料水を増やす必要があり、このためにトリチウム測定感度が低下するという問題があった。また、プラスチックシンチレータは、分子構造に水素原子を含むため、トリチウムと同位体交換で汚染されるという問題があった。また、吸湿性材料の層を表面に有する固体シンチレータは、吸湿性材料に取り込まれた水蒸気を放出させて次の測定を行える状態にするのに時間がかかり、また、残留水蒸気が測定誤差になるという問題があった。
【特許文献1】特開平8−75863号公報
【特許文献2】特表2001−517802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、斯界における如上の問題に鑑みて、ごく少量のトリチウム含有被検体を対象に高精度で且つ短時間でトリチウムを正確に検査可能なトリチウム検査装置およびトリチウム検査方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトリチウム検査装置は、被検査気体供給装置から供給された被検査気体に含まれているトリチウムを付着させるための付着用面を有する被検体採取装置、上記付着用面を冷却してトリチウムを含有する液体または固体の被検体層を付着させる冷却装置、上記付着用面に対向して設置されて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力するβ線検出装置を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明のトリチウム検査方法は、被検査気体供給装置から供給された被検査気体に含まれているトリチウムを付着させるための付着用面を有する被検体採取装置、上記付着用面を冷却してトリチウムを含有する液体または固体の被検体層を付着させる冷却装置、上記付着用面に対向して設置されて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力するβ線検出装置を備えたトリチウム検査装置を用い、上記付着用面に平均厚さが0.05mm〜0.5mmの上記被検体層を付着させる第一工程、上記β線検出装置にて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力する第二工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記被検体採取装置の上記付着用面に液体または固体として付着させた薄い被検体層をトリチウムを含む被検体とするので、当該被検体の量は、前記特許文献1の場合と比較して極端に少量で済む。また当該被検体層の形成は、冷却された上記被検体採取装置の上記付着用面に沿って上記被検査気体を単に流すだけであるので、被検体層の形成が頗る簡単且つ短時間で行うことができ、上記付着用面の対面位置でトリチウムのβ線の検出が可能であるので、トリチウム検査上でエラーの原因となる異物の混入の可能性が極めて少なく、よって検体採取装置が頗る簡単且つ小型化が可能となり、しかも高感度並びに高精度でトリチウムを検査することができる。
【0010】
本発明は、カバー気体としてボンベから供給される窒素などのボンベ入りガスを排除するものではないが、たとえボンベ入りガスを使用するとしても、前記した理由からその使用量は従来技術の場合と比較してかなり少量で済むのでボンベ交換の頻度も軽減する。
【0011】
またさらに本発明は、上記付着用面の薄い被検体層は、加熱により簡単且つ短時間で蒸発除去できるので、水蒸気の形態のトリチウムを含む被検体を対象として、それのトリチウム含有量の経時変化の測定や、多数の被検体を能率的に検査する場合に好適である。
【0012】
また前記特許文献2の場合では、β線検出装置としてのシンチレータとして吸湿性材料層付きのシンチレータを採用する必要があったが、本発明ではシンチレータとして従来公知あるいは周知の各種のものが採用が可能であり、検査の状況並びに条件に応じて所望のシンチレータを採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、同符号は、同個所を示す。
【0014】
実施の形態1.
