説明

トリメチルシリル基を有するポルフィリン色素、及びそれを用いた光電変換素子ならびに色素増感太陽電池

【課題】 太陽光の利用効率が高い、新規の増感色素及びその色素を吸着させた光電変換素子、色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】 一般式(イ):(ただし、Rは少なくとも1つがカルボキシル基であって、残部がトリメチルシリル基(-Si(CH3)である)で表わされることを特徴とする、ポルフィリンを増感色素として用い、光電変換素子及び色素増感型太陽電池を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型の光電変換素子及び太陽電池における、増感色素として好適に使用することができるポルフィリン色素、及びこのポルフィリン色素を用いた前記光電変換素子及び前記太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はクリーンな再生型のエネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池、テルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物半導体からなる太陽電池が主に研究されているが、家庭用電源として普及させる為には、いずれの太陽電池もコストが高いことや、原材料の確保の問題など、多くの問題を抱えている。
【0003】
こうした状況の中、色素増感太陽電池はコスト、大面積化、原材料の点で非常に有利であると言われている。色素増感太陽電池や、色素増感された光電変換素子及び光電気化学電池は、導電性支持体上に形成された色素を吸着した半導体微粒子含有層からなる光電極、電荷移動層、対極から構成される。特にNature(第353巻、737〜740頁、1991年)および米国特許4927721号等には、色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこれを作製するための材料および製造技術が開示されている。
【0004】
ここで光半導体電極材料として用いられる二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物半導体は、光や熱に対して安定で無害であるが、バンドギャップが3.0eVと大きい為に地球上にもっとも強く照射される可視光や近赤外光の太陽光を吸収できない。可視光を吸収する有機物や金属錯体などの色素を金属酸化物光半導体電極表面に吸着あるいは被覆させると、電極が光電変換する波長領域を可視光領域まで拡大することができる。
【0005】
半導体電極表面に単分子層で吸着した色素のみが色素増感することから、色素を平滑な半導体表面に単分子層で吸着させた場合、光の利用効率は1%程度であるため、太陽電池としての光電変換効率が低い。電極の光の利用効率を高める為には光照射面積に対して、色素が吸着した半導体表面をできるだけ大きくする必要がある。
【0006】
半導体電極には大きな比表面積を有する、二酸化チタン(特開平1-220380号公報)又は表面に細孔を有するニ酸化チタンの薄膜(特開8-99041号公報)を用いることが知られている。増感色素としてはキサンテン系有機色素、シアニン系色素、塩基性染料、ポルフィリン系化合物、フタロシアニン系化合物、アゾ染料、ルテニウム金属錯体などの多くの化合物が知られている(特表平7-500630号公報、特開平11-144772号公報、特開平13-59062号公報、特開平13-253894号公報、特開平13-247546号公報)。
【0007】
現在、光電変換効率の点からは、ルテニウム金属錯体色素が一番優位であるとされているが、ルテニウムは高価な金属であり、また色素が吸収する太陽光の波長領域は300〜900nm程度である。今後、さらなる高光電変換効率を目指す為には、太陽光の波長領域をほとんど吸収する増感色素の開発が必要不可欠であり、色素増感太陽電池の低コストというメリットをさらに強調するには、安価な色素を用いることができなければならない。
【0008】
【非特許文献1】Nature(第353巻、737〜740頁、1991年)
【特許文献1】米国特許4927721号
【特許文献2】特開平1-220380号
【特許文献3】特開8-99041号
【特許文献4】特表平7-500630号
【特許文献5】特開平11-144772号
【特許文献6】特開平13-59062号
【特許文献7】特開平13-253894号
【特許文献8】特開平13-247546号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、広域の波長領域での吸収能を有し、高価な金属を中心金属として必要とすることなく、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として使用することが可能な新規な色素体、並びにこの色素体を用いた前記光電変換素子及び前記太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明は、
