説明

トリメリット酸の製造方法

トリメリット酸を、コバルト、マンガンおよび臭素を含有する触媒組成物の存在下、130〜240℃の温度で、酢酸中のプソイドクメンの酸化によって製造する。この方法は次の段階を含んでなる:(i)プソイドクメンおよび空気または酸素含有ガスを、酢酸および触媒組成物を含有する溶液に、8容量%未満の排ガス中の酸素濃度が得られる添加速度で、ならびに、プソイドクメンをトリメリット酸に酸化するのに必要な酸素の全量の5〜25モル%が消費される結果を与えるに十分な温度および圧力で同時供給し、(ii)空気または酸素含有ガスを、段階(i)で得られた反応混合物に、実質的に全てのプソイドクメンが消費され、少なくとも90%のトリメリット酸のモル収率が得られるまで供給する。段階(i)の後に、触媒の追加はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プソイドクメンの触媒酸化によるトリメリット酸の製造方法に関する。本方法は、得られる粗トリメリット酸の高い収率と改善された品質を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
トリメリット酸(TMA、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)は、化学工業において中間体としての用途を有する重要な生成物である。トリメリット酸の最も重要な反応は、無水トリメリット酸への脱水であり、この無水トリメリット酸は、次いでポリマーおよび化学中間体の製造のための出発原料として使用される。
無水トリメリット酸の用途には、高温用途のためのエンジニアリングポリマー、低揮発性の高性能可塑剤、ワイヤエナメル、インク、粉末塗料のための樹脂が含まれる。
【0003】
トリメリット酸は、プソイドクメン(1,2,4-トリメチルベンゼン)の酸化によって商業生産されている。
全ての商業的方法は、基本成分としてコバルト、マンガンおよび臭素を含有する触媒ならびに溶媒としての酢酸の存在下、液相中でプソイドクメンを酸化する。
【0004】
これは、いわゆる「世紀半ば触媒」であり、1950年代に開発されたものであり、アルキル芳香族化合物の酸化のためのほとんどの商業的方法に使用されている[W.Parteheimer, Catalysis Today, 1995, 69-158]。テレフタル酸およびイソフタル酸は、この技術に従って、コバルト、マンガンおよび臭素を含有する触媒系ならびに溶媒としての酢酸の存在下に、それぞれp-キシレンおよびm-キシレンの液相酸化によって製造されている。テレフタル酸およびイソフタル酸の場合、酸化反応は連続的に行われている。溶媒、試薬および触媒の混合物ならびに空気が、150〜200℃の温度および加圧下で運転される反応器に連続的に供給される。これらの条件下で、試薬が対応するポリカルボン酸に酸化され、反応混合物が反応器から連続的に取り出される。
【0005】
プソイドクメンからトリメリット酸への酸化は、芳香環上の3つのメチル基の存在のゆえに、p-キシレンおよびm-キシレンの酸化よりも困難である。この理由から、許容しうる収率および粗製品質を得るために、より活性な触媒が求められている。プソイドクメンの商業的酸化においては、マンガンおよびコバルトの他に追加の金属が、触媒の活性を高めるために使用されている。
【0006】
反応の目的生成物であるトリメリット酸は、触媒にとって毒である。この理由から、プソイドクメンからトリメリット酸への商業的酸化は、反応の最終段階においてのみ高濃度のトリメリット酸に到達するように回分式で行われる。この回分式の方法においては、酢酸、プソイドクメンおよび触媒が反応器に入れられ、これが加熱され、加圧される。所望の反応圧力および温度に到達した後、プソイドクメンの酸化が完了するまで、反応器に空気が供給される。
【0007】
この回分式方法の主な欠点は、反応物質プソイドクメンの濃度が反応開始時に非常に高く、その時に酸化が非常に容易であることである(第1メチル基の酸化は第2メチル基の酸化よりも容易であり、第2メチル基の酸化は第3メチル基の酸化よりも容易である)。最初の段階において、酸化を制御するのは困難であり、低濃度の溶解酸素は、高沸点の副生成物を与える望ましくない反応ならびに脱アルキル化およびアルキル基転移反応を起こしやすい(これはフタル酸、特にイソフタル酸およびテレフタル酸、およびピロメリト酸の生成を導く)。
【0008】
これらの問題を部分的に解決するために、先行技術特許は、回分式方法における温度勾配の使用を教示している。これによれば、酸化の最初の部分における比較的低い温度は、酸素の欠乏を妨げることができるが、反応の最初の段階における高濃度のプソイドクメンの存在を避けることはできない。
【0009】
第1メチル基から第2メチル基、さらに第3メチル基に進むにつれて酸化がより困難になり、また、最終酸化生成物であるトリメリット酸が触媒にとって毒となるので、いくつかの特許は、触媒系の活性を維持および/または増強するために、回分式酸化の過程で追加の触媒を供給することを教示している。
【0010】