図1〜図3は、実施の形態1を説明するものであって、図1は、実施の形態1におけるトリチウム検査装置の構成図であり、図2は図1の一部に就いての詳細図であり、図3は図2の一部に就いてのさらに詳細な断面図である。
図1〜図3において、当該トリチウム検査装置1は、その主要部として、被検査気体供給装置2、前記被検体採取装置の一例としての平板体3、冷却装置4、β線検出装置6、およびトリチウム検出装置7から構成されている。被検査気体供給装置2は、密閉容器21、ファンヒータ22、ポンプ23、ダストフィルタ24、温度計25、湿度計26から構成されている。平板体3は、アルミニウムなどの熱伝導性の良好な構造用金属にて形成されており、そのβ線検出装置6と対向する面がトリチウムを含有する被検体層を付着させるための付着用面31となっていて付着用面31上にはトリチウムを含有する被検体層TL(図3参照)が後記する方法で形成される。
【0015】
冷却装置4は、冷却室41、冷却コイル42、および冷凍機43から構成されており、冷却室41内には平板体3とβ線検出装置6とが図示するように互いに対向して設置されている。冷却コイル42には冷凍機43から冷媒(図示せず)が送られ、当該冷媒が循環して冷却コイル42を冷却する。また冷却コイル42は、平板体3の上記付着用面31の反対側に熱的に結合された状態で設置されていて、冷凍機43の稼動により平板体3を、即ち付着用面31を冷却する機能をなす。
【0016】
β線検出装置6は、例えば固体シンチレータから構成されており、当該β線検出装置から出力する信号を入力してトリチウムを検出するトリチウム検出装置7を備えている。またトリチウム検出装置7は、ライトガイド71、2台の光電子増倍管72、73、2台のプリアンプ74、75、同時計数回路76、およびトリチウム計量部77から構成されている。
【0017】
図1〜図3および後続の各図において、符号aは密閉容器21のガス出口、符号bはダストフィルタ24のガス出口、符号cは温度計25のガス入口、符号dは冷却室41のガス入口、符号eは冷却室41のガス出口、符号fは被検査気体供給装置2のガス入口、をそれぞれ示す。
【0018】
次に実施の形態1のトリチウム検査装置1の動作につき説明する。密閉容器21は、その内部にファンヒータ22を備えており、容器21内に収容された被検体の一種である汚染物Sは、ファンヒータ22で加熱され、その際に汚染物Sの表面または表面層に吸着された水蒸気は、蒸発して密閉容器21内に存在しているガス(以下、カバーガスと称す。)中に放出される。密閉容器21内の当該水蒸気を含むカバーガスは、ポンプ23によりダストフィルタ24に導入され、カバーガス中の粒子状放射性核種を含むダストはダストフィルタ24により除去される。
【0019】
ファンヒータ22は、それを駆動するために印加される電圧を変えることにより汚染物Sを加熱するための熱風の温度を容易に変えることができる。したがって、汚染物Sの材質および大きさを予め分類整理して上記印加電圧を設定しておけば、ファンヒータ22は、最適印加電圧を選択することによりスイッチ操作で簡単に操作できる。またファンヒータ22を複数設け、熱風を吹き付ける角度および場所を変えることにより、あるいはファンヒータ22を固定して汚染物Sを回転させることにより、汚染物Sを効率良く加熱することができて加熱時間を短縮できる。
【0020】
なお汚染物Sに対する加熱手段は、ファンヒータ22に限定されるものでなく、赤外線ランプあるいはその他の加熱手段であってよく、加熱方法に就いても汚染物Sを効果的に加熱し得る限り任意であってよい。また上記のカバーガスとしては、通常、本発明のトリチウム検査装置が設置された個所周辺の空気が使用されるが、かかる空気は、ラドン、トロンあるいはその他のガス状放射性核種、さらにラドンやトロンの子孫核種のような粒子状放射性核種が含まれている。これに対してダストフィルタ24は、粒子状放射性核種が上記被検体層TLに混入するのを防止する。なお上記ガス状放射性核種は、希ガスが主体であり、水などの多くの被検気体との親和性が低いために上記被検体層TLに混入する可能性は小さい。
【0021】
ダストが除去されたカバーガスの温度と湿度とは、温度計25と湿度計26とでそれぞれ測定され、次いで冷却室41内を符号d、eの方向に流されて上記付着用面31に供給される。上記したように付着用面31は冷却コイル42により冷却されているので、カバーガス中の水蒸気は凝縮あるいは凝固して張り付いたような状態になって被検体層TLが形成される。凝縮あるいは凝固せずに冷却室41を通過した余剰のカバーガスは、ポンプ23により三方電磁弁8を経由して密閉容器21に還流され循環される。よって、ポンプ23、密閉容器21、冷却室41、三方電磁弁8、およびそれらを繋ぐ管路を含むものは、循環排気装置の例である。
