トリプシン阻害活性を有する新規ポリペプチド
【課題】 トリプシン阻害活性を有し、耐熱性に優れた新規ポリペプチドを提供する。
【解決手段】係るポリペプチドは、イカの肝臓以外の内臓から有機溶剤を用いずに水で抽出可能なトリプシンインヒビターであって、特定の配列を有する19アミノ酸残基を含む分子量約6000のポリペプチドである。上記ポリペプチドのトリプシン阻害活性は、80℃で150分インキュベートした後も93%残存していた。
【解決手段】係るポリペプチドは、イカの肝臓以外の内臓から有機溶剤を用いずに水で抽出可能なトリプシンインヒビターであって、特定の配列を有する19アミノ酸残基を含む分子量約6000のポリペプチドである。上記ポリペプチドのトリプシン阻害活性は、80℃で150分インキュベートした後も93%残存していた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプシン阻害活性を有する新規ポリペプチドに関するものであり、特に、イカなどの動物の肝臓以外の内臓から水で抽出し、精製した新規トリプシンインヒビターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イカの肝臓を含む内臓は、現在北海道だけでも水産加工残渣として年間2万5千トン排出されており、その利用を図ることは資源の有効利用や産業廃棄物の低減等の観点から非常に重要である。中でも、肝臓はイカの内臓の大部分を占めていることから、廃棄物利用に関する中心的な材料として研究が進められ、肝油や養魚用飼料等の原料として広く利用されている。
【0003】
これまでに発明者らは、イカの肝臓のさらなる有効利用を図るため、スルメイカの肝臓からトリプシンインヒビターを分離精製し、その特性を明らかにしている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、上記「トリプシンインヒビター」とは、生物により産生され、トリプシンを阻害する物質のことであり(生化学辞典第2版935頁、東京化学同人)、一般に食品中の抗栄養物質に分類されているが、近年は健康機能性を有する食品機能因子として注目されている。
【0005】
上記機能の一つとしては、例えば、急性膵炎に対する治療効果が挙げられる。急性膵炎は膵臓消化酵素による膵臓の自己消化によって生じると考えられ、特に活性化されたトリプシンは他の消化酵素を連鎖的に活性化する能力を持つことから、急性膵炎において鍵となる酵素とされている。このような観点から、トリプシンインヒビターは急性膵炎の治療に有効であるとして注目され、既に臨床応用が開始されている。現在臨床で用いられているトリプシンインヒビターとしては、ウシの肺より抽出されたaprotinin(商品名:Trasylol(登録商標))、ヒトの尿より抽出されたulinastatin(商品名:Miraclid(登録商標))、化学合成されたgabexate mesilate(商品名:FOY(登録商標))、nafamostat mesilate(商品名:Futhan(登録商標))、camostat mesilate(商品名:Foipan(登録商標))がある。
【0006】
また、トリプシンインヒビターが十二指腸壁にある内分泌細胞を刺激して、パンクレオザイミンが放出された結果、膵臓細胞の増殖と肥大を起こさせ、インシュリン分泌を司る膵臓のβ細胞に影響を与えることが明らかになったことから、インシュリン依存型の糖尿病治療や予防に役立つ可能性が示唆されている(非特許文献2)。
【0007】
さらに、魚肉に対し、無水物換算でトリプシンインヒビター活性を有する全脂大豆粉または大豆ホエーに、粉末状ポリペプチドと、カルシウム塩を同時に添加して魚肉すり身または魚肉練り製品を製造した場合、坐りの増強および戻りの抑制が達成されることが明らかにされている(特許文献1)。また、最終加熱ゲルが増強されることによりゼリー強度および弾力性が増強し、保水性、色調および風味の点でも優れた安価な魚肉すり身および魚肉練り製品が得られることが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−9929号公報(平成8(1996)年1月16日公開)
【非特許文献1】Kishimura, H. et al., Comp. Biochem. Physiol., 130B, 117−123 (2001)
【非特許文献2】Y.C.Ge and R.G.H. Morgan., Am. J.Anatomy., 189, 207-212, (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在臨床で用いられている上記トリプシンインヒビターは安全性の点で問題がある。すなわち、哺乳動物由来のトリプシンインヒビターはウシ海綿状脳症との関係から安全であるとは言えず、動物臓器由来の成分は敬遠される傾向にある。また、化学合成されたトリプシンインヒビターでは副作用の心配がある。さらに食品ではないヒト尿由来のトリプシンインヒビターを食品や医薬品として用いることは好ましくないことであると考えられる。これに対し、イカの内臓由来のトリプシンインヒビターは水産食品由来であるため安全であると考えられる。
【0009】
また、上述のようにイカの内臓の大部分は肝臓によって占められているため、廃棄物利用の研究は肝臓を中心に進められている。そのため、肝臓以外のその他内臓に注目した研究や利用はなされていないのが現状であり、肝臓以外のその他内臓を未利用のバイオマスとして有効利用することが望まれている。
【0010】
さらに、肝臓は組織としては大きいものであるが、油を多く含有しているという問題がある。すなわち、水溶性のトリプシンインヒビターを肝臓から分離、精製するためには、脱脂処理のためにアセトン等の有機溶剤を用いなければならず、非常に手間がかかる上に、安全性に問題がある。また、有機溶剤を用いるので環境に与える影響も大きく、大量処理も困難であるという問題がある。
【0011】
また、トリプシンインヒビターは加熱温度と加熱時間によってはほとんど失活するため高い耐熱性を有することが好ましいが、上記非特許文献1に記載されたトリプシンインヒビターの耐熱性は未だ十分なものであるであるとは言えないという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、トリプシン阻害活性と耐熱性とを有するとともに、安全なトリプシンインヒビターであり、肝臓以外の内臓から水で粗抽出することができるため上記内臓をバイオマスとして有効利用することも可能な新規ポリペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、スルメイカの肝臓以外の内臓から水で抽出可能な新規トリプシンインヒビターを見出すとともに、当該トリプシンインヒビターが優れた耐熱性を有することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係るポリペプチドは、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むことが好ましい。
【0016】
上記ポリペプチドは上記(a)または(b)のアミノ酸配列を含んでいる。上記ポリペプチドは係る分子構造を有することにより、トリプシンの活性部位に良好に結合することができると考えられ、このことによってトリプシンに対する強い阻害作用を示すことができると考えられる。
【0017】
また、本発明に係るポリペプチドは、分子量がSDS−PAGEで約6000であることが好ましい。上記ポリペプチドは比較的低分子量の構造を有しているため、高い耐熱性を示すことができると考えられる。なお、一般的な傾向として、分子量の大きいタンパク質よりも分子量の小さいペプチドの方が耐熱性が高いことが知られている。
【0018】
また、本発明に係るポリペプチドは、動物の肝臓以外の内臓に由来することを特徴としている。肝臓以外の内臓は脂質含有量が少ないので、上記ポリペプチドは水によって粗抽出することができる。したがって、有機溶剤を用いずに粗インヒビターを大量調製することができ、これを精製することで高純度トリプシンインヒビターを収率よく得ることができる。
【0019】
また、上記動物はイカであることが好ましい。イカの肝臓以外の内臓は未利用のバイオマスである。したがって、上記ポリペプチドの供給源として利用することにより、水産加工残渣の有効利用を図ることができる。
【0020】
また、本発明に係るポリペプチドは、上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したことが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、肝臓以外の内臓には脂質が少ないため、水抽出で粗ポリペプチドを得ることができ、これをさらに少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーで精製することにより、高純度のトリプシンインヒビターを高収率で得ることができる。
【0022】
また、本発明に係るポリペプチドは、80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上残存していることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係るポリペプチドは、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して70%以上残存していることが好ましい。上記構成によれば得られるトリプシンインヒビターは高い耐熱性を有する。したがって、高温で加工する工程が存在するような場合でも高い活性を保つことができる。
【0024】
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと結合することを特徴としている。上記抗体は、上記ポリペプチドと特異的に抗原抗体反応を行うことができる。したがって、上記ポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞を同定することができる。
【0025】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴としている。上記ポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードするので、形質転換等の手法により宿主に上記ポリペプチドを生産させることができる。したがって、上記ポリペプチドの大量調製を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るポリペプチドは、以上のように、トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含んでいる。そのため、トリプシン阻害活性と耐熱性とを有するとともに、肝臓以外の内臓から水で粗抽出することができ、上記内臓をバイオマスとして有効利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の位置実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係るポリペプチド、当該ポリペプチドと結合する抗体、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドについて詳述する。
【0028】
(1)本発明に係るポリペプチド