一般式(イ):(ただし、Rは少なくとも1つがカルボキシル基であって、残部がトリメチルシリル基(-Si(CH3)3である)で表わされることを特徴とする、ポルフィリンに関する。
【化1】

【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、前記目的を達成すべく色素体として高価な金属を中心金属として用いる必要のないポルフィリン色素に着目した。しかしながら、ポルフィリン色素そのままでは、色素増感型の光電変換素子などとして使用する場合に、前記光電変換素子を構成する金属酸化物半導体電極表面に十分に吸着することができず、実用に供することができないことが判明した。さらに、その電子供与性の低さから、前記ポルフィリン色素を前記色素体として用いた場合に、前記色素体から前記金属酸化物半導体電極に対して十分な電子移動を生ぜしめることができないことが判明した。
【0012】
かかる問題に鑑み、本発明者らはさらに鋭意検討を行い、前記ポルフィリン色素に対して官能基を導入することによって上記問題を解決することを試みた。具体的には、前記ポルフィリンに対してカルボキシル基(-COOH)などを導入することにより、上述した光電変換素子などにおける金属酸化物半導体電極などに対する吸着性を十分に向上させることができるようになることを見出した。さらに、前記ポルフィリンに対してトリメチルシリル基(-Si(CH3))を導入することにより、前記ポルフィリンに対して電子供与性を付与することができ、前記ポルフィリンから前記金属酸化物半導体電極に対して十分な電子移動を生ぜしめることが可能であることを見出した。
【0013】
したがって、上述した本発明のポルフィリンは、金属酸化物半導体電極を含む光電変換素子あるいは太陽電池における増感色素として好適に用いることができ、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として使用することが可能な新規かつ安価な色素体として用いることができる。
【0014】
なお、本発明の好ましい態様においては、上述したポルフィリン色素の一般式におけるRの内3つがトリメチルシリル基であって、いわゆる5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンなる異性体を構成する。この場合、上記Rの内の1つがカルボキシル基であって、これによって光電変換素子などを構成する金属酸化物半導体電極との吸着性を十分に確保することができるとともに、上述した、金属酸化物半導体電極に対する電子供与性を十分に増大させることができるようになる。この結果、上記ポルフィリン色素を有する光電変換素子などの光電変換効率を十分に増大させることができるようになる。
【0015】
また、本発明の光電変換素子及び太陽電池は、上述したポルフィリン色素を増感色素として有することによって特徴づけられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、広域の波長領域での吸収能を有し、高価な金属を中心金属として必要とすることなく、色素増感型の光電変換素子や太陽電池などの増感色素として使用することが可能な新規な色素体、並びにこの色素体を用いた前記光電変換素子及び前記太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0018】
(ポルフィリン色素体)
上述したように、本発明のポルフィリンは色素増感型の光電変換素子及び太陽電池などの増感色素として用いることができる。この場合、前記ポルフィリンは前記光電変換素子などを構成する金属酸化物半導体電極との吸着性を有することが必要であり、そのために、前記ポルフィリンは極性基としてのカルボキシル基(-COOH)を有することが必要である。しかしながら、同様の作用効果を有する極性基としては、前記カルボキシル基の他に、スルホ基(-SO3H)、アミノ基(-NH2)、ピリジル基(C5H4N)などをも例示することができる。しかしながら、特にカルボキシル基が好ましい。
【0019】
また、上述したように、本発明のポルフィリンは、Rの内の3つがトリメチルシリル基であって、いわゆる5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンなる異性体を構成することが好ましい。この場合、上記Rの内の1つがカルボキシル基であって、これによって光電変換素子などを構成する金属酸化物半導体電極との吸着性を十分に確保することができるとともに、上述した、金属酸化物半導体電極に対する電子供与性を十分に増大させることができるようになる。この結果、上記ポルフィリン色素を有する光電変換素子などの光電変換効率を十分に増大させることができるようになる。
【0020】
上記異性体は、以下の一般式(ロ)で表わすことができる。
【化2】

【0021】
なお、本発明のポルフィリンの製造方法に関しては以下に示す実施例において具体的に詳述する。
【0022】
(光電変換素子)
本発明の光電変換素子及び太陽電池は、上述したポルフィリンを増感色素として金属酸化物半導体電極の表面に吸着させる。この金属酸化物半導体電極は、好ましくは多孔質電極とする。これによって、前記電極の実質的な表面積を増大させることができ、前記電極への増感色素の吸着量を増大させて、前記光電変換素子などの光電変換効率を増大させることができるようになる。なお、このような多孔質の金属酸化物半導体電極は、微細な酸化物半導体微粒子が集積して形成される。