【0022】
かくして付着用面31上に形成された被検体層TLからは、当該被検体層TL内に含有されているトリチウムからβ線が発生し、それはβ線検出装置6により検出され、β線検出装置6は検出したβ線量に対応する量のパルス信号を出力する。当該パルス信号は、温度計25から出力された温度信号および湿度計26から出力された湿度信号と共に、トリチウム検出装置7に入力される。
【0023】
β線検出装置6としては、従来から斯界で公知あるいは周知の固体シンチレータが例示される。なおトリチウムから放射されるβ線のエネルギーは、前記したように最大エネルギーが18keV、平均エネルギーが5.7keVと微弱のため、固体シンチレータから形成されたβ線検出装置6は、カバーガスに直接触れるように設置されるとβ線の検出能が向上するので好ましい。そのために上記固体シンチレータとしては、潮解性がなく、耐食性を有し、量子効率が高く、さらに同位体交換でトリチウム汚染しないものが好ましく、例えばCaF(Eu)シンチレータおよびYAlO(Ce)シンチレータは、上記条件を満たす好適なシンチレータ例である。上記シンチレータは、結晶に水素原子を含まないためにトリチウムとの同位体交換反応がない。加えてプラスチックシンチレータと比較して、同一エネルギーのβ線に対して約2倍の光子を放出し、量子効率が高い。
【0024】
付着用面31上の被検体層TLの厚みとトリチウムの検出感度との関係は、一般的に、トリチウムから放射されるβ線の最大エネルギーに相当する飛程で検出感度が飽和する特性になり、よって被検体層TLの当該飛程以上の厚みは、検出感度に寄与しない。トリチウムから放射されるβ線のエネルギーは微弱であり、以上のことから被検体層TLの厚みT(図3参照)は、0.05mmあれば十分である。また被検体層TLの厚み0.05mmは、水の形態でも表面張力で平板体3から落下することがないので、被検体層TLは、水の形態または氷の形態のいずれでもであってもよい。夏場は空気中の水蒸気密度が高く、冬場は低いので、冷凍機43から冷却コイル42に供給される冷媒の温度制御に幅をもたせることにより、自動的に夏場は凝縮、冬場は凝固となるため、安定して適度の量の被検体層TLが採取できる。
【0025】
また幾何学的効率とカバーガスによる減衰を考慮すると、β線検出装置6としての固体シンチレータは、平板体3にできるだけ近接して配置するのが望ましく、平板体3上に被検体層TLを形成し、固体シンチレータを対面するように配置することにより良好なトリチウム検出条件が実現できる。上記を顧慮し、且つ実際上の装置の製造や操作の容易さ、およびトリチウムの検査精度などを考慮すると、一般的には、被検体層TLの厚みTは、0.01mm〜1mm、好ましくは0.05mm〜0.5mmであり、付着用面31とβ線検出装置6の付着用面31に対向する外表面との間隔D1は、0.5mm〜5mm、好ましくは1mm〜5mm、被検体層TLとβ線検出装置6の外表面との間隔D2は、0〜5mm、好ましくは0.5〜3mmである。
【0026】
一つの被検体層TLに就いての検査が終了すると、冷凍機43は冷却モードから加熱モードに自動的に切り替わり、温度の高い媒体が冷却コイル42に供給されて平板体3は加熱され、平板体3上の被検体層TLは蒸発してカバーガス中に放出され、上記加熱モード切り替わりの際に自動的に切り替わった電磁弁8から周辺空気を吸入し、三方電磁弁9を経て外部に排気される。
【0027】
β線検出装置6は、トリチウムから放射されたβ線が入射すると蛍光を発する。当該蛍光は、ライトガイド71で伝達されて2台の光電子増倍管72、73に入射し、それぞれ電流パルスに変換される。光電子増倍管72、73から出力された電流パルスは、それぞれプリアンプ74、75に入力されて電圧パルスに変換される。当該電圧パルスは、同時計数回路76に入力され、同時に電圧パルスが入力されたらトリチウムを検出したとしてデジタルパルスを出力する。なおトリチウムから放射されるβ線は、エネルギーが低いため、光電子増倍管72、73から出力される前記電流パルスと熱雑音によるノイズパルスを識別してノイズパルスを除去する必要があるが、光電子増倍管72、73の両方で熱雑音が同時発生する確率は極めて低いため、プリアンプ74、75からそれぞれ出力される電圧パルスを同時計数回路76で同時計数することにより前記熱雑音を排除できる。
【0028】