本発明に係るポリペプチドは、トリプシンインヒビターであって、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチドである。本発明に係るポリペプチドは、後述する実施例に示すように、ブタ膵臓由来トリプシンおよび魚類由来トリプシン(カジカ、フクラギ、コマイ、エゾイソアイナメ、スケトウダラ、イトヒキダラ、チカ)に作用させた結果、いずれのトリプシンも完全に失活させることができた。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片を意図する。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されたものでも、化学合成されたものでもよい。
【0030】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質を意図する。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0031】
本発明に係るポリペプチドは、上記(a)または(b)に示すアミノ酸配列を含むものであれば、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物のいずれであってもよい。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0032】
本発明に係るポリペプチドは、上述のようにトリプシンインヒビターとしての活性を有している。トリプシンインヒビターの活性測定は、従来公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、Hummel, B.C.W., Can. J. Biochem. Physiol. 37, 1393-1399, (1959) に記載の方法を用いることができる。当該方法は、トリス−塩酸バッファー中でトリプシンとポリペプチドとを混合し、30℃で5分間インキュベート後、混合溶液のトリプシン活性をNα−パラ−トシル−L−アルギニンメチルエステル塩酸(以下「TAME」と略する)を基質として測定する方法であり、1mgのトリプシン活性を50%阻害するインヒビター活性を1IUとする。
【0033】
また、合成基質にα-N-benzoyl-DL-arginine-p-nilide(BAPA)を用いるErlargerらの改良法に準じて、トリプシンをちょうど100%阻害する量を加えたときの残存活性から求める方法等を用いることもできる。
【0034】
さらに、プロテアーゼに対する阻害活性をSDS−PAGEのゲル中で見ることのできるアッセイ法であるリバースザイモグラフィーを用いることもできる。通常のSDS−PAGEでは、クマシーブリリアントブルーで染色を行うと、濃く染色されるバンドに近接しているバンドや、きわめて薄く染色されるバンドは、検出が難しい。しかし、このアッセイ法を用いることにより、微量のタンパク質であっても検出が可能となる。このアッセイ法の検出感度は1μg以下であり、強いインヒビター活性を有するタンパク質では数十ngでも検出することができる。
【0035】
原理を簡単に説明する。まず、予めゼラチンを含むSDS−ゲルを調製し、試料を通常のSDS−PAGEと同様に泳動させる。ついで、トリプシンでゲル全体を処理する。このとき、トリプシン阻害活性のないタンパク質は、ゼラチンとともに消化され、トリプシン阻害活性のあるタンパク質だけがゲル内に残される。このゲルをクマシーブリリアントブルーで染色すると、トリプシンインヒビターだけを同定することが可能となる。
【0036】
上記「アミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチド」には、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列のN末端、C末端のいずれか一方もしくはその両方に任意の1つ以上のアミノ酸が付加しているアミノ酸配列からなるポリペプチドも含まれる。ただし、これに限られるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0037】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0038】
このように、本発明に係るポリペプチドには、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドのみではなく、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列に任意の1つ以上のアミノ酸が付加した配列からなるポリペプチド、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドが含まれる。しかしながら、本発明に係るポリペプチドの好ましい例は、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むポリペプチドである。
【0039】
一般にポリペプチドは、種差や個体差、生体内の酵素や精製過程における修飾等により、そのアミノ酸配列に変異が生じることが多い。ここで言うアミノ酸配列の変異とは、そのアミノ酸配列中の1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたことを意味する。
【0040】
上記「1個もしくはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0041】
したがって、本発明に係るポリペプチドには、それが本発明に係るポリペプチドの特徴を有している限り、上記(b)に記載されたアミノ酸配列、すなわち上記(a)に記載されたアミノ酸は配列に変異が生じたアミノ酸配列を含むものも含まれる。
【0042】
一般に、ポリペプチドを特徴付ける要素の一つとして、分子量が挙げられる。ただし、分子量は糖鎖の有無や糖鎖の種類、測定条件等によって変化するものなので、本発明に係るポリペプチドの分子量は特に限定されるものではない。しかしながら、イカの内臓等から本発明に係るポリペプチドを得ようとする場合は、分子量は本発明に係るポリペプチドを特徴付ける重要な情報となる。本発明に係るポリペプチドの好ましい分子量は、SDS−PAGEで約6000である。ここで、「約6000」とは5000以上7000以下を意味し、SDS−PAGEによって得られたバンドを分子量マーカーと比較することによって判断される。
【0043】
本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列において、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列と比較して大きく異なる特徴的な配列は、上記(a)に記載された配列番号1に示されるアミノ酸配列である。例えば、表1に示すように、配列番号1に示されるアミノ酸配列は、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列と比較して相同性の低いものである。
【0044】
【表1】
【0045】
したがって、本発明に係るポリペプチドのトリプシンインヒビターとしての活性は、係る特徴的な分子構造によってもたらされるものと考えられ、当該分子の構造とトリプシンの活性部位との結合性が良好であることが本発明に係るポリペプチドが高いトリプシンインヒビター活性を有することの一因であると考えられる。
【0046】
本発明に係るポリペプチドは、上述のように、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主から組換え技術によって産生された産物のいずれであってもよく、特に限定されるものではないが、脂質が少ないため有機溶剤を用いずに安全に高純度のトリプシンインヒビターを取得できるという観点から、肝臓以外の内臓に由来することが好ましい。また、水産加工残渣として未利用のバイオマスであるため有価物の回収が求められているという観点や、広く用いられている水産食品であるため安全なトリプシンインヒビターを取得できるという観点等から、イカの肝臓以外の内臓に由来する精製産物であることが特に好ましい。
【0047】
上記イカとしてはイカ亜綱に属するもの、例えばコウイカ目やツツイカ目に属するもの等を好適に利用することができる。コウイカ目に属するものとしては、例えばコウイカ、ダンゴイカ、ミミイカ、ヒメイカ、トグロコウイカが挙げられる。また、ツツイカ目に属するものとしては、例えばヤリイカ、アオリイカ、ホタルイカ、ツメイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、スルメイカ、ソデイカ、ユウレイイカを挙げることができる。中でも、漁獲量が多く、入手が容易であるという観点から、特にスルメイカ(Todarodes pacificus)が好ましく用いられる。
【0048】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したものである。
【0049】
肝臓以外の内臓は、上述のように脂質の含有量が少ないため、脂質を多く含む肝臓を材料とする場合と比べて、水溶性のトリプシンインヒビターを調製しやすいという利点がある。したがって、肝臓からトリプシンインヒビターを分離精製する場合のように脱脂処理のために有機溶剤を用いる必要がなく、水で抽出することによって粗トリプシンインヒビター(粗ポリペプチド)を得ることができる。そのため、肝臓を材料とする場合と異なり、安全にトリプシンインヒビターを調製できるとともに、大量処理が可能となり、コスト的にも安価である。
【0050】
ここで「内臓」とは、動物の体腔中にある諸器官の総称であり、消化呼吸器系、泌尿生殖系の器官を含む。例えば、食道、胃、盲腸、直腸、胆汁嚢、肝臓、脾臓、小腸、大腸等が含まれる。「肝臓以外の内臓」とは、肝臓を除く全ての内臓であってもよいし、肝臓を除く全ての内臓の一部であってもよい。
【0051】
上記水は特に限定されるものではなく、水道水や工業用水であってもよいが、塩類などの不純物の混入を少なくするため蒸留水を用いることが好ましい。用いる水の量は特に限定されるものではなく、上記内臓を浸漬することができる量であればよい。粗ポリペプチドの抽出は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、細切した上記内臓を水に浸漬してマグネチックスターラーで攪拌し、遠心分離した上清を凍結乾燥することにより、粗ポリペプチドを得ることができる。
【0052】
上記「粗ポリペプチド」とは、未精製のポリペプチドという意味であり、粗ポリペプチドの純度は特に限定されるものではない。粗ポリペプチドの精製は、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーを用いて行う。ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーは連続して行ってもよいし、ゲルろ過とイオン交換クロマトグラフィーとの間に他の操作を行ってもよい。その他の操作としては、疎水クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができる。また、ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーはそれぞれ1回に限らず複数回繰り返して行ってもよい。
【0053】
ゲルろ過に用いる担体は特に限定されるものではなく、架橋デキストラン、架橋ポリアクリルアミド、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー、多孔性セルロース等を用いることができる。
【0054】
