説明

トルク伝達装置

【課題】上限値を超えたときにトルクが確実に遮断され且つトルク遮断後のノイズ及び空転トルクの発生も防止される、簡単な構成のトルク伝達装置を安価にて提供する。
【解決手段】トルク伝達装置は、従動軸に連結されたフランジ26との間に複数のスリット36を形成する突出部34を有する押さえ板28と、駆動軸のトルクによって回転駆動させられるロータ14に形成され、フランジ26の径方向でみて突出部34の外側に位置する取付面45と、取付面45に回転可能に係止された一端部40及びスリット36内に位置付けられる他端部44を有する連結板38と、スリット36の内面に対して連結板38の他端部44をトルクが上限値を超えたときに離脱可能に係合するボール50、第1の孔46及び第2の孔48と、押さえ板28に形成され、トルク遮断後に連結板38の他端部44をフランジ26の径方向外側に向けて変位させる爪54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク伝達装置に係わり、より詳しくは、トルクリミッタ機構を有するトルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクリミッタ機構を有するトルク伝達装置は、例えば、車両用空調装置の圧縮機に対し、エンジンからのトルクを伝達するのに用いられる。
例えば、特許文献1が開示するトルク伝達装置は、圧縮機の回転軸にハブを介して取り付けられる弾性部材を有する。弾性部材は、環状基部、弾性撓み部、被挟持部、連結部及び折曲部を有し、被挟持部は、弾性部材の外周側に位置して円弧状をなす。そして被挟持部は、プーリにそれぞれ固定された摩耗部材と保持板との間の隙間に配置され、通常、被挟持部が摩耗部材と摺動することによって、プーリの回転が回転軸に伝達される。一方、プーリの回転中、過負荷により回転軸が制動され停止すると、弾性部材の外周部は摩耗部材と保持板との間の隙間から抜け出し、トルクの伝達が遮断される。
【特許文献1】特許第3421619号公報(例えば、段落番号0034、図1、図5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1のトルク伝達装置の場合、弾性部材の被挟持部がプーリと保持板との間から離脱しても、弾性部材の弾性に起因して、被挟持部が振動し、保持板と衝突を繰り返す。このため、トルク伝達が遮断された後、大きなノイズが発生してしまう。
その上、被挟持部は、保持板と衝突したときに摺動して、保持板を回転させる。このため、プーリと回転軸との間でのトルク伝達が完全に遮断されず、空転トルクが発生してしまう。
【0004】
また、このトルク伝達装置の場合、ばね材からなる弾性部材を用いているため材料コストが高い。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、上限値を超えたときにトルクが確実に遮断され、且つ、トルク遮断後のノイズや空転トルクの発生も防止される、簡単な構成のトルク伝達装置を安価にて提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するべく、本発明によれば、駆動軸のトルクを従動軸に対して伝達するトルク伝達装置において、前記従動軸に連結されたフランジと、前記フランジに対して平行に固定された中央部、及び、当該中央部の外縁から放射状に突出して前記フランジとの間に複数のスリットを形成する突出部を有する押さえ板と、前記駆動軸のトルクによって回転駆動させられるロータと、前記ロータに形成され、前記フランジの径方向でみて前記突出部の外側に位置する取付面と、前記ロータと前記押さえ板との間に架け渡され、前記ロータの取付面に回転可能に係止された一端部及び前記スリット内に配置された他端部を有する複数の帯状の連結板と、前記スリットの内面に対し前記連結板の他端部を前記トルクが上限値を超えたときに離脱可能に係合する係合手段と、前記フランジ及び押さえ板のうち一方に形成され、前記連結板の他端部が前記スリットから離脱して前記連結板が前記スリットに対して相対回転するのに伴い、前記連結板の他端部を前記フランジの径方向外側に向けて変位させるガイドとを備えることを特徴とするトルク伝達装置が提供される(請求項1)。
【0006】
好ましくは、前記ガイドは、前記押さえ板の中央部の外縁に一体に形成された鋸歯状の爪である(請求項2)。