【0023】
図1は、本発明の光電変換素子の一例を示す構成図であり、図2は、図1に示す光電変換素子の、酸化物半導体電極近傍を拡大して示す図である。図1に示す光電変換素子100は、光電極101と対電極109とが互いに対向するようにして配置されるとともに、両者の電極間に隔壁120が設けられ、これら電極と隔壁とで形成される空間内に電解質108が注入されることによって構成されている。
【0024】
図2に示すように、光電極101は、透明基板104上に透明導電層105が形成されて透明導電性基板102として構成した後、この透明導電性基板102上に酸化物半導体電極103が形成されてなる。酸化物半導体電極103は、酸化物半導体微粒子106上に増感色素107が吸着して構成されている。このように酸化物半導体電極103は酸化物半導体微粒子106から構成されているので多孔質を構成し、増感色素107の吸着量を増大させることができる。
【0025】
なお、増感色素107は、本発明に従って上述したポルフィリンから構成する。前記ポルフィリンのカルボキシル基は酸化物半導体微粒子106に対して高い吸着性を示し、これによって、前記ポルフィリンからなる増感色素107は酸化物半導体微粒子106に対して安定的に吸着するようになる。また、前記ポルフィリンはトリメチルシリル基を有するので、酸化物半導体微粒子106に対して高い電子供与性を呈するようになる。
【0026】
透明基板104については、汎用のガラス基板及び石英基板や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、及びポリエチレンなどの透明プラスチック基板などを用いることができる。具体的には、安定性、加工性、軽量性、及びフレキシビリティーなどを考慮して、適宜に選択することができる。
【0027】
透明導電層105については、酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、ITO、ATO、酸化亜鉛、アルミドープ酸化亜鉛、あるいはこれらの表面に酸化スズ又はフッ素ドープ酸化スズの皮膜を設けた光透過性の透明導電層から構成することができる。
【0028】
酸化物半導体電極103の酸化物半導体微粒子106は、例えば単金属酸化物やまたはペロブスカイト構造を有する化合物等を使用することができる。単金属酸化物として好ましくはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、もしくはタンタルの酸化物が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する化合物として好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムが挙げられる。
【0029】
但し、本発明では、増感色素107として上述したポルフィリンを用いており、かかる増感色素との吸着性及び電子供与性を考慮すると、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムの少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0030】
なお、酸化物半導体微粒子106の大きさは、その粒径が5nm〜500nmのものが好ましく、さらには10nm〜300nmのものが好ましく、特には15nm〜200nmのものが好ましい。
【0031】
電解質108は、固体状及び液体状のものを使用することができる。具体的には、ヨウ素系電解質、臭素系電解質、セレン系電解質、硫黄系電解質等各種の電解質をもちいることが可能であり、I、LiI、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨージド、t−ブチルピリジン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイド等をアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニル、炭酸プロピレン等の電気的に不活性な有機溶剤に溶かした溶液等が好適に用いられる。
【0032】
また、電解質の揮発を低減する目的で、上述した上記電解質組成物へゲル化剤、ポリマー架橋モノマーなどを溶解させ、ゲル状電解質として使用することも可能である。ゲルマトリックスと電解質組成物との比率は、電解質組成物が多ければイオン導電率は高くなるが、機械的強度は低下する。また、逆に電解質組成物が少なすぎると機械的強度は大きいが、イオン導電率は低下する。このため、電解質組成物はゲル状電解質の50wt%〜99wt%が望ましく、80wt%〜97wt%がより好ましい。
【0033】
さらに、上記電解質と可塑剤とを用いてポリマーに溶解させ、可塑剤を揮発除去することで全固体型の光電変換素子を実現することも可能である。
【0034】