イオン交換クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィーでも陰イオン交換クロマトグラフィーでもよく、目的とするポリペプチドの等電点に応じて選択すればよい。イオン交換基としては従来公知のものを用いることができる。例えば、陽イオン交換基としてはスルホプロピル、スルホエチル、スルホネート、ホスフェート、カルボキシメチル等を用いることができ、陰イオン交換基としてはクオータナリーアミノエチル、クオータナリーアミノ、ジエチルアミノエチル等を用いることができる。また、イオン交換体の担体としては、セルロース、架橋デキストラン、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー等、従来公知のものを用いることができる。
【0055】
粗ポリペプチドを少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供することにより、本発明に係るポリペプチドを含む画分を得ることができる。なお、トリプシン阻害活性の確認には、上述した従来公知の方法を用いることができる。
【0056】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上が残存しているものである。
【0057】
なお、上記「80℃で150分インキュベートした」とは、本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、当該小試験管を80℃プラスマイナス1℃の温水に150分漬けてインキュベートすることをいう。
【0058】
さらに、一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性の70%以上残存していることが好ましい。
【0059】
なお、上記「80℃で180分インキュベートした」とは、本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、当該小試験管を80℃プラスマイナス1℃の温水に180分漬けてインキュベートすることをいう。
【0060】
トリプシンインヒビターは、常温で超水高圧処理しても失活しないが、煮沸、焼く、蒸すなどの処理を行った場合、加熱温度と加熱時間によってはほとんど失活することが知られている。本発明に係るポリペプチドは、非常に高い耐熱性を有するものであるため、食品等の加工工程において高温で加工する必要があるような場合でも高い活性を保つことができる。
【0061】
また、上記非特許文献1に記載されたイカ肝臓由来のトリプシンインヒビターは80℃で120分インキュベートした場合のトリプシン阻害活性が当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性の約70%であることから、本発明に係るポリペプチドの耐熱性は、上記非特許文献1に記載されたトリプシンインヒビターと比較しても非常に高いものであるといえる。
【0062】
なお、上記インキュベート後のトリプシン阻害活性の残存率は、インキュベート前とインキュベート後の本発明に係るポリペプチドのトリプシン阻害活性を上述したトリプシン阻害活性の測定法によって測定し、インキュベート前のトリプシン阻害活性に対するインキュベート後のトリプシン阻害活性の割合を求めることにより算出すればよい。
【0063】
また、上記インキュベート時の本発明に係るポリペプチドのpHは、トリプシンの活性発現に適するpHに鑑みると、6〜10であることが好ましく、8であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有するものであるため、インシュリン依存型の糖尿病の治療薬や予防薬として使用することができる。また、トリプシンに起因する各種疾患、たとえばショックや手術時のストレス、多臓器不全、膵炎等の治療薬として使用することができる。
【0065】
本発明に係るポリペプチドを含有する医薬組成物は、通常のタンパク質を成分とする医薬組成物の製造方法に準じて製造される。例えば、医薬品として使用し得る純度の本発明に係るポリペプチドを無菌状態で調製し、必要があれば、アルブミン等の安定化剤を加えてアンプルに充填し凍結乾燥する。これを使用時に、注射用蒸留水に溶解し、注射剤として使用する。また、本発明に係るポリペプチドは、抗体の作成に使用することもできる。本発明に係るポリペプチドを用いて得られた抗体は、血中における当該ポリペプチドの濃度の測定等に使用することができる。
【0066】
また、本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有するものであるため、魚肉すり身または魚肉練り製品の坐り増強剤、戻り抑制剤、強度増強剤等の食品添加物としても好適に用いることができる。
【0067】
さらに、本発明に係るポリペプチドは、脂質の少ない肝臓以外の内臓から分離精製できるので、水溶性トリプシンインヒビターとして容易に大量調製することが可能であるとともに、高純度のトリプシンインヒビターとすることができる。そのため、生化学試薬としても好適に用いることができる。
【0068】
(2)抗体
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合することができる。上記抗体とは免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、本発明に係る抗体はキメラ抗体であってもよい。
【0069】
上記抗体は、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞の同定などに利用することができる。例えば、本発明に係るポリペプチドを含む成分が食品中にどの程度存在しているのかを調べるために利用することができる。
【0070】
上記抗体は、種々の公知の方法を用いて作製することができ、作製方法は特に限定されるものではない。例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)等の方法を用いて作製することができる。
【0071】
以下に簡単に説明する。当該新規抗体を得るには、まず動物に、免疫抗原として本発明に係るポリペプチドもしくはその断片を必要に応じてフロイントの完全アジュバント(FCA) や不完全アジュバント(FIA) 等の適切なアジュバントとともに接種し、必要があれば2〜4週間の間隔で追加免疫する。追加免疫後、採血を行い抗血清を得る。抗原として用いる本発明に係るポリペプチドは、それが抗体の精製用に使用しうる精製度のものであればいかなる方法で得られたものであってもよい。
【0072】
また、免疫抗原として、ポリペプチド断片を使用する場合には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH) 等のキャリアを結合させることが好ましい。当該新規ポリペプチドを用いて免疫する動物もいかなるものであってもよいが、好ましくは通常当業者で免疫学的な実験に使用されるラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ヤギ、ブタ、ウシ等から、目的の抗体を産生しうる様な動物種を選択して使用することが好ましい。ポリクローナル抗体は、得られた抗血清を精製することによって得る事ができる。精製は、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の公知方法を適宜組み合わせて用いれば良い。
【0073】
また、モノクローナル抗体を得るには、以下のように行う。すなわち、免疫した動物から脾細胞もしくはリンパ球等の抗体産生細胞を採取し、ポリエチレングリコール、センダイウイルス、電気パルス等を用いる公知方法によって、ミエローマ細胞株等と融合し、ハイブリドーマを作製する。本発明に係るポリペプチドに結合する抗体を産生しているクローンを選択して培養し、その選択されたクローンの培養上清を精製することによって得れば良い。精製は、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の上述のような公知方法を適宜組み合わせて用いれば良い。
【0074】
また、遺伝子工学的な方法を用いても本発明に係る抗体が得られ得る。すなわち、本発明に係るポリペプチドもしくはポリペプチド断片で免疫した動物の脾細胞、リンパ球、あるいは、本発明に係るポリペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマからmRNAを採取し、これをもとにcDNAライブラリーを作成する。抗原と反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングし、得られたクローンを培養し、培養混合物から目的とする抗体を、公知方法を組み合わせて精製することができる。
【0075】
また、上記抗体には、上記ポリペプチドに特異的に結合しうる完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメントのような抗体フラグメントも含まれる。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ないため(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))、好ましく用いることができる。
【0076】
(3)ポリヌクレオチド
次に、本発明に係るポリヌクレオチドについて説明する。本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴とする。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0077】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0078】
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0079】
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0080】
このような変異体としては、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0081】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0082】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0083】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0084】
上記ポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするので、形質転換等の手法により宿主に上記ポリペプチドを生産させることができる。したがって、本発明に係るポリペプチドの大量調製に用いることができる。
【0085】
また、上記ポリヌクレオチドは、酵素等で標識して組織における本発明に係るポリペプチドの発現状況を検査するために使用することも可能である。上記ポリヌクレオチドを使用して細胞における本発明に係るポリペプチドの発現量を確認することにより、本発明に係るポリペプチドの新規ポリペプチドの製造に適した細胞や細胞の培養条件を決定することができる。
【0086】
さらには、上記ポリヌクレオチドを生体内の細胞に導入して遺伝子治療に使用したり、上記ポリヌクレオチドが有する塩基配列をもとにアンチセンス医薬品を開発することもできる。
【0087】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0088】