トリチウム計量部77では、同時計数回路76から出力されたデジタルパルスおよび温度計6と湿度計7から出力された温度信号と湿度信号が入力され、デジタルパルスを計数して測定時間で割り算して計数率nが求られ、当該計数率nに予め校正試験で求めておいた単位計数率当たりのトリチウム濃度のk換算定数を乗じて試料水のトリチウムの放射能量Cが求められる。また、温度信号T(℃)と湿度信号H(%RH)から、下式(1)からカバーガスの水蒸気密度W(カバーガス1cm3あたりに含まれている水のg数)が求められる。よって、温度計6、湿度計7、およびトリチウム計量部77は、水蒸気密度測定装置として機能する。
W=(H/100)×{0.000804/(1+0.00366T)}×(e/P)・・・・(1)
ここに、eは、T℃における飽和水蒸気圧であって、T℃に対応する飽和水蒸気圧のテーブルをトリチウム計量部77に記憶させておく。一方、Pは、カバーガスの圧力(eと同じ単位)であり、概ね大気圧である。
【0029】
実施の形態1の装置の内容積(即ち、図1における符号aから符号b〜符号fを経て符号aに至る間に含まれている容器や気体搬送管路内の合計内容積、以下の循環排気装置においても同様である。)をVとすると、カバーガス中の水蒸気量はV×Wとなる。被検体層TLの量は、被検体層TLの面積と厚みの積であり、当該面積は平板体3の付着用面31の面積であり、当該厚みはトリチウムから放射されるβ線の最大エネルギーに相当する飛程とすれば、必要な被検体層TLの量、即ち必要な試料水は一義的に決定する。
【0030】
トリチウム計量部77は、カバーガスの最初の水蒸気密度W1に対して目標水蒸気密度W2を、V×(W1−W2)が上記試料水の量となるように自動で設定し、水蒸気密度が目標値のW2まで減少したら必要な試料水が確保できたとみなしてβ線検出装置6からトリチウム検査に自動的に切り換え、上記のように被検体層TLのトリチウムの放射能量Cを求め、当該放射能量CにW1と(W1−W2)の比を乗じて下式(2)にて汚染物Sの表面または表面層に吸着されたトリチウムの放射能量Csを求めて出力する。
Cs=C×W1/(W1−W2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0031】
なお、カバーガスとしてトリチウム汚染検査装置の周辺空気を使用する場合、汚染物Sの検査を行う前に、前記と同様の方法にて空気中の水蒸気からバックグラウンド試料としての被検体層TLを採取し、当該被検体層TLに就きバックグラウンド計数率がトリチウム検査に支障がないレベルであること、例えばバックグラウンド計数率の統計的変動をσとしたときに、3σに相当の計数率に単位計数率当たりのトリチウム濃度の換算定数を乗じたトリチウムの放射能量が、測定目標レベルより低いことを確認しておく。当該バックグラウンド計数率nbをトリチウム計量部77に記憶させておき、上記の汚染物の測定結果としての計数率nからバックグラウンド計数率nbを引き算して正味計数率nNを求め、正味計数率nNに単位計数率当たりのトリチウム濃度の換算定数kを乗じて下式(3)のようにして正味の放射能量CNを演算することにより、高精度でトリチウムの放射能量を測定できる。
CN=k×nN=k×(n−nb)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【0032】
以上のように実施の形態1では、検査対象の汚染物Sを密閉容器21に入れてファンヒータ22で加熱し、汚染物Sの表面または表面層に吸着された水蒸気を効率良く蒸発させてカバーガス中に放出させ、放出させたトリチウムを含む水蒸気を平板体3の上に平面状に凝縮または凝固させて被検体層TLを採取し、平面状の被検体層TLから放射されるトリチウムのβ線を対面に近接設置した剥き出しの固体シンチレータなどのβ線検出装置6で検出するようにし、測定に供される試料水量は必要最小限で済むようにしたので、さらにβ線検出装置6に入射するまでのβ線エネルギー損失を小さくし且つ近距離で好適な幾何学的条件でトリチウムのβ線を検出するようにしたので、汚染物Sから放出される水蒸気量が少量でも高感度でトリチウム汚染を検査することができ、それと共に装置を小型化できる。
【0033】
また固体シンチレータとして、潮解性がなく、耐食性を有するCaF(Eu)シンチレータやYAlO(Ce)シンチレータを使用することにより当該シンチレータを剥き出しにしてカバーガスに直接触れる状態で使用可能であり、保護膜によるβ線エネルギー損失がないため、またプラスチックシンチレータに比べて量子効率が高いため、更に同位体交換でトリチウム汚染することがないため、高感度でトリチウム汚染を検査することができる。また、ファンヒータ22を使用して汚染物Sを加熱するため、汚染物Sの形状が複雑でも熱風を吹き付けることで、影になっている箇所にも熱が伝わり、汚染物Sから水蒸気を確実に蒸発させ、均一に且つ効率良く加熱できるのでトリチウム汚染を高精度で検査できる。また光電子増倍管72、73の両方が熱雑音を同時発生する確率は極めて低いことに着目し、プリアンプ74、75からそれぞれ出力される電圧パルスを同時計数回路76で同時計数することにより光電子増倍管72、73の熱雑音を排除できるため、トリチウム汚染を高感度かつ高精度で検査できる。