好ましくは、前記ガイドは、前記ハブに形成された突部である(請求項3)。
好ましくは、記係合手段は、ボールと、前記連結板の他端部に形成された第1の孔と、前記押さえ板の突出部に形成され、前記第1の孔と協働して前記ボールを収容する第2の孔とを含む(請求項4)。
【0007】
好ましくは、前記係合手段は、前記押さえ板の突出部に形成され、伝達トルクが上限値を超えたときに前記第2の孔から抜け出た前記ボールを受け入れ、前記第1の孔からも前記ボールを抜け出させる第3の孔を更に含む(請求項5)。
好ましくは、前記係合手段は、前記連結板の端部に形成された突起と、前記押さえ板の突出部に形成され、前記連結板の突起を受け入れる孔とを含む(請求項6)。
【0008】
好ましくは、前記連結板は、円弧形状を有する(請求項7)。
好ましくは、前記連結板の他端部及び前記押さえ板の突出部のうち一方に、他方と摺動する摩擦材が配置されている(請求項8)。
好ましくは、前記連結板の他端部に、摩擦係数を増大及び安定させるための表面処理が施されている(請求項9)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1のトルク伝達装置では、トルクが上限値を超えたとき、連結板の他端部がスリットから離脱し、トルクの伝達が遮断される。離脱した連結板の他端部は、ガイドに案内されてフランジの径方向外側に変位するため、連結板の他端部が突出部に衝突することはない。この結果、このトルク伝達装置では、トルクの遮断後、ノイズや空転トルクの発生が防止される。
【0010】
また、このトルク伝達装置では、フランジ又は押さえ板に形成されたガイドによってフランジの径方向外側に案内されるため、連結板が特に大きな弾性を有している必要はない。即ち、連結板としてばね材を用いる必要はない。この結果、このトルク伝達装置は安価である。
請求項2のトルク伝達装置では、ガイドが、押さえ板の中央部の外周に一体に形成された鋸歯状の爪であるため、押さえ板の成型時に、爪が容易に形成される。
【0011】
請求項3のトルク伝達装置では、ガイドが、フランジに一体に形成された突部であるため、フランジの成型時に、突部が容易に形成される。
請求項4のトルク伝達装置では、係合手段が、連結板の他端部及び押さえ板の突出部に形成された第1及び第2の孔と、これらの孔に収容されるボールとからなる。この係合手段によれば、トルクが上限を超えたときに第2の孔からボールが抜け出すことで、簡単な構成ながら、押さえ板の突出部に対する連結板の係合が解除される。
【0012】
請求項5のトルク伝達装置では、係合手段が、第2の孔から抜け出たボールを受け入れ、第1の孔からも前記ボールを抜け出させる第3の孔を有する。この係合手段によれば、ボールが、第1の孔及び第2の孔から抜け出して第3の孔に収容されることで、簡単な構成ながら、押さえ板の突出部に対する連結板の係合が確実に解除される。
請求項6のトルク伝達装置では、前記連結板の端部に形成された突起と、前記押さえ板の突出部に形成され、前記連結板の突起を受け入れる孔とを含む。この係合手段によれば、トルクが上限を超えたときに孔から突起が抜け出すことで、簡単な構成ながら、押さえ板の突出部に対する連結板の係合が解除される。
【0013】
請求項7のトルク伝達装置では、前記連結板が円弧状に延びているため、ガイドによって連結板の他端部をフランジの径方向外側に向けて変位させる距離が短くても、連結板の側縁が押さえ板の突出部に衝突するのが防止される。このため、このトルク伝達装置では、トルク遮断後、連結板が直線状の場合に比べて、連結板の他端部がより小さい円の中に収まる。この結果として、このトルク伝達装置によれば小型化が図られる。
【0014】
請求項8のトルク伝達装置では、連結板の他端部と押さえ板の突出部とが摩擦材を介して摺動するため、トルク伝達が確実に行われる。
請求項9のトルク伝達装置では、連結板の他端部に摩擦係数を増大及び安定させるための表面処理が施されているため、トルク伝達が確実に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、一実施形態に係るトルク伝達装置を示す。
トルク伝達装置は、例えば車両用空調システムの圧縮機2と一体に設けられ、エンジン4からの動力を受け取って圧縮機2に伝達する。
より詳しくは、圧縮機2はハウジングを有し、ハウジングの内部には、冷媒の吸入、圧縮及び吐出工程を実行する圧縮ユニット6が収容されている。ハウジングは一端側に円筒状の筒部8を有し、筒部8の内側からは、圧縮ユニット6から延びる回転軸(従動軸)10の外端部が突出している。