本発明について、実施例および図1〜図13に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。
【0089】
(1)粗ポリペプチドの調製
スルメイカ(Todarodes pacificus)は函館沖で採取し、−20℃で数ヶ月保存した。上記スルメイカから肝臓を除くその他内臓を分割し、細切した。細切した試料に対し、2.5倍量の蒸留水を加え、室温で30分間マグネチックスターラーにより撹拌し、粗ポリペプチドを抽出した。抽出液を10,000gで10分間遠心分離した上澄み液を、80℃で5分間加熱した。冷却後、10,000gで10分間遠心分離し、上澄み液を凍結乾燥により濃縮し、これを粗ポリペプチドとした。
【0090】
(2)ポリペプチドのトリプシン阻害活性の測定
ブタ膵臓由来トリプシン(和光純薬工業より購入;10mM CaCl2, 50 mM Tris-HCL緩衝液(pH8.0)を加えて調製)10μlに対して、トリプシンの活性を約50%阻害するように希釈された本発明に係るポリペプチドの溶液25μlを混合し、30℃で5分間インキュベートした。この混合溶液中のトリプシン活性は上記Hummelの方法に従ってTAMEを基質として測定した。トリプシン阻害活性は、上記混合溶液の247nmにおける吸光度を測定し、1分当たりの247nmにおける1mgのトリプシンの活性を50%阻害する活性を1IUとした。
【0091】
(3)本発明に係るポリペプチドの精製
スルメイカの肝臓を除くその他内臓から調製した上記粗ポリペプチドは、あらかじめ10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたセファデックスG-50(登録商標)カラム(3.9×64cm)に供しゲルろ過を行った。図1は上記ゲルろ過のクロマトグラムを示すものである。図1に示すように、ゲルろ過の結果、1つのトリプシンインヒビター画分が得られ、これを凍結乾燥により濃縮した。
【0092】
このトリプシンインヒビター画分をあらかじめ10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたDEAE-セルロース陰イオン交換カラム(2.2×20cm)に供した。図2はゲルろ過後のトリプシンインヒビター画分の陰イオン交換クロマトグラムである。図2に示すように、トリプシンインヒビターは非吸着画分に溶出し、これを凍結乾燥により濃縮した。
【0093】
さらに、このトリプシンインヒビター画分をあらかじめ10mM Tris-HCL緩衝液(pH8.0)で平衡化されたセファデックスG-50(登録商標)カラム(3.9×64cm)による再ゲルろ過に供した。図3は上記再ゲルろ過のクロマトグラムを示すものである。図3に示すように、1つのトリプシンインヒビター画分が溶出し、この溶出ピークはタンパク質の溶出ピークとよく一致した。
【0094】
そこで、このトリプシンインヒビター画分を凍結乾燥により濃縮し、SDS−PAGEによりタンパク質の組成を検討した。SDS−PAGEは、Fling, S.P, Gregerson, D.S., Anal. Biochem. 155, 83-88, (1986)に記載された方法による0.1% SDS−20%ポリアクリルアミドスラブゲル上、または Laemmli, U.K., Nature 227, 680-685, (1970)に記載された方法による0.1% SDS−10%ポリアクリルアミドスラブゲル上で行った。ゲルは0.1%クマシーブリリアントブルーR−250の50%メタノール−7%酢酸溶液で染色し、7%酢酸で脱色した。
【0095】
図4はSDS−PAGEの結果を示すものである。レーン1は上記トリプシンインヒビター画分、レーン2は分子量マーカーである。図4に示すように、レーン1ではほぼ単一の成分が検出された。そこで、この画分を精製トリプシンインヒビターすなわち本発明に係るポリペプチドとした。上記ポリペプチドの分子量は、図4に示す分子量マーカーとの比較から約6000と推定された。
【0096】
また、上記ポリペプチドをSDS−PAGEに供した後、ゲル上のタンパク質をPVDF膜にブロッティングし、プロテインシークエンサーによりN−末端のアミノ酸配列を分析した。その結果、上記ポリペプチドのN−末端20残基のアミノ酸配列は、ANEATXVYKGKTYKKGEGF(配列番号1)であることが明らかとなった。なお、上記配列中「X」は未同定のアミノ酸を表している。このアミノ酸配列は、表1にしめすように、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列との相同性が低いものであった。
【0097】
表2はスルメイカの肝臓を除くその他内臓由来のポリペプチドの精製工程と精製結果を示すものである。表2に示すように、粗ポリペプチドに対して精製トリプシンインヒビターは66倍に精製され、阻害活性の回収率は82%であった。
【0098】
【表2】
【0099】
(4)ポリペプチドのトリプシン阻害活性
ブタ膵臓由来トリプシン(7.4μg、0.16U)、魚類由来トリプシン(カジカ由来トリプシン、フクラギ由来トリプシン、コマイ由来トリプシン、エゾイソアイナメ由来トリプシン、スケトウダラ由来トリプシン、イトヒキダラ由来トリプシン、チカ由来トリプシン)と本発明に係るポリペプチド(0〜30μg)とを10mM Tris−HCl(pH8.0)中で混合し、30℃で5分インキュベートした。残存トリプシン活性は上記Hummelの方法を用いて測定した。
【0100】
図5は、本発明に係るポリペプチドのブタ膵臓由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。図5に示すように、本発明に係るポリペプチドの添加量の増加に伴って残存トリプシン活性は減少し、本発明に係るポリペプチドを14μg添加することによってトリプシンは完全に失活した。
【0101】
また、図6〜図12に示すように、本発明に係るポリペプチドは、上記魚類トリプシンをも完全に失活させることができた。図6〜図12はそれぞれ、本発明に係るポリペプチドのカジカ由来トリプシン、フクラギ由来トリプシン、コマイ由来トリプシン、エゾイソアイナメ由来トリプシン、スケトウダラ由来トリプシン、イトヒキダラ由来トリプシン、チカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。いずれの場合も、本発明に係るポリペプチドの添加量の増加に伴って残存トリプシン活性は減少し、最終的には完全に失活させることができた。
【0102】
(5)ポリペプチドの耐熱性
本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、80℃に加熱された温水に漬けてインキュベートした。インキュベート開始から30分ごとに上記ポリペプチドのトリプシン阻害活性を測定した。図13は上記ポリペプチドの耐熱性を調べた結果を示すものである。図13より、本発明に係るポリペプチドのトリプシン阻害活性は90分まで全く失活せず、150分インキュベートした場合でも93%の阻害活性が残存することが分かった。150分を越えると徐々に阻害活性は低下したが、180分インキュベートした場合でも71%の阻害活性が残存した。210分インキュベートした場合の残存阻害活性は54%であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有し、高い耐熱性を有するため、新規なトリプシンインヒビターとして医薬品、生化学試薬、食品添加物等として利用することができる。また、これまで有効な用途がなかったイカの肝臓以外の内臓から分離精製することができるため、廃棄物として処理されていた水産加工残渣の有効利用を図ることができる。したがって、本発明に係るポリペプチドは、水産加工業、製薬業、食品産業等に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】スルメイカの肝臓を除くその他内臓から抽出した粗ポリペプチドをセファデックスG-50(登録商標)カラムでゲルろ過して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図2】ゲルろ過によって得られたトリプシンインヒビター画分をDEAE-セルロース陰イオン交換カラムで処理して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図3】陰イオン交換クロマトグラフィーによって得られたトリプシンインヒビター画分をセファデックスG-50(登録商標)カラムで再ゲルろ過して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図4】再ゲルろ過して得られたトリプシンインヒビター画分をSDS−PAGEに供した結果を示すゲル写真である。
【図5】本発明に係るポリペプチドのブタ膵臓由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図6】本発明に係るポリペプチドのカジカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図7】本発明に係るポリペプチドのフクラギ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図8】本発明に係るポリペプチドのコマイ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図9】本発明に係るポリペプチドのエゾイソアイナメ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図10】本発明に係るポリペプチドのスケトウダラ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図11】本発明に係るポリペプチドのイトヒキダラ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図12】本発明に係るポリペプチドのチカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図13】本発明に係るポリペプチドの耐熱性を調べた結果を示すものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプシン阻害活性を有する新規ポリペプチドに関するものであり、特に、イカなどの動物の肝臓以外の内臓から水で抽出し、精製した新規トリプシンインヒビターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イカの肝臓を含む内臓は、現在北海道だけでも水産加工残渣として年間2万5千トン排出されており、その利用を図ることは資源の有効利用や産業廃棄物の低減等の観点から非常に重要である。中でも、肝臓はイカの内臓の大部分を占めていることから、廃棄物利用に関する中心的な材料として研究が進められ、肝油や養魚用飼料等の原料として広く利用されている。
【0003】
これまでに発明者らは、イカの肝臓のさらなる有効利用を図るため、スルメイカの肝臓からトリプシンインヒビターを分離精製し、その特性を明らかにしている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、上記「トリプシンインヒビター」とは、生物により産生され、トリプシンを阻害する物質のことであり(生化学辞典第2版935頁、東京化学同人)、一般に食品中の抗栄養物質に分類されているが、近年は健康機能性を有する食品機能因子として注目されている。
【0005】