【0034】
また検査が終了すると、冷凍機43は冷却モードから加熱モードに自動的に切り替わり、温度の高い冷媒を冷却コイル42に供給して平板体3上の被検体層TLを強制的に蒸発させるため、次のトリチウム検査のための準備時間が短縮される。またさらに、温度計25と湿度計26から出力された温度信号と湿度信号は、トリチウム計量部77に入力され、温度信号と湿度信号からカバーガスに含まれる水蒸気密度が求められ、水蒸気密度に基づき被検体層TLを採取するのに必要な時間が演算されて、自動運転の時間割りに組み込まれるため、時間割りの無駄がなくなるために装置の利用率が向上する。
【0035】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2を説明するものであって、被検体採取装置2の密閉容器21に就いての他の例を説明する断面図である。図4においては、実施の形態1で採用されたファンヒータ22に代えて赤外線ランプ27とミラー28が採用されている。なお符号aと符号fとの間は省略しているが、前記図1のそれと同じである。赤外線ランプ27から放射される赤外線をミラー28で絞って汚染物Sの一例としてのコンクリート破砕粉に照射し、500℃以上で加熱するようにしたので、コンクリート破砕粉の表面の水蒸気はもとよりコンクリート成分の水酸化カルシウムが分解して発生する水蒸気がカバーガス中に放出されるため、コンクリート内部のトリチウムまで容易に検査でき、従来、大掛かりで高価格であったコンクリート用トリチウム汚染検査装置を安価で提供できる。
【0036】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3を説明するものであって、被検体採取装置2の密閉容器21に就いての他の例を説明する断面図である。実施の形態3においては、密閉容器21としてドラム缶が採用され、且つ実施の形態1で使用されたファンヒータ22が省略された構成となっていることのみ実施の形態1と異なり、その他の構成は同じである。以下、前記図1〜図3を参照して説明すると、ドラム缶21内のカバーガスは、ポンプ23で吸引され、トリチウムを含む水蒸気は冷却装置4で冷却され、平板体3上に凝縮または凝固させて被検体層TLが採取され、トリチウムから放射されるβ線はβ線検出装置6にて検出される。この結果、実施の形態1と同様に、水蒸気を水または霜の形態に変えることでトリチウムが濃縮されるため、ドラム缶21内の汚染物から放出される水蒸気量が少量でもトリチウム汚染を確実に検査することができる。
【0037】
実施の形態4.
図6は、実施の形態4を説明するものであって、トリチウム検査装置の一部断面図を含む他の構成図である。実施の形態1では、測定対象の汚染物Sを密閉容器21の内部に入れてファンヒータ22で加熱して汚染物Sの表面または表面層に吸着された水蒸気を蒸発させてカバーガス中に放出させ、当該カバーガスをポンプ23で吸入したが、実施の形態4では、図6に示すように、実施の形態1で採用された密閉容器21の代わりに吸入器211が採用され、ファンヒータ22の代わりに前記実施の形態2の場合と同様の赤外線ランプ27とミラー28を備えている。吸入器211は、椀を下向きにしたようなものであって下端は開放状態であり、開放された状態にある汚染物Sは、赤外線ランプ27から放射される赤外線をミラー28で絞ってスポット的に加熱され、当該加熱箇所の表面または表面層から蒸発した水蒸気は、吸引器211により汚染物S周辺の空気と共にポンプ23にて吸引され、吸引ガスは、実施の形態1の場合と同様にトリチウム検査される。赤外線ランプ27とミラー28は、汚染物Sの加熱したい箇所をスポット的に加熱し、実施の形態1におけるファンヒータ22のように空気の流れを乱すことがなく、蒸発した水蒸気を効率良く回収可能となる。このため、小型で安価な可搬型のトリチウム検査装置を提供できる。なお赤外線ランプ27は、それを稼動させるための印加電圧を変えることにより汚染物の材質に応じて加熱温度を容易に調節できる。このことは、前記実施の形態2、3、および後記の実施の形態においても同じである。
なお実施の形態4は、実施の形態1などで採用された密閉容器21の代わりに大気に開放された吸入器211が採用され、そのために実施の形態1において説明した装置の内容積Vが確定しないのでトリチウムの定量は困難ではあるが、トリチウムの有無の検査には簡便に利用できる効果がある。
【0038】
実施の形態5.