【0016】
トルク伝達装置は、圧縮機2の筒部8の外周面に固定された軸受12を備え、軸受12はロータ14を回転自在に支持している。ロータ14は、内周壁16、外周壁18、及び内周壁16と外周壁18とを同心にて連結する環状の端壁20とを有し、外周壁18の外周面にはベルト溝22が形成されている。ベルト溝22には、エンジン4のプーリとの間にベルトが架け回され、ベルトを介して、エンジン4の動力がロータ14に伝達される。
【0017】
一方、トルク伝達装置は、回転軸10の外端部にスプライン結合されたボス24を備え、ボス24には、フランジ26が一体に形成されている。フランジ26は、圧縮機2の筒部8、ロータ14の内周壁16及び端壁20から離間しており、フランジ26と圧縮機2との間には、押さえ板28が配置されている。押さえ板28は、ボス24に嵌合する嵌合孔を中央に有し、また、嵌合孔の周りに、周方向に等間隔をもって形成された3つのリベット孔を有する。
【0018】
押さえ板28は、各リベット孔に挿通された3つのリベット30を介してフランジ26に固定され、リベット30よりも内側の押さえ板28の部分(中央部32)は、フランジ26に対して密着するか又は僅かな隙間をもって平行に配置されている。
図2及び図3に示したように、押さえ板28は3つの突出部34を有し、これら突出部34は、押さえ板28の中央部32の外縁からフランジ26の外周縁近傍まで放射状に突出している。ここで、図1に示したように、中央部32の外縁近傍にて、突出部34の根元は折曲され、突出部34は、所定の間隔をもって、フランジ26の外周側の一部分(対向部分)と平行に対向している。従って、各突出部34及びその対向部分は、フランジ26の周方向及び径方向外側に開口したスリット36を形成している。
【0019】
なお、図2及び図3は、トルク伝達装置の正面図であるが、図3は、フランジ26を取り外した状態を示している。
図2及び図3を更に参照すると、ロータ14の回転を回転軸10に伝達すべく、ロータ14の端壁20と、押さえ板28の各突出部34との間には、連結板38がそれぞれ架け渡されている。連結板38は、平坦な帯板状をなすけれども、連結板38の軸線は円弧状に曲がっている。各連結板38の端壁20側の一端部40にはボルト孔が形成され、ボルト孔に挿通されたボルト42を介して、連結板38の一端部40はロータ14の端壁20に固定されている。
【0020】
なお、ボルト42の締め付け力は、連結板38がボルト42の軸部を中心として回転可能に設定される。
一方、突出部34側の各連結板38の他端部44は、スリット36内、即ち突出部34とそのフランジ26の対向部分との間に位置している。
なお、各連結板38の一端部40は、ロータ14の端壁20から突出して形成された3つの円柱状の台の上面(取付面45)に固定されている。各取付面45は、フランジ26の径方向でみて、突出部34の外側に位置し、フランジ26の周方向でみて、リベット30と略同じ位置に位置している。取付面は45は、フランジ26の軸線方向でみて、突出部34と略同じ位置に位置し、各連結板38は、フランジ26に対して平行に延びている。
【0021】
また、各連結板38の一端部40は、フランジ26の径方向でみてリベット30の外側に位置し、対をなす他端部44は、回転方向Rでみてリベット30よりも後方のスリット36内に配置されている。このため、他端部44がスリット36内にあるとき、各連結板38は螺旋状に延びており、フランジ26の外周縁を斜めに横切る。
そして、各連結板38の他端部44は、スリット36の内面、即ち、突出部34又はそのフランジ26の対向部分に対して離脱可能に係合している。
【0022】
より詳しくは、図4を参照すると、連結板38の他端部44には、第1の孔46が形成され、第1の孔46と合致するように、突出部34には第2の孔48が形成されている。そして、第1の孔46と第2の孔48は、互いに協働して、1個のボール50を収容している。なお、ボール50の一部のみを受け入れるように、フランジ26側の面における第2の孔48の開口径は、ボール50の直径よりも小さく、第2の孔48のフランジ26側の内周面はテーパ付けられている。
【0023】