米国特許第3683016号は、コバルト、マンガン、セリウムおよび臭素を含有する触媒の存在下でのプソイドクメンの回分式酸化を記載している。反応の最初の部分は比較的低温で行い、触媒の一部を、プソイドクメンからトリメリット酸への回分式酸化中に段階的に加える。
【0011】
温度勾配および触媒の段階的添加の使用は、米国特許第5250724号にも教示されており、ここでは、コバルト、マンガン、セリウム、チタンおよび臭素を含有する改良触媒が使用される。
【0012】
米国特許第4755622号は、コバルト、マンガン、ジルコニウムおよび臭素を触媒として使用するが、米国特許第4992579号の触媒は、コバルト、マンガン、セリウム、ジルコニウムおよび臭素を含有する。これら2つの特許は、温度勾配および触媒の段階的添加に加えて、酸化の最初の部分を半連続的に行う可能性について言及している。即ち、全てのプソイドクメンを最初の反応混合物に加える代わりに、酸化の最初の段階においてそれを反応器に徐々に供給する。触媒の段階的添加は、第1段階における全臭素の最大35%の添加を想定し、第2段階において添加される触媒は、方法に使用される全セリウムならびにマンガンおよびジルコニウムの一部を含有する。即ち、最初の触媒の組成と反応中に添加される触媒の組成は異なる。酸化の最初の部分(これは半連続的に行うことができる)は、理論的な酸素吸収が、酸素1〜2.5モル/炭化水素1モル、より好ましくは酸素1.5〜2モル/炭化水素1モルとなるように行う。これは、半連続的段階における酸素の消費が、好ましい条件に対しては理論の22〜56%であり、最も好ましい条件に対しては33〜44%であることに対応する。
【0013】
米国特許第4992579号は、実施例において半連続的な酸化を記載していない。
米国特許第4755622号は、実施例11および13(両方とも触媒の段階化を含む)において、ならびに、比較例FおよびH(触媒の段階化を含まない)において、半連続的な段階を記載している。ほとんどの実施例におけるイソフタル酸+テレフタル酸(望ましくない2官能の副生成物)の収率は、約2モル%またはそれ以上である。
【0014】
これらの改良にもかかわらず、粗トリメリット酸の品質は、いくつかの副生成物(特にイソフタル酸およびテレフタル酸)の存在のゆえに、今なお完全に満足しうるものではない。粗トリメリット酸の低品質は、無水トリメリット酸の最終品質に反映され、無水トリメリット酸の精製を問題あるものにし、より困難にする。特に、テレフタル酸やイソフタル酸のような2塩基酸の存在は、大きな欠点になる。これは、2官能分子の存在が有害である要求の厳しい用途において無水トリメリット酸が使用されるためである。
【0015】
酸化反応の回分(第2)段階における触媒の供給は、方法にとって面倒であり、触媒消費の増大を導く。さらに、段階的な触媒添加を行うと、最初の触媒の組成と反応中に添加される触媒の組成が異なることになり、これが、最終反応混合物中に含有される触媒の回収および再使用を不可能にする。
【0016】
既存の特許に記載される上記改良を用いたとしても、トリメリット酸の製造方法は完全に満足しうるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、プソイドクメンをトリメリット酸に触媒酸化するための新規な方法であって、粗トリメリット酸の比較的高い収率および改善された品質を特徴とする方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は、半連続的に反応の最初の部分を行い、即ち酸化の開始時に高濃度のプソイドクメンの存在を避け、半連続的段階におけるプソイドクメンの酸化の程度を、トリメリット酸への完全酸化に対応する理論値の25%以下に制限することによって達成される。
【発明の効果】
【0019】
出願人は、反応過程の最初の部分の上記変更により、高収率のトリメリット酸を得ることができ、最も望ましくない2官能の副生成物の生成を制限しうることを見いだした。また、この変更は、酸化反応の第2段階において触媒を供給する必要性を無しにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明によれば、プソイドクメンを第1段階において反応容器に供給する。一方、空気または酸素含有ガスは、酸素の欠乏を回避し、かつこの段階での酸素消費を、プソイドクメンからトリメリット酸への完全変換に必要な理論量の5〜25%に制限する量で供給する。この段階において、排ガス中の酸素濃度は、8容量%未満に維持する。
【0021】
第2段階において、空気または酸素含有ガスを、第1段階で得られた反応混合物中に、触媒を追加することなく、実質的に全てのプソイドクメンが消費されるまで、および少なくとも90%のトリメリット酸のモル収率が得られるまで供給する。「実質的に全て」とは、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%を意味する。
【0022】