図7は、実施の形態5を説明するものであって、トリチウム検査装置一部である被検体採取装置2の他の例の一部断面図を含む説明図である。前記実施の形態4では、大気中に解放された汚染物Sを赤外線ランプ27から放射される赤外線をミラー28で絞ってスポット的に加熱し、加熱箇所の表面または表面層から蒸発した水蒸気を、吸入器211により汚染物S周辺の空気と共に吸引するようにしたが、実施の形態5では、図7に示すように、吸入器211は、その下縁に全周に亘るリング状のゴム製吸盤212を備え、汚染物Sの検査対象面に吸盤212を押し付けて当該検査対象面を取り込んでシールする。かくすると、汚染物Sが例えばコンクリート面のような広がりがある場合、検査対象面から蒸発した水蒸気を確実に回収でき、その結果、実施の形態1で説明した平板体3、β線検出装置6およびその他の装置を用いて高精度でトリチウム汚染を検査できる。また、当該コンクリート面の内部まで検査する場合については、赤外線ランプ27の印加電圧を高めて加熱温度を上げてコンクリー面内部の水蒸気を放出させ、且つこれを飛散させることなく確実に採取することができる。
【0039】
実施の形態6.
図8は、実施の形態6を説明するものである。実施の形態6は、前記実施の形態1とは、水蒸気供給装置29がダストフィルタ24のガス出口bと温度計25のガス入口cとの間に追加設置されている点において異なり、その他は同構造である。水蒸気供給装置29は、純水を収容した給水タンク291、ガラス繊維292、加熱容器293、加熱容器293の外部に設けられて当該容器を加熱するヒータ294、および電磁弁295から構成されたものである。水蒸気供給装置29は、電磁弁295を介してダストフィルタ24と温度計25とを繋ぐ管路に気密に接続されており、ガラス繊維292の一端部は、給水タンク291内の純水中に浸漬し、その他端は加熱容器293内に達している。ヒータ294にて加熱容器293を加熱し且つ電磁弁295を開状態とすると、上記純水は毛細管現象によりガラス繊維292間を上昇して加熱容器293に達し、そこで加熱され気化し、上記管路内を通過するカバーガスに供給される。しかして実施の形態6は、汚染物S(図示せず)から水蒸気を採取し難い条件下でもトリチウム汚染検査を行うことができ、また利用率の高いトリチウム汚染検査装置を供給できる。
【0040】
実施の形態7.
図9は、実施の形態7を説明するものである。実施の形態7は、前記実施の形態1とは、冷却装置4として冷却コイル42および冷凍機43に代えてペルチェ素子5を含むものが採用された点において異なり、その他は同構造である。図9において、冷却装置4は、ペルチェ素子5、放熱フィン51、送風ファン52、およびペルチェ素子5を稼動させる直流電源(図示せず)を備えている。またペルチェ素子5の冷却面は平板体3と熱的に接合され、ペルチェ素子5の放熱面は放熱フィン51と熱的に接合されている。当該直流電源からペルチェ素子5に一方向に電流を流すと、ペルチェ素子5の冷却面が冷却されて平板体3が冷却され、付着用面31上に被検体層TLが採取される。一方、ペルチェ素子5の発熱面は、放熱フィン51が熱的に接合され、送風ファン52から送られる風で放熱する。一方、ペルチェ素子5に上記と反対に電流を流すと、冷却面は逆転して放熱面となり、上記平板体32は加熱され、被検体層TLは強制的に蒸発せしめられる。ペルチェ素子5は、スポット的な冷却に適しており、電流を逆転することにより容易に熱の流れを逆転することができるため、本発明のトリチウム検査装置1を小型化することができ、さらに安価な携帯型の装置の提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、コンクリートなど、トリチウム汚染の可能性のある種々の材料や物質に就いてトリチウム汚染の検査に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態1でのトリチウム検査装置の構成図である。
【図2】図1の一部の詳細図である。
【図3】図2の一部の詳細な断面図である。
【図4】実施の形態2での密閉容器の断面図である。
【図5】実施の形態3での密閉容器の断面図である。
【図6】実施の形態4でのリチウム検査装置の一部断面図を含む構成図である。
【図7】実施の形態5でのトリチウム検査装置の一部断面図を含む説明図である。
【図8】実施の形態6における水蒸気供給装置の説明図である。
【図9】実施の形態7でのトリチウム検査装置の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 トリチウム検査装置、2 被検査気体供給装置、21 密閉容器、
211 吸入器、212 吸盤、22 ファンヒータ、23 ポンプ、
24 ダストフィルタ、25 温度計、26 湿度計、27 赤外線ランプ、
28 ミラー、29 水蒸気供給装置、291 給水タンク、292 ガラス繊維、
293 加熱容器、294 ヒータ、295 電磁弁、3 平板体、31 付着用面、
4 冷却装置、41 冷却室、42 冷却コイル、43 冷凍機、5 ペルチェ素子、
51 放熱フィン、52 送風ファン、6 β線検出装置、7 トリチウム検出装置、
