説明

トロイダル型無段変速機

【課題】ローラの回転軸を支持する軸受の寿命を長くすることができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】入力ディスク5と出力ディスク6bと、入力ディスク5及び出力ディスク6bの軌道面5b、6c間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両ディスク5,6b間のトルク伝達を行う複数のローラ7と、このローラ7を回転自在に支持するローラキャリッジ8と、球面軸受13を介して前記ローラキャリッジ8をその軸線回りに回動自在に支持するとともに、当該ローラキャリッジ8を軸方向に移動させる油圧シリンダ9とを備える。前記ローラ7の回転軸10が前記ローラキャリッジ8にニードル軸受11を介して支持されているとともに、当該回転軸10の軸方向両側に配置されたスラストニードル軸受12で前記回転軸10の軸方向の移動が規制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル型無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トロイダル型無段変速機では、対向配置された入力ディスクと出力ディスクとの間にあるトロイド状隙間に、両ディスク間のトルク伝達を可変的に行うためのローラが設けられている。このローラ101は、図3に示すように、ローラキャリッジ102によって回転自在に支持されており、ローラキャリッジ102が油圧シリンダ103によって駆動されることにより、入力ディスク及び出力ディスクに対して進退駆動されている。
【特許文献1】特開2001−74114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されているトロイダル型無段変速機では、ローラ101の回転軸104を、玉軸受105を介してローラキャリッジ102に支持させているが、特に回転軸に加わる荷重が大きいと、玉軸受105の玉の表面が剥離し、これにより軸受の寿命が短くなるという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ローラの回転軸を支持する軸受の寿命を長くすることができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のトロイダル型無段変速機は、側面に凹湾曲状の軌道面を有する入力ディスクと、この入力ディスクの軌道面に対向する凹湾曲状の軌道面を有する出力ディスクと、入力ディスク及び出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う複数のローラと、このローラを回転自在に支持するローラキャリッジと、球面軸受を介して前記ローラキャリッジをその軸線回りに回動自在に支持するとともに、当該ローラキャリッジを軸方向に移動させる油圧シリンダとを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記ローラの回転軸が前記ローラキャリッジにニードル軸受を介して支持されているとともに、当該回転軸の軸方向両側に配置されたスラストニードル軸受で前記回転軸の軸方向の移動が規制されていることを特徴としている。
【0005】
このような構成によれば、ローラキャリッジから回転軸に加わる荷重が大きい場合でもニードル軸受でラジアル方向の荷重を受け止めることができるとともに、軸方向両側のスラストニードル軸受がスラスト方向の荷重を受けつつ回転軸の軸方向の移動を規制することで回転軸の軸方向の振動を低減することができる。これによりニードル軸受のニードルの表面が剥離しにくくなり、ローラの回転軸を支持する軸受の寿命を長くすることができる。
本発明者らは、玉軸受の玉に剥離が発生する原因について種々検討を行った結果、当該玉に対して変速時に斜め外側(図3の矢印F方向)に力が加わることにより回転軸が軸方向に振動して玉に組織変化が生じることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、ローラの回転軸を支持する軸受の寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のトロイダル型無段変速機の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部構成を示す概略断面図であり、図2は、図1のローラの支持構造を示す概略断面図である。図1において、トロイダル型無段変速機の主要部をなすバリエータ1には、車両の動力源であるエンジンの出力軸2に連結されて回転駆動される入力軸3が設けられており、その両端近傍にはそれぞれ入力ディスク5が支持されている。
【0008】
各入力ディスク5の一側面には、凹湾曲状の軌道面5bが形成されており、その内周には複数条の溝を切ったスプライン穴5aが形成されている。各入力ディスク5は、上記スプライン穴5aを入力軸3のスプライン軸3aに嵌合させることによって入力軸3に一体回転可能に組み付けられている。また、各入力ディスク5は、入力軸3に固定された係止リング51によって互いに離反する方向への移動が規制されている。
【0009】
前記入力軸3の軸方向中央部には、出力部材6aとこの出力部材6aに一体回転可能に支持された出力ディスク6bとを備える出力部6が、当該入力軸3に対して相対回転自在に設けられている。この出力ディスク6bの上記入力ディスク5の軌道面5bに対向する一側面には、凹湾曲状の軌道面6cが形成されている。
また、上記出力部材6aの外周にはチェーン6dと噛み合うスプロケットギア6eが形成されており、上記チェーン6dを介して図示しない出力軸に動力が伝達されるようになっている。
さらに、前記出力部6には、出力部材6aと一体に筒状のスリーブ6jが形成されている。このスリーブ6jは入力軸3と出力ディスク6bとの間の隙間に導入されており、その外周にはスプライン軸6kが形成されている。
【0010】
各出力ディスク6bの内周にはスプライン穴6mが形成されており、当該出力ディスク6bはそのスプライン穴6mを上記スリーブ6jのスプライン軸6kに嵌合させることにより、軸方向への微動が許容された状態で出力部材6aに一体回転可能に組み付けられている。また、各出力ディスク6bの背面には隙間6gを設けてバックアップ板6hが配置されている。上記隙間6gはケーシング6f及び図示しないシールによって密封されており、この隙間6gに油圧動力源Pから油圧を供給することにより、出力ディスク6bを対向する入力ディスク5方向へ付勢して、所定の端末負荷が加えられている。
【0011】