対電極109は、例えば、Al、SUS等の金属やガラス及びプラスチックなどから構成される基板と、その上に形成されるPt、C、Ni、Cr、ステンレス、フッ素ドープ酸化スズ及びITOなどの導電層から構成される。また、表面にフッ素ドープ酸化スズなどの導電層を設けた導電性ガラスから構成することもできる。
【0035】
なお、対電極109は、白金あるいは炭素などの触媒層を含むことができる。これによって、対電極109と電解質108との電子授受をより簡易に行なうことができるようになる。
【0036】
(光電変換素子の製造方法)
次に、本発明の光電変換素子の製造方法について説明する。説明を明確化すべく、以下においては、図1及び図2に示す光電変換素子100に基づいてその製造方法を説明する。
【0037】
最初に、透明基板104を準備し、この透明基板104上に透明導電層105を形成して、透明導電性基板102を作製する。透明導電層105はスパッタリング法やCVD法、あるいは塗布法など公知の成膜技術を用いて形成することができる。また、市販の透明導電層105が形成された透明基板104を透明導電性基板102として直接的に使用することもできる。
【0038】
次いで、酸化物半導体微粒子106を含む酸化物半導体インキまたはペーストを準備し、透明導電性基板102上に湿式塗布法または湿式印刷法で塗膜し、焼成して酸化物半導体微粒子以外の成分を除去することによって、透明導電性基板102上に酸化物半導体微粒子106を層状に形成し、光電極101を形成する。
【0039】
なお、上記湿式塗布法及び湿式印刷法などの湿式成膜法は、形成された膜物性、利便性、製造コストなどを考慮したに有利な方法である。前記湿式塗布法としては、具体的にはスピンコート法、ローラーコート法、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、ブレードコート法、グラビアコート法などを例示することができる。また前記湿式印刷法としては、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などの方法を用いることができる。
【0040】
酸化物半導体微粒子として市販の粉末を使用する際には、粒子の二次凝集を解消することが好ましく、塗布液調製時に乳鉢やボールミルなどを使用して、粒子の粉砕を行なうことが好ましい。このとき、二次凝集が解かれた粒子が再凝集するのを防ぐため、アセチルアセトン、塩酸、硝酸、界面活性剤、キレート剤などを添加するのが好ましい。また、増粘の目的でポリエチレンオキシドやポリビニルアルコールなどの高分子、セルロース系の増粘剤などの各種増粘剤を添加することもできる。
【0041】
上記の焼成温度としては、250〜600℃が用いられ、好ましくは400〜550℃が用いられる。焼成温度が上記の範囲よりも低いと良好な結晶状態が得られないため、作製した酸化物光半導体微粒子膜が高抵抗な膜になり好ましくなく、上記の範囲よりも高いと、結晶子の成長が顕著になり、比表面積が低下するため好ましくない。
【0042】
次いで、所定の溶媒中に増感色素107を溶解させて増感色素溶液を作製し、この溶液中に酸化物半導体微粒子膜106を基板ごと浸漬させることによって、増感色素107を酸化物半導体微粒子106上に吸着させ担持させる。前記溶媒としては、メタノール、エタノール、2プロパノール、1ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3メトキシプロピオニトリル等のニトリル類、ベンゼン、トルエン等の芳香属化合物類、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0043】
なお、増感色素107は本発明のポルフィリンから構成する。このポルフィリンは通常は粉末の状態で存在するため、上述した溶液を作製するに際しては、ポルフィリン粉末が前記溶媒中に均一に分散溶解するようにする。
【0044】
次いで、必要に応じて触媒層を有する対電極109を準備して光電極101と対向させ、これらの間に隔壁120を設け、これら電極と隔壁とで形成された空間内に電解質108を注入し、目的とする光電変換素子100を得る。
【0045】
(色素増感型太陽電池)
本発明の色素増感型太陽電池は、図1に示す光電変換素子100をモジュール化するとともに、所定の電気配線を設けることによって得ることができる。
【0046】
図3及び図4は、図1及び図2に示す光電変換素子を用いて構成した色素増感型太陽電池の一例を示す構成図である。図3は、色素増感型太陽電池の展開構成図であって、図4は、色素増感型太陽電池の側断面図である。なお、図3及び図4において、図1及び図2と類似の構成要素については同一の参照数字を用いている。
【0047】
図3及び図4に示すように、本願発明の太陽電池200は、スペーサ203を介して光電極102及び対電極109が対向するようにして配置されている。光電極101は図1及び図2に示すものと同じ構成を呈し、透明導電性基板102上に本発明のポルフィリンからなる増感色素が吸着した酸化物半導体電極103が形成されてなる。また、スペーサ203には、略中央部に開口部203Aが設けられており、この内部に電解質108が注入されている。
【0048】