71 ライトガイド、72 光電子増倍管、73 光電子増倍管、74 プリアンプ、
75 プリアンプ、76 同時計数回路、77 トリチウム計量部、8 電磁弁、
9 三方電磁弁、S 汚染物、TL 被検体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査気体供給装置から供給された被検査気体に含まれているトリチウムを付着させるための付着用面を有する被検体採取装置、上記付着用面を冷却してトリチウムを含有する液体または固体の被検体層を付着させる冷却装置、上記付着用面に対向して設置されて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力するβ線検出装置を備えたことを特徴とするトリチウム検査装置。
【請求項2】
上記被検査気体供給装置は、トリチウム汚染物を必要に応じて加熱して上記トリチウム汚染物を覆うカバー気体中にトリチウムを含む水蒸気を放出させる加熱装置および上記被検査気体に含まれている粒子状物質を除去する粒子状物質除去装置を備え、上記冷却装置は、上記被検体層を加熱蒸発させる加熱機能を兼備する冷却加熱装置であり、上記β線検出装置は、上記β線検出装置から出力する信号を入力してトリチウムを検出するトリチウム検出装置を備えたことを特徴とする請求項1記載のトリチウム検査装置。
【請求項3】
上記被検査気体供給装置および上記被検体採取装置に上記カバー気体を循環させると共にトリチウム検査後に上記カバー気体を外部に排気する循環排気装置を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項4】
上記被検査気体供給装置は、上記トリチウム汚染物を収容したドラム缶を含むものであることを特徴とする請求項3記載のトリチウム検査装置。
【請求項5】
上記被検査気体供給装置は、上記トリチウム汚染物を気密に囲む吸盤付きトリチウム捕獲容器を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項記載のトリチウム検査装置。
【請求項6】
上記被検査気体供給装置は、上記トリチウム汚染物を加熱するための赤外線を放射する赤外線ランプと赤外線を集光するミラーを備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項記載のトリチウム検査装置。
【請求項7】
上記被検体採取装置は、構造用金属で形成された平板体であり、上記β線検出装置は、CaF(Eu)シンチレータまたはYAlO(Ce)シンチレータであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項8】
上記トリチウム検出装置は、上記β線検出装置から発する上記信号を受信する複数の光電変換素子、上記複数の光電変換素子からの信号を受信して同時計数する同時計数装置を備えたことを特徴とする請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項9】
上記冷却加熱装置は、冷凍機およびペルチェ素子のいずれか一方または両方を含むものであることを特徴とする請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項10】
上記カバー気体中の水蒸気密度を測定する水蒸気密度測定装置を備えことを特徴とする請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項11】
上記カバー気体中に水蒸気を供給する水蒸気供給装置を備えたことを特徴とする請求項請求項2または請求項10記載のトリチウム検査装置。
【請求項12】
上記付着用面と上記β線検出装置の上記付着用面に対向する外表面との間隔が1mm〜5mmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のトリチウム検査装置。
【請求項13】
被検査気体供給装置から供給された被検査気体に含まれているトリチウムを付着させるための付着用面を有する被検体採取装置、上記付着用面を冷却してトリチウムを含有する液体または固体の被検体層を付着させる冷却装置、上記付着用面に対向して設置されて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力するβ線検出装置を備えたトリチウム検査装置を用い、上記付着用面に平均厚さが0.05mm〜0.5mmの上記被検体層を付着させる第一工程、上記β線検出装置にて上記被検体層から放射されるβ線を検出すると共に検出したβ線量に応じた量の信号を出力する第二工程を含むことを特徴とするトリチウム検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−218827(P2007−218827A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42053(P2006−42053)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】