また、突出部34には、第2の孔48から離間して第3の孔52が形成され、第3の孔52は、ロータ14の回転方向Rでみて、第2の孔48の前方に位置している。フランジ26側の面における第3の孔52の開口径は、第2の孔48の開口径よりも大きく、更に、ボール50の直径よりも大きい。なお、ボール50が抜け落ちないように、フランジ26とは反対側の面における第3の孔52の開口径は、ボール50の直径よりも小さい。このため、第3の孔52の内周面はテーパ付けられている。
【0024】
更に、図2及び図3を再び参照すると、このトルク伝達装置では、押さえ板28に3つの爪54が一体に形成されている。各爪54は、突出部34同士の間に位置し、押さえ板28の中央部32の外縁に連なっている。各爪54は鋸歯状をなし、爪54の外縁は螺旋状に延びている。
換言すれば、爪54の外縁は、回転方向Rでみて後方に位置する突出部34側では、突出部34の先端よりも径方向内側に位置し、回転方向Rでみて前方に位置する突出部34側では、フランジ26の外周縁よりも径方向外側に位置している。
【0025】
なお、図5に示したように、爪54はフランジ36の中央部32と面一に形成されており、このため、回転軸10の軸線方向でみて、爪54の外縁の位置は、連結板38の位置に等しい。
以下、上述したトルク伝達装置の動作について説明する。
トルク伝達装置は、エンジン4の動力を受け取り、受け取った動力で圧縮機2の回転軸10を回転させる。
【0026】
すなわち、ベルトによってロータ14が回転駆動させられると、連結板38によって押さえ板28が回転方向Rに引っ張られる。これにより押さえ板28及び押さえ板28がリベットによって固定されたフランジ26が回転する。フランジ26が回転すると、フランジ26と一体のボス24も回転し、ボス24とスプライン結合された回転軸10が回転する。
圧縮機2では、回転軸2の回転に伴い、圧縮ユニット6が作動流体としての冷媒ガスの吸入工程、吸入した冷媒ガスの圧縮工程及び圧縮した冷媒ガスの吐出工程を実行する。
【0027】
このように、トルク伝達装置は、エンジン4と圧縮機2との間にてトルクの伝達経路を形成するけれども、例えば圧縮機2の回転軸10が焼付き等の異常によって停止し、伝達するトルクが異常に上昇したときには、伝達経路を自ら遮断する。
すなわち、回転軸10が停止している状態で、連結板38が押さえ板28を引っ張り、ボール50に上限値を超えるトルクが加わると、ボール50は、第2の孔48から抜け出す。これによって、押さえ板28の突出部34と連結板38の他端部44との間の係合状態が解かれ、トルクの伝達が遮断される。
【0028】
抜け出したボール50は、連結板38によって更に引っ張られ、第3の孔52の中に埋没する。第3の孔52内にボール50が埋没した後、連結板38の他端部44は、スリット36から抜け出す。この後、他端部44近傍にて、連結板38の内側縁に対し爪54の外縁が当接し、爪54の外縁が連結板38の内側縁に沿って相対移動することによって、連結板38の他端部44は、フランジ26の径方向外側に向けて円滑に変位させられる。かくして、連結板38の他端部44が、1つの爪54の外縁を1回通過すると、連結板38は、所定の隙間をもってフランジ26の外周縁に沿って配置される。
【0029】
このように、トルク遮断後、連結板38の他端部44は、ガイドとしての爪54によって案内されてフランジ26の径方向外側に変位するため、ロータ14が空転しても、連結板38の一端部44近傍が突出部34に衝突することはない。この結果、このトルク伝達装置では、トルクの遮断後、ノイズや空転トルクの発生が防止される。
また、このトルク伝達装置では、連結板38の他端部44が、押さえ板28に形成された爪54によってフランジ26の径方向外側に案内されるため、連結板38が特に大きな弾性を有している必要はない。即ち、連結板38としてばね材を用いる必要はない。この結果、このトルク伝達装置は安価である。
【0030】
そして、爪54は、押さえ板28の中央部32の外周に一体に形成されていることから、押さえ板28の成型時に容易に形成される。
更に、上述したトルク伝達装置では、スリット36の内面に連結板38の他端部44を離脱可能に係合させる係合手段が、連結板38の他端部44及び押さえ板28の突出部34に形成された第1及び第2の孔46,48と、これらの孔46,48に収容されるボール50とからなる。この係合手段によれば、トルクが上限を超えたときに第2の孔48からボール50が抜け出すことで、簡単な構成ながら、突出部34に対する連結板38の係合が解除される。