上記機能の一つとしては、例えば、急性膵炎に対する治療効果が挙げられる。急性膵炎は膵臓消化酵素による膵臓の自己消化によって生じると考えられ、特に活性化されたトリプシンは他の消化酵素を連鎖的に活性化する能力を持つことから、急性膵炎において鍵となる酵素とされている。このような観点から、トリプシンインヒビターは急性膵炎の治療に有効であるとして注目され、既に臨床応用が開始されている。現在臨床で用いられているトリプシンインヒビターとしては、ウシの肺より抽出されたaprotinin(商品名:Trasylol(登録商標))、ヒトの尿より抽出されたulinastatin(商品名:Miraclid(登録商標))、化学合成されたgabexate mesilate(商品名:FOY(登録商標))、nafamostat mesilate(商品名:Futhan(登録商標))、camostat mesilate(商品名:Foipan(登録商標))がある。
【0006】
また、トリプシンインヒビターが十二指腸壁にある内分泌細胞を刺激して、パンクレオザイミンが放出された結果、膵臓細胞の増殖と肥大を起こさせ、インシュリン分泌を司る膵臓のβ細胞に影響を与えることが明らかになったことから、インシュリン依存型の糖尿病治療や予防に役立つ可能性が示唆されている(非特許文献2)。
【0007】
さらに、魚肉に対し、無水物換算でトリプシンインヒビター活性を有する全脂大豆粉または大豆ホエーに、粉末状ポリペプチドと、カルシウム塩を同時に添加して魚肉すり身または魚肉練り製品を製造した場合、坐りの増強および戻りの抑制が達成されることが明らかにされている(特許文献1)。また、最終加熱ゲルが増強されることによりゼリー強度および弾力性が増強し、保水性、色調および風味の点でも優れた安価な魚肉すり身および魚肉練り製品が得られることが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−9929号公報(平成8(1996)年1月16日公開)
【非特許文献1】Kishimura, H. et al., Comp. Biochem. Physiol., 130B, 117−123 (2001)
【非特許文献2】Y.C.Ge and R.G.H. Morgan., Am. J.Anatomy., 189, 207-212, (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在臨床で用いられている上記トリプシンインヒビターは安全性の点で問題がある。すなわち、哺乳動物由来のトリプシンインヒビターはウシ海綿状脳症との関係から安全であるとは言えず、動物臓器由来の成分は敬遠される傾向にある。また、化学合成されたトリプシンインヒビターでは副作用の心配がある。さらに食品ではないヒト尿由来のトリプシンインヒビターを食品や医薬品として用いることは好ましくないことであると考えられる。これに対し、イカの内臓由来のトリプシンインヒビターは水産食品由来であるため安全であると考えられる。
【0009】
また、上述のようにイカの内臓の大部分は肝臓によって占められているため、廃棄物利用の研究は肝臓を中心に進められている。そのため、肝臓以外のその他内臓に注目した研究や利用はなされていないのが現状であり、肝臓以外のその他内臓を未利用のバイオマスとして有効利用することが望まれている。
【0010】
さらに、肝臓は組織としては大きいものであるが、油を多く含有しているという問題がある。すなわち、水溶性のトリプシンインヒビターを肝臓から分離、精製するためには、脱脂処理のためにアセトン等の有機溶剤を用いなければならず、非常に手間がかかる上に、安全性に問題がある。また、有機溶剤を用いるので環境に与える影響も大きく、大量処理も困難であるという問題がある。
【0011】
また、トリプシンインヒビターは加熱温度と加熱時間によってはほとんど失活するため高い耐熱性を有することが好ましいが、上記非特許文献1に記載されたトリプシンインヒビターの耐熱性は未だ十分なものであるであるとは言えないという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、トリプシン阻害活性と耐熱性とを有するとともに、安全なトリプシンインヒビターであり、肝臓以外の内臓から水で粗抽出することができるため上記内臓をバイオマスとして有効利用することも可能な新規ポリペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、スルメイカの肝臓以外の内臓から水で抽出可能な新規トリプシンインヒビターを見出すとともに、当該トリプシンインヒビターが優れた耐熱性を有することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係るポリペプチドは、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むことが好ましい。
【0016】
上記ポリペプチドは上記(a)または(b)のアミノ酸配列を含んでいる。上記ポリペプチドは係る分子構造を有することにより、トリプシンの活性部位に良好に結合することができると考えられ、このことによってトリプシンに対する強い阻害作用を示すことができると考えられる。
【0017】
また、本発明に係るポリペプチドは、分子量がSDS−PAGEで約6000であることが好ましい。上記ポリペプチドは比較的低分子量の構造を有しているため、高い耐熱性を示すことができると考えられる。なお、一般的な傾向として、分子量の大きいタンパク質よりも分子量の小さいペプチドの方が耐熱性が高いことが知られている。
【0018】
また、本発明に係るポリペプチドは、動物の肝臓以外の内臓に由来することを特徴としている。肝臓以外の内臓は脂質含有量が少ないので、上記ポリペプチドは水によって粗抽出することができる。したがって、有機溶剤を用いずに粗インヒビターを大量調製することができ、これを精製することで高純度トリプシンインヒビターを収率よく得ることができる。
【0019】
また、上記動物はイカであることが好ましい。イカの肝臓以外の内臓は未利用のバイオマスである。したがって、上記ポリペプチドの供給源として利用することにより、水産加工残渣の有効利用を図ることができる。
【0020】
また、本発明に係るポリペプチドは、上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したことが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、肝臓以外の内臓には脂質が少ないため、水抽出で粗ポリペプチドを得ることができ、これをさらに少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーで精製することにより、高純度のトリプシンインヒビターを高収率で得ることができる。
【0022】
また、本発明に係るポリペプチドは、80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上残存していることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係るポリペプチドは、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して70%以上残存していることが好ましい。上記構成によれば得られるトリプシンインヒビターは高い耐熱性を有する。したがって、高温で加工する工程が存在するような場合でも高い活性を保つことができる。
【0024】
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと結合することを特徴としている。上記抗体は、上記ポリペプチドと特異的に抗原抗体反応を行うことができる。したがって、上記ポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞を同定することができる。
【0025】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴としている。上記ポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードするので、形質転換等の手法により宿主に上記ポリペプチドを生産させることができる。したがって、上記ポリペプチドの大量調製を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るポリペプチドは、以上のように、トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含んでいる。そのため、トリプシン阻害活性と耐熱性とを有するとともに、肝臓以外の内臓から水で粗抽出することができ、上記内臓をバイオマスとして有効利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の位置実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係るポリペプチド、当該ポリペプチドと結合する抗体、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドについて詳述する。
【0028】
(1)本発明に係るポリペプチド
本発明に係るポリペプチドは、トリプシンインヒビターであって、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチドである。本発明に係るポリペプチドは、後述する実施例に示すように、ブタ膵臓由来トリプシンおよび魚類由来トリプシン(カジカ、フクラギ、コマイ、エゾイソアイナメ、スケトウダラ、イトヒキダラ、チカ)に作用させた結果、いずれのトリプシンも完全に失活させることができた。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片を意図する。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されたものでも、化学合成されたものでもよい。
【0030】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質を意図する。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0031】
本発明に係るポリペプチドは、上記(a)または(b)に示すアミノ酸配列を含むものであれば、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物のいずれであってもよい。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0032】
本発明に係るポリペプチドは、上述のようにトリプシンインヒビターとしての活性を有している。トリプシンインヒビターの活性測定は、従来公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、Hummel, B.C.W., Can. J. Biochem. Physiol. 37, 1393-1399, (1959) に記載の方法を用いることができる。当該方法は、トリス−塩酸バッファー中でトリプシンとポリペプチドとを混合し、30℃で5分間インキュベート後、混合溶液のトリプシン活性をNα−パラ−トシル−L−アルギニンメチルエステル塩酸(以下「TAME」と略する)を基質として測定する方法であり、1mgのトリプシン活性を50%阻害するインヒビター活性を1IUとする。
【0033】
また、合成基質にα-N-benzoyl-DL-arginine-p-nilide(BAPA)を用いるErlargerらの改良法に準じて、トリプシンをちょうど100%阻害する量を加えたときの残存活性から求める方法等を用いることもできる。