このように操作すると、酸化の半連続的段階の終了時に、トリメリット酸の量は無視しうるほどであり、メチル基の酸化の中間生成物(アルコールおよびアルデヒドなど)が多量に存在する。これが触媒の失活を回避し、アルデヒド(これは酸化を共触媒することが知られている)の存在が酸化の完結に有利に働き、こうして酸化の第2(回分)段階における触媒の追加の必要性を回避する。本発明によれば、全ての触媒を、酸化反応の開始前に添加する。これは方法の重要な単純化である。その理由は、触媒の段階的添加があると、反応の開始時に添加される触媒の組成と第2段階において添加される触媒の組成が異なるためである。これは面倒になるだけでなく、触媒の回収および再使用を不可能にする(最終的な触媒の組成が、開始時に使用される組成および第2段階において使用される組成のどちらとも異なるため)。プソイドクメンからトリメリット酸への酸化は、溶媒としての酢酸中の空気を用いて、かつ、少なくともコバルト、マンガンおよび臭素を含有する触媒組成物の存在下に行う。
【0023】
反応は、130〜240℃、好ましくは140〜230℃の温度で、ならびに、5〜30バール、好ましくは6〜25バールの適当な圧力で行う。
【0024】
上記したように、酸化反応の第1部分は半連続法として行う。即ち、酸化を開始する前にはプソイドクメンを反応器中に導入せず、酸化反応の第1段階において空気または酸素含有ガスと一緒に、それを徐々におよび同時に供給する。
【0025】
好ましくは、操作を次のように行う。即ち、酢酸および触媒を反応容器に導入する。この反応容器を密閉し、その中の空気を窒素で置換する。撹拌下に、圧力を窒素で所望の値に調節し、温度を最初の反応温度まで、通常は130〜180℃、好ましくは140〜160℃まで上昇させる。
【0026】
所望の反応条件に到達したときに、プソイドクメンと空気の供給を開始する。通常、プソイドクメンの所望の全量の供給は、全反応時間の5〜35%以内に、好ましくは全反応時間の15〜25%以内に完了する。
【0027】
この期間中は、空気流入速度を、排ガス中の酸素濃度が8容量%を超えないように、好ましくは2〜6容量%であるように調節して、爆発性混合物の生成を回避し、半連続的段階における所望の酸素消費量を達成する。半連続的段階の終了時に、即ち全プソイドクメンが供給されたときに、酸化反応によって消費された酸素の量は、プソイドクメンからトリメリット酸への酸化に必要な全量の5〜25%、好ましくは10〜25%である。
【0028】
半連続的段階の終了時に、プソイドクメンの供給を停止し、空気の供給を続けて酸化反応を完結させる。この回分段階中に、反応温度を200〜240℃、好ましくは215〜230℃の値まで上昇させるのが好都合である。この回分段階においては、追加の触媒の供給はなく、これが触媒の取扱いをより容易にし、触媒の回収および再使用を可能にする。
【0029】
好ましい態様において、触媒組成物は、コバルト、マンガンおよび臭素に加えて、セリウムおよび/またはチタンを含有する。
触媒組成物のセリウム含量は、全金属含量に対して、好ましくは1〜30重量%、最も好ましくは5〜20重量%である。
触媒組成物のチタン含量は、全金属含量に対して、好ましくは0.5〜13重量%、最も好ましくは3〜10重量%である。
【0030】
触媒組成物のコバルト含量は、全金属含量に対して、好ましくは30〜70重量%、最も好ましくは40〜60重量%である。
触媒組成物のマンガン含量は、全金属含量に対して、好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは20〜40重量%である。
【0031】
コバルト、マンガン、および所望によりセリウムおよび/またはチタンを含有する全金属濃度は、プソイドクメンの全使用量に対して、好ましくは0.1〜1重量%、最も好ましくは0.20〜0.55重量%である。
好ましくは0.05〜0.7重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%の臭素を、プソイドクメンの全使用量に対して使用する。
【0032】
金属触媒は、容易に入手することができ、酢酸に可溶性である有機もしくは無機塩の形態で、または適当な有機金属化合物もしくはアルコキシドの形態で使用するのが有利である。例えば、これらは酢酸塩、オクタン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物または他の塩の形態で使用することができる。コバルトおよびマンガンはその酢酸塩の形態で、セリウムはその硝酸塩の形態で、チタンはその塩化物または有機金属化合物もしくはアルコキシドの形態(チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチルまたはこれらの混合物など)で使用するのが好都合である。通常、臭素は元素形態では使用されず、適当な有機または無機化合物の形態で使用される。臭化アンモニウムや臭化水素などの臭化物を使用するのが有利である。
【0033】
原料は工業用グレードのプソイドクメンであるのが有利である。
酸化剤は空気であるのが有利である。異なる酸素含量を有する他の酸化剤、特に21容量%より高い酸素含量に富化した空気を使用することもできる。爆発性混合物の生成を回避するために、排ガスの酸素含量は、両方の段階において8容量%以下に維持するのが好ましい。
【0034】
溶媒の酢酸は、10重量%まで(好ましくは2.5〜7.5重量%)の水を含有することができ、通常は、酢酸:全添加プソイドクメンの重量比=1:1〜4:1(好ましくは1.5:1〜3:1)で使用される。