【0031】
また更に、このトルク伝達装置では、係合手段が、第2の孔48から抜け出たボール50の全体を受け入れ、第1の孔46からもボール50を抜け出させる第3の孔52を有する。この係合手段によれば、ボール50が、第1の孔46及び第2の孔48から抜け出して第3の孔52に収容されることで、簡単な構成ながら、突出部34に対する連結板38の係合が確実に解除される。
【0032】
本発明は上記した実施例に限定されることはなく、種々変形が可能である。
一実施形態では、ボルト42によって、連結板38の一端部40が回転可能にロータ14の端壁20に係止されていたけれども、ボルト42に代えて、ピンやリベット等を用いてもよい。
一実施形態では、爪54がガイドとして機能したけれども、爪54に代えて、図7及び図8に示したように、フランジ26に突部56a,56bを形成してもよい。突部56a,56bは、突出部34間に位置し、互いに周方向に離間している。また、回転方向Rでみて、後方の突出部34側の突部56aは、前方の突出部34側の突部56bよりも径方向内側に位置している。
【0033】
この場合、トルクの遮断後、連結板38の他端部44側に突部56a,56bが順次当接し、他端部44が径方向外側に押し出される。この突部56a,56bは、フランジ26の成型時に、容易に形成される。
なお、他端部44を円滑に押し出すために、ガイドは、連結板38の一端部40から離れた他端部44近傍にて、連結板38に当接するのが好ましい。
【0034】
一実施形態では、押さえ板28の突出部34と連結板38の他端部44とを離脱可能に係合させる手段として、ボール50を用いたけれども、図9に示したように、ボール50に代えて、半球状の突起58を連結板38の他端部44に形成してもよい。この場合、第2の孔48が突起58を受け入れることで、押さえ板28の突出部34と連結板38の他端部44とが離脱可能に係合させられる。そして、トルクが上限を超えたときに第2の孔48から突起58が抜け出すことで、簡単な構成ながら、押さえ板28に対する連結板38の係合が解除される。
【0035】
一実施形態では、連結板38が円弧状をなし、連結板38の軸線は、フランジ26の外周縁の曲率半径よりも若干大きな曲率半径にて湾曲していたけれども、連結板38は、直線状に延びていてもよい。ただし、一実施形態のように、連結板38が円弧形状を有している場合、爪54によって連結板38の他端部44をフランジ26の径方向外側に向けて変位させる距離が短くても、連結板38の側縁が押さえ板28の突出部34に衝突するのが防止される。このため、連結板38が円弧形状を有する場合、直線形状を有する場合に比べて、トルク遮断後、連結板38の他端部44がより小さい円の中に収まる。この結果として、連結板38が円弧状の場合、トルク伝達装置の小型化が図られる。
【0036】
一実施形態では、連結板38の他端部44と押さえ板28の突出部34とが直接摺動しているけれども、図10に示したように、連結板38の他端部44及び押さえ板28の突出部34の一方に摩擦板60を配置し、他方と摩擦材60とを摺動させてもよい。この場合、連結板38の他端部44と押さえ板28の突出部34とが、摩擦材60を介して摺動するため、トルク伝達が確実に行われる。
【0037】
また、摩擦材60を配置するのに代えて、あるいはこれと合わせて、図11に示したように、連結板38の他端部44又は押さえ板28の突出部34に、摩擦係数を増大及び安定させるための表面処理を施し、粗化面62を形成してもよい。具体的には、ショットブラスト処理や、摩擦材の吹き付け処理等を行ってもよい。この場合も、連結板38の他端部44の摩擦係数が増大することでトルク伝達が確実に行われる。
【0038】
最後に、本発明のトルク伝達装置は、圧縮機2以外に適用可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】車両用空調システムの圧縮機に適用された本発明の一実施形態のトルク伝達装置の縦断面図である。
【図2】図1のトルク伝達装置の正面図である。
【図3】図2のトルク伝達装置からフランジを取り除いた状態を示す図である。
【図4】図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【図5】図2のV-V線に沿う断面図である。
【図6】図1のトルク伝達装置のトルク遮断後における状態を示す正面図である。