【0034】
さらに、プロテアーゼに対する阻害活性をSDS−PAGEのゲル中で見ることのできるアッセイ法であるリバースザイモグラフィーを用いることもできる。通常のSDS−PAGEでは、クマシーブリリアントブルーで染色を行うと、濃く染色されるバンドに近接しているバンドや、きわめて薄く染色されるバンドは、検出が難しい。しかし、このアッセイ法を用いることにより、微量のタンパク質であっても検出が可能となる。このアッセイ法の検出感度は1μg以下であり、強いインヒビター活性を有するタンパク質では数十ngでも検出することができる。
【0035】
原理を簡単に説明する。まず、予めゼラチンを含むSDS−ゲルを調製し、試料を通常のSDS−PAGEと同様に泳動させる。ついで、トリプシンでゲル全体を処理する。このとき、トリプシン阻害活性のないタンパク質は、ゼラチンとともに消化され、トリプシン阻害活性のあるタンパク質だけがゲル内に残される。このゲルをクマシーブリリアントブルーで染色すると、トリプシンインヒビターだけを同定することが可能となる。
【0036】
上記「アミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチド」には、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列のN末端、C末端のいずれか一方もしくはその両方に任意の1つ以上のアミノ酸が付加しているアミノ酸配列からなるポリペプチドも含まれる。ただし、これに限られるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0037】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0038】
このように、本発明に係るポリペプチドには、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドのみではなく、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列に任意の1つ以上のアミノ酸が付加した配列からなるポリペプチド、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドが含まれる。しかしながら、本発明に係るポリペプチドの好ましい例は、上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むポリペプチドである。
【0039】
一般にポリペプチドは、種差や個体差、生体内の酵素や精製過程における修飾等により、そのアミノ酸配列に変異が生じることが多い。ここで言うアミノ酸配列の変異とは、そのアミノ酸配列中の1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたことを意味する。
【0040】
上記「1個もしくはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0041】
したがって、本発明に係るポリペプチドには、それが本発明に係るポリペプチドの特徴を有している限り、上記(b)に記載されたアミノ酸配列、すなわち上記(a)に記載されたアミノ酸は配列に変異が生じたアミノ酸配列を含むものも含まれる。
【0042】
一般に、ポリペプチドを特徴付ける要素の一つとして、分子量が挙げられる。ただし、分子量は糖鎖の有無や糖鎖の種類、測定条件等によって変化するものなので、本発明に係るポリペプチドの分子量は特に限定されるものではない。しかしながら、イカの内臓等から本発明に係るポリペプチドを得ようとする場合は、分子量は本発明に係るポリペプチドを特徴付ける重要な情報となる。本発明に係るポリペプチドの好ましい分子量は、SDS−PAGEで約6000である。ここで、「約6000」とは5000以上7000以下を意味し、SDS−PAGEによって得られたバンドを分子量マーカーと比較することによって判断される。
【0043】
本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列において、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列と比較して大きく異なる特徴的な配列は、上記(a)に記載された配列番号1に示されるアミノ酸配列である。例えば、表1に示すように、配列番号1に示されるアミノ酸配列は、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列と比較して相同性の低いものである。
【0044】
【表1】
【0045】
したがって、本発明に係るポリペプチドのトリプシンインヒビターとしての活性は、係る特徴的な分子構造によってもたらされるものと考えられ、当該分子の構造とトリプシンの活性部位との結合性が良好であることが本発明に係るポリペプチドが高いトリプシンインヒビター活性を有することの一因であると考えられる。
【0046】
本発明に係るポリペプチドは、上述のように、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主から組換え技術によって産生された産物のいずれであってもよく、特に限定されるものではないが、脂質が少ないため有機溶剤を用いずに安全に高純度のトリプシンインヒビターを取得できるという観点から、肝臓以外の内臓に由来することが好ましい。また、水産加工残渣として未利用のバイオマスであるため有価物の回収が求められているという観点や、広く用いられている水産食品であるため安全なトリプシンインヒビターを取得できるという観点等から、イカの肝臓以外の内臓に由来する精製産物であることが特に好ましい。
【0047】
上記イカとしてはイカ亜綱に属するもの、例えばコウイカ目やツツイカ目に属するもの等を好適に利用することができる。コウイカ目に属するものとしては、例えばコウイカ、ダンゴイカ、ミミイカ、ヒメイカ、トグロコウイカが挙げられる。また、ツツイカ目に属するものとしては、例えばヤリイカ、アオリイカ、ホタルイカ、ツメイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、スルメイカ、ソデイカ、ユウレイイカを挙げることができる。中でも、漁獲量が多く、入手が容易であるという観点から、特にスルメイカ(Todarodes pacificus)が好ましく用いられる。
【0048】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したものである。
【0049】
肝臓以外の内臓は、上述のように脂質の含有量が少ないため、脂質を多く含む肝臓を材料とする場合と比べて、水溶性のトリプシンインヒビターを調製しやすいという利点がある。したがって、肝臓からトリプシンインヒビターを分離精製する場合のように脱脂処理のために有機溶剤を用いる必要がなく、水で抽出することによって粗トリプシンインヒビター(粗ポリペプチド)を得ることができる。そのため、肝臓を材料とする場合と異なり、安全にトリプシンインヒビターを調製できるとともに、大量処理が可能となり、コスト的にも安価である。
【0050】
ここで「内臓」とは、動物の体腔中にある諸器官の総称であり、消化呼吸器系、泌尿生殖系の器官を含む。例えば、食道、胃、盲腸、直腸、胆汁嚢、肝臓、脾臓、小腸、大腸等が含まれる。「肝臓以外の内臓」とは、肝臓を除く全ての内臓であってもよいし、肝臓を除く全ての内臓の一部であってもよい。
【0051】
上記水は特に限定されるものではなく、水道水や工業用水であってもよいが、塩類などの不純物の混入を少なくするため蒸留水を用いることが好ましい。用いる水の量は特に限定されるものではなく、上記内臓を浸漬することができる量であればよい。粗ポリペプチドの抽出は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、細切した上記内臓を水に浸漬してマグネチックスターラーで攪拌し、遠心分離した上清を凍結乾燥することにより、粗ポリペプチドを得ることができる。
【0052】
上記「粗ポリペプチド」とは、未精製のポリペプチドという意味であり、粗ポリペプチドの純度は特に限定されるものではない。粗ポリペプチドの精製は、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーを用いて行う。ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーは連続して行ってもよいし、ゲルろ過とイオン交換クロマトグラフィーとの間に他の操作を行ってもよい。その他の操作としては、疎水クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができる。また、ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーはそれぞれ1回に限らず複数回繰り返して行ってもよい。
【0053】
ゲルろ過に用いる担体は特に限定されるものではなく、架橋デキストラン、架橋ポリアクリルアミド、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー、多孔性セルロース等を用いることができる。
【0054】
イオン交換クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィーでも陰イオン交換クロマトグラフィーでもよく、目的とするポリペプチドの等電点に応じて選択すればよい。イオン交換基としては従来公知のものを用いることができる。例えば、陽イオン交換基としてはスルホプロピル、スルホエチル、スルホネート、ホスフェート、カルボキシメチル等を用いることができ、陰イオン交換基としてはクオータナリーアミノエチル、クオータナリーアミノ、ジエチルアミノエチル等を用いることができる。また、イオン交換体の担体としては、セルロース、架橋デキストラン、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー等、従来公知のものを用いることができる。
【0055】
粗ポリペプチドを少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供することにより、本発明に係るポリペプチドを含む画分を得ることができる。なお、トリプシン阻害活性の確認には、上述した従来公知の方法を用いることができる。
【0056】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上が残存しているものである。
【0057】
なお、上記「80℃で150分インキュベートした」とは、本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、当該小試験管を80℃プラスマイナス1℃の温水に150分漬けてインキュベートすることをいう。
【0058】
さらに、一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性の70%以上残存していることが好ましい。
【0059】
なお、上記「80℃で180分インキュベートした」とは、本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、当該小試験管を80℃プラスマイナス1℃の温水に180分漬けてインキュベートすることをいう。
【0060】
トリプシンインヒビターは、常温で超水高圧処理しても失活しないが、煮沸、焼く、蒸すなどの処理を行った場合、加熱温度と加熱時間によってはほとんど失活することが知られている。本発明に係るポリペプチドは、非常に高い耐熱性を有するものであるため、食品等の加工工程において高温で加工する必要があるような場合でも高い活性を保つことができる。