【実施例】
【0035】
以下に非限定的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。全ての実験は、効率的な撹拌機、頭上コンデンサー、縮合物のための還流ライン、空気およびプソイドクメンの供給ライン、温度および圧力コントロールならびに排ガス中の酸素、COおよびCO2のオンライン分析器を装着した5Lのチタン製オートクレーブ中で行った。
【0036】
実施例1
オートクレーブに、酢酸(含水量5.6重量%)1212g、酢酸コバルト・四水和物4.19g、酢酸マンガン・四水和物2.82g、臭化アンモニウム1.09g、硝酸セリウム・六水和物0.77g、およびチタン酸テトライソプロピルとチタン酸テトラブチルの混合物(Ti含量16重量%)0.87gを導入した。
【0037】
このオートクレーブを密閉し、窒素を導入して空気を除去した。温度および圧力を、撹拌下に160℃および8バールまで上昇させた後、プソイドクメンおよび空気の供給を開始した。
プソイドクメン540gをピストン計量ポンプにより14分間で供給し、空気流を流量計により2380NL/時に調節した。
【0038】
14分後にプソイドクメンの供給を停止させたが、空気の供給は同じ速度で続けた。
この時点で、反応によって消費された酸素は、プソイドクメンからトリメリット酸への完全酸化に必要な量の20%に相当した。
プソイドクメンの供給を停止させた後、圧力を徐々に25バールまで上昇させ、温度を225℃まで上昇させた。
【0039】
開始から約60分後に、空気流を徐々に減らし、排ガス中のO2含量を5.0容量%以下に維持した。合計の操作時間は75分間であった。
室温まで冷却し、周囲圧力まで減圧した後、反応生成物の有機成分をガスクロマトグラフィー(GC)および高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。
プソイドクメンの変換は完全であった。所望の生成物および副生成物のモル収率を表1に示す。
【0040】
濾過の後、粗TMA濾過ケーキを乾燥し、HPLCによって分析した。乾燥した固体の重量組成を表1に示す。良好な収率に加えて、望ましくない2官能の副生成物であるイソフタル酸およびテレフタル酸の生成が少なく、かつ、粗トリメリット酸の純度が高い(約98重量%)ことがわかる。
【0041】
実施例2
実施例1の操作を繰り返したが、半連続的段階の温度を150℃および圧力を7バールとした。
半連続的段階の終了時に、反応によって消費された酸素は、プソイドクメンからトリメリット酸への完全酸化に必要な量の19%に相当した。
収率および生成物組成を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
比較例1(半連続的、触媒の段階的添加)
反応を実施例1の記載のように行ったが、触媒の添加を段階的に行った。
反応器へのプソイドクメン供給の開始前に、酢酸(含水量5.6重量%)1212g、酢酸コバルト・四水和物2.81g、酢酸マンガン・四水和物1.89g、臭化アンモニウム0.732g、硝酸セリウム・六水和物0.515g、およびチタン酸テトライソプロピルとチタン酸テトラブチルの混合物(Ti含量16%)0.583gを導入した。
【0044】
このオートクレーブを密閉し、空気を窒素で置換した。温度および圧力を、撹拌下に160℃および8バールまで上昇させた後、プソイドクメンおよび空気の供給を開始した。
プソイドクメン540gをピストン計量ポンプにより14分間で供給し、空気流を流量計により2380NL/時に調節した。
【0045】
この時点で、反応によって消費された酸素は、プソイドクメンからトリメリット酸への酸化に必要な量の20%に相当した。
プソイドクメン供給の完了後に、空気供給を同じ速度で継続し、圧力を徐々に25バールまで上昇させて温度を224℃まで上昇させ、次いで、酢酸コバルト・四水和物、酢酸マンガン・四水和物、臭化アンモニウム、および硝酸セリウム・六水和物の水溶液を、反応終了時まで反応器に供給した。これら塩の合計添加量は、酢酸コバルト・四水和物1.53g、酢酸マンガン・四水和物1.03g、臭化アンモニウム0.397g、硝酸セリウム・六水和物0.279gおよび水16gであった。
【0046】
開始から約60分後に、空気流を徐々に減らし、排ガス中のO2含量を5.0容量%以下に維持した。合計の操作時間は72分間であった。
室温まで冷却し、周囲圧力まで減圧した後、反応生成物の有機成分をGCおよびHPLCによって分析した。
プソイドクメンの変換は完全であった。収率および生成物組成を表2に示す。
【0047】
比較例2(半連続的、半連続的段階の終了時に高い変換)
実施例1の操作を繰り返したが、半連続的段階の温度は170℃、圧力は9バールであり、プソイドクメンを20分間で供給した。プソイドクメン供給の終了時に、反応によって消費された酸素は、プソイドクメンからトリメリット酸への酸化に必要な量の30%に相当した。
収率および生成物組成を表2に示す。
【0048】
比較例3(回分式、触媒の段階的添加)