【図7】変形例のガイドを適用した図1のトルク伝達装置の正面図である。
【図8】変形例のガイドを説明するための断面図である。
【図9】変形例に係る連結板の他端部と押さえ板の突出部との係合手段を説明するための断面図である。
【図10】連結板の他端部と押さえ板の突出部との間に摩擦板を配置した状態を説明するための断面図である。
【図11】変形例に係る連結板を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0040】
14 ロータ
26 フランジ
28 押さえ板
34 突出部
36 スリット
38 連結板
44 他端部
45 取付面
46 第1の孔(係合手段)
48 第2の孔(係合手段)
50 ボール(係合手段)
52 第3の孔(係合手段)
54 爪(ガイド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸のトルクを従動軸に対して伝達するトルク伝達装置において、
前記従動軸に連結されたフランジと、
前記フランジに対して平行に固定された中央部、及び、当該中央部の外縁から放射状に突出して前記フランジとの間に複数のスリットを形成する突出部を有する押さえ板と、
前記駆動軸のトルクによって回転駆動させられるロータと、
前記ロータに形成され、前記フランジの径方向でみて前記突出部の外側に位置する取付面と、
前記ロータと前記押さえ板との間に架け渡され、前記ロータの取付面に回転可能に係止された一端部及び前記スリット内に配置された他端部を有する複数の帯状の連結板と、
前記スリットの内面に対し前記連結板の他端部を前記トルクが上限値を超えたときに離脱可能に係合する係合手段と、
前記フランジ及び押さえ板のうち一方に形成され、前記連結板の他端部が前記スリットから離脱して前記連結板が前記スリットに対して相対回転するのに伴い、前記連結板の他端部を前記フランジの径方向外側に向けて変位させるガイドと
を備えることを特徴とするトルク伝達装置。
【請求項2】
前記ガイドは、前記押さえ板の中央部の外縁に一体に形成された鋸歯状の爪であることを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達装置。
【請求項3】
前記ガイドは、前記ハブに形成された突部であることを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達装置。
【請求項4】
前記係合手段は、ボールと、前記連結板の他端部に形成された第1の孔と、前記押さえ板の突出部に形成され、前記第1の孔と協働して前記ボールを収容する第2の孔とを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のトルク伝達装置。
【請求項5】
前記係合手段は、前記押さえ板の突出部に形成され、伝達トルクが上限値を超えたときに前記第2の孔から抜け出た前記ボールを受け入れ、前記第1の孔からも前記ボールを抜け出させる第3の孔を更に含むことを特徴とする請求項4に記載のトルク伝達装置。
【請求項6】
前記係合手段は、前記連結板の端部に形成された突起と、前記押さえ板の突出部に形成され、前記連結板の突起を受け入れる孔とを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のトルク伝達装置。
【請求項7】
前記連結板は、円弧形状を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のトルク伝達装置。
【請求項8】
前記連結板の他端部及び前記押さえ板の突出部のうち一方に、他方と摺動する摩擦材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のトルク伝達装置。
【請求項9】
前記連結板の他端部に、摩擦係数を増大及び安定させるための表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載のトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−8359(P2008−8359A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178067(P2006−178067)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】