また、光電極101及び対電極109には、電流取り出し用の銅線207がはんだ205によって固定されている。これによって、光電極101側から入射した光hυによって酸化物半導体電極103内の増感色素であるポルフィリン(図示せず)が励起され、励起電子を酸化物半導体微粒子(図示せず)に供与するとともに、前記電子は電解質108を通じて対電極109に供与され、このようにして生じた電流を銅線207によって外部に取り出すようにしている。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に従って具体的に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0050】
(実施例)
<ポルフィリン色素の合成>
4-トリメチルシリルベンズアルデヒド(4.83 g、27.1 mmol)とテレフタルアルデヒド酸(1.35 g、8.99 mmol)とをプロピオン酸(150 mL)に溶かし、加熱還流しながらピロール(2.5 mL、36 mmol)を滴下した。これをさらに1時間還流し、室温に冷却した。反応混合物を減圧下で約35 mLになるまで濃縮し、これに水−メタノール(1:1、50 mL)を加えて攪拌した。析出した固体を吸引ろ過し、減圧下で乾燥した。次いで、得られた固体(5.78 g)の一部(1.0 g)をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒はクロロホルム次いでクロロホルムーメタノール(95:5))で分離し、得られた黒紫色の固体を再びカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒はジクロロメタンークロロホルムー酢酸エチルーメタノール(50:40:7:3))で分離することにより、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンが紫色の固体として0.051 g得られた。反応後に得られた固体(5.78 g)に換算した収率は4%である。
【0051】
<同定の結果>
5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンの構造は次のスペクトルによって同定した。
1H NMR (CDCl3): δ-2.79 (s, 2H), 0.50 (s, 27H), 7.89 (d, 6H, J = 7.4 Hz), 8.19 (d, 6H, J = 7.4 Hz), 8.35 (d, 2H, J = 7.8 Hz), 8.52 (d, 2H, J = 7.8 Hz), 8.79 (d, 2H, J = 4.3 Hz), 8.86 (s, 4H), 8.89 (d, 2H, J = 4.3 Hz). 13C NMR (CDCl3):δ-0.9, 118.4, 120.4, 120.6, 128.1, 129.6, 131.59, 131.61, 134.00, 134.04, 134.5, 139.6, 142.2, 142.3, 147.1. 29Si NMR (CDCl3):δ-3.5. IR (KBr): 3420, 3310, 3060, 3010, 2920, 1690, 1600, 1250, 1110, 970, 840, 800 cm-1. UV-Vis (λmax (ε), CHCl3): 237 (17000), 421 (410000), 518 (15000), 552 (7300), 594 (3900), 647 nm (4100).
【0052】
<光電変換素子(太陽電池)における光電極の作製>
透明電極としての酸化スズコート透明導電性ガラス上に、多孔質酸化物半導体電極として用いる多孔質酸化物半導体薄膜として、二酸化チタン(TiO)パウダー(平均粒径21nm)のペーストを固定化し、膜厚15μmの多孔質TiO薄膜を作製した。
【0053】
多孔質TiO薄膜の具体的な製造方法としては、均質な多孔質TiO薄膜を効率的に作製するために、この例ではスピンコート法を用いた。なおスピンコート法とは、高速回転する基板上に薄膜にしたい試料の溶液あるいはゾルを垂らし、遠心力によって基板上に引き伸ばして均一な膜を形成する手法である。
【0054】
まずTiOゾルを調製するため、平均粒径21nmのTiO粉末(P−25、日本アエロジル;ルチル:アナタ−ゼ=3:7)3.0gに、アセチルアセトン(99.5%、関東化学)0.1mlとイオン交換水0.1mlとを加え、メノウ乳鉢で10分間撹拌混合し、さらにイオン交換水1.0mlを加えて30分間撹拌混合する操作を7回繰り返した。これにTriton X-100(ICN Biomedicals Inc.)0.1ml、イオン交換水1.0mlを加えて5分間撹拌混合の後に、イオン交換水7mlを加え、超音波洗浄器を用いて1時間の超音波処理を施し、それをTiOゾルとした。
【0055】
そして酸化スズコート透明導電性ガラス(15〜20Ω/□、25×50×1.1mm、旭ガラス)を基板として、スピンコーター(ACTIVE ACT-300A)中央の試料台の上に固定し、TiOゾルを均質に広げるため、まずTriton X-100:水=1:100溶液を5滴垂らし、0.1秒で2000rpmまで上昇させ3秒間2000rpmで回転させた。次にメタノールを酸化スズコート透明導電性ガラス上に満遍なく垂らし、上記の回転数、時間で回転させ、そのあとでTiOゾルを酸化スズコート透明導電性ガラス上に満遍なく垂らし、同様の回転数、時間で回転させ、TiO薄膜を作製した。