【0061】
また、上記非特許文献1に記載されたイカ肝臓由来のトリプシンインヒビターは80℃で120分インキュベートした場合のトリプシン阻害活性が当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性の約70%であることから、本発明に係るポリペプチドの耐熱性は、上記非特許文献1に記載されたトリプシンインヒビターと比較しても非常に高いものであるといえる。
【0062】
なお、上記インキュベート後のトリプシン阻害活性の残存率は、インキュベート前とインキュベート後の本発明に係るポリペプチドのトリプシン阻害活性を上述したトリプシン阻害活性の測定法によって測定し、インキュベート前のトリプシン阻害活性に対するインキュベート後のトリプシン阻害活性の割合を求めることにより算出すればよい。
【0063】
また、上記インキュベート時の本発明に係るポリペプチドのpHは、トリプシンの活性発現に適するpHに鑑みると、6〜10であることが好ましく、8であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有するものであるため、インシュリン依存型の糖尿病の治療薬や予防薬として使用することができる。また、トリプシンに起因する各種疾患、たとえばショックや手術時のストレス、多臓器不全、膵炎等の治療薬として使用することができる。
【0065】
本発明に係るポリペプチドを含有する医薬組成物は、通常のタンパク質を成分とする医薬組成物の製造方法に準じて製造される。例えば、医薬品として使用し得る純度の本発明に係るポリペプチドを無菌状態で調製し、必要があれば、アルブミン等の安定化剤を加えてアンプルに充填し凍結乾燥する。これを使用時に、注射用蒸留水に溶解し、注射剤として使用する。また、本発明に係るポリペプチドは、抗体の作成に使用することもできる。本発明に係るポリペプチドを用いて得られた抗体は、血中における当該ポリペプチドの濃度の測定等に使用することができる。
【0066】
また、本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有するものであるため、魚肉すり身または魚肉練り製品の坐り増強剤、戻り抑制剤、強度増強剤等の食品添加物としても好適に用いることができる。
【0067】
さらに、本発明に係るポリペプチドは、脂質の少ない肝臓以外の内臓から分離精製できるので、水溶性トリプシンインヒビターとして容易に大量調製することが可能であるとともに、高純度のトリプシンインヒビターとすることができる。そのため、生化学試薬としても好適に用いることができる。
【0068】
(2)抗体
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合することができる。上記抗体とは免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、本発明に係る抗体はキメラ抗体であってもよい。
【0069】
上記抗体は、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞の同定などに利用することができる。例えば、本発明に係るポリペプチドを含む成分が食品中にどの程度存在しているのかを調べるために利用することができる。
【0070】
上記抗体は、種々の公知の方法を用いて作製することができ、作製方法は特に限定されるものではない。例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)等の方法を用いて作製することができる。
【0071】
以下に簡単に説明する。当該新規抗体を得るには、まず動物に、免疫抗原として本発明に係るポリペプチドもしくはその断片を必要に応じてフロイントの完全アジュバント(FCA) や不完全アジュバント(FIA) 等の適切なアジュバントとともに接種し、必要があれば2〜4週間の間隔で追加免疫する。追加免疫後、採血を行い抗血清を得る。抗原として用いる本発明に係るポリペプチドは、それが抗体の精製用に使用しうる精製度のものであればいかなる方法で得られたものであってもよい。
【0072】
また、免疫抗原として、ポリペプチド断片を使用する場合には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH) 等のキャリアを結合させることが好ましい。当該新規ポリペプチドを用いて免疫する動物もいかなるものであってもよいが、好ましくは通常当業者で免疫学的な実験に使用されるラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ヤギ、ブタ、ウシ等から、目的の抗体を産生しうる様な動物種を選択して使用することが好ましい。ポリクローナル抗体は、得られた抗血清を精製することによって得る事ができる。精製は、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の公知方法を適宜組み合わせて用いれば良い。
【0073】
また、モノクローナル抗体を得るには、以下のように行う。すなわち、免疫した動物から脾細胞もしくはリンパ球等の抗体産生細胞を採取し、ポリエチレングリコール、センダイウイルス、電気パルス等を用いる公知方法によって、ミエローマ細胞株等と融合し、ハイブリドーマを作製する。本発明に係るポリペプチドに結合する抗体を産生しているクローンを選択して培養し、その選択されたクローンの培養上清を精製することによって得れば良い。精製は、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の上述のような公知方法を適宜組み合わせて用いれば良い。
【0074】
また、遺伝子工学的な方法を用いても本発明に係る抗体が得られ得る。すなわち、本発明に係るポリペプチドもしくはポリペプチド断片で免疫した動物の脾細胞、リンパ球、あるいは、本発明に係るポリペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマからmRNAを採取し、これをもとにcDNAライブラリーを作成する。抗原と反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングし、得られたクローンを培養し、培養混合物から目的とする抗体を、公知方法を組み合わせて精製することができる。
【0075】
また、上記抗体には、上記ポリペプチドに特異的に結合しうる完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメントのような抗体フラグメントも含まれる。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ないため(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))、好ましく用いることができる。
【0076】
(3)ポリヌクレオチド
次に、本発明に係るポリヌクレオチドについて説明する。本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴とする。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0077】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0078】
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0079】
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0080】
このような変異体としては、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0081】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0082】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0083】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0084】
上記ポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするので、形質転換等の手法により宿主に上記ポリペプチドを生産させることができる。したがって、本発明に係るポリペプチドの大量調製に用いることができる。
【0085】
また、上記ポリヌクレオチドは、酵素等で標識して組織における本発明に係るポリペプチドの発現状況を検査するために使用することも可能である。上記ポリヌクレオチドを使用して細胞における本発明に係るポリペプチドの発現量を確認することにより、本発明に係るポリペプチドの新規ポリペプチドの製造に適した細胞や細胞の培養条件を決定することができる。
【0086】
さらには、上記ポリヌクレオチドを生体内の細胞に導入して遺伝子治療に使用したり、上記ポリヌクレオチドが有する塩基配列をもとにアンチセンス医薬品を開発することもできる。
【0087】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0088】
本発明について、実施例および図1〜図13に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。
【0089】
(1)粗ポリペプチドの調製
スルメイカ(Todarodes pacificus)は函館沖で採取し、−20℃で数ヶ月保存した。上記スルメイカから肝臓を除くその他内臓を分割し、細切した。細切した試料に対し、2.5倍量の蒸留水を加え、室温で30分間マグネチックスターラーにより撹拌し、粗ポリペプチドを抽出した。抽出液を10,000gで10分間遠心分離した上澄み液を、80℃で5分間加熱した。冷却後、10,000gで10分間遠心分離し、上澄み液を凍結乾燥により濃縮し、これを粗ポリペプチドとした。
【0090】
(2)ポリペプチドのトリプシン阻害活性の測定
ブタ膵臓由来トリプシン(和光純薬工業より購入;10mM CaCl2, 50 mM Tris-HCL緩衝液(pH8.0)を加えて調製)10μlに対して、トリプシンの活性を約50%阻害するように希釈された本発明に係るポリペプチドの溶液25μlを混合し、30℃で5分間インキュベートした。この混合溶液中のトリプシン活性は上記Hummelの方法に従ってTAMEを基質として測定した。トリプシン阻害活性は、上記混合溶液の247nmにおける吸光度を測定し、1分当たりの247nmにおける1mgのトリプシンの活性を50%阻害する活性を1IUとした。
【0091】
(3)本発明に係るポリペプチドの精製
スルメイカの肝臓を除くその他内臓から調製した上記粗ポリペプチドは、あらかじめ10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたセファデックスG-50(登録商標)カラム(3.9×64cm)に供しゲルろ過を行った。図1は上記ゲルろ過のクロマトグラムを示すものである。図1に示すように、ゲルろ過の結果、1つのトリプシンインヒビター画分が得られ、これを凍結乾燥により濃縮した。
【0092】
このトリプシンインヒビター画分をあらかじめ10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたDEAE-セルロース陰イオン交換カラム(2.2×20cm)に供した。図2はゲルろ過後のトリプシンインヒビター画分の陰イオン交換クロマトグラムである。図2に示すように、トリプシンインヒビターは非吸着画分に溶出し、これを凍結乾燥により濃縮した。