互いに対向する一対の入力ディスク5の軌道面5bと出力ディスク6bの軌道面6cとの間はトロイド状隙間として構成されており、このトロイド状隙間にはそれぞれ各軌道面5b、6cと転がり接触する3個の円盤状のローラ7が円周等配に配置されている。各ローラ7はローラキャリッジ8を介して油圧シリンダ9に個別に支持されているとともに(図2参照)、この油圧シリンダ9によって各ディスク5,6bの軌道面5b、6cに押し付けられる方向に付勢されている。また、前記油圧シリンダ9に供給する油圧を制御することにより、ローラ7が受けるトルク伝達力にバランスする力を、ローラキャリッジ8を介してローラ7に与えており、これにより入力ディスク5のトルクに対して出力ディスク6bのトルクが釣り合うようにローラ7の角度が変化する。なお、図1では、図面の簡略化のために、各トロイド状隙間に配置された1個のローラ7のみを図示している。
【0012】
前記各ローラ7は、後述するローラキャリッジ8によって回転自在に支持されている。詳細にいえば、各ローラ7の中心部分に軸孔7aが形成されており、この軸孔7aに回転軸10が挿嵌されている。この回転軸10は、上記ローラキャリッジ8に固定されたニードル軸受11によって回転自在に支持されたものであり、ローラ7とともに一体回転可能にローラキャリッジ8に取り付けられている。ラジアル軸受としてニードル軸受11を用いることによって、玉軸受に比べて小さいスペースで大きな負荷容量を確保することができる。さらに、回転軸10の軸方向両側にはスラストニードル軸受12が配置されている。このスラストニードル軸受12は、第1軌道輪12aと第2軌道輪12bとこの両軌道輪12a,12b間に介在された複数のニードル12cとを備えており、回転軸10に加わるスラスト方向の荷重を受けることができる。そして、第1軌道輪12aをローラキャリッジ8に沿わせるとともに第2軌道輪12bを回転軸10に固定することで、回転軸10が軸方向に移動するのを規制している(図2参照)。これにより回転軸10の軸方向の振動を低減することができる。
また、各ローラ7は、ローラキャリッジ8から図1の紙面と交差する所定の方向(垂直ではなく、所定のキャスタ角を含む。)に油圧による駆動力が付与されるように構成されている。
【0013】
前記ローラキャリッジ8は、図2に示すようにローラ7を回転自在に支持する支持枠8aと、この支持枠8aを油圧シリンダ9に連結する支軸8bとを備えている。前記ローラ7は、支持枠8aに前記ニードル軸受11を介して回転自在に取り付けられている。また、支軸8bは前記油圧シリンダ9のピストンロッド9aの内部に導入されており、その導入側の端部が球面軸受13を介してピストンロッド9aに連結されている。これにより、前記支軸8bは揺動が許容された状態でその軸線回りに回動自在になっている。
【0014】
前記油圧シリンダ9は、変速機のケーシングCに取り付けられたシリンダケース9bと、その内部に導入された前記ピストンロッド9aと、このピストンロッド9aに一体形成されたピストン9cとを備えている。前記シリンダケース9bは本体9b1の開口部にキャップ9b2を嵌入することによって油室9eを構成しており、この油室9eに連通させて中空部9b3が形成されている。
ピストンロッド9aは円筒状のものであり、その右端部が前記シリンダケース9bの中空部9b3に導入されている。このピストンロッド9aの内部の前記ピストン9cを設けた部分には、環状空間9a1が形成されており、この環状空間9a1に前記球面軸受13の外輪13aが嵌合されている。
前記油圧シリンダ9のピストン9cを挟んだ2つの油室9eは、対応する油圧ポンプp1,p2及び圧力制御弁V1,V2に接続されており、これら圧力制御弁V1,V2を操作することによって、油圧ポンプp1,p2から各油室9eに供給される作動油の圧力を調整して、油圧シリンダ9がローラ7に付与する力を制御し、この力がローラ7の受けるトルク反力とバランスするようにしている。
【0015】
このようなトロイダル型無段変速機によれば、ローラキャリッジ8から回転軸10に加わる荷重の負荷容量が大きい場合でもニードル軸受11でラジアル方向の荷重を受け止めることができるとともに、回転軸10の軸方向両側に配置されたスラストニードル軸受12でスラスト方向の荷重を受けることができる。さらに、スラストニードル軸受12の第1軌道輪12aをローラキャリッジ8に沿わせるとともに第2軌道輪12bを回転軸10に固定して回転軸10が軸方向に移動するのを規制しているので、回転軸10の軸方向の振動を低減することができる。これによりニードル軸受11のニードルの表面が剥離しにくくなり、ローラ7の回転軸10を支持する軸受11の寿命を長くすることができる。
【0016】
本発明のトロイダル型無段変速機は、前述の実施形態に限らず、本発明の範囲内で適宜変更が可能である。
例えば、図面ではトロイダル型無段変速機の一例としてフルトロイダル型無段変速機を示したが、これに限られるものではなく、ハーフトロイダル型無段変速機とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部構成を示す概略断面図である。
【図2】図1のローラの支持構造を示す概略断面図である。
【図3】従来のローラの支持構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 バリエータ
5 入力ディスク
5b 軌道面
6b 出力ディスク
6c 軌道面
7 ローラ
8 ローラキャリッジ
10 回転軸
11 ニードル軸受
12 スラストニードル軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に凹湾曲状の軌道面を有する入力ディスクと、この入力ディスクの軌道面に対向する凹湾曲状の軌道面を有する出力ディスクと、入力ディスク及び出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う複数のローラと、このローラを回転自在に支持するローラキャリッジと、球面軸受を介して前記ローラキャリッジをその軸線回りに回動自在に支持するとともに、当該ローラキャリッジを軸方向に移動させる油圧シリンダとを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記ローラの回転軸が前記ローラキャリッジにニードル軸受を介して支持されているとともに、当該回転軸の軸方向両側に配置されたスラストニードル軸受で前記回転軸の軸方向の移動が規制されている
ことを特徴とするトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−169869(P2008−169869A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1411(P2007−1411)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】