【0056】
これを室温で風乾し、電気炉中で450℃まで昇温(10℃/min)し、450℃に30分間保持し、室温に降温(〜10℃/min)することで、酸化スズコート透明導電性ガラス上に多孔質TiO薄膜を形成し固定化した。このスピンコート法によって得られた多孔質TiO薄膜の膜厚は、表面形状測定装置(KEYENCE、VF−7500)を用いて測定した結果、15±2μmであった。
【0057】
なお、色素増感太陽電池において、多孔質酸化物半導体電極として用いる多孔質TiO薄膜をTiCl処理することにより、光発電特性が改善されることが報告されていることから、この例においても多孔質TiO薄膜のTiCl処理を行った。なおTiCl処理は以下の手順で行った。
【0058】
1)まず、TiCl水溶液(0.2mol/dm)を多孔質TiO薄膜表面に0.5ml程度垂らし、多孔質TiO薄膜の表面を満遍なくぬらす。
2)次にこの状態を保持するために、水を張ったデシケータ中に入れて15時間室温で放置する。
3)電極をデシケータから取り出し、表面を水で洗浄した後、電気炉に入れ、10℃/minで450℃まで昇温し、450℃に30分間加熱後、10℃/minで室温に降温する。
【0059】
多孔質TiO電極表面への色素の固定は、多孔質TiO電極を200℃で1時間加熱乾燥後、75℃まで冷却し、それを色素である5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンのトルエン/メタノール溶液(3×10−4M)に浸漬し、1時間還流することで行った。
【0060】
<モジュール化による色素増感太陽電池の作製>
上述のようにして得た、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンを固定化した多孔質TiO電極を用いて、図3および図4に示すような構成の色素増感型太陽電池セル200を組み立て、光発電特性の測定を行った。なお、スペーサ203はポリエチレン製とし、その開口部203Aの大きさは
10×10×0.1mmとした。また、電解質108は、0.3MLiI−0.015MIのアセトニトリル:エチレンカーボネート(2:8)溶液を使用した。さらに、対電極109に、酸化スズコート透明導電性ガラス表面にスパッタリング法により白金の薄膜を形成したものを使用した。
【0061】
(比較例)
<ポルフィリン色素の合成>
ベンズアルデヒド(5.5 mL、54 mmol)とテレフタルアルデヒド酸(2.70 g、18.0 mmol)とをプロピオン酸(300 mL)に溶かし、加熱還流しながらピロール(5.0 mL、72 mmol)を滴下した。これをさらに1時間還流し、室温に冷却した。反応混合物を減圧下で約70 mLになるまで濃縮し、これに水ーメタノール(1:1、100 mL)を加えて攪拌した。析出した固体を吸引ろ過し、減圧下で乾燥した。得られた固体(9.57 g)の一部(1.0 g)をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒はクロロホルム次いでクロロホルムーメタノール(95:5))で分離した。得られた黒紫色の固体を再びカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒はジクロロメタンークロロホルムー酢酸エチルーメタノール(50:45:3.5:1.5))で分離すると、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリンが紫色の固体として0.063 g得られた。反応後に得られた固体(9.57 g)に換算した収率は5%である。
【0062】
<同定の結果>
5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリンの構造は次のスペクトルによって同定した。
1H NMR (CDCl3): δ-2.81 (s, 2H), 7.73-7.78 (m, 9H), 8.20 (d, 6H, J = 6.4 Hz), 8.34 (d, 2H, J = 8.1 Hz), 8.50 (d, 2H, J = 8.1 Hz), 8.79 (d, 2H, J = 4.8 Hz), 8.84 (s, 4H), 8.86 (d, 2H, J = 4.8 Hz). 13C NMR (CDCl3): δ-118.5, 120.3, 120.5, 126.7, 127.7, 128.2, 129.6, 134.49, 134.52, 141.9, 147.0, 169.0. IR (KBr): 3450, 3320, 3060, 3020, 1730, 1690, 1610, 1470, 970, 800, 700 cm-1. UV-Vis (λmax (ε), CHCl3): 237 (22000), 419 (400000), 516 (16000), 550 (6800), 592 (4400), 647 nm (3800).