実施例1の操作を繰り返したが、全てのプソイドクメンを、開始時に溶媒と一緒に導入した。触媒は、その一部を開始時に加え、その一部を反応の第2部分において加えた。開始時には、酢酸コバルト・四水和物4.18g、酢酸マンガン・四水和物2.64g、臭化アンモニウム0.54g、硝酸セリウム・六水和物0.118g、およびチタン酸テトライソプロピルとチタン酸テトラブチルの混合物(Ti含量16%)0.866gを反応器に導入した。
【0049】
1分後に、酢酸マンガン・四水和物、臭化アンモニウム、および硝酸セリウム・六水和物の水溶液を、反応終了時まで反応器に供給した。合計の操作時間は75分間であった。これら塩の合計添加量は、酢酸マンガン・四水和物0.166g、臭化アンモニウム0.529g、硝酸セリウム・六水和物0.627gおよび水12gであった。
【0050】
室温まで冷却し、周囲圧力まで減圧した後、反応生成物の有機成分をGCおよびHPLCによって分析した。
収率および生成物組成を表2に示す。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、マンガンおよび臭素を含有する触媒組成物の存在下、130〜240℃の温度で、酢酸中のプソイドクメンの酸化によりトリメリット酸を製造する方法であって、次の段階を含んでなる方法:
(i)プソイドクメンおよび空気または酸素含有ガスを、酢酸および触媒組成物を含有する溶液に、8容量%未満の排ガス中の酸素濃度が得られる添加速度で、ならびに、プソイドクメンをトリメリット酸に酸化するのに必要な酸素の全量の5〜25モル%が消費される結果を与えるに十分な温度および圧力で、同時供給する段階、および
(ii)空気または酸素含有ガスを、段階(i)で得られた反応混合物に、実質的に全てのプソイドクメンが消費され、少なくとも90%のトリメリット酸のモル収率が得られるまで供給する段階;この際、段階(i)の完了後に触媒の追加はない。
【請求項2】
段階(i)の反応温度が、130〜180℃、好ましくは140〜160℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(ii)の過程において、反応温度を、200〜240℃、好ましくは215〜230℃の最終値まで上昇させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
圧力が、5〜30バール、好ましくは6〜25バールである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(i)中の排ガスの酸素濃度が2〜6容量%である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
触媒組成物がセリウムおよび/またはチタンをさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
触媒組成物のセリウム含量が、全金属含量に対して1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
触媒組成物のチタン含量が、全金属含量に対して0.5〜13重量%、好ましくは3〜10重量%である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
触媒組成物のコバルト含量が、全金属含量に対して30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
触媒組成物のマンガン含量が、全金属含量に対して10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
コバルト、マンガン、および所望によりセリウムおよび/またはチタンを含有する全金属濃度が、プソイドクメンの全使用量に対して、0.1〜1.0重量%、好ましくは0.20〜0.55重量%である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
臭素濃度が、プソイドクメンの全使用量に対して、0.05〜0.7重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%である請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
酢酸:全添加プソイドクメンの重量比が、1:1〜4:1、好ましくは1.5:1〜3:1である請求項1〜12のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−540475(P2008−540475A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510472(P2008−510472)
【出願日】平成18年5月6日(2006.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004271
【国際公開番号】WO2006/119939
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(504089460)
【氏名又は名称原語表記】Polynt SpA
【Fターム(参考)】