【0093】
さらに、このトリプシンインヒビター画分をあらかじめ10mM Tris-HCL緩衝液(pH8.0)で平衡化されたセファデックスG-50(登録商標)カラム(3.9×64cm)による再ゲルろ過に供した。図3は上記再ゲルろ過のクロマトグラムを示すものである。図3に示すように、1つのトリプシンインヒビター画分が溶出し、この溶出ピークはタンパク質の溶出ピークとよく一致した。
【0094】
そこで、このトリプシンインヒビター画分を凍結乾燥により濃縮し、SDS−PAGEによりタンパク質の組成を検討した。SDS−PAGEは、Fling, S.P, Gregerson, D.S., Anal. Biochem. 155, 83-88, (1986)に記載された方法による0.1% SDS−20%ポリアクリルアミドスラブゲル上、または Laemmli, U.K., Nature 227, 680-685, (1970)に記載された方法による0.1% SDS−10%ポリアクリルアミドスラブゲル上で行った。ゲルは0.1%クマシーブリリアントブルーR−250の50%メタノール−7%酢酸溶液で染色し、7%酢酸で脱色した。
【0095】
図4はSDS−PAGEの結果を示すものである。レーン1は上記トリプシンインヒビター画分、レーン2は分子量マーカーである。図4に示すように、レーン1ではほぼ単一の成分が検出された。そこで、この画分を精製トリプシンインヒビターすなわち本発明に係るポリペプチドとした。上記ポリペプチドの分子量は、図4に示す分子量マーカーとの比較から約6000と推定された。
【0096】
また、上記ポリペプチドをSDS−PAGEに供した後、ゲル上のタンパク質をPVDF膜にブロッティングし、プロテインシークエンサーによりN−末端のアミノ酸配列を分析した。その結果、上記ポリペプチドのN−末端20残基のアミノ酸配列は、ANEATXVYKGKTYKKGEGF(配列番号1)であることが明らかとなった。なお、上記配列中「X」は未同定のアミノ酸を表している。このアミノ酸配列は、表1にしめすように、従来公知のトリプシンインヒビターのアミノ酸配列との相同性が低いものであった。
【0097】
表2はスルメイカの肝臓を除くその他内臓由来のポリペプチドの精製工程と精製結果を示すものである。表2に示すように、粗ポリペプチドに対して精製トリプシンインヒビターは66倍に精製され、阻害活性の回収率は82%であった。
【0098】
【表2】
【0099】
(4)ポリペプチドのトリプシン阻害活性
ブタ膵臓由来トリプシン(7.4μg、0.16U)、魚類由来トリプシン(カジカ由来トリプシン、フクラギ由来トリプシン、コマイ由来トリプシン、エゾイソアイナメ由来トリプシン、スケトウダラ由来トリプシン、イトヒキダラ由来トリプシン、チカ由来トリプシン)と本発明に係るポリペプチド(0〜30μg)とを10mM Tris−HCl(pH8.0)中で混合し、30℃で5分インキュベートした。残存トリプシン活性は上記Hummelの方法を用いて測定した。
【0100】
図5は、本発明に係るポリペプチドのブタ膵臓由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。図5に示すように、本発明に係るポリペプチドの添加量の増加に伴って残存トリプシン活性は減少し、本発明に係るポリペプチドを14μg添加することによってトリプシンは完全に失活した。
【0101】
また、図6〜図12に示すように、本発明に係るポリペプチドは、上記魚類トリプシンをも完全に失活させることができた。図6〜図12はそれぞれ、本発明に係るポリペプチドのカジカ由来トリプシン、フクラギ由来トリプシン、コマイ由来トリプシン、エゾイソアイナメ由来トリプシン、スケトウダラ由来トリプシン、イトヒキダラ由来トリプシン、チカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。いずれの場合も、本発明に係るポリペプチドの添加量の増加に伴って残存トリプシン活性は減少し、最終的には完全に失活させることができた。
【0102】
(5)ポリペプチドの耐熱性
本発明に係るポリペプチド140μgを Tris-HCl(pH8.0)200μlに溶解し、これを小試験管に入れ、80℃に加熱された温水に漬けてインキュベートした。インキュベート開始から30分ごとに上記ポリペプチドのトリプシン阻害活性を測定した。図13は上記ポリペプチドの耐熱性を調べた結果を示すものである。図13より、本発明に係るポリペプチドのトリプシン阻害活性は90分まで全く失活せず、150分インキュベートした場合でも93%の阻害活性が残存することが分かった。150分を越えると徐々に阻害活性は低下したが、180分インキュベートした場合でも71%の阻害活性が残存した。210分インキュベートした場合の残存阻害活性は54%であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、本発明に係るポリペプチドは、トリプシン阻害活性を有し、高い耐熱性を有するため、新規なトリプシンインヒビターとして医薬品、生化学試薬、食品添加物等として利用することができる。また、これまで有効な用途がなかったイカの肝臓以外の内臓から分離精製することができるため、廃棄物として処理されていた水産加工残渣の有効利用を図ることができる。したがって、本発明に係るポリペプチドは、水産加工業、製薬業、食品産業等に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】スルメイカの肝臓を除くその他内臓から抽出した粗ポリペプチドをセファデックスG-50(登録商標)カラムでゲルろ過して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図2】ゲルろ過によって得られたトリプシンインヒビター画分をDEAE-セルロース陰イオン交換カラムで処理して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図3】陰イオン交換クロマトグラフィーによって得られたトリプシンインヒビター画分をセファデックスG-50(登録商標)カラムで再ゲルろ過して得られたクロマトグラムを示すものである。
【図4】再ゲルろ過して得られたトリプシンインヒビター画分をSDS−PAGEに供した結果を示すゲル写真である。
【図5】本発明に係るポリペプチドのブタ膵臓由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図6】本発明に係るポリペプチドのカジカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図7】本発明に係るポリペプチドのフクラギ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図8】本発明に係るポリペプチドのコマイ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図9】本発明に係るポリペプチドのエゾイソアイナメ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図10】本発明に係るポリペプチドのスケトウダラ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図11】本発明に係るポリペプチドのイトヒキダラ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図12】本発明に係るポリペプチドのチカ由来トリプシンに対する活性阻害効果を示すものである。
【図13】本発明に係るポリペプチドの耐熱性を調べた結果を示すものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
分子量がSDS−PAGEで約6000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
動物の肝臓以外の内臓に由来することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
上記動物はイカであることを特徴とする請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したことを特徴とする請求項4または5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上残存していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
さらに、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して70%以上残存していることを特徴とする請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリペプチドと結合することを特徴とする抗体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項1】
トリプシンインヒビターであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
上記(a)または(b)に記載されたアミノ酸配列をN末端残基として含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
分子量がSDS−PAGEで約6000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
動物の肝臓以外の内臓に由来することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
上記動物はイカであることを特徴とする請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
上記肝臓以外の内臓から水で抽出して得られた粗ポリペプチドを、少なくともゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーに供して精製したことを特徴とする請求項4または5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
80℃で150分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して90%以上残存していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
さらに、80℃で180分インキュベートしたポリペプチドのトリプシン阻害活性が、当該インキュベートを行う前のトリプシン阻害活性に対して70%以上残存していることを特徴とする請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリペプチドと結合することを特徴とする抗体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【公開番号】特開2006−304666(P2006−304666A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130157(P2005−130157)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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