【0063】
<色素増感太陽電池の作製>
次に、実施例と同様にして光電変換素子(太陽電池)における光電極を作製し、モジュール化することによって色素増感太陽電池を作製した。但し、本比較例では、光電極として、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンを固定化した多孔質TiO電極を含む電極に代えて、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリンを固定化した多孔質TiO電極を含むものを用いた。
【0064】
(評価)
<光電変換特性>
上述した実施例及び比較例で得た色素増感型太陽電池セルの評価を、擬似太陽光照射下での前記色素増感型太陽電池セルの光発電特性を測定することで行った。
擬似太陽光光源としては、ダイクロイックミラー付ハロゲンランプ(HOYA−SCHOTT株式会社、LH150)を用い、光ファイバーライトガイド(HOYA−SCHOTT株式会社、FGR)により前記色素増感型太陽電池セルの光電極側から光照射を行い、光発電特性の測定を光照射時の色素固定多孔質TiO電極と白金スパッタ対電極間の開放電圧(VOC)および短絡電流(ISC)を測定することにより実施した。
【0065】
前記照射光は、およそAM−1.5の波長分布特性をもち、50〜100mWcm−2の入射光強度に相当する。なおVOCとISCの測定にはパーソナルコンピュータとGPIBインターフェースを介して接続されたアドバンテストR820デジタルマルチメータを用い、VOCとISCの時間変化をパーソナルコンピュータに記録し、VOCとISCが安定した時点での値を測定結果とした。測定結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1より明らかなように、2種類の色素の間でVOCには変化がほとんどないにも関わらず、ISCは色素に5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンを用いた場合に、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリンを用いた場合の約3倍の値を示した。この結果は、色素に5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンを用いた場合には、5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリンを用いた場合に比べて、光電変換効率が約200%改善されたことを示している。
【0068】
色素を固定化した多孔質TiO電極の可視光領域の吸光度には殆ど差が見られず、色素に5-(4-カルボキシフェニル)-10,15,20-トリス(4-トリメチルシリルフェニル)ポルフィリンを用いた場合の光電変換効率の改善は、電子供与性の高い官能基であるトリメチルシリル基がポルフィリン色素に導入されたことにより、色素から金属酸化物半導体への電子移動の高効率化が実現したためと考えられる。
【0069】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の光電変換素子の一例を概略的に示す構成図である。
【図2】図1に示す光電変換素子の、酸化物半導体電極近傍を拡大して示す図である。
【図3】本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す展開構成図である。
【図4】図3に示す色素増感型太陽電池の側断面図である。
【符号の説明】
【0071】
100 光電変換素子
101 光電極
102 透明導電性基板
103 酸化物半導体電極
104 透明基板
105 透明導電層
106 酸化物半導体微粒子
107 増感色素
108 電解質
109 対電極
110 導電性基板
111 導電層
112 触媒層
120 隔壁
200 色素増感型太陽電池
203 スペーサ
203A スペーサの開口部
205 はんだ
207 銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(イ):(ただし、Rは少なくとも1つがカルボキシル基であって、残部がトリメチルシリル基(-Si(CH3)である)で表わされることを特徴とする、ポルフィリン。
【化1】

【請求項2】
一般式(イ)のポルフィリンのうち、3つのRがトリメチルシリル基であることを特徴とする、請求項1に記載のポルフィリン。
【請求項3】
酸化物光半導体を用いた光半導体電極に、増感色素を吸着させた光電変換素子において、前記増感色素として、請求項1又は2に記載のポルフィリンを用いたことを特徴とする、光電変換素子。
【請求項4】
前記酸化物光半導体は、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の光電変換素子を含むことを特徴とする、色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−55978(P2007−55978A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246051(P2005−246051)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】